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機関誌

2026年4月号バックナンバー

2026年4月1日更新

巻頭言

「材料の粘弾性特性評価」特集号刊行にあたって

坂井 建宣

本特集号は,応力・ひずみ測定部門に関連した内容として,「材料の粘弾性特性評価」をテーマに取り上げました。 近年の地球規模での資源枯渇問題を受け,持続可能な社会の実現に向けた材料の有効利用や長寿命化が強く求められています。これに付随し,製品開発における材料設計の重要性は一段と増しています。従来,弾性解析や弾塑性解析に基づく破断予測等は広く行われてきましたが,実用環境下における長期的な変形予測や耐久性評価の精度向上が喫緊の課題となっています。特に高分子材料や複合材料は,変形速度や荷重の持続時間に応じて機械的特性が著しく変化する粘弾性特性を有しています。また,腐食や劣化といった経時的な材料特性の変化も,製品の信頼性を左右する重要な要因です。従って,材料設計の観点からこれら時間依存性を精緻に評価することは,構造物の安全性を担保する上で必要不可欠なプロセスであると言えます。

粘弾性特性の大きな特徴は,時間依存性のみならず顕著な温度依存性を併せ持つ点にあります。この性質を利用した時間-温度換算則は,低温環境下での長期間にわたる挙動を,高温環境下での短時間の試験結果から予測する加速試験法に用いられています。この理論に基づき作成されるマスター曲線を用いることで,実測困難な時間領域における挙動予測が可能となり,さらにはこの結果から算出される粘弾性パラメータを用いた有限要素法(FEM)による構造解析も行われています。

しかしながら,粘弾性力学を体系的に扱った参考書は少なく,大学等において粘弾性力学に関連する講義が開講される例も極めて少ないのが現状です。粘弾性特性を専門とする研究者も決して多くはなく,お互いの情報共有などは主に学会等のコミュニティに委ねられています。このような背景から,時間依存性材料に関する国際会議(International Conference on Mechanics of Time-Dependent Materials, MTDM)が約2 年ごとに開催され,情報交換が行われてきました。直近では2024 年7 月に,青山学院大学を会場として日本で盛大に開催され,粘弾性力学・測定・評価技術に関する最先端の議論が交わされました。また,国内においても日本実験力学会の時間依存性材料分科会を中心に活発な活動が展開されています。当協会の応力・ひずみ測定部門にも,粘弾性力学を専門とする研究者が多く集まっており,部門OS や講演会を通じて,理論と実践の両面から討論が続けられています。

本特集号では,これら国内外の会議や部門活動において先導的な役割を果たされている研究者の方々に,5 件の解説記事の執筆を依頼いたしました。その内容は,粘弾粘塑性構成方程式に基づく挙動予測,ガラス材料への時間-温度換算則の適用,デジタル画像相関法(DIC)を用いた線形粘弾性体のポアソン比の時間・温度依存性,緩和弾性率を用いた非晶性高分子材料のひずみ速度依存性評価,時間-温度換算則の結晶性材料や繊維強化材への適用と,多岐にわたる最新の成果を網羅しています。本特集号が多くの読者の参考になれば幸いです。最後に,お忙しい中,特集号にご寄稿いただきました筆者の方々に厚く御礼申し上げます。

 

解説

材料の粘弾性特性評価

熱可塑性樹脂の粘弾粘塑性構成式

芝浦工業大学 坂上 賢一

Viscoelastic-viscoplastic Constitutive Equation for Thermoplastic Resin
Shibaura Institute of Technology Kenichi SAKAUE

キーワード: 粘弾性,粘塑性,構成式,熱可塑性樹脂

 

はじめに
 熱可塑性樹脂の力学挙動は,降伏応力以下ではひずみ回復可能な粘弾性挙動,降伏応力以上ではひずみ回復不可能な塑性挙動または粘塑性挙動を示し,変形の全過程で温度とひずみ速度の依存性が顕著な材料である。熱可塑性樹脂の粘弾粘塑特性の評価では,粘弾粘塑性構成式に基づいて粘弾性特性計測と引張試験によって材料物性を評価する。

