logo

<<2025>>

機関誌

2024年7月号バックナンバー

2025年10月27日更新

巻頭言

「第1回NDE 4.0 シンポジウム」特集号刊行にあたって

中畑 和之

NDE 4.0(Nondestructive Evaluation 4.0)という言葉は,どこかでお耳にしたことがあるのではないかと思います。まだご存じない方のためにご説明させて頂くと,NDE 4.0 とは,ドイツのFraunhofer研究所(当時)のMeyendorf 博士らが2017 年のアジア太平洋非破壊検査会議(APCNDT,シンガポール)で提唱した非破壊検査の効率化や生産性向上等を目指した概念です。これは,ドイツが主導するIndustry 4.0(第4 次産業革命)になぞらえたもので,昨今ではNDE 4.0 は非破壊検査のDigital Transformation(DX)を象徴するキーワードとして使用されています。業界ではNDE 4.0 の知名度は上がっていますが,それに取り組んでいる企業が多いかといえば,そうではない気がします。おそらく,それは企業のDX の導入と似た傾向であると推察いたします。総務省「令和3 年版情報通信白書」によると,国内企業の6 割がDX に関して「取り組みを実施していない,今後も予定なし」と回答しています。DX 同様,NDE 4.0 の必要性が十分理解されていないと,企業においても投資の判断やリソースの割り当てができません。そのためには,皆様とNDE 4.0 の概念を共有する必要があります。

NDE 4.0 は,業務の効率化やエコシステムの構築といったDX だけでなく,検査に関する一連の作業(データのセンシング,処理/解析,表示,評価,保存)をデジタルで統合し高度化することが真髄にあります。そのためには,異なるモダリティや処理系でデータがやりとりできるようにフォーマットの標準化やその交換・共有プロトコルの取り決めなども重要になります。これらの認識を共有すること,また,他の学協会,他分野/多分野と連携を行うことがNDE 4.0 の推進には必要だと考え,非破壊検査に携わる研究者・技術者に限らず,広く一般からも参加者を募り,2023 年10 月30 日に「第1 回NDE 4.0 シンポジウム」を当協会学術委員会主催で開催いたしました。多くの方にご関心を頂き,第1 回は成功裡に終わりました。シンポジウムに参加した方々と運営をサポート頂いた方々に,この場を借りて感謝を申し上げます。シンポジウムで発表された講演は,いずれも興味深くNDE 4.0 の啓発に寄与するものでした。学術委員長の塚田和彦先生にシンポジウムの内容をまとめて頂きましたので,ぜひご覧頂きたいと存じます。

さて,このシンポジウムでは新しい取り組みを試行しました。シンポジウムの発表を充実させて論文や調査資料として投稿して頂くことです。これまでも,発表について論文投稿を促すことはありましたが,今回は提出期限を決めて「シンポジウム特集号」として募集しました。NDE 4.0 に関するシンポジウムの性質上,現時点では発展途上で,学術でもなく技術論文でもなく区別がつかないものがあります。それでも,何かしら萌芽的で将来への前進が見込まれるものであれば「萌芽論文」として投稿を呼びかけました。また,ワーキング等でまとめたNDE 4.0 に資する資料は「研究調査資料」として受け付けました。なぜ,このような試行をしたかというと,NDE 4.0 に対する関心を高めるためです。NDE 4.0 は単なる非破壊検査のDX ではなく学術の進展を伴った業界改革であると,特にアカデミーに属する方々に理解してもらう必要があります。そういう意味でシンポジウム特集号が大学や企業研究者の呼び水になってくれたらと考えました。本特集では,査読を経て採択された5 編の論文と3 編の研究調査資料を掲載しています。

2024 年度もNDE 4.0 シンポジウムの開催を予定していますので,本特集をご覧になり,ぜひご参加くださいますようお願い申し上げます。また,シンポジウム特集号への投稿もお待ちしています。

資料

国内外におけるNDE 4.0 に関する活動 −第1 回NDE 4.0 シンポジウムの報告として−

副会長・学術委員長 塚田 和彦

Global and Domestic Activities Related to NDE 4.0 − As a Report of the 1st NDE 4.0 Symposium −
Vice President, Chairman of Academic Affairs Committee Kazuhiko TSUKADA

キーワード: NDE 4.0,Industry 4.0,IoT,非破壊検査のDX

 

