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<<2022>>

機関誌

2025年2月号バックナンバー

2025年11月18日更新

巻頭言

「現場における超音波検査の実際 −従来技術から最新テクノロジーの導入状況まで−」特集号刊行にあたって

中畑 和之

今回の特集号を企画するにあたり,過去20 年間の超音波検査(UT)に関連する特集号を総覧してみました。2003 年から2024 年までの特集号のテーマをテキストマイニングすると,「非接触」,「非線形」,「シミュレーション」,「フェーズドアレイ」,「レーザ」,「最新」,「技術」といったワードが抽出されました。機関誌は,その時代の動向をフィーチャーするのは当然ですが,上記のワードが表すものは当時の“研究”の最新動向ばかりです。最近では,NDE 4.0 といったDigital Transformation(DX)を象徴するスローガンが非破壊検査業界に浸透して来つつあります。しかし,実際にそれは“現場”で導入されつつあるのでしょうか。超音波部門主査として,また,先進センシング技術とデータ処理に関する萌芽研究会(2022 年~ 2023 年)の主査として,私がNDE 4.0 の啓発をする中で見えてきたものは,研究と現場との隔たりです。過去にフィーチャーされた研究トピックは現在の実務に導入されているのか,アカデミアに所属する私としては,それも気になるところです。もちろん,すべての研究が実用化されるわけではありません。研究室での実験的検証やシミュレーションで一定の知見が得られても,それが現場の条件に合致しているとは限りません。特に,対象物の複雑な形状や材質,使用環境や年月などといった現場での不確定要素が絡むと,理論と実用との間にギャップが生まれることはよく知られています。このような実用上の課題に対しては,現場での適応力や創意工夫によって解決されていたりします。

本特集号では,UT が導入されている様々な分野において,UT の現状や適用事例について紹介します。各分野の実際を知ることを通じて,研究者と実務者の双方で問題意識を共有し,相互理解が進むことを期待しています。当然,分野によって技術の導入状況が異なるでしょう。生産ライン等で検査対象が常に同じ場合と,社会インフラのように検査する対象が一つ一つ異なる場合とではアプローチや目指す目標も異なります。しかし,他分野の動向を知ることによって自身の分野に技術を導入したり,またその逆もあったり,実務者同士の情報交換を図ることも本協会の役割としては重要だと考えます。本特集号が,そのための一助となり,日本のUT の発展と高度化に向けた議論のきっかけとなることを願っています。

ここでは,大きく分けて,鉄鋼生産分野,鉄道分野,社会インフラ分野,発電プラント分野から,現場におけるUT の実際について解説を頂きました。汎用技術だけでなく,最新テクノロジーの導入状況や分野独自の工夫やアイデアについても述べられています。鉄鋼分野では,JFE スチール(株)の松井氏と飯塚氏から鉄鋼製品の品質保証と製造プロセスの管理の双方で利用するUT について,大同特殊鋼(株)の森氏と森永氏からは特殊鋼製品特有の非破壊評価技術について寄稿頂きました。鉄道分野からは,(公財)鉄道総合技術研究所の牧野氏より鉄道車両における超音波アレイ探傷の事例について紹介頂きました。建設分野からは,(一財)首都高速道路技術センターの土橋氏と平山氏よりアクセス困難箇所の探傷のためにフェーズドアレイ装置を改良して導入した事例について,(株)エビデントの山本氏からは鉄骨溶接部検査におけるフェーズドアレイ装置の導入に向けた検討例が紹介されています。また,発電プラント分野からは,三菱重工業(株)の林氏によりフェーズドアレイUT とTOFD法を融合した趣向を凝らした現場の取り組みを解説頂きました。ご多忙の中,本特集号への執筆をご快諾頂いた上記の方々に,心より感謝を申し上げます。

 

解説

現場における超音波検査の実際 −従来技術から最新テクノロジーの導入状況まで−

製鉄所における超音波NDT・NDE の事例紹介

JFE スチール(株) 松井  穣  飯塚 幸理

Latest Examples of Ultrasonic NDT/NDE in Steelworks
JFE Steel corporation Yutaka MATSUI and Yukinori IIZUKA

