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機関誌

2023年6月号バックナンバー

2023年8月5日更新

巻頭言

「SDGs に貢献する赤外線サーモグラフィ試験」特集号刊行にあたって

遠藤 英樹

近年,様々な場面でSDGs(持続可能な開発目標)への貢献を問われることが多い。従来から赤外線サーモグラフィ試験は,ビルの外壁のはく離調査や様々なプラントの設備異常を検出する手段としてSDGs に貢献していることはよく知られているが,意外と自身が専門とする分野以外での適用状況を知る機会は少ないように思われる。今回の赤外線サーモグラフィ試験特集号は,SDGs をキーワードに,日々の健康管理から,宇宙の謎に挑む望遠鏡まで,幅広い分野で実際に活用されている赤外線サーモグラフィ試験の一端を知ることができるものである。

人類は数年前からCOVID-19 という新型コロナウイルスと戦っている。コロナ禍の中,赤外線サーモグラフィ装置は,感染者を効率よくスクリーニングする手段として思いの外早く実用化された。迅速な立ち上げの背景には,工業分野より一足早く始まった医学分野での50 年以上の検討の歴史がある。解説では,発熱者のスクリーニング用途以外の試みとして外科手術への適用が今後の展開として示されており大変心強い。

住宅は“生涯に一度の買い物”という言葉がある。最近は,夏は涼しく,冬は暖かい省エネルギーな高断熱住宅が流行っているようである。今回は,建物の断熱性を評価する赤外線サーモグラフィ試験の規格から原理,フィールド試験の結果までが示されておりポイントを得た解説となっている。

最近は,再生可能エネルギーが注目されている。特に再生可能エネルギーの固定価格買取制度がスタートした2012 年から“メガソーラー”と呼ばれる大規模な太陽光発電所が各所に設置された。その後,可動部がなくメンテナンスフリーと思われた太陽光発電所でのトラブルが顕在化したことから定期的なメンテナンスが義務化されることになった。解説では,通常の赤外線サーモグラフィ装置だけでなくドローンに搭載された赤外線サーモグラフィ装置によって撮影された太陽光発電所の不具合事例が示されており,一般の電気設備の保全に携わる技術者にとどまらず,“ドローン”の保全利用を志す技術者にも興味深い内容である。

瀬戸大橋など海峡を跨ぐ長大橋は,我々にとって欠くことのできない社会インフラである。しかし,容易には架け替えができないため,今の橋梁をできる限り長く安全に使用できるよう管理することが重要である。そのため,橋梁を管理する企業では,ユニークな設備保全技術を開発し,実橋に適用している。長大橋に合わせて構築された熱画像の撮影や解析を効率的に行うシステムが紹介されており,検査の自動化を考える際の参考となる内容である。

最後に,我々が住む地球は宇宙に存在する一つの惑星であり,宇宙全体から見ると人類はちっぽけな存在である。そのちっぽけな人類が美しい星空を見上げれば感動するとともに,“天文学”という言葉にも大いなるロマンを感ずる。宇宙には今でも様々な謎があり,その謎を解明するために世界中の天文学者が協力して望遠鏡などの観測装置を開発・運用している。解説では,赤外線の波長域における天体観測の基礎から,本特集号の表紙の画像を撮影したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡まで紹介されており,赤外線を用いた計測に関する深い思慮と多くの示唆を感じ取ることができる。

SDGs というキーワードを用いて,時代の要請に応えて日々活用されている用途から,人間の知的好奇心を刺激し,宇宙の謎に挑む天文学の世界まで,赤外線計測という共通の基盤を持つそれぞれの専門家の視点を持って紹介された。これまでそうであったように,それぞれの分野で技術革新がなされ,共に刺激を受けながら非破壊試験分野としても発展することを期待するところである。

 

解説

SDGs に貢献する赤外線サーモグラフィ試験

医学におけるサーモグラフィ-発熱スクリーニングとサーモグラフィ検査の展望-

兵庫医科大学 薬学部 芝田 宏美
兵庫医科大学 医学部歯科口腔外科 川邊 睦記
神戸常盤大学 保健科学部医療検査学科 堀江  修
兵庫医科大学 医学部臨床検査医学講座 小柴 賢洋

