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井原 郁夫
当協会は,1952 年(昭和27 年)10 月25 日に非破壊検査法研究会として発足し,1955 年11 月17 日に文部省(現在の文部科学省)より社団法人として認可され,2012 年4 月1 日に公益法人制度改革に伴う登記変更を経て一般社団法人日本非破壊検査協会となり,昨年10 月に研究会発足から数えて70 周年を迎えました。その草創期から今日に至るまで当協会を育み,築き上げてこられた諸先輩方のご努力に改めて敬意を表するとともに,会員の皆様ならびに関係各位の長きにわたるご支援ご協力に心より感謝申し上げます。
70 周年に際して,当協会の歴史を知り,先達が残した足跡を再認識することは,温故知新の観点からも重要で意義深いと考えます。当協会の歴史を振り返る上で有益な情報源として「日本非破壊検査協会50 年史(2002 年発行)」が挙げられます。これは非破壊検査技術の発展の歴史に学び,技術の伝承を図るとともに21 世紀の社会的課題に向けた新しい展開の指針を示すことを目的として,当協会創立50 周年の記念事業の一環として編纂された書物です。非破壊検査法と関連組織の誕生,非破壊検査技術の50 年間の変遷,産業分野での応用の概況,さらに当協会の事業活動の変遷や関連団体との関わりなどが詳しく網羅されています。当然ながら掲載情報は発行年以前のものとなりますが,今に通じる事柄も少なくないように思いました。同様に,機関誌「非破壊検査」のバックナンバーにも示唆に富む情報が掲載されています。原点回帰した上で当協会の今を客観視し,将来を見据えるためにも,時折,ご覧になってはいかがでしょうか。
さて,当協会のこの10 年を振り返ると,特筆すべき重大な出来事として新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが挙げられます。2020 年から3 年間にわたる感染拡大により当協会の運営は大きく影響を受けました。ほぼすべての事業活動は制限され,財政面でも大きな打撃を被りました。しかし,当協会では会員の皆様をはじめとした関係各位が一丸となり感染対策に取り組み,コロナ禍の危機を見事に乗り越えました。この3 年を経て構築された組織運営や事業推進におけるロバストな体制は当協会の大きな財産になると確信しています。なお,コロナ禍以前は,東日本大震災直後の余波を大きく受けることもなく各事業は順調に運営され,特に2016 年に制定されたJSNDI ミッションステートメント,JSNDI バリュー及びJSNDI アクションに基づいて国内外での活発な活動が展開されていました。それらの活動はこれからも継続されますが,その際にはコロナ禍で培われたノウハウや体得した経験知を活かして頂ければと思います。
ところで,日本が抱えている深刻な社会課題の一つに社会インフラや大型プラントの老朽化問題があります。切迫する巨大地震や頻発する異常気象による災害リスクを踏まえると,その安全対策は待ったなしの課題となっています。当協会では2000 年頃からこの老朽化問題を21 世紀の喫緊課題として捉え,その克服に向けた非破壊検査の社会的役割を謳うことで,我々のプレゼンスを示してきました。非破壊検査技術はそのような安全対策を着実に実現するための基盤技術として今後も重要な役割を担い続けます。皆様におかれましては,70 周年を機に,当協会のミッションステートメント「社会に価値ある安全・安心を提供」の意義をそれぞれの立場で再確認頂き,今後の活動の新たな展開に繋げて頂ければ大変有難いと考えております。10年後の創立80 周年に向け,当協会の強みを活かした取り組みを皆様と共に実践してまいる所存です。
最後に,創立70 周年記念特集号の発刊にあたり,ご協力頂いた皆様に感謝の意を表するとともに,引き続き会員の皆様のより一層のご支援ご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
創立70 周年記念事業実行委員会委員長,川崎重工業(株) 緒方 隆昌
Activities of the Japanese Society for Non-Destructive Inspection
over the Last Decade
Kawasaki Heavy Industries, Ltd. Takamasa OGATA
キーワード:日本非破壊検査協会,国際活動,学術,教育,出版,標準化,認証
はじめに
日本非破壊検査協会は,戦後まもない1952 年に非破壊検査法研究会として発足し,その3 年後には社団法人の認可を受け,さらに,2012 年に新制度における一般社団法人への登録を経て今日に至っている。当協会は,学会機能と産業界機能を併せ持つ特長ある団体として,学術,教育,認証,標準化,出版と様々な事業を行い,各産業の横串となって,現在,約5 百の企業団体を含む会員数は約3 千,技術者資格認証数は,世界最大規模の約9 万となった。直接のステークホルダーの人数は,少なくとも数十万人規模にまで成長,発展したと認識している。
これらの実績は,当協会の創立60 周年(2012 年10 月)までについて参考文献にまとめられてきた1)−9)。本稿では,2012 年11 月以降の当協会の活動実績について,関連データとともに概説する。
