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機関誌

2019年5月号バックナンバー

2019年5月1日更新

目次

巻頭言

「X 線CT の計測への応用」特集号刊行にあたって 釜田 敏光

 検査対象物の内部を壊さずに検査するという「非破壊検査」のために,超音波,放射線,渦電流などの様々なプローブが利用される。
 その中の放射線においては,検査対象物を透過する性質をもつX 線,ガンマ線,中性子線などを利用し,その透過した放射線をフィルム,蛍光板(シンチレータ)などによって画像化し,内部の構造,欠陥などを検査する。これらは二次元の透過像(または透視像)であるが,その画像を検査対象物の周囲の多くの方向から収集して,画像再構成という処理を行うと,検査対象物の表面と内部を立体的に表す三次元のCT 像を得ることができる。CT の基本的な技術は,1917 年にJ.Radon によって数学的な基礎が築かれ,1967 年Hounsfield による頭部用X 線CT 装置の開発によって実用化された。
 CT はX 線を用いるX 線CT が最も一般的であり,医療用として広く普及しているとともに,産業用としても普及している。医療用では,緊急を要する診断,患者さんの負担軽減のために検査スピードの向上,より小さな病変などをより鮮明に描出するために画質の向上,被ばく線量の低減が特に進められている。一方,産業用では,多岐にわたる検査対象物の材質と形状に対応するために様々なCT 装置が開発されている。X線のエネルギーは,プラスチックなどを検査する20 keV 程度の低いエネルギーからエンジンなどを検査する450 keV ~ 12 MeV 程度の高いエネルギーまでを検査対象物に応じて使い分けられている。
 産業用X 線CT は,1990 年頃のマイクロフォーカスX 線管を用いたX 線CT 装置の登場によってCT 画像の分解能はμm あるいは数百nm オーダにまで小さくなり,CT 像の鮮鋭度が大きく向上した。その後,1 回のスキャンで複数のCT 像を得ることができるコーンビームCT 装置が普及し,より鮮明な三次元のCT 像をより高速に得られるようになった。また,線質硬化,散乱線というX 線独特の現象による画質劣化を抑制するための補正技術などによってCT 像の画質は向上している。
 近年,産業用X 線CT では,より速く,より鮮明な,より精度の高いCT 像が得られるようになった。そのため,検査対象物の表面だけでなく,従来接触式三次元座標測定機(CMM)では,計測用の接触プローブがアプローチできないために測定することが難しかった内部も非接触・非破壊で計測可能な三次元計測器としてX 線CT が利用され始めている。ドイツではX 線CT の寸法測定精度の評価法が規格化され,それに基づいて寸法測定精度を保証する「計測用X 線CT」と称する装置が各国で製品化されている。
 前置きが長くなったが,今号の特集では,そうしたX 線CT による寸法(形状)の測定に加えて,内部を構成する物質の分布などの測定に関連する課題,最新の技術と計測への応用例について,「産業用X 線CT のしくみと検査・測定できること,測定誤差の要因とその影響」,「⾼精度三次元形状スキャンのための X 線 CT 利⽤法」,「計測用X 線CT による形状計測における誤差の特徴と性能評価法のISO 国際標準化」,「計測用のX 線CT 装置METROTOM と三次元座標測定用ソフトウェアCALYPSO」,「計測用X 線CTXDimensusTM 300 と金属アーチファクト低減ソフトウェアの紹介」,「X 線 CT とその解析用ソフトウェアVGSTUDIO MAX による計測,および,クローズドループエンジニアリングへの応用」,「CO2 地中隔離のX線CT 計測」,「X 線CT による計測とリバースエンジニアリングへの応用」という8 件の解説をご寄稿いただいた。
 本特集によって,産業用X 線CT,計測用X 線CT の理解を深めていただき,本特集が読者にとって有意義なものとなることを期待する。最後になりましたが,本特集号にあたりまして,ご多忙のところ多大なご協力を頂きましたご執筆者の皆様方,ならびに編集にあたりましてご尽力頂きました皆様方に深く感謝申し上げます。

