logo

<<2071>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2022年1月号バックナンバー

2022年3月2日更新

機関誌「非破壊検査」バックナンバー2022年1月度

目次

巻頭言

「新年のご挨拶」

阪上 隆英

 謹んで新年のご挨拶を申し上げます。昨年末,我が国では新型コロナウイルス感染症の感染拡大が少し収まる気配を見せ,ようやく終息に向かうかと思われた矢先,新たな変異株オミクロンの検出や諸外国における感染再拡大など依然深刻な問題を抱えたまま,新年を迎えることになりました。

 当協会関係者の皆様におかれましては,昨年に続き様々な面で深刻な影響を受けておられることと拝察し,心からお見舞いを申し上げます。また,新型コロナウイルス禍での困難な状況にもかかわらず,当協会の活動にご支援ご協力を賜りました関係各位に心からお礼を申し上げます。加えて,新型コロナウイルス感染症対策に日夜献身的に取り組んでいただいている,医療従事者をはじめ関係の皆様に対し,心からお礼を申し上げます。昨年も書かせていただきましたが,新型コロナウイルス感染症を克服し,感染終息の日が1 日でも早く訪れることを,新しい年の始まりに再び祈念したいと思います。

 昨年の当協会の活動を振り返りますと,新型コロナウイルス感染症は,緊急事態宣言やまん延防止措置の継続により,当協会の様々な分野の活動に大きな影響を与えましたが,社会全体に「ウィズコロナ」の生活様式が浸透し,感染拡大に留意しながら社会活動を継続させようとするスタイルが定着したこともあって,一昨年のような活動中止はほとんどなく,一定水準での協会活動を行うことができたと考えております。改めて皆様のご協力に感謝いたします。

 学術分野では,講演会等の各種行事の対面開催は叶いませんでしたが,行事をオンライン開催とすることで,春季の非破壊検査総合シンポジウム,秋季の講演大会をはじめ部門シンポジウム等には,多数の講演者・聴講者の参加を得るとともに,遠方から参加しやすいとの高評価をいただきました。このことは,講演会のハイブリッド化等,今後の学術行事を企画する上での試金石になったのではないかと思います。

 社会インフラの安全を確保する上で必要不可欠な非破壊試験技術者の教育・認証事業では,受講者及び受験者の皆様への迅速かつ的確な情報発信に努めるとともに,できうる限りの新型コロナウイルス感染防止対策を行いながら,ソーシャルディスタンスによる人数の制約があるものの,ほぼ予定通りの事業を行うことができました。

 国際関係の維持においては,対面による国際交流は全くできませんでしたが,インターネットによるWEB 会議の活用により,国際認証や国際交流に支障が出ないように努力をいたしました。日本が会長及び事務局国を務める,アジア・太平洋非破壊試験連盟(APFNDT),議長国及び幹事国を務めるISO/TC 135(非破壊試験)各技術委員会等へのWEB 会議による対応継続,米国非破壊試験協会(ASNT)の総会へのWEB参加,英国非破壊試験協会(BINDT),英国接合・溶接研究所(TWI),UK Research Centre in NDE(RCNDE)の各種行事への協力,台湾非破壊試験協会(SNTCT)とともにジョイントシンポジウムに協力するなど,各国の非破壊試験関連団体との相互交流の維持を積極的に進めてまいりました。特に,昨年から開催が始まったNDE 4.0 に関する国際会議に当協会としてコミットするため,NDE 4.0 に対応するワーキンググループを立ち上げて活動を開始し,第1 回のオンライン会議に参加し,積極的な情報提供・収集を行いました。

 新型コロナウイルスによって,人々の日常生活は大きく変化いたしましたが,コロナ禍においても変わらないこと,変えてはならないことが,「重要な社会インフラを適切に維持保全していくこと」であり,非破壊検査は重要な役割を担っています。当協会では,“JSNDI ミッションステートメント「社会に価値ある安全・安心を提供するJSNDI」”を掲げ,当協会は今後も非破壊検査の中枢を担う学術団体・業界団体としての使命を果たしてまいります。皆様のご協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。

 最後になりましたが,本年の皆様のご健勝を心からお祈り申し上げます。

 

