中畑 和之
NDE 4.0(Nondestructive Evaluation 4.0)という言葉が,日本の非破壊検査業界においても徐々に浸透しつつあります。NDE 4.0 は,2017 年のアジア太平洋非破壊試験会議(APCNDT)で提唱された概念で,非破壊検査の効率化や生産性向上などを目指すものです。ご存じの方も多いと思いますが,この考え方は,ドイツ連邦政府が提唱したIndustry 4.0(第4 次産業革命)と深く関連しています。Industry 4.0 が,製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目標としていることから,NDE 4.0 も「非破壊検査のDX」と捉えられがちです。しかし,実際には,それ以上に深い意図や戦略が内包された概念です。現在,NDE 4.0 の世界的な推進役として,Norbert Meyendorf,Johannes Vrana,Ripi Singh の3 名が知られており,特にMeyendorf 氏とVrana 氏はドイツ出身であることから,NDE 4.0 は「Industry 4.0 に便乗したキャッチーなDX のスローガン」と見なされているかもしれません。しかし,これは,非破壊検査の戦略的ブランディングの一環であると理解できます。実は「○○ 4.0」というスローガンや運動は他にも結構たくさんあって,こういった流行りのキーワードを冠することで,グローバルな議論の場においても即座に認知され,共感を得やすくなるという意図が垣間見えます。では,NDE 4.0 の戦略とは何か,彼らが何を求めているのか? その点については,本特集号の「資料:国内外におけるNDE 4.0 に関する動向」にて詳述されていますので,ぜひご一読ください。
さて,前置きが長くなりましたが,本特集号は,2024 年12 月20 日に開催された「第2 回NDE 4.0シンポジウム」の内容を中心に構成されています。2023 年に開催された第1 回が盛況のうちに終了したことを受け,第2 回では一般講演17 件,特別講演1 件,製品紹介(講演付き)6 件が行われ,合計74 名が参加しました。今回も好評を博し,盛況なシンポジウムとなりました。特筆すべき新たな試みとして,製品紹介や機器展示の場を設けた点が挙げられます。NDE 4.0 の実装には,サプライヤは具体的なユースケースの提示が不可欠であり,コンシューマは実機に触れることでイメージを深めることができます。この取り組みは,2024 年5 月に韓国で開催された第20 回世界非破壊試験会議(20th WCNDT)における展示会に触発されたものです。WCNDT では190 社程が出展し,NDE 4.0 に資するデジタル/スマート検査機器が数多く紹介されていました。今回のシンポジウムでは,規模こそ小さいものの,コーヒーブレイク会場を活用した展示スペースにおいて,活発な情報交換が行われていました。企業・大学・実務者間の対話の促進にもつながりました。この様子は,本特集号の「資料:NDE 4.0 を支える非破壊検査機器と周辺技術」にて紹介しています。さらに,前回と同様,第2 回シンポジウムでの発表内容を発展させた萌芽論文を募集しました。本特集号では,査読を経て採択された3 編を掲載しております。国内のNDE 4.0 の発展に資する大変興味深い論文となっています。ぜひご覧ください。
なお,「第3 回NDE 4.0 シンポジウム」を2025 年10 月28 日に日本非破壊検査協会亀戸センターにて開催予定です。本特集号をご覧になり,ぜひご参加頂ければ幸いです。当日,新しい取り組みも用意しています。最後に,第2 回NDE 4.0 シンポジウムに関わったすべての方々と,この特集企画に賛同して頂き,編集作業にご協力頂いた皆様に感謝申し上げます。
(株)東芝 落合 誠 山本 摂
Trends in NDE 4.0: Domestic and International Perspectives
Toshiba Corporation Makoto OCHIAI and Setsu YAMAMOTO
キーワード: NDE 4.0,ICNDT SIG“ NDE 4.0”,Digitization,Digitalization
はじめに
2017 年にMeyendorf らが第4 世代の非破壊評価(NDE 4.0)に関するコンセプトを発表1)して以来,国内外では数多くの技術活動が展開されてきた。最初に組織的な動きが立ち上がったのはIndustry 4.0 発祥の地であるドイツであり,ドイツ非破壊検査協会(DGZfP)にてNDE 4.0 技術委員会が開設された2)。それ以降,国際非破壊試験委員会(ICNDT)3),米国非破壊試験協会(ASNT),ドイツ以外の欧州各国,そして日本を含めたアジア各国でも同様の活動が開始されてきている。
日本国内では,2018 年に日本非破壊検査協会(JSNDI)内にNDE 4.0 と関連の深い「ICT を活用した超音波による非破壊評価技術研究委員会」が発足4),5)。その後,2020 年にはJSNDI 内で「NDE 4.0 対応WG」が組成され,現在は研究会等も含めた在協会内各技術組織の活動へと展開が進んでいる。
本稿では国内外の動向を解説し,NDE 4.0 実現の一助となるDigitization・Digitalization の考え方について述べる。
田中 雄介,小倉 幸夫
Design of Focus Ultrasonic Probe Using Ultrasonic Propagation Simulator
Yuusuke TANAKA and Yukio OGURA
Abstract