解説

X 線CT の計測への応用

産業用X 線CT のしくみと検査・ 測定できること,測定誤差の要因とその影響
東芝IT コントールシステム(株) 富澤 雅美  原  拓生

Mechanism of Industrial X-ray CT and what can be Inspected and Measured,
Cause of Measuring Errors and its Effects

Toshiba IT & Control Systems Corporation Masami TOMIZAWA and Takumi HARA

キーワード:X 線 CT,CT像,画像再構成,誤差,検査・測定,デジタルエンジニアリング

はじめに
 CT はComputed Tomography の略称であり,コンピュータ断層撮影と呼ばれる。病院ではX 線CT によって頭部,胸部,腹部などの病変,外傷性の異常などの診断に活用されている。一方,産業用X 線CT は自動車用の鋳物部品,電池・コンデンサなどの電気・電子部品,実装基板などの空孔・空隙,異物,接合状態などの非破壊検査に利用されている。産業用X線CT は,X 線の透過能力と検出効率の向上,空間分解能の向上,検査時間の短縮,検査対象の大型化対応,アーチファクトと呼ばれる偽像の対策など,医療用と同様の課題も含めながら産業用独自の発展を遂げている。さらには,コーンビームCT と呼ばれる技術によって検査対象の全体または一部の体積をボリュームデータとして比較的に短時間で得られるようになり,また,画像再構成法の改善,様々な補正によって,その画質が向上している。CT 像の基本的な画質は,形状と階調(産業用CT 値)の精度,および,ノイズの量であると考えられ,これらの改善が進められている。そのため,産業用X 線CT は,「検査用」としてだけでなく,「計測用」としての利用が増えている。また,被検査物の表面と内部を計測することができる「3D スキャナ」として,3D CAD,3D プリンタなどと組み合わせてデジタルエンジニアリングへの活用も増加している。
 産業用X 線CT を三次元座標測定機(Coordinate MeasuringMachine, CMM)と位置付け,「計測用X 線CT(DimensionalX-ray CT,DXCT)」として測定精度を保証する機種が開発され,ドイツ,イギリスをはじめ,日本のメーカからも市販され始めている。計測用X 線CT では,ドイツの「X 線CT による座標計測のガイドラインであるVDI/VDE 2617-13 1),2630-1.32)」に基づいた寸法測定精度を規定している3)−6)。計測用X線CT の寸法測定精度の国際的な規格化のために,三次元座標測定機の国際規格であるISO 10360 シリーズに「ISO 10360-11」として計測用X 線CT の精度評価法の規格化が審議されている7)。
 本稿では, X 線CT 像を得るしくみ,それに基づいてCT 像から検査・測定できること,測定誤差の要因とその対策について概説し,基本的な測定例を紹介する。
 以後,特に断わらない限り,「CT 像」は「X 線CT 像」を,「CT 値」は「産業用CT 値」を表す。また,「測定」と「計測」の用語の使い分けに注意したが,不完全であることをお許しいただきたい。

高精度三次元形状スキャンのためのX 線CT 利用法
東京大学 大竹  豊

Utilization of X-ray CT for Accurate 3D Shape Scanning
The University of Tokyo Yutaka OHTAKE

キーワード:コンピュータ断層撮影(CT),形状測定,寸法計測,CT アーチファクト,三次元形状スキャン

はじめに
 筆者が初めて産業用X 線CT 装置を使ったのはおおよそ10年ほど前である。当時は光学式形状スキャンに関する研究に従事していたが,CT による形状スキャンを体験してからは,その可能性に極めて大きな魅力を感じ,その後はその高精度化に関する技術を中心に研究開発を行ってきている。いうまでもないがCT の魅力とは,X 線が十分に透過するワークに対し,接触式プローブや可視光でアクセスが難しい入り組んだ形状・内部形状もスキャンできる点である。この点は複雑化し続ける機械部品の形状計測に有効であり,加えて他の計測方法では不可能であるアセンブリ状態の複数部品の位置や形状の評価をも可能とする。図1 はその代表的な例として,自動二輪車のエンジンをまるごとCT 撮像し,部品単位で形状を抽出した例である。
 本稿,筆者と同じく高精度な三次元形状スキャンを目指すCT ユーザに向けたものであり,それを達成するための技術の研究開発状況を共有できれば幸いと考えている。
 本節では,まず高精度形状スキャンを達成するためのCT装置について簡単に述べ,続いてCT 装置を用いてワークの形状データを得るまでの手順を説明する。

