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機関誌

2024年8月号バックナンバー

2025年10月27日更新

巻頭言

「会長再々任のご挨拶」−新たな価値の創出を目指して−

井原 郁夫

令和4 年度,5 年度に引き続き令和6 年度の会長を務めさせていただくことになりました。当協会ならびに非破壊検査分野の発展のため,精一杯務めてまいりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。

今年は,元旦に石川県能登地方を震源とした能登半島地震が発生し,全国民に大きな衝撃を与えました。被害に遭われた方々とその関係者に対しまして心よりお見舞い申し上げますとともに,被災地の一日も早い復旧・復興を願うばかりです。

さて,新型コロナウイルス感染症パンデミックも収まり,我々の日常生活はほぼ回復しました。しかし,世界の複数地域で紛争の激化や地球沸騰化による予断を許さない気候変動のため,世界情勢は不安定さを増しており,我国もその影響を大きく受けています。その一方で,近年の技術革新の進展は目覚ましく,それと相まって,様々な分野にDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などの社会変革の潮流が広がっています。生成AI の進展とその活用可能性についても目が離せない状況です。そのような時代にあって,非破壊検査においても社会の要請に応えるべく,従来技術を変革し,新たな価値を生み出すことが求められています。ただし,当協会のミッションは非破壊検査を通して社会に価値ある安全・安心を提供することであり,それを実現すべく,技術者の啓発,教育,育成,資格認証という重要な社会的責務を果たすことが我々の使命であることは変わりません。当協会では,時代を先取りした先駆的な取り組みに着手しつつ,産学官のステークホルダーに有益なサービスを提供し続けるため,これまで同様,JSNDI アクションに基づいた活動を着実に推進していきたいと考えています。

当協会では皆様のご支援,ご協力のもと令和5 年度もアクティブで実り多い事業活動を展開することができました。活動実績の詳細につきましては本誌次ページ以降をご覧いただければと思いますが,ここでは最近の活動の一端をご紹介させていただきます。まず,国際教育関連として,昨年8 月にオーストリアのウィーンにある国際原子力機関(IAEA)本部を訪問し,当協会とIAEA とのPA(Practical Agreements)を締結し,双方の友好的な協力体制を深化させました。国際機関であるIAEA が国家レベル以外の組織と協定を結ぶことは稀であることから,このたびのPA 締結は当協会に対するIAEA の期待の大きさを示すものであり,当協会としても極めて名誉であると考えています。認証関連では,米国非破壊試験協会(ASNT)との相互承認に関して,双方で綿密な協議を重ね,レベル3 を含む相互認証の実現に向けた最終段階の調整を行い合意に達しました。学術活動に関しては,今後の展開が注目されるNDE4.0 の重要性を踏まえ,昨年10 月末に第1 回NDE 4.0 シンポジウムが開催され,分野の異なる多数の若手の参加者による活発な討論が展開されました。また,本年4 月にはSPRINT Robotics との共催でSPRINT Robotics Asset Integrity Management Seminar が開催され,「ロボティクス」×「非破壊検査」という新たな切り口での討論と情報交換がなされました。いずれの活動も今後の展開が大いに期待されるものです。国際連携の一環として,現在,来年度以降に開催予定の三つの国際会議(AITA2025, IIIAE2025, 8th US-Japan NDT Symposium)を鋭意企画中です。会議の成功に向けて皆様の積極的な参画をお願いできればと思います。

近年,自然災害は頻度を増すとともに激甚化する傾向にあります。能登半島地震では,被害が甚大であることに加えて,山間部を結ぶ道路が各地で寸断されており,被災地のインフラや住居の再建にはまだまだ時間を要する様相を呈しています。このような災害に見舞われた被災地の状況を目の当たりにするたびに,非破壊検査の技術やノウハウをどうにかして災害対策や被災地支援に活かせないものかという思いに駆られます。非破壊検査はこれまで機械,構造物,インフラなどの保守,保全,維持管理を担っており,どちらかと言えば産業界への貢献が主体でしたが,これからは,これに加えて地域社会の防災・減災という視点での取り組みも重要ではないかと思います。このたびの能登半島地震を契機とし,当協会では「被災地支援のために,当協会リソースを活かした何らかの社会貢献はできないか?」という観点から検討を始め,学術委員会において被災地ニーズに対応可能な非破壊検査技術の発掘に着手しました。被災地支援を意識した,一歩踏み込んだ非破壊検査活用法の創出を目指すものです。その創出は決して容易ではありませんが,喫緊の社会課題に目を向けた取り組みを実践することで,震災支援への貢献に留まらず,非破壊検査における新技術の創成と新たな適用分野の開拓にもつながる可能性があると考えています。NDT/NDE 技術に秘められた潜在能力を顕在化させ,その新たな活用を創出するためには,一つの方策として,横のつながり,すなわち連携を推進することが効果的であろうと考えています。当協会内の「人の連携」や「部門連携」はもとより「学協会連携」,「産学官連携」,「国際連携」など,分野や組織の垣根を越えた様々な横断的な取り組みはJSNDI アクションの実践にも通ずるものであり,これにより非破壊検査の新たな価値の創出が期待されます。これを実現するためにも,当協会の強み,すなわち学会機能と業界団体機能の連携によるシナジーを最大限に活かした活動を展開していただければ大変有難いと考えております。