キーワード: 鉄鋼,超音波探傷,超音波計測,鋼管,厚板,鋳造

 

はじめに
 鉄鋼製品は現代社会の基盤を支える重要な役割を果たしている。鉄鋼製品は,その強度,耐久性,加工のしやすさから,高強度かつ耐久性ある建物や橋梁,輸送機器(自動車や船舶,鉄道車両)の製造,パイプラインをはじめとするエネルギー供給インフラなど今の私たちの生活に関係するあらゆる産業分野で使われている。

図1 に鉄鋼製品の代表的な製造プロセスを示す。高炉法は高熱をかけて溶解と還元が同時に進むことからエネルギー効率が高く,1 基で1 日1 万トンの溶銑を大量に生産できる。また不純物が少なく高級鋼の製造が可能である。高炉に投入された鉄鉱石は高温で溶かされながら還元されて銑鉄が生成される。銑鉄は転炉プロセスで,酸素を吹き込むことで不純物が除去される。また,所望の特性を得る為に,このプロセスで炭素含有量など含有成分が調整される。そして,次に連続鋳造プロセスで,徐々に冷却されながら固められて,スラブ,ビレット,ブルームと呼ばれる半製品に成形される。半製品は圧延機で圧延されて,鉄鋼製品ごとに必要な熱処理や加工が施されて最終製品となる。

鋼製品の製造過程で,表面や内部に欠陥が生じることがある。もし,欠陥があると製品の機械的な特性が悪化してしまう。そこで,鉄鋼製品の製造プロセスにおいて,半製品ならびに製品について顧客に対しての品質保証(Quality Assurance:QA)と製造プロセスの品質管理(Quality Control:QC)を目的として様々な手法を用いた検査やプロセス計測が行われている。

超音波は鉄鋼製品の内部品質や表面検査,溶接鋼管溶接部の検査に用いられている1)。近代以降の製鉄プロセスは大規模な生産能力2)を有しており,大量生産される鉄鋼製品を能率高く超音波検査する為に自動検査装置が積極的に導入された3)。超音波探傷は,自動検査装置で検査されて欠陥指示がなければ合格と判定される。もし,欠陥指示があった場合は,人手による超音波探傷で欠陥指示部を再検査し,改めて欠陥の有無を判定する。このように2 段構えで判定するのは,①自動検査装置で超音波探傷した場合,外乱による疑似エコー(表面エコーの漏れ込みや溶接形状に起因するエコーなど)が欠陥指示となることがあるので,再度欠陥指示を確認する,②欠陥の位置や範囲を詳細に調べてQC に役立てる,為である。製品ごとに自動検査装置は様々な改善がなされ,その検査性能は今に至るまでに大きく進化してきた4)−6)。

また,“探傷”だけでなく,超音波を用いて鉄鋼製品の様々な特性の品質管理に役立てる取り組みも行われてきた。例えば,方向性珪素鋼板の結晶方位不良を検出する技術7)やレーザ超音波法で熱延プロセス中の鋼板の結晶粒径を評価する技術8)なども開発されて実用化されている。

このように,鉄鋼製品を製造する製鉄所ではQA とQC の両面で超音波を用いた技術が導入されて活用されてきており,今もなお新しい技術の開発とその実用化が進められている。そこで,本稿では,製鉄所における最新の超音波を用いた探傷技術と計測技術を紹介する。

 

特殊鋼製品の超音波探傷技術

大同特殊鋼(株) 森  大輔  森永  武

Ultrasonic Inspection Technique for Special Steel
Daido Steel Co., Ltd. Daisuke MORI and Takeru MORINAGA

キーワード: 鉄鋼,特殊鋼,粒界散乱,フェーズドアレイ,材料評価

 

はじめに
 特殊鋼製品は,図1 のように溶解,鋳造,各種圧延工程を経て,大型の角や丸形状から,平鋼,棒鋼,線材,帯鋼製品などが生産される。この特殊鋼は,鉄に炭素以外の元素を添加し,強度,耐食性,耐摩耗性などの機械特性を向上させることで,自動車,産業機械,発電機などの各種産業分野において過酷な環境下で使用される。そのため使用用途に応じて厳密な特殊鋼製品の内質保証が求められている。

