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機関誌

2019年2月号バックナンバー

2019年2月1日更新

目次

「超音波NDT/NDE におけるシミュレーション技術の進展と応用」
特集号刊行にあたって 井原 郁夫

 超音波シミュレーションに関する特集はこれまでに2 回企画されている。最初は1998 年4 月号と5 月号の連続で「超音波NDT のための最近のシミュレーションI およびII」,2 回目は2011 年4 月号の「超音波シミュレーションの展開」である。最初の特集号を改めて読み返すと,超音波シミュレーション手法の基本がバランスよく的確に押さえられており,発刊から20 年を経た現在でも通じる有益な内容となっている。当時の企画者,執筆者の先見力に敬意を表すると同時に,当該分野に内在する普遍性を改めて認識させられる。その普遍性とは,言うまでもなく,シミュレーション技術の進展はコンピュータの処理能力とメモリに強く依存するという点であり,その状況は今も,そして今後も変わらないと思われる。先見力という観点で言えば,最初の特集号の巻頭言で「コンピュータの飛躍的な性能向上と低廉化の傾向を踏まえると,これまで不可能と思われていた大規模シミュレーションも近い将来には可能になるであろう」との指摘があるが,その予測を裏付けるかのように,2 回目の特集号ではハードウェアと解析手法の進展に基づく高精度でリアリティに富む超音波シミュレーション事例が紹介されている。また,第1 回特集号の編集後記には「超音波探傷シミュレーションが可能な比較的安価なソフトウェアが市販される時代が来てほしい」との期待が込められているが,現在ではその期待に応えるような波動解析ソフトウェアが国内外で販売されている。ユーザフレンドリかつ高性能な汎用ソフトウェアの出現は,これまでは一部の人々(波動解析とプログラミングに精通した専門家)にその使用が限られるきらいがあったシミュレーション技術を,一般の技術者・研究者の身近なツールとして広めることに大きく貢献していると言える。最近では若手のみならずベテランの方々の研究発表の場面でも,美しい動画を交えたシミュレーション結果を目にすることが珍しくなくなった。シミュレーションは実験結果や理論予測に対するダブルチェック機能という活用に留まらず,誤解を恐れずに言えば,その高度化は未知現象の発見や新たな研究シーズの発掘にもつながる可能性を秘めている。AI(Artificial Intelligence)やICT(Information and Communication Technology)の活用が声高に叫ばれて久しい昨今,それらと既存技術との融合によるイノベーション実現への模索が最近の研究トレンドの一つとなっている。その流れの中で,シミュレーション技術もまたAI との融合を経て,これまで培われてきた非破壊試験・評価にSomething New をもたらすカンフル剤となり得るかもしれない。
 3 回目となる今回の特集では,前回の特集以来,着実な進展を遂げ,より洗練されつつある超音波シミュレーション技術をその活用例とともに紹介することとした。執筆は大学,企業,研究機関において超音波シミュレーションの開発と活用の第一線で活躍されている方々にお願いした。過去の特集号と同様にシミュレーション技術の基礎から応用までが網羅されており,最近のハードウェアの高性能化と解析手法の高度化を反映した,多彩で高精度な超音波挙動やリアリティに富んだ美しい解析結果は必見である。超音波計測に携わっておられる方々はもちろん,非破壊検査を横糸とする様々な専門分野の皆様に本特集が少しでもお役に立てば幸いである。
 最後に,本企画にあたってご協力いただいた関係各位,特にご多忙にもかかわらず本特集の主旨にご賛同いただき貴重な玉稿をご提供頂いた執筆者各位に心より感謝申し上げたい。

解説

超音波NDT/NDE におけるシミュレーション技術の進展と応用

超音波非破壊検査へのデータ同化の導入
−大規模シミュレーションと多点計測データをつなぐ−
愛媛大学大学院理工学研究科 中畑 和之

Introduction of Data Assimilation to Ultrasonic Non-destructive Testing:
Connection of Large-scale Simulation and Multipoint Sensing Data