巻頭言

「機関誌アーカイブ選:今と未来に活きる論文と解説Ⅱ」特集号刊行にあたって

井上 裕嗣

 新年あけましておめでとうございます。今号の特集は「機関誌アーカイブ選:今と未来に活きる論文と解説」の第2 回目で,前号と合わせていわば年末年始特集となっています。テレビの年末年始特別番組ではありませんが,過去を振り返りつつ新しい目標を立てるという,この時季に相応しい企画になっていると思います。

 この特集では,既にご承知のとおり,当協会の12 の学術部門のそれぞれにおいて再掲するに相応しい過去の論文や解説等の記事を選定していただくとともに,その記事にまつわる解説を各部門を代表する方々にご執筆いただいています。各部門における再掲記事の選定に際しては,1 編のみという厳しい制約のためにずいぶんと苦慮なさったことと推察しますが,いずれの再掲記事も出版年にかかわらず普遍的な価値が高い優れたものであり,当協会の長年にわたる学術活動と機関誌の有用性がひしひしと感じられます。個人的かつ勝手な提案ではありますが,読者の皆様には例えば以下に述べるような形で役立てていただければ有り難く存じます。

 若手の読者の皆様には,様々な理論や技術の発展の経緯を感じ取っていただき,関連する文献を調査して知識を正しく積み重ねていただくとともに,将来的には今回のように再掲されるような優れた記事の執筆を目標に意欲的に取り組んでいただければと思います。

 中堅の読者の皆様には,過去を振り返りつつ直近の未来に向けた取り組みを改めて考えて新たなブレイクスルーのきっかけにしていただくとともに,現在取り組んでおられる課題について記事という形にまとめ上げて広く紹介することをご検討いただければと思います。

 ベテランの読者の皆様には,そういえばあのときは…ということを改めて想い出していただくとともに,長年にわたる理論や技術の発展の経緯を記事として取りまとめていただくことによって,後進の研究者・技術者の育成に寄与していただければ有り難く存じます。

 今回の特集は,当協会の機関誌が日本の非破壊検査に関わる理論,技術,関連情報のアーカイブとして高い価値を有することを再認識させるものです。今後も機関誌の価値を保ち高めるために,編集委員会として継続的に取り組んでいくことはもちろんのこと,会員,関係者の皆様の積極的なご協力を期待する次第です。

 

総説

機関誌アーカイブ選:今と未来に活きる論文と解説Ⅱ

アコースティック・エミッション原波形解析(アコースティック・エミッション部門)
紹介文献:AE 原波形解析手法の確立と破壊の動的挙動解明への適用─ AE 信号の定量化─ , 非破壊検査, 30(11),pp.911-917,( 1981)

電気通信大学 結城 宏信

Acoustic Emission Source Waveform Analysis
(Research & Technical Committee on Acoustic Emission)

The University of Electro-Communications Hironobu YUKI

キーワード:アコースティック・エミッション,計測系,波形解析,原波形,逆問題

はじめに
 破壊に伴って固体中に生じる弾性波を電気信号に変換して記録する実験が1933 年に東京帝国大学地震学教室の岸上によって世界に先駆けて行われた1)。アコースティック・エミッション(AE)として現在知られているこの弾性波の放出現象は,岸上の実験のあと長いあいだ日本では非破壊検査に携わる研究者や技術者には知られず活用されるに至らなかった。日本でのAE 法に対する取り組みは米国で実用化が進む新しい非破壊検査技術として1960 年代の終わりに注目され2),3)本格的に始まることになる。再スタートは遅かったものの精力的に様々な取り組みがなされ,ほどなくして機関誌に特集が組まれている4)。また,1972 年に当協会と日本高圧力技術協会が共催する日米合同シンポジウム「ACOUSTIC EMISSION とその構造物の安全性監視への応用」(U.S.-Japan Joint Symposium on Acoustic Emission)として始まった国際会議は国際アコースティック・エミッションシンポジウム(International Acoustic Emission Symposium)と名称を変えて回を重ね,今日では当協会が主催する世界有数のAE に関する定期的な国際会議に成長している。

 ここに紹介する文献はAE 部門の前身である006 特別研究委員会が日本高圧力技術協会に組織されていたAE 委員会を移管する形で当協会内に発足し,当協会が名実ともに日本のAE 法に関する活動の中心になった1981 年に機関誌に掲載された論文である。

 

