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機関誌

2022年5月号バックナンバー

2022年5月18日更新

巻頭言

「放射線による非破壊検査とその最新技術」特集号刊行にあたって

釜田敏光

今回の「放射線による非破壊検査とその最新技術」の特集号は,放射線部門にとって最も基本的で広範囲な内容を含む5 編を解説していただきました。ここに,それぞれのあらましを紹介します。

(以下,ご執筆者敬称略)

1)「放射線を利用した非破壊検査の現状と将来」(谷口良一・元 大阪府立大学)
 放射線による非破壊検査の歴史として,X 線の発見から非破壊検査への適用,CT の普及及びミューオン,ニュートリノの利用について提言された。次に放射線検査法についての概念を示し,新たな放射線の利用について種々の利用方法等が紹介され,近い将来,種々の技術開発により,新しい放射線による非破壊検査の実現を期待していると解説している。

2)「最新のマイクロフォーカスX 線発生器とX 線検出器の紹介」(成田洋平,薗田淳一・浜松ホトニクス(株))
 非破壊検査用に使用されるX 線装置の内,X 線の焦点寸法が,μm オーダの大きさであるマイクロフォーカスX 線発生装置が,自動車部品,電子機器,電池検査に多用されている。加えて,X線による非破壊検査の普及に伴い特長あるX 線検出器の発展も著しい。最新のマイクロフォーカスX 線発生装置及びX 線検出器について紹介され,撮像例と共に解説している。

3)レーザー駆動線源による中性子・X 線同時瞬間撮影(余語覚文・大阪大学)
 レーザーで瞬間的に強い中性子パルスと強いX 線パルスを同時に生成する新技術を解説している。レーザー中性子源の仕組みとニッカド電池,ニッケル水素電池,炭化ホウ素粉末の3 種類のサンプルを中性子とX 線で同時瞬間撮影し,レーザーパルス1 ショットで生じた中性子によって得た画像から写っている物質を推定することができる。
 最近では,金属配管中の水を瞬間撮影する技術があり,老朽化したインフラや建物の非破壊検査から修理や優先順位を策定する手法,燃料電池や水素エンジンの開発,性能向上,あるいは水素ステーションや水素輸送船といった水素社会インフラの開発や保守技術のつながりを期待し,透過瞬間撮影を可能とするレーザー中性子・X 線源を,新たに「ダイナミック(動的)中性子源」と定義して提案していきたいと解説している。

4)X 線による食品の非破壊検査(万木 太・(株)イシダ)
 食品の非破壊検査のためのX 線検査装置の導入が始まったのは,1990 年代後半である。食品事故の報道が過熱し,それに合わせて消費者の食品に対する安全意識も急激に高まった中,実際に,異物の入った食品を食べ,口内を切る,歯が欠けるなどのクレームが発生し,X 線検査装置が本格的に普及し始めた。加工食品などを出荷する段階で,包装などの商品形状を損なうことなく,非破壊で検査できることも,X 線検査装置が支持された理由と考えられる。異物の検出は,食品の製造ラインでは,数百個/分などで生産されるため,素早く判定し,X 線検査装置後段の振り分け装置でライン外に排出することが求められる。そのために必要な画像処理の原理や,遺伝的アルゴリズムなどを駆使し新たなデュアルエナジー方式,直接変換方式などを解説している。

 

解説

放射線による非破壊検査とその最新技術

放射線を利用した非破壊検査の現状と将来

元大阪府立大学 谷口 良一

Present Status of Radiographic Testing and Next Features
Former Osaka Prefecture University Ryoichi TANIGUCHI

