logo

<<2026>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2006年度バックナンバー巻頭言4月

2006年4月1日更新

巻頭言

特集 「安全・安心の基本を支える非破壊検査」の発刊によせて  寺田 博之

ときは春,日は朝(あした),
朝は七時,片岡に露満ちて,
あげ雲雀名乗りいで,蝸牛枝に這い,
神,そらに知ろしめす。
すべて世は事もなし。
(ロバート・ブラウニング:上田 敏「海潮音」より)



誰にとっても,何事もなくさわやかで平和なひとときを連想させる詩である。

 ありふれたのどかな春の朝のひとときを謳ったこの詩のように,あたりまえのことがあたりまえに営まれていくことが安全で安心な社会の基本であろう。

しかし,人々のささやかで安心な生活を保っていくことも,マクロエンジニアリングからナノテクまで,極低温から超高温まで,また宇宙開発から遺伝子操作ま でと途方もなく利用環境や技術が広がりつつある今日にあっては容易なことではない。あらゆる分野の科学技術の複雑な組み合わせのもとにかろうじて支えられ ている今日の社会も,九牛の一毛の如くほんの僅かな欠陥や過ちからいとも簡単に瓦解してしまう事実を我々は幾度も目にしてきている。

  形あるものは必ず壊れ,動いているものは何時かは止まり,酸素のあるところ何時かは朽ち果てるといった不可逆な地球環境の中で運用されている社会のインフ ラではあるが,それでも安全・安心に携わっている我々技術者はハードウエアの健全性維持を通じて社会の安全をよりゆるぎないものに守り育んでいかねばなら ない。そのためには,現状の科学技術の進歩を上回るスピードであらゆる条件に対応できる非破壊検査技術の開発と信頼性の向上を推し進めていくことが必要で ある。

 このような期待を込めて,第3回学術セミナーでは,それぞれの分野の第一人者として活躍されている以下の3名の講師から,最近話題になっている非破壊検査技術適用の現状と課題ならびに今後の展望,非破壊検査技術に関する研究の最先端などについて熱く語っていただいた。

  当協会の前会長小林英男氏からは,「プラント配管の健全性維持の問題点」について,配管にしばしば観察されるエロージョン/コロージョン損傷のメカニズム とそれによる減肉の事例紹介,およびその検出に関する損傷寸法の特定(サイジング)の問題などについて解説していただいた。

 当協会が各方面の期待を受けて原子力プラント等をターゲットとして超音波探傷法の技術認証評価制度の実現に向けて取り組んでいることとも相俟って時宜を得た話題であった。

 全日空の堀田幹生氏からは,非破壊検査技術適用の最先端分野である航空機整備の現状,および複合材料の非破壊検査の課題等について当協会への期待を含めて紹介頂いた。

 また,当協会の理事でもある阪上隆英氏からは急速な進歩を遂げつつあるサーモグラフィを用いた非破壊検査技術について自己相関ロックイン法など同氏のグループが中心に手がけている数多くの新しい技術を含め測定例の紹介を頂いた。

 会員諸氏へのメッセージとして受け止めていただければ幸甚である。

*航空宇宙技術振興財団(182-0026 東京都調布市小島町1-11-30-109)理事 1965〜2003 航空宇宙技術研究所において破壊力学,航空安全の研究に従事。
 リーハイ大学留学,西北工業大学(中国・西安)顧問教授など。現在は航空疲労の研究などに従事。(趣味)卓球,囲碁,随筆

 

解説 第三回学術セミナー 安全・安心の基本を支える非破壊検査

原子力発電所の配管破裂事例とエロージョン/コロージョンの課題  小林 英男 横浜国立大学

Pipe Burst Accident and Erosion / Corrosion in Nuclear Power Plant

Hideo KOBAYASHI Yokohama National University

キーワード 原子力機器,配管,炭素鋼,破裂,事故調査,腐食,エロージョン/コロージョン



 

1. 事例概要 

 運転中の原子力発電所のタービン建屋(3階建て)内で,配管が破裂して高温の蒸気が噴出し,2階で定期点検の準備作業をしていた作業員11人のうち,4人が死亡し,2人が重体,5人が重軽傷を負った。後 日,重体の1人も死亡した。運転中の原発の事故としては過去最悪の規模である。2次系配管なので,放射能汚染はなかった。