計測用X 線CT による形状計測における誤差の特徴と性能評価法のISO 国際標準化
(国研)産業技術総合研究所計量標準総合センター
 阿部  誠  藤本 弘之  松崎 和也 佐藤  理  高辻 利之

Error Characteristics of Dimensional X-ray CT in Dimensional Measurement
and its ISO Standardization for Performance Evaluation

National Metrology Institute of Japan (NMIJ) / National Institute of
Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
Makoto ABE, Hiroyuki FUJIMOTO, Kazuya MATSUZAKI, Osamu SATO and Toshiyuki TAKATSUJI

キーワード:計測用 X 線 CT,誤差,性能評価,国際標準,工業標準

はじめに
 ものづくり産業の品質に直結するスキャンダルが報道される度に製品・部品の品質保証のあり方に社会的な関心が集まるようになっている。こうした社会環境のもと,工業製品などを形作る物質の内部を透かして撮像した複数枚の透過画像を用いてデジタル計算機の上で撮像対象の三次元立体画像を再構成する産業用X 線CT 装置は極めて重要な役割を果たしている。また21 世紀のものづくりは「デジタルものづくり」ともいわれるように,三次元CAD を利用して設計を行い,三次元CAM を経て加工を実施し,そして三次元スキャナを用いて検証・品質保証を行うことがものづくりのグローバル競争を闘う上での定石になりつつある。なかでも計測用X 線CT 装置は,「産業用X 線CT 装置」と「三次元スキャナ」の両方の機能を具備しており,「物体の内部まで計測できる」長さ・形状の測定機と位置づけられ,広くものづくり産業界に普及することが期待されている。
 計測用X 線CT 装置を初めて明示的に技術開発の課題として取り上げたのは2000 年代初頭頃における,ドイツ物理工学研究所(PTB)およびドイツの座標測定機業界であったようである。その後,ドイツの座標測定機メーカが先導して計測用X 線CT装置の製品化を進め,またドイツ国内ガイドラインとして「接触式座標測定機の性能評価法規格ISO 10360-2 を計測用X 線CT装置に適用する場合のガイドライン」1)を出版するに至っている。
 このドイツにおける先導的な製品開発と性能評価法の標準化に関する活動は高く評価されるに値すると考えられるが,標準化については時間軸にやや尚早であった感は否めない。例えば,計測用X 線CT 装置のISO 国際標準化は実質的に2000 年代後半に始まったものの,その後10 年以上の年月をかけて2019 年の今日の段階でなお国際的な混迷の解消に莫大な労力を費やしている。
 本稿はこうした背景を踏まえつつ,計測用X 線CT の誤差要因に関する考察の代表的なものについて概説し,計測用X線CT 装置に関するISO 国際標準化において国際的な見解の相違に至っている,X 線の物質透過の寸法・形状測定への影響について述べる。

計測用のX 線CT 装置METROTOM と三次元座標測定用ソフトウェアCALYPSO
カールツァイス(株) 竹田 和博

X-ray CT Machine METROTOM for Measurement and CMM Software CALYPSO
Carl Zeiss Co.,Ltd. Kazuhiro TAKEDA

キーワード:X 線 CT 装置,計測,三次元測定機,精度保証,トレーサビリティ

計測用X 線CT 装置 METROTOM
 X 線CT 装置METROTOM とはカールツァイスCT ソリューションの一つである。CT ソリューションには,高速,高精度,高分解能の分野があり,METROTOM は高精度の分野を担っている(図1 を参照)。
 METROTOM は寸法の測定精度が保証された装置であり,その精度は世界トップクラスである。そのため,METROTOM は欠陥解析,寸法測定,設計値/実測値比較,リバースエンジニアリングなど様々なアプリケーションで活用できる。
 METROTOM には,METROTOM 800 130 kV,800 225 kVHR,1500 225 kV の三機種があり,すべての機種において,ドイツ工業会の規格VDI/VDE 2630 に準じて,MPESD,MPEE,PF,PS の精度が保証されている

