小野 勇一
本特集号では,「応力・ひずみ測定部門」からデジタル画像相関法について著者の皆様にご執筆いただきました。機械・構造物を構成する各要素に発生する応力・ひずみを正確に把握して設計に反映させることは,安全・安心な社会の実現のために必要不可欠であります。したがって,これまでに様々な応力・ひずみ測定法が提案・実現されています。その中でも,電気抵抗線ひずみゲージ(Strain gauge)は静的負荷だけでなく動的負荷に対してもひずみが精度よく計測でき,比較的簡便な方法であることから,広く使用されています。一方で,点測定であるため,機械要素全体のひずみ分布を計測することはできません。本特集号で取り上げましたデジタル画像相関法は,負荷前後の2 枚の画像を比較して,変形前の画像の対象点が変形後の画像のどこに移動したかを計算することで変位を得る方法で,対象点を変えて計算を繰り返せば,全視野の変位が得られ,機械要素全体の変位分布を取得することができます。変位分布からひずみ分布が得られ,弾性範囲内であればフックの法則に基づいて応力分布も計算することができます。比較的簡便な方法であり,市販の装置も販売されていることから,近年ではデジタル画像相関法を用いて種々の材料・機械要素の応力・ひずみ分布を評価する研究もさかんに行われるようになっています。したがって,「応力・ひずみ測定部門」以外の部門の方々にも興味をもっていただいている計測法ではないかと想像いたします。
本特集号では,デジタル画像相関法に造詣の深い著者の皆様にご執筆いただきました。米山 聡先生には,「DVC(Digital Volume Correlation)を用いた3 次元変位・ひずみ測定の基礎」を紹介いただきました。通常,デジタル画像相関法は面内変位(2 次元)の分布を計測する手法ですが,3 次元へ拡張する手法について説明いただきました。西川 出先生には,「デジタル画像相関法による切欠きならびにき裂の力学量評価」について解説いただきました。4 点曲げを受ける切欠き材に対する切欠き底のひずみ集中とき裂材に対する破壊力学パラメータである応力拡大係数の計測について紹介いただきました。加藤 章先生には,「画像相関法を用いた引張試験における表面ひずみ分布の連続計測」について解説いただきました。炭素鋼の引張試験中における弾性領域,降伏領域,塑性変形領域について,デジタル画像相関法によりひずみを計算しています。特に通常の伸び計では計測できない局部収縮が起こった後の真ひずみを計算して,真応力との関係を紹介いただいています。内田 真先生には,「デジタル画像相関法と有限要素法を用いた近似応力場の測定」について解説いただきました。多結晶純銅の引張試験中に生じる不均一変形時のひずみ分布を画像相関法により取得し,有限要素法を用いてその時の応力場を近似的に定量化する手法を紹介いただきました。最後に私から「デジタル画像相関法を用いた摩擦圧接継手のねじり特性評価」を紹介いたしました。アルミニウム合金同材継手とステンレス鋼同材継手について,ねじり試験中のせん断ひずみ分布をデジタル画像相関法により計算した結果,接合界面で局所的に母材と異なるひずみが発生することを説明しています。
本特集号を通じて,デジタル画像相関法にますます興味をもっていただければ幸いです。
青山学院大学 米山 聡
Basic Principle of Displacement and Strain Measurement Using
Digital Volume Correlation
Aoyama Gakuin University Satoru YONEYAMA
キーワード:ひずみ測定,画像相関法,画像処理,DVC,CFRP,はんだ
はじめに
X線CT(トモグラフィ)1)などで変形前後の3 次元画像を得ることができれば,2 次元画像相関法(2D-DIC)2)と同様の原理により物体内部の3 次元変位およびひずみを得ることができる。この方法を3 次元画像相関法(DVC;Digital Volume Correlation)という3)。この方法では,変形前のサブボリューム(サブセット)と同じ輝度値分布となっている部分を変形後の3 次元画像内から探し出すことにより変位を決定する。その際,1 ボクセル以下の分解能で変位を決定するために輝度値補間を行い,連続的な3 次元輝度値分布から数値計算を用いて変位を決定する。変位を決定後はその値を数値微分することでひずみの分布を得ることができる。
DVC は2D-DIC を3 次元へ拡張することで開発されてきた3),4)。従来,不透明3 次元物体内部のひずみ測定は不可能であったが,この方法により可能となった。種々の問題への適用5)−8)が行われるとともに,高速化のための解析アルゴリズムの改善9)− 12)やCT 画像に含まれるノイズの影響や精度改善に関する研究13)などが行われてきた。これらの従来の研究内容や最近の進歩ついては既に出版されているの解説記事14)− 16)に任せて,ここではDVC の基本的な原理といくつかの測定例について述べる。
大阪工業大学 西川 出
Fracture Mechanics Parameter Estimation of Crack and Notch Using
Digital Image Correlation
Osaka Institute of Technology Izuru NISHIKAWA
キーワード:破壊力学,き裂,応力拡大係数,切欠き,画像処理,デジタル画像
はじめに
デジタル画像相関法は非破壊,非接触かつ高精度に計測対象表面全体にわたって全視野の変形分布計測が可能1)− 10)であることから,現在広く利用されている変位分布計測手法の一つである。すでに数社から製品としても市販されており,汎用的な計測機器となりつつある。これらの製品では,変位分布計測を行った後,その変位データからひずみを計算して,ひずみ分布を表示させることのできるものがほとんどである。そのためデジタル画像相関法はひずみ分布計測手法であると認識されている向きもあるが,この手法はあくまでも変位を高精度に計測するための方法に他ならない点は注意してほしい。
