logo

機関誌

2021年2月号バックナンバー

2021年2月1日更新

巻頭言

「非破壊検査分野でのICT およびAI の活用」特集号刊行にあたって
中畑 和之

 モノのインターネット(IoT)の普及に伴い,多種多様なデータを大量にセンシングできる時代がきています。さらには,そのビッグデータに基づいて,問題解決を支援する人工知能(AI)の導入も進んでいます。また,超並列計算を駆使したハイパフォーマンスコンピューティングによって,デジタルツインを活用してセンシングデータと融合するデータ同化も研究が進んでいます。これらセンシング,コンピューティング,AI 等は,情報通信技術(ICT)の発展と相まって,デジタルトランスメーション(DX)の波として各産業に押し寄せています。非破壊検査業界も例外ではありません。
 これを受けて,2018 年度から2019 年度にかけて,UT 部門では「ICT を活用した超音波による非破壊評価技術研究委員会(以下ICT 活用委員会)」を開催しました。私がICT 活用委員会の委員長を仰せつかり,小原良和氏(東北大学)と古川 敬氏(発電設備技術検査協会)に幹事をご担当頂きました。総勢25 名の委員と3 名のオブザーバーで委員会を開催しました。ICT 活用委員会では,国内外のICT技術および情報処理に関連する新たな技術を調査し,各委員が報告を行いました。調査内容は,AI や機械学習を応用した超音波計測検査の事例・技術調査,IoT/無線センシングを応用した超音波計測事例・技術調査,超音波計測に関する最新シミュレーション・データ同化の動向調査です。本特集では,ICT 活用委員会での調査内容や,委員らによる最新の研究・開発事例をご紹介します。
 ICT 活用委員会では,AI やビッグデータ処理に関するの国内の研究および事例について外部有識者に講演を依頼し,理解を深めると共に情報共有を図りました。具体的には,2019 年3 月に超音波計測に関する萌芽技術研究会(UT 萌芽研究会)とAE 部門と合同でIoT,ICT,AI に関する非破壊検査のためのシンポジウムを開催しました。さらに,2019 年6 月には非破壊検査総合シンポジウムにて,UT部門およびUT 萌芽研究会と合同で,「ICT を活用した超音波NDT/NDE の展開」を企画し,AI や機械学習の最前線で活躍する講師を招いて,ご発表頂きました。このように,外部の動向を掘り下げて調査し,活発な議論がなされましたが,委員会活動の中で課題も見えてきました。委員会では,非破壊検査データを活用してAI や機械学習のラウンドロビンテストも企画したのですが,テストデータ不足で叶いませんでした。たとえ大昔のデータであっても,それを開示・共有する仕組みが非破壊検査業界にはなく,また,残念なことに,委員から無理してご提供頂いたデータのフォーマットがバラバラで活用することが困難でした。データの相互運用は,NDE 4.0(本特集でも取り上げます)を推進する上でもきっと議論になるでしょう。アメリカ非破壊検査協会(ASNT)やドイツ非破壊検査協会(DGZfP)では,既にデータの利活用について議論が始まっています。日本非破壊検査協会でも専門的な委員会を発足し,対応を協議するそうです。
 本特集では,5 件の解説記事を掲載しています。愛媛大学の一色正晴氏には「AI フレームワークを用いた画像ベースの異常検知手法の紹介」を,群馬大学の斎藤隆泰氏には「シミュレーションを活用したデジタルツイン非破壊評価に対する展望」を,徳島大学の西野秀郎氏には「AI を援用したガイド波計測による減肉定量の試み」を,(一財)発電設備技術検査協会の古川 敬氏には「超音波探傷試験の実務へのICT の活用」を,それぞれ執筆して頂きました。ご多忙の中,特集記事にご寄稿頂いた皆様,編集にご協力頂いた関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。私も僭越ながらNDE 4.0 とDICONDE(ダイコンデ)について書かせて頂きました。本特集を読まれた方々が,ICT 技術やAI 等の先進テクノロジーにご興味を持って頂き,非破壊検査へのDX の推進の一助になれば幸いです。