Thermography in Medicine − Prospects for Fever Screening and Thermographic Testing −
Faculty of Pharmacy, Hyogo Medical University Hiromi SHIBATA
Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Hyogo Medical University Mutsuki KAWABE
Department of Medical Technology, Faculty of Health Sciences, Kobe Tokiwa University Osamu HORIE
Department of Clinical Laboratory Medicine, Hyogo Medical University Masahiro KOSHIBA

キーワード:サーモグラフィ検査,発熱スクリーニング,新型コロナウイルス,人工知能

 

はじめに
 2019 年12 月,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最初の患者が中国の武漢で確認され,その後,世界は大きく変わった。サーモロジーも新たな感染症によって奔走したキーワードの一つである。パンデミックの発熱スクリーニングにサーモグラフィが広く活用されるようになり,一般の人々にも周知されることになった。しかし,測定と判定のガイドラインがなかったこと,多種多様の装置の乱立は,社会に混乱をもたらした。意に添わない結果があたかもサーモグラフィの欠点であるように批判されるようになった。装置を使う人間の知識不足がサーモグラフィの欠点とされることは本末転倒である。このような背景の中,神戸大学阪上隆英教授・兵庫医科大学小柴賢洋教授によって「発熱者スクリーニングサーモグラフィの運用ガイド」が立ちあがることになる1)。運用ガイドの目的は,発熱者のスクリーニングにおける正しいサーモグラフィの利用促進と啓蒙であるが,もう一つの成果も果たすことになった。それは,未知の感染症に立ち向かうために,工学と医学の研究者が協働するツールとなったことである。

本稿では,COVID-19 パンデミックを現在の視点とし,それ以前の過去の医学分野のサーモグラフィ検査の歴史を振り返り,そのうえで,工学と医学が一丸となって将来のサーモグラフィのSDGs について考えることを目的としている。

 

建築物外壁の断熱性評価

(一財)建材試験センター 萩原 伸治

Evaluation of Thermal Insulation for Building Elements
Japan Testing Center for Construction Materials Shinji HAGIHARA

キーワード:断熱性,現場測定,熱貫流率,熱伝達率,熱画像

 

はじめに
 政府は,温室効果ガスの排出削減,低炭素社会へ向けた取り組み等,民生部門における対策を整備し,具体的な立案や方向性を検討している。また,太陽光等の創エネ性能,断熱性・日射侵入率等の外皮性能,空調・給湯・照明等の設備性能等,様々な評価対象を設け,種々の対策を講じている。住宅・建築物の分野においては,新築物件について省エネ法の義務化が段階的に進められているが,既存の住宅・建築物への対応も重要な課題であり,耐震改修とともに断熱改修・省エネ改修等を実施することによる支援や施策及びライフサイクルを通じた低炭素化の普及,推進等も含め,検討が行われている。

このように,近年は国または自治体からの補助制度等社会的な影響もあり,低炭素や省エネに関連して断熱性能に対する意識が高まっており,新築物件については建築物省エネ法によりおおむね整備され,設計段階から適切に運用される状況にある。一方,既存の住宅・建築物に対しては,建築図書等が十分管理されていないケースもあり,建物の仕様等を図面から追うことができず,建物の性能を把握することが困難な状況が散見される。そこで,建物の性能等を把握するために,実際の建物に対して現場で断熱性評価を実施する必要がある。このような現場における断熱性能の評価として,建築部位の定性的な評価手法のISO 6781,定量的な評価手法のISO 9869-1 及びISO 9869-2 1)が整備されている。また,2022年にはISO 9869-2 を対応国際規格としたJIS A 1495 2)が制定された。

このJIS A 1495(以下,熱画像法)は,現場において建築部位の表面温度分布を赤外線カメラによって測定し,その測定対象部位を通過する熱流量を推定することによって熱貫流率を求める定量的な測定方法である。この熱画像法は,窓・ドア等の開口部がない不透明な建築部位(壁等)を測定対象とし,熱容量の小さい木造等のフレーム構造建築物に適用可能な手法であり,断熱性能の欠損領域を特定するためのスクリーニング試験の位置づけとなる。

