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機関誌

2019年3月号バックナンバー

2019年3月1日更新

巻頭言

「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」
創設30 年を記念した特集号に寄せて 湯浅  昇

 本協会の「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門(RC 部門)」は,1988 年4 月に発足した「コンクリート構造物の非破壊試験特別研究委員会(RC 特研)」を前身としており,昨年2018 年4 月時点で30 周年を迎えた。
 本特集号は,この30 年にわたる本部門の取り組みを俯瞰し,これまでを総括するとともに,新たな展開について,広く議論するために企画したものである。
 本特集号では,まず「創設期のRC 特研」について,千葉工業大学名誉教授池永博威先生(第3 代主査),元西松建設西山直洋氏,元東京都市大学/元関東学院大学野崎喜嗣先生(第4 代主査)に振り返っていただいた。
 次に,「RC 特研/部門30 年の活動の総括」を元土木研究所/ものつくり大学森濱和正先生(第7 代主査)にお願いした。ただし,いわゆる“RC シンポジウム”については,2018 年 8 月芝浦工業大学豊洲キャンパスで第6 回目が開催されたばかりであることから,独立させ,「コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウムの歩み」として,その実行委員長を務めた芝浦工業大学濱崎仁先生に第6 回コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウムの報告を踏まえた形で執筆いただいた。
 さらにこの特集号では,「RC 検査実務に非破壊検査技術が成し得てきたこと」を振り返るため,その「新設時のコンクリート構造物の試験への適用状況」をリック岩野聡史氏に,「既存RC 検査実務」については,コンステック佐藤大輔氏に執筆いただいた。
 特集号の最後に,私(第8 代主査)から「鉄筋コンクリート構造物の「非破壊検査」の未来像」と題し,最近の部門内で再熱している「非破壊試験」の定義問題に触れ,現在,新規制定作業中のNDIS, 今注目している非破壊検査技術/話題について紹介する。「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」の今後のあり方について考える場としたい。
 最後に,今後2,3 年間で行う「RC 部門設立30 周年記念事業」について紹介する。興味を持っていただければ幸いである。
① 本JSNDI 機関誌特集号(2019 年3 月号)の企画・執筆
② 2010 年に新刊出版した「新コンクリートの非破壊試験」の改訂版編集・出版
③ 日本におけるRC 部門非破壊試験に関する研究を集めた英訳論文集編集・出版
④ 記念祝賀会の2019 年度内開催
⑤ 教育・資格認定制度の創設
⑥ 30 周年記念海外視察(2020 年3 月開催のロシア非破壊試験見本市予定)
 本特集号が「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」の20 年後,30 年後にとって,“一里塚”の記録となることを期待するところである。
 ヒトの一生ははかないが,我々が残す英知,文化は永遠である。次世代,後生に期待する。

解説

鉄筋コンクリート部門のこれまでの30 年と未来

創設期のRC 特研
(元)千葉工業大学 池永 博威  (株)コウワ 西山 直洋  
(元)関東学院大学 野崎 喜嗣

Founding Stage of the Ad Hoc Committee for the Non-destructive Testing
of Reinforced Concrete Structures

Former Chiba Institute of Technology Hirotake IKENAGA
Kouwa Co., Ltd. Naohiro NISHIYAMA
Former Kanto Gakuin University Yoshitsugu NOZAKI

キーワード:非破壊検査,RC 特研,創設期,委員会の活動

はじめに
 「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験特別研究委員会(略称RC 特研)」は1989 年に産官学の検査技術者,研究者を中心に創設されて,2009 年にRC 部門として改変されるまで22年間にわたり活動が続けられた。2 章ではRC 特研の生い立ちと創設初期から2009 年にRC 部門として改変されるまでの活動を中心に述べてみたい。

RC 特研/部門30 年の活動の総括
ものつくり大学 森濱 和正

Report and Summary of the Ad Hoc Committee/Research and Technical Committee
for the Non-destructive Testing of Reinforced Concrete Structures

Institute of Technologists Kazumasa MORIHAMA

キーワード:RC 特研,RC部門,30 年間の活動報告と総括,今後目指すべき方向

はじめに
 (一社)日本非破壊検査協会(NDI)内にコンクリート関係の組織が設置されたのは,1988 年に発足した「コンクリート構造物の非破壊試験」特別研究委員会である。1994 年には「コンクリート」が「鉄筋コンクリート」に改名された(以下,両者を総称してRC 特研と呼ぶ)。RC 特研が発足し30 年が経過した機会にこれまでの活動について取りまとめた。
 当時の組織は,常設組織の「分科会」に対して,特別研究委員会は設置期限が限定されていた。2005 年頃よりNDI の機構改革が検討された。2010 年に組織が再編され,RC「特研」は,常設機関である「部門」(RC 部門)へと移行した。
 筆者には標記タイトルを与えられたが,RC 特研と本格的に関わるようになったのは,後述のとおり1998 年に幹事として加わり,共同研究を実施するようになってからのことであり,ここでは30 年間の全般についてその概要を取りまとめることとし,特に草創期の詳細については本特集「草創期のRC 特研」にゆずる。そのほか,シンポジウムなどの詳細についても,それぞれの解説を参照願いたい。
 RC 特研/部門の主な歩みは,表1 のとおりである。表1 は,文献1),2)を参考に,特に2)の表を加筆修正したものである。

コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウムの歩み
芝浦工業大学 濱崎  仁

The History of the Non-destructive Inspection Symposium on Concrete Structures
Shibaura Institute of Technology Hitoshi HAMASAKI

キーワード:コンクリート構造物,非破壊試験,シンポジウム,特別講演,パネルディスカッション,技術展示

はじめに
 鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門(以下,RC 部門)およびその前身の特別研究委員会(以下,RC 特研)における活動の大きな柱の一つとして「コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウム」(以下,RC シンポジウム)の開催が挙げられる。RC シンポジウムは,特別研究委員会が設立15 周年となった2003 年に第1 回が開催され,以降3 年に1 回のペースで2018 年に第6 回が開催されている。本稿では,RC シンポジウムのこれまでの歩みから,コンクリート分野における非破壊試験の役割やトレンドについて振り返りたい。また,併せて第6 回シンポジウムの概要について報告する。

RC 検査実務に非破壊検査技術が成し得てきたこと
−新設時のコンクリート構造物の試験への適用状況−
リック(株) 岩野 聡史

Results of Practice Tests in Reinforced Concrete by Non-Destructive Testing
− Application Situation to Quality Control for Newly-built Concrete Structures −

RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO

キーワード:鉄筋コンクリート,非破壊試験,新設構造物,品質管理

はじめに
 「コンクリート構造物の非破壊検査」と聞くと,既設のコンクリート構造物で,劣化の程度を調査するための検査のみをイメージされる方が多くいるように思われる。多くの方々が,鉄筋コンクリート構造物は様々な原因により経年劣化することから維持管理が重要であり,既設のコンクリート構造物に対しては,維持管理における一つの手段として様々な非破壊試験が適用されている,ということを認識されていると考えられる。
 しかしながら非破壊・微破壊試験は,既設のコンクリート構造物のみでなく,新設時のコンクリート構造物に対しても多くの発注機関において品質管理や検査に活用されている1)。新設時のコンクリート構造物の構造体を構成するコンクリート(以下,構造体コンクリートという)の品質や性能は,施工方法に大きく依存されることとなる。これに対して,非破壊・微破壊試験は新設された構造体コンクリートの品質や性能を,構造物を壊すことなく直接確認できることから,適用されているものと考えられる。
 これらを背景として,新設時の構造体コンクリートでの非破壊・微破壊試験による品質管理や検査の方法の確立を目指した多くの研究活動がされている。当協会の鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門(以下,RC 部門という)においても,この状況に先駆け,1999 年度より2007 年度までの9 年間,当時の建設省土木研究所,(独)土木研究所と実施された共同研究に参加してきた。この共同研究の成果の一つとして,国土交通省の一部の新設工事での品質管理として,この共同研究で提案した新設時の構造体コンクリートの圧縮強度の検査方法,配筋状況の検査方法,これらが採用されている2),3)。本稿では,RC 部門が行ってきたこの共同研究の成果を中心に,新設時のコンクリート構造物に対する非破壊・微破壊試験技術の概要について紹介する。

既存RC 検査実務に非破壊検査技術が成し得てきたこと
(株)コンステック 佐藤 大輔

Non-destructive Testing in Inspection Practices of Existing Reinforced
Concrete Structures

Constec Engi, Co. Daisuke SATO

キーワード:既存 RC,赤外線,可視デジタル画像,電磁波レーダ法,電磁誘導法

はじめに
 コンクリートは,私たちの社会生活には欠かすことのできないものとなっている。住宅,公共施設,橋梁,トンネル,ダムなど,コンクリートで造られた構造物を利用することによる恩恵を受けている。それゆえ,コンクリート構造物の不具合によって発生する事故は社会問題となる。コンクリート構造物は,「メンテナンスフリーな構造物」と言われ半永久的にメンテナンスすることなく供用できると信じられていた。しかし,1980 年代に入ると,昭和40 年代以降の高度経済成長期に建造されたコンクリート構造物の早期劣化による種々の問題が顕在化し,コンクリートに発生している不具合,たとえば中性化やアルカリ骨材反応,塩害などによる劣化現象がマスコミによって取り上げられ社会問題化した。
 建築物については,経済的な価値が低いとみなされた場合には取り壊し,新しい構造物を建造する“スクラップアンドビルド”が繰り返されてきた。しかし,社会的な要求は省資源・環境保護へ変化しており,既存構造物ストックの活用へ転換されている。社会全体として構造物には,長期的に供用することが求められ,維持管理の重要性が認識されている。さらに,少子高齢化の問題が,構造物の維持管理にまで波及しており,構造物の高齢化と共にこれらを検査する技術者も高齢化を迎え,今後維持管理に携わる技術者が減少するという問題を抱えているため,多くの構造物の維持管理を少ない技術者によって行わなければならない。そのため,維持管理の合理化,効率化が急務となっており,ロボット化,AI,ICT の活用などの様々な取り組みがなされている。
 建築・土木構造物の長寿命化を目的とした維持管理において,構造物を効率よく検査する手法として非破壊検査が注目され,開発,整備が進み適用事例は年々増加している。非破壊検査は,コア採取やハツリなどの部分破壊検査とは異なり,構造物に与えるダメージがない試験であることや発生する音が比較的小さい手法が多く,広範囲の測定点を設けることができるという利点がある。また,供用中の建築物や文化的価値のある構造物などの調査では有効な検査手法となっている。

