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機関誌

2020年4月号バックナンバー

2020年4月1日更新

巻頭言

「動的応力・ひずみの測定技術の発展」特集号刊行にあたって
 足立忠晴

 本特集号は応力・ひずみ測定部門に関連した内容として,「動的応力・ひずみ測定技術の発展」を取り上げた。近年,自動車の衝突安全性に関連して,動的応力・ひずみによるエネルギー吸収性能が求められている。また航空機,特にジェットエンジンへのバードストライクにも高い安全性が求められており,この問題は一般に広く知られるようになってきている。従来は故障しても諦められていたスマートフォン,タブレット端末などの携帯情報機器の落下衝撃後にも高い信頼性が要求されるようになってきている。このようなことから,動的応力・ひずみの問題は日常生活において重要視されるようになってきている。
 以上のような背景として,動的応力・ひずみの測定は重要であることが認識されているが,測定技術には多くの問題が現在でも存在している。時間変化しない静的な応力・ひずみ測定においては,力のつり合い,モーメントのつり合いが成立することを前提とされて,特殊な環境下でなければ様々な手法が確立されており,その中でも代表的なひずみゲージ試験の技術に関連したいくつかの日本非破壊検査協会規格NDIS が規定されている。しかし,時間変化する応力・ひずみの測定においては,試験体の加速度の影響を無視することができず,単なる外力と支持反力に対する力のつり合い,モーメントのつり合いが成立しないために測定が困難となることが多くある。また,材料特性にもひずみ速度依存性,粘性効果などと呼ばれる動的な変形の影響が見られ,静的な試験結果から得られる特性とは異なった現象が現れる。これらを解決するために長年にわたって様々な研究が行われてきている。
 このような背景から,ほぼ3 年ごとに開催されている衝撃工学に関する国際会議(The International Symposium on Impact Engineering,ISIE)が行われ,測定技術に関しても研究発表が多くなされ,議論されている。昨年2019 年7 月にオーストリア グムンデンにおいて第10 回ISIE が開催されたこともあり,最新の動的応力・ひずみの測定技術の最新動向について本特集号の企画として提案し,この国際会議に参加した研究者を中心に6 名あるいはグループ:公立諏訪東京理科大学 板橋正章先生,防衛大学校 山田浩之先生,金沢大学 樋口理宏先生,立命館大学 立山耕平先生,豊橋技術科学大学 石井陽介先生・須貝航平様・足立忠晴に解説記事の執筆を依頼した。本特集を構成するに当たり,執筆者の先生方には多大なご協力をいただきましたことに感謝いたします。

解説

動的応力・ひずみの測定技術の発展

ワンバー法による動的引張り応力−ひずみ曲線の測定
公立諏訪東京理科大学 板橋 正章

Measurement of Tensile Stress-Strain Curves
at High Strain Rate with the One Bar Method
Suwa University of Science Masaaki ITABASHI

キーワード:材料試験,ワンバー法,高ひずみ速度,動的応力−ひずみ曲線,自動車,国際規格

はじめに
 ワンバー法(One Bar Method)1)は日本国内の自動車業界,鉄鋼業界では広く知れわたった固体材料の高速引張り試験方法である。この実験手法を開発したのは当時,東京大学宇宙航空研究所教授だった河田幸三であり,東大定年後に東京理科大学に移った際に最初の卒研生であった私に「ゴムパチンコ式の高速引張り負荷装置を設計してください」と指示した。それまでのワンバー法による実験では,動的負荷をアイゾット衝撃試験機を改造した振子や回転円板で生み出していた2)。もっとコンパクトで安全に扱いやすいのはパチンコだというアイディアを思いつかれたのであろう。動力源となる強力なゴムひもだけは当たりを付けてくれていた。あとはもう一人の卒研生とともに一生懸命に図面を引いたが,まさかその実験装置をその後30 年を超えてなお使い続けることになるとは思ってもみなかった。本稿では,ワンバー法の原理を説明するとともに,実際の試験装置および測定システムを示す。また,ワンバー法だけでなく,他の実験技術による動的応力−ひずみ曲線の測定においても重要となる試験片の装着方法をいくつか紹介する。さらに,ワンバー法により測定された動的応力−ひずみ曲線の代表例も示す。最後に,世界的に広く使われているスプリット・ホプキンソン圧力棒法(国内では「ホプキンソン棒法」と呼ばれることが多い。英語ではSplit Hopkinson Pressure Bar method と呼ばれ,SHPB method と略される)3),4)との差異についても最後に説明しておくが,どちらも一長一短があり実際に使おうとする場合の判断の要点について述べる。

