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機関誌

2024年1月号バックナンバー

2025年10月21日更新

巻頭言①

「新年のご挨拶」

井原 郁夫

2024年の年頭にあたり,謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

昨年,我国ではコロナ禍が収束に向かい,日常生活が回復する中,メジャーリーグでの大谷翔平選手の大活躍という明るいニュースに沸き立ちました。しかし,その一方で,ヨーロッパや中東の一部の地域では緊迫した紛争状態が続いており,世界情勢は混迷を深めています。2024年が我国のみならず世界中の人々にとってより良い年になりますよう心より祈念いたします。

昨年の当協会の活動を振り返りつつ,年頭の所感を述べさせて頂きます。

当協会は6 月に「本会の新型コロナウイルス感染症対策への対応について(第14 報)」を発出し,これまでのコロナウイルス感染症への対応を終了いたしました。これに伴い当協会では,3 年間のコロナ禍を乗り越えた実績を糧とし,ポストコロナ社会での自由度の高い運営を心掛け,事業活動を推進してまいりました。コロナ禍で得た教訓とノウハウを活かしつつ,事業活動を再開できたことに対し,皆様のご支援,ご協力に改めて深く感謝を申し上げます。

当協会活動の柱の一つである教育・認証事業に関しては,講習会や試験の実施体制がコロナ禍前に戻りつつあります。学術活動に関しても,非破壊検査総合シンポジウム,秋季講演大会などをはじめ,多くの部門行事が対面で開催され,コロナ禍前の状況に回復したと言えます。当協会の諸活動の実施体制は,先達が時代の要請に応じて創り上げてきたものであり,コロナ禍で中断していたこれらの活動を再開できたことは喜ばしいことです。願わくは,その際には,これまでの活動を単に踏襲するだけでなく,コロナ禍を経た再スタートを好機とし,ステークホルダーのニーズに応える新たな施策を導入した活動を実践していただければ大変有難いと思います。そうすることで,協会の活性化と価値向上に繋がるように思います。そのような一つの例として,昨年10 月末に開催した第1回NDE4.0 シンポジウム(協賛:土木学会,日本機械学会)が挙げられます。NDE4.0 とは,Industry4.0 の流れの中で第4世代非破壊評価として提唱された概念です。このシンポジウムはNDE4.0 特有の学際性を踏まえて企画したもので,他分野の研究者・技術者との交流も意図し,協賛・後援団体に対しても講演募集を行い,その参加登録料は当協会会員と同額に設定しました。また,初めての試みとして,質疑応答は会場での対面実施に加えて,オンラインコミュニケーションツールの活用を導入しました。これにより,講演会終了後も多数の質問が寄せられ,活発な質疑応答がオンラインで共有されたことで,シンポジウムの価値が高められたように思います。各部門の講演会,シンポジウム,研究会,さらに講習会などにおいても,それぞれの目的に即した新たな取り組みを導入することで参加者の増加や満足度向上に繋がる可能性があります。当協会に新しい風を吹かせる試みを,ぜひ,ご検討いただければと思います。

国際活動に関しては,昨年度も米国非破壊試験協会(ASNT)をはじめとする各国関連団体との交流を深め,世界非破壊試験委員会(ICNDT)やアジア太平洋非破壊試験連盟(APFNDT)での活動と連携を継続するとともに,「ISO/TC 135(非破壊試験)及びSC6(漏れ試験)」の幹事国としての責務を果たしました。ASNTとの相互承認についてはレベル3 を含む相互認証の早期実施に向けて,6月に東京で日米代表者による最終段階の調整が行われ,10 月に米国・ヒューストンで開催されたASNT年次大会においてこの相互承認が正式に公表され各国に周知されました。また,8月にはオーストリア・ウィーンの国際原子力機関(IAEA)の本部において,当協会とIAEA とのPA(Practical Agreements)締結に関する調印を行い,教育,訓練及び能力開発における双方の今後の連携が確認されました。9 月には英国・ノーザンプトンにて開催された英国非破壊試験協会(BINDT)年次大会に参加し,英国をはじめとする各国代表者との友好関係を構築,深化させました。さらに10月の当協会秋季講演大会(徳島)では韓国非破壊試験協会(KSNT)とのインターナショナルセッションを再開し,両協会の今後の連携,特に若手人材の育成と交流の推進について確認しました。これからも国内事業に軸足を置きながら,「グローバルに活躍する協会」を目指して国際活動を推進したいと考えます。

