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機関誌

2004年度バックナンバー巻頭言4月

2004年4月1日更新

巻頭言

「画像処理及びその応用技術の検査・計測・監視分野への展開」特集号の刊行にあたって
   菅  泰雄

近年,視覚センシングと画像処理を組み合わせたいわゆるビジョンシステムの適用分野が急速に拡大しつつあり,様々な分野でしかも種々の目的に使われ始めて いる。特に,最近のパーソナルコンピュータの処理能力には著しい向上が見られ,CPUの高速化,メモリの増大,ハードディスク容量の増大などの進歩が著し い。このことは,高解像度・大容量の画像データに複雑な画像処理アルゴリズムを適用することを可能にしており,高度な処理を行うための時間的制約を軽減し て実用に十分耐え得る処理システムの構築が実現しつつある。すなわち,従来の画像処理システムでは荷が重過ぎて適用が困難であったような分野においても, そのパフォーマンスの向上に伴って実用が可能な方向に進みつつある。これが画像処理の応用分野の拡大を促進しているものと考えられる。たとえば,半導体の 分野では集積度の向上から半導体回路の目視検査が限界に近づいており,その自動化が期待されている。その一例として,細線化が進むボンディングワイヤの検 査では,画像の解像度を向上させ,かつアルゴリズムを工夫することによってその自動化を実現しつつある。本特集では,まず半導体回路におけるボンディング ワイヤの自動検査の最新の技術について解説していただく。
 さて,溶接部の非破壊検査は構造物の信頼性向上に欠かせない重要な技術の一つであるが,一方では溶接プロセスを常に監視して欠陥が発生しないように溶接 状態を適正に制御することができれば,構造物の信頼性は一層向上するであろうといわれている。しかし,信頼性の高い制御システムを構築するためには,極め て過酷な環境下で溶接現象を明瞭な画像データとして取得し,これを解析する技術が必要となる。近年,アーク溶接を中心に,特殊フィルタ,照明方法,高速ビ デオカメラ等を組み合わせたシステムを用いて溶接現象をとらえ,それを解析して従来不明とされていた現象を明らかにしようとする研究が進んでいる。ここで は,溶接現象の監視・解析に関する最新の状況を解説していただく。
 一方,画像解析の高度化に寄与している一つのファクタにカラー画像の応用がある。カラー画像はRGBという3色の色情報を持つため,グレースケールの画 像に比べて情報量が多く,より高度な解析が可能となる。しかし,それだけデータ量が増大するわけであるから従来のハードウェアでは処理速度に問題が生じる という欠点も無視できなかった。しかし,最近はコンピュータの高速化によってその問題が解消されつつあり,むしろ色彩画像を積極的に応用して検査システム の高度化を図ろうとする動きが活発化している。ここでは,色彩画像情報を用いた検査についてわかりやすく解説していただく。
 さて,世の中には様々な工業製品が存在するが,視覚的にとらえるのが困難とされる種々の欠陥が存在する。その一例として光学フィルム・シートや自動車ボ ディの塗装面等などのような光沢面を持つ製品の微小な表面凹凸欠陥があげられる。ここでは,照明や解析方法を工夫してこれらの欠陥を高い精度で検出・計測 する手法について概説していただく。
 画像応用の拡大には著しいものがあるが,その興味ある際立った応用例の一つとして人間の顔研究への適用がある。画像処理による顔の解析技術が進展すれば その応用範囲は一段と拡大するものと想像される。ここでは,顔研究のために用いられている画像処理技術の現状を実例を交えて解説していただくと同時に,こ れらが拓くと期待される産業応用への展望について概説していただく。
 本特集では画像処理を用いた検査・計測・監視とその産業への応用について,第一線で研究されておられる研究者の方々にわかりやすく概説していただく。本特集号が,関心をお持ちの方々の参考となり,何らかのお役に立つことができれば幸いである。

*慶應義塾大学理工学部(223-8522 横浜市港北区日吉3-14-1)機械工学科・教授

 

解説 画像処理及びその応用技術の検査・計測・監視分野への展開

集積回路ボンディングワイヤの検査
   青木 公也 豊橋技術科学大学情報工学系

nspection of Bonding Wires for Integrated Circuits by Image Processing
Kimiya AOKI Department of Information and Computer Sciences, Toyohashi University of Technology
キーワード X線検査,画像処理,半導体集積回路,ボンディングワイヤ,自動検査