The focal point of the focused ultrasonic probe was observed to fluctuate due to the superposition of direct and edge waves. The wavefront aperture angle of the focused ultrasonic was defined, and it was found that the effect of frequency fluctuations on the focal point increased as the aperture angle decreased. Frequency is defined as the inverse of the peak-to-peak time difference, and the ultrasonic probe can be designed by determining the frequency of the peak-to-peak time difference rather than the frequency from the FFT. The degree of influence of direct and edge waves at the focal position was defined, and it was observed that the degree of influence of edge waves increases when the wavefront aperture angle is small. The focal point is caused between the point of maximum direct wave influence and the point of maximum edge wave influence, and the focal position can be calculated by determining the edge wave influence. The degree of edge wave influence was calculated from the wavefront aperture angle and the focal point using an ultrasonic wave propagation simulator.
Key Words: Ultrasonic, Focus probe, Acoustic lens, Simulator, Edge wave, Direct wave
緒言
集束超音波探触子は非破壊検査や医用超音波などで広く利用されており,非破壊検査では超音波探傷による微小な欠陥検出,医用超音波でも高分解能化や治療目的に利用されている。集束超音波探触子は焦点位置での高音圧,高分解能を利用するため焦点位置を正しく設計することが重要となる。集束超音波は超音波振動子を凹面に形成する凹面振動子型や音響レンズによる屈折を利用した音響レンズ型,アレイ探触子によるフェーズドアレイ駆動を利用したものがある。フェーズドアレイはアレイ探触子に遅延時間を与えて超音波を集束させるため,遅延時間の設定で様々な位置に焦点を発生させることができる。ただし,アレイ探触子や駆動装置が高価なため,単体振動子で凹面振動子や音響レンズ型の集束超音波探触子が広く用いられている。探触子中心軸上に焦点を形成する場合,凹面振動子や音響レンズ型の集束超音波探触子の焦点は凹面振動子の曲率半径中心1)や音響レンズの屈折焦点とされるが2),レンズの形状によってはそれらの位置より大きく手前に焦点が発生する。焦点位置の変動について音響レンズ型は音響レンズ内に発生するせん断波を考慮した報告もあるが,計算上レンズ内の影響はほとんどない3)。さらに,せん断波はわずかな影響しかないとする報告もあり4),音響レンズ内のせん断波では凹面振動子の焦点位置変動が説明できないため,焦点位置変動はレンズ内せん断波とは異なる原因である。凹面振動子の曲率半径中心より焦点が手前になることは報告されており5),振動子直径が小さくなるほど焦点が手前になる。ただし,シミュレーションは連続波の計算であり,焦点位置が変化することへの理由や焦点位置変化への周波数などのパラメータの言及はない。超音波振動子から送信される超音波は直接波と,直接波端部に現れるエッジ波があり,エッジ波の発生と観察,理論計算はこれまでに多数報告されている6)-9)。直接波とエッジ波の重なりによる振幅変動は実験では報告されているが7),理論計算での直接波とエッジ波の重なりによる振幅変動は言及されていない。探触子中心軸上の振幅変動について,近距離音場での連続波または遠距離での振幅低下のみが計算されている6)。パルス波では近距離音場では振幅が一定で直接波とエッジ波の重なりによる近距離音場限界での振幅増加が計算されていない。また,直接波とエッジ波の位相変化は理論6),実験7)で報告されており,音圧を速度ポテンシャルで計算する方法10),11)でも位相の変化は計算されている。集束超音波探触子でのエッジ波の発生は報告されており12),直接波とエッジ波の重なりによる振幅変動の可能性は集束超音波でも存在する。
理由は議論のあるところであるが,集束超音波探触子について幾何学的焦点と実際の焦点が異なることが問題であり,集束超音波による治療などは焦点位置を制御することは必須である13)。直接波とエッジ波の重なりによる振幅変動7)や集束超音波でのエッジ波の発生12)があるが,集束超音波での直接波とエッジ波の重なりによる振幅変動とそれによる焦点位置変動は解明されていない。そのため,集束超音波探触子の設計方法が確立されていない課題がある。