昨年の出来事で忘れてはならないのは,6 月6 日に挙行された当協会創立70 周年記念式典です。関係各所の来賓ならびに国内外の関連団体の代表者にご臨席を賜り,式典と併せて開催された海外招待講演会と祝賀会ともども,おかげさまで盛会のうちに終えることができました。これらのイベントを通じて当協会の70 年の歴史の重みを再確認するとともに,幅広い関係者との友好を深め,将来に向けた国内外の新たなネットワークを構築できたことは極めて意義深いと考えています。

当協会は,これからも社会に価値ある安全・安心を提供するためにJSNDI アクションに基づく事業活動を推進し,これにより社会貢献を果たしてまいります。本年もこれまで同様,皆様のご理解とご協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。

最後になりましたが,本年の皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げます。

 

巻頭言②

「cosα法及び二次元検出器によるX線応力測定法Ⅱ」特集号刊行にあたって

佐々木敏彦

このたび,X線応力測定のための新技術である「cosα 法」並びに「二次元X線検出器」を中心に3回目の特集号を刊行する機会を得ることができました。今回は,合計で8 編の解説記事が掲載されています。各解説記事の執筆は,日本非破壊検査協会に設置されている「cosα 法方式のX線応力測定法研究会」のメンバーが中心になり進められました。第1 回目,第2 回目の特集号のときに比べ,今回は本技術を応用した新たな試みが増えてきた印象があり,本技術の普及の一端が窺えるように思われます。

本特集号の巻頭にあたり,本技術の現状や上記の研究会について簡単にご紹介させていただきたいと思います。

まず,X線応力測定技術について,cosα 法までの流れを振り返っておきたいと思います。そもそもの始まりは今から約130 年前のRöntgen によるX線の発見になります1)。その約20 年後に,Debyeらにより回折環の利用が行われ2),それまでの単結晶材料に対する物理学の研究から,主として多結晶体である工業材料への利用への契機になったと考えられます。こうして,Lester らのX線応力測定の提唱3)へとつながっていきます。その後,第二次世界大戦を経て,Christenson らによる「sin2ψ 法」の研究4)が発表され,その後の標準的なX線応力測定技術として発展していきます。なお,sin2ψ 法は現在でもX線応力測定の標準法と言える位置にあります。

そうした中,写真フィルムを用いて測定した回折環から応力を求めようという研究が平らにより行われ,「cosα 法」と名付けられました5)。その後,イメージングプレート(IP)を適用して回折環を測定する研究が吉岡らによって行われました6)。こうした先行研究に続き,金沢大学ではデータ解析に重要となる二次元画像の解析技術の充実と共に,三軸応力測定7)等の測定理論面や適用材料,使用する線源等の拡張について継続的な研究を進めました。そうして,2009 年に科学技術振興機構(JST)が主催する金沢大学新技術説明会でcosα 法を紹介8)したことが契機となり,2012 年に国内企業から世界初のcosα 法専用機が上市され,その後,今日まで順調にユーザが増加してきています。このような経緯において,その発展の初期にあたる2014 年に日本非破壊検査協会に本研究会の前身である現場指向X線残留応力測定法研究会が設立され,cosα 法の研究と普及に貢献してまいりました。現在は新体制の下,本技術による残留応力評価を通して工業製品の強度や耐久性の向上に貢献すべく,基礎から応用まで幅広い活動が続けられています。

最後に,本特集号の解説が残留応力に関係する多くの技術者並びに研究者の皆様の問題解決の一助となることを期待して,巻頭の辞とさせていただきます。

 

解説

cosα法及び二次元検出器によるX線応力測定法Ⅱ

cosα法を用いたNb-TiNi 複相水素透過合金の応力解析

金沢大学 浜崎 友貴  宮嶋 陽司  佐々木敏彦  石川 和宏
金沢大学(現在,石川県工業試験場) 新谷 正義

Residual Stress Analysis by Applying cosα Method to Nb-TiNi Multi-phase Hydrogen Permeable Alloys
Kanazawa University Yuki HAMASAKI, Yoji MIYAJIMA, Toshihiko SASAKI and Kazuhiro ISHIKAWA
Kanazawa University (Present Address: Industrial Research Institute of Ishikawa) Masayoshi SHIN-YA