1. はじめに
全てのものがネットワークでつながること(IoT:Internet of Things),その上で扱えるようにあらゆる情報や知識をデジタル化すること(DX:Digital Transformation),そうしてその情報や知識をコンピュータで処理して有用な判断や意思決定・表現に結び付ける知的技術(AI:Artificial Intelligence),近年のこれら技術の急速な進歩と普及は,時代を画して第4 次産業革命(Industry 4.0)であるといわれる。Industry 4.0 という用語/スローガンは,2011 年にドイツ政府のハイテク戦略プロジェクトの一つにおいて提唱されたものであり,当初は製造業におけるSmart Factory/Smart Manufacturing 実現を目標とし,その主導的役割はドイツこそが担い得るのだとの国家戦略であった。しかし,その影響は,あらゆる産業へ,あらゆる国々へと波及し,たとえば,わが国では,第5 期科学技術基本計画(平成28 年度〜令和2 年度)において,社会変⾰までを視野に入れた戦略としてSociety 5.0(超スマート社会の実現)という目標が設定されるに及んでいる。

NDE 4.0 という標語は,このIndustry 4.0 から派生したもので,第4 次産業革命において非破壊検査・評価技術が目指すべき新たな姿,そのために取り組まねばならない課題,それによって期待される効果や生み出される新しい価値,それらを総称した概念/スローガンとして打ち出されたものである。Smart Factory の実現という文脈の中でドイツにおいて提唱されたNDE 4.0 は,当然のごとくインフラ設備やプラントの供用中検査に対しても適用すべきものとの米国からの提起をへて,両国主導のもと,2019 年にはICNDT(The International Committee for Non-Destructive Testing)に,国際的な議論の場としてSIG(Specialist International Group)on NDE 4.0 が設立され,非破壊検査・評価技術のIndustry 4.0 を目指す全世界的な動きとなっている。

当協会においても,このような世界的動きに応じるものとして,運営委員会の下にワーキンググループ(NDE 4.0 対応WG)を立ち上げ,学術のみならず,標準化や技術者の教育・認証の全ての面において,いかなる方向性を打ち出さねばならないか議論するとともに,これを協会の新たな発展の契機とすべく,様々な活動を進めているところである。その一環として,NDE 4.0 実現における様々な課題に対する学術研究と,そのために必須とされる異分野間交流の活性化を目的として,このほど学術委員会主導のもと,国内における第1 回NDE 4.0シンポジウムを開催した。

ここでは,NDE 4.0 に関する国内外の動きを,その端緒から現時点まで概観するとともに,2023 年10 月30 日に開催した第1 回NDE 4.0 シンポジウムについて報告する。

 

論文

レーザ超音波と機械学習による金属三次元積層造形体の表面付近欠陥の自動検出

山﨑 惇史,林  高弘,森  直樹

Automatic Detection of Subsurface Defects of Metal Additive Manufacturing Component Using Laser Ultrasonics and Machine Learning
Atsushi YAMASAKI, Takahiro HAYASHI and Naoki MORI

 

Abstract
This research focuses on the automatic defect detection of metal additive manufacturing components combining machine learning and the scanning laser source technique. In the experiment, an additive manufacturing component with a circular artificial defect was put on the plate on which transducers were attached. By laser scanning, the waveform generated at each laser spot was obtained through these transducers. The waveforms obtained were Fourier-transformed, and the peak values were extracted as features of machine learning. Moreover, each place was labeled to indicate whether a defect was present or not. The logistic regression model and the random forest classifier model learned these features and labels. After that, another dataset of waveforms was prepared, and the prediction of defective places was conducted by using these models. As a result, the random forest classifier model predicted the defective area precisely, but the logistic regression model generated comparatively noisy outputs. These results demonstrate the possibility of applying random forest classifier model to automatic defect detection during AM processes.

Key Words: Additive Manufacturing, Laser ultrasonics, Non-destructive testing, Machine learning, Logistic regression, Random forest

 

緒言
 三次元積層造形技術(Additive Manufacturing,AM) は,切削加工など従来の加工法で実現できなかった複雑な形状や,内部構造を有する造形体の作成を行うことができる。その加工の自由度から,最近では自動車・航空宇宙・医療など多くの分野で広く使用されるようになっており,積層造形技術に関連する市場も年々増加している。当初は材料として樹脂が主に使われていたが,最近ではステンレスやチタン合金といった,金属の積層造形技術についても開発が進められている。

金属積層造形で広く利用されるPowder Bed Fusion 法は,金属の粉末を敷き詰め,レーザまたは電子ビームで溶融・凝固を行い,構造を作成する手法であり,レーザを使用する手法をSelective Laser Melting(SLM)法,電子ビームを使用する方法をElectron Beam Melting(EBM)法という1)。SLM法では,プレート上に薄く平らに敷き詰めた金属粉末に高出力のレーザを選択的に照射し,特定の領域にある粉末を完全に溶融させ,急冷によって固化させて1 層の構造を形作る。このサイクルを繰り返し積層することで望みの形状の造形体を得ることができる2)。