特殊鋼製品の内質を保証する手法の一つに超音波探傷による非破壊検査があげられる。これにより,鋼材を破壊することなく,そのままの形状,性状で表面欠陥や内部欠陥(介在物,内部割れ,ブローホールなど)の有無,存在位置,大きさ,形状などを検出できる。しかしながら,特殊鋼製品には,鉄に音響インピーダンスが異なるさまざまな元素を添加しているため,超音波が伝搬する際の阻害要因となる1)-4)。

本稿では,特殊鋼製品(以下,鋼材)における超音波探傷技術として以下について解説する。
① 特殊鋼向けの超音波探傷概要
② 粗大結晶粒を有する砂型鋳造品(マンガンクロッシング)の探傷技術
③ 生体材料向けチタン合金丸棒鋼のフェーズドアレイ探傷装置の開発事例
④ 高周波プローブを用いた軸受鋼の清浄度評価技術
⑤ 粒界散乱を用いた材料組織の均一性評価技術

 

鉄道車両における超音波探傷の実際と最近の動向

(公財)鉄道総合技術研究所 牧野 一成

Current Status and Recent Trends of Ultrasonic Inspection for Railway Vehicles
Railway Technical Research Institute Kazunari MAKINO

キーワード: 鉄道車両,超音波探傷,車軸,台車枠,フェーズドアレイ

 

はじめに
 鉄道車両は図1 に示すように車体と台車に大きく分けられ,さらに台車は台車枠や輪軸(車輪と車軸)などの部品から構成されている。日本の新幹線および在来線の鉄道車両では,期間あるいは走行距離に応じて数種類のレベルの定期検査が行われているが,車軸や台車枠などの車両部品に対して超音波探傷や磁粉探傷といった非破壊検査が適用されている1)。

本稿では,鉄道車両の車軸に適用されている超音波探傷の現状を述べるとともに,車軸や台車枠に適用されつつあるフェーズドアレイ超音波探傷法(以下,PAUT)について解説する。また,その他の車両部品における超音波探傷の技術や適用事例について,最近の文献を参照しながら紹介する。

 

フェーズドアレイ超音波探傷法による溶接部検査の検討

(株)エビデント 山本優一郎

Examination of Phased Array Ultrasonic Testing for Weld Inspection
EVIDENT Corporation Yuichiro YAMAMOTO

キーワード: フェーズドアレイ探傷法,超音波,内部画像化,鋼構造物建築溶接,効率化

 

はじめに
 少子高齢化や働き方改革にともなう人手不足は鉄骨製作工場においても大きな課題であり,作業の効率化および省力化が求められている。また,鉄骨溶接部の非破壊検査を行う超音波探傷検査技術者は,探傷技量だけではなく建築鉄骨に関する知識や経験が求められるが,本技術者も同様の課題を抱えている。それら課題を踏まえ,鉄骨製作工場における超音波探傷検査技術者の負担軽減と探傷の効率化を図ることを目的に,フェーズドアレイ超音波探傷法を用いた社内検査方法について検討を行った。建築鉄骨溶接部は超音波探傷器を用いた検査法(以下,UT)で行われ,その合否判定規準は通常,日本建築学会「鋼構造建築溶接部の超音波探傷検査規準・同解説」:2018(以下,UT 規準)による。フェーズドアレイ超音波探傷法(以下,PAUT)では一つの探触子に振動素子が複数あり,それぞれの振動素子から送信する超音波のタイミングを制御することで,各超音波ビームの特性(屈折角度・焦点位置など)を連続的に変化させることが可能である。また,装置内部で受信した超音波を合成処理することで,検査対象物の内部画像化を可能とすることから,PAUT は探傷条件設定の柔軟性や探傷能力を高めることが可能な技術とされている。本稿では,人工欠陥を挿入した試験体を製作し,UT と同様の評価が可能なPAUT の探傷条件についての検討を行い,検討の結果得られた条件で自然欠陥入り試験体をUT およびPAUT で探傷した結果についての報告を行う。なお,本稿は東京鉄構工業協同組合/埼玉県鉄構業協同組合/CIW 検査業協会/ゼネコン/エビデントらにより共同で検討が行われ,2024 年度日本建築学会大会にて報告した資料1),2)を基に作成を行っている。

