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機関誌

2025年7月号バックナンバー

2025年11月19日更新

巻頭言

「社会インフラ維持管理のための最新の非破壊計測技術」特集号刊行にあたって

遠山 暢之

我が国では,高度経済成長期以降に集中的に整備されたインフラの老朽化が深刻であり,今後,建設から50年以上経過する施設の割合が加速度的に増加していきます。インフラの老朽化は,2012 年の笹子トンネル天井板落下事故や2025 年の八潮市交差点における道路陥没事故など,甚大な被害を伴う事故の原因となり,国民の命や暮らしに対する不安やリスクを増大させています。そのため,インフラを計画的に維持管理・更新することにより,国民の安全・安心の確保や維持管理・更新に関わるトータルコストの縮減・平準化を図る必要があります。

「国土交通白書2024」によると,国土交通省所管のインフラに対する将来の維持管理・更新費の推計を行ったところ,損傷発生後に補修する「事後保全」から,損傷が軽微な段階で補修を行う「予防保全」に転換することにより,今後30 年間の累計で費用を約3 割縮減できる見込みが示されており,今後は,予防保全への転換を本格的に進め,持続的・効率的なインフラメンテナンスを推進することが重要であるとされています。さらに,少子高齢化による深刻な労働力不足に対応するために,効率を飛躍的に高めるための新技術の社会実装や省人化・省力化・自動化を実現可能にするAI・ロボット等の技術の進歩と活用が不可欠とされています。

新素材に関する非破壊検査部門は,「検査方法が確立していない」材料を新素材と定義し,炭素繊維強化プラスチックをはじめとした複合材料,3D プリント材などの新素材に対する非破壊検査技術を確立すべく,情報収集や技術交流を進めています。年に数回,シンポジウムを開催していますが,上述したような社会的背景もあり,社会インフラの維持管理に新たな非破壊計測技術を適用した研究成果の報告が年々増えてきている状況です。そこで,「検査方法が確立していない」効率的なインフラ維持管理新技術を,特集号で取り上げることにしました。

本特集号は,「社会インフラ維持管理のための最新の非破壊計測技術」と題し,社会インフラの維持管理や材料の劣化メカニズムの解明などに最先端の計測技術を適用した研究開発を精力的に進めておられる方々に執筆をお願いしました。

(株)CORE 技術研究所/京都大学の小椋様には動画から自動生成した点群モデルを用いた橋梁点検支援技術の詳細と,本技術によって橋梁点検が飛躍的に効率化された事例についてご紹介いただきました。

(国研)産業技術総合研究所(産総研)の藤原様には,鉄筋コンクリート電柱のオンサイト検査のために開発された軽量・低線量の可搬型パルスX 線検査システムとその検査事例についてご紹介いただきました。

産総研の李様には,サンプリングモアレ法を用いた変位分布計測技術の概要と,固定カメラやドローンを利用して様々な橋梁のたわみ計測を実施した実証実験の事例についてご紹介いただきました。

また,産総研の神宮司様には,上水道管の腐食リスク評価のための高周波交流電流による土壌調査技術の概要と,無人走行車両を活用した非破壊電気探査システムによる土壌調査の実証実験の事例,さらには将来の社会実装の見通しについてご紹介いただきました。

(国研)土木研究所の安藤様には,AFM-IR 測定原理の概要と,本手法を用いてアスファルトの劣化・再生機能を観察した結果についてご紹介いただきました。これは,アスファルト舗装の持続的かつ永続的なリサイクルに資する貴重な研究と位置づけられます。

社会インフラの維持管理は,単なる技術課題にとどまらず,将来世代への責任とも言える主要な社会課題の一つです。本特集が,社会インフラ維持管理へ新技術の適用を促し,持続可能な社会の実現に少しでも貢献できれば,特集号を企画した新素材に関する非破壊検査部門としてこの上ない喜びです。

最後になりますが,ご多忙の中,本特集号のために解説記事をご執筆いただきました執筆者の皆様に,この誌面をお借りして厚く御礼申し上げます。

 

解説

社会インフラ維持管理のための最新の非破壊計測技術

動画から自動作成した点群モデルを用いた橋梁点検支援技術

(株)CORE 技術研究所,京都大学 小椋 紀彦

Bridge Inspection Support Technology Using Point Cloud Models Automatically Created from Video
CORE Institute of Technology Corporation, Kyoto University Norihiko OGURA

キーワード: 点群モデル,橋梁点検,360 度カメラ,ジンバル機能カメラ

 