赤外線サーモグラフィによる非破壊検査(赤外線サーモグラフィ部門)
紹介文献:赤外線放射温度計による欠陥の検出(1)表面点状欠陥, 非破壊検査, 38(5), pp.394-399,( 1989)

(株)サーモグラファー 山越孝太郎

Non-destructive Testing by Infrared Thermography
(Research & Technical Committee on Infrared Thermographic Testing)

Thermographers Co., Ltd. Kotaro YAMAKOSHI

キーワード:赤外線,赤外線サーモグラフィ,点状欠陥,空洞放射,放射率,非破壊試験

はじめに
 赤外線サーモグラフィ装置は,物体の表面から絶対温度の4 乗に比例して放射される赤外線エネルギを検知し,見かけの温度に変換し熱画像として表示する装置である1)。計測できるのは原則として対象物の表面温度だけであり,直接的に内部にある欠陥や異常を検知できるわけではない。熱エネルギの移動が欠陥によって阻害されたり,欠陥による発熱が表面に伝導してきたりすることで生じる特異な温度分布から欠陥の位置や状態を推測する。そのためには,伝熱に関する知識や欠陥の発熱原理を理解しておくことが技術者に必要となる。また,赤外線サーモグラフィ装置が表示するのは見かけの温度であり,真の温度を示しているわけではない。同じ温度でも物体の材質や表面状態や形状などによって放射される赤外線エネルギ量が異なるため表示される温度値も異なる場合がある。今回紹介する論文は形状による放射率の違いを利用して,材料表面の点状欠陥の大きさや深さを定量的に求める研究である。

 

NDI005 はSSII の源流(製造工程検査部門)
紹介文献:1980年度の 005(非破壊検査画像処理)特別研究委員会活動報告, 非破壊検査, 30(6), pp.412-414,( 1981)

中京大学/ YYC ソリューション 輿水 大和

NDI005 as the Headstream of SSII
(Research & Technical Committee on In-Process Inspection)

Chukyo University/(LLC)YYC-Solution Hiroyasu KOSHIMIZU

キーワード:画像検査,NDI005,IPI,AI・DL,SSII

はじめに
 (一社)日本非破壊検査協会JSNDI(1952〜現在)の「非破壊検査画像処理特別研究委員会」(NDI005 と略記する)は,1981 年に生まれた。

 途中でその幼名を改め「製造工程検査部門(IPI)」として元服して,ただいま40 歳を迎えている。そしてこの長い歴史の中のトピックスとしてNDI005 は,今では国内最大・最上級の画像技術系の学会,画像センシング技術研究会(SSII/Society for Sensing via Image Information)を誕生させた。1986 年のことであった。つまり,SSII の歴史を遡るとNDI005 がその源流ということになる。

 本稿ではこの度の特集「今と未来に活きる論文と解説」に機会を得て,日本の画像産業応用系学界の源流ともいえるNDI005 の歴史を改めて辿ることにする。そのための絶対的な手掛かりともいえようか,尾上守夫先生(当時,東京大学生産技術研究所教授)の総説論文1)に学びながら,アメリカから日本に渡来した画像処理技術とJSNDI との出会い,そしてNDI005 の誕生の経緯,その発展の中で生まれたシンポジウム,さらにこれを源流とするSSII の誕生の経緯2),およびこのSSII を核とする日本の画像産業応用学術界の今後への課題3)について寸考する。図1 は尾上先生である。

 

老朽化した社会インフラの維持管理(保守検査部門)
紹介文献:インフラ大修繕時代の橋梁若返りマネジメント, 非破壊検査, 62(9), pp.456-462,( 2013)

(国研)産業技術総合研究所 津田 浩

Maintenance of Aging Social Infrastructure
(Research & Technical Committee on Maintenance Inspection)

National Institute of Advanced Industrial Science & Technology Hiroshi TSUDA

キーワード:インフラ,健全性評価,老朽化,長寿命化,保守,IT 技術

はじめに
 近年,我が国では1970 年代の高度経済成長期に建設された多くの社会インフラが老朽化の目安とされる築50 年を迎え,これら老朽化した社会インフラの効率的な維持管理が社会問題になっている。令和2 年度の国土交通省白書によると,建設後半世紀を経過した橋梁の割合は2029 年時点で52%に達し,37 万橋を超えるとされる1)。現在,橋梁の点検は検査員による目視検査が行われていることから,膨大な数に及ぶ老朽化した橋梁の健全性を保証するための効率的で信頼性の高い検査法が求められている。

