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機関誌

2022年6月号バックナンバー

2022年6月14日更新

巻頭言

「再生可能エネルギー大量導入に貢献するAE法」特集号刊行にあたって

西ノ入聡

第6 次エネルギー基本計画(2021 年10 月)に,「再生可能エネルギーは,温室効果ガスを排出しない脱炭素エネルギー源であるとともに,国内で生産可能なことからエネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で,重要な国産エネルギー源である。S + 3E を大前提に,再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し,再生可能エネルギーに最優先の原則で取り組み,国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す」との方針が示されました。ここでS + 3E とは,「エネルギー政策を進める上の大原則としての,安全性(Safety)を前提とした上で,エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし,経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し,同時に,環境への適合(Environment)を図る」ことを意味します。なお,これまでのエネルギー基本計画では主力電源として位置付けられてきた火力は,再生可能エネルギーの変動性を補う調整力へとその役割が変化するとともに,燃料を化石燃料から水素やアンモニアに転換させることや,排出されるCO2 を回収・貯留・再利用することで脱炭素化を図っていくことが求められます。

再生可能エネルギーには,太陽光,風力,地熱,水力,バイオマス等があり,すでに国内で多くの発電設備が稼働しており,今後も導入拡大が想定されます。太陽光,風力,水力等の発電設備は,現在の主力電源である火力や原子力とは異なり,立地や発電容量,コストの観点から無人で運用されることが多いことから,スマート保安推進によるメンテナンスの省力化が課題と考えられます。また,地熱開発やCO2 貯留においては,地下分野の計測技術が重要となります。

アコースティック・エミッション(AE)は,材料・構造物内で発生した損傷などにより弾性波が生じる現象であり,その弾性波を検出・解析することによって種々の材料の破壊過程の解明や信頼性評価をリアルタイムで行うことができます。AE 法は各種構造物の健全性評価,地熱開発での貯留計測など,様々な分野で多くの実績を挙げてきており,再生可能エネルギー大量導入時代のインフラメンテナンスのキーテクノロジーであると考えられます。注目を集める洋上風力発電を例に挙げると,アクセスが困難なため遠隔監視が求められ,着床式では基礎の健全性評価が必要であることから,大型コンクリート構造物の健全性評価や無線センサへの期待が高いと考えられます。以上の観点から,今回の特集号では「再生可能エネルギー大量導入に貢献するAE 法」と題して,インフラ構造物のメンテナンスならびに地下分野のAE 計測の分野で第一人者としてご活躍されている方々に執筆をお願いしました。トピックは(1)太陽光および風力発電設備の健全性評価へのAE 法適用事例,(2)大型コンクリート構造物の健全性評価への弾性波トモグラフィ法適用事例,(3)高精度な時刻推定手法を搭載した無線AE センサシステムの概要とAE 源位置標定試験結果,(4)地熱開発におけるAE 法適用事例,(5)石炭地下ガス化へのAE 法適用事例 であり,いずれも大変興味深い内容です。今回の特集号が読者の皆様のご参考になることを願っております。

最後になりますが,お忙しい中,本特集号のために解説を寄稿いただきました執筆者の皆様に,この誌面を借りて厚くお礼を申し上げます。

 

解説

再生可能エネルギー大量導入に貢献するAE法

風力発電設備および太陽光発電へのAE 適用事例

(株)SETLa 西本重人

Application of AE to Wind Turbine Generator Systems and Solar Power
SETLa Co., Ltd. Shigeto NISHIMOTO

キーワード:AE,アコースティック・エミッション,太陽光発電,風力発電,ブレード,軸受

 

はじめに
2021 年10 月に,政府から「第6 次エネルギー基本計画」が発表され,そのテーマの一つとして「S + 3E(安全性+ エネルギーの安定供給,経済効率性の向上,環境への適合)」という基本方針を前提にした取り組みが示されている。その中で,2050 年を見据えた2030 年に向けた政策対応の中心となるのが,再生可能エネルギーの大量導入であり,太陽光発電や風力発電に大きな注目が集まっている。このような背景をもとに,日本各地で風力発電設備等の導入が進められているが,発電コスト等の問題で導入が遅れているのも確かである。この一つの原因として,設備点検や設備故障に伴う発電停止による損失が挙げられる。例えば,洋上風力発電設備に落雷して再起動するまでを考えると,点検のために設備までアクセスするのに要する時間は大きく,再起動までの損失は莫大である。本稿では,これらの問題を解決する手段としてAE法を取り上げ,風力発電設備と太陽光発電設備の健全性評価への取り組みについて,実例を挙げて報告する。

