中畑 和之
NDE 4.0 という言葉は,我が国の非破壊検査分野においても一定の認知を得るようになった。本協会では,第1回NDE 4.0 シンポジウムを2023 年12 月に,第2 回を2024 年10 月に開催し,その都度,シンポジウムでの議論を踏まえた特集号を発行してきた。これらの取り組みを通じてNDE 4.0 の概念は定着し,AI,デジタルツイン,データ基盤,ロボティクスなどを,実際の検査ワークフローや維持管理にどのように接続するかを問う段階に入りつつある。
近年の国際的な動向を見ても,NDE 4.0 は新たな段階にあると言える。米国非破壊試験協会(ASNT)の機関誌Materials Evaluation では,2026 年7 月号に「Digital Twins in NDT/E」,2027 年1 月号に「Edge Computing for NDE Applications」を主題とする特集が予定されている。前者は,検査対象の状態や挙動を仮想空間に表現し,実測データと結びつけたデジタルツインによって,状態把握,診断,予知保全を行い,アセットマネジメントを高度化するための技術や研究をフィーチャしている。後者は,計測現場に近いデバイス上での信号処理,AI/ML による欠陥評価,自律型ロボット,センサフュージョン,エッジデバイスとデジタルツインの連携などのテーマを対象としている。これらは,NDE 4.0 の議論が,デジタル技術の導入可能性から,計測,データ処理・解析,評価・判断をつなぎ,実際の非破壊検査の流れの中でどう活用するかへ移行していることを示している。
国際会議も注視すべきである。国際非破壊試験委員会(ICNDT)のSpecialist International Group(SIG)on NDE 4.0 は,2025 年3 月にインド・ベンガルールで第3 回International Conference & Exhibition on NDE 4.0 を開催し,2027 年6 月15 日から18 日には,カナダ・ケベックシティで第4 回会議の開催を予定している。ASNT による案内では,同会議は,AI,ロボティクス,IIoT,自動化,データ駆動型アプローチを活用し,アセットライフサイクル全体にわたる検査を高度化する議論の場を提供するとされている。
一方,我が国においても,このような国際動向を踏まえ,2025 年10 月28 日に第3 回NDE 4.0 シンポジウムを開催した。今回は,新たに「NDE 4.0 を支える周辺技術」および「画像認識・判定の新潮流」の二つのオーガナイズドセッションを設け,最新の研究・技術動向を共有する場とした。オーガナイズドセッションでは9 件,一般セッションではAI・機械学習,解析・センシングを中心に16 件の発表をいただいた。また,特別講演として,神戸大学の木村建次郎教授をお招きし,波動を用いた内部構造の逆解析・イメージングなど非破壊検査の数理的アプローチについてご講演いただいた。さらに,NDE 4.0に関連する製品やプロトタイプ等の紹介ブースも設け,産業応用に向けた情報交換の機会とした。参加者は76 名であり,会場では活発な議論が行われた。
本特集では,第3 回NDE 4.0 シンポジウムで取り上げられた研究・技術発表の一部を,解説および研究論文として紹介する。NDE 4.0 を支える周辺技術として,上山芳教氏に仮想現実による浸透探傷試験の訓練システムについて解説記事をお願いした。さらに,シンポジウムでの発表を基に内容を発展させた萌芽論文3 編を掲載している。本特集が,我が国におけるNDE 4.0 の展開を促進し,異分野連携を通じて,非破壊検査分野におけるAI,デジタルツイン,データ利活用の発展に資することを期待したい。
(一財)発電設備技術検査協会 上山 芳教 山本 敏弘 直本 保 古川 敬
Development and Application of HMD-Based Virtual Reality Training
for Liquid Penetrant Testing
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Yoshinori KAMIYAMA, Toshihiro YAMAMOTO, Tamotsu JIKIMOTO and Takashi FURUKAWA
キーワード: 仮想現実,ヘッドマウントディスプレイ(HMD),浸透探傷試験,教育訓練,非破壊検査
はじめに
非破壊検査(Non-Destructive Testing:NDT)のJIS Z 2305に基づく資格の取得及び技量の維持・向上において,実技訓練は重要な役割を担っている。しかしながら,NDT の実技訓練を実施するためには,各手法に応じた設備や環境の整備が必要であり,訓練用試験体や器材の準備・維持にかかるコストも高いため,日常的に実技訓練を行うことは容易ではない。特に資格試験においては,普段探傷業務に従事していない受験者もいるため,所属する事業所等に十分な訓練環境が整備されていない場合,試験前に十分な反復練習が行えないといった課題が生じる。
有機溶剤等を使用する浸透探傷試験(Penetrant Testing:以下,PT)や放射線を扱う放射線透過試験(Radiographic Testing:以下,RT)では,安全面から訓練環境を十分に整備する必要があり,訓練機会の確保が難しい。また,設備が十分に整っている場合であっても,訓練効率には課題がある。例えばPT では,浸透液の浸透や,試験後の試験体の洗浄といった工程において待機時間が不可避であり,これらが繰り返し訓練を行う上での効率低下の一因となる。加えて,狙い通りの模擬きずを付与して試験体を製作するのはコストが高く,多くの試験体を用意するのは難しい。限られた数の試験体を繰り返し使用することで,訓練受講者が試験体に慣れてしまい,技能向上の効果が徐々に低下する可能性も指摘される。
このような課題への対応として,実物の器材を用いる訓練を補完する,仮想訓練の活用を模索している。NDT における仮想訓練の事例としては,樹脂製試験体モックアップを用いた超音波探傷試験の訓練1)なども提案されている。一方,本研究では訓練準備や器材の手軽さを重視し,ヘッドマウントディスプレイ(Head-Mounted Display:HMD)による仮想訓練を検討している。HMD は近年,娯楽,教育,医療など多様な分野で普及が進んでおり,NDT 分野でも目視検査の訓練システム2)やRT 訓練シミュレータ3)における活用例が報告されている。また,測定対象と非破壊試験データを重ねて表示して測定結果の理解などを支援する拡張現実(Augmented Reality:AR)や複合現実(Mixed Reality:MR)のシステムでも,表示装置としてタブレット端末4)やプロジェクタ5)のほか,HMD 5),6)を使用した事例が報告されている。HMDを使用することで,使用者は仮想空間内で対象物を視認しながらインタラクティブに操作することができ,PC の画面上で操作するよりも高い没入感を得ることができる。仮想空間上にNDT 訓練用の器材及び試験体を再現し,HMD とコントローラを通して自らの手で動かして操作できる仮想訓練システムを構築し,現実の実技訓練の補助教材として活用することで,時間的・空間的制約を受けにくい柔軟な訓練の実現が期待される。