はじめに
 日本全国の道路橋の多くは,1960 年代から1970 年代の高度経済成長期に架設されたものであり,現在では架設後約60 年が経過し,橋梁の老朽化が問題視されている。そこで,現在架設されている橋梁に対し,5 年に1 回の頻度で近接目視による橋梁点検を行い,その点検結果を踏まえ,老朽化した橋梁に対して補修や補強,橋梁の架け替え等を実施して橋梁の維持管理を行っている。

この橋梁点検を実施するにあたり,地方自治体では,少子高齢化による技術者不足や点検にかかる費用の増大も重なり,効率的で省力化された点検技術の導入が喫緊の課題となっている。

そこで,筆者らはイリノイ大学アーバナシャンペーン校の土木工学およびコンピュータサイエンスの教授であるDr. Maniらが共同設立したReconstract Inc. により提供されるクラウドサービス1)を一部活用し,データ収集からモデル作成,点検調書作成までを一気通貫で行うことができる橋梁定期点検に特化した支援技術の開発を行った2),3)。3 次元点群データの元となる動画撮影では,橋梁の橋長や構造形式,桁下状況等に応じて徒歩またはドローンによる動画撮影を使い分けることが可能である。これにより,従来の点検で使用していた仮設足場や橋梁点検車,ボートなどの設備を要することなく,現地での点検日数を短縮し,架設費用の低減をすることが可能となる。今回は,開発した技術の紹介と実橋梁で行った検証結果を記す。

 

X 線を用いたコンクリート柱内部の鉄筋腐食状況の検査技術開発

(国研)産業技術総合研究所 藤原  健

Field‑Deployable Pulse‑X‑Ray Technology Enabling Condition‑Based Maintenance of Reinforced‑Concrete Utility Poles
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) Takeshi FUJIWARA

キーワード: 鉄筋コンクリート,非破壊検査,状態基準保全,工業用X線装置,電柱

 

はじめに
 日本には現在,約3600 万本の電柱が設置されており,その多くは1950 年代後半から1970 年代前半にかけての高度経済成長期に建設されたものである1)。これらの電柱は,電力および通信といった社会インフラを支える重要な構造物であり,今後も安全に機能させるためには,適切な維持管理と更新が不可欠である。

従来,電柱の設計寿命は50 年とされてきたが,実際の寿命は設置環境によって大きく異なることが知られている。例えば,海沿いで潮風にさらされる場所や,地形・風荷重などの影響で大きな応力がかかる電柱では,腐食や劣化の進行が早くなる傾向がある。一律の基準で定期的に点検・交換する「時間基準保全(Time-Based Maintenance)」では,こうした環境差を十分に考慮できず,依然として健全な電柱を交換する一方で,劣化が進行した電柱を見逃すリスクもある。特に,高度経済成長期に集中的に建設された膨大な数の電柱を対象とした場合,人的・財政的リソースの観点から,従来の保全手法のままでは対応が困難である。

加えて,社会全体で高齢化と労働力不足が深刻化する中,インフラ保全の現場も限られたリソースでの効率的な対応が求められている。このような背景から,電柱の実際の劣化状態を把握し,その情報に基づいて必要な箇所に重点的な保全を行う「状態基準保全(Condition-Based Maintenance)」への移行が強く求められている。

コンクリート製電柱の劣化原因の多くは,内部の鉄筋の腐食に起因する破断である。近年では,鉄筋を磁化させ,その磁気信号の変化から破断を検出する技術も開発されているが,この手法では鉄筋の断面減少(減肉)を抑えることが難しく,構造物の安全性評価には限界がある。一方で,欧米の多くの都市では,送電線や通信ケーブルを地中化することで無電柱化が進んでいる他,諸外国では木製や金属製の電柱が主流であり,鉄筋コンクリート製電柱の維持管理は日本特有の技術的課題であると言える2)。

そして近年,鉄筋の腐食によるコンクリート柱の折損事故が相次いでおり,安全性の観点からも高度な検査技術の導入が求められている。実際に,2023 年8 月にはJR 東海道線で走行中の電車が折損した電柱と衝突する事故が発生した。この事故はひび割れから雨水が入り込み,内部の鉄筋が腐食して破断したことで,電柱が傾いて電車と衝突したとみられている3)。このような事故にはならずとも,電柱が折損したという事例という点では氷山の一角に過ぎず,今後さらなる被害拡大が懸念される。

このような課題を解決する有望な手段の一つとして,X 線を用いた非破壊検査技術が注目されている。X 線はコンクリート内部の鉄筋配置や破断,減肉,空洞などの欠陥を可視化することが可能であり,状態基準保全を支えるツールとしてのポテンシャルが高い。しかし,従来のX 線装置は大型かつ高出力であり,検査中の被曝リスクへの対応や,専門資格者の配置,広範囲な立入禁止区域の確保などが必要であったため,特に市街地の電柱には適用が困難であった。