計測用X 線CT XDimensusTM 300 と金属アーチファクト低減ソフトウェアの紹介
(株)島津製作所 岸  武人  橋本継之助

Introduction of Dimensional X-ray CT XDimensusTM 300 and the Metal Artifact
Reduction Software

Shimadzu Corporation Taketo KISHI and Tsuginosuke HASHIMOTO

キーワード:マイクロフォーカスX 線CT,計測用X 線CT,トレーサビリティ,国際標準,工業標準,金属アーチファクト低減

非破壊検査装置としての X 線 CT 装置
1972 年EMI 社のハウンズフィールドらは,X線CT( Computed Tomography)装置を開発し,人の頭部内をコンピュータ上で可視化することに成功した。外科手術なしで病変部を確認できる,いわば「患者ファースト」な X 線CT は,その開発から10 年を待たず,瞬く間に世界中に普及した。その後,1986年にX-Tek 社のハドランドらがX 線焦点を数μm まで絞ったマイクロフォーカスX 線源の開発に成功すると,自動車部品や電子機器といった工業製品の非破壊検査用途に,マイクロフォーカスX 線源を搭載したX 線透視装置やX 線CT 装置がさかんに使われるようになった。当時のコンピュータの演算処理能力は貧弱なものだったため,特にX 線CT 装置は画像演算処理に多くの時間を要していたが,1990 年代以降のパーソナルコンピュータの加速度的な性能向上に伴い,データ収集と並行して数百〜数千枚の断面画像を得られるまで画像演算処理時間が短縮されたこともあり,簡単かつ高速な非破壊検査手段として,マイクロフォーカスX 線CT 装置が広く普及した。
 図1 に島津製作所製のマイクロフォーカスX 線CT 装置の外観を,図2 にX 線撮像部の模式図を示す。数μm まで絞られたX 線焦点から照射されたX 線は,観察対象物内部を透過し,対象物の材質・比重やX 線が透過する長さに応じて対象物内部で減衰した後,X 線検出器で2 次元画像情報に変換される。観察対象物を少しずつ回転させながら,360 度あらゆる方向からのX 線減衰情報を画像演算処理用コンピュータに取り込み,数百〜数千枚の断面画像を演算し,表示する。
 次にマイクロフォーカスX 線CT 装置による撮影事例を示す。図3 に樹脂製品の外観を,図4 にマイクロフォーカスX線CT 装置で撮影した断面画像例を示す。マイクロフォーカスX 線CT 装置を用いると,医療用途のX 線CT 装置と同様,観察対象物を破壊することなく,対象物内外の3 次元情報を一度に得ることができる。このような性質は,他の手段では代替することができないため,工業製品の品質評価や不具合解析,研究開発の現場において,マイクロフォーカスX 線CT装置が広く使われている。

X 線CT とその解析用ソフトウェアVGSTUDIO MAXによる計測, および,
クローズドループエンジニアリングへの応用
ボリュームグラフィックス(株) 佐藤 充男

Measurement and the Application to Closed Loop Engineering
of X-Ray CT and its Analysis Software VGSTUDIO MAX

