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機関誌

2020年11月号バックナンバー

2020年11月1日更新

巻頭言

「最近の磁粉・浸透・目視試験の技術動向」特集号刊行にあたって
堀 充孝

 磁粉探傷試験・浸透探傷試験・目視試験は,表面探傷に関わる試験として,鉄鋼・自動車・航空・鉄道などの産業界をはじめ,化学,発電などのプラント設備,インフラストラクチャのメンテナンス等において検査手法の一つとして重要な位置づけとなっています。磁粉・浸透・目視試験は,当協会の学術部門において一つの部門として構成され,表面探傷をテーマに電磁気応用部門,漏れ試験部門とともに合同で活動を行っています。磁粉探傷試験の国内規格としては,ISO 9934 に準拠してJIS Z2320 が2017 年に改定されました。磁粉探傷試験に用いる励磁電流は,正弦波を基本として規格化されていますが,産業界で用いる歪み波へも対応するため,波高率(波高値を実効値で除した割合)が導入されるようになりました。励磁電流が歪み波である場合,磁粉探傷性能にどのような影響を及ぼすのか評価していく必要があり,磁粉探傷試験研究委員会を設置しています。2017 年のJIS 改定に伴い広く使用されている蛍光磁粉の総合的な特性評価方法が明記され,磁粉の評価方法が標準化されています。浸透探傷試験の国内規格は,JIS Z 2343 がISO 3452 に準拠して2017 年に改定され,最近ではRoHS2 などの化学物質規制への対応,洗浄廃水量・廃棄物を削減するなど環境に優しい探傷システムの研究開発が行われています。磁粉探傷・浸透探傷試験において,その指示模様を目視で観察するため定量的な判断ができないなどの課題があり,CCD カメラ等で指示模様を観察し,画像処理を採用して定量的に評価をすることへのニーズは根強く存在しています。探傷に使用されるブラックライトは,UV LED を採用した製品が主流となり,その特性評価についてASTM 規格では詳細に示されるようになっています。
 今回,上述のような状況において磁粉・浸透・目視試験における最近の技術動向として6 件の解説を特集号にまとめました。磁粉探傷試験においては,ブラックライト,磁粉,磁化の状態をより正確に解析するための非線形解析法,解析と実機の検証を含め新しい磁化方法の提案,検査の自動化,上述した磁粉探傷試験研究委員会の活動報告まで,磁粉探傷試験における最新の動向を幅広く解説しています。浸透探傷試験においては,規格の歴史から最新の技術動向までを分かりやすく解説をしています。目視試験に関しては,複数台のカメラを使用して効率良く,短時間に表面のきずを検査できる最新の手法について解説をしています。
 この特集号が非破壊検査に関わる皆様にとって少しでも役に立つことを願うとともに,磁粉・浸透・目視試験において新たな視点でこの検査法を見直す機会になれば幸いです。
 最後に,本特集号にご協力を頂いた関係各位に厚く感謝申し上げます。

 

解説

最近の磁粉・浸透・目視試験の技術動向

浸透探傷試験を取り巻く環境と浸透探傷技術の最新の動向
栄進化学(株) 相澤栄三、相村英行

The Environment Surrounding Penetrant Testing and Recent Trends
of the Penetrant Testing Technique

Eishin Kagaku Co., Ltd. Eizou AIZAWA and Hideyuki AIMURA

キーワード:浸透探傷試験,JIS Z 2343,紫外線照射装置,環境保全,労働安全衛生法,リスクアセスメント

はじめに
鉄,非鉄金属,非金属を問わず,産業界で素材(圧延品,鋳造品,鍛造品,セラミックス等),溶接部,自動車,航空機,機械部品,構造物などの製造時検査及び保守検査に広く使用されている浸透探傷試験に関して,JIS 規格等の動向,観察用光源及び浸透探傷技術の動向,最近の浸透探傷試験・探傷剤等を取り巻く環境と課題等について紹介する。

 

金属部品の量産ラインにおける全数外観検査技術
(株)SCREEN ホールディングス 三浦広平

Visual Inspection Technologies for Every Single Metal Component
on a Multi-production Line

SCREEN Holdings Co., Ltd. Kohei MIURA

キーワード:表面きず,きずの位置,画像処理,自動車,鋳・鍛造品,品質管理

はじめに
 本稿では,当社の販売する自動外観検査装置Lulimo シリーズ1)と本製品を支える主要な技術について解説する。本製品は車載向けの鋳・鍛造部品といった金属部品などを検査対象とする自動外観検査装置である。外観検査における欠陥見逃しゼロ,量産で求められる短いサイクルタイムを達成していることが特長であり,量産ラインで全数を検査できる仕様となっている。本製品を支える主要な技術として,次の二つの技術について解説する。第一に,サイクルタイム短縮に寄与する技術である立体的な部品の表面きずの深さを捉える良否判定技術について解説し,続いて比較検査において課題となる部品公差を吸収した検査を可能とする画像処理技術について解説する2)。
 図1 に示す当社自動外観検査装置の外観からも分かるように当社製品の特長は撮像と検査だけではない。本製品には検査対象の投入口がありそこから撮像部へ搬送する機構がある。この搬送により撮像姿勢を制御することで立体的な形状をした検査対象を一定の姿勢で撮像可能としている。姿勢によっては見え方が変化し検査結果が変化する現象に対応するためである。本製品では撮像と検査だけでなく,すべての検査部品を同じように検査するために,搬送と姿勢制御,撮像,検査,検査結果に応じた排出までを一貫して行う。

