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機関誌

2025年3月号バックナンバー

2025年11月18日更新

巻頭言

「コンクリートスラブの非破壊試験」特集号刊行にあたって

澤本 武博

土木構造物でコンクリートスラブといえば,高架橋の床版が代表的であり,現在,経年劣化した高速道路の床版の大規模なリニューアル工事が行われている。コンクリート床版の取替えは,劣化状況により優先順位を付けて行われており,劣化の状況を外観目視だけでなく,床版内部の状況が調査できる非破壊試験により判断している。一方,建築物でコンクリートスラブといえば,鉄筋コンクリート構造物の床が代表的であり,床の仕上げを行うにあたり,コンクリート床下地表層部の品質が重要になってくる。

本特集号では,土木分野と建築分野の両分野に焦点を当てて,コンクリートスラブの劣化状況の調査や品質管理手法,耐久性の予測について,6 名(土木分野3 人,建築分野3 人)の執筆者により解説して頂いた。

土木構造物のコンクリートスラブの非破壊試験
 (株)ネクスコ東日本エンジニアリングの末光功治氏より,「衝撃弾性波法による鋼繊維補強コンクリート増厚床版内部の劣化検出-関東地方の高速道路-」と題して,衝撃弾性波法の原理およびコンクリートスラブの水平ひび割れや土砂化の検出について解説して頂いた。
 大阪大学の寺澤広基氏より,「電磁パルス法による鉄筋コンクリート床版内部の水平ひび割れの検出-西日本の高速道路-」と題して,電磁パルス法の原理およびコンクリートスラブの水平ひび割れの検出について解説して頂いた。
 首都高速道路(株)の井田達郎氏より,「非破壊試験による床版かぶりの調査-首都高速道路-」と題して,電磁波レーダ法の原理およびコンクリートスラブのかぶりの調査について解説して頂いた。

建築物のコンクリートスラブの非破壊試験
 日本大学の湯浅 昇氏より,「建築において必要なコンクリートスラブの品質を確保するための非破壊試験」と題して,断面が薄く打設直後から型枠に覆われていないコンクリートスラブと他の部材との相違,表層コンクリートの力学的性状把握のための各種非破壊試験について解説して頂いた。
 東京科学大学の横山 裕氏より,「非破壊試験を活用したコンクリート床下地表層部の品質管理手法」と題して,床に要求される性能をとりまとめ,非破壊試験を活用した床下地表層部品質の測定方法とグレード,床会式性能指向型施工要領書の枠組みについて解説して頂いた。
 東京科学大学の藤井佑太朗氏より,「コンクリート床下地の非破壊試験結果に基づいた初期不具合および耐久性の予測」と題して,床下地の施工条件と表層部品質の関係,および床下地の表層部品質と床性能の関係に関する研究成果について解説して頂いた。

以上,土木分野および建築分野の両分野において,コンクリートスラブに適用する非破壊試験および品質管理手法などを,特集として取りまとめた。本特集号が,コンクリート構造物の施工管理および非破壊検査に関わる幅広いに関係各位の一助となれば幸いである。

 

解説

コンクリートスラブの非破壊試験

衝撃弾性波法による鋼繊維補強コンクリート増厚床版内部の劣化検出 -関東地方の高速道路-

(株)ネクスコ東日本エンジニアリング 末光 功治

Detection of Deterioration Inside Steel Fiber Reinforced Concrete Decks Using Impact Elastic Wave Method
− Expressway of Kanto Region −

NEXCO-East Engineering Co., Ltd Koji SUEMITSU

キーワード: 非破壊試験,衝撃弾性波法,鉄筋コンクリート床版,鋼繊維補強コンクリート増厚床版,自動打撃装置

 

はじめに
 NEXCO 東日本関東支社が管理する高速道路は,供用30 年以上の橋梁が約6 割を占め,供用50 年を経過した橋梁もある。経過年数の増加に伴う老朽化の進展,並びに大型車交通による疲労の影響,塩害の影響など厳しい使用環境により著しい変状が発生している。関東支社管内は,東京近郊の大型車が多く通行する重交通区間から,関越自動車道や上信越自動車道など冬季に凍結防止剤を多く散布する重雪氷区間まで幅広くバラエティに富んでいる。鉄筋コンクリート床版(以下,床版という)の変状にも地域特性が強くあり,劣化要因も様々な要因が複合的に関連している。これらの床版の変状に対して,今までは床版上面コンクリートに対して,電磁波レーダ機器を搭載した測定車を用いて床版上面から実施する非破壊調査(以下,電磁波レーダ調査という)による面的な調査を行っているが,床版に対する重交通対策として,床版上面を鋼繊維補強コンクリート(以下,SFRC という)で上面増厚補強したSFRC 増厚床版では電磁波レーダ調査が適用できず,床版下面からの点での微破壊試験の結果から評価を行っていた。そこで,SFRC 増厚床版の面的な調査に衝撃弾性波法の適用を検討するための共同研究を実施している。

