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機関誌

2018年09月号バックナンバー

2018年9月1日更新

目次

巻頭言

今年で30 年を迎えた「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」の未来 湯浅 昇

本会の「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」の前身は「コンクリート構造物の非破壊試験特別研究委員会」(RC 特研)で1988 年4 月に発足し,今年で30 周年を迎えた。RC 特研の設立に深くかかわり初代主査を務めたのは私の師である笠井芳夫先生であり,そのつながりでRC 特研時代から私も笠井芳夫先生の助手として関与している。
 現在,本会は要素部門と応用技術部門に大別して組織運営を行っているが,鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門は応用技術部門の一つである。RC 特研時代からコンクリート構造物,特に鉄筋コンクリート構造物を中心に非破壊検査の試験方法に関する情報交換や調査研究を目的に活動している。具体的には年間3 回の講演会の開催,研究委員会活動,NDIS の原案作成,技術者教育に協力している。RC 特研時代である平成15 年から3 年に一度シンポジウムを開催(第1 回組織委員長笠井芳夫)し,この8 月,“「第6 回コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウム」コンクリート構造物を使い続けるために-非破壊検査の貢献-”を盛会のうちにやり終えたばかりである。
 2012 年12 月の笹子トンネル天井板落下事故以後,構造物の非破壊検査の重要性が一般的にも認識されるようになった。RC 特研が立ち上がった当時はシュミットハンマによる強度推定の試み+α しか非破壊検査方法はなかった。これまでの活動を振り返ると笠井先生の世代の先生方はいろいろな角度から知恵を出してトライをし,種をまかれてきた。私たちの世代はそれらを刈り取り検証してNDIS 化する役割を担っている。現在制定準備委員会申請中のものも入れると,コンクリート関係では16 のNDISが制定・検討中である。
 容易に,安価で,構造物をあまり傷つけることのなく,品質を正確に評価する可能な試験方法の出現を社会は期待している。今後もこれらをすべて満たす試験方法の出現は難しい状況にあるが,唯一の万能な試験方法でなくとも,試験方法を理解し,目的に応じて選択・採用すれば,強度を主として構造体のコンクリートの品質を理解することは可能な時代でもある。更なる試験方法の開発・発展の重要性もさることながら,使用者の既存の試験方法に対する理解が,今後は極めて重要であると考える。
 さて,この度特集号“「衝撃弾性波法による鉄筋コンクリートの非破壊試験」−衝撃弾性波法研究委員会の活動紹介および最新技術動向−”が刊行された。この特集号刊行に尽力していただいた「衝撃弾性波法研究委員会」は2014 年4 月に設置され,2018 年3 月において2 期の活動を終了し,現在3期目の活動に入っている。当該委員会で扱っている衝撃弾性波法は,2009 年にNDIS 2426-2「コンクリート構造物の弾性波による試験方法」(第2 部衝撃弾性波法)が制定され,2014 年に改正されているが,これまでに規格化されていない多くの新しい試験方法の検討が第2 期目まで精力的に行われた。このことから,第3 期目では,次回の改正に向けて理論的・実験的な側面から議論・検討することを目的として活動していただくことになっている。今回の特集は,RC 部門の標準化に向けた活動状況,衝撃弾性波法の最新の技術を認知していただくことを目指し,「衝撃弾性波法研究委員会」の2 期目の活動成果をとりまとめ,報告していただいたものである。

 

解説

「衝撃弾性波法による鉄筋コンクリートの非破壊試験」
−衝撃弾性波法研究委員会の活動紹介および最新技術動向−

衝撃弾性波法研究委員会の活動紹介と今後の展望
徳島大学 渡辺 健 富山県立大学 内田慎哉 リック(株)岩野聡史

Report of Committee,s Activities and Future Prospects of the Impact Elastic Wave Method
Tokushima University Takeshi WATANABE
Toyama Prefectural University Shinya UCHIDA
RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO

キーワード:衝撃弾性波法,伝搬時間差,内部変状,弾性波入力方法,圧縮強度評価方法

1. 委員会設立の主旨
 衝撃弾性波法研究委員会は2014 年〜2015 年に第Ⅰ期,2016 年〜2017 年のⅡ期にわたって活動を進めてきた。
 本委員会の設立背景として,「NDIS 2426-2:弾性波法によるコンクリート試験方法第 2 部衝撃弾性波試験方法」を2014年に改正し,その改正に伴い新たな試験方法が規定および記載さたことが挙げられる。
 ここで,その改正について簡単に整理すると,NDIS 2426-2衝撃弾性波法は,NDIS 2426-1 超音波法とNDIS 2426-3 打音と同じく2009 年(平成21 年)に初版が制定されている。NDIS2426-2:2009(以下,制定版)規格は,表1 のとおり,本文,附属書A(規定),附属書B(参考)~附属書D(参考),解説で構成されている。衝撃弾性波法については適用実績も多かったこともあり,5 年後の2014 年にNDIS 2426-2:2014「コンクリートの非破壊試験-弾性波法-第2 部:衝撃弾性波法」へと改正された(以下,現行版)。現行版の主な構成と内容を表1 に示す。
 表1 に示したように現行版において反映された附属書の試験方法以外にも,いくつかの試験方法に関する実験結果が学会等で報告されており,これらの規格への取り込みが期待される。一方で,これらの新しい知見を盛り込むためには,改正原案作成委員会の標準的な活動期間である1 年の作業では,2014 年時の改正の経験を踏まえると,規格内容の精査および規格化の妥当性などの検討に限界があると考えた。
 そこで, 2019 年に予定されている次回の改正作業に備えることを1 つの目的として,適切な試験項目については規格化を実現させ,かつ現行版の課題の整理ならびに問題点を改善し,理論的・実験的な側面から議論・検討を行うため,衝撃弾性波法研究委員会を立ち上げ活動を進めてきた。今回の報告では,2016 年〜2017 年度のⅡ期目の活動を中心として報告を行う。

 

衝撃弾性波法における弾性波到達時刻決定方法の検討並びに伝搬経路に関する検討
首都大学東京 大野健太郎 (株)東洋計測リサーチ 山下健太郎 リック
(株)岩野聡史 ものつくり大学 森濱和正

Investigation of the Determination Method for Arrival Time and Travel Path in Elastic
Wave Propagated in Concrete by Impact Elastic Wave Method

Tokyo Metropolitan University Kentaro OHNO
Toyokeisoku Research Co., Ltd. Kentaro YAMASHITA
RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO
Institute of Technologists Kazumasa MORIHAMA

キーワード:衝撃弾性波法,弾性波伝搬速度,伝搬経路,到達時刻,S/N

はじめに
 日本非破壊検査協会規格「NDIS 2426-2:2014 コンクリートの非破壊試験-弾性波法-第2 部:衝撃弾性波法」1)によれば,コンクリートに衝撃弾性波法を適用することで,弾性波伝搬速度(規定),部材厚さ(規定),圧縮強度(参考),ひび割れ深さ(参考)が評価可能であることが記されている。これらの評価では,記録された時刻歴波形から弾性波の到達時刻を読み取る必要が多い。ところが,得られた時刻歴波形から確からしい到達時刻を読み取る場合には以下に示す二つの課題が挙げられる。一つは,波形読み取り者によって読み取り時刻および弾性波伝搬速度の評価値が変わるという課題である2)。二つ目に,自動読み取り方法や数学的処理を施した場合では,用いる手法によって評価値が変わるという課題である3)。
 また,弾性波の入力点と測定点を同一面上に設置した場合では,見かけの伝搬距離が短い場合には速度は低く評価され,見かけの伝搬距離がある距離より大きくなると速度は一定値となる傾向を示す場合がある4)。これは,図1 に示すように表層のコンクリート組織が疎で弾性波速度が低く,内部の組織が密で弾性波速度が高い場合では,弾性波の伝搬経路はスネルの法則に従い内部の組織が密な健全な領域を伝搬すると考えられるためである4)。従って,得られた弾性波速度がどの経路を選択して伝搬したのかを明確にする必要があり,また,伝搬経路が推定可能となれば,各種要因により表層劣化したコンクリートの劣化深さを推定すること5),6)も可能であると考えられる。

 

評価対象に応じて周波数の間隔を設定可能な周波数解析方法の紹介
日東建設(株)久保元樹 富山県立大学 内田慎哉 徳島大学 渡辺 健 リック(株)岩野聡史

A Report of the Frequency Analysis Method Capable of Setting Frequency
Resolution According to Evaluation Object

Nitto Construction Inc. Genki KUBO
Toyama Prefectural University Shinya UCHIDA
Tokushima University Takeshi WATANABE
RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO

キーワード:周波数解析,分解能,サンプリング時間間隔,サンプリング周波数,
コンクリート,部材厚さ,圧縮強度

はじめに
 衝撃弾性波法は,コンクリート表面に物理的な衝撃を与えることでP 波などの弾性波をコンクリート内部へ入力し,コンクリート中を伝搬した弾性波の応答を解析することにより,コンクリートの品質や内部欠陥を評価する手法である。弾性波の入力は,鋼球打撃などの機械的な方法,励磁コイルなどによる磁気的な方法がある。一方,応答の測定には,コンクリート表面に設置した加速度計やレーザドップラなどのセンサが挙げられる。例えば,鋼球打撃により入力された弾性波は,コンクリート中を伝搬し,測定面とそれと対向する面との間で多重反射する性質があり,測定面と対向面との距離に対応する周波数(基本周波数)が出現する。基本周波数は,P 波が部材の厚さ方向に1 往復する時間の逆数であり,コンクリート表面から対向面までの距離とコンクリート中を伝搬する弾性波の速度(弾性波伝搬速度)から一義的に決まる理論値である。つまり,基本周波数を求めることによって,コンクリートの部材厚さを推定,あるいは2.1 で示す評価原理に従えばコンクリートの圧縮強度の評価も可能である。コンクリートの部材厚さを推定する方法は,日本非破壊検査協会規格(NDIS2426-2 1))やASTM 規格(ASTM-C1383-04 2))として既に制定されている。また,新設のコンクリート構造物に限定されるものの,圧縮強度評価方法については,NDIS 2426-2 1)において参考として記載されている。
 NDIS 2426-2 1)では,加速度計などで測定した波形に対して周波数解析を行い,得られた周波数スペクトルから基本周波数を特定する。周波数スペクトル上で複数のピークが出現した場合は,スペクトル強度が最大となる周波数(卓越周波数)を基本周波数として取り扱うことが規定されている。従って,周波数スペクトル上において,いかにして基本周波数を出現させるか,基本周波数をどのようなものさし(周波数の間隔)で読み取るのかにより,コンクリートの部材厚さや圧縮強度の評価結果に影響を与えることになる。
 そこで,本稿では,まず,2 章においてコンクリートの圧縮強度および部材厚さの評価方法について概説する。続いて,3章では,既存の周波数解析方法として,離散フーリエ変換および高速フーリエ変換(FFT)を紹介する。また4 章では,評価対象(部材厚さや圧縮強度)に応じて周波数の間隔(周波数分解能)を任意に設定した上で離散フーリエ変換する解析方法(任意法)のメリットを概説する。最後に,5 章および6 章では,4章で説明した任意法により新設コンクリート構造物の圧縮強度およびコンクリートの部材厚さをそれぞれ評価した事例とその有効性を,既存の周波数解析方法との比較から論じる。

 

衝撃弾性波法による圧縮強度評価の普及拡大への取組み
リック(株)岩野聡史 徳島大学 渡辺 健 
(株)CORE 技術研究所 小椋紀彦 ものつくり大学 森濱和正

Approach of the Widespread use for Compressive Strength Testing
using the Impact Elastic Wave Method

RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO
Tokushima University Takeshi WATANABE
CORE Institute of Technology Corp. Norihiko OGURA
Institute of Technologists Kazumasa MORIHAMA

