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機関誌

2026年2月号バックナンバー

2026年2月1日更新

巻頭言

「超音波探傷試験装置および規格の変遷と動向」特集号刊行にあたって

中畑 和之

超音波探傷試験に限らず,非破壊検査全般にわたって日本産業規格(JIS)は検査技術者にとって重要な指針である。私自身アカデミアに属しているため,こうした規格については浅学寡聞であり,特に若い頃はその重要性を意識することはほとんどなかった。しかし,時代は変化し,現在ではアカデミアと産業界の連携がイノベーション創出と国際競争力強化のために,日本全体で推進されるようになっている。これまで比較的自由に(規格をあまり意識せずに)研究を進めてきたが,産業応用を見据える上で,規格化や標準化はアカデミアにとっても理解すべき重要な事項となりつつある。

JIS は,合理的な産業標準の制定と普及を目的として,昭和24 年に施行された「産業標準化法」に基づく国家規格である。JIS は国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)などの国際規格に準拠しており,現在は20 の分野に分類されている。規格番号は,分野を示すアルファベット1 文字と4~5桁の数字で構成され,日本非破壊検査協会(JSNDI)が所管するJIS はZ ○○○○に属するものが多いが,ほかにA,K,G の区分も見られる。JIS の中には,ISO をそのまま採用したもの(IDT:一致)と,日本の現場慣行や実運用を考慮して修正を加えたもの(MOD:修正)がある。一方,超音波探傷試験の代表的規格であるJIS Z 3060「鋼溶接部の超音波探傷試験方法」は,ISO で直接対応する規格が存在しない。これは,JIS Z 3060 が日本の国内産業,とりわけ建設や圧力容器などの分野で長年培われてきた実務や要求に基づいて体系化され,国内の技術発展とともに独自の道を歩んできたためである。さらに,こうしたJIS の多くは,日本非破壊検査協会(JSNDI)の標準化委員会で議論されてきた日本非破壊検査協会規格(NDIS)を基礎としている。NDIS は非破壊検査技術者のための実践的な手引きとして機能し,JIS を補完する役割を果たしている。なお,NDIS 0601「非破壊検査技術者技量認定規定」がJIS Z 2305「非破壊試験技術者の資格及び認証」へ移行したように,国内資格を国際的に通用させるためにJIS へ統合された事例もある。

以上は,アカデミアに身を置く私が本特集号を企画するにあたり学んだことである。多くの技術者にとって上記は釈迦に説法かもしれないが,一方で若手技術者はどうだろうか。2025 年11 月現在,NDIS は84 規格,JSNDI が所管するJIS は52 規格が存在する。諸先輩方のご尽力によって整備されてきたこれらの規格は,次の世代が継承していくことになる。しかし,アカデミアや若手技術者が規格の背景や体系を学ぶ機会は少なく,その理解を深め,興味を喚起する取り組みが求められている。このような問題意識が,本特集号を企画した動機である。

規格と装置は相互に発展してきた歴史を有する。本特集では,超音波探傷試験に関連する規格の変遷と装置の進化に焦点を当てた。JIS では未整備であるフェーズドアレイ超音波法を含め,技術動向を踏まえた規格整備の在り方を議論するための一助として,超音波分野に関する5 件の解説をご寄稿いただいた。いずれの解説も,企画の趣旨にふさわしく,示唆に富む内容となっている。ご多忙の中,ご寄稿頂いた各位に,この場を借りて心より御礼申し上げる。

 

解説

超音波探傷試験装置および規格の変遷と動向

超音波探傷器と超音波探触子の変遷

ベーカーヒューズ・エナジージャパン(株) 中川 真一  (株)検査技術研究所 刈谷 晃洋

History of Ultrasonic Flaw Detectors and Ultrasonic Probes
Baker Hughes Energy Japan, Ltd. Shinichi NAKAGAWA
KGK Co.,Ltd. Akihiro KARIYA

キーワード: 超音波探傷,超音波探傷装置,探傷器,超音波探触子,歴史,JIS

 

