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機関誌

2024年4月号バックナンバー

2025年10月27日更新

巻頭言

「最近のデジタル画像相関法とその応用」特集号刊行にあたって

有川 秀一

デジタル画像相関法(Digital image correlation:以下DIC)は市販ソフトが普及し 10 年前と比べれば使いやすくなったと言えます。また利用者も増え DIC を応用した様々な研究が進められています。DIC の手法に関しても研究が終わったわけではなくさらなる発展を遂げています。本特集号では発展し続けるDIC に関する解説と様々な分野に広がるDIC の応用に関する解説を最前線でご活躍されている皆様にご執筆頂きました。2 年前の2022 年4 月号でも「画像相関法を用いた応力・ひずみ測定」という特集が組まれ,その中には「DVC を用いた3 次元変位・ひずみ測定の基礎」,「デジタル画像相関法による切欠きならびにき裂の力学量評価」,「画像相関法を用いた引張試験における表面ひずみ分布の連続計測」,「デジタル画像相関法と有限要素法を用いた近似応力場の測定」,「デジタル画像相関法を用いた摩擦圧接継手のねじり特性評価」といった解説が集められました。今回,もう一度DIC に関する特集を組むにあたっては,近年の利用の拡大が進む中で多くの利用者にDIC の性能をうまく引き出しさらに活用して頂くためには,まだまだ特集号で紹介するべきことがあると考えました。

本特集号では米山 聡先生には「有限要素を利用したグローバルDIC/DVC によるひずみ測定」を執筆して頂き,サブセットを用いるローカルDIC とは異なり有限要素を用い固体の支配方程式を考慮して変位やひずみ分布を決定できるグローバルDIC に関する解説を頂きました。内田 真先生には「デジタル画像相関法と結晶塑性理論を用いた多結晶金属材料の微視的変形評価」を執筆して頂き,DICと結晶塑性理論を併用した多結晶金属のすべり変形等の微視的な不均一変形の評価に関する解説を頂きました。小野勇一先生には「デジタル画像相関法を用いた表面き裂の応力拡大係数の計測」を執筆して頂き,引張または曲げの繰り返し負荷を受けるアルミニウム合金板の表面き裂の応力拡大係数の計測に関する解説を頂きました。松尾卓摩先生には「DIC 法を用いたドローン搭載カメラによる非接触変形計測システムの開発」を執筆して頂き,小型ドローンに搭載されたカメラによる不安定な状況での撮影ではりのたわみを計測できるシステムについて解説頂きました。私からは「DIC において測定面に塗布するランダムパターンの評価」を執筆させて頂き,測定面に塗布するランダムパターンの質を評価する指標および測定精度との関係について解説させて頂きました。以上の解説を通して,DICのさらなる利用の拡大およびDIC の性能をうまく引き出す助けになれば幸いです。

 

解説

最近のデジタル画像相関法とその応用

有限要素を利用したグローバルDIC/DVC によるひずみ測定

青山学院大学 米山  聡

Strain Measurement Using Finite Element-based Global Digital Image Correlation/Digital Volume Correlation
Aoyama Gakuin University Satoru YONEYAMA

キーワード: ひずみ測定,DIC,DVC,有限要素法

 

はじめに
 画像相関法(Digital Image Correlation:DIC)は,固体力学分野の研究において変位やひずみ測定の手段として広く使われるようになっている。この方法の特長は,電気抵抗ひずみゲージ法と異なり変位やひずみが分布として得られること,モアレ干渉法やスペックル干渉法などの光の干渉を利用した方法と異なり測定が簡便なことである。この方法は,1台のカメラを用いて面内の変位やひずみを測定する2次元画像相関法(2D-DIC),複数のカメラを用いて3 次元表面の変位やひずみを測定するステレオ画像相関法(Stereo-DIC),CT 画像を用いて物体内部の3 次元変位やひずみを測定する3 次元画像相関法(3D-DIC もしくはDVC)に分類することができる。それぞれ測定の対象が異なり測定により得られる情報が異なるので,適切な方法を選択する必要がある。