粘弾粘塑性構成式には,粘弾性体と粘塑性体の直列モデルを用いるのが一般的である。粘弾性体の構成式には,線形粘弾性体1),2)やSchapery 非線形粘弾性体3),4)が多く用いられている。粘塑性体の構成式には,Perzyna 粘塑性5),6)を用いた研究が多く,粘弾性とPerzyna 粘塑性を組み合わせた構成式を汎用有限要素解析ソフトに実装した数値解析アルゴリズムも提案されている。しかし,熱可塑性樹脂の粘塑性挙動は,体積変化を伴う圧縮性塑性変形や,引張と圧縮の降伏応力が異なる非対称性を示すなど非常に複雑である7)−9)。粘弾性とPerzyna 粘塑性の組み合わせで表現ができない複雑な力学挙動を取り扱う場合には,他の粘塑性構成式を仮定した上で,多様な材料試験を実施する必要がある。

本稿では,粘弾性構成式と降伏条件・粘塑性ひずみ流れ則について概説し,線形粘弾性とPerzyna 粘塑性体の力学モデルに基づくポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂の力学特性評価の例を示す

 

一軸圧縮クリープ試験による光学ガラスの粘弾性特性評価

近畿大学 伊藤 寛明

Evaluation of Viscoelastic Properties of Optical Glass by Uniaxial Compression Creep Testing
Kindai University Hiroaki ITO

キーワード: 粘弾性特性,クリープ試験,時間-温度換算則,光学ガラス

 

はじめに
 高分子材料をはじめとする粘弾性体の力学特性評価において,周期的変形に対する応答を解析する動的粘弾性試験(Dynamic Mechanical Analysis:DMA)は,現在最も標準的な手法として確立されている。DMA は,広い周波数・温度範囲において貯蔵弾性率や損失弾性率を高感度に測定できるため,供試材のガラス転移点(Tg)の同定や減衰特性の解析に極めて有効である1),2)。

しかし,本手法を光学ガラスの粘弾性特性評価へ適用するには,装置仕様上の課題がある。一般的な高分子材料用DMA装置の加熱上限温度は600℃程度であることが多いのに対し,光学ガラスのTg は700℃を超えることも珍しくない。そのため,市販のDMA 装置では,粘弾性挙動が顕著となる温度領域での測定自体が困難な場合が多い。

また,近年需要が急増しているガラスモールド成形の有限要素解析(FEA)では,粘弾性特性を表す入力データとして,周波数領域の「複素弾性率」ではなく,時間領域で定義される「緩和(せん断)弾性係数」が求められる3),4)。DMA で得られた周波数データを時間領域へ変換することは理論上は可能であることは広く知られている5)ものの,スペクトルの変換に伴う近似誤差の混入や,準静的圧縮負荷が作用するガラスモールド成形プロセスで生じるような長時間かつ大変形の挙動を正確に評価する上では,時間経過に伴う変形を直接追跡する静的クリープ試験の方が,現象を直感的かつ忠実に捉えやすいという利点がある。

そこで本稿では,高温対応が比較的容易な装置構成を持ち,かつ時間領域の応答を直接測定できる「一軸圧縮クリープ試験」に焦点を当てる。光学ガラスの粘弾性特性,つまり,「クリープ関数(緩和弾性係数)」,「粘度」,「時間-温度換算因子(シフトファクタ)」を決定するための実験的手法とそのデータ解析方法を紹介するとともに,光学ガラスの化学組成(ネットワーク構造)の違いが粘弾性特性に及ぼす影響について最新の知見を交えて解説する。

 

線形粘弾性体のポアソン比の時間・温度依存性

青山学院大学 米山  聡

Time- and Temperature-dependence of Poisson’s Ratio for Linear Viscoelastic Materials
Aoyama Gakuin University Satoru YONEYAMA

キーワード: 粘弾性,ポアソン比,リラクゼーションモジュラス,マスター曲線,デジタル画像相関法

 

はじめに
 ポリマーをはじめとする粘弾性材料は産業分野で広く利用されており,その時間・温度依存性挙動の理解とともに,材料特性を正確に把握することが求められている。線形粘弾性理論では,等方等質な粘弾性材料を特徴付けるためには弾性材料と同様に2 つの独立した特性係数が必要となる。これら2つの特性係数が既知であれば,ラプラス変換領域における相互関係を用いて他の材料特性を得ることができる。しかし,2種類の特性係数の測定は煩雑であるため,ポアソン比や緩和体積弾性係数などはしばしば定数として扱われている1),2)。これらは実際には時間・温度依存性を示すため3)-6),定数と仮定することは応力解析結果や強度評価結果に不確かさをもたらす可能性がある。

