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機関誌

2025年11月号バックナンバー

2025年11月19日更新

巻頭言

「電磁非破壊試験の進展」特集号刊行にあたって

後藤 雄治

現代社会において,安全性と品質管理の重要性はますます高まっています。インフラの老朽化,製造業の高度化,新材料の普及などが進む中で,構造物や製品の健全性を評価する非破壊試験(NDT)は,従来以上に不可欠な技術となっています。特に,電磁気を利用した非破壊試験は,高精度かつ汎用性に優れた手法として注目を集めており,その適用範囲は着実に広がっています。電磁気を利用した試験手法には,渦電流探傷法,磁粉探傷・漏洩磁束法,電磁超音波法,電磁力振動法などがあります。これらは,金属材料の欠陥検出や材料評価を非接触で迅速に行うことが可能です。特に,高速かつ高精度の診断が求められる産業分野で広く活用されています。

例えば,渦電流探傷法は,導電性材料に交流磁界を印加して生じる渦電流を利用し,材料内部の欠陥やき裂を検出する手法です。特に配管や金属板の表面および近表面の欠陥検出に優れ,プラントの保守点検において重要な役割を果たしています。近年では,センシング技術や信号処理技術の進化により,より深部の欠陥検出や表面状態の影響を受けにくい診断が可能となっています。また,磁粉探傷・漏洩磁束法は,試験対象が強磁性体であり,強磁界を印加させ,欠陥部から漏洩する磁束を検出することで内部のき裂等を可視化する手法です。漏洩磁束の分布や強度の解析を通じて,より精度の高い評価が実現されています。加えて,電磁超音波法や電磁力振動法は,接触媒質を必要とせず,非接触で超音波や振動を試験材料に発生させることができ,内部欠陥を評価できる技術として評価されています。

近年,環境負荷の低減や資源の有効活用が求められる中で,非破壊試験技術の重要性は一層増しています。電磁気を活用した探傷技術は,迅速かつ非接触という特性を活かし,持続可能な社会の実現に大きく貢献しています。しかし,さらなる技術的発展には多くの課題も残されています。例えば,複合材料や新素材への適用性向上,測定環境の影響を最小限に抑えるセンシング技術の高度化,AI を活用した高精度なデータ解析手法の進展が必要不可欠です。また,標準化や規格の整備を進めることで,産業界全体での活用促進を図ることも求められます。教育・人材育成の観点からも,次世代の検査技術者が電磁気を応用した非破壊試験の知識とスキルを身につけ,実社会で活躍できる環境の整備が重要です。研究・開発の推進とともに,学術界と産業界が連携し,より高度な検査技術の創造を目指すことが必要となっています。本特集では,近年注目されている新たな電磁非破壊試験やその原理を紹介するとともに,これらの試験法の実用化の可能性についても示しています。

最後に,本特集号の刊行にあたり,多くの皆様にご協力いただきました。ご尽力いただいた執筆者の皆様,ならびに関係各位に,心より御礼申し上げます。

 

解説

電磁非破壊試験の進展

漏洩磁束のフーリエ係数の計測による鋼棒材の探傷法

東京大学 志久 寛太  奈良 高明

Inspection of Ferromagnetic Rods Based on the Fourier Coefficients of the Leakage Magnetic Flux
The University of Tokyo Kanta SHIKU and Takaaki NARA

キーワード: 漏洩磁束,鋼棒材,逆問題,磁気双極子,フーリエ係数

 

はじめに
 鋼棒材は一般的な機械部品材料として広く用いられており,非破壊検査によって欠陥を検出することが求められる。このとき,欠陥の軸方向位置に加えて周方向位置を求めることで検査の効率化および欠陥検出後の処理の効率化を図ることが可能である。

非破壊検査の方法として漏洩磁束探傷,渦電流探傷,超音波探傷,画像による方法など様々な手法が知られている。漏洩磁束探傷は,励磁器によって試験対象を磁化した際に欠陥から空気中に漏洩する磁束を磁気センサで計測することで欠陥を検出する手法である。本手法は,非接触で探傷可能であり,表面の付着物の影響を受けづらいという特長を持つ。漏洩磁束は距離に応じて急激に減衰するため,計測位置と試験体との距離であるリフトオフを小さくするほど計測される漏洩磁束は強く感度が高い計測が可能である。