 本稿では40 年前の1980 年代に老朽化した社会インフラが問題になったアメリカの状況とその後の取り組み,ならびに我が国における現状を振り返り,今後,我が国ではどのように社会インフラの維持管理に取り組むべきかについて検討するとともに,日本における道路インフラの安全性に大きな疑問をもたらした笹子トンネル事故の一年後に執筆された橋梁の維持管理に関する解説記事を紹介する。

 

コンクリートの圧縮強度の非破壊推定(鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門)
紹介文献:コンクリートの圧縮強度の非破壊試験方法, 非破壊検査, 34(10), pp.718-726,( 1985)

東京理科大学 今本 啓一

Non-Destructive Estimation of Concrete Compressive Strength
(Research & Technical Committee on Non-Destructive Testing of Reinforced Concrete)

Tokyo University of Science Kei-ichi IMAMOTO

キーワード:鉄筋コンクリート,非破壊,圧縮強度,笠井芳夫

はじめに
 (一社)日本非破壊検査協会においてRC 部門は最も新しく誕生した組織である。第34 巻(1985 年)において石井勇五郎先生が「「コンクリート構造物の非破壊検査」特集号発刊にあたって」を,そして3 年後の第37 巻(1988 年)において笠井芳夫先生が「「コンクリート構造物の非破壊試験」特集号発刊にあたって」と題する巻頭言を記述している。これらの活動実績を踏まえ,おそらく満を持してのことであったと思うが,1989 年に009「コンクリート構造物の非破壊試験」特別研究委員会が設立された。以降毎年の活動報告が本誌において紹介されるとともに,2003 年から3 年おきに「コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウム」が開催され,今やコンクリート分野の非破壊検査技術の多様な最先端情報が集まる場となっている(図1)。

 日本非破壊検査協会においてコンクリート分野初出となる第34 巻の特集号では,日本技術検査協会(当時)が開催したコンクリート構造物の非破壊試験講習会で講演されたものから選りすぐられた論文が掲載された(図2(左))。そこでは衝撃・超音波による内部欠陥探査,AE による破壊源探査,自然電位による鉄筋腐食探査そしてコンクリートの圧縮強度推定など,まさに現在においてもこの分野の主流となっている手法と対象が紹介されている。さらには非破壊検査技術に関する海外の取り組みなども調査されており,黎明期のコンクリートの非破壊検査技術の力強い息吹が感じられる。

 

炭素繊維強化プラスチックにおける衝撃損傷評価の試み(新素材に関する非破壊試験部門)
紹介文献:衝撃損傷を受けたCFRP積層板の圧縮強度について,非破壊検査, 44(3), pp.163-169,( 1995)

東京工業大学 水谷 義弘

Attempt at the Evaluation of Impact Damage of Carbon Fiber Reinforced Plastics
(Research & Technical Committee on Non-Destructive Evaluation of New Materials)

Tokyo Institute of Technology Yoshihiro MIZUTANI

キーワード:新素材,炭素繊維強化プラスチック,層間はく離,超音波探傷試験,衝撃後残留圧縮強度

はじめに
 1986 年に東レ(株)が引張強さ7000 MPa の炭素繊維の開発に成功し,その後,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は航空機構造に次々と採用され,今ではアルミニウム合金に代わって航空機構造の主要材料となっている。このような時代背景もあり,新素材に関する非破壊試験部門(以後新素材部門と略す)では,CFRP に関する特集号を何度も企画してきた。しかし現在,CFRP は航空機以外の様々な分野にも広く適用されており,新素材とは言い難くなってきた。靭性の高いセラミックス材料,3D プリント材料などの新素材も次々と登場したので,新素材部門では取り扱う検査対象の範囲を広げており,部門で企画する特集号もこれまでのCFRP だけではなく,3D プリント材料など,真に新しい素材の検査も取り上げるようになってきている。このような流れの中,新素材部門として今回取り上げる「アーカイブ選」として,昔ながらの新素材であるCFRP に関する文献を選出すべきか,それとも3D プリント材料のような現在の新素材に関する文献を選出すべきか悩んだが,次章に示す理由から,CFRP 関係の文献を選出することにした。

 

to top