2種類の独立した粘弾性材料特性は本来,別々の試験から得る必要がある。例えば,複素モジュラス(複素弾性係数)は繰り返し引張圧縮試験もしくは曲げ試験により,複素せん断弾性係数は繰り返しねじり試験により取得する。しかし,これらの特性係数は同一試験片を用い,同一条件下で同時に測定することが望ましいとされTschoegl ら3)はこれを粘弾性体の材料特性評価における標準プロトコルとして示している。しかしながら,2 種類の特性係数を同時に測定するのは容易ではない。Emri とProdan 7)は緩和体積弾性係数と緩和せん断弾性係数を測定するための特殊なシステムを開発している。しかし装置が特殊で測定システムが複雑であり,実施は容易ではない。Pritz 6)は複素粘弾性ポアソン比の測定法を検討し,任意の2 つの材料特性を測定することでポアソン比を確実に求められることを示したが,標準プロトコルを満たす測定の実施,すなわち2 つの特性の同時測定は依然として困難である。

ポアソン比は縦ひずみと横ひずみを測定することで求めることができる。Giovagnoni 5)はひずみゲージを用いて縦ひずみおよび横ひずみを測定することで粘弾性材料のポアソン比を評価したが,ひずみゲージは硬質材料での使用に限られ,高温で軟化した樹脂の測定には不向きである。一方,Pritchard ら8)はデジタル画像相関法により縦ひずみおよび横ひずみを測定し,軟質材料のポアソン比を決定した。デジタル画像相関法は非接触かつ簡便なひずみ測定法であるため,粘弾性材料のポアソン比の評価に有用である。粘弾性材料特性の測定には動的粘弾性試験が用いられることが多い.広い時間領域の特性取得や標準プロトコルへの適合の観点から,ポアソン比も動的粘弾性試験により取得することが望ましい。従って,動的粘弾性試験中にポアソン比を直接測定することが,2 つの独立した粘弾性特性を同時に評価する最も簡便な方法と考えられる。

本稿では,まず等方等質な線形粘弾性体を対象として,材料特性係数間の内部変換によって他の係数を得る方法を述べる。次に,複素モジュラスと同時にポアソン比を測定した例を示す。動的粘弾性試験中に縦ひずみおよび横ひずみを測定するため,デジタル画像相関法を適用する。得られた複素モジュラスおよびポアソン比から,特性係数の内部変換を用いて緩和せん断弾性係数と緩和体積弾性係数のマスター曲線を得ることができる。

 

非晶性高分子材料の緩和弾性率による応力-ひずみ関係のひずみ速度依存性の推定

金沢大学 樋口 理宏

Estimation of Strain-rate Dependence of Stress-strain Curves of Amorphous Polymer Materials Using Relaxation Modulus
Kanazawa University Masahiro HIGUCHI

キーワード: 動的粘弾性測定,緩和弾性率,ひずみ速度依存性,熱レオロジー的単純,非晶性高分子材料,応力−ひずみ関係

 

はじめに
 構造設計においては,衝突や振動などの動的荷重を受ける状況を想定し,低ひずみ速度から高ひずみ速度に至る広いひずみ速度域における機械的特性を把握しておくことが重要である。特に高分子材料は,金属材料と比較して分子運動に起因する時間依存性や温度依存性が顕著であり,評価条件の違いによって力学応答が大きく変化することが知られている1),2)。

力学特性の評価には,万能試験機による準静的試験に加え,スプリット・ホプキンソン棒(Split Hopkinson Bar,SHB)法などの高ひずみ速度域における動的試験手法が広く用いられてきた2)-4)。これらの手法は,材料の応力−ひずみ関係を直接,測定できる点で有効である一方,試験装置が大規模となることや,試験条件・試験片形状に制約が多いことから,材料評価や健全性評価の観点では必ずしも簡便な手法とは言いがたい。