鉄筋コンクリート構造物の「非破壊検査」の未来像
日本大学 湯浅  昇

Futuristic View of “Non-destructive Testing” for Concrete Structures
Nihon University Noboru YUASA

キーワード:鉄筋コンクリート構造物,非破壊試験,微破壊試験,NDIS,未来

はじめに
 本協会の「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門(RC部門)」の前身,「コンクリート構造物の非破壊試験特別研究委員会(RC 特研)」が発足した1988 年4 月に,私は大学院修士課程に入学した。
 その頃の鉄筋コンクリート造の非破壊試験といえば,私にとって「=シュミットハンマー」であった。
 そして,1990 年4 月,RC 特研初代主査であった故笠井芳夫先生の研究室に嫁いだ。その当時研究室では,Figg の発想に基づく,コンクリートの透気性試験方法の検討を精力的に行っており,私は助手として,実構造物調査の陣頭指揮にあたった。その当時は,笠井芳夫先生におかれては特研の運営を苦慮・模索されていた時期であり,私はよく委員会デモンストレーションの実演に駆り出されたと記憶している。
 発足以来30 年,年間3 回の講演会/見学会の開催,多くの研究委員会活動,12 のNDIS の制定,技術者教育,3 年に一度シンポジウムを開催し,シュミットハンマー+ α から抜け出し,鉄筋コンクリート構造物において,実に多くの品質に対応した複数の試験方法を検討・整備してきた。これまでの活動を振り返ると笠井先生の世代の先生方はいろいろな角度から知恵を出してトライをし,種をまかれてきた。私たちの世代はそれらを刈り取り検証してNDIS 化する役割,そして,社会に安心して使ってもらえる「非破壊検査」の安定供給元としての責任を担っている。
 ここでは,これからの10 年,30 年を見据える意味で,まず「非破壊試験」の定義に関する最近の議論を話題にし,現在新規制定作業中のNDIS, 非破壊検査技術/話題について紹介する。最後に「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」の今後のあり方について持論を展開する。

論文

赤外線サーモグラフィ装置を用いたアスファルト舗装上からの
RC 床版内部欠陥検出システムの開発
内田 勇治,松井 俊吾,塩澤 大輝,阪上 隆英

Development of a Non-destructive Inspection System for Internal Flaws
in RC Slabs beneath Asphalt Pavements by Infrared Thermography

Yuji UCHIDA, Shungo MATSUI, Daiki SHIOZAWA and Takahide SAKAGAMI

Abstract
In recent years, numerous damages in the RC slabs of road bridges due to increasing traffic volume, over-weight vehicles and salt damage caused by anti-freezing agent have been reported. Therefore, development of an effective non-destructive inspection method for detecting such damages in concrete slabs beneath asphalt pavement is essential. Among various methods, the infrared thermography method enables non-contact and traveling investigations to be conducted for wide area of road bridges in a short time. Using this advantage, we developed a detection system for damages in RC slabs beneath asphalt pavement utilizing infrared thermography. The developed system can prevent degradation of thermography data based on extended exposure time by overlapped capturing of ten images from high-speed moving vehicles and can automatically generate a highly comprehensive panoramic image. Visible images of the road surface can also be acquired at the same time, making it possible to more accurately determine obstacles in the RC slabs beneath asphalt pavement.

キーワード:Infrared thermography, RC slabs, Asphalt pavement, Image compositing, Homography transformation

緒言
 近年,道路橋におけるコンクリート床版は,交通量の増加や車両の大型化に起因する早期劣化,凍結防止剤散布による塩害等の影響による変状が多く報告されている。これらの変状は,ポットホール等の損傷を誘発し,道路橋の使用性能に影響を与える。そのため,損傷発生前に変状を発見し,予防保全的に維持管理されることが必要である。 
 これらの変状を検出する手法としては,打音法, 超音波法,電磁誘導法,赤外線サーモグラフィ法などが適用されている1),2)。赤外線サーモグラフィ法は, 他検出法に比べ表面からの検出可能距離が短く,舗装面下コンクリート数十mm 程度の深さの変状しか検出できないという短所があるが,検査対象橋の上を走行する検査車両から非接触で広範囲な領域を短時間で調査でき,鉄筋が混在する橋梁でも変状を判別しやすいという利点を有している3)−5)。  
 そこで,本研究では,赤外線サーモグラフィ特性を利用し,アスファルト舗装直下のコンクリート床版の変状を検出するシステムの開発を行った。

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