Graduate School of Science and Engineering, Ehime University Kazuyuki NAKAHATA

キーワード:データ同化,大規模シミュレーション,多点計測データ,粒子フィルタ,逆伝搬解析

はじめに
 超音波探傷試験(Ultrasonic Testing:UT)において,シミュレーションの種類や役割は様々1)である。大きく分ければ,音場解析,波線推定,波動モード解析,さらには伝搬・散乱解析がある。これらの目的は,超音波プローブ等の検査装置の設計,疑似エコーの発生原因の推定,あるいは超音波の伝搬を理解するための教育用途等に用いられるのが大半で,シミュレーションは計測に対して補助的に使われているに過ぎない。“補助的”と書いた意味は,現状では,シミュレーションがあれば便利であるが,なくても非破壊検査はそれなりに可能であって,別に困ることはないということである。シミュレーションの研究発展に興味がある著者にとっては悲しい現実である。また,近年の並列計算技術の向上に伴う数値解析の大規模化によって,シミュレーションの精度や信頼性が認知されてきている一方で,フェーズドアレイ探傷やレーザ超音波法等に代表されるような多点観測による実験データの大容量化は,両者の融合を一層難しくしているという現実も否めない。
 シミュレーションと計測データをつなぐことが,UT の高度化に寄与することは明白である。特に大規模シミュレーションと多点計測データをつなぐにはどうしたらよいか。それを実現する様々な理論や計算技術体系がデータ同化2)である。データ同化は,もともとはシミュレーションの初期条件や境界条件,あるいはパラメータを,実際の計測データに基づいて適切なものに構成するために用いられていた。例えば,地球科学においては,現象のモデリングや予測に数値シミュレーションを積極的に採用する動きが早くからみられ,天気予報ではそれが実現されている。各地点での気温・風速・湿度等の観測データから気象モデルを用いて解析に必要な初期値を計算する。これを元に,スーパーコンピュータで数値計算し,大気の状態を予測する。観測データを逐次的に取り入れて計算をリスタートすることで予測精度の向上を図っている。しかし,最近では,データ同化の応用として,シミュレーションの不確かさや計測の誤差を確率論の枠組みの中で考慮しながら,計測データから状態量を推定するといった数理モデリングにも発展している。さらに,構築したモデルを元に,計測データの不足を補ったり,計測誤差を修正したりするなど,データ同化の応用はますます広がっている。以上のように,データ同化はシミュレーションに計測データを取り入れる方法と広義には解釈でき,その数理や手法は多岐にわたる。
 本稿では,データ同化をUT に応用した2 つの事例を紹介する。1 つは,計測データの中に隠れた因果関係を発見し,それを状態量として推定するフィルタリングという技術である。概念自体は昔からあり,線形問題ではカルマンフィルタ3)が有名である。 ここでは,非線形問題にも適用される粒子フィルタ4)を,欠陥の位置や大きさの推定に応用した事例を紹介する。もう1 つは,計測データを入力値としてシミュレーションを実行し,きずの位置を特定する方法である。これは,Fink 5)が提案した時間反転法の概念に基づき,受信波の位相を共役して(時間反転して)対象に照射したとき散乱源に戻る現象を利用するものである。Fink らの方法は位相共役鏡を使った特殊な装置が必要であるし,何より,対象内部のどの位置で波動が集束したかが目視できない。しかし,データ同化を利用すれば,実際には計測できない固体内部の超音波振幅を計算でき,これによって散乱源の特定が期待できる。

フェーズドアレイUT および探傷画像評価へのFEM シミュレーションの適用
伊藤忠テクノソリューションズ(株) 池上 泰史  酒井 幸広  永野 美貴

Application of FEM Simulation to PAUT and Image Evaluations for Flaw Detection
ITOCHU Techno-Solutions Corporation Yasushi IKEGAMI, Yukihiro SAKAI and Miki NAGANO