従来の漏洩磁束探傷において,欠陥の周方向位置まで推定する場合,ホール素子などのセンサを周方向に並べたセンサアレイを用いて磁束を計測し欠陥の検出が行われてきた1)。しかしながらこの方法には特に径が小さな材料の場合にはセンサ数が限られるため周方向の分解能が低下するという問題がある。さらに多数のセンサのキャリブレーションが必要であるということも課題である。少数個のセンサを回転させることで周方向への走査を行う,回転プローブを用いる方法2)もあるが,回転速度による走査速度の制限がある。一方で筆者らは二つのコイルのみを用いた周方向の走査不要な欠陥位置の推定の方法を文献3)において提案している。この手法では漏洩磁束の軸方向成分の一次のフーリエ係数を計測することで欠陥の位置が推定可能であり,さらにフーリエcos,sin 係数は軸フーリエコイルと呼ばれるコイルでそれぞれ直接計測することが可能である。しかし,軸方向の漏洩磁束を計測するため,センサ構造からリフトオフが大きくならざるをえず,それによって感度が低下するという課題があった。

そこで筆者らは,二つのセンサのみで欠陥位置を推定可能で軸フーリエコイルより高感度なセンサとして動径フーリエコイルを提案した4)。本稿では本探傷法について解説する。動径フーリエコイルは漏洩磁束の動径方向成分を計測するコイルであり,動径方向には厚みのないコイルを鋼棒材表面に這うように巻きつけることができる構造であるため,リフトオフを小さくすることが可能である。

 

フラックストランスフォーマを用いた渦電流探傷試験

九州大学 笹山 瑛由

Eddy Current Testing Using a Flux Transformer
Kyushu University Teruyoshi SASAYAMA

キーワード: 渦電流探傷試験,フラックストランスフォーマ,磁気センサ,生体磁気計測,光ポンピング磁気センサ

 

はじめに
 金属などの導体の表面のきずの非破壊検査方法として,渦電流探傷試験(Eddy Current Testing;ECT あるいはET)が広く用いられている1)。渦電流探傷試験は,時間的に変化する磁界によって導体に渦電流を誘導させ,きずによる渦電流の変化を磁気的に検知する試験方法であり,非破壊かつ非接触で検査できるという長所がある。そのため,高速かつ簡便に検査ができる点で,他の試験方法に対して優位性があると言える。

渦電流探傷試験の検査箇所は表面のきずに限定されている。それは,表皮効果が現れるためである。表皮効果とは,導体表面において渦電流が最も大きく,試験体内の深部に入るほど渦電流が減衰する現象のことであり,磁界の周波数や試験体の導電率,比透磁率が高いほど顕著に生じる。一方,磁界の周波数を低くして表皮効果の影響を小さくすることができれば,試験体の深部の探傷も可能となる。

図1 に低周波磁界や直流磁界でも計測可能な磁気センサの種類と感度をまとめた。高感度な磁気センサとしては,コンパス用としてのホール素子や,高密度磁気記録媒体の読み出しに用いられる磁気抵抗効果(Magnetoresistive;MR)素子,自動車の位置検出としても用いられる磁気インピーダンス効果(Magnetoimpedance;MI)素子,潜水艦探知や鉱物資源探査,人工衛星の姿勢制御用などに用いられるフラックスゲート磁力計,心磁計(Magnetocardiography;MCG)や脳磁計(Magnetoencephalography;MEG)等の生体磁気計測に用いられる超伝導量子干渉素子(Superconducting Quantum Interference Device;SQUID)が挙げられる2),3)。感度限界はそれぞれ,ホール素子やMR 素子はおおむね100 nT オーダ(1 nT(ナノテスラ)= 10−9 T),フラックスゲートやMI 素子は100 pT オーダ(pT(ピコテスラ)= 10−12 T),SQUID は1 fT オーダ(1 fT(フェムトテスラ)= 10−15 T)である。このような高感度な磁気センサを用いて鋼材内部や裏面のきずを検出する手法は,道路橋梁などの老朽化した社会インフラの検査に応用されている4)。