キーワード:衝撃弾性波法,圧縮強度,弾性波伝搬速度,圧縮強度評価式

はじめに
 コンクリートの圧縮強度試験は,現在,コンクリート構造物の品質管理,点検・診断の様々な場面で実施されている試験項目の一つである。この圧縮強度試験を,非破壊で,精度よく実施できる方法を確立することは,長らく多くの方々に期待され続けていると考えられる。衝撃弾性波法による圧縮強度試験については,これまで多くの研究がされており1),新設構造物での品質管理にも適用されている2)。これらを背景として,日本非破壊検査協会規格(NDIS)では,「NDIS 2426-2:2014コンクリートの非破壊試験-弾性波法-第2 部:衝撃弾性波法」(以下,NDIS 2426-2 という)の附属書D において,衝撃弾性波法による圧縮強度の評価方法が参考として記載されている。
 附属書D に記載されている圧縮強度評価方法の手順を図1に示す。衝撃弾性波法によって構造体コンクリートで測定した弾性波伝搬速度から圧縮強度を推定(評価)する方法である。測定した弾性波伝搬速度から圧縮強度を評価するための圧縮強度評価式は,弾性波伝搬速度と圧縮強度との関係から決定される。ただし,両者の関係は,コンクリートの使用材料・配(調)合等によって異なることから,以下の手順で圧縮強度評価式を決定することが記載されている。①評価対象のコンクリートと使用材料・配(調)合が等しいコンクリートで円柱供試体を複数個作製する。②この円柱供試体において,異なる材齢で弾性波伝搬速度の測定と圧縮強度試験を実施する。なお,材齢は強度発現の初期段階からほぼ収束する段階までで変化させる(例えば,7 日,14 日,28 日,91 日)。③ ②で得られた弾性波伝搬速度と圧縮強度との関係から圧縮強度評価式を決定する。
 附属書D に記載されている圧縮強度評価方法は以上の手順であることから,適用条件は圧縮強度評価式の作成が可能なコンクリート,または適切な圧縮強度評価式が既に得られているコンクリートとなる。これにより,新設構造物の品質管理のための圧縮強度試験方法としては,多く適用されている。しかしながら,既設構造物の点検・診断のための試験方法としての適用には課題があった。また,評価対象のコンクリートと圧縮強度評価式を作成するための円柱供試体のコンクリートとが同じ配(調)合であることを前提とした試験方法である。このことから,例えば,評価対象のコンクリートの水セメント比(W/C)が何らかの原因により変化した場合において,圧縮強度を評価するような試験を実施することはできない。以上のとおり,附属書D に記載されている圧縮強度評価方法は,適用条件が限定されているという課題があると考えられる。
 そこで,衝撃弾性波法研究委員会では,適用条件を拡大した新しい圧縮強度評価方法を検討するため,附属書D には記載されていない試験手順を検証する二つの実験を行った。まず,円柱供試体を作製して圧縮強度評価式を作成する方法について,附属書D に記載されていない方法である,W/C の違いによる弾性波伝搬速度と圧縮強度の変化を利用する方法について検証した。その結果を2 章で報告する。次に,既設構造物で圧縮強度評価式を作成する場合を想定し,円柱供試体を作製するのではなく,試験対象のコンクリートから採取したコアでの圧縮強度の試験結果から圧縮強度評価式を設定する方法について検証した。その結果を3 章で報告する。
 なお,衝撃弾性波法によるコンクリート構造物の圧縮強度の評価は,弾性係数を介した弾性波伝搬速度と圧縮強度との相関関係を利用するものである。従って,弾性係数,弾性波伝搬速度,圧縮強度の3 者での比例関係が成立しない場合での適用は困難となる。具体的な一例として,初期欠陥,劣化,損傷により発生した変状では,測定される弾性波伝搬速度のみが極端に低下することが考えられ,3 者での比例関係は成立しない。附属書D では,変状が生じたコンクリートの圧縮強度の評価は適用外となる。

 

コンクリートへの鋼球打撃により入力される弾性波の周波数および接触時間の測定方法の紹介
富山県立大学 内田慎哉 日東建設(株)久保元樹 リック(株)岩野聡史 熊本大学 森 和也(株)東洋計測リサーチ 山下健太郎 (株)大進コンサルタント炭谷浩一

A Report on the Frequency of Elastic Waves and the Measurement Method
for Contact Time using Impacting Steel Balls to Concrete Surfaces

Toyama Prefectural University Shinya UCHIDA
Nitto Construction Inc. Genki KUBO
RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO
Kumamoto University Kazuya MORI
Toyokeisoku Research Co., Ltd. Kentaro YAMASHITA
Daishin Consultant Co., Ltd. Koichi SUMITANI