 

火力発電プラントの検査信頼性向上・定検工期短縮に貢献する超音波探傷技術

三菱重工業(株) 林  恭平

Ultrasonic Testing Technology Contributes to Improvement of Inspection Reliability and Shortening of Work Duration in Thermal Power Plants
Mitsubishi Heavy Industries, Ltd Kyohei HAYASHI

キーワード: 火力発電プラント,ボイラ設備,超音波探傷,フェーズドアレイ,FMC/TFM,アダプティブ UT,TOFD

 

はじめに
 日本国における火力発電は,足下で電源構成の約7 割を占めており,電力需要を満たす供給力,再エネの出力変動を補う調整力,また系統の安定性を保つ慣性力として重要な役割を担っている1)。その上,今後はデータセンターや半導体工場の新増設等によって電力需要が増加する見込みであり2),需要に対応できる安定的な電力供給力の確保が必要とされている。他方近年では,エナジートランジション・カーボンニュートラルの観点から,火力発電設備の効率化・脱炭素化(ゼロエミ化)が求められている。経済産業省/資源エネルギー庁の“今後の火力政策について(2024 年5 月)”には,石炭火力設備における今後の対応方針として,電力の安定供給の確保を大前提としつつ,2030 年までに現設備の高効率化・脱炭素化等の取り組みが拡大する見込みが示されている1)。これに対し各社では脱炭素化に向けたトランジション・ロードマップ等を掲げ,既存の設備の高付加価値化を推進している3)。このような状況の中,脱炭素化の改造等を行いながら既存設備を安定的かつ効率的に運用していく必要があり,そのためには設備の損傷形態を十分に考慮した検査と,適切なタイミングでの設備更新といった,各種改造工事・定期検査工事(以下,定検)の重要度は高い。近年では電力需要に応じた火力発電設備の負荷追従運転の増加に伴い1),4)運用条件が厳しくなっており,これらに起因した損傷等の監視と対策も必要である。

定検工期中はプラント設備を一定期間停止して検査や設備更新の工事を実施する。設備の長期停止は運用収益に影響を及ぼすだけでなく,電力供給の観点でも社会への影響が大きい。工期が長期化するほど影響が拡大し得ることから,可能な限り工期を短縮して設備の電力供給力を確保することが必要である。ただし,プラント設備は多種多様な配管・部品で構成されているため,改造・検査が必要とされる部位,並びにプロセスは多岐にわたる。定検工期中の限られた時間の中で,一部は損傷箇所を取り替え,一部は脱炭素化等に向けた改造を行い,一部は設備の余寿命を診断して経年監視する,といった様々な処置が必要とされる。それらを適切に意思決定する上では,設備の状態を正確かつ迅速に評価する必要があり,超音波探傷を始めとした非破壊検査技術は非常に重要な役割を担っている。

このような背景から,高い信頼性を有する検査技術と,定検工期短縮に繋がる検査技術の両軸で開発と実用化が進められてきた。本稿では,火力発電プラントの現場における超音波検査の実際という観点から,これら技術の開発・実用化事例を紹介する。

 

都市内高速道路における超音波探傷の現状と新技術

(一財)首都高速道路技術センター 土橋  浩  平山 繁幸

Current Status and New Technology of Ultrasonic Testing on Urban Expressways
Shutoko Technology Center Hiroshi DOBASHI and Shigeyuki HIRAYAMA

キーワード: 鋼構造,橋梁,疲労破壊,超音波探傷試験,フェーズドアレイ探触子

 

はじめに
 都市内高速道路では,地盤や架橋条件などの制約から,鋼床版が多く採用されてきた。鋼床版とは,車両を直接支持するデッキプレートとデッキプレートを補剛するために取り付けられた縦リブおよび横リブで構成される構造である(図1)。縦リブには,U リブと呼ばれる閉断面タイプのリブとバルブリブと呼ばれる開断面リブのものがある。鋼床版は薄い鋼板を溶接で組み立てた構造であり,その上を車両が走行することによって溶接部に高い応力が発生するため,大型車交通量の多い路線では疲労き裂の発生が問題となっている。U リブを有する鋼床版では,デッキプレートとU リブの溶接部から発生するデッキ進展き裂とビード進展き裂が問題となっている(図2)。特に,デッキ進展き裂は,デッキプレートを貫通し,進展すると路面が陥没して車両事故が生じるおそれがある。これらのき裂は,Uリブの内面から発生・進展するため,定期点検時の近接目視で発見することは困難である。見えないき裂を検出する方法としては,各種の方法がある中で超音波探傷試験が有効である。

