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機関誌

2024年12月号バックナンバー

2025年11月5日更新

巻頭言

「師弟鼎談で綴る「非破壊検査学」の系譜」特集号刊行にあたって

塚田 和彦

当協会における学術活動を支えて下さっているのは,大学や公的な研究機関と企業に所属されている研究者の方々です。ところで,その方々は,なぜ非破壊検査について研究されているのでしょうか? 企業の方は,実際的な必要性にもとづいて,より良い検査法を求めて仕事として研究をしておられるわけですが,たとえば大学に所属しておられる研究者の方々は,なぜ自己の研究対象として非破壊検査を選択されたのでしょうか? 自ら選択し分野を開拓してこられた先人たちには敬意を払うばかりですが,ただ大学のときの先生が非破壊検査の研究をしていたから,という方も意外に多いのではないかと思います。

大学における研究は,先生と学生との協同によって成り立っています。研究の対象は時代とともに少しずつは変化するでしょうが,そのような先生と学生のつながりが,学生が成長して次の指導者となっていくことで世代を超えてつながり,枝分かれしながら大きな研究グループへと成長していくのでしょう。当協会にも,創立以来70 年,およそ3,4 世代にわたった,いわゆる師弟としての有機的なつながりがいくつかあって,それらが主脈となって,非破壊検査に関する研究の方向性を定め,発展させていく力となっているのです。

本特集では,協会の学術活動においてご活躍いただいている方々の中から,そのような師弟としてのつながりをもつ4 組の研究者の方々にお集まりいただき,肩の力を抜いて語らい合っていただきました。残念ながらご都合がつかなかった先生もおられますが,それぞれの鼎談で師にあたる方は,廣瀬壮一先生,川嶋紘一郎先生,宮 健三先生,久保司郎先生で,取りまとめ役は,中畑和之先生,林 高弘先生,橋本光男先生,阪上隆英先生にお願いしました。それぞれの専門分野ごと,まさしく師弟であった時代の思い出から,どのように方向を見定めて研究を進めてこられたか,さらに,それぞれの分野における研究の将来像まで,気軽にお話しいただきました。ある人が始めた知的営みの面白さが,共感とともに師から弟子へ伝播し,世代を超えた研究への情熱として受け継がれていく,それはまさに研究するDNA と呼べるかもしれません。

今回お集まりいただいた研究者の方々は,我が国における非破壊検査研究の歴史でみれば,新しい方の世代にあたります。それらの方々へとつながる系譜をたどるためには,協会の創立にかかわった初期の世代の方々から始めなければなりません。そこで,その第1 から第2 世代ぐらいまでの系譜と背景となった時代の様相などについて,「非破壊検査学の始まりとその展開」と題する拙稿を書かせていただきました。かなり長い原稿となってしまいましたので,2 回に分けて,本特集号には(その1)のみを掲載させていただきます。

最後に,この特集企画にご賛同いただき,鼎談にご参加いただいた先生方,とくに,弟子にあたる先生方には,現役の大学人として,昔とは比べようもないほどの忙しさの中を,時間を割いていただきましたこと,本当に感謝申し上げます。見渡せば,協会の学術活動でご活躍の研究者の方々には,他にも師弟としてのつながりはたくさんあります。それらの方々にお声がけできなかったことは,ひとえに編集者たる私の責めとして,ここにお詫び申し上げるとともに,またの機会にということでお許し願う次第です。

 

連載

師弟鼎談で綴る「非破壊検査学」の系譜

非破壊検査学の始まりとその展開(その1)

副会長・学術委員長 塚田 和彦

The Beginning and Development of Academic Research on Non-destructive Testing(Part 1)
Vice President, Chairman of Academic Affairs Committee Kazuhiko TSUKADA

キーワード: 非破壊検査学,大学,研究機関

 