本稿ではデジタル画像相関法の基本計測原理を説明し,どのようにして変位が高精度に評価されるのかを説明したい。この基本原理を上手に応用・発展させれば,いろいろな問題にも拡張させることができる。ここでは,その一例として機械構造物の破壊事故の最有力候補位置となる応力集中部すなわち切欠き問題に適用すること,さらには破壊に直結する検査対象としてき裂問題にも応用させる手法についても紹介したい。
中部大学 加藤 章
Continuous Measurement of Surface Strain Distribution in Tensile Test Using
Digital Image Correlation Method
Chubu University Akira KATO
キーワード:非接触計測,鉄鋼材料,弾性ひずみ,塑性ひずみ,応力−ひずみ関係
はじめに
材料試験において引張試験は基本的な試験であり,これに基づいて各種の材料の機械的性質を求める。できる限り正確な材料特性値を求めることが必要である。従来の引張試験におけるひずみ測定については,JIS 規格に従って,標点間の伸びを求め平均ひずみを用いる方法が推奨されている1)。引張試験中の試験片は必ずしも一様な変形をするのではなく,特に降伏領域や最終的なくびれが発生する段階においては局所的な変形をするので,正確な材料特性を求めるためにはひずみ分布を測定する必要があると考えられる。非接触で,途中で試験を停止することなく,連続的に計測できる方が良い。
著者らは引張試験中の試験片表面を動画撮影することにより非接触で連続的に引張試験の全過程の表面状態の画像を取得し,試験後に画像相関法(DIC)により試験片の初期画像からの変位分布を求めることにより2),試験片のひずみ分布を求める方法を適用した3)−6)。
延性の大きい軟鋼材などの引張試験では,弾性変形から塑性変形まで,最終的にはくびれが発生して局所的に非常に大きな変形をする。したがって,対象とする変形領域が非常に広い。DIC は比較的小さいひずみにも適用でき,さらに大きい変形に対しても適用可能であるので,延性の大きい金属材料などの引張試験には有効な方法である。
本稿では,鋼材の丸棒試験片の引張試験にDIC を適用し,微小な弾性ひずみから破断寸前のくびれ部の局所ひずみまで測定し,応力−ひずみ関係を検討した例に関して説明する。
大阪市立大学 内田 真
Approximation of Stress Field Using Digital Image Correlation Method
and Finite Element Method
Osaka City University Makoto UCHIDA
キーワード:ひずみ場,応力場,デジタル画像相関法,有限要素法
はじめに
一般的に工業材料は多結晶構造や介在物の分布などの不均質な微視構造を有しており,巨視的に均一な応力が与えられたとしても微視的には不均一な変形が生じる。工業製品の微小寸法化に伴い,巨視構造と微視構造の寸法比が1 に近づくほど,両者の変形状態が干渉することにより材料の力学特性に寸法依存性が発現する。例えば,多結晶金属板では,板厚の減少とともに流れ応力が低下することが確認されており,マイクロフォーミングの分野では加工精度向上のために材料寸法に依存した力学特性のモデル化が重要視されている1),2)。
このような寸法効果を適切に捉えるためには,材料中に生じる不均一変形状態を定量化する必要がある。ただし,測定対象に生じるひずみ分布はデジタル画像相関(Digital Image Correlation,DIC)法を用いて定量化することができるが,応力分布を定量化するのは困難である。著者らの研究グループではこれまで,試験片表面の応力場をDIC と有限要素法(Finite Element Method,FEM)を用いて近似的に定量化する手法を提案し,多結晶純銅の不均一変形の定量化に取り組んでいる3)−6)。本稿では,同研究内で適用した近似応力場の測定方法3)について述べるとともに,応力場とひずみ場を用いて材料の不均一変形を特徴づける取り組み6)についても紹介する。
鳥取大学 小野 勇一
Evaluation of Torsional Characteristics of Friction-Welded Joints Using
Digital Image Correlation
Tottori University Yuichi ONO
キーワード:画像処理,材料試験,圧接,応力−ひずみ関係,微小硬さ
はじめに
摩擦圧接は,金属部材同士を回転接触させることで発生する摩擦熱を用いて接合を行う固相接合法の一つである1)。また,従来のアーク溶接と比較して自動化が容易,再現性が極めて高い,異種材料の接合が可能などの特長を有している。このような接合材は,接合時の摩擦熱により接合界面が母材と異なるミクロ組織となるため,機械的性質も母材と異なることになる。これまでに,種々の摩擦圧接材に対して得られた引張試験結果から,適切な接合条件を検討する報告は多く発表されているが2),接合界面の局所的なひずみ分布に着目した報告はほとんど見当たらない。さらに,摩擦圧接材はトルクを受ける軸などに利用される場合もあるため,引張特性に加えてねじり特性を評価することも重要となる。以上の観点から,我々は摩擦圧接材のねじり特性を評価するとともに,デジタル画像相関法により接合界面の局所的なひずみ分布を計測し,硬さ分布とミクロ組織との関係を明らかにしてきた3),4)。
本稿では,種々の条件で接合したA6061-T6 アルミニウム合金の同材継手とSUS304 ステンレス鋼の同材継手に対して,ねじり特性に加えて,デジタル画像相関法による局所ひずみ分布と硬さ分布について得られた結果を紹介する。
中本 裕之,小坂 大吾