本稿では,都市内高速道路である首都高速道路での取り組みとして,デッキ進展き裂を検出するために現在適用されている半自動超音波探傷装置(Semi-Automatic Ultrasonic Testing:鋼床版SAUT)と,デッキ進展き裂とビード進展き裂の両方を検出するために新たに開発した開口合成フェーズドアレイ探傷法(以下,鋼床版MatrixeyeTM)について紹介する。

 

論文

平面波を用いる位相コヒーレンスイメージングへの開口角固定の導入効果

福冨 広幸,長谷川英之

Effects of Introducing Fixed Aperture Angles into Phase Coherence Imaging Using Plane Waves
Hiroyuki FUKUTOMI and Hideyuki HASEGAWA

 

Abstract
In ultrasound diagnosis in the medical field, various Phase Coherence Imaging (PCI) approaches have been proposed based on the synthetic aperture focusing technique, which can suppress noise and improve spatial resolution by a factor based on the coherence of the delay-corrected received waveform. In ultrasonic testing, the application of PCI to full matrix capture with the total focusing method and Plane Wave Imaging (PWI) is becoming popular in Europe and the United States. This paper discusses the effect of introducing a fixed aperture angle to correct the differences in the coherence factor, the phase coherence factor, and the sign coherence factor due to the propagation distance of the reflected wave in PCI using weighting factors for PWI images.

Key Words: Synthetic aperture focusing technique, Plane wave, Phase Coherence Imaging, Weighting factor, Fixed aperture angle

 

緒言
 医療分野の超音波診断1)において,開口合成法を発展させた位相コヒーレンスイメージング(Phase Coherence Imaging:PCI)が考案され2),研究開発が行われてきている。PCI では遅延補正した受信信号の可干渉性に基づく係数を用いることによって,大幅にノイズが抑制され,超音波の伝搬方向と直交する方向の空間分解能が改善される。以下,この方向の空間分解能を単に空間分解能と記す。超音波探傷試験では,超音波の送受信時において探触子の各素子に同一の遅延時間を用いる旧来からのフェーズドアレイ超音波法が用いられてきた。PCI は旧来法に比べてより高いSN 比(Signal to Noise Ratio:SNR)が得られることから,欧米ではPCI の導入が着実に進んでいる3)−6)。

開口合成法では,再構成される画像の画素値は一般的に時間領域で遅延補正した受信信号の和(Delay and Sum:DAS)で与えられる。画像には探触子のサイドローブやグレーティングローブによるアーティファクト,欠陥などの強散乱源(反射源)や結晶粒界といった弱散乱源による斑点模様(スペックルパターン)および電気的なノイズによる指示が含まれる。遅延補正した受信信号の振幅を乗じ,加算されるDelay Multiply and Sum(DMAS)7),8)は,非線形ビームフォーマに位置づけられ,これらの低減に有効である。遅延補正した受信信号の可干渉性の指標としてCoherence Factor(CF)9),10),Phase Coherence Factor(PCF)2),Sign Coherence Factor(SCF)2),Circular Coherence Factor 11)およびVector Coherence Factor 12)などが提案され,いずれかを重み係数としてDAS に乗じるPCI が報告されている2),11)− 13)。この手法を用いることによって,DMASと同程度の品質の画像を少ない計算量で再構成できる。医療分野の超音波診断ではPCI の改良が行われてきている13)− 15)。また,ガイド波16),光音響イメージング17)およびレーダ計測18)などにも応用されており,有効性が示されている。