 

解説

非破壊検査分野でのICT およびAI の活用

AI フレームワークを用いた画像ベースの異常検知手法の紹介
愛媛大学 一色 正晴

An Introduction to Image-based Anomaly Detection using AI Framework
Ehime University Masaharu ISSHIKI

キーワード:AI フレームワーク,深層学習,異常検知,オートエンコーダ,不均衡データ

はじめに
 一般画像認識(画像に写っているものが何であるかをコンピュータに答えさせる問題)は,2000 年代に入っても難しい問題であった。ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge(ILSVRC)1)は,学習データ120 万枚,テストデータ10 万枚のImageNet という大規模画像データセットを1000クラスに分類するコンペティションであり,2012 年以前はいかに画像から重要な特徴を抽出できるかという特徴抽出器を研究者が提案していた。2012 年に深層学習ベースの手法が昨年度までの精度を大きく超えて優勝したため,深層学習が注目され第3 次AI ブームのきっかけになったと言われている。
 ILSVRC 分類タスクを人間が分類した場合のエラー率が5.1%であったことが報告されており,2015 年以降はそれより低いエラー率の深層学習ネットワークが登場している2)。このように,一般画像認識に対しても高精度を達成できることに着目され,画像認識だけでなく,音声認識や翻訳などの自然言語処理分野,医療分野や産業用ロボット分野など,様々な分野に応用されつつある。非破壊検査の分野においても,コンクリートのひび割れ検出など,異常検知に用いられている。
 しかしながら,情報技術をそれ以外の分野へ応用する場合の問題点の一つとして,プログラミングが必要であるなど,分野外の研究者が情報技術を活用することの難しさが挙げられる。例えば,最先端の論文を読み解いてプログラムに落とし込むことは情報を専門とする研究者でも難しく,分野外の研究者がPython などのプログラミング言語を用いて一から深層学習を実装することは容易ではない。
 この問題点を解決する一つの方法として,AI フレームワークを利用することが挙げられる。AI フレームワークとは,深層学習などを行うために必要な機能を「枠組み」として提供し,開発工程を大幅に短縮できるツールである。代表的なAIフレームワークとしては,TensorFlow3)やPyTorch4)などが挙げられ,オープンソースでありライセンス内で自由に利用することができる。さらに,ネットワーク構成やハイパーパラメータと呼ばれる人間が決定すべきパラメータを探索することが可能なOptuna5)や,画像さえ用意すればネットワーク構成から学習まで自動で行われるAutoML Vision6)など,ほとんどプログラミングすることなく深層学習を実装することができる環境が整いつつある。また,計算機環境としては並列処理が可能なGPU を搭載したPC が必要になるが,GoogleColaboratory7)等,時間制限はあるものの,クラウド上でGPU を用いた計算が可能な環境も使用することができる。
 本稿では,これらのAI フレームワークを使用して画像ベースの異常検知を行う方法について紹介する。

 

AI を援用したガイド波計測による減肉定量の試み
徳島大学 西野 秀郎

Quantitative Evaluation of Defect Depth using Guided Wave Measurements
with Artificial Intelligence

Tokushima University Hideo NISHINO

キーワード:超音波,ガイド波,AI,ニューラルネットワーク,機械学習,深層学習

概要
 ガイド波測定で得られる周波数別の減肉反射率をニューラルネットワーク(NN)の入力層に与え,出力層を減肉深さとする深層NN を構築試作してみました。まだまだ研究の途についたばかりのものですので,読み物としてみていただければ幸いです。減肉定量性に問題を持つガイド波計測に,何か新しい風が入れば良いなと思っています。手法を評価するにはデータが少ない状況ですが,興味深く期待を抱かせる結果を示せていると思っています。