本論文の目的としては最終的には集束超音波探触子の設計方法を確立することであり,そのために集束超音波探触子の焦点形成原理や探触子中心軸上における直接波とエッジ波の重なりによる振幅変動の理論計算を明らかにして焦点位置変動のパラメータを解明することである。その方法として下記6つの理論や方法を用いた。
1. 直接波とエッジ波の重なり14)
2. 探触子中心軸上の振幅変動理論15)
3. 音響レンズと凹面振動子の焦点位置変動16)
4. JIS での周波数評価17)ではなく周期の逆数である周波数評価
5. 直接波とエッジ波の影響度から推定する焦点範囲18)
6. 集束超音波の開口角と焦点位置に対するエッジ波影響度推定法
これらの手法により集束超音波探触子の設計手法を確立したことを述べる。
斎藤 隆泰,廣瀬 壮一
Image Generation of Ultrasonic Wave Propagation on Concrete Surface Using
Finite Element Method and Generative AI
Takahiro SAITOH and Sohichi HIROSE
Abstract
Ultrasonic waves propagating on concrete surfaces exhibit complex behavior due to scattering by coarse aggregate. In simulation of ultrasonic waves in concrete, however, it is not realistic to perform 3D calculations because of the heavy computational load even with today’s computers. In this study, we developed a 2D model that takes into account the randomness of the aggregate and conducted a finite element analysis. Naturally, the 2D analysis was not able to properly represent the strong scattering caused by coarse aggregate with a 3D shape, but by applying a style transformation by a generative AI to the images obtained from the 2D analysis, images similar to experimental ultrasonic propagation images were obtained. This method is expected to be an effective method for generating a large amount of training data for deep learning to determine defects on concrete surfaces.
Key Words: Concrete, Finite element method, Ultrasonic simulation, Style transformation, Laser Ultrasonic Visualization Testing
緒言
高度経済成長期に建設された土木構造物の老朽化が進んでいる。そのような老朽化した土木構造物の健全性を評価する手法の一つに非破壊検査がある。特に,超音波を用いた非破壊検査法は,土木分野のみならず,機械,原子力,航空機等,様々な検査対象物に適用されてきた。
土木構造物を成す代表的な材料はコンクリートである1)。コンクリートは,一般的に,粗骨材とモルタルから成る非均質な材料である。そのため,一般的な等方・均質とみなせる金属材料に比べて,材料自体にかなりの多様性がある。例えば,コンクリートの配合設計では,粗骨材の実積率,粗骨材の大きさ等が考慮されている。しかも粗骨材はランダムに分布する。また,超音波速度はモルタルと粗骨材中で異なるばかりか,粗骨材により超音波は散乱されるため,超音波伝搬自体,極めて複雑なものとなる。粗骨材等による散乱は,散乱減衰や分散性を示す要因ともなる。従って,コンクリート材料に対する超音波法の適用は金属材料に比べて難しい。
さて,近年,深層学習2)といったAI の基礎技術及びその工学への展開に注目が集まっている3)。実際,非破壊検査の分野においても,近年,深層学習の応用が進んでいて4),5),コンクリート材料にも適用が期待される。一般的に,深層学習は教師あり学習と教師なし学習に大別できる。この内の教師あり学習は,推定する事象に対して高精度な結果を得られるが,そのためには学習に必要な質の高い教師データを数多く用意しなければならない。画像中の一般物体認識問題では,様々な種類の画像とラベリングがセットになったデータが公開6)されており,誰でも使うことができる。しかし,工学の諸問題では,そのような公開された学習データを使えることはまれであり,問題に応じて用意する必要がある。従って,コンクリートへの超音波法に対する深層学習に対しても必要となる多量の学習データを準備しなければならない。しかし,前述のようにコンクリート自体に多様性があるため,必要となるデータをすべて実験で得ることは難しい。それを補完する有力な手段は数値シミュレーションであろう。