SLM 法の課題として,造形時に空隙やひび割れ,はく離等の欠陥が導入されやすいことが挙げられる3),4),これらの欠陥は造形体の強度低下を招くため,この技術で作製された造形体が,強度が必要となる箇所でも広く使われる段階には至っていない。金属積層造形のさらなる普及を進めるには,高い荷重にも耐えうる造形体の製造が重要であり,そのためにも非破壊検査により品質を保証する技術の確立が求められる。

造形後の検査技術として,例えばX 線CT 5)や超音波6)などの既存の非破壊検査手法が試みられているが,造形体形状が複雑であることが多く汎用的な検査が難しいことと,造形後に検査を行っても不合格品を廃棄しなくてはいけないという問題がある。そこで,造形中の欠陥検出に関する研究を進める必要性が指摘されており3),この技術の確立により造形不良箇所を直ちに補修し,欠陥のない造形体が安定的に作製できると期待されている。造形中に検査を行える有力な手法として,Nadimpalli ら7),Rieder ら8)の論文で提案された,造形を行うプレート下部に超音波探触子を取り付けることで造形を妨げずに超音波を受信する方法がある。しかし,この方法では,造形体→プレート→探触子という伝搬経路上で超音波が減衰するため,振幅の大きい超音波を与えることが重要となる。

そのような中,Hayashi らは,レーザ弾性波源走査(Scanning Laser Source;SLS)法によって薄板中の欠陥画像の検出を行ってきた9)− 13)。この手法は,薄板において振幅の大きい超音波を励振させて検査できるという点で有用である。しかし,これらの研究は,対象物が薄い構造であるのに対し,本研究で着目する三次元積層造形体は厚い構造を持つ場合も少なくない。薄い構造の場合はレーザ照射点で生じた振動エネルギーがすべて表面付近に分布するが,厚い構造の場合は振動エネルギーが構造内部にも分散する。そのため,厚い構造をもつ材料の欠陥部にレーザを照射したとしても受信点で得られる信号は小さくなり,SN 比が低下する。

このような場合でも欠陥検出に十分な信号レベルを得るために使用されるのが,Solodov らによって提唱された局所欠陥共振(Local Defect Resonance;LDR)という現象である14)。局所欠陥共振は,欠陥が材料の剛性の低下を招くことで,欠陥付近が共振を起こし,特定の周波数の成分が大きく増幅される,という現象である。この周波数のことを共振周波数と呼ぶ。論文14)では,材料内部に存在する円柱状の欠陥について,共振周波数の理論解と実験で得られた結果の比較を行っている。このLDR とSLS 法を組み合わせることで,表面付近に生じる欠陥の検出が可能であることは先行研究15),16)で示されており,金属積層造形体の表層付近の欠陥検出にもこの手法を適用できると考えられる。

また,欠陥等の異常診断技術として,機械学習の重要性が高まってきている。音響データと機械学習を組み合わせた積層造形モニタリングの研究として,造形場所から20 cm 離した場所に置いたFBG(Fiber Bragg Gratings)センサとSCNN(Spectral Convolutional Neural Network)を組み合わせたもの17)や,マイクロフォンとDBN(Deep Belief Network)を組み合わせたもの18)がある。しかし,音響データはノイズが入りやすいという特性があり,機械学習である程度改善ができるものの,SN 比が高いデータを取ることが正確な判定をするにあたって重要になる。実際,文献17)の研究では,FBGセンサを造形プラットフォームに接触させて弾性波を直接得ることがより良い結果につながると考察されている。そのため,弾性波のデータと機械学習を組み合わせた積層造形中の欠陥モニタリングに関する研究には意義がある。

以上のことを踏まえ,本研究では,SLS 法によって振幅の大きい超音波を励起させ,それを造形を行うプレート下部に取り付けた超音波探触子で受信し,その信号を機械学習モデルに学習させることで造形中に欠陥位置を自動判定することを目標とする。特に,欠陥を有する造形後の造形体を用いて機械学習での欠陥位置同定の有効性に対する基礎検討を行う。

本稿は本章に続いて,以下のような構成になっている。2 章では,欠陥検知に有効な手法であるレーザ弾性波源走査(SLS)法による欠陥の画像化の概要を説明する。3 章では,波形データを得る実験方法や機械学習モデルの訓練方法・欠陥位置予測方法といった具体的な研究方法を述べ,4 章では得られた結果を示し,5 章で考察する。そして,6 章で結言を述べる。

 

空中超音波を用いた弾性波源走査法による欠陥検出のための敵対的生成ネットワークの適用

神谷 大樹,清水 鏡介,伊藤 洋一,大隅  歩

Application of Generative Adversarial Network for the Detection of Defect Shape by Airborne Ultrasonic Wave Source Scanning
Taiju KAMITANI, Kyosuke SHIMIZU, Youichi ITO and Ayumu OSUMI

 

Abstract
Non-destructive testing can take a long time when applied to structures with thin metal walls such as pipes and tanks for maintenance. This is because the structure is large, and the inspection range is vast. To solve this problem, we have developed a non-destructive testing method for thin metal plate structures using the scanning technique with an airborne ultrasound source. This method can detect defective areas from their reflections and diffractions. However, the defects are visualized by visual inspection by testers, who may overlook them due to human error. In this study, we constructed a system to support defect detection by using a generative adversarial network. As a result, we confirmed that images can be generated for defect detection using Pix2Pix.