はじめに
 超音波探傷は,各産業において工業製品の品質管理/保証や設備の保守検査などで使用されており,欠かせない技術として,80 年以上にわたり活用されている。その歴史を振り返ると,1958 年に制定されたJIS Z 2344「金属材料のパルス反射法による超音波探傷試験方法の通則」が基礎となり,1974年には垂直探傷の代表規格であるJIS G 0801「圧力容器用鋼板の超音波探傷検査方法」,翌1975 年には斜角探傷の代表規格であるJIS Z 3060「鋼溶接部の超音波探傷試験方法」が制定された。これらの規格はJIS Z 2344 制定からすでに60 年以上が経過しているが,改定を経て時代に即した変更が加えられつつ,現在もなお広く使用されている。

これらの規格が整備される過程では,基礎となる研究や研究委員会での実験や検討が盛んに行われていたことが,(一社)日本非破壊検査協会「50 年史」1)にも記録されており,過去の活動の歴史をも知ることができる。これらの活動を通じて多くの課題が解決され,技術の進歩と発展,検査などの生産性や品質向上へ寄与されてきたことが記録されている。さらに,超音波探傷技術の発展とともに,探傷器や探触子の開発・製品化があったことも事実である。表示方法の面でも進化が見られる。現在も広く使用されている基本表示であるA スコープ表示による探傷,電子機器やソフトウエアの発達によりTOFD 法やフェーズドアレイ法などの画像化技術が登場した。本記事では,探傷器及び探触子の変遷とともに,代表的な規格の制定時期や関連する事柄についても整理し,紹介することとした。

 

フェーズドアレイ超音波探傷装置の技術進化と国際規格の概説

Eddyfi Technologies Inc. 松園 真一  Guy MAES

Technological Evolution of Phased Array Ultrasonic Testing Systems and Overview of International Standards
Eddyfi Technologies Inc. Shinichi MATSUZONO and Guy MAES

キーワード: 超音波探傷,フェーズドアレイ,FMC/TFM,規格,国際動向

 

はじめに
 フェーズドアレイ超音波探傷試験(Phased Array Ultrasonic Testing:PAUT)技術は,複数の超音波素子を電子的に制御することで,ビームの方向や焦点を自在に操作できる革新的な非破壊検査技術である。この技術は1960 年代に医療分野で研究が始まり,1970 年代には医療診断装置として実用化された。その後,1980 年代初頭に産業用非破壊検査分野への技術移転が試みられたが,当時は装置が極めて大型かつ高価であり,限られた用途での使用に留まっていた。

1990 年代に入り,カナダのR/D Tech 社が中心となって商業化を推進したことで,PAUT 技術は産業界において大きなブレークスルーを迎えた。デジタル信号処理技術の急速な進歩,マイクロプロセッサの低価格化,低消費電力電子部品の開発などが相まって,ポータブル型装置の実現に向けた開発が始まった。特に原子力発電プラントの供用期間中検査における異材溶接部や遠心鋳造ステンレス鋼溶接部の検査精度向上,検査時間の短縮,作業員の被ばく低減などの要求が,技術開発の強力な推進力となった。

21 世紀に入ると,PAUT 技術はさらなる進化を遂げた。マトリクスアレイ技術の導入,フルマトリクスキャプチャ(FMC)やトータルフォーカシングメソッド(TFM)といった先進的画像処理手法の実用化により,欠陥検出能力とサイジング精度は飛躍的に向上した。同時に,これらの技術進歩に対応した国際規格の整備も進められ,ISO,ASME などの国際規格体系が確立されてきた。

本稿の目的は,PAUT 技術の進化をたどり,その技術的な背景を理解するとともに,今後の発展に向けた課題と展望を提示することである。特に,NDT 技術者や研究者がPAUT 技術の理解を深め,今後の検査技術の進展に備えるための参考となることを目指している。

 