はじめに
 配管を伝搬するガイド波は,減肉位置を効率良く推定できる優れた特長を有しています。これは応用上特筆すべき利点です。しかしながら減肉位置が分かるとなると次には減肉深さを知りたくなるのが人情で,いや,最初から減肉位置の同定だけでは使えないのだと言われることが大半で,ガイド波計測で減肉深さの定量を是非実施したく思っています。
 本稿では減肉深さの定量評価を人工知能(AI)でどこまでできるのかを試してみた一例を報告します。AI とはすなわち容易に手に入る情報(測定値)から,知りたい情報(減肉深さ)に変換してくれる道具であると認識しています。具体的には深層ニューラルネットワーク(NN)を構築しました。NN には大量の学習データ(Big data)が必須で,これがないと研究は入り口で頓挫します。どうしたものかと考えて,有限要素法FEM 1)と数学モデル2),3)でBig data を作ることを考えました。ここで示すNN の特長の一つはBig data を計算機で作ったということになります。もう一つの特長は,NN の入力を周波数別の反射率にしたことです。先にNN の入力層には容易に手に入る情報を,と申し上げたました。ただやはり何でも良いということではなくて,これまでの知見を基に周波数別の反射率を用いました。この点は2 章に詳しく述べました。
 さて,AI とかデータサイエンスの専門家ではない私が,減肉の定量評価ができなくて困ってAI に助けを求めて飛びついた結果を以下に示します。第2 章にはAI の導入に至るまでの背景を,第3 章でNN の結果を,第4 章はあとがきです。本稿は,既報の口頭発表の内容4)を基に再構成させていただきました。

 

シミュレーションを活用したデジタルツイン非破壊評価に対する展望
群馬大学 斎藤 隆泰  石黒明日海  蓑輪 里歩

Perspective of Digital Twin Non-Destructive Evaluation Utilizing Simulation
Gunma University Takahiro SAITOH, Asumi ISHIGURO and Riho MINOWA