最後に,昨年度の協会運営に多大なご尽力を賜りましたすべての会員の皆様ならびに事務局の方々に心から御礼を申し上げます。引き続き,ご支援,ご協力のほど,どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

報告・展望(2023)

放射線による非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度放射線部門主査,東芝IT コントロールシステム(株) 富澤 雅美

Review on Radiographic Testing
Chairman of Research & Technical Committee on Radiographic Testing in 2023
Toshiba IT & Control Systems Corporation Masami TOMIZAWA

キーワード: 放射線,X 線,中性子,イメージング,デジタルラジオグラフィ,X線 CT,インライン検査,深層学習

 

はじめに
 放射線部門は,放射線を利用する非破壊検査を広く対象とし,放射線とその非破壊検査への利用に関する物理,検査の手法,放射線の線源と検出器などに関して,基礎的な事項の解説,最新技術の紹介,規格の制定・改正の状況と内容など多くの情報を機関誌の特集及び講演会などを通じて提供している。

2023 年度の活動として,機関誌72 巻5 号に「特長のあるX 線管・X 線発生装置とその技術」と題した特集を掲載し,その全6 件を2023 年度非破壊検査総合シンポジウムにて講演していただいた。そして,第2 回放射線部門講演会,秋季講演大会での講演,第14回放射線による非破壊検査シンポジウムを実施した。いずれも対面形式での開催であった。

また,5 回の幹事会(’23 年7,9,11,12 月と’24 年3 月にオンライン,対面,またはハイブリッドにて)を開催し,情報の収集と共有,要審議事項の審議,企画の立案・検討などを行った。

以下に,2023 年度の放射線部門の活動を報告するとともに,機関誌の特集(解説),並びに上記4 件の講演会とシンポジウム等での講演内容も参考に技術動向と展望を述べる。なお,この報告・展望内の略語*については,このページの下欄に示す。

 

超音波による非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度超音波部門主査,JFE スチール(株) 飯塚 幸理

Review on Ultrasonic Testing
Chairman of Research & Technical Committee on Ultrasonic Testing in 2023
JFE Steel Corp. Yukinori IIZUKA

キーワード:超音波探傷,波動伝搬,シミュレーション,ガイド波,フェーズドアレイ,レーザ超音波,電磁超音波,空中超音波,非線形超音波,材料評価,センサ,AI,ICT

 

はじめに
 超音波部門では,超音波による非破壊試験に関する学術的・実用的な情報交換,研究活動,普及活動を担って活動を行っている。活動の中心は部門講演会・シンポジウムの開催,研究委員会,機関誌の特集企画などである。超音波による非破壊試験が関わる学術領域は幅広く,電子情報通信学会「超音波研究会」などの他学会や,非破壊検査協会の研究会「先進センシング技術とデータ処理に関する萌芽研究会」とも連携を取りながら活動を行っている。

2020 年から新型コロナウイルスの影響で学術活動は様々な制約を受けたが,2023 年5 月に感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同様の5 類感染症に移行したことにより,2023 年度の講演会やシンポジウムは対面・懇親会ありと完全にコロナ禍前に戻った。一方,幹事会などの委員会や打合せはオンラインを使うなど,コロナ禍で得たノウハウも活用しながら学術活動は新たな形に移行している。

本稿では2023 年度の超音波部門における活動実績を報告するとともに,機関誌ならびに各種活動で公表された論文や講演資料から2023 年度の研究開発動向を整理し,今後の展望について述べる。

 

磁粉・浸透・目視試験による非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度磁粉・浸透・目視部門主査,横浜国立大学 笠井 尚哉

Review on Magnetic Particle, Penetrant and Visual Testing
Chairman of Research & Technical Committee on Magnetic Particle, Penetrant and Visual Testing in 2023
Yokohama National University Naoya KASAI

キーワード:磁粉探傷試験,浸透探傷試験,目視試験

 

はじめに
 磁粉探傷試験,浸透探傷試験及び目視試験は表面欠陥の探傷に関わる試験として,化学,発電などのプラント設備,鉄鋼,自動車,航空,鉄道などの産業分野をはじめ,社会インフラのメンテナンスにおいても広く用いられている。