2012 年は,その後の10 年間の我が国の経済産業あるいは科学技術の発展に大きな影響を与えた第二次安倍内閣が発足した年である。景気拡大期間は2018 年10 月まで71 ヵ月続き,戦後二番目の景気拡大期間となったが,一方で,生産年齢人口の減少も続く中,経済産業及び科学技術関連の世界的な順位は低下したとの評価が大勢である。また, 2020 年に新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)が社会活動を大きく変容させることとなり,当協会活動へも大きな影響をもたらした。
このような社会的背景の下で,当協会はこの10 年間,積極的な展開を続けてきた。その結果,多くの学協会が会員数,資産,活動量等を減らす中,多くの指標でその値を堅持又は発展させた。特に,2017 年に制定したJSNDI ビジョンを背景に,新規領域あるいは発展への挑戦を続け,一部その効果が出始めている。
式典委員会委員長,神戸大学 阪上 隆英
The 70th Anniversary of the Japanese Society for Non-Destructive Inspection
Kobe University Takahide SAKAGAMI
2022 年10 月25 日に創立70 周年を迎えた一般社団法人日本非破壊検査協会の創立70 周年記念行事が,2023 年6 月6 日(火)学士会館(東京都千代田区)において行われた。午前には海外の友好団体代表者による創立70 周年記念事業−海外招待特別講演―が開催され,午後には創立70 周年記念式典ならびに祝賀会が盛大に行われた。以下にその概要を記す。
(一社)日本非破壊検査協会 顧問 大岡 紀一
History and Future of Domestic and Overseas Industrial Standardization Related
to Non-destructive Testing in the Industrial Field
The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA
キーワード:各種非破壊試験,国際標準化,産業標準化,ISO規格,関連 JIS,ISO/TC 135
はじめに
国内外の非破壊試験についての産業標準化に関する情報共有を念頭に,これまで関わってきた試験研究などを通して,また,主な国内規格を取り上げて,非破壊試験・検査と産業標準化の歩み及びこれからの産業標準化について述べる。
(一社)日本非破壊検査協会(以下JSNDI という)の50 年史によると,発足当時,試験・検査を適正に実施するためにきずを検出する試験・検査技術者の必要性が求められていた。学術面と現場において試験・検査する技術面の両方の能力が試験・検査技術者に求められ,非破壊試験・検査に関する規格についての内容の研究で非破壊試験が始められたとの記述がある。放射線関連で1955 年(昭和30 年)11 月に第1 分科会がスタートし,そこで,「X 線による溶接部検査の JIS 規格案の標準規格化,工業用X 線装置のJIS 化,IIW(International Institute of Welding:国際溶接学会)の溶接部標準写真作成の件などが討議された」旨からも当時JSNDI において関連規格が主なテーマであったことが伺える1)。
東京工業大学 名誉教授 小林 英男
Non-destructive Inspection Supporting Longevity Society of Man and Substance
Professor Emeritus, Tokyo Institute of Technology Hideo KOBAYASHI
キーワード:非破壊検査,非破壊試験,長寿社会,工学,医学,産業,医療
はじめに
日本非破壊検査協会が,今年で創立70 周年を迎えました。おめでとうございます。私は現在81 歳です。協会とは50 年以上のお付き合いになります。1975 年,今から48 年前に,協会誌「非破壊検査」に破壊力学入門という連載講座を執筆したのが,本格的なお付き合いの始まりです1)。寿命が長いということは,めでたいことです。本稿では,人と物の寿命を取り上げます。そして,物の寿命に関連して,非破壊検査の役割と,多少は技術的な内容を私の経験として記述したいと思います。年寄りですから,かなり独善的です。ご容赦ください。
2. 人と物の長寿社会の構築
2.1 人の高齢化社会と物の高経年化社会
日本社会の21 世紀の課題は,人(ひと)の高齢化(高齢化社会)と物(もの)の高経年化(高経年化社会)である。
老人の人口が若人の人口を上廻り,雇用,保険,年金という経済的な問題が解決に程遠い。
一方,物の高経年化が進行している。21 世紀初頭に50 年を経過する主要インフラストラクチャを,図1 に示す。
1940 年代に太平洋戦争を経験し,建物,道路のような主要インフラストラクチャのすべてを失った。そこから建設が開始し,若戸大橋,地下鉄,東海道新幹線などが建設された。一方,経済高度成長期という時代があって,化学プラント,石油精製プラント,火力発電プラントの建設を立ち上げ,原子力発電プラントの建設に至った。すなわち,20 世紀の後半は,建設の時代だった。
しかし,物の寿命は,具体的に示されていない。仮に寿命を50 年とする。図1 に示す下の軸が竣工年で,上の軸が寿命,すなわち更新期になる。現実には,更新は行われていない。したがって,21 世紀は,今さらながら,寿命の定量的な数値を考えざるを得ない時代となった。