キーワード:超音波非破壊評価,境界要素法,有限要素法,レーザ超音波可視化試験,人工知能,デジタルツイン

はじめに
 近年,NDE 4.0 1) が提唱され, 人工知能(AI:Artificial Inteligence)や高性能計算(HPC:High Performance Computing)2),拡張現実(AR:Augmented Reality)3)等の情報化技術を積極的に活用し,非破壊評価( NDE:Non-Destructive Evaluation)を効率的に,かつ高度に行う取り組みに注目が集まっている。20 年程前は,いずれの用語も社会一般でさほど使われていなかったが,近年では,これらの用語は一般化され,少なくとも学術の世界では当たり前のように耳にすることとなった。その理由は,やはり便利であるから普及し,工学の様々な場面での利用価値が浸透してきたためであろう。実際,AIの基礎は1990 年代に情報科学の分野で議論されているが,その当時にAI という言葉は一般的にならなかった。いずれにせよ,これらの用語が一般化された理由は,計算機(一般的なパソコンを含む)の発展が大きい。例えば,2000 年頃の一般家庭用のPC は,メインメモリが128 MB,ハードディスク容量が10 GB 強である。メインメモリが128MB では,特別な工夫を施さなければ,複雑な数値シミュレーションや,3 次元波動解析は到底できない。同様に,AI に学習させるための必要十分な画像データや,現場でのセンシング等で得られる様々な物理データを保管することは難しい。これらの問題を少しずつクリアしたことで,NDE 4.0 に関する取り組みが可能となりつつある状態になってきた。
 さて,第一著者の専門は応用力学や計算力学,超音波非破壊評価であるので,以下では,数ある非破壊評価法の中の,超音波非破壊評価に焦点を当てることとする。計算力学の分野では,弾性波動(超音波は固体中で弾性波の性質を示す)解析を行う際,差分法,有限要素法,境界要素法が主に使われている。超音波シミュレーションの究極の目標が,現実の波動現象をそっくりそのまま再現することであれば,言い換えると,実空間に存在する検査対象を計算機という仮想空間で構築し,その仮想空間上で超音波伝搬挙動を再現するという目標に帰着される。一方,実空間と仮想空間を相互に関連付けながら,互いの空間で得られる有益な情報を設計,生産,維持管理等,産業の様々な分野で生かす取り組みは,デジタルツイン4)と呼ばれ注目を集めている。このデジタルツインの概念は,当然,NDE 4.0 に関係している。デジタルツインを超音波非破壊評価に生かそうと考えれば,その成功の鍵を握る一つは,超音波シミュレーションの高度化である。超音波非破壊評価を対象としたシミュレーションは,現在までその高精度化・高度化を図りながら,積極的に利用されてきた。例えば,林5)はガイド波の計算に有限要素法を応用している。また,中畑6)は,差分法の一種である動弾性有限積分法を超音波シミュレーションに応用している。一方,斎藤7)は,CFRP のような音響異方性材料中の超音波伝搬シミュレーションに境界要素法を応用している。このような超音波伝搬自体のシミュレーションは,時として順解析と呼ばれる。他方,超音波非破壊評価では,欠陥の検出が最終目的8)となることから,これら数値シミュレーション手法を欠陥を同定する逆問題に応用する研究も行われている。このような逆問題の数値シミュレーションは,順解析に対応し,逆解析と呼ばれる。逆解析手法も,現場で最も広く用いられている開口合成法9)をはじめ,逆散乱解析法10)等,様々な手法の開発が進んでいる。
 さて,このような順解析,逆解析に用いる手法は,いずれの手法も得手不得手があり,現在でもその高度化が進んでいるが,当然,デジタルツインと相性の良さそうな方法もあるだろう。そこで,本稿では,著者らが最近取り組んでいる研究の中で,デジタルツイン非破壊評価に相性が良さそうなシミュレーション手法等について述べるとともに,数値シミュレーションの視点から見たデジタルツインの展望について検討する。
 なお,以下で登場する数値シミュレーション手法や,解析結果等の詳細は,誌面の都合上,要点のみの説明とし,必要に応じて文献等を参照されたい。

 

超音波探傷試験の実務へのICT の活用
(一財)発電設備技術検査協会 古川  敬

Application of Information and Communication Technology to UT Practice
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Takashi FURUKAWA

キーワード:超音波探傷試験,溶接部,自動探傷,遠隔,訓練

はじめに
 情報通信技術(Information and communication technology,以下,ICT と呼ぶ)は言うまでもなく様々な産業分野で活用されており,令和2 年版総務省情報通信白書には,農業,インフラ・建設分野,医療等分野,製造業,教育分野,安心・安全分野,エンターテインメント・観光分野,モビリティ分野について取り組み状況がまとめられている1)。ICT の非破壊検査分野への導入促進を目的の一つとして,(一社)日本非破壊検査協会超音波部門でも本特集の通り「ICT を活用した超音波による非破壊評価技術研究委員会」が設置され,2018年度から2 年間,ICT 及び関連する技術の調査や非破壊試験に展開する上での課題等が議論されてきた。
 一方,2020 年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により国内外で人の移動や交流が制限され2),2020 年12月現在でも対策が継続されている3)。各産業分野でも対策方法の一つとして,ICT を活用した業務継続が取り組まれている4)。
 試験・検査に関係する分野でも新型コロナウイルス感染症対策に関連してICT の活用に関心が高まっており,ICT を活用した検査が行われつつある5)−9)。本稿では,検査へのICT活用の動向を紹介するとともに,超音波探傷試験(以下,UTと呼ぶ)の実務へのICT の活用事例を紹介し,その適用性を考察する。

 