熱画像法による断熱性評価は,持続可能な開発目標(SDGs)に照らすと,9(産業と技術革新の基盤をつくろう),11(住み続けられるまちづくりを),13(気候変動に具体的な対策を)に該当し,また,省エネ化への取り組み,及び断熱性の確保による快適な住環境の観点から3(すべての人に健康と福祉を)と7(エネルギーをみんなに,そしてクリーンに)にも該当すると思われる。本稿では,この熱画像法の測定原理・概要1),2),及び測定方法の標準化に向けた取り組みの中で実施した測定事例3)−5)について解説する。

 

赤外線を用いた太陽光発電設備の検査技術

(株)エネテク 野口 貴司

Inspection Technology for Solar Power Generation Equipment Using Infrared Rays
ENETECH Co.,Ltd. Takashi NOGUCHI

キーワード:赤外線カメラ,ドローン,ホットスポット,アーク放電,クラスタ故障

 

はじめに
 東日本大震災に端を発した電力不足に際し,不足電力を補うと同時に再生可能エネルギーの普及促進を目的として,2012 年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が制定され,それまで主流だった住宅用の小規模な太陽光パネル(モジュール)の太陽光発電設備から,「産業用」と言われる数千~数万枚といった大規模な太陽光発電所が全国各地に建設されるようになった。特に1000 kW(1 MW)の出力を超えるような太陽光発電所は「メガソーラー」とも呼ばれる。

FIT の固定買取価格は設置年度ごとに下がるため,近年はFIT を利用した太陽光発電所の建設は減ってきているが,近年の国際的な電気料金の高騰により,最近は電気料金の削減を目的とした「自家消費型太陽光発電設備」の設置が急増している。FIT を利用した発電設備は,「野立て」と言われる地上設置型の太陽光が主流だったが,自家消費型太陽光は「屋根置き型」の設置が主流となってきており,太陽光設備の設置方法の流れも変わりつつある。

太陽光発電設備は形態を変えながら普及が進む一方,高度な半導体技術の結晶でもある太陽光パネルの適切な検査方法は,未だに明確な技術が確立されているとは言い難い。一因として挙げられるのは,発電量が日射量(天気)に左右されるため,発電が悪い場合に,設備に不具合があるのか,天候に起因するものか,の判別をすることが難しいということが挙げられる。

しかし近年,赤外線を使った検査が徐々に普及してきたことにより,様々なタイプの不具合を,赤外線サーモグラフィを中心とした非破壊検査で検出できるようになってきた。また,従来のハンディタイプのIR(赤外線)検査機器から,ドローンを用いた最新のIR 検査技術を取り入れることによって,劇的に進化を遂げつつある。このドローンに搭載した赤外線カメラは,近年設置が増えている屋根置き型太陽光発電設備にも応用が進んでおり,太陽光設備の新たな検査技術となりつつある。本稿では,赤外線を用いた非破壊検査の様々な検査手法について,事例を含めて解説させて頂く。

 

赤外線サーモグラフィを用いた鋼床版のき裂検出技術と橋梁点検への適用

本州四国連絡高速道路(株) 横井 芳輝  杉山 剛史  溝上 善昭
神戸大学 阪上 隆英  滋賀県立大学 和泉 遊以

Development of Fatigue Crack Detection in Steel Slabs using Infrared
Thermography and Application for Bridge Inspection

Honshu-Shikoku Bridge Expressway Co., Ltd. Yoshiteru YOKOI, Takeshi SUGIYAMA and Yoshiaki MIZOKAMI
Kobe University Takahide SAKAGAMI
The University of Shiga Prefecture Yui IZUMI

キーワード:赤外線サーモグラフィ,温度ギャップ法,鋼床版,疲労き裂,橋梁点検

 

はじめに
 本州と四国を結ぶ3 ルートの道路(以下,本四道路)の運営・維持管理を行う本州四国連絡高速道路(株)では,持続可能な社会に貢献し続けるため,200 年以上の長期にわたり利用される橋を目指し、維持管理技術の高度化・効率化を進めるとともに、SDGs の取り組みや脱炭素化社会の実現やDX の推進等、次世代に向けた取り組みを行っている。この実現のためには,ロボット化やICT,AI 等の技術を駆使した維持管理技術の高度化・効率化が不可欠であるため技術開発を進めている1)。中でも,技術者による目視点検を主体とした橋梁点検の高度化・効率化や,目視では把握困難な部位や変状を捉えて構造物の老朽化に適切に対応していくことが必要であり,非破壊検査技術の橋梁点検への実装が大きく期待されている。本稿では,これまでに技術開発を行い,本四道路の橋梁点検に実装されている技術のうち,赤外線サーモグラフィによる疲労き裂検出について紹介する。