 

最近の磁粉探傷試験の動向−磁粉・特性評価から探傷の自動化まで−
マークテック(株)一本哲男,日本電磁測器(株)川澄直人、永田太祐

Recent Trend in Magnetic Particle Testing
− From Magnetic Particle Property Evaluation to Flaw Detection Automation −

MARKTEC Corporation Tetsuo ICHIMOTO
Nihon Denji Sokki Co., Ltd. Naoto KAWASUMI and Daisuke NAGATA

キーワード:磁粉探傷試験,磁粉,ブラックライト,UVLED,画像処理

はじめに
 磁粉探傷試験は,ISO 9934-1:2016,-2:2015,-3:2015 に対応した形でJIS Z 2320-1,-2,-3「非破壊試験−磁粉探傷試験,第1 部:一般通則,第2 部:検出媒体,第3 部:装置」が2017 年に改定され実施されている。磁粉探傷試験は古くから用いられている技術ではあるが,検査の自動化においては最終検査として用いられる磁粉探傷試験では慎重な対応が求められている。このような状況の中,自動車・鉄鋼業界においては積極的に生産ラインに蛍光湿式磁粉を用い,UVLED を用いて検査の自動化を進める動きがある。磁粉探傷試験を行う上で,試験性能を左右する要素として磁粉・ブラックライト・磁化条件は非常に重要である。磁粉についてはJIS Z 2320-2:2017 において,適用特性項目の検出媒体に2007 年度版では示されていなかった湿式用磁粉と分散剤が新たに明記され,製造業者は,本規格に基づき製品検査ができるようになってきた。そこで今回,磁粉の評価法と評価結果について解説をする。近年,非破壊検査業界,その他産業界では,水銀灯や高圧放電タイプからLED を用いるブラックライトに置き換わるようになってきた。JIS Z 2323:2017「浸透探傷試験及び磁粉探傷試験−観察条件」においては,LED タイプのブラックライトにおける注意点も明記されるようになり,ASTM E 3022「浸透探傷試験及び磁粉探傷試験で使用するLED UV-A ランプの発光特性測定方法と要求事項」においてはLED の特性を考慮した詳細な要求事項が規定されている。国内においてもASTM E 3022 における要求事項を採用される場合があり,最近のLED タイプのブラックライトの評価法について詳述する。磁粉,LED タイプのブラックライトの性能評価が明確になり品質が向上する中,検査の自動化も進められており磁粉探傷試験における検査の自動化について,最近の動向を紹介することとした。

 

回転磁界を用いた磁粉探傷試験における回転磁界の広範囲化と均一化の検討
大阪産業大学 福岡克弘

Consideration of Uniform Rotating Magnetic Field in Wide Area for Magnetic
Particle Testing using Rotating Magnetic Field

Osaka Sangyo University Katsuhiro FUKUOKA

キーワード:磁粉探傷試験(MT),回転磁界,分割コイル型磁化器,数値解析,有限要素法

はじめに
 磁粉探傷試験1)では,磁束がき裂の長手方向に対して直交して分布する場合に,き裂からの漏洩磁束が大きくなり,鮮明な磁粉模様が現れる。しかし,検査対象物に存在するき裂の向きは不明であるため,極間法1)による磁粉探傷試験においては,き裂に対して直交した磁束を発生させるために,磁化器の向きを変えて,同一箇所を複数回探傷する必要があり,検査の効率が悪くなっている。さらに,被検査箇所が複雑である場合,磁化器を適切に配置することができず,探傷されるべきき裂が見落とされる可能性もあり,信頼性においても問題点がある。そこで,一度の試験で全方向のき裂が探傷でき,かつき裂の見落としのない精度の高い検査を実現するため,回転磁界2),3)を用いた磁粉探傷試験が検討されている。
 我々のグループでは,3 つの磁極に三相交流電流を印加し,回転磁界を発生させる回転磁界型磁化器(3 極コイル)に着目し,有限要素法を用いた数値解析と三次元磁束密度計測により,その回転磁界分布を評価してきた4)。すべての方向のき裂を精度よくかつ高効率に探傷するためには,全方向に均一な回転磁界分布を,広範囲に得ることが重要となる。しかし,これまでの研究において,3 極コイルの磁化器中央では均一な回転磁界分布となるものの,磁化器中央から離れた領域においては回転磁界が不均一となり,探傷領域として利用可能な範囲は狭いことを確認している。
 そこで,広範囲に均一な回転磁界分布が得られる磁粉探傷磁化装置の開発を目的とし,磁化器の各磁極を分割した分割コイル型磁化器5)(分割コイル)を新しく提案した。有限要素法解析により回転磁束密度分布を評価し,分割したコイルの最適な配置角度に関して検討した。さらに,磁極数を増やしたマルチコイル型磁化器6)(マルチコイル)を提案し,その特性を評価した。以上の取り組みについて,その研究内容を解説する。