Key Words: Airborne ultrasound, Scanning source method, Finite element method, Machine learning, GAN, Pix2Pix

 

緒言
 化学プラントをはじめとする構造物の配管やタンクなどは金属性薄板等にて構成されており,保守点検のために非破壊検査が行われている。しかし,これらの構造物は一般に大型であるため,検査時間の長期化が問題視されている。このような問題を解決するために,著者らはその一手法として空中超音波を用いた弾性波源走査法(Scanning Airborne ultrasound Source technique:SAS)1)−6)について研究を行っている。

ところで,空中に強力な音波を発生させるデバイスは共振駆動系を利用することが多い。共振駆動系の欠点としては,立ち上がり・立ち下がり時間の鈍化,時間幅の長時間化がある。これらの問題は,送信波に受信波が重畳する原因となるため,SAS は,超音波試験でよく用いられるTOFD(Time Of Flight Diffraction)法が利用できない可能性がある。

以上のような欠点を補うため,これまで著者らはSAS を用いて検査領域全体の超音波伝搬像を可視化してきた。検査領域全体の超音波伝搬像の可視化さえ行うことができれば,フェーズドアレイ探傷法やレーザ超音波可視化試験7)−9)などのように材料内の欠陥の位置や形状を欠陥位置における回折や反射を視覚的に捉えて,評価することができる。

しかしながら,欠陥の評価は可視化された超音波画像から視覚的に行われるため,検査員のヒューマンエラーによる見落としが懸念される。したがって,検査精度を一定に保つためには画像処理10)などによって欠陥判別が容易な検査画像を取得し,欠陥判別を視覚的に支援するシステムの構築を行う必要がある11)。

上記のような画像処理の有効な手段の一つとして,敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks:GAN)11)の利用がある。GAN は機械学習を用いた画像生成方法の一つであり,あらかじめ用意された画像データから特徴を学習することにより,学習した特徴に沿った画像データの生成や変換が可能である。

そのため,本研究ではGAN の画像生成アルゴリズムの一つであるPix2Pix 12)− 18)を利用する。Pix2Pix は,二つのペア画像の対応関係を学習することで対応関係に基づいた画像を生成する技術であり,学習をすべて画像のみで行える点が特徴である。したがって,Pix2Pix は欠陥判別などといった多くの検査画像を学習データとして用いる場合に適している。

本研究はSAS により得られた波動伝搬画像の欠陥判別を視覚的に支援するシステムの構築を以下の手順で検討している。まず,減肉欠陥を有する金属薄板を伝搬するLamb 波の波動伝搬画像を数値シミュレーションにより取得する。このとき,数値シミュレーションでSAS を再現するために,励振源には空中超音波デバイスから励起された音圧波形の実測値を入力する1)。次に,取得した波動伝搬画像とあらかじめ用意した欠陥部を簡易的に示した可視化画像(以下簡易可視化画像)を用いてPix2Pix により学習を行う。その後,学習したPix2Pix を用いて波動伝搬画像から簡易可視化画像に変換を行い,欠陥の位置推定について検証している。

 

鉄道車両製造のNDE 4.0 に向けた曲面溶接部の超音波検査技術

北澤  聡,坂田  聡

Ultrasonic Inspection Technique for Curved Surface Weld with the Aim of NDE 4.0 in Railway Vehicle Manufacturing
So KITAZAWA and Satoshi SAKATA

 

Abstract
To improve railway vehicle reliability, data-driven quality control has been attempted in manufacturing processes from the DX viewpoint. Railway vehicles have many welds joining structural parts, and their quality is controlled by UT to verify their durability. Real-time collection and evaluation of the digital UT data would allow in situ repair during the welding processes. The challenge here is establishing the UT technique for curved weld surfaces, such as fillet weld, which makes measurement difficult due to the contactability of the ultrasonic probes and the weld surface. Flexible array probes and FMC/TFM imaging techniques have been applied to overcome this issue. In TFM, coordinates of piezoelectric elements in an array probe are necessary to generate an inspection image. In this study, strain gauges were applied to obtain the shape of an array probe, corresponding to the element coordinates. A real-time imaging algorithm, using a prototype flexible probe with strain gauges, showed the feasibility of fast inspection of various curved surface welds in railway vehicles.