1. はじめに
 画像処理技術の検査・計測・監視分野への展開ということで,本稿では,著者が所属する研究グループで開発した,半導体集積回路内部のボンディングワイヤ検査の自動化例について解説する。
 半導体集積回路の製造において,半田ボールやピン,ボンディングワイヤ等の非破壊検査は品質管理の上で重要である。しかし,近年の集積度の向上により, 画像を用いた目視検査は限界に近づいている。そこで,画像処理技術を応用した検査の自動化が試みられている。例えばワークの位置合わせ1),2)やソケッ トピンのピッチや長さの計測3),BGAパッケージの半田ボール検査4),5)等の報告がある。
 本稿で取り上げるボンディングワイヤは,チップとリードフレームの端子間を結線した金属線であり,半導体パッケージ内で3次元的に配線される。ワイヤの 流れや変形,切断は主に樹脂封止時に発生し,ワイヤの細線化に伴い最も品質管理すべき項目の一つである6)。当然,外観からはワイヤは観察できないため, 検査手法としてはX線透過試験が用いられる。
 ワイヤは透過画像において,基板のプリントパターン等に重なって撮像される。また,ワイヤ外径は25mm程度であり,一般的な検査解像度に比べて細く, かつ変形や切断を伴う場合があり,従来の画像処理手法の組み合わせではその自動検出は困難であると言える。そこで,ボンディングワイヤ検査の自動化におい ては,幾つかの新たな画像処理手法を提案した。また,この種の自動検査では,欠陥やきずが存在するか否かが第一の問題であるが,ワイヤ検査に関しては,後 に述べる各種定量的な検査項目もクリアする必要があった。以下に,検査アルゴリズムと結果について概説する。

 

 

溶接現象の解析・監視
  小川 洋司 産業技術総合研究所

Analysis and Monitoring of Welding Phenomena
Yoji OGAWA National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
キーワード 画像処理,アーク溶接,溶接現象,動画像,スペクトル分析



1. はじめに
 アーク溶接は,経済的でかつ高能率な接合技術であり,多様な産業分野で利用されている。自動化・ロボット化の対象としても代表的な技術となっており,溶 接品質を確保しながら生産効率を高めるために,溶接現象の積極的な制御や,コンピュータ支援によるプロセスの知識化を目指した手法の開発と,製造現場への 適用が精力的に進められている。しかし,溶接に起因する重大な事故は少なからず存在する。また,溶接加工は,まばゆく光るアーク放電を利用した,極めて急 速な加熱・冷却を伴う過程であり,かつ,鋼材あるいは環境雰囲気に含まれる微量な元素に大きく影響される代表的な複雑系の現象でもある。このため,アーク 溶接現象の理解と溶接制御の自動化・知能化のために解明すべき要素はいまだに多く残っている。著者らは,経済産業省の重要地域技術研究開発プロジェクト 「溶接技術の高度化による高効率・高信頼性溶接技術の開発」1)においてアーク溶接のモデル化とモデル化に必要な高温での物性値の測定及び溶接現象の解析 を実施している。本解説では,このプロジェクトで得られた成果を中心に,アーク溶接の解析と監視をより精度良く効率的に実施するために必要な事象について 紹介する。

 

 

色彩画像情報を用いた検査
   浅野 敏郎 広島工業大学工学部

Inspection Technology Using Color Image Processing
Toshio ASANO Hiroshima Institute of Technology
Takeo KAMIMURA Kansai Giken Co., Ltd.
キーワード 画像処理,色,欠陥,分光情報,テレビカメラ



1. はじめに
 目視検査において,欠陥は形状もしくは色が正常品と異なることから識別されていることが多い。このため色の情報は検査において重要である。色は色彩計あ るいは分光輝度計を用いて,正確に測定することができる。しかしながら,それらの測定器で計測できるのはスポット(点)の色である。検査のときには2次元 的な面としての色情報が必要であることが多く,市販の色彩計などでは対応できないことが多い。
 2次元的に色情報を得ることのできるセンサとしてはカラーカメラが身近にある。本稿では,カラーカメラのRGB信号から色情報を得る基本的な方法と事例を紹介し,さらに高精度な手法として,分光情報を用いた検査を紹介する。

 

 

鏡面上の微小凹凸欠陥検査
    石井  明 香川大学  広瀬  修 住友化学工業(株)


Inspection of Small Convex and Concave Defects on a Specular Surface
Akira ISHII Kagawa University and Osamu HIROSE Sumitomo Chemical Co. Ltd.
キーワード 画像処理,外観検査,光沢面,光学機能シート,パターン照明