キーワード:コンクリート,衝撃弾性波法,鋼球打撃,弾性波,レイリー波,弾性論,接触時間,上限周波数

はじめに
 コンクリート部材の厚さや部材内部の欠陥を評価する非破壊試験の一つに,図1 に示す衝撃弾性波法がある。この手法は,鋼球打撃によって弾性波をコンクリート内部へ入力し,コンクリートを伝搬した波動を振動センサで受信して得られた波形から,指標値として弾性波伝搬時間,振幅,周波数などを算出し,コンクリート部材の品質や厚さ,部材内部の欠陥を評価するものである。
 コンクリート内部に入力される弾性波の周波数は,鋼球とコンクリートが接触している時間(接触時間)の逆数となり,また,入力される弾性波の波長も接触時間によって決定される。この内部に入力される弾性波の波長は,評価精度に大きく影響することから,評価対象に応じて適切な波長となる鋼球を選定することが重要となる。たとえば,Sansalone らのコンクリート部材の厚さ推定に関する既往の研究1)では,鋼球打撃により入力される弾性波の上限周波数は,対象とする部材厚さに相当する基本周波数以上となるような直径の鋼球を選定する必要があると述べている。また,NDIS 2426-2 2)では,弾性論3)に基づき,対象とする部材厚さ,推奨される鋼球直径,入力される弾性波の上限周波数の関係が例示されている。しかしながら,コンクリートは完全弾性体ではないため,鋼球打撃によりコンクリート表層は塑性変形し,実際の接触時間が弾性論に基づく接触時間とは一致しないという課題があった。
 一方で,衝撃弾性波法に関する既往の研究4)の多くは,著者らも含めて,鋼球はあくまで弾性波の入力に用いるのみであった。しかしながら,近年,コンクリートを鋼球で打撃した際の衝突現象,すなわち接触時間に着目することで,コンクリート表層部分の緻密性を間接的に評価できる可能性があることがわかりつつある5)。
 以上の二つの背景を踏まえて,本稿では,まず,接触時間および入力される弾性波の上限周波数について2 章で概説する。続いて,3 章では弾性論から導出される接触時間の理論式とその数値解,4 章では入力される弾性波の上限周波数の数値解についてそれぞれ解説する。さらに5 章では,コンクリートおよび御影石を対象として,鋼球と対象物との接触時間を対象物表面に貼り付けたシート状の荷重センサにより測定し,この測定結果と3 章で示した数値解との比較を行った結果について示す。併せて,コンクリートへ入力される弾性波の上限周波数については,5 章の結果から求まる値と4 章から得られる数値解とを比較した例についても紹介する。最後に,6章では,コンクリート表層品質を評価する実際の場面を想定し,コンクリート表面を鋼球で直接打撃した際の応答をコンクリート表面に設置した加速度計で測定,この測定値から接触時間を推定する方法について検討した事例を解説する。

 

衝撃弾性波法によるコンクリート内部欠陥の評価手法に関する最新の技術動向
(株)アミック 高鍋雅則 非破壊検査(株)森 雅司 
富山県立大学 内田慎哉 桐蔭横浜大学 杉本恒美 熊本大学 森 和也

Latest Technology Trends in Evaluation Methods for Defects in Concrete
using the Impact Elastic Wave Method

AMIC Co., Ltd. Masanori TAKANABE
Non-Destructive Inspection Co., Ltd. Masashi MORI
Toyama Prefectural University Shinya UCHIDA
Toin University of Yokohama Tsuneyoshi SUGIMOTO
Kumamoto University Kazuya MORI

キーワード:衝撃弾性波法,コンクリート,内部欠陥,弾性波入力,非破壊評価

はじめに
 コンクリート構造物に適用する弾性波法に基づいた非破壊試験方法については,日本非破壊検査協会規格「NDIS 2426-2:2009 コンクリート構造物の弾性波による試験方法-第2部:衝撃弾性波法」にて制定され,「NDIS 2426-2:2014 コンクリートの非破壊試験-弾性波法-第2 部:衝撃弾性波法」にて改正されている。2009 年の制定時には衝撃弾性波の入力方法として,ハンマなどの接触時間の短い機械的な衝撃力を用いるとされていたが,2014 年の改正では,機械的な方法に限定されることなく,様々な入力方法が適用できるように改正された。このように規格化はされていないものの,新しい試験方法の検討はこれまでに精力的に行われている。そこで,衝撃弾性波法研究委員会では,「磁気的方法およびその他の弾性波入力方法についての検討」(WG 3)を設置し,様々な弾性波の入力方法について調査を実施した。本稿ではこれらの調査内容から衝撃弾性波法によるコンクリート内部欠陥の評価手法に関する最新の技術動向を紹介する。

 

論文

超音波とレーザを併用した水温の非侵襲計測
高橋 学,井原郁夫,渡辺弘和,阿部将典

Non-invasive Measurement of Water Temperature by a Combined Method
of Ultrasound and Laser