一方,画像間での対応点の探索方法という観点から,画像相関法は2 種類に分けることができる。一つはサブセット(ファセット)と呼ばれる局所計算領域の輝度値分布を用いて,サブセット中心の変位を変形前後画像から検出するローカルDIC(サブセットDIC)である1)- 10)。この方法では画像上に多数のサブセットを定義し,それらの変位を求めることで変位を分布として得ることができる。もう一方は,測定対象領域における変位分布を一度に得るグローバルDIC(メッシュDIC)である11)- 16)。ローカルDIC では測定点ごとに独立した値として変位が得られるが,グローバルDIC ではすべての測定値が有限要素を通じて関連付けられている。ローカルDICで得られる変位はサブセット中心の値であるが,グローバルDIC で得られる変位は要素を構成する節点の値である。そのため,境界や界面の近傍,き裂の近傍などローカルDICによる測定が困難な場合でも測定が可能である16),17)。

一般的に多く用いられている方法はローカルDIC であり,この方法を用いた論文や解説記事は多く見つけることができる。一方,グローバルDIC に関する情報は少ない。そこで,ここではグローバルDIC による変位・ひずみ分布測定を紹介する。グローバルDIC では,有限要素メッシュを画像上に定義し,このモデルの全節点の変位を同時に決定する。前述したように境界や界面付近など,ローカルDIC が苦手とする領域においても測定が可能などの利点がある。また,画像の輝度値分布の相関だけではなく,有限要素方程式を考慮して変位分布を決定することも可能である。この場合,画像情報だけではなく固体の支配方程式を考慮して変位やひずみを決定できるため,画像のみを用いた場合よりもばらつきの少ない良好な結果を得ることができる。

 

デジタル画像相関法と結晶塑性理論を用いた多結晶金属材料の微視的変形評価

大阪公立大学 内田  真

Evaluation of Microscopic Deformation of Polycrystalline Metal Using Digital Image Correlation Method and Crystalline Plasticity Theory
Osaka Metropolitan University Makoto UCHIDA

キーワード: デジタル画像相関法,結晶塑性理論,多結晶金属,すべり

 

はじめに

 材料の変形状態を非破壊的に評価する技術として,デジタル画像相関(Digital Image Correlation,DIC)法が広く普及している。DIC は材料の種類やサイズを制限しない計測手法で,多くの点群の変位を計測することで,面内ひずみ成分の全視野計測が可能となる。このような利点は材料の力学特性の把握に極めて有効であり,著者らの研究グループでも,金属材料1)-3),高分子材料4)-6),およびゲル7)などの様々な工業材料の変形評価におけるDICの適用事例を報告している。

金属の多結晶構造に代表されるように,一般的な工業材料は不均質な微視構造を有しており,微視領域にはその不均質構造に起因した不均一変形が生じる。DIC ではひずみ計測を実施する際のデータ点配置の分解能によって計測できるひずみのスケールが変化する。たとえば,試験片サイズの画像からは微視的な不均一変形が平均化された巨視的なひずみが計測されるが,顕微鏡にて取得した画像を用いれば,観察倍率によって様々なスケールの微視的な不均一変形を評価することが可能となる8)。特に,電子顕微鏡などの高倍率のデジタル画像を用いたDIC(High Resolution DIC,HR-DIC)では非常に微細なスケールの変形解析が可能となる9),10)。

本稿では,多結晶構造を有する金属材料の微視的変形評価にDIC を適用する手法について解説する。金属材料は,巨視的に等方性の力学特性を示す場合でも,微視的に見ると弾性異方性やすべりなど,結晶方位に依存した異方性変形を示す。材料試験では,単軸引張試験等により巨視的な力学応答を評価する手法が主流であるが,微視的な異方性変形を評価する場合,上述のようなDIC が有効となる。ただし,DIC は微視領域のひずみ場のみを計測する手法であり,すべり変形などのより詳細な力学挙動を評価するためには結晶方位に基づく異方性挙動との関連性を考慮する必要がある。近年,結晶塑性(Crystalline Plasticity,CP)理論11)とDIC を連携させた結晶材料評価手法が報告されている12)- 23)。本稿では,このようなDIC とCP を連携させて多結晶金属材料の微視的変形を評価する研究事例を紹介する。

 

