logo

<<2049>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2023年1月号バックナンバー

2023年8月5日更新

巻頭言①

「新年のご挨拶」

井原 郁夫

新年あけましておめでとうございます。2023 年が皆様にとりまして幸多き一年となりますよう,心よりお祈り申し上げます。

昨年6 月に会長に就任し半年が経ちました。昨年の当協会の活動を振り返りつつ,年頭の所感を述べさせて頂きます。

当協会ではウィズ/ポストコロナを見据え,学術行事ならびに非破壊試験技術者の教育・認証をはじめとする各事業の正常化,活性化を目指した諸活動を推進してまいりました。社会全体にウィズコロナの行動様式が定着していることもあり,当協会では活動を停止することなく,一定の水準で事業を展開することができました。コロナ禍の不自由な状況にもかかわらず,当協会へのご理解とご協力を賜りました皆様に改めて感謝申し上げる次第です。一方,事業が回復基調に向かい平時の状況に戻ることは望ましいことではありますが,その運営形態を必ずしもコロナ禍以前のものに戻すのではなく,コロナ対応で得た経験やノウハウを生かした新しい形の事業展開を検討することも重要と考えています。当面,各種の会議,講習会,講演会については,その重要性に加えて,オンラインと対面のそれぞれの長所と短所を勘案した上で開催形式を決定することとしています。昨年10 月の秋季講演大会は,感染対策を講じた上で,3 年ぶりの対面開催とし,成功裏に終えることができました。国際連携活動に関しては,諸外国の情勢を踏まえ,昨年8 月末に第7 回日米非破壊試験シンポジウムを対面開催いたしました(今回のホストは米国非破壊試験協会(ASNT),開催地はハワイ島,参加者は米国51 名,日本27 名)。現地でのASNT 関係者との密接な交流を通じて,日米の未来志向の相互理解を深めることができました。さらに,10 月末から11 月にかけて開催されたASNT 年次大会(開催地はナッシュビル)では,各国の代表者との友好を再確認するとともに,ASNT との相互承認について両者間で前向きな議論を交わすことができました。現在,相互承認の早期の実施に向けた事務レベルの調整を進めているところです。また,日本が会長と事務局を務めるAPFNDT(アジア・太平洋非破壊試験連盟),同じく日本が議長国と幹事国を務めるISO/TC 135(非破壊試験)各SC(分科委員会)への対応も継続しており,国際認証や国際交流に支障をきたさないよう努めております。今後の展開が注目されるNDE4.0に関しては,第2 回国際会議(開催地はベルリン)に参加するなど,積極的な参画と情報収集を継続しています。本年度も引き続き,教育・認証事業や学術活動はもちろんのこと,国内外での諸活動を維持,発展させるよう取り組む所存です。 

日本非破壊検査協会はおかげさまで昨年10 月に創立70 周年を迎えました。当協会ではステークホルダーの皆様との一層の交流とさらなる連携をはかるべく,年度を通したマラソン方式での記念事業を展開しています。昨年6 月には内閣総理大臣表彰受賞特別講演を,10 月25 日の創立記念日には創立70 周年記念事業特別講演を開催し,本年6 月6 日には記念式典・講演会・祝賀会を予定しております。また本年7・8 月号の機関誌にて創立70 周年記念号を発刊する予定です。皆様におかれましては,これを機に,当協会のミッションステートメント「社会に価値ある安全・安心を提供」の意義をそれぞれの立場で再確認頂き,今後の活動の新たな展開に繋げて頂ければ大変有難いと考えております。10 年後の創立80 周年に向け,JSNDI の強みを生かし,JSNDI だからできること,JSNDI にしかできないことを意識した取り組みを皆様と共に実践してまいる所存です。

ポストコロナ社会への移行,地政学的緊張の高まり,地球環境問題の顕在化,自然災害の激甚化など世界規模の不安の中で,人々の生活を支えている社会インフラ,大型プラントや交通・機械システムの予防保全の重要性が改めて強く認識されています。非破壊検査技術はそのような安全対策を着実に実現するための基盤技術として重要な役割を担い続けます。当協会は,社会に価値ある安全・安心を提供するための事業活動をグローバルに推進し,これにより社会貢献を果たしてまいります。本年もこれまで同様,皆様のご理解とご協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。

 