キーワード:フェーズドアレイ,TOFD 法,音場,指向性,有限要素法,シミュレ-ション

はじめに
 フェーズドアレイ超音波探傷法(以下,PAUT),開口合成法およびTOFD 法等は,超音波探傷結果を画像で評価することが可能な手法である。このため,従来の探傷波形のみの評価に比べて,多くの情報を持ち,かつ直感的な評価が可能となり,工業分野での普及が進みつつある。一方,探傷画像を作成する際には,超音波の偏向角度,焦点距離,異方性等の設定次第で画像が変わるため,画像化されたエコーが実際の欠陥とどのように対応しているかを判断する際に,これらの特性を正確に把握することが重要となってくる。
 そこで本稿では,PAUT,開口合成法およびTOFD 法の評価で重要になるいくつかの特性を超音波シミュレーションで評価する。また,超音波探傷画像評価では,3 次元シミュレータが不可欠であることをTOFD 法によるD スキャン画像のシミュレーションを用いて示す。
 なお,本稿では,超音波シミュレータ「ComWAVETM」 を用いて解析を行っている。

鉄道車軸の超音波探傷におけるシミュレーションの活用
(公財)鉄道総合技術研究所 牧野 一成

Application of Simulation to Ultrasonic Flaw Detection of Railway Axles
Railway Technical Research Institute Kazunari MAKINO

キーワード:鉄道車軸,超音波探傷,車輪座,接触面圧,有限要素法,界面モデル

はじめに
 鉄道車両は図1 に示すように,車体と台車に大きく分けることができる。台車は,鉄道を利用するうえで目に触れることが少ないが,車体と乗客あるいは貨物による荷重を支持しながら,モータ(主電動機)やエンジンで発生させた駆動力を伝達する重要な部材であり,走行中には振動や応力が発生する。さらに台車は,輪軸(車輪と車軸を圧入(圧力ばめ)で組み立てた部品)や台車枠から構成されるが,万が一,これらの部品が走行中に破損すると脱線につながる恐れがあるため,非破壊検査などの手法を用いて定期的に検査することにより安全が確保されている1)−3)。
 近年,超音波探傷の分野では,有限要素法(FEM),有限積分法や,FDTD 法などの差分法をはじめとする数値解析による超音波シミュレーションが,実験結果や実現象の再現などの目的で多く用いられている。ここで,鉄道車軸の超音波探傷に対して数値解析の手法を適用するためには,車軸表面(自由境界面)や車輪座(車輪とのはめ合い面),あるいはきずの向かい合う面などの各種境界面での超音波の反射や透過を考慮する必要がある。
 本稿ではまず,鉄道車軸の超音波探傷の概要とシミュレーションを適用するうえでの課題を述べたあと,車輪座での超音波伝搬挙動を表現するための3 種類のモデルについて説明する。これらのモデルを用いて,車輪座のはめ合い内部のきずを斜角探傷したときの,きずの高さおよび車輪との接触面圧(車輪がはめ合わされていない場合を含む)がエコー高さに及ぼす影響を,2 次元の超音波シミュレーションにより評価した結果を示す。また,解析対象が小さい事例ではあるが,小型輪軸試験片のはめ合い部を対象とした,3 次元の超音波シミュレーションの事例を紹介する。
 なお,鉄道車軸の検査では通常,表面きずを対象とすることが多いため,JIS などでの定義とは異なるが,以下では慣例にならい,表面きずのきず高さを「きず深さ」と称する。

シミュレータによる超音波伝搬の可視化とその活用
ジャパンプローブ(株) 田中 雄介

Ultrasonic Visualization by a Simulator and its Utilization
Japan Probe Co., Ltd. Yuusuke TANAKA