キーワード:放射線非破壊検査,放射線粒子,宇宙線,加速器

はじめに
 放射線透過検査(RT,Radiographic Testing)は1895 年のレントゲンによるX 線の発見から始まっているとされており,百年以上の歴史を持っている。この百年は,人類の歴史の上でも類を見ない程に急激な変化を迎えた期間であり,特に工業技術の進歩は目覚ましいものであった。非破壊検査の歴史が,この産業の発展と同時期に歩んだことは,誇らしい事実であるとともに,その内容においても,科学技術,産業技術の発展と密接な関係があることも認識する必要がある。新しい科学技術上の発見,発展が,新たな検査技術の開発につながるだけでなく,産業技術の発展が,新たな検査技術を求めることもあり,検査技術の開発が新たな分野を開拓した場合もある。このことは,医療分野を見ればより明らかであるが,非破壊検査分野でも同じことが言えそうに思われる。本稿は,放射線による非破壊検査(以下,放射線非破壊検査と称する)の歴史的展望を行い,その将来を占うことを目的としている。このような場合,放射線非破壊検査の技術的な発展とその流れを中心に解説を展開している例が多いように見受ける。これに対して本稿では放射線非破壊検査の物理的な側面にも注目し,今後の,この技術の発展の方向と可能性について言及したい。

 

最新のマイクロフォーカスX 線発生器とX 線検出器の紹介

浜松ホトニクス(株)成田洋平 薗田純一

Introduction of Up-to-date Micro Focus X-ray Generators and X-ray Detectors
Hamamatsu Photonics K.K. Yohei NARITA and Junichi SONODA

キーワード:X線,工業用 X線装置,マイクロフォーカス X線,X線検出器,構造解析,インライン検査

はじめに
 非破壊検査市場におけるX 線発生器が開発されて久しく,現在では様々な用途に発展し多様な製品が販売されている。中でも工業用途においては,FeinFocus 社がマイクロフォーカスX 線発生器(以下MFX と略す)と呼ばれる焦点寸法が微小なX 線発生器の開発に成功すると,自動車部品や,電子機器などの様々な製品の非破壊検査用途に多用されるようになった。近年では,iPhone が2007 年に米国で発売されてから爆発的に普及したスマートフォンの基板,及び電池検査,また,急速に開発が進められている電気自動車用の電池検査など,その時代に合わせて多様なニーズが存在している。加えて,X 線による非破壊検査の普及に伴ったX 線検出器の発展もまた著しい。工業用非破壊検査向けとしてはX 線イメージインテンシファイア(X 線I.I.)が普及していたが,フラットパネルディテクタ(FPD)への移行が進むと共に,様々な特長を持つものが開発されている。当社では工業用非破壊検査向けとして1994 年にMFX を発表して以来,市場のニーズに応えて様々な製品を開発してきた。そこで本稿では,最新のMFX とX 線検出器について紹介する。

 

レーザー駆動線源による中性子・X 線同時瞬間撮影

大阪大学 余語覚文

Single-shot Radiography by the Neutron and X-ray Simultaneously Generated
from Laser-driven Source

Osaka University Akifumi YOGO

キーワード:中性子,X線,レーザー駆動中性子源

はじめに
 光は物質の構造や性質を探り,制御するツールとして,現代の科学と産業に欠かせないものとなっている。近年では,レーザー技術と加速器技術の発展と融合が,新たな展開を迎えつつある。その1 つに「レーザーイオン加速1)」がある。レーザーを極めて高い強度に集光すると,プラズマの中に強烈な電場が発生し,ミクロン程度の領域内で高エネルギーのイオンが加速され,プラズマ内から放出される。レーザーによって,これまでにない「ミクロン加速器」が実現するのである。最新の基礎研究では,レーザーを使って1 億電子ボルト級(98 MeV)の陽子加速2)が確認されている。さらに,レーザーで加速したイオンを使って,中性子を発生する「レーザー中性子源」を可能とした。

 中性子は原子核を構成する素粒子の一種であり,電荷を持たない中性の粒子である。中性子はX 線とは異なり,カルシウム,あるいはステンレスなどの金属に対する透過力が高い。加えて,水素,ホウ素といった軽元素に対しての相互作用が強く,水や有機物などを検出する感度が高い。また,特定の物質(カドミウムなど)に吸収されやすい性質を持つので,それらの元素の情報を得ることができる。中性子とX 線を同時に発生して透過画像を撮影できれば,これまでにない複合的な情報を,非破壊で得ることが可能となると考える。そのためには従来とは異なる,中性子・X 線を同時に生成する手法が求められる。