キーワード: 水素透過合金, 複相材料,X 線応力測定,cosα法,残留応力

 

はじめに
 脱炭素社会の実現に向けたエネルギーキャリアとして水素ガスが注目されている1)。今日では水素ガスのほとんどは炭化水素の水蒸気改質により製造している。しかし,この方法で得られる水素ガスは不純物を含むため,水素ガスを分離精製する必要がある。現在,圧力変動吸着(PSA)法による水素精製が一般的であるが,高純度の水素ガスを得るには装置の大型化が避けられない。そこで,PSA 法より効率的に水素ガスの分離・精製が可能で,かつ装置の小型化が可能な膜分離法が注目されている。

膜分離法に用いる水素透過膜は多孔質膜と非多孔質膜に大別できる。多孔質膜では細孔を有する材料を利用して水素ガスと不純物を分離するが,得られる水素の純度は99%程度である。一方,非多孔質膜,特に合金膜は,結晶格子間にはほぼ水素原子しか侵入できないこと,そして不純物原子が侵入しても拡散速度が水素に比べて小さいことから,6 N 以上の高純度の水素ガスが得られる。そのため,水素透過合金膜を用いた水素製造・精製技術への期待が高まっている。現在,膜分離法に用いられる水素透過合金膜はPd 系合金が使用されている。以下ではPd の特徴及び問題点を挙げる。

 

cosα法を用いた金属積層体の異方的な残留応力分布測定

三条市立大学 江面 篤志
パナソニック(株) 阿部  諭
金沢大学 古本 達明  坂本 二郎  佐々木敏彦

Measurement of Anisotropic Residual Stress on Additively Manufactured Structure by cosα Method
Sanjo City University Atsushi EZURA
Panasonic Inc. Satoshi ABE
Kanazawa University Tatsuaki FURUMOTO, Jiro SAKAMOTO and Toshihiko SASAKI

キーワード: 粉末床溶融結合法,cosα法,反り,残留応力分布,マルエージング鋼

 

はじめに
 金属粉末ベースの付加製造法(Additive Manufacturing:AM)は,切削加工などの従来の除去製造法では加工が難しい複雑形状を有する製品を製造できる点で産業界から注目を集めている。金属AM の一種であるレーザベースの粉末床溶融結合法(PBM-LB/M)は,図1 に示すように薄く堆積させた金属粉末にレーザを照射することで,選択的に溶融・凝固させ,1層分のレーザ照射が終了した後,リコータによってその上に薄く粉末供給し,さらに上部の層の溶融・凝固を行うという過程を繰り返すことで三次元の物体を造形する方法である。PBF-LB/M は,他の金属AM プロセスと比較して,高密度かつ高精度な積層体を形成できるため,産業界において最も普及している手法である。

PBF-LB/M を用いて作製された積層体の不安要素として,機械的特性が挙げられるが,多くの研究者が造形プロセスの解明に挑むとともに,金属粉末の高性能化や後処理工程の最適化に関する研究も進められており,不安解消に向けて着実に歩みを進めている。一方で,PBF-LB/M によって生産される積層体は異方性を有することが知られており,その異方性は,PBF-LB/M ならではの設計自由度の高さから製品形状として付与される場合1)と,造形プロセス由来で金属組織もしくは化学組成的に付与される場合2)がある。前者は,設計段階で従来の工法では加工できない形状を創製が可能なPBFLB/M の利点を最大限に生かして付与される。後者は,レーザ照射により引き起こされる短時間での溶融凝固により,レーザ走査方向に依存して付与される。その異方性は,結晶方位,引張強さ,硬さ,疲労強度,残留応力,電気化学的特性など,多岐に及ぶ。Charmi ら3)は,PBF-LB/M における積層方向が積層体の引張強さに及ぼす影響について検討した結果,ベースプレートに対する積層角度が減少するにつれて降伏応力ならびに引張強さが向上することを報告している。