当部門は,電磁気応用部門,漏れ試験部門と幹事会をはじめ,研究集会,シンポジウム等の学術活動を合同で行っている。これら3 部門は,表面に発生する欠陥を検出するという共通テーマを有しており,表面3 部門として共同で活動することが,お互いの部門の活性化につながると考えている。

本報告では,2023 年度(2023 年4 月1 日~ 2024 年3 月31 日)の表面3 部門が合同で行ったシンポジウム,研究集会,春季・秋季講演大会などの概要と磁粉・浸透・目視部門の活動及び今後の展望について述べる。

 

電磁気応用による非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度電磁気応用部門主査,大分大学 後藤 雄治

Review on Electromagnetic Testing
Chairman of Research & Technical Committee on Electromagnetic Testing in 2023
Oita University Yuji GOTOH

キーワード:渦電流,漏洩磁束,表面探傷,材料評価,電磁界解析,逆問題解析

 

はじめに
 電磁気応用部門は磁粉・浸透・目視部門と漏れ試験部門の3 部門による合同で活動を行っており,研究集会やシンポジウムを「表面3 部門」との名称で,合同で実施している。この3 部門の共通点は主に材料の表面きずの探傷を目的としていることであり,それぞれの試験法における最新の研究や情報交流は大変有意義である。

電磁気応用部門では,渦電流探傷試験や磁粉探傷試験など,電磁気現象を利用した試験法や材料評価等の研究を行っている。現在,非接触かつ高速の測定が可能な電磁気を使用した非破壊試験法は,高速かつ非接触で試験が実施できるメリットがあり,鉄鋼プラントや各種発電プラント等の保守検査に広く使用されている。これらの電磁非破試験は,各種センサを試験対象物に接近させ,その表面近傍のきず試験等に多く利用されている。しかし近年,電磁界解析技術や逆問題解析,信号処理技術の高度化に伴い,表面近傍だけでなく内部や裏面きず,または比較的離れた場所からの試験が行えることが明らかとなりつつあり,その適用範囲が広げられる可能性が出てきている。

ここでは,2023 年度に発表された電磁現象を用いた非破壊試験に関する報告や展望について述べる。

 

漏れ試験による非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度漏れ試験部門主査,東芝エネルギーシステムズ(株) 渡邊 郁雄

Review on Leak Testing
Chairman of Research & Technical Committee on Leak Testing in 2023
Toshiba Energy Systems & Solutions Corporation Ikuo WATANABE

キーワード:漏れ試験,規格,保守,リーク試験法

 

はじめに
 漏れ試験は,高圧部と低圧部を隔てる境界における,気体や液体が通過する現象を検知するために活用されている。

産業の発展とともに漏れ試験のニーズは拡大し,様々な試験方法が開発された。試験環境は10−10 Pa の超高真空から大気圧以上まで広範囲に及び,検出対象となる漏れ量も10−3 Pa・m3/s から10−12 Pa・m3/s まで非常に幅が広い。

ISO 9712:2005 の改正に伴い,非破壊試験の認証範囲に漏れ試験が追加された。これに対応するためJIS Z 2305:2013 にも漏れ試験が追加され,技量認定の実技試験では圧力法として発泡漏れ法と圧力変化法,トレーサガス法としてヘリウムによる漏れ試験,合計3 種類の漏れ試験が行われている1)。今や,様々な分野において漏れ試験は製品の品質や安全を担保するために必要不可欠となっている。

本稿では2023 年度の漏れ試験部門における活動実績と今後の展望について報告する。

 

応力・ひずみ解析の活動報告と今後の展望

2023 年度応力・ひずみ測定部門主査,明治大学 有川 秀一

Review on Stress / Strain Measurement
Chairman of Research & Technical Committee on Stress / Strain Measurement in 2023
Meiji University Shuichi ARIKAWA

キーワード:応力・ひずみ測定,ひずみゲージ試験,光学的試験法,強度評価,実験力学

 

はじめに
 機械・構造物の安全性を確保するためにはその設計段階で機械・構造物に生じる応力やひずみを把握することが重要であることは言うまでもないが,実働下での健全性を確保するためにも応力やひずみを測定することが重要である。設計段階であれば有限要素解析等によるシミュレーションが多く利用されるが,その計算に用いられる材料特性が現実と一致している必要がある。したがって基本的な材料特性を測定するための材料試験においても応力・ひずみ測定は極めて重要である。評価する材料パラメータはヤング率やポアソン比,降伏応力だけでなく,疲労特性,破壊力学パラメータや粘弾性特性等多岐にわたる。そのため種々の材料パラメータを評価する各種方法が必要となる。設計された物が実働荷重下において想定通りの状態にあるのかまた経年劣化等による健全性への影響はないか等を評価する必要がある。これらの状況から応力・ひずみの評価技術とその発展は機械・構造物の安全性の向上のために重要であることがわかる。