Key Words: Railway vehicle, FMC/TFM, UT, Curved surface weld, Flexible array probe

 

緒言
 近年,鉄道車両の製造分野においては,信頼性向上とコスト削減の両立が必要不可欠となっている。これを実現するためには,検査データを出荷可否の判断材料として用いるだけでなく,Fig.1 に示すように,設計や製造などの上流工程にフィードバックして製品改良や生産プロセス全体の最適化を行う,いわゆるNDE 4.0 1),2)としての取り組みが必要となる。たとえば,検査結果をデジタルデータとしてリアルタイムで収集・分析することで,溶接施工中に異常を検知してその場補修を行ったり,溶接条件の最適化を行うことが可能となる。また,設計にフィードバックすることで,より不良が発生しにくい構造や,検査が容易な構造へ改良することができる。近年は検査データとともに設計データ,解析データ,施工要領や工程などといったすべてのデジタルデータを統合的に管理する試みもなされている。このような包括的な取り組みに関しては本稿の範疇を超えるため,ここでは鉄道車両製造のNDE 4.0 に向けたUT(Ultrasonic Testing)技術に議論を絞る。

鉄道車両には構造部品を接合するための多数の溶接部が存在する。これらには高い耐久性が求められ,UT によってその品質が管理されている。上流工程へのフィードバックを効果的にするためには,十分な量の多様な溶接部のUT データが必要となる。しかし,溶接部の大半はすみ肉溶接のように施工後が曲面となるため,様々な曲率の溶接部に対し,効率良くUT データを収集する技術が一つの鍵を握る。現状は溶接形状ごとにプローブを使い分け,プローブと検査面の間に隙間ができないようにプローブを小刻みに走査するなどデータ収集に時間を要しており,作業効率の観点で改善の余地がある。そこで本研究では,溶接曲面に追従可能な柔軟性を有するフレキシブルアレイプローブを用いたUT 技術を検討した。フレキシブルアレイプローブを溶接曲面に沿わせて移動させるだけでUT データを効率良く収集できるようにすることが目標である。

 

超音波アレイプローブを用いたコンクリート内部の映像化と3D キャプチャモデルへの重畳

中畑 和之,一色 正晴,井門  俊,浅川  濯,伊津美 隆,大平 克己

Ultrasonic Imaging in Concrete Using Matrix Array Probe and Its Superimposition on Captured 3D Model
Kazuyuki NAKAHATA, Masaharu ISSHIKI, Shun IDO, Taku ASAKAWA, Ryu IZUMI and Katsumi OHIRA

 

Abstract
Non-destructive Evaluation 4.0 (NDE 4.0) is a concept that aims to disseminate a cutting-edge approach integrating advanced technologies to the NDE community. One key technology in Non-destructive Evaluation 4.0 (NDE 4.0) is visualizing the internal target’s three-dimensional (3D) shape in an easy-to-understand manner. In this study, we proposed a superimposing technique of 3D ultrasonic imaging results and the realistic shape of target concrete. As the imaging method, Full-waveforms Sampling And Processing (FSAP) was applied using a matrix array probe. Here, based on beam radiation simulation, we manufactured array elements in a low-frequency ultrasonic range in order to penetrate the ultrasonic wave in deep areas of concrete. The ultrasonic imaging result was overlaid on a 3D shape captured by a Structure from Motion (SfM) technology. Furthermore, the result can be displayed with Augmented Reality (AR) technology. The format of the superimposed inspection image will be the subject of future discussion in terms of 3D data retainability and exchange, while AR overlaid interactive 3D inspection images will require high-performance computing on a device in real-time.

Key Words: Ultrasonic imaging, Matrix array probe, Concrete, Full-waveforms Sampling And Processing (FSAP), Structure from Motion (SfM), Augmented Reality (AR)

 