海峡を跨ぐ長大橋や架設制約が多い都市高速などでは,死荷重の軽減や架設工期が短いなどの理由により鋼床版が多く採用されている。本四道路でも主に海峡を跨ぐ長大橋において死荷重軽減を目的に鋼床版が適用されており,合計延長約26 km,床版面積約470 千m2 の多くのストックを保有している。

近年,鋼床版では,大型車両を原因とした疲労損傷が多く報告されている。本四道路においても主に鋼床版のデッキプレートとU リブのすみ肉溶接部に数十箇所のき裂を確認しており,適宜補修等を行っているところである2)。

疲労損傷は,損傷が軽微な早期に発見することが補修コストや構造安全性の観点から重要となる。疲労き裂の点検は,遠望からの目視点検では双眼鏡を用いたとしても検出は困難であることから,従来の点検においては,溶接部に近接して目視点検により塗膜割れの有無を確認することが基本であった。また,塗膜割れを検出した場合は,図面や輪荷重位置から疲労き裂の存在を疑い,近接点検用の足場を設置し,必要に応じて既存塗膜を撤去し磁気探傷等によりき裂を検査することとなる。なお,疲労き裂の疑いがある塗膜割れから実際に疲労き裂が発見される割合は10 ~ 20%程度と低いことが知られており3),疲労き裂と関係しない塗膜割れは多い。これらのことから,従来手法による点検は非効率かつ高コストであることが課題であった。

そこで,U リブ鋼床版に発生するき裂のうち,発生数の多いデッキプレートとU リブのすみ肉溶接部のビードき裂(図1,図2)に対し,赤外線サーモグラフィを用いた温度分布計測に基づき,塗膜を除去することなく遠隔から非接触・非破壊で,高効率・高精度に検出可能な手法及び装置について開発した4)。また,開発した手法及び装置を用いて,本四道路の疲労き裂発生の疑いのある橋梁を対象に平成26 年度から実際の橋梁点検において実施している。本技術の開発内容,並びに同手法を点検へ展開した内容について述べる。

 

中間赤外線で宇宙を見る

岡山理科大学 本田 充彦

Observing the Universe in the Mid-infrared
Okayama University of Science Mitsuhiko HONDA

キーワード:中間赤外線,天体観測,観測装置,冷却,熱放射

 

はじめに
 今回,SDGs に貢献する赤外線サーモグラフィと天文学というお話をいただき,普段SDGs やサーモグラフィについてあまり意識したことがない天文学者として,改めてそれらとのつながりについて考える機会となった。

まず,SDGs との関わりであるが,天文学は社会的な要請というよりは,そもそもかなり個人的な知的好奇心に基づいた研究活動という意識が強い。ともあれ,その成果は我々の科学的な世界観の構築や教育に役立っており,SDGs の趣旨に合致していると思われる。また,国際共同プロジェクトも多く,世界中の天文学者が協力して作りあげた種々の望遠鏡や観測装置が,宇宙の謎を解明していることは,人類の知の無限の可能性を感じる。と同時に,この果てしなく広大な宇宙の中のちっぽけな人類の存在を痛感し,寂しく感じることもある。我々は宇宙で孤独な存在なのだろうか? 今では夜空に見える星の多くに惑星が存在することが分かってきているが,まだ地球以外に生命の存在の確実な証拠は見つかっていない。多くの研究者が地球以外の惑星や太陽系外惑星に生命の兆候を探そうとしているのは,そのような人類共通の疑問の答えを探したいからなのだろう。ドレイクの方程式という,我々の銀河系で人類とコンタクトする可能性のある地球外文明の数を推定する式があり,その中の「技術文明が通信をする状態にある期間L(技術文明の存続期間)」を,ドレイク自身は希望をもって10000 年と見積もった。人類の実績としてのそれは高々100 年程度である。人類がSDGs を達成して,L が太陽の残り寿命である50 億年以上であってほしいものである。