測定手法としては近年光計測法が多く研究され,デジタル画像相関法やサンプリングモアレ法等の画像処理を応用した計測手法が発展してきている。また一部ではレーザ干渉法の一つであるスペックル干渉法の研究も継続されている。デジタル画像相関法は使用方法が比較的容易でソフトウェアも市販されていることから,この手法を応用した材料評価に関する研究が増えつつある。サンプリングモアレ法は計測が安定している特徴からドローン搭載カメラからの実構造物の変位を測定する研究も進められている。スペックル干渉法の測定感度は非常に高いものの使用方法が煩雑かつ使用可能な環境の制限が多いことから近年はほとんど利用されなくなっている。そのため使用方法が容易な画像計測手法の利用拡大が期待される

画像計測等により得られる変位場やひずみ場を利用した逆問題解析による材料パラメータ評価手法の研究やその他の理論と併用した評価手法の研究も進められており,通常の材料試験では評価が困難な材料パラメータが評価可能になりつつある。また有限要素を利用したデジタル画像相関法の研究も発展しており,従来の課題であった材料端部や界面においても精度低下のない結果が得られるようになっている。なお比較的新しい計測技術である画像計測法の場合は測定精度があいまいであるか不安定である場合もあるため,今後は測定精度の評価や精度を保証することに関して検討が進められるものと考えられる。このように応力・ひずみ測定および材料評価に関する研究は今日も継続的に進められている。

 

アコースティック・エミッションによる非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度アコースティック・エミッション部門主査,東北大学 森谷 祐一

Review on Acoustic Emission
Chairman of Research & Technical Committee on Acoustic Emission in 2023
Tohoku University Hirokazu MORIYA

キーワード:アコースティック・エミッション,講演会,国際シンポジウム,標準化

 

はじめに
 アコースティック・エミッション(AE)部門は,アコースティック・エミッション特別研究委員会を母体として組織され,活動を開始した。AE 部門はAE 法の進展と普及に貢献することを目的に,日本におけるAE 法の学術研究,技術開発,標準化,技術者養成をけん引する活動を行っている。AE 法は計測対象に本質的な制限がなく,種々の環境下で高周波の微弱な信号を扱うことから,部門には機械系,材料系,土木系,資源系,電気系など,様々なバックグラウンドを持つ会員が集まり,活動している。本稿では,昨年度(2023 年度)のAE 部門での活動をまとめる。

 

赤外線サーモグラフィによる非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度赤外線サーモグラフィ部門主査,神鋼検査サービス(株) 遠藤 英樹

Review on Infrared Thermographic Testing
Chairman of Research & Technical Committee on Infrared Thermographic Testing in 2023
Kobelco Inspection & Service Co.,Ltd. Hideki ENDO

キーワード:赤外線サーモグラフィ,ドローン,テラヘルツ波,教育,認証

 

はじめに
 赤外線サーモグラフィ部門は,赤外線サーモグラフィ試験の普及に貢献することを目的として,学術研究,技術開発,標準化,JIS Z 2305 およびISO 18436-7 の資格試験に関する活動を行っている。赤外線サーモグラフィ試験は,非接触かつ高速に面情報を取得可能なメリットがあることから,当部門では様々な分野・専門性を有する会員が活動している。本稿では2023 年度の主な活動を紹介する。

 

製造工程検査の活動報告と今後の展望

2023 年度製造工程検査部門主査,徳島大学 浮田 浩行

Review on In-Process Inspection
Chairman of Research & Technical Committee on In-Process Inspection in 2023
Tokushima University Hiroyuki UKIDA

キーワード:画像処理技術,製造工程検査,ViEW2023,DIA2024,画像データセット,機械学習

 

はじめに
 製造工程検査部門は,製造現場における画像処理技術を用いた検査手法の実用化を目指した活動を行っている。当部門では,広範囲に渡る最新の画像処理技術を当協会会員へ,リアルタイムかつ分かりやすく提供することを大きな役割の一つと位置付けており,そのための活動として,各種学会・研究委員会の枠を越えた連携・協力を行い,画像センシング・画像認識に関するシンポジウムやワークショップを年2 回共同企画として協賛している。この活動によって,製造工程における非破壊検査,外観検査および目視検査に関わるセンシングと画像処理・画像認識技術の情報提供を行い,研究者間の交流の場を設け,提供し続けている。

