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機関誌

2019年10月号バックナンバー

2019年10月1日更新

巻頭言

「産業を支えるインフラストラクチャの維持管理技術」
特集号刊行にあたって 大根田浩之

 「スマート保安」という言葉を見聞きする機会が急速に増えてきたと感じています。
 高度成長期に建てられたプラント・設備等の各種産業インフラでは老朽化が進んでいます。これに伴い,検査対象となる損傷についてはその形態や発生要因などがより複雑になってくると考えられています。プラント・設備等において死傷事故は減少しているものの,重大事故は引き続き発生しています。経済産業省が公表している統計資料によると,高圧ガス事故件数は増加傾向で推移しており,平成30 年度における事故件数は前年から111 件増加して過去最高となっています。ハード面での事故要因として「設備維持管理不良」,なかでも「腐食管理不良」が最多であると報告されています。
 このような状況のなか,日頃検査サービスに従事している者としては技術者の人材不足に懸念を抱かざるを得ません。なかでも,これまで最前線で活躍されてきたベテラン技術者の退職の機会に触れる度にその思いを強くします。非破壊検査は技術者個人のセンスや力量に対する依存度が高い技術分野であることには多くの賛同を頂けるように思います。私見ですが,非破壊検査の分野では先人の技術者が磨き,築きあげてきた技術的な資産を次の世代に伝承することで成立ってきた部分が少なくないと感じています。技術者個人の力量の重要性は今後も変わらないでしょう。しかし,少子化が進む現在そして特に未来に目を向けると,人材不足を補うための方策,つまり省力化技術などの必要性が急激に増しているのではないかと思います。
 以上のことに鑑みると,省力化技術,特にAI・IoT・ロボット技術などを利用した「スマート保安」を推進していこうという動きはごくごく自然な流れであり,また避けられない流れでもあるように感じます。実際,先進的な技術を利用した新規検査技術の開発事例などを見聞する機会が多くなりました。現在は省力化やスマート化に向けた過渡期なのではないかと感じることがあります。だとすると,従来技術や先人達が蓄積してきた資産を吟味し,それらを先進技術にどのように融合させるのかということが現在の大きなテーマの一つなのではないでしょうか。
 保守検査部門はプラント・設備の健全性を確保するための管理技術を含むあらゆる技術に関連する部門です。年2 回のミニシンポジウムや機関誌特集号において,従来技術を利用した現場への適用事例や先進技術を利用した開発事例など,各種設備等に対する様々な検査技術の動向をこれまで多くの方々に紹介頂いてきました。今回の特集号では「産業を支えるインフラストラクチャの維持管理技術」と題して,第一線で活躍されている方々に解説記事の執筆を依頼し,石油・石油化学産業に関わる技術や制度の動向・新たな診断アルゴリズムや最新装置を用いた検査事例の紹介・AI や情報通信技術を利用した省力化関連技術など大変興味深い計6 本の記事をお寄せ頂きました。今回の特集号が読者の方々にとって少しでもお役に立てれば幸甚です。
 最後になりますが,ご多忙中にもかかわらず本特集号のために記事を寄稿頂きました執筆者の皆様にこの誌面を借りて厚くお礼を申し上げます。

解説

産業を支えるインフラストラクチャの維持管理技術

石油・石油化学産業における設備関連技術の国内外潮流
−検査技術の方向性を考える一助として−
出光興産(株) 石崎 陽一

Tide of Equipment Engineering in Oil Refining and Chemical Industry
− Expectations on Inspection Technology −

Idemitsu Kosan Co., Ltd. Yoichi ISHIZAKI

キーワード:ASME,維持管理,技術史,圧力容器,配管,供用適正評価

はじめに
 それぞれの製品には導入期,成長期,成熟期,衰退期から成るライフサイクルがあり,一つの製品がそのライフサイクルの中で通過していく各ステージにおいて適切な経営戦略が求められることは経営学において認識1)されている。経営学の視点からすると,顧客ニーズや社会の要請が時間軸に対して変化することは当たり前のことであり,いつまでも同じことをしていて儲かるビジネス,即ち時間軸のないビジネスなどはあり得ないのである。一方,石油・石油化学産業の設備関連技術は,消費者や市場とは全くと言っていいほど程遠い世界のように思えるが,石油・石油化学産業の技術の歴史を紐解くと,実は技術発達過程が特に米国においてはプロダクト・ライフ・サイクルに沿ったものであったことを垣間見ることができる。当然ながらエンジニアリングとは経済活動の一環である以上,今後の技術動向もこのビジネス・ニーズや社会要請に沿ったものでなければ実りのなきものとなってしまう。本稿では,石油・石油化学産業の設備関連技術をリードしている米国のASME/API の技術発展の歴史を振り返りながら,日本の業界の実情を踏まえて今後国内で必要とされていく設備関連技術の方向性について考えてみたい。