本稿では,高速道路の床版の劣化と調査の現状,衝撃弾性波法の原理,共同研究での実験結果,実橋梁床版での試験調査,今後の展開(自動打撃装置)について解説する。

 

電磁パルス法による鉄筋コンクリート床版内部の水平ひび割れの検出 −西日本の高速道路−

大阪大学 寺澤 広基

Detection of Horizontal Cracks in RC Slabs by Electromagnetic Pulse Method
Osaka University Koki TERASAWA

キーワード: RC 床版,鋼繊維補強コンクリート,疲労,水平ひび割れ,電磁パルス法

 

はじめに
 近年,高速道路の大規模なリニューアルプロジェクトが展開されており,床版等の取り替え工事が継続的に行われている。この背景には,一昔前の設計基準で設計されたRC 床版における厚さの不足,車両の大型化や交通量の増加,長期的な凍結防止剤の散布等によりコンクリート内部に配置された鉄筋の腐食が進んだことなど,様々な要因によって引き起こされた供用中のRC 床版における劣化の顕在化という問題がある。

RC 床版の変状の一つである水平ひび割れは,図1 に示すように鉄筋の腐食に伴うコンクリートのひび割れや,増厚部と既設部の界面におけるはく離が起点となり,水の浸入や車両通行荷重によって劣化が促進され,土砂化やコンクリートの抜け落ちにも繋がり得る。そのため,道路橋を適切に維持管理する上で注意していく必要がある。

 

非破壊試験による床版かぶりの調査 −首都高速道路−

首都高速道路(株) 井田 達郎

Investigation of Cover on Floor Slabs Using Non-destructive Testing
Metropolitan Expressway Company Limited Tatsuro IDA

キーワード: 橋梁,床版,コンクリート,点検,耐久性向上,電磁波レーダ

 

はじめに
 首都高速道路では,構造物の高齢化の進行と過酷な使用状況の中,お客様に安心・安全な道路サービスを提供できるよう,周辺環境への配慮をしながら日々補修工事を行っている。高速道路上での工事は,工事渋滞が予想されない交通量の少ない時間帯に行うことを基本としており,「大きな音の出る作業」は,沿道の皆様への配慮から,23 時までに終了することとしている。

上記の制約条件により,舗装打ち換え工事では,切削作業を短時間で終了させる必要がある。そのため,切削作業はコンクリート床版を損傷させない範囲で,できる限り既設舗装材を撤去することが求められてきた。建設から,40 〜50 年が経過した道路橋のコンクリート床版では,幾度も舗装を打ち換えたことにより,床版上面のコンクリート表面と上側鉄筋表面との距離(以下,かぶり)が舗装切削機により削られ,脆弱化する事例が報告されている1)。一部の床版では,約25 mm 削られていた事例(図1)や上側鉄筋が露出していた事例(図2)が確認されている。

上面が切削された床版は,雨水や凍結防止剤など鋼材の腐食因子が浸透しやすくなることが懸念される。昭和46 年以前の床版は,鋼道路橋設計示方書(昭和39 年6 月,または昭和31 年5 月)2),3)に基づき設計されているため,最小床版厚が140 mm と薄く,鉄筋量も少ないことから,切削による耐久性の低下が懸念される。

かぶりが薄くなった場合や上側鉄筋が露出している場合の対応方法として,一般にSFRC による上面増厚工法による対策が行われているが,他機関ではSFRC が既設床版からはがれてしまう事象が生じている4)。

上記課題解決のため,首都高速道路では,静弾性係数が既設床版と同程度で舗装の基層材として層間はく離やひび割れが生じ難い鋼繊維補強ポリマーセメントモルタル(以下,PCM),超速硬ラテックス改質鋼繊維補強コンクリート(以下,LSF)を開発し,舗装設計施工要領にて上面増厚工法の標準として採用している5),6)。

上面増厚工法による補修範囲を決定するためには,かぶりが消失した範囲の分布状況を面的に把握する必要がある。しかし,コア抜き等の部分的な調査では,かぶりを面的に把握することができない。

近年,電磁波レーダを搭載した車両(以下,レーダ探査車)を活用し,床版内部の劣化状況を把握する取り組み7)が数多く行われているものの,かぶりが消失した範囲の把握に活用された事例は少ない。

本稿は,レーダ探査車を活用し,かぶりを効率的に把握する手法について検討したものである。

 