キーワード:超音波,エッジ波,連続波,シミュレーション,可視化,指向性

はじめに
 シミュレーションはある理論に対して入力,条件を与えた時に結果を計算で出力するものであり,設計や評価などに広く利用されている。シミュレーションの理論は世の中のすべての現象を再現しているわけではなく,結果も近似値である。超音波の伝搬理論についてもエッジ波の振幅などは完全には解明されていない。完璧に実測と合わないと使えないというわけではなく,シミュレーション結果のどの部分が設計,評価に使えるかを判断してシミュレーションを活用する必要がある。これまでに超音波伝搬の可視化としてパルス波と連続波の超音波伝搬の違い1),集束超音波探触子の焦点位置評価2),探触子の送信と受信の指向性について報告してきた3)。また,アンカーボルト内の超音波伝搬についてシミュレーションを用いた分析を報告した4)。本稿では探触子から送信される超音波,シミュレーション結果と実験結果の異なる部分,パルス波と連続波の現象,探触子の送信と受信の指向性,シミュレーションによる集束超音波の設計と評価について述べる。

超音波探傷訓練ツールへのシミュレーション解析技術の活用
(一財)発電設備技術検査協会 古川  敬

Application of a High Accuracy Simulation Technique for UT Training Simulator
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Takashi FURUKAWA

キーワード:有限要素法,シミュレーション,超音波探傷試験,斜角法,溶接部

はじめに
 超音波探傷試験(以下,UT と記す)では,観測されたエコーや画像上の指示を解釈して,きずの識別,検出および寸法測定等を行っている。溶接部のUT では,きずとは直接関係のない溶接部の形状や金属組織等に起因するエコーが規則的または不規則に発生する場合があり,きずからのエコーかきず以外からのエコーかの判断が重要となる。これらの判断には,自動化が望まれているものの,まだまだ探傷技術者の知識や経験に基づく技量によるところが大きいのが現実である。こうした技量向上あるいは技量維持の方法として,種々のきずを有する数多くの試験体を用いた実技訓練が有効である。しかし,溶接時に発生する種々のきず(融合不良,溶込み不足,割れおよびスラグ巻込み等)や供用期間中に発生するきず(疲労き裂や応力腐食割れ等)を模擬して狙い通りの位置に狙い通りの寸法で付与することは難しく,このようなきずを付与した試験体を多数作製することに加えて,このようなきずの位置と実寸法(すなわち「正解」)を非破壊的手法で正確に把握することは容易なことではない。
 一方,UT の物理現象を計算機内に再現したシミュレーション解析技術が開発されており1),2),近年の計算能力の向上とともに,大規模かつ複雑な境界条件の解析が可能となり,探傷結果の解釈支援等に活用されてきている3)。ここで想定しているUT のシミュレーション解析は,試験体(形状,材質,きず等)のモデルと探傷の条件を設定して,探傷波形を計算することである。実際の溶接部の寸法,形状やきずの位置,形状および寸法をモデル化したシミュレーション解析で計算した探傷波形が,実際の探傷結果と同様な波形になるのであれば,計算機内で探傷試験を再現できると考えられる。溶接部の寸法,形状やきずの位置,形状,寸法を任意に変えて作成したシミュレーションモデルは,種々の試験体を計算機内で作成することと同様なものと考えることができる。シミュレーション解析において設定するきずの位置や寸法は,試験体に付与する実きずの位置と寸法に相当する正解であり,正解を開示して訓練することで技量向上に,正解を伏せて訓練することで技量の維持・確認に活用できると考える4)。このためには,実際のUT を再現できる高精度なシミュレーション解析技術が不可欠である。
 本稿では,シミュレーション解析技術をUT の訓練に活用する取り組みとして,解析精度の検証,UT 訓練用データの作成方法,データの表示方法の検討事例を紹介する。

CFRP の超音波探傷のための計算機シミュレーション
(国研)物質・材料研究機構 山脇  寿  東京大学 小口かなえ
(国研)物質・材料研究機構 草野 正大  渡邊  誠

Computer Simulation for Ultrasonic Testing of CFRP
National Institute for Materials Science Hisashi YAMAWAKI
The University of Tokyo Kanae OGUCHI
National Institute for Materials Science Masahiro KUSANO and Makoto WATANABE