本稿では,部門活動の報告として,2023 年度に協賛・共同企画した2件のワークショップについて紹介する。2023 年5 月から,新型コロナウイルスが第5 類に移行したことから,学会の開催形態も,対面のみ,あるいは対面とオンラインのハイブリッド形式になっており,コロナ禍前とも少し異なる学会の雰囲気を感じる。また,本稿では,2022 年度から開始している「非破壊検査・外観検査画像データセットCOE プロジェクト」についての進展についても説明する。そして,画像技術に関する動向や今後の展望について述べる。

 

保守検査の活動報告と今後の展望

2023 年度保守検査部門主査,明治大学 松尾 卓摩

Review on Maintenance Inspection
Chairman of Research & Technical Committee on Maintenance Inspection in 2023
Meiji University Takuma MATSUO

キーワード: 非破壊検査,ドローン,デジタルトランスフォーメーション,AI,水素蓄圧器

 

はじめに
 保守検査部門は,産業プラントや社会インフラの構造信頼性を維持し向上させる技術を部門メンバー間で共有することを通じて,信頼性と経済性を両立した保守検査技術の探求と普及を活動目標としている。既存の検査技術の現場適用だけでなく,近年盛んに研究されているロボット,IoT,AI,ビッグデータ,DX 等を活用した新しい検査技術の情報も共有するために,7 月と11 月には保守検査ミニシンポジウムを開催し,10 月の秋季講演大会ではアコースティック・エミッション部門と合同でオーガナイズドセッションを開催した。また,機関誌10 月号では,保守検査に関する解説記事を集めた特集号を毎年企画しており,今年度は社会インフラの保守検査技術や保守検査技術に関する最新の基礎研究についての4 つの解説記事を寄稿していただき,特集号を出版した。

 

鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験の活動報告と今後の展望

2023 年度鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門主査,東京理科大学 今本 啓一

Review on Non-Destructive Testing of Reinforced Concrete Structures
Chairman of Research & Technical Committee on Non-Destructive Testing of Reinforced Concrete in 2023
Tokyo University of Science Keiichi IMAMOTO

キーワード:活動報告,鉄筋コンクリート構造物,非破壊・微破壊試験,研究委員会,標準化,講習会

 

はじめに
 鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門(以下,RC 部門)では,オンライン併用等により学術委員会,標準化委員会,教育委員会,編集委員会と関連し,各種研究委員会,各種NDIS 制定・改定・準備WG が活動を行っていたが最近は感染拡大防止というよりは,オンラインの長所を生かした,オンラインを併用したハイブリッド型による方式を積極的に用いている。

 

新素材の非破壊評価の活動報告と今後の展望

2023 年度新素材に関する非破壊試験部門主査,東北大学 内一 哲哉

Review on Non-Destructive Evaluation of New Materials
Chairman of Research & Technical Committee on Non-Destructive Evaluation of New Materials in 2023
Tohoku University Tetsuya UCHIMOTO

キーワード:先進材料,非破壊計測

 

はじめに
 新素材に関する非破壊試験部門では,新素材の非破壊評価に関する研究,調査及び普及を目的とした活動を行っている。特に,様々な非破壊検査技術および非破壊評価技術の応用を横断的に調査していることに本部門の特徴がある。例えば,複合材料の計測技術,積層造形に関連した計測技術や,高温環境における計測技術などを切り口として,他の団体や研究会との連携を積極的に行いながら調査を行っている。本年度は,ミニシンポジウムを1回,シンポジウムを1 回開催した。以下にその活動の概要をまとめる。

 

報告

学術委員会活動報告

2023 年度学術委員会委員長 塚田 和彦

Report of Academic Affairs Committee
Chairman of Academic Affairs Committee in 2023
Kazuhiko TSUKADA

キーワード:学術活動,非破壊検査,表彰制度,研究助成,研究奨励金

 

はじめに
 学術委員会は,協会の学術活動全般を統括する組織として,関連する3 名の理事と技術開発センター長,12 部門及び2 研究会の主査から構成されている。2023 年度の学術委員会の構成は,表1のとおりであった。

2023 年度は,学術委員会を7 月,12 月,2 月の計3 回開催した。以下に2023 年度の学術活動の全般について報告するが,各部門における学術活動の詳細については,それぞれの部門の報告・展望を,また国際学術活動については,国際学術委員会の活動報告をご覧いただきたい。

 

標準化委員会活動報告

2023 年度標準化委員会委員長,東京工業大学 水谷 義弘

Report of Standardization Committee
Chairman of Standardization Committee in 2023
Tokyo Institute of Technology Yoshihiro MIZUTANI

キーワード: NDIS,JIS,ISO

 