例えば,Yu ら7)は高度な要素を用いた有限要素法の一種であるSEM(Spectral Element Method)を用いてコンクリートを伝搬する2 次元超音波シミュレーションを実行し,人為的に作成した2 次元コンクリートモデルによる実験と比較して計算結果を検証している。Oh ら8)は有限要素法を用いてコンクリートに対する3 次元超音波伝搬シミュレーションを行っている。彼らの計算はコンクリート構造部に対する空気超音波法を対象としたもので,コンクリートのみならず空気層もモデル化しているが,コンクリートを均質として解析している。Marklein ら9),中畑ら10)は時間領域差分法の改良版であるEFIT を用いた3 次元超音波シミュレーションを行っている。ただし,これらの研究では骨材を大小異なる球形散乱体として解析している。このようにコンクリート中を伝搬する超音波シミュレーションはまだモデル化が完璧ではないものの,3 次元解析が可能となっている。従って,本来,学習用データの作成には3 次元解析を用いるべきあろう。しかし,3 次元解析の計算負荷は今の計算機をもってもかなり高く11),大量の学習データを簡単に作成できる状況にはない。そこで本研究では2 次元波動解析を実施することにより,計算に過大な負荷をかけることなく大量の学習データを作成する手法の構築を目指す。
詳しくは後述するが,本研究のシミュレーションの対象はコンクリート表面を伝搬する超音波の2次元画像である。骨材を含まない均質場では,3 次元問題における入射波のある2次元断面上での波面は対応する2 次元問題の波面とあまり差がない。そのため本研究では,まず,2 次元のコンクリートモデルを用いて超音波の伝搬挙動の数値シミュレーションを実施する。もちろん,骨材を含むコンクリートの場合,骨材は3次元形状を有するため,2 次元解析モデルで骨材による散乱を忠実に表すことはできない。また,骨材の3 次元形状に加えて,気泡や表面粗さなどの詳細な条件もモデル化には考慮されない。このため,不完全なモデル化による計算誤差や計測ノイズなどは数値シミュレーションによる画像には反映されず,2 次元解析によって得られる画像データをそのまま深層学習における学習データとして用いることはできない。そこで2 次元解析で得られた画像データを実験による画像データに類似させるべく,画像生成AI の一種であるCycleGAN 12)によるスタイル変換を施す。これによって最低限の数値シミュレーションによって大量の学習データの作成を目指す。
以下では,まず,本研究で実施する超音波シミュレーションの対象であるLUVT について説明した後,本研究のベースとなる有限要素法を概説する。次に,有限要素解析に必要なコンクリートの2 次元モデル化,特にボロノイ分割について述べた後,解析結果の例を示す。その後,CycleGAN によるスタイル変換を述べた後,その結果を検討し,最後に提案手法の妥当性及び今後の展開等について述べる。
森山 朗成,高橋 知来,和田 啓志,谷平 智紀,清水 鏡介,中畑 和之
Estimation of Wave Velocity Distribution from Wavefield Data Using Digital Image Processing Method
Akinari MORIYAMA, Tomoyuki TAKAHASHI, Keishi WADA, Tomoki TANIHIRA, Kyosuke SHIMIZU and Kazuyuki NAKAHATA
Abstract
Image-based evaluation is one of the core technologies in nondestructive evaluation 4.0 (NDE 4.0), and its adoption is accelerating due to advancements in digital image processing and hardware such as graphics processing unit. Digital image correlation methods enable the extraction of strain and stress under static conditions in the current NDE application. This study proposes applying particle image velocimetry (PIV) to dynamic behavior, such as ultrasonic wave propagation, and extracting the wave velocity in heterogeneous and anisotropic materials. Wavefield data obtained by various sensing techniques, such as a laser ultrasonic method, can represent the temporal evolution of wave propagation across spatial positions. We present two case studies of the wave group velocity extraction from wavefield data using the PIV: one evaluates local velocity distribution in heterogeneous materials, and the other estimates the directional dependency of velocities in anisotropic materials.