 

弾性波トモグラフィ法による大型コンクリート構造物の健全性評価

京都大学 塩谷智基、麻植久史、奥出信博、小椋紀彦
(独)水資源機構 國居史武、オートデスク(株)福地良彦

Structural Health Evaluation of Large Concrete Structures
Using Elastic Wave Tomography

Kyoto University Tomoki SHIOTANI, Hisafumi ASAUE, Nobuhiro OKUDE and Norihiko OGURA
Japan Water Agency Fumitake KUNISUE
Autodesk Inc. Yoshihiko FUKUCHI

キーワード:ダム,門柱,二値化,蛍光エポキシ樹脂充填,BIM/CIM

 

はじめに
水力発電は発電時にCO2 を排出しない再生可能エネルギーの一つであり,渇水リスクを除けば,自然条件によらずに安定した発電が可能である。水力発電が大規模なものになると,ダムなどの大型コンクリート構造物が必要となるが,その維持管理は少子高齢化に伴う財政不足や人手不足により,厳しい状況になると予想されている。そのため,コンクリート内部損傷を非破壊で広範囲に把握することで,外部に変状が現れる前に対策を実施できる予防保全が重要である。この予防保全を可能とする非破壊手法として,弾性波トモグラフィ法が挙げられる。コンクリートを伝搬する弾性波は,コンクリート内部にひび割れのような劣化・損傷が存在する場合に迂回や散乱を生じる特性を有する。また,トモグラフィ法は,対象領域の内部を格子に分割して,弾性波速度を推定し,画像化することで対象内部を可視化できる手法である。本研究では,実ダム門柱表面のひび割れ伸展を評価するために,弾性波トモグラフィ法を適用した。また,BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)により,門柱内の速度分布と点群データを統合した。これにより,大型コンクリート構造物において,表層と内部を統合した健全度評価の実施が可能となり,予防保全の促進による構造物の長寿命化に貢献できる。

 

構造物ヘルスモニタリング向け無線AE センサシステム

(株)東芝 上田祐樹、渡部一雄

Wireless AE Sensor System for Structural Health Monitoring
TOSHIBA Corporation Yuki UEDA and Kazuo WATABE

キーワード:アコースティック・エミッション,無線,モニタリング,時刻同期,IoT

 

はじめに
橋梁をはじめとする社会インフラ構造物の老朽化が社会問題となっている。国内を例にとると,社会インフラ構造物の多くは高度経済成長期に建設され,建設後50 年が経過するものが急速に増加しつつある1)。そのため,今後必要となる維持管理・更新費は急激に増加していくと想定される。そこで,損傷が顕在化してから対策を講じる「事後保全」から損傷が軽微な段階から対策を講じる「予防保全」へと転換を図ることでライフサイクルコストの費用を抑制し,老朽化していく社会インフラ構造物を適切に維持管理していくことが求められている2)。一方で,国内の人口は2008 年をピークに減少に転じている。中でも生産年齢人口(15 歳から64 歳)は1995年をピークに減少に転じ,2020 年にはピーク時から約15%ほど減少している3)。今後もこの状況が続き,少子高齢化と人口減少がさらに進んでいくと見込まれている。そのため,社会インフラ構造物を人手で管理していくことは,今後厳しくなっていくと予想される。そこで人手にできるだけ頼らずに健全性を判断する手法,例えばセンサを用いたインフラモニタリングの導入が期待されている。

