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機関誌

2022年3月号バックナンバー

2022年3月6日更新

巻頭言

「鉄筋コンクリート構造物の耐久性におけるかぶりの重要性」特集号刊行にあたって

今本 啓一

 「かぶりコンクリート」とは,鉄筋コンクリート部材において鉄筋をおおう外側部分のコンクリートを指し,単に「かぶり又はかぶり厚さ」とは,コンクリート外表面と鉄筋との距離を示す専門用語である。

 鉄筋コンクリート構造物の劣化因子は,多くの場合,外部より侵入する。従って,コンクリート構造物の耐久性におけるコンクリートの表層すなわち,かぶりコンクリートの役割は非常に重要であり,この役割はその「厚さ」と「品質」で決まる。

 わが国で初めてかぶり(厚さ)に関する規定が盛り込まれたのは,1918 年(大正7 年)の警視庁建築取締規則案である。この時,版に対して6 分(約18 mm),柱・梁に対して1 寸(約30 mm),基礎に対して2 寸(約60 mm)とされていた。その後1920 年(大正9 年)市街地建築物法施行規則において,版に対しては20 mm,柱・梁に対しては30 mm,基礎に対しては50 mm とされた。故岸谷孝一教授によるとこの数値はドイツの基準が根拠であったとのことである1)。一方,このかぶりはコンクリートの中性化による鉄筋腐食を抑制する意味で非常に重要であることが近年の調査結果から明らかとなりつつあり2),かぶり厚さが小さい領域,すなわちかぶり厚さ30 mm を下回る場合においてのみ腐食の程度が激しい傾向が認められることが明らかとなってきた。逆に言うとしっかりかぶりが確保されていれば,築約50 年程度以上の建物において鉄筋の腐食は顕在化していない,ということになる。

 一方,このかぶりは,複数の工程を経た所産としてでき上がるものであり,それ故にテストピースなどで必ずしも評価できるものではない。これが原位置における表層品質試験に関する研究の背景であり,例えばこれを空気の透過性の観点から評価したものが表層透気試験である。

 (一社)日本非破壊検査協会ではこのような背景のもと,主に国内で検討が進められてきた3 種類(表面法2 種類,削孔法1 種類)の表層透気試験方法について,実用に資する規格を制定するため,共通試験を実施して基礎的データを収集し,その成果を踏まえて, NDIS 3436 規格として以下の表層透気試験方法が令和2 年8 月27 日に制定された。

NDIS 3436-1 コンクリートの非破壊試験-表層透気試験方法 第1 部:一般通則
NDIS 3436-2 コンクリートの非破壊試験-表層透気試験方法 第2 部:ダブルチャンバー法
NDIS 3436-3 コンクリートの非破壊試験-表層透気試験方法 第3 部:シングルチャンバー法
NDIS 3436-4 コンクリートの非破壊試験-表層透気試験方法 第4 部:ドリル削孔法
NDIS 3436-5 コンクリートの非破壊試験-表層透気試験方法 第5 部:校正器

 現在は水分浸透抵抗性試験に関する規格を制定するための活動も実施中である。空気の透過で評価する透気試験方法に比して,こちらは水の透過で評価する方法である。コンクリートの中性化が二酸化炭素(気体)の侵入によるものであるのに対し,塩化物イオンの侵入や鉄筋の腐食の鍵となるのが「水」の存在であり,このメカニズムに立脚した評価方法である。

 

解説

鉄筋コンクリート構造物の耐久性におけるかぶりの重要性

細孔構造の観点からのかぶりの「ち密」の評価

日本大学 湯浅 昇

Evaluation of “Denseness” of Cover Concrete from the Viewpoint of Pore Structure
Nihon University Noboru YUASA

キーワード:コンクリート,細孔構造,水銀圧入法,かぶり,劣化,評価

はじめに
 鉄筋コンクリート構造物において,コンクリートの表面から鉄筋までの「かぶりコンクリート」は,その寿命を推し量った時,極めて重要な意味を持っている。

 図1 は,鉄筋コンクリート構造物を取り巻く外的劣化因子とそれらによる劣化現象を概念的に示したものである1)。「かぶりコンクリート」は,構造上荷重を受ける断面を構成することはいうまでもないが,鉄筋に対して,“耐火被覆”でなければならないし,鉄筋の腐食を防ぐため“あらゆる劣化因子の透過抵抗体”であることが期待されている。

 “あらゆる劣化因子の透過抵抗体”となることを模索するため「かぶりコンクリート」は,「ち密」であることと“厚み”を持つことが志向されている。そしてその「ち密」を実現するには,水セメント比を下げる,初期湿潤養生を十分行う等の“仕様”で行動(=施工)がなされている。

 その“結果”としての「ち密」の“評価”について,本稿では,“細孔構造”の観点から解説する。

 

耐久設計基準強度でかぶりの「ち密性」を担保する

東京理科大学 兼松  学

Ensuring of the Denseness of Cover Concrete by the Durability Design
Standard Strength