はじめに
 協会の前身たる非破壊検査法研究会が設立されたのは1952(昭和27)年のことである。太平洋戦争終結の後,戦後復興という,ある意味で戦前よりも肯定的な国家総動員的機運のもと,あらゆる工業分野において,その再構築と拡大が,今では信じられないほどのスピードで進んでいった。そうした中で,非破壊検査を確固たる技術として整備すべきことに強い思いをもった研究者や技術者がこの研究会に集い,3 年後の1955 年に非破壊検査協会を創設するのである。非破壊検査の学と業が未分化・未成熟であったこの時期から,当協会では,非破壊検査の様々な手法に関する学術研究の重要性を認識し,それ以降70 年以上にわたって,学術研究を推進する場としての機能を,協会として今日まで維持してきたのである。

創成期に協会の学術活動を支えた研究者は,そのほとんどが戦争の時代には否応なしに軍事に関係する技術に関わっていたのであり,少なくとも研究を行う場もそれを教える場も,国家としての意図をもって整備・増設された大学や専門学校,研究機関であった。戦中の時期に,多くの高等教育機関や官立の研究機関が新設されるが,実は,そのほとんどが,時代の要請に従った変貌は余儀なくされてきたものの,今でも存続しているのである。たとえば,我が国の大学のほぼ全てが,明治から終戦までの時期に設立された高等教育機関にそのルーツを持ち,1949(昭和24)年の学制改革によって新制の大学となったものである。今や,ほとんどの大学があらゆる学部を持つ総合大学になってしまったが,往時は,帝国大学を除く全ての大学は単科であって,それぞれが産業界において育成すべき人材を明確に見定めた特徴ある高等教育機関だったのである。

非破壊検査に関する学術研究は,そういった背景を持つ大学や研究機関で,今日までほぼ3 ~ 4 世代にわたって続けられてきた。非破壊検査学を創始した研究者の中には,一つの機関に留まり,生涯にわたって数多くの研究者や技術者を世に送り出してきた人たちもいる。また,いくつもの教育・研究機関を渡り歩いて,それぞれの機関において非破壊検査に関する研究を立ち上げ,それを先導し広めてきた人たちも多く存在する。

ここでは,そういった非破壊検査学の始まりとその展開に大きく貢献した,いわゆる第1 から第2 世代にあたる研究者たちの足跡を辿ることとしたい。時代区分としては,明治・大正・昭和までとし,対象は大学や研究機関に所属した研究者に限ることとする。当協会で要職を務め,その発展に寄与された方々を取り上げた(文中では敬称を略させていただき,下線で示した)が,足跡を辿ると言っても粗いものであって,書き漏らしている事績や不正確な記述も多いのではないかと危惧している。また,産業界への広がり,すなわち民間へと非破壊検査を広め,根付かせることに貢献された方々については全く触れられなかった。これらことについては,予めお詫びし,ご容赦願う次第である。

 

対談

師弟鼎談Ⅰ − 非線形超音波と非破壊検査−

川嶋紘一郎  林  高弘  小原 良和

Nonlinear Ultrasonic Imaging and Applications for NDT
Koichiro KAWASHIMA, Takahiro HAYASHI and Yoshikazu OHARA

 本鼎談は,名古屋工業大学を 2004 年 3 月に退職された川嶋紘一郎先生と,2000 年に招きに応じて先生のもとで助手を務められた大阪大学の林高弘教授,その当時,先生の研究室の学生であった東北大学の小原良和教授の3 人によって,2024 年 9 月 5 日にオンラインで行われたものです。これらの方々は,非破壊検査分野における非線形超音波の研究を,その黎明期から今日に至るまで牽引しつづけておられます。鼎談では,川嶋先生が非線形超音波の研究を始められた経緯から,退職後にご自身が立ち上げられた研究所で取り組まれた数々の欠陥可視化事例なども紹介されています。協会は先生からのご寄付をもとに若手研究者を奨励する「川嶋賞」を創設し,今年度から選考を始めたところです。話は,その賞への先生の思いとともに協会の将来に対する提言にまで及んでおります。