はじめに
 標準化委員会では,以下に示す11 の専門別委員会を設置し,当協会のISO 委員会(委員長:大岡紀一)と連携しながら,①日本非破壊検査協会規格(NDIS)の審議,承認および維持管理,②日本産業標準調査会が行う日本産業規格(JIS)の審議および承認への協力,③関連する規格の調査,収集および会員への情報伝達を主に行っている。副委員長は前委員長の釜田委員にお願いしている。また,本委員会の担当理事は釜田理事と堀理事である。
(1)放射線専門別委員会(釜田敏光)
(2)超音波専門別委員会(古川 敬)
(3)磁粉専門別委員会(堀 充孝)
(4)浸透専門別委員会(田中 亮)
(5)渦電流・漏洩磁束専門別委員会(遊佐訓孝)
(6)目視専門別委員会(小林幸一)
(7)漏れ専門別委員会(中島豊昭)
(8)赤外線サーモグラフィ専門別委員会(塩澤大輝)
(9)ひずみ試験専門別委員会(坂井建宣)
(10)アコースティック・エミッション専門別委員会(水谷義弘)
(11)鉄筋コンクリート構造物専門別委員会(渡辺 健)
*( )内の氏名は各専門別委員会の委員長

 

ISO 委員会活動報告

2023 年度ISO 委員会委員長,(一社)日本非破壊検査協会 顧問 大岡 紀一

Report of ISO Committee
Chairman of ISO Committee in 2023
The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA

キーワード:ISO/TC 135,CEN/TC 138,ISO/TC 135/SC 7,ISO 9712,ISO 規格,資格及び認証

 

概要
 (一社)日本非破壊検査協会(以下JSNDI という)のISO 委員会は,ISO/TC 135(非破壊試験)に関する国内審議団体として,国際標準化機構(ISO)規格に関する開発,定期見直しなどの事項を検討,審議及び投票のための集約,さらには,ISO/TC 44(溶接),ISO/TC 17(鋼)などの国内審議団体との連携を図り,前年度に引き続き,関連するISO 規格の対応における情報交換などを中心に活動を実施した。

ISO/TC 135 総会及び各SC 会議は,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)が世界的規模で感染拡大していることに配慮していたが,落ち着きを見せ始めたことから,2023 年7 月3 日~7 月7 日まで開催された欧州のポルトガルで開催されたECNDT(欧州非破壊試験コンファレンス)に併設して2023 年7 月5 日~7 月9 日までISO/TC 135 及び関連SC 会議をハイブリッド(対面会議を主体にWeb 参加も可とする)形式で行った。それには,ISO/TC 135 幹事国として,緒方隆昌ISO/TC 135 Committee Chair(以下国際議長という),大岡昌平ISO/TC 135 Committee Manager(以下国際幹事という)がISO 中央事務局のテクニカルプロジェクトマネージャ(TPM)と連絡を取り,ISO 中央事務局のISO 活動に対する意向も踏まえ,各国との時差に関する調整の上,ISO/TC 135 総会及び関連SC を実施した。なお,日本とポルトガルの時差は8 時間であり,日本からはWeb で,深夜あるいは早朝の参加であった。

ISO/TC 135 総会では,ISO/TC 135 幹事国として緒方国際議長,大岡(昌)国際幹事(SC 6 の国際幹事も兼任)及びSC 6 の横野泰和国際議長が出席し,大岡紀一JSNDI ISO 委員会委員長が日本代表として出席し,また,八木尚人委員が参加した。

一方,日本の幹事国業務としては,総会の運営は勿論のこと,各SC 及びWG の活動状況を注視するとともに,適宜,進め方などにおいて,指導,アドバイスなどを継続して実施している。

なお,COVID-19 の感染及び拡大が終息する方向となってきたため,韓国での世界非破壊試験コンファレンス(WCNDT)は2024 年5 月27 日から29 日に決定された。

国内におけるISO 委員会については,第1 回本委員会を2024 年3 月13 日(水)に開催し,非破壊試験・検査における種々の関連情報を共有する目的で,各種団体会員の出席を頂き,情報交換をも実施した。

分科会については,ポルトガルのリスボンでの会議のまとめの報告会として,第1 回分科会を2023 年12 月4 日(金)に開催した。また,本委員会に先立って,第2 回分科会は2024 年3 月1 日(金)に実施した。

一方,ISO/TC 135 総会及び各SC 会議のポルトガルのリスボン開催に先立ち,各SC における審議案件の確認と必要に応じた検討を行い,全体としての最終打合せを2023 年6 月22 日(木)13:00 ~ 14:00 に当初対面形式にて会議を予定していたが,各委員の都合によりWeb 参加も含めたハイブリッド形式の打合せを以下の出席者で行った。(省略) なお,対面会議出席者は大岡委員長,新井委員,大岡(昌)国際幹事,久保事務局であった。ISO/TC 135 会議への日本からの出席については,原則,各SC からVoting 及びNon-Voting Memberの2 名とした。