構造物の健全性評価に適用可能な非破壊検査手法の一つとして,アコースティック・エミッション(AE)法がある。固体材料内部での,き裂発生やき裂進展等に伴い生じる弾性波はAE 波と呼ばれ,AE 波の波形形状,発生頻度,発生源位置や伝搬速度には,材料強度に影響を及ぼす損傷の状態が反映される。そのため,AE 波の検出・解析から材料内部の動的挙動を知り得ることのできるAE 法は,ほかの検査手法よりも早い段階から異常を検知できる利点があり,効率的に構造物の健全性を評価する手段として利用されている。例えば加速度測定では損傷に伴う構造物の振動の変化を捉えるため,比較的大きな損傷を対象にしている。一方で,AE 法は損傷そのものから発生するAE 波を捉えるため,損傷の早期検出や経過観察などの面で優れている。これまでにAE 法を構造物ヘルスモニタリングに適用した事例が報告されている4),5)。また,老朽化対策だけでなく,工場や発電設備の運用効率向上のためのスマート化においてもAE 法適用の検討が進んでいる6)− 11)。

AE 検出システムは通常,増幅率が40 dB 以上の低ノイズ増幅器や,サンプリング周波数がMHz オーダの高速AD コンバータ等,高度な信号処理が必要であるため,アナログ・デジタルとも大規模な信号処理装置が必要とされる。さらに,AE 波の到達時刻を基に発生源の位置標定解析を行うことを考えると,μs オーダでセンサ間の時刻同期が必要である。例えば,コンクリートにおいて1000 mm 間隔でセンサを配置したと仮定する。このとき,健全なコンクリート内のAE 波速度が4000 m/s 程度であることを考慮すると,センサ間隔の1%の精度で位置を特定するためには,2.5 μs の精度で到達時刻同定を行う必要がある。このような高度な信号処理装置を担保する十分な電力と時刻同期のために,電源と信号線はともに有線で接続されるのが一般的であった。しかし,計測現場では,電源の確保やケーブルの敷設に伴う作業量が課題となっていた。近年,このAE 分野においても無線によるアプローチが報告されてきている12)− 15)。このような背景に鑑み筆者らは,高精度な時刻推定手法を搭載した無線AE センサシステムを開発した。本システムでは位置標定に用いる複数のセンサをそれぞれ無線端末化し,独立したセンサノードとした。また,低消費電力を考慮した回路構成とすることで,電池動作を可能とし,小型で設置自由度の高い端末を実現した。本稿では,無線AE センサシステムの概要とAE 源位置標定の試験結果について紹介する。

 

地熱開発におけるAE法の適用

東北大学 森谷祐一、東北大学流体科学研究所 椋平祐輔

AE Methods for Geothermal Development
Tohoku University Hirokazu MORIYA
Institute of Fluid Science, Tohoku University Yusuke MUKUHIRA

キーワード:震源位置標定,坑井内 3軸計測,信号処理,地熱

 

はじめに
地熱を電源とするCO2 の排出量は,13 g-CO2/kWh であり石炭火力943 g-CO2/kWh,LNG 火力(複合)474 g-CO2/kWhと比べて少ない1)。日本の地熱資源量は,アメリカ,インドネシアについで3 位であり,その量は2300 万kW と推定されている2)。このように,我が国での地熱発電は脱炭素社会に向けて大きな可能性があるものの,発電量は国内の0.2%ほどしか占めていないのが現状である。国は2030 年度までに地熱発電の設備容量を150 万kW に拡大する目標を立てているが,現在およそ60 万kW で,1996 年以来横ばいの状況が続いている3)。とはいえ,地熱は,発電だけでなく農業や魚の養殖,地域暖房にも活用できるエネルギー源であり,脱炭素社会の実現に貢献できるポテンシャルを有していることに変わりはなく,開発は続けられていくと考えられる。