巻頭言②

「cosα法及び二次元検出器によるX線応力測定法」特集号刊行にあたって

佐々木敏彦

この度,cosα 法を用いたX 線応力測定に関する第2 回目の特集号を掲載する機会を得ることとなりました。第1 回目は2020 年12 月号に「特集 二次元検出器を用いた新しいX 線応力測定・材料評価技術」と題して掲載され,本技術の基礎から市販された実際の装置,産業界での応用状況など12 テーマに纏められました。今回はその第2 弾となり,その内容は測定結果の信頼性評価理論,装置の性能,産業面への応用,測定の高速化を目指した新技術の開発研究に関するものなどとなります。本特集号を通し,本技術が産業応用と共に装置への新技術の導入やさらなる基礎研究の深化に関して広がりを見せている様子が窺えると思います。

X 線応力測定法は比較的古い歴史を持つ技術であり,1920 年代半ばに行われたH.H.Lester らの研究が始まりとされています。これはW.C.Röntgen によるX 線の発見から30 年後になります。1937 年には日本でも既に西原らが同様な研究を行っています。なお,当時のX 線検出器には写真フィルムが用いられていました。その後,第二次世界大戦を経てX 線回折装置が登場し,今日の標準法となるsin2ψ法の研究がA.L.Christenson らによってなされました。以後,このsin2ψ 法が現在のX 線応力測定法の標準法となっています。

そうした中,1978 年に平らによってcosα 法が提案され写真フィルムを用いて研究がなされました。その後,イメージングプレート(IP)が登場し回折X 線(デバイリング)の二次元計測が実用化しました。1990 年頃にはIP を用いたcosα 法の研究が吉岡らによって行われ,1994 年以降,金沢大学において同様な研究が継続的に行われました。そうした成果を2009 年の日本科学技術振興機構(JST)による金沢大学新技術説明会でプレゼンしたことを契機に,市販装置の上市が実現しその後の普及に繋がっていきました。その結果,cosα 法は従来技術に比べ測定時間及び装置サイズがいずれも約1/10 以下になることが示され,可搬型で実機適用が可能になるなどにより,現在,日本を中心に普及が進んでいます。

以上のように,cosα 法は測定理論,測定装置共に日本のアイデアが核となる技術であり,この分野での世界貢献も期待されます。そうした背景の下,2014 年に日本非破壊検査協会においてcosα 法の研究会「現場指向X 線残留応力測定法研究委員会」が設立され,本技術の発展と普及を目指して活動してきました。委員会のメンバーには大学・公的機関,X 線装置メーカと共に多くのユーザ企業の技術者が加わっています。

今後,より多くの応力測定や残留応力に関してご関心を持つ読者が本特集号を契機に本技術を利用されることを研究会一同望んでおります。

 

解説

cosα法及び二次元検出器によるX線応力測定法

cosα法による測定応力値の区間推定

岩手医科大学 江尻 正一  東洋電機製造(株) 大場 宏明  金沢大学 佐々木敏彦

Interval Estimation for Measured Stress Values by cosα Method
Iwate Medical University Shouichi EJIRI
Toyo Electric Mfg. Co., Ltd. Hiroaki OHBA
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:非破壊検査,強度評価,X線応力測定法,cosα法

 

はじめに
cosα 法1)−7)の測定基礎式は,sin2ψ 法7)−9),2D 法10)などの測定法同様,X 線入射による回折角とひずみ関係を表すブラッグの法則,被測定物の応力と弾性ひずみ関係を表すフックの法則そして回折装置に依存する座標変換によって導かれる。その際,被測定物の結晶方位の巨視的等方性,応力状態の一様性などを仮定する。さらに,cosα 法における応力決定の式がcosα の1 次式となることを利用して,測定データから算出されるcosα 線図の傾き値から,応力値を求める。応力決定の際は 回折角に関係する角η を一定とみなしている。

cosα 法の利用が広がるとともに,さらなる精度向上や測定結果の誤差解釈が課題として注目されつつある。そこで,本稿では,cosα 法の測定理論に注目して,測定基礎式と応力決定法の導出法をふり返り,次にcosα 法で決定される測定応力値の区間推定を行うことで,統計解析上,いかなる仮定が存在するかを示す。さらに測定例からみえるcosα 法の課題について解説する。なお,本稿では測定データから算出されるcosα 線図による応力決定のみを扱う。

 

X 線応力測定を用いた転動疲労の評価事例(第2 報)

NTN(株) 藤田  工  嘉村 直哉  長谷川直哉  金沢大学 佐々木敏彦

Evaluation Examples of Rolling Contact Fatigue by Using X-ray
Stress Measurement (Part 2)

NTN Corporation Takumi FUJITA,Naoya KAMURA and Naoya HASEGAWA
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:X線応力測定法,強度評価,判定基準,疲労破壊,残留応力

 