Manabu TAKAHASHI, Ikuo IHARA, Hirokazu WATANABE and Masanori ABE

Abstract
In this study, we have developed a combined method of ultrasound and laser to make non-invasive measurements of water temperature.
In the proposed method, a laser Doppler vibrometer (LDV) is used to detect ultrasonic pulse waves propagating through a certain distance of water so that the ultrasonic velocity can be determined from the detected ultrasonic waves. Water temperature can then be determined from the ultrasonic velocity of the water as long as the temperature dependence of the velocity is known.
In order to verify the validity of the proposed method, experiments have been performed in temperatures ranging from 3 ºC to 70 ºC.
The results show that the water temperatures measured by the proposed method agree well with those measured using thermocouples immersed in water.
In addition, an attempt to measure the temperature distribution in a water tank has been made.
It is expected that the proposed method will be a promising tool to make noninvasive measurements of liquid temperature.

キーワード:Ultrasonic pulse wave, Laser Doppler vibrometer, Temperature measurement, Water

緒言
 温度は物体の特性や挙動に密接に関連するため,工学,工業の幅広い分野においてその把握が重要である。温度計測には熱電対やサーミスタなどを用いた接触法や赤外線を用いた非接触法が広く用いられている。しかし,物体の内部温度を計測する場合,接触法ではセンサを物体内部に挿入する必要があり,非接触法では原理上,その適用は表面温度の計測に限られる1)。物体内部の温度を非侵襲的に時間応答性良く測定できれば,様々な場面で有益であることは言うまでもない。そのようなニーズを満たすために,超音波法の適用が試みられている2)−6)。その原理は,材料を伝搬する超音波の音速が温度によって変化することを用いるもので,最近では,材料内部を伝搬する超音波を用いた内部温度分布測定7),8)や,材料表面を伝搬する表面波を用いた表面温度測定なども報告されている9)− 11)。これらの手法は,温度分布の定量的評価のために被測定物の熱的境界条件を知る必要があるものの,従来の熱電対や赤外線を用いた手法にはない特徴,例えば,物体内部の温度を非侵襲で測定できる点などがある。このように超音波による温度測定は熱電対や赤外線を補う意味での新たな展開が期待されている。
 本稿では,液体の内部温度を非侵襲で測定するための新たな方法として,超音波とレーザを駆使した簡便な手法を提案する。具体的には,水中を伝搬する超音波をレーザで検出することで水中の任意空間での音速を計測し,その音速から水温を同定する。レーザを活用した超音波計測は数多く提案されており,レーザ超音波法がその代表例である12),13)。磁わい型センサを用いて配管に励起したガイド波の伝搬を可視化するもの14)や,アルミ板にパルスレーザで励起した超音波を空中超音波で計測するもの15)など,様々な報告がある。レーザを用いて液体中の超音波伝搬を測定する手法もいくつか報告されており16)− 19),超音波の可視化20)− 23)やセンサ設計24)への活用が期待されている。これらの手法は,水中でのレーザの照射位置を変更することで,その位置に応じた水中での超音波を検出することができる。この手法を活用することで,水中の任意の位置での音速を得ることができ,それを指標とした水温計測も可能となると考えられる。このように,超音波とレーザを併用することで,水中に何らかのセンサを挿入することなく,非接触かつ非侵襲での水温計測が期待できる。一般に,水温を測定するには何らかの温度センサを水中に挿入する必要がある。また,水が蓄えられた容器内の温度分布を測定するためには所望の空間に複数の温度センサを設けなければならない。しかし,このような温度センサの挿入は,それ自体が面倒であるのみならず水容器内の温度分布に影響を与える可能性がある。特に,恒温水槽のように高精度の水温管理が要求される場合,温度センサの挿入は熱的外乱となり得るため,その挿入や移動は避けることが望ましい。また,産業利用あるいは学術研究における品質管理上の必要性から密閉容器に蓄えられた水の温度測定がしばしば要求されるが,その場合にはセンサの挿入が不要な非侵襲温度測定が不可欠となる。本研究で提案する手法は水中に温度センサを挿入することなく複数箇所の温度測定を可能にするもので,上述した従来の水温測定法の問題を克服した新規かつ効果的な水温測定が期待できる。
 本稿では,まず超音波とレーザを併用した水温測定法の原理を述べ,次いで,その手法の妥当性を検証するための実験結果を示す。さらに,水槽中の温度分布の測定に提案手法を適用した結果を示す。

 

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