インデンテーションにおける応答曲面法を用いた材料強度のひずみ速度依存性評価
防衛大学校 山田 浩之

Evaluation of Strain Rate Dependence of Material Strength Using
Response Surface Method in Indentation

National Defense Academy of Japan Hiroyuki YAMADA

キーワード:インデンテーション,ひずみ速度,強度評価,材料試験,逆問題,有限要素法

はじめに
 材料を機械構造物などに使用する場合,そのヤング率や降伏応力,引張強さ,疲労強度などの機械的特性が安全設計を行うために必要となる。機械的特性の中で,降伏応力,引張強さのような材料強度に着目すると,一般的に,これらは負荷されるひずみ速度(ひずみの時間的変化の割合)によって変化する。そのため,動的や衝撃と呼ばれる高ひずみ速度の負荷を受ける構造体においては,その構成材料の強度のひずみ速度依存性の評価が必須と言える。このひずみ速度依存性を評価するために,準静的から動的,衝撃の幅広いひずみ速度の範囲において材料試験が行われている。なお,本稿では,ひずみ速度10−1 s−1 以下を準静的,100 ~ 102 s−1 を動的,102 ~104 s−1 を衝撃と称する1)。
 基本となる材料試験は,単軸での準静的となる。準静的特性は,万能試験装置のような市販されている一般的な材料試験装置で得ることができる。しかし,高ひずみ速度領域である動的および衝撃特性は,通常の材料試験装置では評価が難しい。主に細長い棒における弾性応力波の伝搬を利用した方法と,油圧システムを利用したものなどが挙げられる。前者の中で,世界的に使用されている衝撃変形試験がスプリット・ホプキンソン棒(Split Hopkinson Bar: SHB)法2)−4)である。近年,ISO 26203-1:2018 5)やJIS Z 2205:2019 6)としてその試験方法や試験に必要な試験片形状,装置などが規定されている。しかし,産業界に幅広く普及しているとは言い難い。専門技術を必要とすることから,常に精確な結果を得ることが困難な点を課題として有しており,残念ながら特殊な試験方法として受け取られているのが現状である。基本的には,SHB 法による評価が結果の精度を考えると利用されるべきだが,工学的に利用できるように,簡便に材料強度のひずみ速度依存性を評価する手段も求められていると言える。
 一般的な材料強度評価試験は単軸試験で行われているが,一方で硬さ試験も広く用いられている。硬さは主に,引っ掻き硬さ,押込硬さおよび反発または動的硬さに分類される。引っ掻き硬さ試験は,基準となる材料で引っ掻いた際のきずの有無で評価する試験であり,硬さ測定の中で最も古い手法となる。この試験の代表的なものとして,モース硬さ試験があり,鉱物に対する硬さの尺度として有名である。金属の硬さ試験に最も広く用いられているのは押込硬さ試験である。この試験は,金属試料表面に永久くぼみを作製し,その時の最大荷重値(Pmax)とくぼみ(圧痕)の形状(接触断面積A)から硬さ(H = Pmax/A)を求める手法である7),8)。この手法の代表的なものとして,球形圧子を用いたブリネル試験や角錐圧子を用いたビッカース試験などがある。また,金属材料の動的特性を評価する反発あるいは動的硬さ試験もあり,代表的なものとして,圧子の跳ね上がり高さから動的硬さを求めるショア硬さ試験がある。これら硬さ試験は,簡便かつ局所的な情報を得られるため,古くから利用されている。しかし,引張や圧縮試験とは異なり,弾性(ヤング率,ポアソン比等)や塑性(降伏応力,加工硬化特性等),破壊特性(靭性等)の性質が複雑に関連したものであり,同一規格での評価は困難である。そこで,圧子の押込深さh,押込荷重P などの情報を連続的に測定することで,機械的特性を評価するのが押込試験(インデンテーション)である9),10)。1950 年代にTabor 11),12)は,インデンテーションで生じる変形場は単軸試験とは異なることを認識した上で,硬さと単軸試験における流動応力の相関関係を提案した。Tabor の報告により,インデンテーションは,材料の機械的特性を評価する一つの手法として頻繁に使用されるようになったと言える。一般的に,微小な押込量で試験を行うナノあるいはマイクロインデンテーションが広く用いられている。よって,生成される圧痕は小さく非破壊的に材料特性評価が可能である。
