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機関誌

2023年5月号バックナンバー

2023年8月5日更新

巻頭言

「特長のあるX 線管・X 線発生装置とその技術」特集号刊行にあたって

富澤 雅美

X 線による非破壊検査のイメージングに用いられるX 線管とX 線発生装置は,主に管電圧と焦点寸法によって用途ごとに選定されているが,最近,様々な特長のあるX 線管とX 線発生装置が開発・販売されている。それらは,より高画質なX 線像を得るために,新たなニーズに貢献するために,そして,利便性を増すために,など様々な改善を目指して技術的工夫が施されている。

特に,照射されるX 線の輝度に相当する,焦点寸法d あたりのターゲット電力PT の比PT/d(後述)は,ターゲットの溶融・短時間での損傷を防止するため一般に1 W/μm に制限されている(「1 W/μm の壁(著者の造語)」)。この制限を超えて高輝度を達成するために種々の方策が施されている。

また,冷陰極,光励起という従来一般的に使用されている熱電子源とは異なる電子源をもつX 線管も開発されている。冷陰極は小型・軽量・省電力・長寿命・瞬時のX 線照射という特長を有し,光励起は超短パルスのX 線照射を可能としている。今号の特集では,これらの「特長のあるX 線管・X 線発生装置とその技術」について,6 編の解説によって,応用例・撮像例を含めて解説・紹介していただく。

ここで,この特集をより良くご理解いただくための参考として,X 線管の焦点寸法,および,構造上の違いなどによる現状の一般的な区分について触れておきたい。

1)焦点寸法による区分:普通焦点,ミニフォーカス,マイクロフォーカス,ナノフォーカスの4 種。
JIS B 7442:2013 産業用X 線CT 装置−用語の(1004)実効焦点の項によると,「普通焦点」はおおむね0.5 mm 以上もの(ミリフォーカスと呼ぶこともある),「ミニフォーカス」はおおむね0.1 〜0.5 mm のもの,「マイクロフォーカス」は100 µm 未満のもの(JIS Z 2300:2020 の(1309)でも同様),「ナノフォーカス」はおおむね1 µm 未満のもの(サブミクロンフォーカスと呼ぶこともある),とある。

2)真空保持構造による区分:密閉管,開放管の2 種。
「密閉管」は製造時に真空にして封じ切る,「開放管」は真空ポンプにて排気しながら使用。

3)ターゲットの構造による区分:反射型,透過型の2 種。
「反射型」はブロック状のターゲットに照射された電子があたかも反射するかの方向に発生するX線を利用,「透過型」は薄板状のターゲットに照射された電子があたかも透過するかの方向に発生するX 線を利用。

4)ターゲットの状態による区分:固定,回転,溶融金属の3 種。
「固定」は固定されたターゲットの特定の変化しない領域に電子を照射,「回転」は回転するターゲットのある周上に電子を照射,「溶融金属」は液体状にした融点の低い金属(高速で移動する)に電子を照射。「回転」と「溶融金属」は電子が当たる部分を刻々変えて放熱効率を向上させることによって「1 W/µm の壁」を超えている。なお,「固定」と「回転」はそれぞれ「固定陽極」,「回転陽極」と称されることもある。非破壊検査では「固定」が多用されており,特に断らない限り「固定」であるが,医療用では「回転」が多用されている(歯科用では「固定」も多用)。

この特集では,解説の1 件目は透過型密閉管のマイクロフォーカス,2 件目は反射型開放管で溶融金属ターゲットのマイクロフォーカスと透過型開放管のナノフォーカス,3 件目は反射型開放管で回転ターゲットのマイクロフォーカス,4 件目は反射型密閉管でマイクロフォーカスとミニフォーカスをカバーするメゾフォーカス,5 件目は冷陰極電子源をもつ反射型密閉管のミニフォーカスまたは普通焦点,そして,6 件目は光励起電子源をもつ反射型密閉管のミニフォーカス・普通焦点である。

次に,「1 W/μm の壁」について触れておきたい。前述のように,X 線管の実効焦点寸法d とターゲット電力PT(=管電圧×ターゲット電流※1)の比PT/d は,一般に1 W/μm に制限されている。例えば,d が1,10,100,1000 μm のときPT はそれぞれ1,10,100,1000 W に制限される。ターゲットに照射された電子ビームのエネルギー(ターゲット電力PT に相当)のうち,その約1%がX 線のエネルギーに,残りの約99%は熱エネルギーに変換される。そのため,ターゲットは発熱し,その発熱によって,ターゲットが溶融したり,短い時間では損傷したりしないようにするために,焦点寸法あたりのターゲット電力を制限することから生じる壁である。