NDE 4.0 の概念と動向−デジタライゼーションのためのDICONDE −
愛媛大学 中畑 和之

NDE 4.0 Concepts and Trends − DICONDE for Digitalization −
Ehime University Kazuyuki NAKAHATA

キーワード:NDE 4.0,デジタライゼーション(Digitalization),ダイコンデ(DICONDE)

はじめに
 モノのインターネット(Internet of Things:IoT)の普及に伴い,多種多様なデータを大量にセンシングできる時代が到来した。そのビッグデータに基づいて,人間の判断や問題解決を支援する人工知能(Artificial Intelligence:AI)の導入も進みつつある。また,超並列計算を駆使したハイパフォーマンスコンピューティング(High Performance Computing:HPC)を活用し,それをセンシングデータと融合するデータ同化手法1)が気象予報や災害予測等で用いられている。このセンシング,HPC,AI 等は,情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)の発展と相まって,デジタルトランスメーション(DX)として各産業に押し寄せている。非破壊検査業界におけるこれらの動向を調査し,技術展開を図るために2018 ~ 2019 年度に「ICT を活用した超音波による非破壊評価技術研究委員会(以下,ICT 活用委員会)」が開催された。私はこの委員会の委員長を仰せつかったのだが,そこで得られた見聞は,非破壊検査の現場では,相互に交換しない膨大な量の異種データを有し,それを限られた範囲で処理しているという現状である。DX を効果的に実行するために,非破壊検査全体でデジタルデータの標準規格を整備して運用する必要があると強く意識した。現状ではデータのデジタル化(デジタイゼーション,Digitization)は現場でも普及しているので,今後はその利活用(デジタライゼーション,Digitalization)に結びつけることがキーとなる。
 さて,ドイツではIndustry 4.0 を掲げ,生産の自動化・省力化・ネットワーク化を企業に推進し,ドイツの製造システムを標準化して世界に輸出している。Industry 4.0 を模倣して,ドイツの研究者ら2)はNDE 4.0 なるものを提唱し,これを世界的に広めようとする動きが加速している。2020 年7 月に発刊されたアメリカ非破壊検査協会(ASNT)の機関誌Materials Evaluation(Vol.78, No.7) では,NDE 4.0 の特集が組まれ,Singh がその巻頭で次のように述べている3)。「すべての産業部門がIndustry 4.0 に突入する。非破壊検査業界においても,品質と安全保証のあらゆる側面で機械の役割が増加するため,新しい考え方に移行しなければならない。技術,応用,教育・訓練,認証において大幅な変更を受け入れる必要がある」と。また,同特集では,NDE 4.0 を提唱したMeynedorf らがNDE 4.0のコンセプトや今後の可能性を述べている4)。さらに,VranaはNDE 4.0 の導入による価値創出や,データ交換のための具体的な基幹技術について述べている5)。NDE 4.0 の導入において非破壊検査員の役割はどのようになると予想されるのか,また,現場へのICT の導入事例やAI の適用に関する記事もあり,非常に興味深い。また,Singh はInnovation Management System に関する国際規格(ISO 56000 シリーズ)にも言及しており,ISO によってNDE 4.0 によるイノベーションが加速することを示唆している。
 本稿では,この特集号に掲載された記事の内容を引用しながら,前半でNDE 4.0 のコンセプトを簡単に説明する。NDE4.0 が普及するには上述のようにデジタイゼーションからデジタライゼーションへの移行が不可欠である。このデジタライゼーションに必要なインターフェースであるDICONDE(ダイコンデ)6)を後半で紹介する。DICONDE は,非破壊検査の機器ベンダーとユーザが画像データを共有するために,米国試験材料協会(ASTM International)が定めている規格である。DICONDE は,ISO 12052:2017 として認められているDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)7)から派生したものである。従って,データ1 つ1 つに番号を付けたタグなどは,DICOM 規格と併用される。DICONDE には,デジタル放射線写真(E 2699-20),超音波(E 2663-14),コンピュータ放射線断層撮影(E 2767-13),渦流探傷(E 2934-14)などが用意され,非破壊検査用の装置を使うことを想定してDICOM 規格に準えて策定されたものである(E **** – **はASTM Int. の定める識別番号- バージョン)。モダリティという単語は,医療では機器の種類を表すものであり,非破壊検査に置き換えれば“検査装置”に相当する。また,これら非破壊検査データを通信するため規格(E 2339-15)や,通信によって交換したデータを利用する相互運用性(E 3147-18)についても策定されている。