Quantification of Skill Evaluation Based on the State Transition of the Probe
for Eddy Current Testing
Hiroyuki NAKAMOTO and Daigo KOSAKA
Abstract
Evaluation of aging structural health relies on the high skill of non-destructive testing technicians. This study proposes a method to quantify the skill of non-destructive testing technicians. The target of non-destructive testing is eddy current testing. A skill evaluation system comprises a probe, a data acquisition unit and a laptop computer. The system records the signal voltage at 500Hz while a technician operates the probe and tests an object. First, the proposed method classified the voltage into five states. Second, the rate of one-step state transitions was calculated from the state data. Third, using template data based on the state transition data of qualified technicians, the difference between the template and experimental data was quantified as an evaluation value. Through an experiment with six subjects, we verified that the evaluation value quantified the difference between qualified and unqualified skills.
Key Words:Skill, Eddy current testing, Quantification, State transition, Non-destructive testing
緒言
我が国では主に高度成長期に発電プラント,化学プラント,道路構造物など多くの機械構造物が建設された。現在これらの構造物の高経年化が進んでいることから,定期的な検査を実施し適切な保守管理によってその健全性を確保することが重要である1),2)。この検査においては構造物の材質,形状によって様々な試験方法が用いられるが,自動化の困難な試験方法,試験箇所では非破壊試験技術者が試験機器のプローブを操作して試験を行うことが多い3)。この場合,試験技術者が試験を実施するため,試験結果の正確さを決定する要因の一つは試験技術者の技能となる。ただし,この場合の技能とは研修や職務経験により獲得された非破壊試験を行う能力を意味する。したがって,高経年化の進む機械構造物の健全性を保つために高度な技能をもつ非破壊試験技術者が必要といえる。
現在,非破壊試験の多くは,(一社)日本非破壊検査協会が認証した非破壊試験技術者によって行われている4)。この資格により一定の技能や知識をもつことが担保されるが,同じ資格を取得した有資格者であっても試験の経験や頻度などから試験に関する技能の差が存在する。高い技能をもつ技術者を養成するには資格を取得するのみならず継続的な研修や経験の積み重ねが必要といえる。製造業における技能継承と技能教育の効果的な実施について,杉本は社内で技能を評価指導することの重要性を報告している5)。技能を定量評価し未熟な技術者に対し手先の動作を適時教示することが高い技能をもつ技術者の育成を促進する。
技能の定量化について,Probability of Detection(POD)を用いた報告がある。Barens はPOD を用いて非破壊試験の信頼性を評価することを提案し,Aldrin らはPOD を用いて非破壊試験の人的要因にかかる信頼性を評価した6),7)。中本らは配管肉厚検査における検査者の技能の違いをPOD によって評価した8)。POD は応用範囲が広く9),技能の定量化も可能であるが,確率密度関数を決定するために複数の試験結果を必要とするため,定量評価をリアルタイムにフィードバックすることが困難である。技能の可視化について,亀山らは熟練技術者の切削加工のフローチャートを作成し,それを手本として非熟練技術者に提示することを提案している。これは作業の手順を示すには有効であるが手先の技能を向上させることまでは難しい10)。武雄らは視線を計測し,注視点の対象の遷移を可視化することで技能の定量化を行っている。対象は画面上の注視点の座標であり手先の位置や動作は考慮されていない11)。Higashi らはスタイラスでタブレットをなぞる際の筆圧と画面上の座標を計測し,カッターを用いた切り絵製作における熟練者と初心者の技能の違いを評価している12)。スタイラスのような手にもつ道具の状態の計測は技能の違いを捉えるために有効である。非破壊試験機器のプローブの状態を計測することにより技能評価への応用も可能と考えられる。
そこで本研究では非破壊試験の一つである渦電流探傷試験を対象として,技能評価と技術者育成のためのシステムの構築を目的とする。本稿では渦電流探傷試験のプローブの状態遷移に基づいた技能の定量化方法について述べ,技能教示への応用の可能性について考察する。