その他,生体磁気計測向けの高感度な磁気センサとして,光ポンピング磁気センサ(Optically Pumped Magnetometer;OPM)5)が挙げられる。OPM はSQUID の感度と同程度かそれを凌ぐ感度であり,また,冷却装置も不要ということで近年注目されている。このように,現在でも磁気センサは高感度化に向けて技術が進歩している。一方,このような高感度な磁気センサを用いる場合に留意すべき点がいくつかある。その一つとして,計測できる磁界の範囲(ダイナミックレンジ)である。高感度磁気センサは様々な制約によりダイナミックレンジが狭まる傾向がある。ダイナミックレンジが狭い磁気センサの場合,地磁気(日本においては50 μT 程度)や磁気ノイズの多い環境では計測できないため,磁気シールドルームなどの特殊な環境の下で計測することが多い。その他,試験体が磁性体の場合,それが磁化しているとその磁界の影響を受けて正しく計測できなくなる可能性がある。また,ECT の原理上,試験コイルにより強い磁界を試験体に印加するが,その試験コイルの磁界が磁気センサに直接影響を与えて計測できなくなることもある。

一方,SQUID を用いた生体磁気計測においては,被験者からの生体磁気をSQUID で直接計測するのではなく,被験者からの生体磁気をピックアップコイルと呼ばれるコイルで一旦補足し,その電気信号を別の場所に配置した入力コイル(あるいはインプットコイル)と呼ばれるコイルに伝達することで磁界を生成し,それをSQUID で計測するという,フラックストランスフォーマと呼ばれる方式により計測することが一般的である。フラックストランスフォーマを用いれば,外来磁界をSQUID が直接は受けないため,上記の問題を回避することができる。また,フラックストランスフォーマは,SQUID に限らず他の磁気センサにも応用することができる。つまり,他の高感度磁気センサを比較的容易にECT へ応用できる可能性がある。

本稿では,初めにSQUID を用いた計測で広く用いられているフラックストランスフォーマの概要について述べた後,フラックストランスフォーマを高感度磁気センサであるMI センサやOPM センサへ用いた例を紹介する。

 

磁性鋼管の保守検査に貢献するリモートフィールド渦電流探傷法の原理と新展開

大分大学 小松原 魁  高  炎輝

Principles and New Developments of Remote Field Eddy Current Testing Method for Steel Pipe Maintenance and Inspection
Oita University Kai KOMATSUBARA and Yanhui GAO

キーワード: 渦電流探傷法,磁性材料,渦電流,有限要素法,リモートフィールド渦電流試験

 

はじめに
 電磁非破壊試験の一つである渦電流探傷法は,電磁誘導により試験対象に渦電流を誘起させ,試験対象の不連続部に起因する渦電流の変化をコイルのインピーダンス変化として評価する手法である。渦電流探傷法は電磁誘導現象を利用するため,試験プローブと試験対象が接触する必要がない。さらに試験プローブは主にコイルで構成されるため,装置の構成が単純であり試験コストが低い。これらの長所により,金属を用いる様々な産業での活躍が期待される技術である。

現在の日本の産業を支える鉄鋼業においても,渦電流探傷による非破壊試験が重要な役割を果たしている。鉄鋼プラントにおいて,流体の熱交換のために運用されている多管式熱交換器は,運転時の機械振動による伝熱管の摩耗や,熱交換器内部を通過する流体との酸化還元反応による腐食が原因となり,伝熱管に欠陥が発生する。欠陥が進展すると,熱交換器の破壊につながり,プラントの持続的な稼働が困難となり生産効率が低下するため,保守検査の一環として伝熱管欠陥検査を実施することが重要である。ここで多管式熱交換器に使用される伝熱管は金属であり,さらには強磁性であることから,内挿プローブを用いた渦電流探傷試験が適用できるのである。

一般に,内挿プローブを用いた渦電流探傷法には,ニアフィールド渦電流探傷法とリモートフィールド渦電流探傷法の二通りの手法がある。ニアフィールド渦電流探傷法とは,単一のコイルあるいは,励磁コイル(一次)と検出コイル(二次)からなる探傷プローブを管内に挿入して探傷を行う手法である。一方,リモートフィールド渦電流探傷法は,励磁コイル(一次)に対して,検出コイル(二次)を管外径の約2 倍程度の距離に離して配置した探傷プローブを管内に挿入して探傷を行う手法である。内挿プローブにおいて,励磁コイルから誘起される磁場は直接誘導磁場と呼ばれ,この直接誘導磁場成分が支配的となる領域をニアフィールド領域と呼ぶ。また,励磁コイルから生じる交流磁場により,管壁内に誘導される渦電流が作る磁場を間接誘導磁場と呼ぶ。直接誘導磁場が減衰し,間接誘導磁場成分が支配的となる領域はリモートフィールド領域と呼ばれる。ニアフィールド渦電流探傷法とリモートフィールド渦電流探傷法はそれぞれ,ニアフィールド領域あるいはリモートフィールド領域における磁場の変動を評価することからこのように呼ばれている。

