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機関誌

2024年11月号バックナンバー

2025年11月5日更新

巻頭言

「発泡漏れ,およびその周辺技術の試験の最新動向」特集号刊行にあたって

渡邊 郁雄

漏れ試験は,高圧部と低圧部を隔てる境界における,気体や液体が通過する現象を検知するために活用されている。

産業の発展とともに漏れ試験のニーズは拡大し,様々な試験方法が開発された。試験環境は10−10 Pa の超高真空から大気圧以上まで広範囲に及び,検出対象となる漏れ量も10−3 Pa・m3/s から10−12 Pa・m3/s まで非常に幅が広い。このため,漏れ試験の方法も漏れ量や使用環境に応じて様々な手法が開発されてきた。漏れ量の比較的大きなものでは視覚的に漏れを捉えることのできる発泡漏れや液体漏れ法,小さな漏れではサーチガスと検出器を用いた試験,試験範囲が大きく漏れ箇所の特定より漏れの有無確認を優先する圧力変化法などに大別される。漏れ試験の技量は各社において社内制度等で長年対応していた。

ISO 9712:2005(非破壊検査-要員の資格と認定)の改正に伴い,非破壊試験の認証範囲に漏れ試験が追加された。この流れを受け国内では漏れ試験技術者の資格・認証制度として2012 年秋からNDIS 0605に基づきレベル1 の認証が,2013 年春にレベル2 の認証が開始された。さらにJIS Z 2305(非破壊試験技術者の資格及び認証)がISO 9712:2005 に準拠する形で2013 年に改正され漏れ試験が追加されたことから,2019 年にJIS Z 2305 に基づく資格・認証制度へ移行し,同時にレベル3 の認証も開始された。2024 年現在では資格取得後10 年経過した対象者への再認証試験も始まり,レベル1 から3 までの資格取得者および取得希望者に対して,講習会や技量認定試験をJSNDI において開催している。この10 年超の活動の結果,LT1,LT2,LT3 の合計の登録者は600 名以上に達している。最新のシラバス(ISO/TS25107:2019)およびISO 9712:2021 が発行されたことから,これに対応した技量認定のテキストについて改訂作業を実施中である。将来的には技量認定試験も最新シラバス対応とすることで,国内で実施される漏れ試験の技量や,製品の国際競争力の向上に役立ちたいと考えている。

技量認定の実技試験では圧力法として発泡漏れ法と圧力変化法,トレーサガス法としてヘリウムガスによる漏れ試験と,合計3 種類の漏れ試験が行われている。今回の特集は,その中で発泡漏れ試験およびその周辺技術の最新動向にスポットを当てた。まずは最近の発泡漏れ試験の動向について,津村俊二氏(元(株)タセト)らに解説いただいた。また,発泡漏れ試験で必要となる発泡液の性質について,古澤 敬氏(栄進化学(株))に解説いただいた。その他,泡を目視する以外の方法での漏れ検知としては液体漏れなどが挙げられる。高橋信好氏(栄進化学(株))らには,視覚を活かした漏れ試験と題して,発泡以外の周辺技術の最新動向について解説いただいた。視覚を活かすためには,照明が欠かせない。最近はLED 照明への切替えも進んでいる。そこで神門賢二氏((国研)産業技術総合研究所)に,非破壊検査における照明の重要性について解説をお願いした。最後に,漏れの検知を視覚的に行うアンモニア試験の動向について,落合哲也氏((株)イチネンケミカルズ)に解説いただいた。

本特集号により,漏れ試験方法の中では複雑な検出機材を使わず比較的身近な存在である発泡漏れ試験とその周辺技術について認知が広がり,本技術を必要としている方々に役立つことを願っている。最後に,御多忙の中,本特集号への執筆を承諾いただいた皆様に,心より感謝を申し上げ,巻頭言とする。

 