 

国際学術委員会活動報告

2023 年度国際学術委員会委員長,川崎重工業(株) 緒方 隆昌

Report of International Committee
Chairman of International Committee in 2023
Kawasaki Heavy Industries, Ltd. Takamasa OGATA

キーワード: 非破壊検査,ICNDT,APFNDT,IAEA,ASNT,BINDT,KSNT,創立70 周年,国際会議

 

はじめに
 2023 年5 月8 日に,新型コロナウイルス感染症の位置づけが「新型インフルエンザ等感染症(2 類相当)」から「5 類」へと変更になり,約3年ぶりに対面での海外との交流が活発化してきた。この3年間の経験は,世の中に負の要素をもたらした一方で,オンライン形式やオンラインと対面交流の良さを併用したハイブリッド形式の利点を世の中に広く伝え,従来の形式にそれぞれの方式のメリットを取り入れた形へとパラダイムシフトをもたらした。本年度からは対面形式,オンライン形式及びハイブリッド形式を適切に使うことで,海外との情報交換,交流及び連携を効果的かつ効率的に行うことに努めた。

特に,6 月には創立70 周年記念講演会及び式典を開催し,友好協定の締結など関連の深い各国及び各団体から代表者の方々を招待し,久しぶりに対面で交流できたのは,当協会の歴史の中でも極めて有益な機会となった。また,外務省を通して,2018 年頃から,国際原子力機関(International Atomic Energy Agency;IAEA)天野事務局長との調印を目標に調整を進めていたPractical Agreements(PA)について,2023 年8 月にようやくIAEA フア・リウ副事務局長と当協会井原郁夫会長の間で調印が実現したことは,特筆すべきことであった。

国際非破壊試験委員会(International Committee for Non-Destructive Testing;ICNDT)及びアジア・太平洋非破壊試験連盟(Asia-Pacific Federation for Non Destructive Testing;APFNDT)の活動をはじめとする国際的活動は,学術のみに留まらず,認証,教育,標準化などが相互に密接に関連していることから,運営委員会の下に国際対応WG を設け総合的な判断を行っている。本稿では,本号における掲載区分の関係上,国際学術委員会活動以外も含むこれら国際活動全般を対象に記載した。

 

教育委員会活動報告

2023 年度教育委員会委員長,非破壊検査(株) 篠田 邦彦

Report of Education Committee
Chairman of Education Committee in 2023
Non-Destructive Inspection Co., Ltd. Kunihiko SHINODA

キーワード:訓練,講習会,JIS Z 2305:2013

 

はじめに
 教育委員会(以下,「当委員会」という)は,非破壊検査に従事する技術者の技量向上を目的として各種教育・訓練の計画と実施並びに関係書籍の編集などを行っている。

また,JIS Z 2305:2013「非破壊試験技術者の資格及び認証」の改正に伴う訓練カリキュラムの見直し等の対応をこれまでに推進してきており,今後,国際相互承認を視野に入れた訓練組織としてのさらなる体制整備を進めていきたいと考えている。ここでは,2023 年度の当委員会の主な活動実績を報告する。

 

認証運営委員会活動報告

2023 年度認証運営委員会委員長,東京工業大学 井上 裕嗣

Report of Certification Steering Committee
Chairman of Certification Steering Committee in 2023
Tokyo Institute of Technology Hirotsugu INOUE

キーワード:非破壊試験,技術者認証,ISO 9712,JIS Z 2305,NDIS 0602,NDIS 0603,ISO 18436-7,NAS 410

 

はじめに
 日本非破壊検査協会の認証事業の中心はJIS Z 2305 に基づく非破壊試験技術者の認証であり,2003 年にそれ以前のNDIS 0601 に基づく技量認定から移行を開始して以来20 年以上が経過している。この間,特に2013 年のJIS Z 2305 改正に伴っていくつかの大きな点で制度を変更するとともに,2019 年春期からは別途NDIS 0604(赤外線サーモグラフィ試験)とNDIS 0605(漏れ試験)に基づいて実施していた認証をJIS Z 2305 に統合してきた。2023 年度現在は,放射線透過試験(RT),超音波探傷試験(UT),磁気探傷試験(MT),浸透探傷試験(PT),渦電流探傷試験(ET),ひずみゲージ試験(ST),赤外線サーモグラフィ試験(TT),漏れ試験(LT)の8 つのNDT 方法の認証を実施している。