デジタル画像相関法を用いた表面き裂の応力拡大係数の計測

鳥取大学 小野 勇一

Measurement of Stress Intensity Factor of Surface Crack Using Digital Image Correlation
Tottori University Yuichi ONO

キーワード: 画像処理,破壊力学,き裂開口変位,応力拡大係数,Paris則

 

はじめに
 機械・構造物は,製造過程中に生じる表面の微小な欠陥が起点となり,稼働中に作用する繰り返し荷重によってき裂が発生・進展して破壊に至る場合がある。したがって,表面き裂を有する材料の強度を評価することが重要となる。き裂を有する材料の強度評価には,一般に応力拡大係数等の破壊力学パラメータが用いられており,表面き裂のような3 次元き裂に対してはNewman & Raju の解析解1)が広く利用されている。一方で,実験的な応力拡大係数の計測も重要であるため,ひずみゲージやデジタル画像相関法を用いた応力拡大係数の決定方法も提案されている2),3)。これらの実験的計測法は二次元的な貫通き裂を対象としており,表面き裂に対して応力拡大係数を計測した報告はあまり見当たらない。そこで,我々はアルミニウム合金に発生した表面き裂が引張負荷や曲げ負荷を受ける場合の応力拡大係数をデジタル画像相関法により計測し,Newman & Raju の解析解と比較することで,その有効性を確認するとともに4),5),引張負荷を受ける疲労き裂4),ピーニング処理材が引張負荷を受けて発生した疲労き裂6),引張りとねじりの組み合わせによる非比例負荷を受けて発生した疲労き裂7)に対して有効応力拡大係数をデジタル画像相関法により計測し,き裂進展速度が統一的に整理できることを報告してきた。本稿では,その中で,引張りと曲げ負荷を受ける表面き裂の応力拡大係数と有効応力拡大係数の計測結果について紹介する。

 

DIC 法を用いたドローン搭載カメラによる非接触変形計測システムの開発

明治大学 松尾 卓摩

Development of a Deformation Measurement System Using a Drone-mounted Camera by DIC Method
Meiji University Takuma MATSUO

キーワード: デジタル画像相関法,ドローン,超解像処理,透視変換,非接触計測

 

はじめに
 インフラ設備の高経年化は重大事故を招く恐れがあることから,これらを防ぐために高額な費用が必要となっている1)。そして,状態を評価する非破壊検査技術やモニタリング技術が重要となっている。しかし,現在インフラ設備に対する点検方法として一般的に用いられている目視検査や打音検査では,熟練の技術者を育成するために時間が必要であること,点検時間の多さや人件費によるコスト,そして高所環境を点検する際の安全性などが問題となることから,これらの問題を解決できる新たな非破壊検査技術の開発が期待されている。

一方で,新たな手法としてドローンを用いたインフラ点検や診断技術が注目されている2)-4)。遠隔操作されたドローンを検査に応用することで高所においても足場なしに検査が可能となる。また,計測したデータを転送することで複雑なデータ解析を遠隔地から行うことが可能となり,人的コストの削減や検査の高速化も期待できる。

そこで著者らはドローンを用いた新たな検査手法として,ドローンに搭載したカメラを用いて,図1 に示すようなデジタル画像相関(DIC)法5)による非接触変形計測を行うシステムの開発を行っている6),7)。DIC 法は非接触かつ広範囲におけるひずみ分布や変形計測を高精度で行うことが可能であり,大型のインフラ設備の変形や局所的なひずみ等を測定できる。一方で,DIC 法によるひずみ分布や変位計測では, 野外で撮影した画像から直接変位を測定する場合,撮影場所のずれが計測誤差に影響を与える問題が報告されている8)。ドローンに搭載したカメラで撮影した画像から変形計測を行う場合では,撮影位置やカメラの傾き,撮影対象までの距離を完全に一致させることは不可能であることから,画像の補正が必要となる。また,DIC 法で変形計測を行う場合,撮影した画像の解像度が重要となるが,高性能なカメラをドローンに搭載する場合では大型のドローンが必要となる。しかし,2024 年1 月現在では,航空法によって大型(100g 以上)のドローンを用いた飛行は許可が必要となることから9),簡便かつ迅速な検査には小型のドローンを用いた方が有利となる。しかし,上記サイズのドローンはいわゆる「トイドローン」に分類される安価な機体が多く,高性能なカメラが搭載されたものは多くない。そこで,これらのドローンに搭載されたカメラで高精度な計測が必要となる。