サーモグラフィと天文学も関係が深いが,普段あまり意識することがない。そもそもサーモグラフィとは熱分布を図として表した画像であり,天体の表面温度分布を調べるということは天文学でも基本的な仕事なので,意識するしないにかかわらずサーモグラフィ的なことを天文学者は行っている。ただ,一般的なサーモグラフィで想像されることは,我々の身の回りの常温程度の地上物体から放射される熱放射を測定することで,非破壊・非接触で温度を求めることである。ウィーンの変位則から常温程度(約300 K)の地上物体が最も強く放つ光は波長10 μm ぐらいの中間赤外線である。したがって世間一般ではサーモグラフィと言えば中間赤外線となる。なお,学問分野によってはこの波長を遠赤外線/長波長赤外と呼ぶ場合もあるが,天文学では波長3 ~ 40 μm ぐらいの赤外線を中間赤外線と呼び(常温程度の物体からの熱放射が強いので熱赤外と呼ばれる場合もある),それより短い近赤外線とは区別される。天文学者の感覚では,宇宙は3~ 数億K 以上もの様々な温度をとりうるので,必ずしも赤外線だけが物体の温度を求めるのに適した波長ではない。ともあれ,ここでは一般的なサーモグラフィで使われている中間赤外線波長における天文学や天体観測技術について紹介してみることとしたい。その前に,サーモグラフィの基本的な原理と熱放射(黒体放射)について簡単に復習しておきたい。

 

論文

表面SH 波音弾性法のための非対称性な見かけの弾性定数を考慮したFDTD 法に関する研究

新宮 朋史,村田 頼信

Study on the FDTD Method Considering the Asymmetric Apparent Elastic Constant
for Surface SH-wave Acoustoelasticity

Tomofumi SHINGU and Yorinobu MURATA

 

Abstract
Surface SH-wave acoustoelasticity can measure residual stress non-destructively. However, surface SH-wave acoustoelasticity cannot be simulated at present because the asymmetric apparent elastic constant due to acoustoelastic effect cannot be considered. In this study, to develop ultrasonic simulation for surface SH-wave acoustoelasticity, we proposed FDTD considering the asymmetric apparent elastic constant. Simulations were performed for surface SH-wave acoustoelasticity. The result for surface SH-wave acoustoelasticity was consistent with theory for only the proposed method. The results of the simulations suggest that the proposed method works effectively.

Key Words:Ultrasonic, Surface SH-wave acoustoelasticity, Simulation, FDTD method, Residual stress

 

緒言
 構造物に加わる実体応力を正しく評価することは構造物の安全性を確保するために重要である。非破壊的に構造部材の実体応力を測定する有望な方法に弾性波を用いた音弾性法があり,これは弾性波の伝搬速度が応力状態によって変化する音弾性効果を利用するものである。音弾性法の一つである表面SH 波音弾性法は,直交する二つの表面SH 波の相対速度差から主応力差を求める手法であり,試料表面近傍の平均主応力差を精度よく測定することが可能である1)。この手法は,集合組織の影響をうけないため,初期状態が分からない場合でも主応力差を測定でき,供用中の構造物の応力測定に適している。

現在,超音波現象の解明やセンサ設計のために,様々な超音波伝搬シミュレーション法が使用されており,超音波を利用する音弾性法においても,いくつかシミュレーションが実施されている。シミュレーションを実施している研究として,非線形性まで考慮された機械設計・構造設計用の応力解析ソフトを使用する方法2)−5),音弾性効果まで考慮した超音波シミュレーションを作成した研究6)−8)が挙げられる。前者の研究は,機械設計・構造設計に向けたソフトであり,超音波の吸収境界を作ることができない点や,超音波センサまで含めた解析が不得意という点が課題として挙げられる。一方,後者の研究(以下,これらの後者の研究を従来研究と記す)は,縦波など一部の音弾性効果を再現可能であるものの,表面SH波の音弾性効果は検討不可能である。表面SH 波音弾性法においては,音弾性効果によって生じた非対称な見かけの弾性定数が重要であり,この部分まで考慮しなければならない。

そこで,本研究では,表面SH 波音弾性法を対象とした超音波シミュレーション法の開発を目的とし,本稿では,非対称な見かけの弾性定数まで考慮した時間領域有限差分法(FDTD 法:Finite Difference Time Domain method)を提案する。そして,表面SH 波音弾性法を対象として,従来の見かけの弾性定数の非対称性まで考慮しないシミュレーションと比較した結果を報告する。