レーザ走査パターンが引き起こす異方性は,積層方向の影響よりも微細な領域に作用する。石本ら4)は,レーザ走査パターンを変えることにより,製造された積層体の結晶方位を任意に制御することが可能であることを報告している。1 方向に往復走査するレーザ走査パターンを用いてTi-15Mo-5Zr-3Al 積層体を製作することで積層方向において結晶方位は<001>が支配的となること,一方で,1 層ごとに90 deg. ずつレーザ走査方向が変化するパターンを用いた場合には,<001>が優先的に配向し,その結果,それぞれ単結晶のような金属組織が形成された。積層体に異方性を適切に付与することが可能となれば,PBF-LB/M で製造した積層体のさらなる性能向上や欠点の補完につながることが期待されている。

レーザ走査パターンは積層体に対して異方的な残留応力も付与する。残留応力分布の異方性は特定の方向の疲労強度の強化が期待できることから様々な研究が行われている。しかしながら,同時に積層体およびベースプレートにおいて特定の方向への変形が発生することが危惧される。積層造形に伴う反りは,積層体の形状精度の低下を招くだけでなく,積層造形プロセス中に,粉末を供給するリコータと衝突し,プロセスの中断を強いることが懸念される。このため,PBF-LB/M により製作される積層体の残留応力を制御し,反りの発生を抑制する必要があるが,残留応力発生メカニズムは完全に解明されていない。積層造形プロセスにおける残留応力の発生は,造形パラメータおよびレーザ走査パターンが大きな影響を及ぼすことが知られており,それらの関係を詳細に調べることで,残留応力発生メカニズムの解明に近づくものと考えられる。Robinson ら5)は,より低いレーザ出力,走査速度の低下,積層造形面積の減少によって積層体表面の残留応力が抑制されることを報告している。

本稿では,PBF-LB/M で作製した積層体の反りの抑制を目的として,発生する残留応力の制御を試みた事例6)について紹介する。特に,残留応力に影響を与えるパラメータの中でも最も容易に変更可能なレーザ走査パターンの変更の影響について調査・検討を行った。具体的には,レーザ走査パターンを変えて製作した積層体の表面の残留応力分布についてcosα 法を用いた測定を実施した。残留応力分布の異方性について詳細に検討するため,360 deg. 全周にわたって15 deg. ごとに残留応力測定を行った。さらに,積層体が製作されたベースプレートの裏面の形状測定を行い,反りと残留応力分布の相関について明らかにすることで,ベースプレートの反りを抑制可能なレーザ走査パターンの提案を行った。

 

cosα法によるX 線応力測定の社会基盤構造物への適用に向けて

金沢大学 柳田 龍平

Toward the Application of X-ray Stress Measurement by cosα Method to Infrastructural Structures
Kanazawa University Ryohei YANAGIDA

キーワード: cosα法,残留応力,インフラメンテナンス,鉄筋,高強度 PC 鋼棒

 

はじめに
 近年,経年劣化を含む様々な要因で既存コンクリート構造物の劣化が問題視されている。コンクリート構造物では,その劣化状態を目視可能なひび割れの様子などから評価することが従来行われており,その評価結果を受けて補修・補強等の対策が施される。一方,特に地方自治体が管理する小規模な橋梁では,技術者や財政の不足が要因となり,補修・更新が必要な橋梁が多く存在しており,これらの補修・更新をより効率化していくことが求められている。劣化したコンクリート構造物の補修・補強量を適切に設定するためには,実際に部材に生じている変状を適切に評価する必要があるといえる。この点において,とりわけコンクリート構造物中に設置されている鉄筋に生じる応力を推定できる手法としてcosα 法による鋼材のX 線応力測定が注目され始めている1)。cosα 法による応力測定の場合,引張応力によってひび割れ等の変状が生じた部分のコンクリート表面のみをはつり出し,コンクリート表面近傍に配置されている鉄筋の応力を測定できれば,目視点検などによる定性的な劣化度診断と違って現場での定量的な劣化度評価が可能となり,得られた応力をもとに適切な補強量を決定できる可能性がある。これは,鉄筋の完全な切断などを伴わない微破壊的な手法であり,既存インフラ構造物の合理的な維持管理を実現させうる計測技術として実構造物への適用の可能性を大いに秘めている。