スーパー認定事業者制度について
高圧ガス保安協会 永井 秀行

Specific Accredited Completion and Safety Inspection Executor System
The High Pressure Gas Safety Institute of Japan Hideyuki NAGAI

キーワード:リスクアセスメント,新技術の活用キーワード ,リスクベースドメンテナンス,トップランナー

はじめに
 特定認定事業者制度,いわゆる,スーパー認定事業者制度は,経済産業省において,設備の高経年化や高度な知見を持ったベテラン従業員の減少等が進むことを踏まえ,IoT やビッグデータ等を導入し,効率的かつ効果的な形で,現場の自主保安力を高めていく必要があることから,これらの新技術等を取り入れたレベルの高い自主保安活動を促進する制度として構築し,2017 年4 月より開始されたものである。
 2019 年6 月末現在,3 つの事業所が認定を取得している。

衝撃振動を有する低速回転機械の軸受診断技術
(株)トクヤマ 森  圭史  三重大学 陳山  鵬

Diagnosis Method of Low Speed Roller Bearings with Shock Vibration
Tokuyama Corporation Yoshifumi MORI
Mie University Ho JINYAMA

キーワード:低速回転機械,チェーン伝動装置,モニタリング手法,異常診断法

はじめに
 回転機械における振動診断技術は,設備劣化の兆候を早期に検知すると共に設備状態を定量的に把握する技術として,最も効率的で効果が大きい設備診断技術である。その振動診断技術の中でも,転がり軸受に対しては高い異常診断検出率を誇るため,状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance)のツールとして多くの製造現場に導入されている。しかし,低速回転機械(200(rpm)以下)の場合,軸受の転動体の周速が遅いことから欠陥を通過する時に生じる衝撃(加速度レベル)が小さい。それにより,計測した信号のS/N 比(信号・雑音比)が低いため異常検出や特徴判明が中高速回転機械の異常診断に比べて困難である。また,チェーン伝動装置などを有する低速回転機械においては,チェーン伝動装置の回転中に衝撃的な振動が伴うので,その近傍にある軸受の異常検出は一般の低速回転機械に比べさらに困難であり,これまでにその異常診断法は確立されていない。
 本稿では,衝撃的な振動を伴う低速回転機械の転がり軸受の診断ができる実用的な診断測定器を開発することを最終目標として,統計情報フィルタによる最適なノイズ除去法,軸受診断専用の特徴パラメータおよび主成分分析法などを用いた新たな診断アルゴリズムを提案した。そのアルゴリズムの検証結果および適用事例を示し,実用化のための測定器開発について紹介する。

パルス渦電流法を用いた腐食検査技術
東亜非破壊検査(株) 鈴木 大介

Corrosion Detection Technique using Pulsed Eddy Current Technology
Toa Nondestructive Inspection Co., Ltd. Daisuke SUZUKI

キーワード:パルス渦電流法,保温材下腐食,スクリーニング検査,磁性管,平均肉厚

はじめに
 国内のプラントは高経年化に伴い劣化損傷が進んでおり,特に保温材下の外面腐食(CUI:Corrosion Under Insulation)が問題となっている。CUI の検査には,目視検査や放射線検査等が一般的に行われている。しかしながら,目視検査は保温材を解体する必要があり,多大なコストと時間を要する。また放射線検査は,現場でも使用可能なリアルタイムラジオグラフィが開発され,保温材を解体せずに検査可能であるが,放射線を使用することによる制限があり,部分的な検査とならざるを得ないのが現状である。
 膨大な配管や装置を対象とするため,保温材を解体することなく,高速で腐食部を特定できるスクリーニング検査が望まれている。このようなニーズに対応するために,当社では従来からパルス渦電流法によるスクリーニング検査を実施してきたが,この度,新たに高速測定が可能なLyft(Eddyfi 社製)1)を導入し,各種機器の測定を行ったので,その適用事例を報告する。

インバリアント分析技術による非破壊検査の高度化
日本電気(株) 相馬 知也

Advancement of Non-destructive Inspection by System Invariant
Analysis Technology