 インデンテーションで得られる代表的な荷重-変位曲線を図1 に示す。縦軸に荷重P,横軸を変位h とする。一般的な荷重-変位曲線は,原点から最大荷重までの負荷過程と,荷重を除荷する除荷過程から成る。ヤング率などは,除荷過程の初期分の接線の勾配より求められる。先端の鋭い圧子を用いた等方均質連続体に対するインデンテーションの変形場は,圧子が少しでも試験片に押込まれた時点から押込深さに関係なく幾何学的な相似性を保つ10)。これは三角錐・四角錐・円錐などの圧子が絶対寸法を持たないためである。圧子が完璧な円錐・角錐形状で先端面積が0 の剛体とすると,圧子が材料に接触して直ちに変形が始まる。その後,変位が増大すると変形域も増大していく。しかし,変位で正規化すると変位に関係なく相似となる。この変形場の相似性は,弾性や塑性に関わりなく均質連続体において成り立つ。この相似則から,荷重P と変位h との間に,Kick の法則と呼ばれる次式の二乗関係式が成立する10)。
        ……………………………………………(1)
ここで,C は負荷曲率と呼ばれている。負荷曲率は,材料特性や圧子角度等に依存し,様々なパラメータの関数となり,次式のように表現できる13),14)。
             ………………………………(2)
ここで,E はヤング率,Y は降伏応力,n は加工硬化指数,αは圧子角度である。負荷曲率の単位はPa となり,流動応力と同じ次元である。負荷曲率は材料特性に密接に関係する値となるため,インデンテーションの考察において利用されている。
 インデンテーションは簡便な試験であるが,その試験手法には多くの問題点を有しており,実験および解析の両観点から多くの研究が行われている。その中でも,押込深さの減少に伴い,硬さや負荷曲率が増加する現象について着目する。
 本来,単軸試験により得られる材料の流動応力σ は,温度やひずみ速度に依存するため,複数のパラメータの関数で表現される15)。
                ………………………(3)
ここで,ε はひずみ,T は温度,εou は単軸のひずみ速度である。インデンテーションで得られる材料強度特性も単軸試験と同様に材料の弾塑性特性である。よって,インデンテーションで温度とひずみ速度(εo)を考慮した場合,式(2)は,次式のように表現される。
                ………………………(4)
 上式に関連して,Doerner とNix16)は,α 黄銅に対するインデンテーション試験結果から,ひずみ速度が材料強度に影響を及ぼすことを指摘している。インデンテーションの圧子変位速度が一定の場合,下記に示す押込ひずみ速度(εoi)が提案されている。
          ………………………………………(5)
ここで,c は材料定数である。押込量が少ない時に,インデンテーションによって得られる種々のパラメータには,ひずみ速度の影響が大きく関与することを示している。その後,多くの研究で,インデンテーションとひずみ速度の関係について研究が行われてきた17)− 20)。一定の圧子変位速度にもかかわらず,ひずみ速度の分布(ひずみ速度場)は,有限要素解析から図2 のように複雑になっていることが分かっている20)。インデンテーションで得られる荷重は,このひずみ速度場の平均的なひずみ速度の効果を受けた結果となる。
そこで,インデンテーションで得られる荷重−変位関係がひずみ速度の影響を受けることを利用して,測定技術が必要なSHB 法とは異なる簡便に材料強度のひずみ速度依存性を評価できる新しい試験手法を解説する。数値実験によってインデンテーションの結果とひずみ速度の関係を表す応答曲面を作成し,逆解析的に動的構成式定数を決定する方法21)である。