既往の研究では,普通強度の鉄筋に対し引張試験を行い,鋼材表面の錆や酸化被膜を除去した後に,電解研磨による表面処理やX 線の入射角揺動を行うことでおおよそ±30MPa 程度の誤差範囲で応力測定できると報告されている2)。一方,鉄筋の降伏応力の50%を超えるような高い引張応力が生じる状態では,応力の増大につれてX 線測定値が実際より小さくなっていくという課題も明らかにされている2)。既報2)ではその原因について明らかとなっておらず,既設構造物中の鉄筋に対してこの応力測定手法を適用する場合,その測定値の精度が重要となることから,その原因について考察するため実験的な検討を行ってきた3)。本稿においては,鉄筋コンクリート構造物に多用されている代表的な補強用鋼材として,普通強度の異形鉄筋ならびに高強度を有する異形PC 鋼棒を対象に,X 線回折法を適用した際の応力測定結果について紹介する。

 

cosα法によるショットピーニング処理した懸架ばねの三軸応力解析

三菱製鋼(株) 山崎 智裕  金沢大学 佐々木敏彦

Tri-axial Stress Analysis of Shot Peened Suspension Spring by cosα Method
Mitsubishi Steel Mfg. Co., Ltd. Tomohiro YAMAZAKI
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード: 懸架ばね,ショットピーニング,残留応力,平面応力,三軸応力,X線入射角

 

はじめに
  X 線回折法の一種であるcosα 法は,二次元検出器にて単一X 線照射から得られる回折環全周の歪みから短時間で応力測定を可能とした特長を持つ(約1 分:従来装置の約1/10 倍)。また,装置も小型軽量化されたことにより,これまでサンプルを破壊してラボに持ち込んで測定することが主流であった方法から,測定したい場所に装置を持ち込み,非破壊で測定することが可能となった。2021 年には,日本非破壊検査協会より“cosα 法によるX 線応力測定通則(NDIS 4404)1)”も制定され,幅広い分野の製造現場および研究機関でcosα 法の普及が進んでいる。今後もさらに多くの分野でcosα 法の活用が期待される。

図1 に代表的な懸架ばねを示す。懸架ばねは,地球環境保護の観点から燃費向上を目的とした軽量化の要望が年々高まっている。ばねの軽量化技術の一つとしてショットピーニング(SP)処理があり,SP で付与される圧縮残留応力の測定にはX 線応力測定が広く用いられる。X 線応力測定はX 線の侵入深さが数μm~数十μm であることから平面応力状態を仮定して算出されることが一般的である。しかしながら,SP の処理方法によっては,表面直下のX 線侵入深さ領域に面外せん断応力が付与され,平面応力解析の評価結果(測定精度)に対して注意が必要である。

 本稿では,ばね鋼を用いて投射方向の異なるSP 処理したサンプルにおいて,平面応力解析と三軸応力解析に関する基礎的な研究結果を紹介する。

 

フーリエ解析法による粗大結晶粒材料のX 線応力測定

パナソニック エナジー(株) 藤本 洋平  金沢大学 佐々木敏彦

X-ray Stress Measurement of Coarse Grained Materials by Fourier Analysis Method
Panasonic Energy Co., Ltd. Yohei FUJIMOTO
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード: X 線応力測定法,二次元検出器,フーリエ解析法,粗大結晶粒,オーステナイト系ステンレス鋼

 

はじめに
 二次元検出器方式X 線応力測定法のcosα 法は,測定装置の小型化・軽量化・可搬化が可能であり,かつ高速で高精度な残留応力測定が可能な技術であることから,現場適用性が高く,2012 年に測定装置が市販されて以降,一般に広く普及している。なお,X 線応力測定法は,均質等方多結晶体を仮定した測定理論であるため,その仮定が成り立たない粗大結晶粒材料の場合は,測定が困難な場合がある。cosα 法は,光学系にピンホールコリメータを使用し,ビーム径がφ 1 mm 前後の入射X 線を用いるため,X 線の照射面積が比較的小さく,測定されるデバイリングが斑点状(スポッティ)になりやすい傾向がある。cosα 法は,応力の算出にデバイリング上の4種類のひずみデータを使用するため,デバイリングがスポッティで,デバイリング全周のX 線回折強度分布の変動が大きい場合,測定精度が低下することがある。このことは,cosα法の弱点の一つであると言える。