焦点はターゲット面に電子ビームが照射される面積であるが,ここで,ターゲット電力は,その面積によってではなく,その寸法(焦点が円形の場合にはその直径,矩形の場合にはその辺の長さ)によって制限されていることに注意を要する(このことについては別の機会に解説させていただけると幸いである)。PT/d が大きいほど,より小さな焦点でより明るくSN 比の良いX 線透過像を得ることができるので,この壁を乗り越えるために様々な工夫が施されている。

この特集では,解説の1 件目は熱伝導率に優れたダイヤモンド窓,2 件目は溶融金属ターゲットまたはダイヤモンド窓,3 件目は回転ターゲットを用いることによって,この1 W/μm の壁を超えている。

この特集によって,最新のX 線管・X 線発生装置の種類とそれぞれの特長,得られるX 線像の特性と画質などについて,知見を広げ,理解を深めていただき,本特集が読者の皆様にとって有意義なものとなることを切に願います。

最後になりましたが,本特集号にあたりまして,年末年始から年度末という一層ご多忙な時期を挟みながらも,大変貴重な内容を丁寧に解説していただきましたご執筆者の皆様,ならびに編集にあたりましてご尽力頂きました皆様に深く感謝申し上げます。

 

解説

特長のあるX 線管・X 線発生装置とその技術

ダイヤモンド窓を用いてメンテナンスフリーを実現する透過密閉型マイクロフォーカスX 線源

キヤノンアネルバ(株)(現 三条市立大学) 塚本 健夫

Transmissive Closed Microfocus X-ray Source that Achieves Maintenance-free
Operation Using a Diamond Window

CANON ANELVA CORPORATION( Present, Sanjo City University) Takeo TSUKAMOTO

キーワード:非破壊検査,放射線,工業用 X線装置,マイクロフォーカス,線質

 

はじめに
 多くの電子部品によって構成された電子回路が,人の命を左右するような重要な判断を行うようになり,半導体チップや電子部品に対して一層の信頼性向上が求められている。近年,CO2 削減の観点から注目を集めている電気自動車(EV)においては情報処理能力の高度化に伴い,これらの電子部品を搭載した電装品の搭載数が増加している。EV の電装品は,AI チップやセンサからのデータを処理する多くの半導体で構成されている。この電装品の小型化要求のため,これらを実装するプリント基板では従来は使われなかった0402(長辺0.4 mm,短辺0.2 mm)サイズの高密度実装用電子部品の採用も進みつつある。

高密度の電子部品を搭載したプリント基板は,BGA と呼ばれる半田ボールが半導体チップとプリント基板との接続部で採用されている。この半田ボールによる接合の良否が信頼性に関わるため,X 線を用いた全数検査が行われ始めている。このBGA の検査では近年,AXI(Automated X-ray Inspection)と呼ばれるX 線自動検査装置が使われている。AXI ではプラナーCT と呼ばれる観察方式を用い,HIP(Head In Pillow)と呼ばれる透過撮影だけでは見つからない接合状態の異常を検査することが可能となっている1),2)。AXI における半田ボールの観察ではチャート解像度として4 μm から15 μm 程度のマイクロフォーカスX 線源が使用されている。検査対象が高度化しているため,AXI で使用されるX 線源においては,より一層の高解像度が要求されるだけでなく,稼働率の観点からメンテナンスフリーや予知保全機能が求められるようになった。

これらの要求に応えるため,新しい構成に基づいた高出力かつ安定な透過密閉型X 線源が実用化している。ダイヤモンド窓を用いた透過密閉型X 線源は従来の反射密閉型と比較して同等以上の高出力とメンテナンスフリーが実現されている。本稿ではこの高出力とメンテナンスフリーを実現するためのターゲットダメージ低減技術を中心に,予知保全機能,被ばく低減機能及び長期保管特性について解説する。

 

溶融金属ターゲット20 μm 径及び透過型300 nm 径の焦点をもつ高輝度X 線発生装置

Excillum 中野 朝雄

High Brightness X-ray Generator with φ20 μm of Liquid Metal and φ300 nm
of Transmission Target