建築において必要なコンクリートスラブの品質を確保するための非破壊試験

日本大学 湯浅  昇

Non-destructive Testing to Ensure Quality of Concrete Slabs in Buildings
Nihon University Noboru YUASA

キーワード: コンクリート,スラブ,養生,暑中,強度,仕上材,ふくれ,非破壊試験

 

はじめに
 スラブコンクリートは,柱,梁,壁の部材と異なり,打設直後はその上面が型枠に覆われておらず,施工上押さえという工程が入る。断面も薄い。この状況を経て固まったコンクリートの品質は,他の部材のコンクリート品質とは異なることとなる。

部材厚が小さいので水和熱による打設後の部材温度は,さ ほど上がらない。スラブは押さえを必要とし,少なくともその終了まではどんなに暑かろうが,どんなに直射日光が当たろうが,湿度がどんなに低かろうが,一般的には型枠のように乾燥を阻止できない。押さえ後も,他の部材も工程上早く脱型したいくらいだから,スラブ上面をわざわざ湿潤養生をするのは難儀である。スラブに仕上材を施工するなら「十分乾燥させること」こそ養生だと聞く,とにかく固まったのなら,スラブは,直ぐにでも次の階の準備のために作業床にしたいし,物も運び込みたいというのが現場の本音である。

建築と土木では,スラブの規模も用途も異なり,自ずから要求性能が違う。それらに見合った品質管理,評価技術が必要である。非破壊試験の出番である。

本稿では,コンクリートスラブと他の部材との相違,力学的性状把握のための非破壊試験,仕上材施工可否判断のための含水状態評価試験を紹介した上で,スラブに施す仕上材のはがれ・ふくれを回避するために必要な管理について解説する。最後によりよいコンクリートスラブを作るための今後の展望と期待について述べる。

 

非破壊試験を活用したコンクリート床下地表層部の品質管理手法

東京科学大学 横山  裕

Quality Control Method for the Surface Layer of Concrete Slabs Using Non-destructive Testing
Institute of Science Tokyo Yutaka YOKOYAMA

キーワード: 床下地,表層部品質,表面凹凸,表面強度,水分量

 

はじめに
 建築では,構造体の周囲に,種々の目的に応じた様々な仕上げが施される。筆者はこれまで,主要な建築部位の1 つである床を対象に,仕上げを施すことにより付与される各種性能の評価方法や,所定の性能を得るための施工条件に関する研究に取り組んできた。床の性能には,多くの場合,表面を覆う仕上げだけでなく,それを支える下地の品質が大きく影響する。せっかくよい仕上げを選定したのに,下地の品質が伴わなかったために所期の性能が得られなかったという事例は,枚挙に暇がない。このようなトラブルを未然に防ぐためには,仕上げ施工前の段階で下地の品質を素早く的確に把握し,施工の可否を判断できるシステムが必要となる。

現在,筆者が会長を務める日本床施工技術研究協議会※注)では,要求性能に応じた下地および仕上げの施工条件(施工方法だけでなく施工に費やす労力や時間なども含む)を体系的に整理した「床会式性能指向型施工要領書」の作成に鋭意取り組んでいる。本稿では,この枠組みの中核を成す,非破壊試験を活用したコンクリート床下地表層部の品質管理手法を,枠組みの全体像とともに紹介する。

 

コンクリート床下地の非破壊試験結果に基づいた初期不具合および耐久性の予測

東京科学大学 藤井佑太朗

Prediction of Early Failure and Durability of Concrete Slabs Based on Non-destructive Testing Results
Institute of Science Tokyo Yutaro FUJII

キーワード: 床下地,表層部品質,水分量,表面強度,初期不具合

 

はじめに
 コンクリート床下地の表層部品質は,床の性能に大きく影響する。本誌前稿「非破壊試験を活用したコンクリート床下地表層部の品質管理手法」の図1 にて示されたとおり,床の所期の性能を発揮するためには,床下地の施工および床仕上げの施工の良否が重要である。仮に所期の性能が発揮できていたとしても,供用中に仕上げ材に作用する外的負荷により性能が低下し,その後不具合が顕在化する事例も多数報告されている。床の不具合には,「床下地施工者」,「床仕上げ施工者」,「施工管理会社」,「使用者もしくは使用後の環境(外的負荷)」と少なくみてもこれだけ不具合発生に起因する者が存在するため, 不具合防止には多くの関係者の協力が不可欠である。筆者らも,問題解決の一助となるよう床に発生する不具合や耐久性の評価に関する研究を続けている。

本稿では,前稿「6. おわりに」にて横山教授が「床下地の施工条件と表層部品質の関係,および床下地の表層部品質と床性能の関係に関する研究に鋭意取り組んでいる」と書かれた研究内容について,いくつか紹介する。

 

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