Tokyo University of Science Manabu KANEMATSU

キーワード:耐久設計基準強度,ΔA,かぶり,ち密性,中性化

はじめに
 鉄筋コンクリート造建築物の耐久性確保の観点からは,「かぶり」の品質確保が重要であることは言うまでもない。

 本稿では,建築分野における「かぶり」の位置付け及びそれに関連する耐久設計の考え方について紹介し,最終的には耐久設計におけるかぶりの「ち密性」担保の考え方・方向性について解説する。

 

非破壊の物質移動抵抗性試験によるかぶり部分の品質評価の現状

(株)熊谷組 野中 英

Current of Surface Quality Evaluation for Mass Transfer Resistance Test
of Non-destructive

Kumagai Gumi Co., Ltd. Akira NONAKA

キーワード:コンクリート,物質移動抵抗性, 透気性,透(吸)水性,原位置,耐久性

はじめに
 コンクリート構造物の耐久性を確保するには,内部の鉄筋を保護するコンクリート表層部が十分に緻密であり,十分な厚さが確保されていることが必要である。水および空気の物質移動抵抗性である透気性,透(吸)水性は,コンクリートの密実性を反映したものであり,中性化の進行,水分の浸透,コンクリートの凍害,アルカリ骨材反応の進行など,構造物の耐久性と大きな関わりを持っている。

 コンクリート構造物の緻密さは,コンクリートの配合以外に製造・施工・養生等の影響を受けるため,近年では施工したその位置で透気性,透(吸)水性の非破壊試験により測定するニーズが高まっている。

 非破壊による透気試験は,本協会において2020 年にNDIS3436「コンクリートの非破壊試験- 表層透気試験方法-」として制定された。また,非破壊試験による透(吸)水試験は,本協会の研究委員会として活動しており,早期の規格化を目指している。

 本稿では,原位置で測定可能な非破壊試験による透気性,透(吸)水性の試験方法の現状を示すとともに,削孔法の透気試験,吸水試験で得られた指標により,配合,養生の異なるコンクリートの緻密さの違いを示した。また,削孔法透気試験に関しては,耐久性の一つである中性化抵抗性を評価した試みについて解説する。

 

放射線透過法によるかぶり厚さ推定

東北学院大学 武田 三弘

Estimation of Cover Thickness by Radiographic Examination
Tohoku Gakuin University Mitsuhiro TAKEDA

キーワード:放射線透過法,かぶり厚さ,工業用 X線装置,X線フィルム,IP

はじめに
 一般に,放射線透過法を用いてコンクリート中の鉄筋かぶり厚さのみを求めることは,手続き,費用及び作業性からも実施されることはほとんどないと思われるが,例えばシース管内の空洞調査などを実施する際には,単なる空洞調査のみではなく,内部の鉄筋配置状況やその深さを同時に求めることがある。そのような時には,数回の撮影で,多くの情報を正確に得ることが可能となる。放射線透過試験方法を用いたコンクリート構造物の検査方法としては,(一社)日本非破壊検査協会規格(NDIS 1401:2009)に「コンクリート構造物の放射線透過試験方法1)」として,制定されており,附属書の中には参考として鉄筋・埋設管の位置確認方法や,版厚の測定方法,鉄筋位置の測定方法,コンクリート内の欠陥の検出方法が示されている。今回,放射線透過法によるかぶり厚さ推定に関係する,附属書D(参考)鉄筋位置の測定方法について解説する。

 

電磁波レーダ試験によるかぶり厚さ推定

ものつくり大学 森濱 和正

Estimating Cover Thickness by Electromagnetic Wave Radar Test
Institute of Technologists Kazumasa MORIHAMA

キーワード:鉄筋,かぶり厚さ,電磁波レーダ,比誘電率,多段配筋,標準試験体

はじめに
 電磁波レーダによるかぶり厚さ試験方法に関する規格には,NDIS 3429(コンクリートの非破壊試験- 鉄筋平面位置及びかぶり厚さの電磁波レーダ試験方法-)がある。この規格は,2011 年に制定され,2021 年に改正された。ここでは,改正された規格の概要を紹介する。

 

電磁誘導法によるかぶり厚さ推定

芝浦工業大学 濱崎 仁

Estimating Cover Thickness by Electromagnetic Induction Test
Shibaura Institute of Technology Hitoshi HAMASAKI

キーワード:鉄筋,かぶり厚さ,電磁誘導法,NDIS,JASS 5

はじめに
 電磁波レーダによるかぶり厚さ試験方法に関する規格には,NDIS 3430(コンクリートの非破壊試験- 鉄筋平面位置及びかぶり厚さの電磁誘導試験方法)があり,この規格は,2011年に制定された。また,かぶり厚さの検査方法として,(一社)日本建築学会建築工事標準仕様書 鉄筋コンクリート工事JASS 5(以下,JASS 5)1)においては,JASS 5 T-608(電磁誘導法によるコンクリート中の鉄筋位置の測定方法)に基づいた検査が行われている。ここでは,NDIS 制定までの経緯とその内容,及びJASS 5 T-608 に基づいた鉄筋コンクリート建築物のかぶり厚さの検査の考え方について紹介する。

 

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