本稿では,小型ドローンを用いてDIC 法による変形計測を行うために,キャリブレーションボードを用いた基本的な画像補正及び透視変換10)による傾き補正を用いて飛行中のドローンで撮影した画像から変形計測が可能であるかについて評価した結果を示す。また,小型ドローン搭載カメラで撮影した画像を用いて高精度にDIC 計測を行うために,撮影画像に対して超解像処理11)を行うことで,画像の解像度を向上させた結果を紹介する。

 

DIC において測定面に塗布するランダムパターンの評価

明治大学 有川 秀一

Evaluation of Random Pattern Painted on Measurement Surface in Digital Image Correlation
Meiji University Jonas A. PRAMUDITA
Nippon Bunri University Shuichi ARIKAWA

キーワード: DIC,測定誤差,ランダムパターン

 

はじめに
 材料や構造物の応力・ひずみ状態を知るために,近年デジタル画像相関法1),2)(以下DIC)が活用されるようになってきた。DIC は画像から物体のパターン追跡を行うことで変位分布を得る手法の一種であり,またその得られた変位分布からひずみ分布や応力分布が得られる。測定装置の構成が比較的簡便であることから様々な研究に応用されている。なお測定面に材料自体がもつランダムなパターンが十分にあればよいが,不十分な場合には物体表面にランダムなパターンを塗布することがよく行われる。ただし塗布したランダムパターンが測定精度に大きく影響することが知られており,測定に適したランダムパターンの塗布が重要である。一部の市販DIC ソフトウェアではランダムパターンの品質をある程度事前評価することができるようであるが,自作のソフトウェアを使用する大学等ではDIC の使用経験がある者が経験的に良好なパターンを判断する状況がある。また得られる測定結果に含まれる誤差はランダムパターンの品質の影響を受けることになる。例えば均質材料の変形でも測定結果には測定誤差による不均質な見かけの変位分布が見られる。一方で不均質な材料の不均質な変形場を測定しようとした場合には,誤差による見かけの不均質性と実際の変形の不均質性が重なってしまうことから,事前に誤差のレベルを把握することが求められる。

これまでにランダムパターンの状態と測定精度の関係に関する様々な研究が行われてきている。ここではいくつかのパターン評価指標を紹介する。輝度値の勾配を評価するMean ingensity gradient 3)や2 次の勾配を評価するMean intensity of the second derivative 4)ではこれらの値が高いほど測定精度が高いとされている。輝度値の情報量,すなわちバリエーションの豊富さを評価するShannon entropy 5),6)が提案され,この値も高いほど測定精度が高いとされている。またこれに似た指標としてInhomogeneity of gray distribution7)があり,これは輝度値が不均一なほど低い値となり,これが低いほど測定精度が高いとされている。パターンのコントラストを評価するMean square deviation of gray 7)はこれが高いほどコントラストが高く測定精度も高いとされている。ここまで紹介したものは多くがパターンのコントラストに関係する指標となっているが,パターンの斑点サイズに関係する指標も提案されている。Standard deviation of speckle particle size 7)は斑点のサイズを面積として算出しその標準偏差を評価するものであり,これが高い場合には様々なサイズの斑点が含まれていることを意味し,斑点サイズの観点で情報量が多いという解釈になる。この値が高いほど測定精度が高いとされている。さらに前述の3 つの指標,すなわちInhomoneity of gray distributionとMean square deviation of gray とStandard deviation of speckle particle size を総合的に評価するMulti-factor fusion index 7)が提案されており,この値が低いほど測定精度が良いとされている。これらの指標を実際に試してみると,いずれの指標も精密に測定精度を予測できるものではないようであるものの,条件によってはランダムパターンの品質をある程度評価することができる。

本稿ではいくつかのパターン評価指標を紹介し,また実際に塗布したいくつかのランダムパターンに対して,どのような結果が得られるのか紹介する。使いやすいパターン評価指標は何か,またどのような条件であれば使えるのか,良好なランダムパターンとはどんなパターンなのかを考える参考にして頂ければ幸いである。

 

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