Excillum Asao NAKANO

キーワード:溶融金属ターゲット,マイクロフォーカスX 線管,ナノフォーカスX 線管,高輝度X 線,X 線焦点(透過像,CT 像)

 

はじめに
 物質を透過する能力を有するX 線は,非破壊で内部構造の観察及び内部寸法の測定が可能であり,品質保証や不良解析だけでなく,近年は生産プロセスでの組み立て状態の検査や寸法計測等に広く用いられ,製品品質や製造歩留りの向上等に役立てられている。このような非破壊でのプロセス検査・品質検査や微小部分の解析を行うには,X 線源の焦点サイズが小さなものが有用であり,多くのメーカから高輝度微小焦点のX 線源が発表されている。本稿ではその中でも最高輝度の仕様をもつExcillum 社のX 線発生装置についてその特長的な技術を紹介する。

 

反射型回転ターゲットを備えたマイクロフォーカスX 線管とそれを用いたリチウムイオン電池のCT 検査

(株)ニコン 篠原 剛

Rotating Microfocus X-ray Tube and CT Inspection of Lithium-ion Battery Using It
NIKON CORPORATION Go SHINOHARA

キーワード:工業用X 線装置,コンピュータ断層撮影(CT),マイクロフォーカス,反射型回転ターゲット,リチウムイオン電池

 

はじめに
 ニコンは,航空宇宙,自動車,電子部品などの産業向けに,MEMS などの小さな部品から大型鋳物などの大型部品の非破壊検査を行うためのX 線およびコンピュータ断層撮影(CT)システムを提供している。CT システムの中核をなすのは,最高管電圧130 kV から450 kV までのマイクロフォーカス線源で,英国のトリングにて1986 年から開発,自社製造を行っている。反射型回転ターゲットを備えたマイクロフォーカスX 線管や世界で唯一の450 kV マイクロフォーカスX 線管などの独自技術が優れた画質のCT システムを支えている。

これまでのX 線CT の主な用途は,研究開発と故障解析であった。近年,各産業の生産技術部門は,X 線CT を利用した詳細な試作品検査を行うことで量産立上げ期間を短縮し,体系的な検査を行うことで工程管理を改善している。両方の場合において,1 回のX 線CT スキャンで内部および外部の各寸法の検査が可能になり,欠陥やアセンブリの問題のほとんどを非破壊で他の検査技術よりも速く明らかにすることができる。

最近では,問題をできるだけ早く発見するために,X 線CT検査を生産ラインに適用する傾向がある。この傾向は,特にハイブリッド車や電気自動車に電力を供給するリチウムイオン電池セルの成長市場で顕著である。リチウムイオン電池セルの製造品質は,電池の長期的な性能と安全性を保証するために重要である。

生産ラインにおけるX 線CT 検査の課題は,データの品質を損なうことなく,検査時間を可能な限り短縮することである。この課題の解決方法は,CT スキャンの技術に加えて,ハードウェアとソフトウェアの改良など様々な手法があるが,本稿ではX 線管に着目した課題解決方法を紹介する。

 

マイクロフォーカスからミニフォーカス級の可変X 線 焦点寸法をもつ最新のメゾフォーカス密閉型X 線源

コメットテクノロジーズ・ジャパン(株) 前田  健

The Latest Closed X-ray Source MesoFocus Having Changeable Focal Spot
of Micro- and Mini-Focus Class

Comet Technologies Japan K.K. Ken MAEDA

キーワード:X 線管球,メゾフォーカス,密閉型,焦点寸法,稼働率,生産性

 

はじめに
 X 線検査は様々な製品の内部状況と品質を非破壊で検査することができるため,多くの産業にとって重要なツールとなっている。しかし,今日の産業用X 線検査では,実用上の重要なファクタである信頼性とコスト面の両立のために,ユーザは大きなトレードオフに直面している。固定式(据置式)の密閉型X 線源は,稼働率の高い製造現場へ導入しやすく,安定性・再現性・保守の容易さが要求されるインライン検査システム,その他の用途で広く利用されている。しかし,そのX 線像の解像度は限られており,200 μm 未満の高解像度のイメージングを必要とする一部のアプリケーションでは性能不足となる場合がある。一方,開放型マイクロフォーカスX 線源は優れた解像度をもち,研究用途にも良好な性能を備えているため,高い解像度を必要とするアプリケーションに適している。しかし,メンテナンスや予想外の修理が必要になる傾向があり,生産環境で利用には稼働率の低下につながる可能性がある。これは,生産ラインでの検査では稼働停止となり大きな損失につながる。