ニアフィールド渦電流探傷法は,主に非磁性管を対象とした手法であり,強磁性管の探傷には不向きである。これは,強磁性材料の表皮効果により磁束が管の深層域まで浸透せず,管の外面の状態を評価できないためである。直流磁化により強磁性管を磁気飽和に達させることでニアフィールドにおける探傷を可能にすることができるが,残留磁化が懸念されることから交流磁界のみを使用した探傷法のニーズがある。一方で,リモートフィールド渦電流探傷法は,管壁内の渦電流による間接誘導磁場を利用することから,強磁性管を対象とした場合でも探傷が可能であることが知られている1),2)。熱交換器の伝熱管の多くは,コスト面から強磁性管が採用されていることから,リモートフィールド渦電流探傷法の技術を確立すべく,これまでに多くの研究が進められてきた。しかし,依然として発展途上の探傷技術であるため産業界への普及には至っておらず,現在は継続的な研究による新たな知見の創出と技術改良が期待されている。

本稿では,上記リモートフィールド渦電流探傷法について,実験的検証と有限要素法を用いた電磁界解析を組み合わせた測定原理ならびに測定における周波数特性を解説する。さらに,測定原理の解析結果をベースとした欠陥検出感度を向上させるプローブの改良を行った結果についても紹介する。

 

電磁力による加振を利用した強磁性体材料への非破壊検査手法の検討

群馬大学 丹羽章太郎  大分大学 後藤 雄治

Study of Non-destructive Testing Method for Ferromagnetic Materials Using Electromagnetic Force Vibration
Gunma University Shotaro NIWA
Oita University Yuji GOTOH

キーワード: 電磁力加振,強磁性体,電磁界解析,3次元有限要素法

 

はじめに
 球状黒鉛鋳鉄材は引張強度や靭性に優れた鋳造材としてクランクシャフトやタービンをはじめとする機械部品などに使われている。一方,球状黒鉛鋳鉄は一般的な鋳鉄材と比較して,引け巣と呼ばれる空洞が内部で発生しやすいことも知られている。引け巣は製品の強度を低下させるため,非破壊検査を実施して引け巣の有無を検査する必要がある1),2)。この引け巣を評価する手法としてはX 線や超音波,電磁気検査法が検討されている。X 線探傷法は放射線を鋳鉄内に透過させ,引け巣の有無を判別する方法であり,引け巣の形状や位置を画像で判別できる利点がある。しかし,一般的に検査設備は大掛かりになり,試験材の厚みが30 mm を超える大型の鋳鉄材への適用が困難となる場合がある。超音波探傷法は高い精度での評価が期待されるが,鋳鉄材表面部を研磨し,水やグリセリンなどの接触触媒を必要とする3)。渦電流などを使用する電磁気検査法は,通常,交流磁界を印加して発生する渦電流の変化を検出するため,表皮効果の影響で鋳鉄内の深い場所に存在する引け巣を検出することは困難である4),5)。そこで,本研究では球状黒鉛鋳鉄材内部に生じる引け巣を,より簡便に評価できる手法として,電磁力振動を応用した非破壊検査法を提案する。これは永久磁石による直流磁界と交流励磁コイルによって強磁性体内部に電磁力による振動が発生する現象を応用したものである。鋳鉄表層から発生する振動は振動検出素子を用いて検出する。振動検出素子から得られた信号を比較することで,鋳鉄内部の引け巣の有無を評価する。ここでは3 次元有限要素法による鋳鉄材の磁気特性の非線形性を考慮した電磁界解析と,電磁力によって変化する鋳鉄材内の変位に対して変位解析を使用することで,試験原理の解明を行う。最後に内部に引け巣を有した球状黒鉛鋳鉄材を使用し,検証実験を行う。

 

電磁界シミュレーションを用いた渦電流試験における振動信号抑制手法の比較

職業能力開発総合大学校 小坂 大吾  テックス理研(株) 熊倉 裕二

A Comparison of Suppression Techniques for Vibration Signals in Eddy Current Testing Using Electromagnetic Simulation
The Polytechnic University of Japan Daigo KOSAKA
Tex Riken Co., Ltd. Yuji KUMAKURA