当協会では,次のそれぞれの規格に基づく技術者認証を実施している。

  JIS Z 2305 「 非破壊試験技術者の資格及び認証」
  NDIS 0602 「 非破壊検査総合管理技術者の認証」
  NDIS 0603 「 超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証」
  ISO 18436-7 「 Condition monitoring and diagnostics of machines
           – Requirements for qualification and assessment of personnel – Part 7: Thermography」

これらに加えて,NAS 410「NAS Certification and qualification of non-destructive test personnel」に基づく認証制度における資格試験機関として,資格試験を実施して適格性証明書を発行している。

JIS Z 2305 に基づく認証は「認証運営委員会」で運営している。 また,NDIS 0602 に基づく認証は「非破壊検査総合管理技術者認証委員会」,NDIS 0603 に基づく認証は「PD 認証運営委員会」,ISO 18436-7 に基づく認証は「CM 技術者認証運営委員会」でそれぞれ運営している。さらに,「国際認証委員会」の協力の下で,諸外国との認証資格の相互承認を実施している。

 

出版委員会活動報告

2023 年度出版委員会委員長,(一財)発電設備技術検査協会 古川  敬

Report of Publication Committee
Chairman of Publication Committee in 2023
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Takashi FURUKAWA

キーワード:出版,テキスト,問題集,参考書,規格,ゲージ

 

はじめに
 出版委員会は,非破壊検査技術の教育・普及に関する出版物の企画,編集,制作及び頒布を行うことによって,非破壊検査技術水準の向上を図ることを目的として設置された委員会であり,その活動は教育委員会の活動と密接に関係している。そのため,その構成員は,各部門の関係者とともに教育委員会からの派遣委員,理事等で構成されている。図1 に,出版活動の典型的な例を示す。

 

試験片委員会活動報告

2023 年度試験片委員会委員長,TD&UD 事務所 高田  一

Report of Reference Block Committee
Chairman of Reference Block Committee in 2023
TD&UD Office Hajime TAKADA

キーワード:標準試験片,対比試験片,分類用ゲージ,トレーサビリティ,品質証明

 

はじめに
 当協会では非破壊検査技術の普及及び技術水準の向上に努める活動の一環として,非破壊試験の実施に必要な標準試験片,対比試験片及びゲージを販売している。非破壊試験において,標準試験片,対比試験片及びゲージは,試験装置の調整及び性能確認,試験結果の定量化,試験方法の標準化及び試験結果への影響因子の評価などの重要な業務に用いられる。以下,標準試験片及び対比試験片をまとめて頒布試験片または試験片類と称する。

試験片類及びゲージの販売先は主に国内であり,2023 年度の販売数は,放射線透過試験用ゲージ(以下,放射線ゲージ)が1229 枚,超音波関連試験片(以下,超音波試験片)444 体,磁粉探傷試験用標準試験片(以下,磁粉試験片)1727 枚などとなっており,販売総額は約6.6 千万円であった。販売数では,昨年度と比較して,放射線ゲージは25%の増加,磁粉試験片販売数は10%の増加となったが,超音波試験片販売数は18%の減少,販売総額は14%の減少であった。単価が大きい超音波試験片の売り上げが減少したことが,販売総額の減少につながった。

試験片類及びゲージの年間販売数は,コロナ禍の時期を除き,放射線ゲージが1700 枚前後,超音波試験片が600 体前後,磁粉試験片が3000 枚前後の数量で推移してきた。どの製品についても,販売数量は大きく落ち込んできているため,原因の究明が必要になっている。

ただし,減少傾向であるとはいえ,これだけの数のゲージ及び試験片類を頒布しているのは,国内の非破壊試験業務に当協会の頒布試験片が必要であり,かつ,定着していることの表れであろう。

当委員会の活動の流れや経緯については,過去の報告17)− 26)も参照いただくとして,今回はこの一年の活動の進展状況についてご紹介する。本稿は委員長の備忘録としての役割もあるので,細かいところは読み飛ばしていただき,概要をつかんでいただければ幸いである。

 

広報活動委員会活動報告

2023 年度広報活動委員会 委員長代理,神鋼検査サービス(株) 遠藤 英樹

Report of Public Relations Committee
Acting Chairman of Public Relations Committee in 2023
Kobelco Inspection & Service Co.,Ltd. Hideki ENDO

キーワード:広報,ホームページ,セミナー,展示会

 

はじめに
 広報活動委員会では,関連委員会と連携し,当協会や非破壊検査の知名度向上を目的とした各種広報活動や会員に向けた情報発信サービスを行っている。当委員会の2023 年度の主な取り組み事項を以下に示す。

・展示会への参加と出展内容の検討
・取材協力等の各種メディア対応
・会員サービス向上のためのホームページ改善
・若年者層に向けた広報活動

以下に,2023 年度の主な活動実績について報告する。

 

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