1. はじめに
 光沢面に発生する微小凹凸欠陥を検出する方法として輝度変化のある照明を用いる手法が多く提案されている1)−7)。なかでも,自動車がその中をくぐる ことができるアーチ式の明暗ストライプ照明を利用する方法4)は多くの自動車メーカで採用されている。これらの手法はいずれも,欠陥の存在によって,被検 査面に映り込む明暗パターンの一部の領域の輝度が反転したり,パターン自体が歪んだりぼけたりするといった現象を利用したものである6)。これは,欠陥面 の傾きにより光線経路が変化するためである。しかし,欠陥の形状と光線経路の変化との関係についての研究は報告されていない。そのため,パターン照明を用 いた観測系の設計について明瞭な指針はなく,経験的にパターンサイズや光学配置を決めている場合が多い。
 そこで,本解説では,?光線追跡シミュレーションを用いて,パターン照明からの光線が欠陥を含む被検査面で反射した後,CCDカメラで撮影されるまでの 光線経路を求めることによって様々な欠陥形状に対する欠陥観測画像が得られること7),?欠陥によって光線経路が変化する領域と照明との重なりに基づいて 定義される「影響量」を使って,最適な光学配置が得られること8)を示す。

 

 

顔画像処理とその産業応用の可能性
    輿水 大和/舟橋 琢磨/藤原 孝幸 中京大学


Current Trends of Facial Image Processing for Industrial Use
Hiroyasu KOSHIMIZU, Takuma FUNAHASHI, Takayuki FUJIWARA Chukyo University
and Jun-ichiro HAYASHI Kagawa University
キーワード 顔研究,顔画像処理,顔メディア,顔ヒューマンインターフェース,似顔絵


1. まえがき
 私たちが常時携帯しているPCの性能は,もはや画像処理装置といってもよく,生産現場の画像検査装置にそのまま使われるようにもなっている。これと画像 入力カメラの多様化・低価格化とがあいまって,マシンビジョンは街や居住空間においても,さり気なく人と共存する時代に突入し始めている。
 かくして,マシンビジョンは人に,とりわけ顔に出会うことになり,そして改めて「顔画像処理」という新しい技術課題を生み,更にその産業応用の範囲を拡 大して新市場の可能性を主張するに至っている。本稿では,このような顔研究のための画像処理の現状,主な実例,これらが開く産業応用の展望について概説す る。

 

 

連載講座 非破壊検査技術の動向

内部きずの新検査技術
   三原  毅 東北大学大学院工学研究科

New Inspection Techniques for Internal Flaw Sizing
Tsuyoshi MIHARA Graduate School of Engineering, Tohoku University
キーワード 維持基準,強度評価,端部エコー法,改良UT法,TOFD法,フェイズドアレイ



1. はじめに
 学生のころ破壊力学の講義で,“材料強度には材料,応力に加えてき裂が重要な意味を持っており,これからはき裂情報を非破壊計測して構造物の強度保証が 可能になる”と教わり感銘を受けた。現在教師として同じ講義をしながら振り返ると,設計を中心として破壊力学は実学として浸透して来たものの,検査で欠陥 を検出しても検査情報から健全性を判断することなく補修・交換が行われ,構造部材の保守に非破壊強度保証が利用されてきたとは言えない。
 しかし昨今の原子力機器の保守に関する騒ぎの過程で,欧米にあって日本に無い制度として,強度に問題の無い“きず”はそのまま使うことを容認する「維持 基準」1),2)が注目され,言わば破壊力学を活用してきずと合理的に付き合うための制度が,我国でもスタートをきる。
 この制度の中核となるのが,表題の内部きず検査技術であり,一般の人を巻き込んだ検査の信頼性への強い社会的要請の中で,内部きずの検査法に求められる “質”が大きく変わりつつある。すなわち,今後は“安全なきず”を許容するため,許容したきずが本当に安全かどうかの判別が,まさに内部きずの非破壊検査 にゆだねられるのである。この問題は原子力機器に留まらず,高度成長期に建設され,経年劣化する時期を迎えながら,新設が困難な全ての構造物・プラントに 共通の問題でもある。
 しかし従来,検査の主目的は“欠陥の有無判別“であり,きずの高精度サイジング手法は非破壊検査の中では必ずしも一般的手法とは位置付けられてこなかっ た。従って,“内部きずの新検査技術”として,まさに今,新しい位置付けを与えられつつある,きずの高精度サイジング技術,特にきず高さ測定法に着目し, 実用されあるいは実用されつつある手法をまとめ概観する。まず,経年化した構造物の強度保証について簡単に触れた後,強度保証技術の中核として非破壊検査 手法に何が求められているのかを概観し,これに応える形で各手法の特徴を概説する。