 

論文

加振レーダ法によるRC 床版の水平ひび割れ検知への適用
三輪空司,清水俊秀,鈴木 真,鎌田敏郎

Detection of Horizontal Cracks in RC Deck Slabs based on the Vibro-radar Method
Takashi MIWA, Toshihide SHIMIZU, Shin SUZUKI and Toshiro KAMADA

Abstract
It is well known that damaged RC deck slabs sometimes yield large horizontal cracks along mesh reinforced bars. As a repairing technique, the increasing thickness technique of deck slabs has often been applied to the damaged RC deck slabs, which can delay the degradation progress of deck slabs. However, the re-degradation of the repaired RC deck slabs is becoming apparent in recent years.
In this paper, the vibro-radar method was used to detect a horizontal crack in deck slabs which can non-destructively estimate the vibration displacement of the rebar forced to vibrate by the excitation coil on the concrete surface. Through experimental results, it is clear that a RC test piece with an imitated crack increases in vibration displacement by 30% comparing to that without any defect.
This suggests that the vibration displacement of a rebar depends on the adhesion of a rebar to concrete.

Key Words:Non-destructive testing, Concrete, Electromagnetic radar, Coil, Crack

緒言
 高度経済成長期に建設された鉄筋コンクリート(RC)構造物の多くが耐用年数を迎え,今後急速に老朽化することが懸念されている。特に,コンクリート道路橋のRC 床版部は輪荷重等によるひび割れへの雨水の混入等により,鉄筋が腐食し,隣接する鉄筋間のひび割れが結合すると,水平方向への大規模な水平ひび割れが発生し問題となってきた。この対策として,劣化した既設RC 床版の上に増厚床版を敷設することで,既設床版の劣化の進行を抑制する上面増厚工法が多く用いられてきた。しかし,近年,輪荷重等による増厚床版の経年劣化により,Fig.1 のように既設床版と増厚床版の間に土砂化等による脆弱部が形成されると,透水性が高まり,既設床版が再劣化する事象が顕在化している1)。既設RC 床版の水平ひび割れの検知には表面からの目視による検出は困難であり,非破壊的な手法として,衝撃弾性波法2),電磁パルス法,弾性波トモグラフィ法等が利用されてきた。これらは弾性波がひび割れを通過できずに回り込むことにより,弾性波の伝搬速度や伝搬エネルギーが低下することを利用している。しかし,既設床版と増厚床版間の脆弱層の空隙の存在は,増厚床版上面から既設床版内部に脆弱層を通過して弾性波を伝搬しにくくし,再劣化した既設床版内を弾性波により非破壊的に検査することは技術的に難しい場合がある。一方,電磁波はひび割れ等の極薄い空気層を透過しやすく,脆弱層内の空隙等の影響を受けにくいため電磁波レーダ法は既設床版内の鉄筋計測には適している。しかし,ごく薄い空気層での反射は小さいため,鉄筋周囲の水平ひび割れの反射を計測することは原理上困難である。
 そこで,これまで我々はコンクリート中の鉄筋を励磁コイルにより正弦加振し,その鉄筋の振動変位をドップラレーダの原理により非破壊的に定量計測する加振レーダ法を提案し3),鉄筋腐食減量と鉄筋振動変位に正の相関があることを報告した4)。これは,鉄筋極周囲の腐食生成物の影響により鉄筋のコンクリートによる拘束力が低下することにより,鉄筋が動きやすくなる現象を本システムが捉えていると考えられる。同様に,コンクリート中の鉄筋周囲に水平ひび割れが発生すると,コンクリートによる鉄筋の拘束力が低下すると考えられ,その鉄筋振動変位は健全な鉄筋コンクリートに比べて増加することが考えられる5)。
 そこで,本論文では加振レーダ法を水平ひび割れ検知へ適用し,健全RC 供試体とひび割れを模したRC 供試体の鉄筋振動変位を比較し,実験的に本手法の定量性や有効性を検討した結果について述べる。