超音波探傷試験に関しては,様々な重み係数によるノイズ抑制効果が欧州の研究機関から報告されている2),11),12)。国内では,DMAS およびPCF,さらにCF,PCF およびSCF が比較され19),20),探傷面に近い横穴(Side Drill Hole:SDH)に対する重み係数は,遠くに位置する同一径のSDH と比較して小さくなることが示されている20)。しかしながら,この問題の解決策については提示されていない。

本稿では,探傷面に近い反射源に対するCF,PCF およびSCF が低下する原因を明らかにする。そして,この現象を是正するために,それぞれの焦点位置において焦点深度と受信開口サイズの比,すなわち絞り値が一定となるように開口角を固定する方法(Fixed Aperture Angle:FAA)21),22)を導入し,その効果を調査する。画像再構成の方法はFull Matrix Capture and Total Focusing Method 23),24)より高速なフレームレートを実現できる平面波を用いた開口合成法(Plane Wave Imaging:PWI)21),25)におけるDAS にCF,PCF およびSCFを重み係数として乗じるPCI である。第2 章ではそれぞれの重み係数の計算式を,第3章では画像再構成の主な条件を説明する。第4 章でFAA の効果について論じ,第5章では結言を述べる。

 

時間・周波数領域超音波映像法による接着層の非破壊評価

燈明 泰成,畠中 洸哉,キム へリン

Non-destructive Evaluation of Adhesive Layers using Time-Domain and Frequency-Domain Ultrasonic Imaging Techniques
Hironori TOHMYOH , Koya HATANAKA and Hyelin KIM

 

Abstract
This paper proposes the time-domain and frequency-domain ultrasonic imaging techniques for non-destructive evaluation of adhesive layers between two Al plates. Two 1 mm thick, 20 mm square Al plates were bonded together by an epoxy adhesive. Ultrasound was transmitted into the adhesive layer sample, and the echoes reflected from the back of the sample were recorded by scanning the focused ultrasonic transducer. From the acoustic image (time-domain), the bonding area of the adhesive layer was evaluated. By repeating the frequency analysis of the echoes, two frequency-domain images were obtained. One was the resonant frequency image, which gave two dimensional information of the thickness of the adhesive layer, and the other was the minimum amplitude ratio image, which gave two dimensional information on the density of the adhesive layer. The mass of the adhesive layer determined from the data of the time-domain (bonding area) and the frequency-domain (thickness, density) was in good agreement with that measured by an electronic balance showing the validity of the proposed ultrasonic imaging techniques.

Key Words: Ultrasonic imaging technique, Time-domain, Frequency-domain, Acoustic resonance, Adhesive layer, Bonding area Thickness, Density

 

緒言
 近年,自動車・輸送用機器をはじめとする材料システムにおいて,軽量化を目的として従来の金属から,アルミニウム合金,複合材料や樹脂など,より軽量な材料への置換が進められており1)-3),そのような異種材料同士を接合する方法の一つとして接着接合に注目が集まっている4),5)。言うまでもなく接着層の面積や品質は接合強度に関係するので重要な管理項目である。

ところで音波が薄層を通過する際,音圧透過率と音圧反射率は周波数依存性を示し,両者は共鳴周波数において極値を取る6)。この音響共鳴現象が薄層の厚さと音響物性値に関係することから,これを利用した様々な薄層材料の評価がなされてきた。例えば基板上の金属膜7)や高分子フィルムの音響物性値の計測8),基板上の塗装膜9)やベアリングシステムの潤滑膜の厚さ測定に利用されている10)。また集束型超音波探触子を用いて各点において音響共鳴を観察して,薄層の膜厚や音響物性値の2 次元情報を取得する音響共鳴映像法が提案されている11)。この音響共鳴映像法により基板上のフォトレジスト膜の成膜条件が膜の厚さや品質に及ぼす影響が調査されている12)。

本稿では,接着層を評価するための時間・周波数領域超音波映像法を提案する。時間領域で得られる情報は従来の音響画像であり,これより接着層の接着面積を算出する。また周波数領域において音響共鳴画像(共鳴周波数画像・最小振幅スペクトル比画像)を取得し,これらを駆使して接着層の厚さと密度を算出する。時間領域と周波数領域において得られた接着面積,接着層厚さと密度より算出した接着層の質量と実測したそれとが一致することを確認し,本手法の妥当性を示す。

 

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