広範囲ひずみ速度の動的圧縮試験
金沢大学 樋口 理宏

Dynamic Compression Tests in Wide Range of Strain Rate
Kanazawa University Masahiro HIGUCHI

キーワード:圧縮試験,材料試験,カムプラストメータ,スプリット・ホプキンソン棒法,ひずみ速度

はじめに
 材料の応力-ひずみ関係のひずみ速度依存性を評価するためには,広範囲のひずみ速度域において材料試験を実施する必要があり,種々の試験方法が提案されている1)。引張,圧縮の負荷形式によらず,一般的な万能形材料試験機を用いて10−4 〜10−1 s−1 の低ひずみ速度を得ることが可能であり,102 〜103 s−1 の高ひずみ速度域においてはスプリット・ホプキンソン棒(Split Hopkinson Bar,SHB)法2)−4)が信頼性の高い試験方法として確立されている。一方で,1 〜10 s−1 の中ひずみ速度域の応力-ひずみ関係を得るために,高速な油圧試験機や,落錘試験機などが利用されているものの,信頼性の高い試験方法はいまだに確立されていないのが現状である。
 負荷形式を圧縮に限定すると,カムプラストメータと呼ばれるカム機構を利用した動的材料試験機が1950 ~ 1960 年代においてさかんに利用されていたようである5)。しかし,金属材料を対象とした場合,試験機の剛性を確保するために試験機が大形となり,現代においてカムプラストメータの利用は激減している。しかし,圧縮時の変形応力が小さな高分子材料であれば,小形のカムプラストメータであっても1 〜10 s−1 程度の中ひずみ速度域の応力-ひずみ関係を精度良く得ることが可能である6)。
 本稿では,中ひずみ速度域での応力-ひずみ関係を得るためのカムプラストメータの設計方法を示すとともに,高ひずみ速度域を対象とするスプリット・ホプキンソン棒法試験について概説する。

超音波反射スペクトルを用いた積層構造の層間界面剛性評価
豊橋技術科学大学 石井 陽介  須貝 航平  足立 忠晴

Evaluation of Interlayer Interfacial Stiffness of Multilayers Using
the Ultrasonic Reflection Spectrum