 

赤外線サーモグラフィ試験に用いる可視光透明な高放射率フィルム
鈴木総司,小笠原永久,松田裕行

The Transparent Film for Infrared Thermographic Test: The Film with High Emissivity in Infrared Rays
Soshi SUZUKI, Nagahisa OGASAWARA and Hiroyuki MATSUDA

Abstract
In infrared thermographic tests, background reflection from the sun or neighboring structures is one of the serious problems that lead to false detection of flaws. Generally, the background reflection appears as a hot spot on the thermal image, and can lead to faults during inspection. To avoid this, the background reflection must be removed from the thermal image. Metals, owing to their high reflectivity, are especially susceptible to background reflection during conventional infrared thermographic tests. In this study,the authors have developed a blackbody film made of polyvinyl alcohol that has a high emissivity in the infrared range and a high transmissivity in the visible range. At first, the authors measured the spectral emissivity of the film by using a Fourier transform infrared spectrometer. A measuring equation was proposed for the film that has high emissivity and low transmissivity. Further, the measurements revealed that: a higher degree of saponification leads to higher emissivity; it has a sufficiently high emissivity; and a long infrared range. Next, the authors carried out infrared thermographic tests on a stainless steel plate having background reflection.
The results show that the film is effective as a material with low emissivity.

Key Words:Infrared thermographic test, Background reflection, Blackbody coating, Film, Polyvinyl alcohol, Visible light transparent Water-soluble, FT-IR

緒言
 赤外線サーモグラフィ法は,広い範囲を一度に検査できるため効率的1)−5)であり,対象材料の制限が他の検査に比べて比較的少ないなどの特徴がある6)−8)。一方で,背景反射などの外乱の影響を受けることがあり,誤検知につながってしまう危険性がある9),10)。これは,背景反射が赤外線サーモグラフィ装置に入射するときず部と同様にホットスポットとして表示されてしまう場合もあるためである。よって,背景反射は,きず誤検知の要因として解決しなければならない大きな課題の一つとなっている。特に反射率が高い金属を測定対象とする場合,背景反射の影響は大きい。また,たとえ放射率が比較的に高い測定対象でも,経年劣化により表面状態が一様ではなくなり,検査の際の加熱ムラや誤検知の原因となる場合がある。
 基礎的な研究開発等では,黒体塗料を塗布,または黒体テープを貼付することにより検査が行われることもあるが,測定対象表面の目視による視認性が著しく低下することや検査後に塗料が除去しにくいという問題があり,実製品には適用が難しい場合が多い。
 そのため,赤外線サーモグラフィ法を行う場合は,測定面が一様で高い放射率を有し,さらに目視による測定対象表面の視認性が確保されることが望まれる。著者らは,これらの問題を解決し様々な状況に対応できるよう,ポリビニルアルコール(以下PVA と呼ぶ)を用いて,高い放射率を有し,可視光で透明な水溶性のあるフィルムを開発した。本研究では対象物への黒体化処理の影響をできる限り小さく抑えるために,PVA フィルムを利用した赤外線サーモグラフィ法を提案する。まず,フーリエ変換赤外分光光度計(以下FT-IR と示す)を用いてPVA フィルムの放射特性を把握した。その後,PVA フィルムをステンレス材料の欠陥検知に適用することで,その有効性を示した。

 

to top