緒言
 我が国における道路インフラの5 年ごとの定期点検は,2018 年度末においておおむね一巡し,その結果は道路メンテナンス年報として公開されている1)。一巡目の実施結果から見えた課題を受けて,道路橋定期点検要領も2019 年2 月に改訂された2)。目視を基本とする点検方法では,検査員の技量によるところが大きいため,改訂版の付録には点検時の注意事項が細かく記載された。一方で,近接目視で把握できる情報が不足する場合は非破壊検査で補うことが明記されている。コンクリート内部を非破壊検査する方法として,打音やアコースティック・エミッション(AE)を含む弾性波法,X 線CT や電磁波レーダなどを用いた電磁波法が代表的である3),4)。電磁波レーダ法は,特性インピーダンスが異なる部位からの散乱波を利用し,主として鉄筋検出に利用されている。また,超音波法も古くから適用されており,こちらは音響インピーダンスの差異に基づく手法である。センサの種類も豊富で,周波数帯域(波長)も容易に選択できるといった利点から,ひび割れ深さの推定などに適用されてきた5)。近年では,アレイ状に配置した超音波プローブもコンクリート検査に適用されてきており,時間遅延(ディレイ)を設定して個々の振動子を独立して駆動させることによって,超音波ビームの集束(ビームフォーカシング)や首振り(ステアリング)を使用した内部の鉄筋やひび割れの映像化手法が提案されている6)。映像化手法として,セクタスキャンやリニアスキャン等の従来法に加え,Total Focusing Method(TFM)と呼ばれるビームフォーミング技術もコンクリートの映像化に試みられており,文献7)では性能比較も行われている。また,横波を利用した開口合成法を実装した装置も開発されており8),最近では,イメージから損傷を機械学習で自動判定する方法も提案されている9)。筆者らも,Graphics Processing Unit(GPU)を用いた超並列計算をTFM に導入したリアルタイム超音波イメージングを提案10)しており,さらに同時励振を用いてシグナルノイズ(SN)比の向上と分解能の改善を検討してきた。

さて,メタル部材とは異なり,コンクリート部材の補修は骨組みとなる鉄筋部分は残しつつ,損傷部位のコンクリートを削(はつ)り,その部分に新しくコンクリートを打設することで,耐久性の回復と劣化要因の除去を行う場合が多い。従って,非破壊検査の結果は,補修業者に分かりやすく3 次元(3D)的に表示されることが望ましい。折しも,欧米ではNDE 4.0なるワードを掲げて,非破壊検査のデジタライゼーションを加速する動きが活発化している11)。NDE 4.0 とは,ドイツのMeyendorf らが2017 年のAPCNDT 12)で提案されたものであり,第4 次産業革命に準えて非破壊検査の生産性向上を描いたロードマップである。NDE 4.0 の概念や課題,その未来像については文献13)等をご覧頂くこととして,NDE 4.0 の基盤となるテクノロジーとして,デジタルツインがある。現実空間,つまり非破壊検査で言えば検査対象となる現場の状態を,Internet of Things(IoT)やロボット技術を駆使してセンシングし,それがサイバー空間にてシミュレーション技術やArtificial Intelligence(AI)等によって処理され,フィードバックされる概念である。処理された情報を現実空間で3D 可視化する手段として,拡張現実14)(Augmented Reality,AR)がある。AR は,通常はカメラなどを使用して現実の対象物を認識し,その上にサイバー空間の解析結果を重畳する。Journal of Nondestructive Evaluation のNDE 4.0 の特集号で,AR を非破壊検査に導入した先端的な取り組みが掲載されている15)。

本研究では,コンクリート内部の超音波イメージングをサイバー空間で実施し,その結果を次の二つの方法で現実空間にフィードバックする。一つは,Structure from Motion 16)(SfM)で作製した図に検査結果を重畳させることである。SfM はフォトグラメトリとも呼ばれており,写真やビデオ映像などの2次元イメージから3D の情報を復元する技術であり,カメラの位置,視点,被写体の重なり等に基づいて3D モデルを再構成する方法である。本研究では,SfM としてLuma AI 社のLuma AI 17)を用いる。もう一つはAR である。ここではPTC社のVuforia 18)を採用し,タブレット上に超音波イメージング結果を重畳する。現時点では,超音波イメージングから3Dモデルの重畳までを同一装置で実行できておらず,本稿は萌芽研究という位置付けである。また,これまでアレイプローブを用いた2 次元の超音波イメージングは多く発表されてきているし,現場でも適用が増えている。しかし,本研究のようにイメージング結果をSfM やAR に重畳させるには検査データそのものを3D データとして扱い,将来的には3D のまま保存したり交換したりする方が便利である。現状は,非破壊検査における3D データ取扱の黎明期であり,これらの課題についても考えたい。

 

赤外線サーモグラフィ試験を用いた鋼構造物の効率的な疲労き裂検出
:畳み込みニューラルネットワークによる方法

遠藤 英樹,山根 佑之,佐々木 昇,芦田  強,森本  勉,岡本  陽

Efficient Fatigue Crack Detection in Steel Structures Using Infrared Thermographic Testing
: A Convolutional Neural Network Approach

Hideki ENDO, Yushi YAMANE, Noboru SASAKI, Tsuyoshi ASHIDA, Tsutomu MORIMOTO and Akira OKAMOTO

 