一方,高分子材料の動的粘弾性測定では,貯蔵弾性率,損失弾性率および損失正接を温度や周波数の関数として測定することで,材料の粘弾性特性を比較的容易に評価することができる1),5)。さらに,対象材料が熱レオロジー的単純性を満たす場合には,動的粘弾性測定結果を時間軸へ換算し,時間とともに剛性が低下する緩和弾性率として整理することが可能である。この緩和弾性率を用いることで,線形粘弾性理論の枠組みに基づき,微小変形域における応力応答や,ひずみ速度および温度に対する依存性を理論的に評価できる可能性がある。

結晶性高分子では,結晶相と非晶相が混在する複雑な高次構造に起因して複数の緩和機構が重なり合うため,熱レオロジー的単純性が成立しない場合が多い6)。一方,結晶構造を持たない非晶性高分子材料では,比較的単純な緩和挙動を示すことが多く,動的粘弾性測定結果を力学応答の評価へと結び付けやすいという特徴を有している5),7)。

そこで本稿では,非晶性高分子材料の一例としてポリカーボネートを取り上げ,動的粘弾性測定から得られる情報を基に緩和弾性率を導出し,定ひずみ速度下における応力−ひずみ関係のひずみ速度依存性を評価する考え方について解説する8)。さらに,万能試験機およびスプリット・ホプキンソン棒法による引張試験結果との比較を通じて,本手法が有効となるひずみ範囲とその限界を整理し,簡便な材料評価手法を紹介する。なお,温度−時間換算則は,疲労強度や破壊靭性など様々な力学特性に対しても適用が検討されており,材料の長期耐久性評価への展開も報告されている9)。

 

時間-温度換算則とその応用

埼玉大学 坂井 建宣

Time-temperature Superposition Principle and its Application
Saitama University Takenobu SAKAI

キーワード: 粘弾性力学,時間-温度換算則,複合材料,結晶

 

はじめに
 高分子材料の機械的性質には,時間および温度依存性,つまり時間や温度によりその機械的性質が著しく変化するという粘弾性特性がある。粘弾性挙動は一般的に時間とともに応力が緩和する現象,例えばプラスチックのボルトが時間の経過とともに緩んでいく現象(応力緩和現象)と,例えばプラスチック製の衣装ケースの上に長い間荷物を置いていると,弓なりに変形してしまう現象(クリープ現象)の二つに大別される。このように時間に依存した現象は,工業的な長期の利用やさらなる利用範囲の拡大を考慮した場合,把握が必要である。しかし,高分子のような粘弾性材料の力学的性質をすべて把握しようとすると,10 年,100 年後の粘弾性挙動を調べるためには,それと同じ時間,また使用環境と同じ温度条件での実験が必要となるが,実際には実施は不可能である。このような長期的な粘弾性挙動の把握のために加速評価法として,多くの研究から確立された時間と温度の等価性を利用する時間-温度換算則が用いられている1)-5)。

この時間-温度換算則を高分子材料に適用するうえで,高分子材料そのものの性質についても考慮する必要がある。高分子材料には,熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の2 種類が存在する。熱硬化性樹脂は,高温で固まる材料であり,硬化反応を起こす。この硬化反応時に分子鎖間での架橋結合が行われるため,分子鎖のネットワーク構造を形成する。また熱可塑性樹脂は,高温で溶ける材料であり,高分子鎖の絡み合い構造により形成されている。熱可塑性樹脂では,高分子鎖が折りたたまれた構造,結晶と呼ばれる構造が形成され,結晶性を有している材料が多い。この結晶の割合である結晶化度が異なると力学的な挙動が変化するが,粘弾性特性においても顕著に異なる結果を示す6),7)ため,結晶状態を考慮した予測方法が求められている。

また,高分子材料を母材とした複合材料は,母材に高分子材料を利用していることから,少なからずこの粘弾性特性の影響を受ける8),9)。そのため工業材料として利用するためには,繊維と樹脂の関係を把握するとともに,複合材料全体の応力緩和現象やクリープ現象を把握する必要がある。

本稿では,多く使われている二つの時間-温度換算則の紹介,およびそれを応用し,繊維含有率および結晶化度に適用した例を紹介する。

 

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