地熱発電の場合,地下に掘削した井戸から蒸気や熱水を取り出し,その力を利用して発電をする。シングルフラッシュ発電,バイナリ発電など井戸から生産される蒸気や熱水の量に応じた方法で発電され,使用された蒸気や熱水は再び地下に戻される。地熱開発では,水,熱,き裂が豊富に存在する地熱貯留層の位置や規模を明らかにする必要がある。地熱兆候(温泉,噴気など)で有力地域を特定した後,一般的にはまず磁気探査や重力探査による広域調査が行われる(表1)。地域がさらに絞られたところで,電磁探査,電気探査による比抵抗構造探査が行われ,周囲の地層と比べてき裂密度が高く,熱水も豊富であることから比抵抗が小さい地熱貯留層の位置が特定される。地下から熱を取り出すためには,直径数十cm の井戸が掘削され,井戸の深度は1000 m ~ 5000 m であることが多い。井戸が有力な地下き裂に到達すると蒸気や熱水が自噴することがあり,その力を活用して発電を行う。蒸気や熱水の生産を続ける,あるいは熱水等を地下に還元する際,貯留層内で圧力変化や流体移動が発生し,き裂がせん断滑りを起こすことがある。地熱開発におけるAE 法は,このAE(地下のAE は,微小地震と呼ばれることも多い)を利用して貯留層を計測するもので,貯留層内き裂の位置や生産時の貯留層挙動をほぼリアルタイムで把握できることから極めて有効な技術である。本稿では,地熱開発におけるAE 法の適用についていくつかの技術の概要を紹介する。

 

石炭地下ガス化のAE とその応用

室蘭工業大学 板倉賢一

AE from Underground Coal Gasification( UCG) and Its Application
− Visualization of Underground Gasification Reactor and AE Thermometry −

Muroran Institute of Technology Ken-ichi ITAKURA

キーワード:石炭地下ガス化(UCG),ガス化炉,震源標定,水素製造,カーボンリサイクル

 

はじめに
石炭地下ガス化(UCG:Underground Coal Gasification)の起源は古く,周期律表で有名なメンデレーエフがそのアイデアを書き残していると言われている。1930 年代後半から欧州各地で盛んに実験が行われ,特に旧ソ連では1940 年代に炭坑労働者の過酷な労働条件を改善するために活発な研究が進められた1)。その後,操業段階に入るが環境問題や十分な計測制御技術が確立できず,さらには安い石油の台頭によりウズベキスタンのアングレンでのみ操業が行われてきた。

わが国でも1970 年代にロシアの技術を基に,大学や炭鉱等でUCG 実験が行われたが,石炭産業の衰退と共に途絶えている2)。

その後,地球規模の温暖化や環境問題が取り上げられるようになり,加えて炭層内を自在に穿孔(ボーリング)できる技術が確立すると,UCG は再び注目を集めるようになった。坑内掘り炭鉱や露天掘り炭鉱に比べ省エネで環境負荷が少なく,図1 のように地表から降ろした2 本のボーリング孔を深部炭層内で連結(リンキング)できるようになり,各国で実証試験や実操業が始まった3)。しかしこれも長続きせず,シェールガス開発や石炭火力による二酸化炭素(CO2)排出抑制の流れの中で,現在は南アフリカと中国のみがUCG の操業を継続している。

わが国には地表下1200 m までに約300 億トンの石炭が残っており,さらに深部には膨大な量が賦存している4)。現状でこれらの未利用石炭資源を利用しようとすると,UCG が最も有望な方法であろう。ただし,発生するCO2 を分離回収してカーボンニュートラルにする必要がある。CO2 の処理は後述するとして,わが国のように断層や褶曲が発達した炭層にUCG を適用する場合,一般的なリンキング方式(本稿では,2 本のボーリング孔を連結させ,一方を注入孔,他方を生産孔とする方式をこう呼ぶことにする)では難しく,また,大規模な開発も見込めない。そこで本研究開発では,1 本のボーリング孔に酸化剤(空気や酸素,水蒸気の混合ガス)を送り込む内管(以下,同軸管と呼ぶ)を挿入し,内管とボーリング孔との間隙から生産ガスを回収する同軸方式を採用することにした(図2)。ただし,同軸方式はガス化効率(石炭の持つ発熱量に対する生産ガスの発熱量の比)が悪いため,導入された例は極めて少ない。

また,わが国の場合,未利用石炭の多くが人の生活圏の近くにあり,ガスの地表への漏洩や地盤沈下,地下水汚染などの安全性の問題が課題としてある。

本研究では,以上のガス化効率や安全性の課題を克服し,自然環境に配慮した独自のUCG 技術の開発およびUCG によるエネルギーの地産地消(ローカルエネルギー供給)を目指している。その要となる技術に,AE(Acoustic Emission)計測がある。ただし,実操業段階では3 軸ジオフォンを用いたMS(Micro-Seismicity)計測が採用されることになる。