 本稿では,「レーザー中性子源」の開発とその応用可能性を検証する研究について紹介する。レーザー中性子源は,線源の大きさやパルス幅などが,原子炉や加速器といった他の中性子源に比べ圧倒的に小さく,特有の応用が期待できる。我々はレーザーを用いて瞬間的に強い中性子パルスと強いX 線パルスを同時に生成し,瞬間的に中性子とX 線の透過画像を撮像3)する技術を開発した。以降では,レーザーによるイオン加速と中性子発生の原理を簡単に説明した後,その応用研究の成果について述べる。

 

X 線による食品の非破壊検査

(株)イシダ 万木太

Non-destructive Inspection of Food Products Using X-rays
Ishida Corporation Futoshi YURUGI

キーワード:食品検査,X線画像,画像処理,ラインセンサ,直接変換

はじめに
 食品の非破壊検査のためのX 線検査装置の導入が始まったのは,1990 年代の後半である。そして,食品事故の報道が過熱し,それに合わせて消費者の食品に対する安全意識も急激に高まった。実際に,異物の入った食品を食べ,口内を切る,歯が欠けるなどのクレームも発生するなど,その世の中の時流に合わせ,X 線検査装置が本格的に普及し始めた。加工食品などを最終出荷する段階で,包装などの商品形状を損なうことなく,非破壊で検査できることも,X 線検査装置が支持された理由と考えられる。X 線検査装置が普及するに従い,検査したい異物の要望は変わっていった。その概略について図1 に示す。当初は,X 線での減衰が大きい金属系異物での検出が主であり,ネジなどの大きなものから,より小さなものへの検査要望に変化していった。その後は,X 線の減衰が少ない,鉱物やゴム,骨などへの検査要望へと広がってきた。これらに応えるための,検査装置の構造・構成要素・検出原理・性能について説明する。

 

広視野・高エネルギーのX 線CT とその応用例

(株)日立製作所 佐藤克利 高木寛之 関川大介

Development and Applications of High Energy X-ray CT with Large FOV
Hitachi, Ltd. Katsutoshi SATO, Hiroyuki TAKAGI and Daisuke SEKIGAWA

キーワード:コンピュータ断層撮影(CT),産業用 X線 CT装置,撮像視野,大型構造物

はじめに
 産業用X 線CT 装置は非破壊で製品内部の健全性を検証する方法として広く活用されている。(株)日立製作所では当社の原子力発電プラントに適用されている放射線計測技術を発展させ,1990 年代から1 ~ 9 MV の領域の高エネルギーX 線を利用した産業用X 線CT 装置「HiXCT シリーズ」を開発し世に送り出してきた。MV 領域の高エネルギーX 線と,そのX 線を高感度で検出する検出器を開発し,鉄材・銅材・アルミニウム材のような高密度な被検体のCT 撮像が可能という特長を持つ。またこの高エネルギーX 線CT による受託撮像サービスを提供しており,この技術を広く提供している1)。

 X 線CT 技術は,工業用では,まず製品・部品などの非破壊検査用に使われ,鋳物の欠陥,組立製品の不良検出などに使われた。この動向と並行して工業用の製品・部品の設計情報が,CAD によって電子化され,CAD 設計情報とX 線CTによる実物の三次元画像データをコンピュータ上で重ねて製品・部品の検証を実施しようとする動きが出てきた。また現在では,CAD 設計情報との比較だけではなく,X 線CTによって計測した現物のデジタルデータを,設計上流側にフィードバックする現物融合型エンジニアリングが実施されている2)。

 様々な分野で活用が進むX 線CT 技術であるが,取り扱いが容易な数百keV のX 線エネルギーを使用するCT 装置では,X 線焦点の微細化が進み,より高分解能化の方向に進む一方,大型製品を丸ごと撮像したいというニーズも増えている。この高分解能化と大型化は,技術的には相反する関係にあり,これらを同時に達成することは非常に難しい3)。高分解能型ではマイクロフォーカスCT やナノフォーカスCT があり,大型化では中高エネルギーのX線CT がある4)。撮像視野(FOV:Field Of View)と画素サイズでX 線CT 装置をカテゴライズしたマップを図1 に示す。