そこで本研究では,可搬型のパルスX 線源と高感度X 線イメージセンサを用いた,新しいX 線検査システムの開発に取り組んでいる。本装置は,被曝リスクを最小限に抑えつつ,作業範囲の制限を大幅に緩和することが可能であり,従来技術では困難であった現地での迅速かつ直感的な内部検査を実現する。本稿では,本X 線検査装置の開発概要と技術的特徴,さらに鉄筋コンクリート電柱への適用に向けての開発状況について報告する。

 

サンプリングモアレ法による橋梁のたわみ計測技術

(国研)産業技術総合研究所 李  志遠

Deflection Measurement Techniques for Bridges Using the Sampling Moiré Method
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) Shien RI

キーワード: インフラ構造物,変位計測,サンプリングモアレ法,位相解析,ドローン空撮

 

はじめに
 社会インフラの老朽化は,経年劣化により構造的安全性が低下し,重大な事故や機能停止につながるリスクが高まるため,深刻な課題である1)。特に橋梁,トンネル,ダムなどのインフラは,定期的な点検と適切な維持管理が不可欠である2),3)。しかし,維持管理には多大なコストと労力が伴うため,近年ではドローン空撮やAI 技術を活用した自動化・効率化が進められている。

従来の変位センサには,リング式変位計やレーザ変位計,接触式変位計などがある4),5)。これらは高精度な計測が可能である一方,設置に時間とコストがかかり,広範囲なインフラ構造物への適用には課題が多い。また,接触式センサは計測対象への影響や長期設置時の安定性が懸念される。これらの問題から,非接触型の光学的計測手法が注目されている。

全視野画像計測技術6)は,構造物や材料の変位・ひずみ分布を面的に計測する手法であり,代表的な手法にデジタル画像相関法(Digital Image Correlation,DIC)7)-9)やサンプリングモアレ法(Sampling Moiré,SM)10)- 12)がある。DIC 法は,試験体表面のランダムパターンの変形前後の画像を相関解析することで,2 次元または3 次元の変位分布を高精度に算出する。近年では,DIC の精度向上に向けたサブピクセル解析手法や,動的変位計測への応用,さらに解析速度の向上が進められている。

一方,サンプリングモアレ法は,変形前後の格子画像を用いて微小変位を高精度に解析できる手法であり,格子ピッチの1/1000 精度で変位計測が可能である13)。これまでにサンプリングモアレ法を用いた正対方向14),橋下方向15)および橋軸方向16),17)からの画像撮影による橋のたわみ計測が進められている。さらに,ドローン空撮技術と組み合わせることで,橋梁やダムなどインフラ構造物の非接触・高精度な変位計測が実現可能となり,保守点検の自動化・効率化が期待されている18)- 21)。

本稿では,サンプリングモアレ法を用いた橋梁のたわみ計測技術について解説し,これまでに実施した測定結果を報告する。具体的には,固定カメラによる①正対方向,②橋下方向,③橋軸方向の三つの撮影アプローチを紹介する。加えて,近年注目されているドローン空撮を活用した高精度な変位計測法の原理とその測定結果を示す。これにより,カメラの設置場所に制限されることなく橋梁のたわみを計測できる。

 

水道インフラ維持管理のための腐食性土壌調査 −無人走行車両(UGV)と非破壊探査の活用−

(国研)産業技術総合研究所 神宮司元治

Corrosive Soil Investigation for Water Infrastructure Maintenance
− Utilization of Unmanned Vehicles and Non-destructive Exploration −

National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) Motoharu JINGUUJI

キーワード: 水道管,非破壊探査,無人走行車両,維持管理,更新,比抵抗,高周波交流電気探査

 

はじめに
 我が国の水道管は,高度経済成長期に集中的に整備され,その多くが法定耐用年数である40 年を超えて老朽化している。2021 年度の耐用年数超過率は22.1%に達し,今後30 年間の更新費用は年間平均で1 兆8000 億円に上ると試算されている1)。