 

 

論文

ガイド波非軸対称モードの抽出
   林  高弘/池田  隆/西野 秀郎

Extraction of a Non-axisymmetric Mode of Guided Waves
Takahiro HAYASHI*, Takashi IKEDA** and Hideo NISHINO***
Abstract
The guided wave technique has been expected as a very promising technique for rapid long-range inspection of pipeworks. In order to meet practical demands, however, both non-axisymmetric modes and axisymmetric modes should be used based on more elaborate theoretical studies. This paper describes the extraction technique for analyzing a non-axisymmetric mode. The technique is formulated using the orthogonal characteristic of guided wave circumferential modes, and verified experimentally with magnetostrictive sensors that provide very accurate signals with no coupling medium.



1. 緒言
 パイプ,鉄道レールなどの細長い棒状材料表面にハンマーなどで振動を加えると,数メートルから数十メートル先においても,音響信号を得ることができる。 これは棒状材料中を長手方向にまとまって弾性波が伝搬するためである。このような波動伝搬形態はガイド波と呼ばれ,特にパイプなどの長大構造物の高速非破 壊評価を行う手段として近年注目を集めている。
 ガイド波を用いたパイプの非破壊評価に関する理論的研究はGazis1)をはじめ,古くから非常に多くの研究者によって行われてきた。特に1990年代 からはRoseやCawleyらのグループ2)−7)を中心に,非破壊評価に焦点を当てたパイプを伝搬するガイド波の理論的研究とそれらの理論を検証する ための実験的研究が行われるようになった。それらはガイド波の1種であるラム波を用いた平板材料の非破壊評価についての研究実績に基づくものである 8)−10)。さらに2000年代になると英国のGuided Ultrasonic Ltd.(GUL)やPlant Integrity Ltd.(PI),米国Southwest Research Institute (SwRI)などにより,ガイド波を用いたパイプ非破壊検査装置が開発され,現場への導入が図られるようになった11)−13)。それとともに,ガイド波 を用いた非破壊評価法についての様々な問題点が明らかとなってきている。たとえば,曲がり管(エルボ)部分においてガイド波が大きく乱れ,エルボを超えた 部分にある欠陥検出が困難であること,波動伝搬形態が非常に複雑であるためその波形処理も非常に複雑になってしまうこと,欠陥検出分解能が現場の要求を満 たしていないことなどである。
 著者らはこれらの問題を解決するため,数値計算シミュレーションおよび計算結果の可視化を行い,直線パイプ中やエルボにおける波動伝搬形態を明らかにし てきた14)−16)。また欠陥分解能向上のため注目されているガイド波のフォーカシング技術について,詳細な解析を行ってきた17)。この中で,非軸対 称モードの重ね合わせによって表現されたパイプ中のフォーカシングは,Finkらによって提唱された時間反転音響の概念18)を導入すると理解しやすいこ とを示した。また,ガイド波はパイプ中に弾性波のエネルギが封入されているため,円周方向に多数のセンサーを並べることによって,非常によいガイド波制御 が可能であると考えられる。
 このように,従来の直交関数展開理論に基づくモード解析に加え,時間反転音響の概念を導入することによって,ガイド波を利用したパイプの非破壊評価はさ らに大きな潜在能力を持っていることが明らかになった。しかしながら,時間反転音響波を用いる場合には,円周方向に並べられた多数の探触子における励起信 号を正確にパイプ表面に伝達する必要がある。また,多数の探触子で得られた受信波形を理論に基づいて処理するためには,パイプ表面の変位またはひずみを正 確に探触子に伝達する必要がある。すなわち,探触子とパイプのカップリング状態が,ガイド波の制御および解析に大きな影響を与える。磁わい型センサー 19)は,非接触でパイプ中の弾性波励起および受信を可能とするので,このような多数の探触子を用いた高度波形処理には非常に有効であり実用的である。 ニッケル板の装着を必要とするものの,一度パイプ周りに装着すれば,完全に非接触でのガイド波励起および受信が可能である。この磁わい型センサーを用いた 軸対称モードによるパイプの評価法については,SwRIなどから多くの論文が発表されており,長距離の弾性波伝搬については実証されている13)。

 

原稿受付:平成15年6月4日
 名古屋工業大学大学院工学研究科(名古屋市昭和区御器町)Faculty of Engineering, Nagoya Institute of Technology
 (株)シーエックスアールCXR Corporation
 東北大学 大学院工学研究科Faculty of Engineering, Tohoku University

 