  配管破裂の原因は,エロージョン/コロージョンによる局部減肉である。配管の内部には冷却水の流量を測定するオリフィスが設置されている。オリフィス下流 部において,配管の周方向に帯状の局部減肉が経年的に生じ,断面積の減少に起因して圧力によって塑性崩壊し,大きな破口を形成した。その結果,多量の高温 水が蒸気となって噴出した。

 この部位がエロージョン/コロージョンによって局部減肉を生ず ることは周知の事実であり,点検の検査対象部位となる。しかし,電力会社と検査会社の見落としで,点検台帳に登録されておらず,27年間も肉厚測定が行わ れなかった。福井県警敦賀署の捜査本部は,業務上過失致死傷容疑で強制捜査に踏み切った。

 

 

航空機整備の非破壊検査の適用及び課題について
   堀田 幹生 全日本空輸(株)

NDI Application for Airplane Maintenance Program

Mikio HOTTA All Nippon Airways

キーワード 非破壊試験,品質保証,超音波探傷試験,渦流探傷試験,損傷評価



1. はじめに

航空機の健全性を確保するため,機体構造点検プログラムを設定しているが,非破壊検査の技術を用いた点検手法も活用されており,点検プログラムにおいて重 要な役割を担っている。本稿では,全日本空輸株式会社(以下全日空という)で運航している型式の航空機を例に,構造点検プログラムにおける非破壊検査の役 割及び本邦内航空会社における非破壊検査の管理体制等の概要を紹介するとともに,全日空にて運航している航空機に適用されている非破壊検査の実用例とし て,

・ボーイング767型機の定例・非定例検査

・ボーイング747-400型機の構造疲労検査

に関する具体的な検査項目を紹介する。

  また,2008年就航を目指しボーイング社が開発している787型機では,胴体,主翼,尾翼の主要構造部材が複合材で製造される計画であり,複合材重量の 機体総重量に占める割合も増大している。これに伴い,機体構造に損傷が発生した場合の検査方法も,アルミニウム合金が主要材料として用いられている従来機 に適用してきた方法とは異なる非破壊検査の手法が求められるであろう。本稿の最後では,次世代航空機に対する非破壊検査の課題について紹介する。

注)本稿に掲載した文章・表・図等は,あくまでも参考と

してのものであり,実際の整備業務に使用しているものとは異なる。

 

赤外線サーモグラフィによる非破壊評価・モニタリング手法
    阪上 英 大阪大学大学院工学研究科

Nondestructive Testing and Health Monitoring Techniques by Infrared Thermography Takahide SAKAGAMI Graduate school of engineering, Osaka University
キーワード 赤外線サーモグラフィ,パッシブ法,アクティブ加熱法,き裂,はく離



1. はじめに

  波長が可視光より長く電波より短い電磁波は赤外線と呼ばれる。赤外線は広い波長帯域をもっているため,さらに近赤外線,中赤外線および遠赤外線に分けられ る。赤外線は科学技術の様々な分野で用いられている。工業的な主な用途としては,エネルギ利用および赤外線センシングがある。赤外線のエネルギ利用として は,赤外線放射源から放射された赤外線の吸収による加熱・乾燥等がある。エネルギ利用においては遠赤外線が用いられることが多い。赤外線センシングは, パッシブ応用とアクティブ応用に分けられる。前者は,物体からその温度に応じて放射される赤外線を計測するものである。プランクの放射則によれば,常温付 近の温度の物体から放射される赤外線エネルギが最大になるのは中赤外領域であることから,パッシブ応用では波長3mmから14mmの中赤外線が用いられ る。後者は,赤外線放射源を併用するセンシング方法であり,物体で反射してくる赤外線を計測する。従来から利用されてきた赤外線写真や赤外線照明を併用し た赤外線カメラはアクティブ応用と考えられる。本稿では赤外線センシングのパッシブ応用,特に物体表面から放射される赤外線強度を画像表示する赤外線カメ ラおよび赤外線サーモグラフィを取り上げる。
 近年,赤外線サーモグラフィの性能が急速に向 上し,高分解能・高精度かつ高速での温度計測が可能となった。同時に赤外線サーモグラフィの低価格化・小型化も進み,赤外線サーモグラフィは科学技術の様 々な分野での温度計測に応用されている。物体表面温度分布計測に基づく非破壊評価・モニタリング技術は,赤外線サーモグラフィの応用が成功を収めた分野の 一つである。赤外線サーモグラフィによる非破壊評価技術は,欠陥検出・計測のための非破壊検査技術と,赤外線応力測定技術に大別される。前者は,欠陥の存 在に起因する材料表面の温度変化領域を検出・計測することにより,その変化の原因である欠陥を同定する熱的非破壊検査手法である。また,後者は,材料に荷 重が負荷されたときの熱弾性効果による準可逆状態の温度変動を赤外線サーモグラフィにより計測することにより,材料に作用している応力分布を可視化計測す るものである。
 本解説では,赤外線サーモグラフィによる温度分布計測に基づく,非破壊評 価・モニタリング技術について述べる。まず,赤外線サーモグラフィの開発動向・性能について解説する。次に,赤外線サーモグラフィによる非破壊検査手法に ついて解説するとともに,赤外線サーモグラフィ法による構造物の非破壊評価・モニタリング事例を示す。