NEC Corporation Tomoya SOMA

キーワード:非破壊検査,弾性波,AI,AE,ECT

はじめに
 近年,非破壊検査の分野においても人材不足と後進の育成は大きな課題となっている。非破壊検査における異常発見の可否は,画像診断やプローブ走査などの個人の技術や能力によるところが多い。このため,検査者の育成は設備の維持管理において重要な課題となっている。
 近年,機械学習にみられるように,データ分析技術の発展はめざましく,従来までは画像認識や音声認識などで利用されてきた技術がメンテナンスの分野にも利用され始めてきている。非破壊検査への適用においては,X 線検査などにおいて,画像を中心としたディープラーニングの利用が考えられる。しかし,学習過程においては正常データに加え,異常データも学習させる必要がある。このため,非破壊検査の現場における様々な異常検知を行おうとした場合は学習データの準備に課題がある。このようなことから,ディープラーニングの利用は限定的であると考えられる。
 異常データの学習が困難なことに対し,正常データの収集は非常に容易である。このため正常な状態のデータのみを学習させ,異常を検知する技術を使うことができれば,非破壊検査においても機械学習や分析技術が利用可能となる。このような技術が人の能力を補完することで,人材不足の解決に役立つものと考えられる。しかし,実際の現場においては「正常」といえる状態は存在しない。経年劣化や運転上,利用上は問題のない範囲で設備が運用されている。このため我々のアプローチは「いつもの状態」を学習データとして利用する。本研究は,正常状態すなわち検査現場における検査者の習熟度合いからくる計測のブレも考慮した「いつもの状態」を学習し,「いつもとちがう」を検知できる技術であるインバリアント分析技術を利用し,非破壊検査における判断の高度化を狙ったものである。対象としては検査者の習熟度が影響すると思われる渦電流探傷試験(ECT)及び高い習熟度を要するアコースティック・エミッション(AE)を選択し検証を実施している。それぞれの検証結果について解説する。

電力インフラの保全合理化のための無線センサネットワークの構築
(一財)電力中央研究所 西ノ入 聡、福冨 広幸、朱牟田善治

Wireless Sensor Networks for Condition Monitoring of Electric Power Infrastructure
Central Research Institute of Electric Power Industry Satoshi NISHINOIRI
Hiroyuki FUKUTOMI and Yoshiharu SHUMUTA

キーワード:モニタリング,センサネットワーク,無線通信,予知保全,電力設備

はじめに
 設備やプラントの老朽化・高経年化,保安人材の不足・高齢化といったエネルギー産業における構造的な課題の顕在化に伴い,我が国では事業者の産業保安スマート化を促進するためのインセンティブ制度が次々に施行されている1)。電気事業においては,2017 年の産業保安法令見直しにより「高度な保安力を有する火力発電所」に対する定期検査間隔(2 年→最大6 年)ならびに連続運転期間(ボイラ:2 年間→最大6年間,タービン:2 年間→最大6 年間)の延長制度が開始されている。これを受けて,供給信頼性を維持しながらメンテナンスコストの低減を実現しようとする「予知保全」の実現に向けた技術開発が精力的に行われるようになってきた。IoT(Internet of Things)・ビッグデータ・AI といった近年著しい進歩を遂げている先進技術と,電気事業者やプラントメーカが有するプラント運転に関するデータやノウハウを連携させることで,プラント保守の省力化・高度化に加え,ベテラン技術者から若手技術者への技術継承を可能とするための技術開発が進められている2),3)。しかしながら,既に多数のセンサが設置されている発電用タービン等の主要機器とは異なり,火力発電所内に多数存在する屋外構造物や補機類などはセンサが設置されておらず,運転員による巡視点検が主流である。これらの機器も含めたプラント全体の保安スマート化を実現する上で,無線センサネットワークの構築が不可欠である。
 送電設備,変電設備,配電設備等の電力流通設備においては,高い供給信頼性の維持が最重要であることから,故障の有無に関係なく定期検査・修繕を行う「時間計画保全」が広く行われてきたが,インフラ老朽化の進行とともに,より合理的な「予知保全」への転換が進みつつある。送電鉄塔やコンクリート電柱など,今後計画的な更新が必要となる電力流通設備は,膨大な点数が面的にネットワーク構成しており,アクセスが困難な山中等にも存在していることから,遠隔から常時・多点で長期にわたり監視する無線センサネットワークの構築と,収集データに基づく設備故障の予兆監視が不可欠である。
 本稿では,電力インフラの保全合理化を目指して電力中央研究所(以下:当所)が開発を進めている無線センサネットワークの概要と,火力発電所および電力流通設備への応用事例を紹介する。

資料

第24 回国際AE シンポジウム開催報告
東京工業大学 水谷 義弘

Report on 24th International Acoustic Emission Symposium in Sapporo
Tokyo Institute of Technology Yoshihiro MIZUTANI

キーワード:国際会議,国際シンポジウム,AE,AE アカデミー

開催日:平成30 年11 月5 日(月)~ 11 月9 日(金)
会 場:札幌市教育文化会館
参加者: 135 名(国内参加者:102 名,海外参加者:33 名)
1. IAES について
 IAES(International Acoustic Emission Symposium, 国際AE シンポジウム)は,1972 年から2 年に一度,日本で行ってきたAE の国際シンポジウムである。AE の国際的な会議はIAES 以外に,米国が行っている米国AE 会議(AEWG),ヨーロッパが行っているヨーロッパAE 会議(EWGAE),また,3 ~ 5年に一度,上記3 者が合同で開催しているIIIAE(International Institute of Innovative Acoustic Emission,国際先端AE 学会),さらに中国のNDT 学会が行っているWCAE がある。IAES は,これらの中でも学術的な面で最もレベルが高いとされ,世界的に認められている歴史あるシンポジウムである。

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