以下には,前述の安全でガス化効率の高い同軸型UCG 技術を確立するために実施してきた代表的な実験と,その結果を紹介する5)− 11)。

 

論文

平板屈曲部のラム波反射・透過特性に関する理論的検討

石井陽介、足立忠晴

Theoretical Analysis of Lamb Wave Reflection and Transmission at a Curved Corner
Yosuke ISHII and Tadaharu ADACHI

 

Abstract
The two-dimensional elastic wave propagation in an isotropic bent plate with a curved corner is analyzed theoretically to investigate the reflection and transmission characteristics of Lamb waves at the corner section. The modal amplitudes of reflected and transmitted Lamb waves, when a monochromatic single Lamb wave mode impinges on the corner section, are calculated by the modal decomposition method with the impedance matrices. Furthermore, the reciprocity relation between the incident and reflected/transmitted Lamb wave modes is derived. The reflection and transmission of the lowest-order symmetric and antisymmetric modes below the cut-off frequencies of higher-order modes are found to be markedly influenced by the frequency, bend angle, and bend radius.
In particular, the reflection and transmission coefficients are shown to have local minima and maxima on the frequency axis due to the multiple reflections at the boundaries between flat and corner regions.

Key Words:Ultrasonics, Lamb wave, Reflection and transmission coefficients, Modal decomposition method, Reciprocity relation

 

緒言
薄板構造物の健全性や信頼性を確保するための超音波非破壊検査では,板を長手方向に伝わるガイド波の伝搬特性(散乱挙動,伝搬速度,減衰率等)を用いた探傷や力学的特性評価が一般的であり,これまでに多くの理論的および実験的研究が行われている1)。一方で薄板構造物には,例えば航空機のハット形ストリンガー構造に見られるように平板を屈曲させた箇所が多く存在し,このような屈曲部で欠陥が発生することが多いため,その非破壊検査が重要である。

屈曲部の検査方法として,屈曲部形状に適合する曲面型ウェッジと接触型超音波探触子を用いたパルス・エコー法2)が挙げられる。この手法は屈曲部からの反射波を直接受信することが可能であり,測定信号の解釈も比較的容易であるといった利点を有するが,例えば周辺構造の影響により屈曲部へ直接アクセスできない場合には適用が困難である。もし屈曲部の検査にガイド波を利用することができれば,このような課題の解決につながると期待される。

平板屈曲部におけるガイド波の伝搬特性に関しては,Shear Horizontal(SH)波(振動方向が伝搬方向と板厚方向に垂直なガイド波モード)の反射・透過特性について数値的および実験的検討が報告されている3),4)。ラム波(伝搬方向と板厚方向の面内で振動するガイド波モード)については,曲げ半径が一定で直角曲げの場合の数値的および実験的研究5)が行われているものの,より一般的な曲げ角度や曲げ半径に対する伝搬特性は明らかにされておらず,実際の薄板構造物の検査への適用が困難となっている。

著者らは,ガイド波伝搬の非線形特性に着目した屈曲部の高感度な非破壊検査手法(二次高調波発生挙動を用いた塑性ひずみの評価等)の確立を目指している。例えば,応力−ひずみ関係に弱い非線形性を有する単一平板中をSH 波が伝搬する場合,非線形効果によってラム波が発生することが知られており6),屈曲部を有する板でも同様の現象が起こると予想される。こういった場合の波動伝搬挙動を理解するための基礎としても,屈曲部におけるラム波の線形伝搬特性の理論的把握は重要な課題である。

そこで本研究では,平板屈曲部にラム波が入射したときの反射および透過特性について,モード分解法を用いた理論的検討を行う。2 章でその定式化を行い,さらに異なるモードの反射・透過係数の間に成り立つ相反性を解析的に導出する。3 章で数値計算例を示し,最低次ラム波モードの反射・透過係数に及ぼす周波数,曲げ角度および曲げ半径の影響を検討する。4 章で本研究をまとめる。

 

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