Abstract
This paper discusses efficient maintenance methods for steel structures built over 50 years ago. One of the challenges faced in the maintenance efforts of a steel mill, in which the authors are involved, is the efficient detection of fatigue cracks that occur in frequently used overhead cranes and their associated equipment. In particular, screening methods are needed for runway girders supporting the crane’s running rails, which require time-consuming inspections for fatigue cracks. Therefore, this paper considers an efficient screening method for fatigue cracks that occur under the triangular ribs of runway girders. While inspection methods using thermoelastic effect have been proposed in the past, they have limitations in detecting crack shapes and measuring crack lengths. Therefore, a new method for detecting fatigue cracks using infrared radiation is proposed. Deep learning techniques are also considered to improve the efficiency of detecting fatigue cracks from the captured thermal images. The proposed method was evaluated on the runway girders of a steel mill, demonstrating its ability to detect fatigue cracks of 10 cm or more.

Key Words: Steel structure, Overhead crane, Fatigue crack, Infrared thermography, Deep learning

 

緒言
 一般に鋼構造物の主要な劣化及び損傷要因は疲労及び腐食と言われている。鉄鉱石から銑鉄を取り出し,最終製品である鋼板や棒鋼を24 時間製造している銑鋼一貫製鉄所では,溶鋼鍋及び製品等の運搬頻度の高い天井クレーンほど疲労き裂が生じやすく,また,故障によって操業に与える影響も大きい傾向がある。しかしながら,このような天井クレーンは使用頻度が高く,点検のために長時間操業を停止することは困難である場合が多い。そのため,天井クレーンを対象とする疲労き裂の効率的な調査手法の重要性が再認識されてきている。橋梁などの鋼構造物では,疲労き裂を調査する方法として,熟練者による目視検査が用いられてきた1)。最近では調査の効率化を図る目的で,赤外線サーモグラフィ試験に基づく方法2),3)や,電磁気に基づく方法4),5)が提案されてきている。天井クレーンでも,疲労き裂の調査手法として熟練者による目視検査が多く用いられてきたが,近年は効率的な手法として熱弾性効果6),7)を用いた方法8)が提案されている。しかし,熱弾性効果に基づく方法であるため,応力が集中するき裂先端の位置は検出できるものの,き裂形状が把握できない場合があった。そこで本研究では,製鉄所内で用いられる天井クレーンの疲労き裂調査において,最も目視検査の時間を費やしているランウエイガーダを対象として,発生した疲労き裂の形状を検出・記録するために効果的な観察条件を検討する。また,撮影した画像から効率的に疲労き裂を検出する手法として,深層学習による画像分類技術の適用性も検討する。

 

研究調査資料

非破壊検査・外観検査用画像データセットプロジェクトについて

浮田 浩行,塚田 敏彦,青木 公也,寺田 賢治,野口  稔,輿水 大和

Image Dataset for Non-destructive and Visual Inspection
Hiroyuki UKIDA,Toshihiko TSUKADA,Kimiya AOKI, Kenji TERADA, Minoru NOGUCHI and Hiroyasu KOSHIMIZU

 

キーワード: Non-destructive inspection, Visual inspection, Image dataset, Image processing, Machine Learning

 

緒言
 カメラやコンピュータの低価格化・高性能化によって,画像を用いた非破壊検査や外観検査が多くの企業等で導入されている。従来,機械部品等を撮影した画像からきず等を検出する処理としては,ユーザが想定するきず等を検出するために適した特徴量を検討し,それを画像から抽出するための手法・アルゴリズムをいかに構成するかが重要な点であった。しかし,このような方法は,想定したきず等は高精度に検出できるものの,撮影環境や対象物が変わると対応できず,検査手法を最初から検討し直すことが必要になるという問題がある。

一方,近年では,機械学習の発達にともない,その技術は,非破壊検査・外観検査にも適用されている。機械学習を用いることで,きず等の特徴量をシステム自身が学習するため,ユーザが示す必要がなく,やや乱暴に言えば,学習用画像データを準備すれば検査が可能になる。しかしながら,特に,工業製品においては,欠陥等を含む場合が極端に少なく,学習を行うために十分なデータ数を確保することが難しい。

そのため,最近では,主に機械学習での利用を目的とした画像データセットを収集したWeb サイト等が多く公開されている。しかしながら,このような画像データを扱っているサイトは,物体のクラス分類や画像中の物体検出を目的とするものが多く,非破壊検査・外観検査を対象とした画像データセットの公開サイトは少ない。また,公開している画像データセットは,画像のみであって,撮影対象や撮影環境についての説明が少ないものもあり,画像の信頼性に問題がある場合もある。

そこで,我々は,非破壊検査・外観検査に用いることができる画像データセットのサイトを構築・公開するプロジェクトを進めている。このプロジェクトでは,画像データセットに加え,それに関する詳細な情報も付加することで,画像データの信頼性を向上させるとともに,検査手法についてのデータベースも含めることで,メーカや研究機関の双方にメリットのあるサイトを目指すものである。本稿では,これまで本プロジェクトで検討してきた内容や,今後の予定について述べる。