解説

発泡漏れ,およびその周辺技術の試験の最新動向

最近の発泡漏れ試験の動向

(株)タセト 山村 亮平  元(株)タセト 津村 俊二

Recent Trends of Bubble Testing
TASETO Co., Ltd. Ryohei YAMAMURA
Former Employee of TASETO Co., Ltd Shunji TSUMURA

キーワード: 発泡漏れ試験,JIS Z 2329:2019,高温,低温,泡沫塗布法,プラスチック,ケミカルクラック

 

はじめに
 発泡漏れ試験は,試験体表面を加圧または減圧し,移動する気体を液体を関与させて発泡現象として観察し,漏れを検出する方法で,産業界に広く昔から普及している漏れ検査法である。この方法は,差圧を発生する装置があれば,高価な検出機器などが不要であり,作業も比較的簡便であるが,漏れを直接目視で実感できる特徴を有している。今回,最近の発泡漏れ試験の動向としては,
 ①JIS Z 2329:2019 改正版について
 ②低温及び高温域での発泡漏れ試験について
 ③プラスチックのケミカル割れ対策について
 ④泡沫塗布による漏れ試験法について
 ⑤浸漬法用のフロン系溶剤について
をテーマとして取り上げ,解説する。

 

発泡液の性質について

栄進化学(株) 古澤  敬

Properties of Bubble Foaming Agent
Eishin Kagaku Co., Ltd Takashi FURUSAWA

キーワード: 漏れ試験,発泡,発泡液塗布法,界面活性剤,接触角

 

はじめに
 発泡液とは,非破壊試験 発泡漏れ試験に使用する溶液である。密閉性の必要な製品,例えばタンクやボイラ溶接部,配管溶接部などに,広く使用されるものである。

本稿では,発泡液の成分,性状,泡の静/動的性質,発泡性能など,幅広く発泡液について解説をする。

 

視覚を活かした漏れ試験

栄進化学(株) 髙橋 信好  古澤  敬

Leak Testing with Visual Sensation
Eishin Kagaku Co., Ltd Nobuyoshi TAKAHASHI and Takashi FURUSAWA

キーワード: 漏れ試験,蛍光染料,現像剤,浸透探傷試験,アンモニア

 

はじめに
 漏れ試験は,非破壊試験の一種でモノ(試験対象物)を破壊せずに欠陥の存在を調べる方法であり,手法・原理・ガスの種類・検出精度・検出感度に応じて様々な方法が存在する。試験方法を大別すると,検査面の一方を加圧または真空にし,試験体の検査面とその反対側との差圧によって生じる圧力変化に基づいた気体の漏れを圧力計を用いて測定して,検知する圧力変化法,特定のサーチガス(ヘリウム,ハロゲンガス,水素)を専用の検出装置(リークディテクタ)を用いて検出する漏れ試験があるが,これらの手法は対象とする漏れをデータ解析し,定量的に確認することができるものである。

一方で,試験体の検査面とその反対側との差圧によって生じる気体の漏れを,検査面に塗布した発泡液の泡の形成にて観察し漏れ箇所を検知する漏れ試験や,気体や液体の漏れを視認性の良い指示模様として拡大/発色表示させ目視観察で検知する方法は,視覚を利用した漏れ試験と呼ぶことができる。

これらの視覚を利用した漏れ試験は漏れ量を定量的に計ることはできないが,漏れ位置の特定ができること,特別な検出装置が不要であること,操作が非常に簡単であること,その適用範囲の広さから,多岐な産業分野で日常的に広く使用されている。本稿では,この視覚を利用した漏れ試験について,原理特徴,工業的利用などについて解説をする。

 

非破壊検査における照明の重要性

(国研)産業技術総合研究所 神門 賢二

Importance of Lighting in Non-destructive Inspection
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) Kenji GODO

キーワード: 照度,照度計,放射照度,紫外線,紫外線放射照度計,UV-LED

 