一方,著者らは,二次元検出器方式X 線応力測定法として,フーリエ解析法を提案している1)。これは,デバイリングより得られるひずみの周期性に着目し,ひずみをフーリエ解析して応力を決定する手法である。cosα 法をフーリエ級数で表すことで一般化したものであり,平面応力状態では,フーリエ解析法は,cosα 法と等価である。ただし,cosα 法と異なり,フーリエ解析法は,1 種類のひずみデータのみから応力算出が可能であるという特徴を持つ。したがって,デバイリング全周のX 線回折強度分布の変動が大きい場合や,デバイリング上の一部のひずみデータが取得できない場合2)に対して,有利な測定方法であると考えられる。また,著者らは,粗大粒の測定における測定精度向上方法(In-plane averaging)も提案している3)。

本稿では,フーリエ解析法の測定原理を簡単に説明し,同法による粗大結晶粒材料の測定事例を紹介する。

 

cosα法を用いた転がり軸受に発生する電食の解析

(公財)鉄道総合技術研究所 鈴村 淳一

Analysis of Electrical Pitting of Rolling Bearings by Using cosα Method
Railway Technical Research Institute Junichi SUZUMURA

キーワード: 転がり軸受, 電食,リッジマーク,残留応力,cosα法

 

はじめに
 転がり軸受は,回転しながら荷重を支持する機械要素である。転がり軸受において,軸受内部を電流が流れ,その際に発生するスパークやアークによって軌道面が損傷する,「電食」と呼ばれる現象が発生することが知られている。電食の形態としては,ピット状の電食痕や,洗濯板状の縞模様(リッジマーク)を呈する電食痕などがある。軸受軌道面に放電現象が発生すると,表面の局所的な加熱および加熱後の熱伝導による冷却が繰り返されることにより,金属組織や硬さの変化が生じ,これがリッジマークなどの特徴的な形態の電食痕の形成に寄与すると推定される。軸受に電食が発生すると振動や騒音が増大し,さらに進行した場合は機器の故障につながる恐れがある。特にモータの回転子を支持する軸受においては,電食が発生する頻度が高いことが知られ,軸受の計画取替周期よりも短い期間で軸受を交換する必要があるなど,メンテナンスコスト増大の一因となっている1)。

転がり軸受の電食に関する研究事例として,小型玉軸受の通電回転試験が行われ,電食の発生形態と電流密度との相関や,導電性を有するグリースを使用した場合の電食抑制効果などが明らかにされている2),3)。これらの研究における電食の解析方法として,軌道面の外観観察や表面形状測定,および試験軸受の振動加速度測定などの手法が主に用いられている。

これに対し,筆者らは軸受に発生した電食の発生形態を解析する手法として,cosα 法4)−6)によるX 線応力解析の適用可能性を検討した。cosα 法は,デバイリング全体を取得することで単一角度での測定のみで応力を計測できるため,一般的な応力測定法として広く採用されているsin2ψ 法と比較して装置が小型で測定時間を大幅に短縮できる。本研究では,軸受通電回転試験により電食を発生させた軸受について,熱影響を受けた金属表面の性状の変化に関する情報を非破壊的に得ることができるX 線応力解析法を用いて,軌道面の残留応力および応力測定時の半価幅を測定した。また,電流密度などの電食発生条件とこれらのX 線パラメータとの相関について検討した。後述するように,本研究では,軸受軌道面上の複数の箇所の測定を行っていることから,cosα 法の適用により効率的で迅速な測定が実施できると考えられる。

 

展伸材アルミニウム合金における圧縮応力緩和の確認とその抑制手法

新東工業(株) 小林 祐次

Confirmation of Compressive Stress Relaxation in Rolled Aluminum Alloys and its Controlling Method
SINTOKOGIO, LTD. Yuji KOBAYASHI

キーワード: アルミニウム合金,時効,応力緩和,ショットピーニング,レーザピーニング

 

はじめに
 ショットピーニングは冷間加工法の一種であり,直径0.05 mm から1 mm 程度のショットと呼ばれる金属または非金属の球を相手材である金属材料に打ち付けて部材の疲労強度向上効果を得る手法である。疲労強度の向上は,金属材料の表面に付与される圧縮残留応力や加工硬化による硬さの向上によるといわれている1)−4)。残留応力も硬さも,見た目ではわからないため,ショットピーニング加工の強さの程度を,表現するための手法が必要となる。