以下,本稿では,2 章にて非破壊検査や外観検査向け画像データセットの現状や問題点について概観し,3 章にて本プロジェクトで目指す画像データセットについて示す。そして,4 章では,画像データセットの収集および公開方法について,現状と今後の指針について述べる。そして,最後に5 章にて,本稿のまとめと本プロジェクトの今後の進め方について示す。

 

我が国の鋼橋の超音波探傷試験の現状とNDE 4.0 への展望(その1)

木本 和志,白旗 弘実,中畑 和之,八木 尚人,判治  剛,服部 雅史,筒井 康平

Current Issues of Ultrasonic Testing of Steel Bridges in Japan and Prospects for NDE 4.0 (Part 1)
Kazushi KIMOTO,Hiromi SHIRAHATA,Kazuyuki NAKAHATA,Naoto YAGI,Takeshi HANJI,Masafumi HATTORI and Kouhei TSUTSUI

 

キーワード: 超音波探傷試験,鋼橋,BIM/CIM,土木工学,溶接継手

 

緒言
 (公社)土木学会鋼構造委員会に設置された「鋼構造物における先進的非破壊検査・評価技術に関する調査研究小委員会(活動期間:2022〜2025 年,委員長:東京都市大学,白旗弘実)」(以下,小委員会)では,土木鋼構造物の非破壊検査に関する先進的な取り組みや,DX 時代の非破壊検査のあり方について調査・研究を行っている。そこで,その活動の一環として行われた,土木鋼構造物の超音波探傷試験に焦点を当てた議論を本稿と続編にまとめ,NDE 4.0 に向けた現状と展望として報告する。

 


我が国の鋼橋の超音波探傷試験の現状とNDE 4.0 への展望(その2)

木本 和志,白旗 弘実,中畑 和之,八木 尚人,判治  剛,服部 雅史,筒井 康平

Current Issues of Ultrasonic Testing of Steel Bridges in Japan and Prospects for NDE 4.0 (Part 2)
Kazushi KIMOTO,Hiromi SHIRAHATA,Kazuyuki NAKAHATA,Naoto YAGI,Takeshi HANJI,Masafumi HATTORI and Kouhei TSUTSUI

 

キーワード: 超音波探傷試験,鋼橋,BIM/CIM,土木工学,溶接継手

 

緒言
 本稿は,(公社)土木学会鋼構造委員会に設置された「鋼構造物における先進的非破壊検査・評価技術に関する調査研究小委員会(活動期間:2022 年〜2025 年,委員長:東京都市大学,白旗弘実)」(以下,小委員会)で行った,鋼橋の超音波探傷試験(UT)に関する調査と議論に基づき,NDE 4.0 に向けた展望と課題を述べるものである。鋼橋は,鋼を主材料として製作される溶接構造物で,UT は溶接継手の検査に用いられている。鋼橋の維持管理において,UT は疲労損傷評価に用いられることが多い。中でも,内在き裂の検出やサイジング,溶接未溶着部の評価は,他の非破壊検査手法による代替が難しく,UT の高度化が以前から期待されている。このような点を含め,鋼橋の維持管理やUT に関する事情は前編に述べた通りである。本稿では,鋼橋分野のUT について,どのようなDX の機会があるか,小委員会で行った検討結果を報告する。

土木分野のDX には,レーザ測量やVirtual Reality(VR),機械学習など様々な方法の活用が検討されている。そのような中,2023 年度から,直轄土木工事に対してBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling/Management)が原則適用となり,維持管理業務への活用も検討が始まっている。BIM/CIM 適用の土木工事では,各事業段階で必要とされる構造物の3 次元モデルが作成される。従って,維持管理業務には,構造物完成時の3 次元モデルが引き継がれる。そのような3 次元モデルの存在を前提とするとき,UT の実施を橋梁全体の点検の中でどのように最適化するか,また,将来の点検や補修,補強の判断にUT 結果をどうフィードバックするかといった点には,種々,改善や高度化の余地があると考えられる。そこで本稿では,鋼橋の維持管理におけるUTについて,BIM/CIM との関係からDX の機会を論じる。以下の節では,はじめに,土木分野におけるBIM/CIM について,その内容と,国土交通省による導入の意図を簡単にまとめる。その後,鋼橋の維持管理におけるBIM/CIM について,現状を概観する。続いて,BIM/CIM 利用を前提とした場合に,鋼橋のUT にどのような高度化が期待されるか検討し,最後に,その実現に向けた課題を述べNDE 4.0 への展望とする。

 


to top