水道管の腐食は土壌環境に大きく依存し,特に比抵抗が低い海成粘土などの特殊土壌では,電食(電気化学的腐食現象)による激しい腐食が発生することが知られている2)。このため,一部の地方自治体では,計画的な水道管の更新や修理を進めるため,地面を開削し,腐食性土壌パラメータや水道管の腐食進行度を調査する管体調査を実施している。しかし,この方法は掘削・埋め戻し作業に多大なコスト,時間,労力を要するため,少子高齢化や人口減少による水道収入の伸び悩みを背景に,広範囲への適用が困難となっている。こうした課題に対応するため,(国研)産業技術総合研究所(以下,産総研)は,周波数20 kHz 程度の高周波交流電流を利用し,アスファルトやコンクリート路面をきずつけることなく土壌の比抵抗を計測する技術を開発した。本技術では,水道管が埋設されている深度の比抵抗を測定することで,腐食性土壌の有無を判定できる。この「高周波交流電気探査技術」は,高周波交流電流のキャパシタンス効果を活用し,舗装を破壊せずに地下の比抵抗を非破壊で測定可能とするものである。また,水道関連会社を中心に,AI を活用した水道マネジメントシステムの開発も進められているが,腐食リスク評価には効率的な地盤調査法の確立が不可欠である。従来の掘削による調査は多額の費用と労力を要し,広域調査には適さない。本技術の導入により,非破壊での比抵抗測定が可能となることで,老朽化が進む水道管の更新優先度を適切に判断し,効率的な維持管理の実現に貢献することが期待される。本稿では,この高周波交流電気探査技術の概要とその適用可能性について紹介する。

 

AFM-IR を用いたアスファルトの劣化・再生機構の観察

(国研)土木研究所 安藤 秀行  百武 壮  佐々木 厳  新田 弘之

AFM-IR Analysis of the Degradation and Recovery Processes in Asphalt Pavement Materials
Public Works Research Institute Hideyuki ANDO, Tsuyoshi HYAKUTAKE, Iwao SASAKI and Hiroyuki NITTA

キーワード: AFM-IR,ナノスケールイメージング,アスファルト,劣化,リサイクル

 

はじめに
 アスファルト舗装において,アスファルトは骨材(石や砂)の接着剤としての役割を果たし,これらを混合したものはアスファルト混合物と呼ばれる。アスファルトは,原油精製によって重質な油として得られる褐色の熱可塑性物質である。多様で複雑な構造の高分子が互いに溶解・分散した状態で存在するコロイド系を形成しており,低温では固体として,高温では液体としてふるまう特性がある。この性質を利用し,混合物製造時には150℃以上に熱して液体状態で石や砂と混合し,高温のまま道路に打設し,舗設後は冷めることで固体の接着剤として骨材をつなぎ留める。アスファルトは,混合物を製造する際の熱や,供用時の紫外線や酸素などの作用により酸化劣化し,硬く脆く転化していく。アスファルトの劣化は舗装の損傷要因となり,傷んだアスファルト舗装は修繕工事によってはがされる。このとき,はがされた舗装は,アスファルト合材プラントに運ばれた後,再生用添加剤などによってその性状を回復させて,再生アスファルト混合物として再利用される。

日本では,1970 年代からアスファルト舗装の再生利用が始まり,法改正等を受け,アスファルト舗装の再資源化が促進されていった。アスファルト舗装の再資源化率は,平成14 年(2002 年)には再資源化率が98%に達し,平成30 年(2018 年)においても99%以上を維持している1)。図1 では全国のアスファルト混合物製造数量の推移を示しており,製造量全体に占める再生アスファルト混合物の割合は平成10 年(1998 年)に50%を超え,近年では75%付近で推移している。このように,日本ではアスファルト舗装のリサイクルが活発に行われており,再生アスファルト混合物は道路インフラにおいて重要な役割を担っている。

アスファルト舗装がリサイクルされるようになってから半世紀が経過する現在では,一度再生された舗装を二度,三度リサイクルする繰り返し再生や,舗装の耐久性向上を目的としたポリマー等を含む舗装発生材が増加するなど,舗装技術の高度化に伴い,舗装発生材中のアスファルトの物理的・化学的状態は複雑化が進んでいる。このことから,国内ではアスファルト舗装の再生技術や評価法に関する技術開発が活発に行われている。

土木研究所では,アスファルト舗装の持続的・永続的なリサイクルの継続を目指し,アスファルトの劣化と再生について,物理的および化学的な観点で研究や技術開発を重ねてきた。そして昨年度からは,原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope。以下,AFM)と赤外分光光度計(InfraRed spectrometer。以下,IR)の機能を併せ持つAFM-IR を用いたアスファルトの分析に着手している。AFM-IR は,試料の同一座標において物理的・化学的性質の両方をナノ寸法,非破壊で測定が可能な装置である。アスファルトの劣化や再生による性質変化の調査に有効であると考えられ,アスファルト舗装の再生技術や評価について活用を進めているところである。本稿では,AFM-IR 装置の原理や当該装置によって非破壊で見えたアスファルトの微視的構造と,劣化や再生が初めて可視化された様子について,筆者らによる観測例3)を紹介する。

 

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