Key Words: Image-based evaluation, Digital image processing, Particle image velocimetry, Wavefield data, Wave group velocity distribution
緒言
画像によるきずの評価は,NDE 4.01)の中核技術の一つで
あり,デジタル画像処理の技術やGraphics Processing Unit(GPU)等のハードウエアの向上によって,導入が加速しつつある。最近では,機械学習や人工知能処理への利活用を見据えて,非破壊検査用のデジタル画像を収集し,公開するプロジェクトも進められている2)。デジタル画像処理には様々な方法があるが,物体の変形を検出することに着目した技術として,非破壊検査では可視光カメラを用いたひずみ・応力測定3)が代表的であり,特集が組まれるほどの関心を集めている4)。これらは高解像度の可視カメラで撮影した写真の画素(ピクセル)の移動量から,準静的な変形を全視野で定量化するものである。主要なアルゴリズムとしては,画像の相関を比較しながら変形を捕捉するDigital Image Correlation5)(DIC)が有名である。
超音波の伝搬のような高速かつ微小に振動するような挙動を捉えるのに,可視カメラの解像度だけに頼るのでは難しいが,光学処理を援用すれば可能である。例えば,ストロボ光を高繰り返し照射することで対象表面の明暗差から波動伝搬を可視化する方法6)がある。また,センサ等で得られた圧力信号等を加工して画像とすることで,カメラを使わずに,波動や振動による変形を間接的に可視化することもできる。例えば,医療超音波イメージングでは,超音波プローブを用いて血流の速度変化をカラードプラ法7)によってリアルタイム表示している。非破壊検査でも,超音波伝搬を間接的に可視化する方法8),9)がある。これらの方法で得られるような,位置x における微小時間t の物理的な変化量(変位,速度,応力,あるいはそれに相当する量9))はWavefield データ10)と呼ばれている。このデータセットから波動の伝搬が観察できるだけでなく,散乱箇所から損傷位置を自動で認識すること11)も可能である。また,非破壊検査では,このWavefield データを波数k -周波数f に変換して詳細に検討する研究12)も多くみられ,局所波数解析によって多層薄板構造の層ごとの欠陥を分離する技術13)や異方性板への応用14)が提案されている。
(x,t)領域のWavefield データセットは,超音波の伝搬・散乱を観察する目的で使用されることが多い。近年では,粗大結晶粒を有する金属表面で得られるWavefield データから,デジタル画像処理を施して結晶分布を可視化する研究15)も報告されている。この論文では,プログラミング言語Python において,画像解析をアシストするためのライブラリNumPy 16)を使用していると明示的に述べられている。このようなデータサイエンスツールを積極的に活用し,検査に必要な情報を効率的に抽出・解析できることは,NDE 4.0 時代の技術者に求められる新しいスキルセットである。
そこで,本研究では, デジタル画像処理ツールを利用し,Wavefield データ画像から非破壊検査の事前情報である音速の抽出を試みる。ここでは,画像処理ライブラリOpen Source Computer Vision Library 17)(OpenCV) に含まれるParticle Image Velocimetry 18)(PIV)を適用する。PIV は,流体中に微粒子を分散させ,その粒子の移動を追跡することで流体の速度場を測定する用途で広く使用されている。PIV を超音波画像に応用する試みは医療では行われている19)が,非破壊検査では適用例は少ない。PIV の主要アルゴリズムは,前述のDIC でも採用されている相互相関法20)である。PIV は移動量が比較的大きいものを想定しており,通常は一つ前の時間ステップからの変化を計算していくが,DIC の場合は初期の位置からの変化を計算することが多い。本研究では,超音波の波面にPIV を適用し,局所的な縦波音速(群速度)分布を推定する試みとして,次の二つの検討例を示す。一つは,コンクリート等の非均質材料への応用を見据えて,介在物が多数存在する2 種材料において母材と介在物の局所的な音速分布を推定すること,もう一つは,音響異方性を呈する材料に対して方向によって変化する音速を推定することである。異方性材料や非均質材料において,音速分布を得ることは物性評価21)にも寄与する。また,超音波フェーズドアレイ探傷において,特に異方性材料の遅延則を設定するのに役立つ。Wavefieldデータを取得できない場合は,音速分布の測定に高度な解析技術22),23)が必要であるが,モックアップ等で事前に対象と類似の情報が取得できる場合には本アプローチは有効である。なお,本論文はPIV の非破壊検査への適用を試みた萌芽的な検討であり,PIV のパラメータの最適化までは実施していない。