Volume Graphics Co., Ltd. Mitsuo SATOH

キーワード:X 線 CT,非破壊検査,品質管理,形状測定,シミュレーション

はじめに
 近年,X 線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)は,CT 装置における検出器の高解像度化,X 線の焦点径の微小化などの性能向上,およびデータを処理するためのコンピュータの高性能化などに伴い,製品の故障解析や品質管理などで利用が広がっている。
 X 線CT データは,一般的に,被撮影物に対して全周方向から撮影した投影データを,コンピュータ上で画像再構成することで,撮影領域全体の断層画像を得る手法である。この断層画像を複数の断面について得ることで,三次元的な画像データとすることができ,これはボリュームデータと呼ばれる。このボリュームデータは,二次元画像における最小単位のピクセルに,もう一次元を付加した,ボリュームとピクセルの造語であるボクセルと呼ばれる最小単位で構成される。このボクセルには,通常,スカラ量が記述されており,その値は物質ごとの線減弱係数に対応するもので,医療用途のボリュームデータでは,各ボクセルが持つ値は,ハウンズフィールド単位(空気が−1000,水が0 となるよう校正されている)のCT 値であるが,産業(工業)用途のボリュームデータでは,様々な材質の被測定物に対応することが必要であるため,必ずしもそうではないグレイバリュー(産業用CT 値)を表す。また,ボクセルの各辺に対して,撮影時の拡大率に応じた物理長さ情報を与えることで,実際の寸法に換算してデータを扱うことが可能である。このため,ボリュームデータは,内部の状態に関する情報と,内側および外側の形状に関する情報を併せ持つという意味においては,完全なる三次元データと言うことができる。産業用X 線CT は,非破壊で内部までを検査,解析できるために,破壊検査では必要であった切断などの準備加工が不要であること,組付け品や,ある特定の状態をデータ化することができることなどの利点もあり,様々な目的で利用されている。
 本稿では,このボリュームデータを,そのグレイバリューと寸法情報を利用して解析するソフトウェアVGSUTDIO MAX 1)における様々な最新の解析機能と,それにより得られる結果を「ものづくり」の工程である設計,製造,計測といった流れの中で適宜フィードバックさせることにより,設計モデルと実際の製品の不一致によってオープンであった流れを,閉じたループにすることにより高効率や高品質を実現するクローズドループエンジニアリング2)への応用について説明する。

CO2 地中隔離のX 線CT 計測
東京工業大学 植村  豪  平井秀一郎

X-ray CT of CO2 Geological Sequestration
Tokyo Institute of Technology Suguru UEMURA and Shuichiro HIRAI

キーワード:マイクロフォーカス X線 CT,CO2地中隔離,多孔質,二相流

はじめに
 X 線CT は非破壊,非侵襲でサンプルの内部を可視化できる手法であり,医療や産業などの幅広い分野において,生体や製品の内部を観察,検査するために多用されている。通常のX 線CT 計測では,サンプルの内部構造を明瞭に観察することを主眼に置き,アーチファクト低減やコントラスト向上のため,X 線CT 装置内へのサンプルの設置方法や撮影方法の最適化に注力している。一方,著者らはこれまでに「実物のサンプルを実際と同じ条件(温度,圧力,作動状態)のままX 線CT 計測する」という,CT 計測条件よりもサンプル周囲環境の再現を優先した実験に取り組んできた。具体的には,多孔質状のサンプルを金属製の圧力容器内に設置し,さらに多孔質サンプルへ水や液体CO2 などを注入するための配管を取り付けた状態でX 線CT 計測を行ってきた。このような観察を実現するためには,実験のセッティングや撮影手順など,様々な工夫が必要であり,本稿では一連の実験の特徴や具体的な手法,そしてX 線CT 計測によって得られた可視化結果とその解析方法について紹介する。

X 線CT による計測とリバースエンジニアリングへの応用
(地独)東京都立産業技術研究センター 紋川  亮  横山 幸雄 月精 智子  三浦 由佳

X-Ray Computed Tomography( CT) in Reverse Engineering Application
Tokyo Metropolitan Industrial Technology Research Institute Akira MONKAWA, Yukio YOKOYAMA
Tomoko GESSEI and Yuka MIURA