キーワード:炭素繊維複合材料,弾性波伝播計算機シミュレーション,超音波可視化法,超音波探傷,
レーザ超音波,弾性異方性

はじめに
 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は,軽量かつ成型容易な合成樹脂に,高い引張強度と高弾性率の炭素繊維を含有させることで,軽量な高強度構造材料としての役割を持たせたものである。1970 年代以降使用範囲が拡大し,近年は旅客機の翼や胴体の構造に,アルミ合金に代わって大量使用され,軽量化・低燃費化に貢献している。このような構造材料として使用されるにあたっては,構造体の製造段階での非破壊検査はもちろんではあるが,製品化後の非破壊検査が従来の構造材料と同様に必要となる。
 筆者らは,超音波探傷に役立てる目的で,固体等を伝播する超音波を再現・可視化する計算機シミュレーション法の研究開発を早くから行ってきたが1),2),その中で重要な課題となったのは,弾性異方性を持つ材料の超音波伝播の再現であった。超音波による非破壊検査の分野では,強加工された圧延鋼板が示す音響異方性が超音波斜角探傷における欠陥位置測定誤差となる問題があり,また鋼の溶接部などのデンドライト組織が,超音波散乱・減衰とともに超音波伝播経路の複雑化を起こすなど,組織の不均一化や異方化による弾性異方性発現が探傷を難しくする問題がある。CFRP の場合はその複合組織構造の異方性が根源となって,極めて強い弾性異方性を示す。このようなCFRP における超音波探傷を計算機で再現することが,計算法開発の目的の一つであった。
 計算機シミュレーション法の開発では,弾性異方性をスティフネスマトリックス(弾性テンソル)で表し,それを用いた弾性波動方程式を物理現象に則して差分式化することで,完全ではないものの,弾性異方性に対応可能で,空気や水と固体との組み合わせも統一的にモデル化できる,改良型差分法3)を開発した。また,応力と粒子速度を独立変数とした2 段階の弾性波動方程式を基本にした新しい改良型差分法4)の開発によって,計算の高速化と安定性向上が図られた。今回は,CFRP の弾性異方性や超音波伝播の解析や,その超音波探傷を目的に行ってきた,改良型差分法を用いた超音波伝播可視化計算機シミュレーションについて紹介する。

音響異方性材料中の超音波伝搬シミュレーション
群馬大学 大学院理工学府 環境創生部門 斎藤 隆泰

Simulation of Ultrasonic Wave Propagation in Anisotropic Materials
Department of Civil and Environmental Engineering, Gunma University Takahiro SAITOH

キーワード:超音波非破壊評価,境界要素法,有限要素法,有限差分法,粒子法

はじめに
 近年,計算機の高性能化に伴い,様々な場面で数値シミュレーションが利用されるようになってきた。超音波を用いた非破壊評価の分野においても例外ではなく,関連する国内・国際会議に参加すれば,多数のシミュレーション結果を目にすることができる。超音波は,固体中では弾性波としての性質を示す。身近な例を挙げれば,地震波も弾性波である。通常,超音波や地震波等の弾性波と呼ばれる波動は,人間の眼で見て直接観察することは難しい。実際,例えば超音波非破壊評価を行う検査員が,眼で確認できる波動は,探触子で受信された超音波の波形のみであり,一般には,それらがどのような経路をたどり,探触子で受信されたかを確認することはできない。超音波非破壊評価では,それら受信波形から,材料中の欠陥の位置や大きさ等を推定することとなるが,例えば,検査対象とする材料が音響異方性を示す場合は,超音波がどのように伝搬するかを理解することは極めて難しくなる。しかしながら,数値シミュレーションを用いれば,そのような複雑な材料中でも超音波がどのように伝搬するかを理解することが容易になる。実際,解析のためのモデル化や境界条件等が適切であれば,眼で見えない超音波を可視化できるわけであるから,その用途は多彩であろう。しかしながら,一般的に,音響異方性材料中の弾性波動論は難解であり,大学の講義においても深く教えることは,ほとんどないと思われる。また,数値シミュレーションといっても,様々な手法が存在するため,問題に応じてどのような手法を使うか判断するには,手法の特性についても理解しておく必要がある。
 そこで,本稿では,音響異方性材料に対する弾性波動論について簡単に説明した後,いくつかの数値シミュレーション手法について簡単に解説する。その後,それらを用いた著者らによる,いくつかの数値シミュレーション結果を示すこととする。