Toyohashi University of Technology Yosuke ISHII, Kohei SUGAI and Tadaharu ADACHI

キーワード:超音波スペクトロスコピー,材料評価,積層構造,界面剛性,ストップバンド

はじめに
 積層構造は,航空宇宙分野における炭素繊維強化複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastics,以下CFRP)積層板や,大型建築物における免振・制振装置,電子工学分野における積層コンデンサや積層基板など,様々な工学分野で実用されている。それに伴い,構造健全性や信頼性を確保するための超音波非破壊検査の重要性が増している。
 特に積層構造では,層間界面の健全性低下が機械的強度や機能性の低下につながることから,層間に発生した欠陥(層間はく離など)の非破壊検出およびサイジングが重点的に行われている。このような検査は,超音波を試験体に入射したときの欠陥部からの反射波振幅や透過波減衰率に基づいて行われることが多い1),2)。
 一方で,層間に欠陥が発生する前の製造段階や供用段階において,層間の力学的特性(例えば層間の接着層の弾性率や厚さなど)を非破壊評価することは,積層構造物の健全性確保のみならずその構造設計の観点からも重要であると考えられる。そこで本稿では,積層構造の層間界面の力学的特性を反映した特性量である層間界面剛性を超音波スペクトロスコピーにより評価する手法について紹介する。本手法は,積層構造に対して実測した超音波の振幅反射率(または振幅透過率)の周波数依存性を理論値と比較・最適化することで層間界面剛性を同定するものである。次節以降では,はじめに2節で層間の影響を考慮した積層構造中の一次元縦波伝搬理論について紹介する。これに基づいて3 節では層間界面剛性の評価手法について説明し,4 節で適用例を示す。

薄形かつ低剛性な材料の圧縮特性評価
立命館大学 立山 耕平

Evaluation of Compressive Properties of Thin and Low-stiffness Materials
Ritsumeikan University Kohei TATEYAMA

キーワード:薄形,低剛性,圧縮特性,準静的,動的,衝撃

はじめに
 固体材料における圧縮や引張などの機械的特性を取得・評価しようとするとき,特別な場合を除けば,まずInternationalOrganization for Standardization( 世界標準化機構:ISO)やJapanese Industrial Standards(日本産業規格:JIS)等による規格が存在するかどうかを調査し,もし規格が存在するならばその規格に沿って試験を行うのが一般的かと思われる。しかし,実施する試験に合致する規格が存在しない場合,独自の方法で試験を行う必要がある。本稿のタイトルである「薄形かつ低剛性な材料の圧縮特性評価」についても,類似するJIS 規格は存在するが完全に合致する規格が存在しない試験の一つである。これは,これまで薄形かつ低剛性な材料自体が一般的ではなく,このような試験片の特性を評価する需要がなかったためと思われる。しかし近年では,スマートフォンやタブレット形パーソナルコンピュータ,ウェアラブル端末といった携帯する電子端末が急速に普及し,電子機器の薄形化・軽量化が課題とされている。それに伴い,今まで経験則で用いられてきた薄形かつ低剛性な材料についても正確な機械的特性を把握することが求められてきている。例えば,スマートフォンの内部,ディスプレイと基板の間に使用されている発泡ポリエチレンフィルム(発泡PE フィルム)については,これまでは防水・防塵のためのシーリング材料として使用されてきたが,機器の落下や物体の衝突等の衝撃から内部基板やディスプレイを保護する衝撃吸収材料としての機能も期待されており,その機械的特性が求められている。このように,今後,需要が増加すると考えられる薄形かつ低剛性な材料の圧縮特性評価について,測定方法の確立が今後必要になると考えられる。
 薄形かつ低剛性な材料の圧縮特性評価に類似する内容のJIS規格は多く存在しており,一見すると準用が可能なように思われる(例えば,JIS K 6400-1:2004 1),JIS K 6400-2:2012 2),JIS K 6400-4:2004 3),JIS K 6767:1999 4),JIS K 7127:1999 5),JIS K 7130:1999 6),JIS K 7181:2011 7),JIS K 7220:2006 8)等)。しかし,これらの準用では正確な試験結果を得ることができない可能性が高く,推奨できない。これは,薄形あるいは低剛性試験片の測定が規定されていないためである。
 発泡体に関するJIS 規格では,薄形な試験片への考慮が規定されていない。JIS K 7220:2006 8)では硬質発泡プラスチックの圧縮特性の求め方を規定しているが,試験片の厚さは50 mm 以上必要であると記載されている。同様に,JIS K6767:1999 4)では発泡ポリエチレンの試験方法を,JIS K 6400-1:2004 1),JIS K 6400-2:2012 2)およびJIS K 6400-4:2004 3)では軟質発泡材料の物理特性の求め方を規定しているが,試験片の厚さは最低でも10 mm 以上必要であると記載されている。このように,厚さが規定以下であればそもそも準用してはいけないことが記載されている。これは,数百μm の厚さの薄形試験片では,通常許容されるような0.1 mm 単位の誤差でも非常に大きな影響として結果に反映されるためである。薄形の試験片を評価する際は,このような厚さ変化に対する精度の高い手法が必要である。JIS K 6400-2:2012 2)では,「この規定の厚さ(10 mm)より薄いシート品の場合は,規定の厚さに近くなるように重ね合わせる」との記述もあるが,既往の研究から,薄形の試験片を重ね合わせたものを試験すると,フィルム間の摩擦や空隙の影響によって正確な圧縮特性評価ができないこと9)が報告されており,この手法は適当とは言い難い。このように,上記JIS 規格は数百μm の厚さの薄形試験片を精度良く測定できないことが分かる。
 一方,薄形のフィルムに関するJIS 規格では,低剛性な試験片への考慮が規定されていない。JIS K 7127:1999 5)およびJIS K 7130:1999 6)ではプラスチックフィルムおよびシートの試験手法について規定されているが,そもそもこの規定は発泡体には適用できないと記述されている。これは,発泡体のような低剛性の材料では,通常許容されるような扱いによって容易に変形するためである。例えば,厚さの測定において,低剛性な材料は微小な測定力でも変形し,厚さが正確に測定できない。この誤差は,薄形であればあるほど大きな誤差として反映される。また,低剛性な試験片の圧縮試験では,得られる応力-ひずみ関係の初期の立ち上がりが非常に緩やかであり,試験片と試験装置との接触判定が非常に困難であるといった問題もある。このように,上述したJIS 規格の準用では低剛性な試験片を精度良く測定できないことが分かる。
 ここまで述べてきたように,薄形かつ低剛性な材料の圧縮特性評価にあたっては,通常の金属材料や高分子材料では無視される微小な厚さ変化についても考慮することが必要となる。本稿では,筆者が発泡PE フィルムの圧縮特性を測定した際の試験手法を例にとり,薄形かつ低剛性な材料の圧縮特性評価にあたって必要と思われる考慮すべき事項について解説する。さらに,広範囲のひずみ速度域における圧縮特性の評価に関しても併せて知見を述べる。