ラム波AE解析による高速点衝撃を受けるアクリル板の損傷検出と評価
   田邊 秀憲/水谷 義弘/竹本 幹


EDamage Detection and Evaluation of a Point-Impacted PMMA Plate
by Lamb Mode AE Analysis
Hidenori TANABE*, Yoshihiro MIZUTANI* and Mikio TAKEMOTO*
Abstract

Damage monitoring of impacted materials by Acoustic Emission (AE) is useful for integrity evaluation. The monitoring is, however, generally difficult due to overlapping of AE signals by impact and damage. The authors proposed a new method to monitor crack generation by extracting the fracture-induced AE signals from strong AE signals produced by impact. Here, AE sensors were mounted on two end faces to minimize the effect of impact -induced AE. The impact testing was conducted for a 5mm-thick PMMA plate. Crack initiation was successfully monitored by the proposed method. Crack kinetics (opening speed and volume) was estimated by waveform simulation of the S0-Lamb packet using experimental overall transfer function of the system. The impact force history was also estimated using impact induced AE detected by a sensor on the impact surface.



1. 緒言
 色々な高分子材料のなかでもアクリル(PMMA)は相当の強度を有し,かつ耐紫外線劣化に優れていることから, 輸送機の窓や大型水槽などの構造物に使用されている。 これらの構造物は衝撃によって損傷が発生する場合があり,高い信頼性が要求される構造物では損傷の発生をモニターする必要がある。衝撃によるき裂発生限界 条件はターゲット材料はもとより,拘束条件や飛翔物体の質量,形状などによって変化するのであらかじめ損傷が発生する最大衝撃力や力積を調査する必要もあ る。
 衝撃損傷の発生をモニターする方法としてAcoustic Emission(AE)法があるが,損傷(き裂)によるAE(き裂AEという)と衝撃による大振幅のAE(衝撃AE)が発生するため,損傷の発生を検知 するためにはこれらを区別する必要がある。比較的衝突速度が遅い場合にはき裂AEが衝撃AEからかなり遅れて検出されるために区別できる 1),2),3),4)が,高速衝突(高速飛行物体の衝突)では,小振幅のき裂AEが大振幅の衝撃AE中に埋もれるため,これらを区別することはかなり難 しい。例えば水谷ら5),6)は破壊が発生しない色々な飛翔速度での衝撃AEの特徴量をもとめ,破壊が発生する速度でのAE波形をシミュレーションし,検 出したAEからシミュレーションしたAEを引算処理してき裂AEを抽出するという方法を用いている。この方法では,波形を外挿するための情報を多くの低速 衝撃試験を実施して得なければならいこと,また,波形を正しくシミュレーションすることに難しさがあり,推定結果の信憑性に欠けるという問題があった。ア クリルは通常板材として使用されることが多く,この場合にはAEはラム波(板波)として伝播する(ラム波AEという)がその伝播モードには非対称モード (A0 – mode)と対称モード(S0 – mode)がある。板が外表面から衝撃を受けた場合には大振幅のA0 – mode波が衝撃AEとして発生するが,前述した水谷らの実験では板表面にAEセンサを設置したため,大振幅のA0 – mode波を検出せざるを得なかった。A0 – mode波を検出しにくい箇所にAEセンサを取付ければ,振幅の小さいき裂AEを検出できる可能性がある。そこで本研究ではA0 – mode波の振幅が板中心部でゼロとなる性質を利用して小型AEセンサを端面の中心部に設置してき裂AEを検出し,キネティックス(き裂体積や開口時間) を推定することを試みた。ラム波AEの原波形解析には特別な手法が必要となるが,佐藤ら1)はS0 – modeの振幅が音源の板厚方向位置によっては変化しないことを利用して,検出AEのS0 – mode成分と実験的に求めた伝達関数7),8)からき裂の体積や開口時間の推定を行っている。本研究でもき裂AEのS0 – mode成分からき裂のキネティックスを推定することを試みた。
 最後にき裂が発生した時の衝撃力履歴を詳細に調べるために板表面にとりつけたセンサで検出した衝撃AEから衝撃力履歴の推定を試みた。水谷ら 5),9),10)は,推定した衝撃力履歴関数と実験的応答関数から得られるシミュレーション波形を実測波形とマッチングさせることによって衝撃力履歴を 求めたが,本研究でもこの手法を用いて損傷が発生した時の最大衝撃力と履歴を推定した。

原稿受付:平成15年6月23日
 青山学院大学大学院理工学研究科(神奈川県相模原市淵野辺5-10-5)Graduate School of Science and Engineering, Aoyama Gakuin University

 

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