はじめに
 転がり軸受(以下,軸受)の転動疲労は,残留応力,残留オーステナイト量(以下,残留γ 量)等の材料物性の変化を伴ないながら進行する現象である1)。そのため,残留応力,半価幅,残留γ 量を評価できるX 線応力測定は,転動疲労の研究に古くから用いられてきた2)−5)。近年,二次元検出器を用いたX 線応力測定装置(以下,回折環分析装置)が開発され,垂直・せん断応力の三軸応力が迅速かつ簡便に測定できるようになったため,最近の転動疲労の研究でも活用されている6)− 16)。

本稿では,X 線応力測定を用いた転動疲労の評価に関連する内容として,古くから活用されてきた接触応力の推定技術と最新の研究事例を紹介する。

 

cosα法を用いた浸炭部品の再生技術

日立建機(株) 金澤 智尚

Remanufacturing Technology for Carburized Parts by cosα Method
Hitachi Construction Machinery Co., Ltd. Tomohisa KANAZAWA

キーワード:cosα法,残留応力,残留オーステナイト,浸炭部品,リマニュファクチャリング

 

はじめに
 18 世紀後半に端を発した産業革命から,250 年以上経過した。その間に,地球上の建築物や機械設備をはじめとした人工物の数は,自然由来の動植物の数よりも増加の一途を辿っており,2020 年時点で相対比較すると約1.6 倍の差がある1)。このような状況下において,資源の大量消費や気候変動の懸念は,世界的な大きな社会課題となっている。その中で,環境に配慮した循環型社会への貢献は,産業界において多種多様な取り組みが行われている。特に,3R の中のリユースに分類されるリマニュファクチャリング(再生)は,サブパーツの再利用により省資源効果に優れると同時に,他の資源循環手段よりも高い経済性を有することから,環境と経済の両立を可能とするゆえに,産業界において注目を集めている2)。

再生事業は,図1 の通り航空機,自動車,建設・鉱山機械の順に市場の成長が顕著である。この中でも,建設・鉱山機械業界では,長期稼働かつ定期メンテナンスが必要となるため,休車時間やコストの低減および環境性に優れたサービスが顧客の関心事となっている。特に環境面においては,鉱山機械に搭載されている主要コンポーネントの新品部品を再生品に置き換えることで,ライフサイクルあたりでの地球温暖化ポテンシャル(GWP)は,約194(ton-CO2eq./LC)もの低減が示唆されている3)。このような背景もあり日立建機(株)では,1970 年代から部品の再生事業を展開している。一方で,再生品の中でも原動機や減速機に多用される浸炭部品の歯車やベアリングは,長年にわたり目視判定や寸法測定のみでの再利用判定となり,外観で無損傷品でも,リスク低減を見越し再利用化が進んでいない。

以上より,日立建機(株)と物質・材料研究機構(NIMS)では,要素試験と市場から回収した歯車から採取した試験片に対して,cosα 法によるX 線回折(XRD)法を用いて,機械的・組織的な観点より再生技術に特化した損傷評価手法を開発・実用化した。

 

X 線を利用した焼入れ鋼の非破壊硬さ評価

石川県工業試験場 鷹合 滋樹

Non-destructive Evaluation of Hardness on the Quenched Steel Using X-ray
Industrial Research Institute of Ishikawa Shigeki TAKAGO

キーワード:非破壊試験,強度評価,鋼,熱処理,材料試験

 

はじめに
 X 線は1895 年のW.C. レントゲンからの発見を機に,医療分野での診断や産業分野での検査・分析等に多くの発展をもたらした。その特長である物体への透過性を利用した内部観察やnm オーダの波長を利用した元素分析や結晶構造の評価が該当する。産業分野では,構造材料として用いられている鋼材における溶接部材や鋳造製品の探傷・欠陥検査1),2),合金成分の分析や金属組織の定量測定に活用されている3)。社会に利用される工業製品では,人々の安全・安心に寄与する重要項目として材料強度がある。中でも,引張強さが代表的な項目のひとつである。これは外部負荷荷重に対する抵抗力を示すものであり,引張試験や硬さ試験を行い,破断や変形に対する応力(断面積あたりの力)を測定する必要がある。

表1に,鉄鋼材料に対する破壊検査4)−7)と非破壊検査1)−3),8)に分けてまとめた例を示す。X 線による検査は,非破壊・非接触であるため,所定の試験片形状に加工する必要もなく,外部負荷をかける必要がない。また,比較的短時間に行えることから製品の全数検査も可能になる。材料強度は,X 線評価項目のみで決定されるわけではない。しかし実際の製造現場では,所定の材質や機械加工条件で生産されており,対象物の基本的物性は共通するため,特定の範囲内での非破壊評価が可能になる。X 線を用いた材料強度評価であれば,材料を切断・加工・破壊することなく,検査工程の自動化が実現し,生産者の負担軽減など多方面に有益性が見込める。