 

 

論文

応力塗料を用いたモルタル・コンクリート硬化体の圧縮時のひずみ分布の可視化の研究
    鵜澤 正美/下山 善秀

A Method of Visualizing Strain Distribution in Hardened Mortar and
Concrete Pieces under Compression Using the Brittle Lacquer Technique
Masami UZAWA* and Yoshihide SHIMOYAMA*
The brittle lacquer technique which is frequently used for metallic and other plastic materials, was applied under compression to brittle hardened mortar and concrete pieces,in an attempt to visualize the strain distribution in them. Cracks were generated in the paint films applied to the hardened pieces by abrupt unloading after compressive stress loading, and distribution of the strain was visualized in form of crack distribution. Hardened mortar pieces exhibited cracks evenly on their surfaces, which agreed well with analytical results by the finite element method. On hardened concrete pieces cracks occurred only in mortar. This finding confirmed that the difference in modulus of elasticity and thus in ductility between mortar and coarse aggregate causes strain to concentrate in mortar when a compressive load is applied to concrete.
Key Words Brittle lacquer technique, Monitoring coin weight, Visualization, Mortar, Concrete, Finite element method



1. 緒言

  コンクリートの圧縮破壊のメカニズムは,モルタルと粗骨材の弾性率の差によって生じるモルタル部分の変形によるクラックが,破壊の発生起源になると一般に 言われている。これらを測定する方法としては,クラックを直接顕微鏡で観察するマイクロクラック観察法1),2),微小なワイヤーストレインゲージ (W.S.G)による微小部分のひずみ測定法3),光弾性皮膜を用いる方法3)に分かれる。マイクロクラック観察法はコンクリートを薄く切断し負荷応力を かけながら顕微鏡でクラックを観察するという手間のかかる手法であり,実際のひずみ量は測定できない欠点があるが,クラックの発生や進展を直接観察するこ とができる。W.S.Gによるひずみ測定法はコンクリート表面にゲージを貼り付けそれぞれの部位におけるひずみ量を測定する。この方法は測定領域がゲージ 貼り付け部分に限定されること,ゲージの大きさで測定間隔が決まってしまう欠点はあるが,ひずみ量を正確に測定することができる。実際にこの方法によって コンクリートへ応力を負荷するとFig.1(文献3より引用)に示すようになる。この図は骨材とその間にモルタルがあるコンクリートの模式図であ り,A−B間でのひずみ量をAからBに向かって負荷をかけ測定している。横軸はひずみ量である。その結果,モルタル部のひずみが大きく粗骨材部は小さいと いう結果が得られており3),モルタル部にひずみが集中していることが容易に理解できる。クラックを発生させずに応力下でひずみの分布を直接観察する方法 としては光弾性皮膜による微小部のひずみ測定法がある。光弾性皮膜による観察法は 無ひずみのエポキシ樹脂を供試体に貼り応力を負荷した状態で,エポキシ樹脂表面に発生したひずみを特殊なカメラを用いて観察する方法である。ひずみの検出 限界を「ひずみ感度」と定義すると,この方法のひずみ感度は約600×10−6程度である。

 

 

 

to top