 

師弟鼎談Ⅱ − 土木分野における定量的非破壊評価(QNDE)研究−

廣瀬 壮一  中畑 和之  斎藤 隆泰

Quantitative Non-Destructive Evaluation(QNDE)Research in Civil Engineering Field
Sohichi HIROSE, Kazuyuki NAKAHATA and Takahiro SAITOH

 本鼎談は,東京工業大学を2023 年3 月に退職された廣瀬壮一先生と,その門弟にあたる愛媛大学の中畑和之教授と群馬大学の斎藤隆泰准教授とによって行われたものです。廣瀬先生は,第60 〜62 期の会長として協会に多大なる貢献をなされた方で,ご自身の専門分野においては,超音波検査のシミュレーションや逆解析など,数値計算をベースとする切り口で定量的非破壊評価(Quantitative Non-Destructive Evaluation:QNDE)を牽引してこられた方です。鼎談は,2024 年9 月20 日に,日本非破壊検査協会の亀戸センターで行われ,話は,廣瀬先生の研究の変遷から,土木における非破壊評価,さらにはNDE 4.0 まで及んでおります。

 

師弟鼎談Ⅲ − 宮健三先生の教えを受け継いで:非破壊検査と原子力工学のグローバルな視点−

高木 敏行  橋本 光男  内一 哲哉  遊佐 訓孝

Legacy of Professor Kenzo Miya: A Global Perspective on Non-destructive Testing and Nuclear Engineering
Toshiyuki TAKAGI, Mitsuo HASHIMOTO, Tetsuya UCHIMOTO and Noritaka YUSA

 本鼎談は,ともに東京大学の宮健三先生のもとで研究者となられた,東北大学名誉教授の高木敏行先生,職業能力開発総合大学校名誉教授の橋本光男先生,東北大学の内一哲哉教授,遊佐訓孝教授の4 名で,2024 年10 月3 日に東北大学流体科学研究所で行われたものです。なお,高木先生はセンター長を務めておられる日本学術振興会ストラスブール研究連絡センターの現地からオンラインでのご参加でした。4 名の先生方の師である宮健三先生は,原子力工学の分野で大変有名な方で,日本AEM 学会や日本保全学会を創設されるなど,応用電磁工学や保全工学の分野を牽引してこられた方です。ご多用につき鼎談にはご参加いただけませんでしたが,4 人の先生方の話から,その人となりや精力的な活動ぶりは窺い知ることができます。宮先生は,国際研究交流も強く推進され国際シンポジウムもいくつも設立されています。その一つである電磁非破壊評価国際ワークショップ(ENDE)も,この先生方が中心となって運営されていますが,話の最後には,原子力工学分野における非破壊検査のこれからについても語っていただいております。

 

師弟鼎談Ⅳ − 逆問題と非破壊検査−

久保 司郎  阪上 隆英  塩澤 大輝  田邉 裕貴

Inverse Problems and Non-destructive Testing
Shiro KUBO, Takahide SAKAGAMI, Daiki SHIOZAWA and Hirotaka TANABE

 本鼎談は,日本機械学会の第92 期会長を務められた大阪大学名誉教授の久保司郎先生と,久保先生の下で研究者となられた当協会前会長の阪上隆英神戸大学教授,塩澤大輝神戸大学准教授,田邉裕貴滋賀県立大学教授の4 名の先生方で,2024 年10 月11 日に行われたものです。久保先生は,材料力学分野における逆問題の研究では知らない者がなく,また阪上先生は,当協会の新たな学術部門として赤外線サーモグラフィー分野を切り開いてこられました。鼎談では,それぞれの先生が,研究者への道を歩み始められた経緯から,非破壊検査における逆問題研究の面白さなどについて,楽しく語りあっていただいております。後半では,本特集号に相応しく,非破壊検査の「学」としてのアイデンティティをいかに確立していくかについての提言をいただいております。

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