はじめに
 非破壊検査において,照明は一見関係ないように思われるが,探傷試験や蛍光リーク試験など,人間の視覚を利用した試験では,照明条件(光の照射量)が国内外の試験規格で明確に規定されている1)。これは,照明条件によって, その判定結果が大きく変わるためである。その代表的な試験として,蛍光浸透探傷試験がある。蛍光浸透探傷試験とは,蛍光物質が添加された浸透液を使用し,暗所で試験面に紫外線を照射してきずを観察する非破壊検査方法である。観察のためにブラックライトと暗室が必要であり,使用するブラックライトの放射照度値および観察時の照明の照度値(暗室度合い)が定められている。表1 が,各規格で規定されている試験時の観察条件(紫外線放射照度値と照度値)である2)-4)。JIS Z 2323 はISO 3059 に基づき作成された規格であるため,その技術的な数値に変更はない。各規格には,余剰浸透液の除去確認時の照度値や測定距離など,詳細に観察条件が規定されているので,詳しくは参考文献で確認していただきたい。

観察条件の要求事項に定められている放射照度や照度は,測光・放射量の単位の一つである。測光・放射量は,測定条件・幾何条件などで,使用する単位が変わる非常に複雑な測定量である。さらに,近年のLED 照明の普及により,白熱電球・蛍光ランプの置き換えが進んでおり,探傷試験で使用されていたブラックライトも蛍光管タイプから紫外LED(UV-LED)タイプへの置き換えが進んでいる。この使用光源の置き換えにより,今まで使用されてきた紫外線放射照度計による測定値に大きな誤差が生じる可能性があることが問題になっている5)。使用方法・使用した機器によっては,数倍以上, 放射照度値を誤って評価する可能性がある。各測定機器の特性を十分理解した上で測定することが重要である。

本稿では,探傷試験等において重要な量である照度と放射照度の定義について説明を行う。そして,それらの量を測定する照度計と紫外線放射照度計の仕組みを概説し,各量を測定する上での注意点の説明を行う。

 

アンモニア漏れ試験について

(株)イチネンケミカルズ 落合 哲也

Test Method for Leaks Using Ammonia Gas
Ichinen chemicals Co.,Ltd. Tetsuya OCHIAI

キーワード: JIS Z 2333,アンモニア,漏れ試験,微少漏れ,タンク

 

はじめに
 アンモニア漏れ試験の方法は,トレーサガスとしてアンモニアを用いた微少漏れを検査する方法として,1960 年頃から盛んに研究が行われ,低い圧力で高い漏れ検出感度の検査剤が開発され,1970 年代からLNG 用のメンブレン式の地下式貯槽設備の溶接部やLNG 船に利用されてきた1)。その後,1993 年にJIS Z 2333 が制定され,2005 年に改正されている。現在,日本国内においては,LNG 船製造の減少もあり,アンモニア漏れ試験の需要は少ない。一方,海外,特に中国や韓国においての検査は継続し行われている。しかし,近年,地球温暖化を背景に国連気候変動枠組条約(COP)にてCO2 の削減目標が示され,日本国内外の事業において,2050 年時点での排出するCO2 を実質ゼロにする目標を掲げている。2021年1 月15 日資源エネルギー庁提示の「アンモニアが燃料になる?!」(前編)2)において,アンモニアが次世代エネルギーである水素の「キャリア」輸送媒体として,輸送技術の確立しているアンモニアの形に変換して輸送し,利用する場所で水素に戻す手法の研究が行われている。また,燃料としての利用も検討されており,その中で石炭火力発電においては,2030 年には石炭とアンモニアの混焼率を20%とし,2040 ~2050 年にはアンモニアの混焼率50%や専焼化を目指すとあり,水素やアンモニアを貯蔵する大型タンクが必要となると予想される。今後の需要量の試算を表1 に示す。

本稿では,アンモニアをトレーサガスとして使用する視覚を利用した漏れ検査3)について説明する。

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