電磁誘導現象を利用した衝撃荷重の測定方法
豊橋技術科学大学 足立 忠晴  石井 陽介

Measurement Method of Impact Load Based
on the Electromagnetic Induction Phenomenon

Toyohashi University of Technology Tadaharu ADACHI and Yosuke ISHII

キーワード:衝撃試験,衝撃荷重,電磁誘導,ファラデーの法則,衝撃体

はじめに
 機械構造物だけでなく電子機器をも含めて,安全性,信頼性の要求が厳しくなり,単に静荷重だけでなく,衝撃荷重への耐久性をも求められている。自動車の衝突,航空機のジェットエンジンのバードストライクなどの輸送機器への衝撃に対する安全性の問題については,すでに広く社会に認知されている問題であるが,スマートフォンに代表される電子機器においても,床への落下衝突でさえ衝撃に対する信頼性が求められている。また1 mm 以下の大きさの微小なコンデンサ,抵抗などの電気部品の回路基板への表面実装の高速化に伴い,電気部品の衝撃強度の評価を求められるようになっている。従来のように形状の大きい構造物だけでなく,微小な構造の衝撃問題も重要となってきている。このように構造物の強度,剛性などを評価するためには,構造物に作用する衝撃荷重の測定が重要な課題となる1)。
 本稿では衝撃荷重の測定の問題点を明らかにするとともに,その問題を解決するための方法として筆者らが提案している電磁誘導現象を利用した衝撃荷重の非接触測定2)の原理を解説するとともに,適用例を紹介する。

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