愛媛大学 中畑 和之
Nondestructive Inspection Devices and Peripheral Technology Underpinning NDE 4.0
Ehime University Kazuyuki NAKAHATA
キーワード: NDE 4.0,非破壊検査機器,周辺技術,エッジデバイス,データ連携
はじめに
好評だった2023 年の第1 回NDE 4.0 シンポジウムに続き,第2 回NDE 4.0 シンポジウムが,2024 年12 月20 日に(一社)日本非破壊検査協会亀戸センターで開催された。NDE 4.0 は,デジタライゼーションを通じて,非破壊検査の効率向上やデータ連携を目指した概念であり,欧米では,学協会や産官学が連携して取り組んでいる。米国非破壊試験協会(ASNT)の機関誌Materials Evaluation(Vol.78, No.7)で,NDE 4.0 の特集号1)が組まれたのは2020 年7 月であるから,もう5 年も前の話である。NDE 4.0 を牽引するVrana とSingh は,2021 年に執筆したJornal of Nondestructive Evaluation で,NDE 4.0を象徴する技術として,次を挙げている2)。デジタルツイン,デジタルスレッド,Industrial Internet of Things(IIoT),データの相互運用性,5G 通信,ブロックチェーン,クラウドコンピューティング,人工知能(AI),ビッグデータ,量子コンピュータ,拡張現実(XR),3D プリンティング,自動化・ロボット工学,シミュレーション,DX である。NDE 4.0 は,第4 次産業革命(Industry 4.0)の理念や技術を基盤にしており,上記はIndustry 4.0 で中核を成す技術群であるが,非破壊検査の現場検査員にはもしかして馴染みがないかもしれない。
そのような中で,老舗の非破壊検査の機器メーカや検査企業,海外では新興企業も加わって,NDE 4.0 を見据えた新しい製品やサービスを展開してきている。2024 年5 月に韓国で開催された第20 回世界非破壊試験会議(20th WCNDT)の展示会3)では190 社程度の企業ブースがあり,その中で多くの企業がNDE 4.0 を具現化するデジタル/スマート検査機器を展示していた。特に,IoT 機器,AI 解析,ロボット支援,クラウド処理を活用した製品が人目を惹いていた。NDE 4.0 を概念から実装へと推し進める機運の高まりを象徴する展示会であったといえる。著者は,それを直接見学することができたが,20th WCNDT に参加しなかった方々に向けて,ぜひ,それを体験して頂きたいと考えた。そこで,第2 回NDE 4.0シンポジウムにおいて,製品紹介や機器展示を実施する場を設けることにした。NDE 4.0 が実現するには,多くのユースケースが必要であり,実際の装置や製品に触れてもらうことでイメージが膨らみ,理解も深まる。また,企業・大学・現場技術者の会話の場を創出することにもつながる。
第2 回NDE 4.0 シンポジウムでは,6 件の製品紹介(講演と展示)があった4)。以下に,講演番号,講演タイトル,講演された企業名を示す。
#06 リアルタイムアダプティブTFM/PWI・コヒーレンスイメージング機能搭載超音波探傷装置の紹介,ディービー(株)
#07 渦電流探傷試験(ECT)細管検査の為の人工知能(AI)検出機能,Eddyfi Technologies Inc.
#08 超音波探傷用ゲル状弾性体音響カプラの紹介,(株)検査技術研究所
#09 設備保全向け製品のご紹介,丸文(株)
#10 配管減肉モニタリングのIoT 化,三菱重工業(株)
#11 ウエイゲート・テクノロジーズNDE 4.0 対応製品(UT/RVI),日本ベーカーヒューズ(株)
本稿では,以上の機器展示および製品をフィーチャして紹介する。ここでは,講演概要集,当日のインタビュ,個別に頂いた追加資料を元に作成している。しかし,著者の理解不足により,展示者の意図と異なる部分があるなど,十分な解説ができないかもしれないが,ご容赦頂きたい。