本稿では,軸受等の各種機械部品に用いられるJIS-SUJ2 を対象に,特定の熱処理・加工条件において,X 線による非破壊硬さ評価を実施した事例を解説する。鋼の硬さと引張強さの近似的換算表9)も一般的であることから,非破壊で材料強度をセンシングすることで産業界並びに利用する市場分野に様々な効果を期待したい。

 

cosα法の設置誤差が与える影響

パルステック工業(株) 野末 秀和

Effect of cosα Method Installation Error
Pulstec Industrial Co., Ltd. Hidekazu NOZUE

キーワード:X 線,残留応力,cosα法,ポータブル,現場測定

 

はじめに
 高度経済成長期より60 年が経ち,当時造られた橋梁やトンネル,構造物やプラントなど,老朽化が進み,橋梁については2033 年には全体の63%が50 年を超えるとも言われている。橋梁やトンネルの長寿命化は急務とされ,架け替えや大規模な修繕に至る前に対策を実施する予防保全が推進され,維持管理等のメンテナンスが重要視され,現場での施工,計測が求められている1)。

橋梁等の現場での疲労き裂の点検,調査は近接目視での調査を基本とし,発見されたき裂部の表面の磁粉探傷試験(MT)を実施,表面で見えない部分については超音波探傷試験(UT),渦電流探傷試験(ET),アコースティック・エミッション(AE)等の計測が実施されている。しかし何れもき裂を定量化する装置となる。残留応力値を容易に把握できるようになれば,品質管理や安全対策,予防保全に大きく貢献することができる。

X 線残留応力測定2)は結晶のひずみを計測することからき裂発生の前段階での問題を発見することができる。

機械や構造物の製造工程では,一般に機械加工や熱処理,溶接,表面処理など様々な加工が施され,その際に残留応力が生じる。この残留応力は,製品の寸法精度に悪影響を及ぼすだけでなく,耐久性や疲労強度にも影響を与える。したがって,作用応力の方向や分布状況と共に残留応力の大きさも把握し,事故やトラブルに対する事前対策を講じる必要がある。

我々の開発した,cosα 法3)−6)のX 線残留応力測定装置は,特に小型であることから様々な現場でオンサイト計測が可能であるが, 実際に現場で本装置を用いて測定を行おうとすると,測定対象物の形状,測定場所,環境により理論どおり正しく設置できないことが多々発生した。その場合,測定した応力値に誤差が発生する可能性があり,場合によっては,全く異なる値が得られる可能性もある。また逆に,理論どおりの設置に重点を置くと,設置に非常な時間を費やしてしまい,現場での測定が所定の時間に終われない可能性がある。そこで本研究では,技術者数人を対象とし目視で設置させ測定したときの応力値の確からしさについて実験を行った。

検証には,パルステック工業製のμ-X360 を使用し,工業用に多用される鉄鋼材料S45C を用いて,4 点曲げ負荷試験により負荷をかけながら,正しく設置した場合と設置に誤差を持たせた時を比較し,測定における設置誤差が測定した応力値に与える影響を明確化したので報告する。図1 に残留応力測定装置を示す。

 

SOIPIX 検出器INTPIX4NA を用いた放射光実験施設 Photon Factory におけるX 線残留応力測定

高エネルギー加速器研究機構 西村龍太郎  金沢大学 佐々木敏彦

X-ray Residual Stress Measurement at the Photon Factory Synchrotron Radiation
Facility Using the INTPIX4NA SOIPIX Detector

High Energy Accelerator Research Organization Ryutaro NISHIMURA
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:非破壊検査,放射線,放射線検出器,X線応力測定法,鋼

 

はじめに
 X 線を用いた金属材料の表面残留応力測定は,金属結晶の表面に直径1 ~ 2 mm 程度の細径X 線ビームを入射して得られた回折環の形状から結晶構造の歪み量を検出し,フックの法則を用いて残留応力を算出する非破壊検査手法である。本手法については,これまで実用化された装置の殆どにおいてX 線管球を用いたコーンビーム状の特性X 線を含む白色光が線源に使用されており,入射X 線の単色性・直進性はあまり重視されていない。しかし,入射X 線の単色性・直進性は,回折環像の鮮鋭度に影響するため,このようなX 線管球装置での測定では回折環形状の決定精度の限界により測定精度が低下していると考えられる。そこで,我々は高エネルギー加速器研究機構(KEK)つくばキャンパスに設置されている放射光実験施設Photon Factory(PF)と二次元半導体検出器SOIPIX 1)を利用した,X 線ビームエネルギーおよびビーム径を選択可能なcosα 法2)残留応力測定システムを開発し,高精度測定の実現に向けた研究を進めている。本稿においては開発中の測定システムと得られる測定結果のX 線管球装置との差異について紹介する。