リチウムイオン電池,複雑な航空宇宙部品,大規模で高密度の自動車部品など,検査対象がより高度な材料や形状に移行するにつれて,良好な稼働時間と生産性を維持しながら,より高い解像度と優れた検査性能が必要とされている。これらの検査では,25 ~ 200 μm 程度の高精細な検査能力,安定した動作,生産環境への容易な導入,良好な稼働率と生産性を実現することが課題となっている。この課題に応えるために,メゾフォーカス密閉型X 線源を開発した。

X 線管の焦点寸法は,X 線像の画質(不鮮明さ,または,分解能)に大きく影響するため,検査の対象と目的,および,許容時間などに合わせて選択される。その大きさのレンジによって,JIS では4 種(普通焦点,ミニフォーカス,マイクロフォーカス,ナノフォーカス)に分類されている*。メゾフォーカスはこの分類にはなく,製品名として新たに名付けられた。「メゾ」とは,「中間」という意味の接頭語であり,音楽用語の「メゾピアノ」などに使用されている。メゾフォーカスのメゾは,ミニフォーカスとマイクロフォーカスの中間と意味合いが込められている。

メゾフォーカスX 線源には,最高管電圧が225 kV と450 kVの2 種類がある。本稿では,その特長,マイクロフォーカスおよびミニフォーカスとの比較,X 線像の撮像例などを通して,その概要を解説する。また,従来のミニフォーカスX 線源の焦点形状は矩形またはそれに近い形状であったが,メゾフォーカスX 線源ではほぼ円形であり,公称焦点寸法を従来のEN 12543 ではなく,ASTM E1165 1)によって表現している。そのことについても解説する。

 

カーボンナノ系X 線管,X 線源技術と応用

(株)明電舎 林  拓実  越智 隼人  高橋 大造

Carbon Nano X-ray Tube, X-ray Source Technology and Application
MEIDENSHA CORPORATION Takumi HAYASHI, Hayato OCHI and Daizo TAKAHASHI

キーワード:非破壊検査,セキュリティ,カーボンナノ構造体,冷陰極X 線管,ウォームアップレス,小型軽量,省電力化

 

はじめに
 近年,様々な業界でX 線検査が注目されている。特に小型軽量,可搬型に対するニーズが高まっており,セキュリティ業界では,空港の手荷物検査の大型装置が知られているが,イベント会場やテーマパークなどの幅広い場所で小型のX 線検査装置の普及が加速している。医療業界では,少子高齢化や昨今のコロナ禍に対応するための訪問医療用途で,持ち運びが簡単な検査装置の普及が進んでいる。インフラ検査業界では,高度経済成長期に建設された建物の劣化診断など,高所や狭所の検査に使えるものが求められている。

従来のX 線管は,電子の放出を担う陰極フィラメントを加熱する熱陰極方式が一般的である。この方式を用いる可搬型の熱陰極X 線検査装置は,フィラメントの加熱に時間を要し,X 線をすぐに照射できないことや,重く持ち運びが大変などの課題がある。当社は,可搬型のニーズに応えるため,冷陰極X 線管を開発した。当社が開発した冷陰極X 線管は,現在主流の熱陰極X 線管と比較して小型・軽量化が見込める。この冷陰極X 線管の構成,原理,実際の撮影例について解説する。

 

光励起パルスX 線管とその応用

浜松ホトニクス(株) 田村 春樹

Light Excited Pulsed X-ray Tube and its Application
Hamamatsu Photonics K.K. Haruki TAMURA

キーワード:工業用 X 線装置,パルスX線,ストリークカメラ,シンチレータ

 

はじめに
 近年,X 線のパルス化は被照射体への被曝線量低減のために要求が高まってきている。特にテーブルトップ型のパルスX 線源にはX 線管への電気的なパルスを用いたミリ秒,マイクロ秒領域のパルスX 線源1)が有効な手法として考えられている。また,より高速なパルスX 線を得るにはレーザプラズマX 線源2)のような大がかりな装置が必要となる。当社では高速のパルスX 線の発生が可能な特長的な製品として光励起パルスX 線管N16432 を有しており,本稿ではその概要と応用例について紹介する。

 

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