 

磁粉探傷試験法での直流磁化を支援する非線形電磁界解析
−増分透磁率を考慮した電磁界解析−
大分大学 根木健志、大隣徳彰、後藤雄治

Non-linear Electromagnetic Field Analysis Supporting DC Magnetization
in Magnetic Particle Testing
− Electromagnetic Field Analysis Considering Incremental Permeability −

Oita University Takeshi NEKI, Noriaki OTONARI and Yuji GOTOH

キーワード:プレイモデル,マイナーループ,3次元有限要素法,磁粉探傷試験,軸通電法

はじめに
 強磁性体を検査対象とした電磁非破壊検査法の一つに磁粉探傷試験法がある。この手法は検査対象を強磁性体とし,ある方向に強く磁化する。もしその表面に磁束の流れを妨げる方向にき裂等が存在すると,磁束の一部はき裂近傍で材料表面から空間に漏洩する。この状態で磁粉液を流すと,き裂近傍の漏洩磁束に磁粉が吸着し模様を形成するため,き裂部の推定が行えるといった試験法である。この試験での磁化法の一つに軸通電法がある。これは検査対象である強磁性体に直接大電流を流し,その内部に磁束を発生させる方法である。この軸通電法に使用する励磁電流には,交流磁化電流と直流磁化電流があり,前者は商用周波数を用いた正弦波交流電流波形を使用し,後者は単相半波や単相全波整流波形における励磁電流が用いられている。
 単相半波整流波や単相全波整流波等の励磁電流波形で強磁性体を磁化した場合,その磁化特性はマイナーループを描くため,漏洩磁束や磁束密度の解明には,検査対象である強磁性体のヒステリシスやマイナーループ磁化特性を考慮する必要がある。一方,強磁性体を対象とした電磁非破壊検査法の電磁界解析において,有限要素法は汎用性があることや,磁気特性の非線形性を考慮することができるなどの点において優れた解析法の一つである。有限要素法による電磁界解析においてヒステリシス特性等の非線形磁気特性のモデリング法としてプレイモデル法1)−4)が近年注目されている。そこで本稿ではプレイモデルを用い

 

励磁電流波形の磁粉探傷性能への影響について
日本電磁測器(株)堀 充孝,東北大学 橋本光男
日本製鉄(株)鈴間俊之,大分大学 後藤雄治

Influence of Excitation Current Waveform on Flaw Detection Performance in MT
Nihon Denji Sokki Co., Ltd. Michitaka HORI
Tohoku University Mitsuo HASHIMOTO
Nippon Steel Corp. Toshiyuki SUZUMA
Oita University Yuji GOTOH

キーワード:磁気探傷試験,JIS,磁化,励磁電流,波高率,実効値,波高値,磁粉インジケーション

はじめに
 磁気探傷試験は,JIS Z 2320,ISO 9934,ASTM E 1444 等により規定されている。産業界において自動車,航空機,鉄鋼,鉄道,プラント溶接部など多くの分野の探傷・検査に適用されている。磁気探傷では,適正な試験結果を得るために被検査物の寸法・形状に応じた適切な強度の磁界を与える必要があり,その強度は通常,被検査物を磁化するための励磁電流値により制御される。この制御には,古くからスライドトランス(可変交流変圧器)により入力電圧を変化させて正弦波の振幅を制御する方式があるが,電力用半導体であるサイリスタなどを用いた位相制御方式が採用されるようになっている。位相制御方式は正弦波1 周期中の電圧ON 時間を制御することにより,励磁電流の大きさを変化させる手法である。この方式による電流波形は歪んだ波形(歪み波)となり,正弦波のように波高値と実効値の関係が一意ではなくなる。磁気探傷試験の規格であるJIS Z 2320-2:2017 非破壊試験−磁粉探傷試験−第1 部一般事項1)では正弦波電流を基本として規定され,歪み波については波高率(波高値を実効値で除した割合)を考慮することの重要性を指摘している。そこで,歪み波の波高率の違いが探傷結果に及ぼす影響について検討を行い,表面3 部門研究集会等で報告・検討を行ってきた2)。この取り組みを体系的に評価していくことが有益と考え,磁粉探傷研究委員会を設置し,励磁電流の波形が探傷性能に与える影響について実験・解析を進めている3),4)。今回,JIS Z2320-1:2017 に規定されている磁化について,産業界で使用される磁化電源の種類や電流制御方式,波形の歪みが探傷性能に及ぼす影響についての検討など,これまでの経過と今後実施していく内容について報告する。

 

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