キーワード: 渦電流試験,貫通プローブ,金属棒,雑音抑制,振動,生成AI

 

はじめに
 社会インフラを構成する基幹部品である金属管,棒,ワイヤー等の金属製品の連続製造工程では,非接触かつ高速な渦電流試験(Eddy Current Testing,以下ECT)による全数検査が広く適用されている。ECT 適用における主要な課題の一つは,製品の移動に伴う振動に起因する検出信号(以下,振動信号)の振幅がきず信号の振幅を上回ることが多く,また製品搬送速度の高速化に伴い振動が増大する傾向があるため,振動信号がきず信号の検出を妨げる要因となることである1)。

振動信号を抑制する手法として,周波数フィルタリング法や多重周波数法といった能動的手法2)−4),あるいは振動に対して自己識別・自己相殺特性を有するプローブなどの受動的手法が知られている。能動的手法は,振動信号ときず信号の周波数差や位相差が小さい場合に効果的な抑制が困難である。一様渦電流プローブ,シータプローブ,クロスポイントプローブといった受動的な振動信号抑制効果を持つ上置プローブ5)−7)は,貫通プローブとして広範囲を検査するために多チャンネル化を要し,機器構成の複雑化を招く。

筆者らは,能動的な信号処理や多チャンネル検出装置を不要とする,受動的振動信号抑制機能を備えた新規原理(二重誘導法)に基づく貫通プローブを提案した8)。二重誘導法は,音響におけるノイズキャンセリング技術が騒音と逆位相の音を能動的に生成することで騒音を低減する原理に類似し,振動と逆位相の磁束を受動的に発生させることで振動信号のみを効果的に低減することが可能である。さらに振動信号を著しく減衰させる一方で,きず信号を増幅させるという特徴を有する。本提案は,2022 年に開催されたAIP Publishing とIEEE Magnetics Society が共催する世界最大規模の磁気系国際会議であるJoint MMM-Intermag Conference において,400件以上のポスター発表の中でBest Poster Award を受賞した。数十年前から実用化されている,単一の励磁コイルと四つの検出コイルを用いる「ダブル差動」または「多差動」と呼ばれる貫通プローブも同様の効果を持つが,提案法は複数の励磁源を用いる点と,それにより電子的な調整機能を持つ点で異なる。

本稿では,既発表の文献8),9)を再構成し,新たに行ったシミュレーション結果を踏まえて,振動信号を抑制可能な本提案手法の原理と効果について,多重周波数法との比較を通じて論じる。既発表の文献と本稿の違いは,電磁界シミュレーションに用いたソフトウェアと対象とする変位ときず形状を小さくしてより現実に近づけた点にある。さらに,近年著しい発展を見せる生成AI を用いた電磁界シミュレーションの試行結果について報告する。

 

報告

学術組織改編(部門の刷新)について -部門再登録への案内-

学術委員会

Restructuring of the Academic Organization in JSNDI(Renewal of the Research and Technical Committees)
− Information about Re-registration for the Committees −
Academic Affairs Committee

 

はじめに
 現在,当協会の学術組織は,非破壊検査の種々の技術分野に対応した12 の部門から構成されていますが,これらの部門は,2010 年の組織再編によって整備されたものであり,それぞれを単位として,研究者・技術者が集い,相互の情報交換や新たな技術に関する調査・研究を実施してきました。しかしながら,これらの部門は,旧来の組織区分(分科会と特別研究委員会)をそのまま引き継ぐ形をベースとしたために,再編の目的の一つとされた分野間の連携はほとんど進まず,15 年が経過するなかで組織の硬直化も進み,NDE 4.0 に象徴される非破壊検査の新しい潮流への対応も難しい状況となってきました。

そこで,このほど,2026 年度の発足を予定して,学術活動全体のさらなる活性化を図るため,いま再びの組織改編(部門の刷新)を行うこととしました。ここでは,今回行う組織改編の具体的内容について説明いたします。

また,今回の再編には部門の新設や廃止を伴うため,後日,団体・個人を問わず,すべての会員の皆様に,部門への再登録をお願いすることになります。そこで,本稿の後半には,再整備される各部門について,対象とする研究分野や今後の展開の方向などに関する説明を付しております。再登録の際に参考としていただきたく思います。

 

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