 撮像視野がφ 1 m を超える大きなCT 装置は,国内ではいくつかの民間企業に設置されているが,一般の利用はできない。海外では,ドイツのFraunhofer IIS EZRT に,自動車を丸ごとスキャン(Full car scan)できるXXL-CT という施設がある5)。大型の被検体を撮像できるこれらのCT 装置は,世界的にも極めて限定的であり,多くのユーザが利用できる環境にはない。このような中で,当社は,受託撮像サービスで扱える撮像視野を従来のφ 600 mm からφ 1400 mm に広げる装置を開発し,大型被検体の撮像ニーズに応えるため2021 年8 月から受託撮像サービスの提供を開始した。本稿では,このφ 1400 mmに対応する大型装置に関して解説する。

 

論文

矩形波渦電流探傷システムを用いた非磁性金属板の表裏面減肉の識別

笹山 瑛由

Classification of Corrosion Flaws on Front and/or Back Surfaces of Non-magnetic
Metal Plates Using a Rectangular Wave Eddy Current Testing System

Teruyoshi SASAYAMA

Abstract
If a rectangular wave excitation current is used for eddy current testing (ECT) instead of a sinusoidal wave, multi-frequency testing can be directly performed, because rectangular waves contain a fundamental wave as well as harmonic waves. Furthermore, taking skin effect into account, it would be possible to identify whether the specimen has a corrosion flaw on the front surface, back surface, or flaws on both surfaces. In this study, we first investigate the method to classify these flaws on non-magnetic metal plates using rectangular wave ECT (RECT) systems with a linear amplifier. Here, we introduce an indicator that each harmonic amplitude is divided by the fundamental amplitude. The results indicate that the amount of the attenuation of the indicator, with respect to frequency, depends on the type of the flaw, and so, we can classify the type of the flaw using the indicator. Subsequently, we develop a RECT system with an inverter, and the same experiment is conducted. The results indicate that the tendency is the same as that using the RECT system with a linear amplifier, which contributes to the high efficiency, low cost, and weight reduction of the RECT.

Key Words: Rectangular wave eddy current testing, Thick plate, Classification, Non-magnetic metal, Corrosion flaw

緒言
 金属などの導体の表面の探傷試験として,渦電流探傷試験(Eddy current testing;ECT)が広く用いられている。さらに近年,非常に低い周波数で行うECT により,表面だけでなく厚板の鋼材の裏面きずを検出する報告がされている1)−3)。ECT では励磁コイルを正弦波電流で励磁して試験することが一般的4)である。一方,誘導機や変圧器等の電力機器は簡素かつ高効率を図るため,近年インバータが広く用いられている。著者らも,正弦波励磁の代わりにインバータ励磁としたECT を報告している5)−7)。特に,矩形波の電流や電圧波形によって励磁するECT を,矩形波渦電流探傷試験(Rectangular wave ECT;RECT)と呼ぶことにする。

 RECT を行う場合には,励磁コイルからは基本波だけではなく高調波が発生する。一般に,インバータ回路では高調波を抑制することが課題となっているが,逆に,その高調波の磁場を積極的に利用すれば,基本波だけでなく高調波による渦電流探傷試験を同時にできる,すなわち,多重周波数渦電流探傷試験(多重周波数試験)4)ができることになる。つまり,RECT によってシステムの簡素化と効率化を達成できるだけでなく,正弦波励磁のECT よりも情報を多量に収集できる。

 ECT では,周波数が高いほど表皮効果が強く現れて表面きずのみ検出できる。よって,高い周波数だけでなく,低い周波数も含めた複数の周波数のデータを用いれば表面きずか裏面きずかを簡便に識別できる。さらに,表裏の両面にあるきずと表面きず,あるいは,裏面きずとも区別できる可能性がある。そこで,まず初めに,基礎検討として一般のECT のような,リニアアンプで構成される渦電流探傷システムにおいて矩形波で励磁を行い,非磁性金属の厚板にあるこれらの減肉きずをRECT によって識別する手法を提案する。その後,リニアアンプの代わりにインバータを用いたRECT システムによって,同様の結果が得られるか否か検証する。

 

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