JIS Z 3060(1975~2015)の制定と変遷について

超音波計測技術(同) 名取 孝夫
元千葉県産業支援技術研究所 立川 克美
元JFE スチール(株)東日本製鉄所 守井 隆史

The Establishment and Evolution of JIS Z 3060(1975 − 2015)
Ultrasonic Measurement Technology LLC Takao NATORI
Former Position: Chiba Prefectural Industrial Support Technology Research Institute Katsumi TACHIKAWA
Former Position: JFE Steel Ltd., East Japan Works Takashi MORII

キーワード: 鋼溶接部,超音波探傷試験方法,音響異方性,国際規格との整合化,探傷屈折角

 

はじめに
 JIS Z 3060「鋼溶接部の超音波探傷試験方法」は,1975 年に制定され本年で50 年を迎える。現在に至るまで5 回の改正が行われ,最初の改正は1983 年に,以降1988 年,1994 年,2002 年,2015 年に行われた。改正が行われた間隔は,8 年間,5 年間,6 年間,8 年間,13 年間となる。最新版に至る5 回目の改正に異例の13 年間を要し,また,最新版から本年まで10 年間改正が行われていない。

本規格は,これまで各分野の溶接部の超音波探傷基準に引用され,通則的な存在として広く利用されてきた。制定当時を知る者も少なくなり,最新版の改正に携わった者も現役を退いて久しい。将来においても,JIS Z 3060 が産業界で重要な役割を果たせるよう,この期にこれまでの経緯と現状についてまとめた。

 

超音波探傷試験(UT)に関わる国際規格(ISO 規格)について

ポニー工業(株) 横野 泰和

The International Standard(ISO)Relating to Ultrasonic Testing(UT)
Pony Industry Co.,Ltd. Yoshikazu YOKONO

キーワード: 超音波探傷試験,ISO規格,JIS,標準化

 

はじめに
 一般に,非破壊試験を実施する際に信頼性のある客観的な結果を得るために,関連する規格・基準が引用される。国内においてその最も代表的なものとして日本産業規格(JIS)が挙げられる。例えば,原子力・火力発電プラント,石油石化・化学プラント等の大型構造物で,公共性の高い社会資本に相当するものに対しては,法律・規則などによってその実施規定が定められているが,具体的な実施手順等については,JISなどの既存の規格・基準を引用し,法規によって合否判定などの基本事項を規定している場合が多い。

本稿では,各種材料及び構造物に適用される超音波探傷試験について,国内規格であるJIS と国外規格であるISO の関係について比較検討し,これらを適用する際の基本的な考え方について概説する。

 

PAUT 通則− NDIS 2429

エビデント・インスペクション・テクノロジーズ・ジャパン(株) 山本優一郎

PAUT General Rule − NDIS 2429
Evident Inspection Technologies Japan corp. Yuichiro YAMAMOTO

キーワード: フェーズドアレイ法,TFM,超音波探傷,通則,NDIS

 

はじめに
 2024 年12 月にNDIS 2429 フェーズドアレイ法(以下フェーズドアレイ)による超音波探傷試験方法通則が制定された。本規格は反射法によるフェーズドアレイで,接合部を含む金属材料及び非金属材料のきずを検出し評価する超音波探傷試験を,手動又は自動で行う場合の一般事項について規定したものである。既に日本国内でもフェーズドアレイを用いた検査は幅広い分野で行われているが,きずの検出及び評価に用いられるJIS(日本産業規格)がまだないことから,作業者は従来の超音波探傷試験方法として規定されているJIS Z 3060:2015 鋼溶接部の超音波探傷試験方法や,諸外国の規格(ISO 19285:2017 など)を参照して運用しているのが実情である。既に諸外国ではフェーズドアレイだけでなく,近年新しい検査手法として注目を集めるTFM(Total Focusing Method)の規格化も進んでいる現状を踏まえ,国内でもフェーズドアレイを使用した探傷試験を行う上で参考にできる国内規格の制定が長年望まれてきた。NDIS 2429 はそれら背景を踏まえ制定された国内規格である。本稿ではNDIS 2429 制定背景及び主要項目の紹介を行う。

 

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