 

SOIPIX を用いたX 線応力測定装置の基礎検討と検査適用評価

(株)不二越 乾  典規  金沢大学 佐々木敏彦  滋賀大学 三井 真吾

Fundamental Study on X-ray Stress Measurement Equipment Using SOIPIX
and Evaluation of Application of Inspection

NACHI-FUJIKOSHI CORP. Noriki INUI
Kanazawa University Toshihiko SASAKI
Shiga University Shingo MITSUI

キーワード:X 線応力測定法,残留応力,鋼,工業用X線装置,SOIPIX

 

はじめに
 非破壊検査方法の一種であるX 線応力測定法は,結晶構造を有する材料表面の応力絶対値を非破壊かつ非接触で得られる利点がある。近年では二次元検出器としてイメージングプレート(IP)を搭載し,cosα 法1)によって応力決定する測定装置が市販化され,60 秒ほどの測定時間で応力が得られることとなり,急速に普及してきている。

構造物や機械加工部品において,残留応力は種々の材料特性に影響を与える。特に機械部品の製造工程では,き裂進展を抑制し高寿命化に寄与する圧縮残留応力を熱処理やショットピーニングなどの工程により付与するが,製品一個あたり数秒のタクトタイム内で応力を実測することは困難であり,残留応力は抜き取り検査や工程条件のもと管理されている。

そこで本稿では,検出器と回路部を一体化させた半導体検出器であるSOIPIX 検出器2)を測定ヘッドに搭載したX 線応力測定装置を開発し,1 ~数秒での回折環計測および応力決定が可能な装置を実現した。併せて,開発機の基礎検討としてFe 応力標準片および種々の鋼材から成る四点曲げ試料にて測定精度検証を行った。

 

SOI 検出器を用いたcosα法による残留応力の高速マッピング

金沢大学 佐々木敏彦  石川県工業試験場 新谷 正義  金沢大学 柳 嘉代子
滋賀大学 三井 真吾  高エネルギー加速器研究機構 西村龍太郎  新井 康夫

High-speed Mapping of Residual Stress by cosα Method Using SOI Detector
Kanazawa University Toshihiko SASAKI
Industrial Research Institute of Ishikawa Masayoshi SHINYA
Kanazawa University Kayoko YANAGI
Shiga University Shingo MITSUI
High Energy Accelerator Research Organization Ryutaro NISHIMURA and Yasuo ARAI

キーワード:X線応力測定,残留応力,溶接,鉄道レール,三軸応力

 

はじめに
 残留応力は,機械加工や熱処理などによって発生して材料内部に残留し,機械や構造物の疲労特性,破壊強度等に影響を及ぼすことが知られている。このため,残留応力の評価と制御は工業上重要な要素の一つとなっている。

X 線応力測定法は,表面部の残留応力の測定に有効な方法の一つである。現在の標準的なX線応力測定装置では,検出器としてシンチレーションカウンター(SC),位置敏感型比例計数管(PSPC)のいずれかを用い,測定データをsin2ψ 法1)と呼ばれる方法によって応力決定が行われる。また,X線応力測定時間にはそれぞれ,20 分,10 分程度を要している。これに対し,デバイリングの二次元情報を利用し,cosα 法2)−4)を適用して応力をX線測定することも可能になっている。現在,イメージングプレート(IP)とcosα 法を用いた方式により,測定の高速性(測定時間約1 分)と可搬性が進み,これまで適用が困難であった生産現場や屋外での利用が進んできている。

一方,新井ら5)はサイエンス分野での応用を目的として,新しい半導体型のX線検出器(SOI 検出器)を開発している。この検出器によれば,IP に比べて高精細な画像が得られ(最小ピクセルサイズ8 μm),X 線応力測定を超高速,高精度に行える可能性や,将来的には一層の小型化と軽量化によって装置の可搬性向上も期待できる。

著者らは,X 線応力測定へのSOI 検出器の適用に関する基礎的な検討を行ってきており,これまでに,本技術によって鋼材の応力測定が1 s 以下で可能になることなどを示した6)− 13)。本稿では,本方式の持つ高速性を生かし,鋼材サンプルの表面における比較的広範囲の残留応力分布のマッピング測定に応用した例7),10)について紹介する。

 

to top