 

平板中の残響を利用したラム波の時間反転による集束特性と欠陥位置同定の基礎的検討

森 直樹,髙橋雅史,林 高弘

Fundamental Study of the Focusing Characteristics and the Defect Localization
by Time Reversal of Lamb Waves Using Reverberation in Plates

Naoki MORI, Masashi TAKAHASHI and Takahiro HAYASHI

 

Abstract
Time reversal focusing of Lamb waves using an actuator and a sensor was investigated for a thin rectangular plate. A numerical simulation was performed for the time-reversed Lamb waves in a homogeneous plate. A single Lamb mode was selectively emitted and detected in a frequency range below the cutoff frequencies of higher-order modes. The calculated waveform at the sensor in the forward simulation was time-reversed and re-emitted from the sensor location in the backward simulation. As a result, the re-emitted waves exhibited focusing if the reflected wave components from the plate edges were sufficiently considered in the time reversal process. The numerical simulation shows the effect of the mode type and the waveform length on the focusing peak. Based on the numerical results, experiments were carried out for an aluminum alloy plate with piezoelectric disks placed on the plate surface. The waveforms were measured in the plates with and without a pseudo defect, and the scattered waveform was extracted by subtracting both signals. The numerical simulation for the time reversal of the measured waveforms showed that focusing appeared at the locations of the wave source and the defect on the plate surface, while artifacts were confirmed at other locations.

Key Words:Time reversal, Guided waves, Plate structures, Focusing, Defect localization

 

緒言
 航空機など大型の薄肉構造に対するヘルスモニタリング方法として,ガイド波による手法が注目されている。ガイド波はバルク波に比べ拡散減衰が小さく,長距離の伝搬が可能であるため,少数のアクチュエータ/センサによる健全性評価が可能になる。しかしながら,薄板中のガイド波は分散性や多モード性を有するため,その伝搬挙動は複雑であり受信波形の解釈は容易ではない。分散性を有する波動に対する信号処理法として,これまでにウェーブレット変換による時間−周波数解析1),2)や,分散性補償3),4)が提案されている。しかし,これらの手法では構造中を伝わるガイド波の分散関係を事前に把握しておく必要がある。

分散関係を直接利用せず,その補償が可能である手法として時間反転法5)−8)が挙げられる。一般的な時間反転法では,構造内のある点P で励起した波を周囲の複数の位置Qi(i =1,2,…)で測定し,その信号の時間反転波形を位置Qi から再送信することで,元の波源位置P に時間的・空間的な集束を発生させることができる。先行研究では,薄板を伝搬するガイド波の一種であるラム波に時間反転を適用することで,欠陥の評価が試みられている9)− 15)。Park ら11)は,ピッチ・キャッチ法で取得したラム波の波形を時間反転し,波源位置で得られた波形の時間集束特性を調べることで,送信子/受信子間に存在する損傷の評価を行った。Wang ら10)は,0 次反対称(A0)モードを模擬欠陥に入射し,生じた散乱波A0 モードを開口合成による疑似的な時間反転で空間集束させ,欠陥の位置を同定した。Mori ら12)は,欠陥でのモード変換で生じたラム波を時間反転すると欠陥位置に集束が生じることを数値解析で示し,ベースラインが不要な欠陥位置同定法を提案した。しかし,一般的な時間反転法では多数のセンサによる受信波形の取得が必要となる。

一方,構造内の欠陥以外に端部などで生じた反射波や散乱波を積極的に利用することで,少数のセンサによる受信でも時間反転集束が可能となる16)− 18)。均質平板中のラム波を対象とした先行研究としては,1 組の圧電振動子によるA0 モードの時間反転集束について数値解析を行ったPark 18)の研究が挙げられる。しかし著者らの知る限りでは,端部反射を利用したラム波時間反転に対する検討は十分でなく,またその欠陥評価への応用は報告されていない。

本研究では,平板中に配置した少数のセンサによる欠陥位置同定の実現に向けて,端部での反射を考慮したラム波時間反転法に関する数値解析および実験的検討を行う。本論文では特に,時間反転する波形長さやラム波モードの種類が集束特性に及ぼす影響を明らかにし,本手法の欠陥位置同定への適用可能性について報告する。

 

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