1944 年にアメリカのDr. Almen がアルメンストリップ(図1)を用いた,ショットピーニング加工の評価方法として特許を取得している5)。その後,ショットピーニング工程の管理指標であるアークハイトやインテンシティについて,ゼネラルモータースの内部資料として記録が残っている。

これらを見ると,アークハイトはピーニングによって付与された残留応力と相関があると認識していたと思われる。一方,同じピーニング条件でも材料が異なれば,残留応力は異なるとの記述もある。

従って,ショットピーニングの管理手法として,アルメンストリップを用いた手法がアメリカでは定着した。

アルメンストリップは今となっては,古い規格のばね鋼で作られているが,80 年前の主なショットピーニング適用部品はサスペンションばねや弁ばねだったため,ばね鋼が選択されたと推測される。加工対象物がばね類であった場合,アークハイトは対象となる部品における残留応力を示す代替パラメータとして理解できる。

アルメンストリップを使ったショットピーニング評価方法が提案されてから80 年経った現在,ショットピーニングの適用部品は広がった。

例えば,ばね鋼に比べてはるかに硬い真空浸炭材を使ったトランスミッション用歯車に対するショットピーニングは一般的だし,航空機用としては,ばね材よりも軟らかいチタン合金に対して適用することもある。

また,80 年前と比較し,ショットピーニングに用いるメディア(投射材)も多様化した。硬さは,80 年前に一般的だったものの倍程度の物が登場した。メディアの直径も50 μm 程度の物が使われる。残留応力はメディアの直径や硬さに依存するが,硬さや直径が大きく異なるメディアを使っても,設備の運転条件をうまく変更すれば,同一のアークハイトを出すことは可能である。この場合,アークハイトが残留応力に対して相関があるとは,考えづらい。

前述のとおり,残留応力は疲労き裂の発生と進展に対し抑制に効果があると考えられる。近年ではシミュレーション技術の発達に伴い,その効果を予測することができるようになってきた。

従って,残留応力の測定を行うことは,アークハイトを測定することよりも重要になっている。

これまで,X 線を用いた残留応力測定は専門知識が必要であることと,試験片準備に時間がかかるため,工業的な利用があまり進まなかった。一方,大きな測定物でも試験片を切り出すことなく残留応力を測定できるcos α 法による残留応力測定器の出現は,X 線による残留応力測定の工業的利用において,大きく貢献している。

 


マルチモード検出器を搭載したX 線回折装置による残留応力解析

ブルカージャパン(株) 森岡  仁

Residual Stress Analysis by X-ray Diffractometer Equipped with Multimode X-ray Detector
Bruker Japan K.K. Hitoshi MORIOKA

キーワード: X 線回折(XRD),X線応力測定法,残留応力,マルチモード検出器,sin2ψ法,2D法

 

はじめに
 X 線回折(X-ray Diffraction,XRD)は,サブnm の波長を有するX 線をサンプルに照射し,散乱されたX 線の角度と強度を記録する分析手法の一つである。入射X 線波長と周期の近い結晶性材料の評価に広く用いられるが,非晶質材料の局所構造解析にも使用される。入射X 線方向からどれだけ方向がずれているかを散乱角2θ で表し,多くの結晶性材料が散乱角とピーク強度の情報としてデータベース化されている。その結果,結晶相単位での定性分析を簡便に実行することができる。結晶構造中の格子面間隔d と散乱角2θ には,Braggの回折条件式2dsinθ = nλ (n:自然数)を満たす際に,散乱X線は強め合い,ピークとして観察される1)−3)。この回折現象は,ラウエにより写真乾板に記録された硫化銅・五水和物の二次元回折写真により証明された4)。その後,ブラッグ父子により散乱角2θ を正確に記録するための回折計が作製された5)。この回折計は,X 線検出器の直前にスリットを設け,角度と強度を1 点ずつ記録する0 次元検出器に対応する。また,検出素子をアレイ状に並べた一次元検出器も存在する。旧来のX 線回折装置では,測定の目的に応じて装置が分けられることが多く,粉末XRD には0 次元または一次元検出器が,薄膜用XRD には0 次元検出器が,微小部XRD には二次元検出器がそれぞれ組み合わされた。多目的なXRD 装置においては,それらの検出器が載せ替えられる形で運用できる反面,検出器の取り扱いが煩雑になるデメリットが散見された。

 


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