論文

三次元点群の主成分分析を利用した鋳造品の表面欠陥評価手法
川上 達彦,小西 孝明,定岡 紀行,高橋 寿一,松江 博文

Method for Evaluating Surface Defects on Cast Parts Using Principal Component
Analysis for 3D Point Cloud
Tatsuhiko KAWAKAMI, Takaaki KONISHI, Noriyuki SADAOKA,
Toshiichi TAKAHASHI and Hirohumi MATSUE

Abstract
This paper proposes a method for evaluating surface defects on cast parts. A laser profilometer measures the shape of parts as point cloud data and principal component analysis estimates the surface variation. The idea to detect defects is that they usually have a high surface variation value. Experiments were conducted, applying our method to simulated defects and cast parts. The simulated defects demonstrate that the estimated surface variation at the defect is characteristically larger than the flat surface. For the cast parts, a defect on its cast surface was evaluated with SN ratio of 5.9. This method is robust to the noise caused by the surface roughness or shapenon-uniformity of cast parts.

キーワード:Shape measurement, Laser profilometer, Optical cutting method, Point cloud, Casting defect

緒言
 鋳造法は,金属を一度溶解して溶湯を鋳型に注ぎ,凝固させて成形させる加工法である1)。この加工方法の特徴は,鍛造,プレス加工などと比較し,鋳型が構成できれば,複雑な三次元形状が一度に短時間で成形可能な点にある。鋳造法には,鋳型,溶解,鋳込,その他複数の工程があるが,各工程において,外界の影響により物理的,化学的に種々の変化が生じ,成型した鋳造品に表面欠陥や形状不良,内部組織不良が発生することがある2)。これらは鋳造欠陥と総称され,従来,様々な手法により鋳造プロセスで欠陥が発生しない方法の確立が研究開発されてきた。しかしながら,量産鋳造工場において完全に鋳造欠陥の発生をなくすまでには至っていない。そのため,量産鋳造工場では,製造プロセスの最終工程で鋳造品の品質検査工程が設けられている。従来,品質検査は目視検査により実施されるが,検査員ごとに経験やスキルのばらつきがあること,検査員の疲労などによる見逃しの発生が懸念されることから,自動化が求められている。
 本論文では,鋳造品に発生する楔型の凹状表面欠陥を検査対象欠陥とする自動検査技術を検討する。従来のCCD カメラを利用した方法3),4)では,画素の輝度変化量を算出することにより欠陥を検出しているが,微小な凹状表面欠陥を安定して高精度に検出するには,鋳肌面の凹凸や形状の個体差を考慮した照明の当て方,検出感度の設定が必要であり,調整が煩雑である。また.レーザ変位計を利用した方法5)では,理想形状からの寸法変化量を算出することにより欠陥を検出しているが,安定した欠陥検出のためには,判定閾値を形状のばらつきより大きな値に設定する必要があり,微小な凹状表面欠陥の検出は困難と考えられる。そこで,鋳肌面の凹凸や形状のばらつきがあっても高精度に欠陥を自動検出することを目的とし,カメラで取得した輝度情報やレーザ変位計で取得した三次元点群の寸法変化量ではなく,三次元点群の主成分分析により得られる表面変化率を利用した欠陥評価手法を開発した。本論文では,手法の原理と,実サンプルを用いた欠陥判定性能の評価結果について述べる。

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