キーワード:高精度 X 線 CT,Additive Manufacturing(AM),3D-CAD,CAE

はじめに
 現在,世界中のものづくりの現場では,IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)によるデジタル革新により,「設計」から「生産」までの製造プロセスをデジタル化し,熟練技術者がいなくても一定水準のものづくりが可能となる「デジタルものづくり」への変革が進展している。デジタルものづくりは,3D プリンタとして認識されているAdditive Manufacturing(AM),設計・解析システム(3D-CAD,CAE),3 次元計測システム(X 線CT 装置,3D スキャナ等)を融合することで,開発から製造までの効率化と高品質化の実現が可能である。
 AM は様々な材料(ポリマ,セラミックス,金属)に適応可能であるため,自動車,航空,医療など幅広い産業分野で産業化が進展している。また,AM は,3D データさえあれば,様々な3 次元形状を造形することが可能であり,ものづくりに対するハードルを下げる役割を果たしている。現在,世界中でAM による実製品への適用を目指し,高品質・高精度な造形を実現する製造方法の最適化やAM の生産性向上への取り組みが進んでいる。
 AM による実製品の製造には,製品の品質保証のため,欠陥や割れ等の微細構造観察技術や複雑形状物の3D モデリング技術が不可欠である。欠陥や割れの発生は,造形条件が適切でないことや設計形状が造形手法に合致していないことにより引き起こされる。微細構造の観察により,欠陥や割れを抑制する造形条件や形状を明らかにすることが可能になる。輸送機器業界では,CO2 排出削減や燃料高騰の影響から,部品の軽量化が至上命題となっており,トラス構造やラチス構造など金属積層造形でしか製造できない構造に注目が集まっている。特にラチス構造体は,複数方向からの応力に対して強度を保持するため既存部品の置換が期待されている。複雑形状造形品が設計図面通り造形できているか確認するためには,実製品を3D モデリングし,設計図面と比較する現物融合技術が有効である。
 X 線CT 装置は物体の内外を測定することが可能な唯一の手法であり,AM 製品の微細構造観察および複雑形状の3D モデリングが可能である。本稿ではX 線CT を用いた様々な造形品の微細構造観察および3D モデリングの課題と解決法に関して,実例を交えながら解説する。

論文

高温環境下における機械的表面改質層圧縮残留応力緩和挙動の実験室X 線その場測定
岡野 成威,橋本 匡史,谷口  優,望月 正人

Lab X-ray In-situ Measurement of Relaxation Behavior of Compressive Residual Stress within Mechanical Surface Modified Layer under High Temperature Environments
Shigetaka OKANO, Tadafumi HASHIMOTO, Yuu TANIGUCHI and Masahito MOCHIZUKI

Abstract
In this study, a lab X-ray in-situ measurement technique was applied to quantify the relaxation behavior of compressive residual stress within the mechanical surface modified layer of low-carbon austenitic stainless steel in high temperature environments. The mechanical surface modified specimens were prepared through shot peening with two different levels of processing degree. Then, two kinds of tests at elevated temperature, such as incremental temperature rise and isothermal holding, were carried out, respectively, using these specimens. The results showed that relaxation of the compressive residual stress was almost finished when the temperature reached peak value. In the high-temperature range only, compressive residual stress gradually decreased over the elapsed time. It should be noted that stress relaxation in high temperature environments were correlated highly with the reduction of full width at half maximum (FWHM) obtained by X-ray diffraction, regardless of degree of mechanical surface modification process. It was then concluded that relaxation behavior of compressive residual stress within mechanical surface modified layer under high temperature environment was thought to be mainly due to reduction of plastic strain induced by mechanical surface modification processes.

キーワード:Lab X-ray, In-situ measurement, High temperature environment, Stress relaxation behavior Full width at half maximum, Shot peening

緒言
 機械構造物の長寿命化に向けた予防保全策として,経年損傷の発生起点となりやすい材料表面に圧縮残留応力を生成させる表面応力改善処理1)が挙げられるが,その応力改善効果の使用環境下における長期安定性・信頼性の評価が重要な技術課題となっている。
 材料表面の残留応力を完全非破壊に実測できるX 線応力測定法は,表面応力改善効果を確認する材料評価技術として有用である。各種ピーニングによる表面応力改善効果の高温環境下での変化の評価にも利用されている2)−4)が,これらは主として熱時効後に室温まで冷却した状態での評価となっている。そのため,高温環境下や室温まで冷却する過程の前後での変化挙動などを詳細に把握できれば,応力改善効果の使用環境下における長期安定性・信頼性の評価に向けて有意義である。高温環境下における経時変化挙動の把握には放射光等を用いた取り組み5),6)が有効であるが,設備面から必ずしもユーザが簡便に利用できるものではない。そこで,より広く普及している実験室X 線を活用した高温環境下での応力変化挙動その場測定技術7)が確立されれば有意義である。
 本稿では,原子力発電プラント等に使用される低炭素オーステナイト系ステンレス鋼SUS316L を対象として,機械的表面改質プロセスによって導入された材料表面の圧縮残留応力の高温環境下における緩和挙動を実験室X 線その場測定技術を活用して計測し,その材料挙動メカニズムに関して考察する。

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