現在,HMD を用いた仮想現実による訓練の有効性を検証するため,探傷器材を仮想空間上に再現した仮想訓練システムの試作を進めている。NDT 手法のうち,環境整備の負担が大きく,実際の探傷では待ち時間が生じやすいPT を最初の試作対象に選択した。本稿では,試作中のPT 仮想訓練システムについて概要を紹介するとともに,活用の試行状況について説明する。
永易 和弥,山本 小夏,清水 鏡介,中畑 和之
3D Shape Measurement by General-purpose Devices and Its Application
to NDT Simulation
Kazuya NAGAYASU , Konatsu YAMAMOTO , Kyosuke SHIMIZU and Kazuyuki NAKAHATA
Abstract
This study presents a framework for integrating three-dimensional (3D) shape models reconstructed using general-purpose capture technologies into physics-based simulations for non-destructive testing (NDT). The target object geometry was reconstructed using two methods: structure-from-motion (SfM) and light detection and ranging (LiDAR) scanning, and the resulting models were subsequently applied to NDT simulations. First, the shape reconstruction accuracy of the two methods was quantitatively evaluated using reference measurements, and the factors contributing to the observed differences were examined. Then, the reconstructed models were converted into voxel-based meshes and incorporated into finite integration technique (FIT) simulations to analyze ultrasonic wave propagation and heat conduction phenomena. The results indicate that when the voxel size is appropriately selected to meet the required simulation resolution, 3D models acquired with general-purpose devices can serve as practically viable inputs for NDT analyses. This framework facilitates the development of digital twins for NDT and supports the advancement of image-based modeling in NDE 4.0.
Key Words: 3D shape measurement, LiDAR scan, SfM, Image-based modeling, FIT, Physics-based simulation
緒言
デジタルツインは,計測データと連動し,現実の対象をサイバー空間上に再現するものである。サイバー空間では,将来起こり得る様々な事象を予測するためにシミュレーションが実行される。デジタルツインの対象は,製造分野だけでなく,都市・エネルギー計画,自然・気象,教育,医療など,様々な分野で活用が模索されている。文献1)によれば,デジタルツインに関連する学術論文数が2017 年以降急増しており,研究課題としても,その重要性が高まっていると言える。NDE 4.0 2)においても,デジタルツインは中核技術の一つとして挙げられている。デジタルツインでの予測やシナリオの評価はシミュレーションを援用するが,対象の挙動を十分に表現できるなら,1 次元形状モデルでも工学的には妥当な場合がある3)。非破壊検査においても,様々なデジタルツインの応用が考えられる。しかし,きずの評価にデジタルツインを応用したい場合は,2 次元(2D)や3 次元(3D)での詳細形状と数理モデリング4),すなわち物理シミュレーションが必要となる。
著者ら5)は,デジタルツイン研究が盛んになる前から,非破壊検査シミュレーションを行う際に,外部から取り込んだ形状データ(デジタル写真や3D-CT 像等)をボクセルデータに変換し,これを基に物理シミュレーションを実施する技術であるイメージベース解析6)を提案している。2010 年の論文7)では,投影光パターンから非接触で3 次元表面形状を再構成する工業用装置を用いて数値モデルを作成していたが,近年の3D キャプチャ用デバイスや処理ソフトの汎用化により,解析専任者でなくても手軽に3D デジタルモデルの作成が可能となっている。スマートフォンがあれば,写真や動画を撮ることで3D モデルが再構成できる。
現行で,3D キャプチャの手法は主として次の二つ,Structure from Motion(SfM) とLight Detection And Ranging(LiDAR)スキャンが代表的である。SfM は,可視光カメラ(Red-Green-Blue カメラ,RGB カメラ)を用いて,アングルの異なる複数の写真から,対象物の3D 構造や,さらにカメラ位置(姿勢)を求めるアルゴリズム8)である。SfM はフォトグラメトリ(写真測量法)の一種の手法であり,撮影時のカメラ位置やアングルを知らなくても,写真間の特徴点のマッチングにより,それらを求めることができる。また,LiDAR スキャンは,近赤外線領域のレーザを対象に照射し,反射時間(Time of Flight:ToF)から物体までの距離を測定し,3D 空間を再構成する技術である。このとき,測定するデバイスの自己位置や姿勢を推定する必要がある。例えば,Apple 社のiPad Pro やiPhone Pro に搭載されているLiDAR スキャンは,RGB カメラ,慣性計測ユニット(Inertial Measurement Unit:IMU)やGlobal Positioning System(GPS)等の情報を組み合わせ(センサフュージョン),デバイスの移動(x 軸,y 軸,z 軸)と回転(ロール,ピッチ,ヨー)の六つの自由度姿勢を推定している9)。
デバイス自体が安価になっただけでなく,測定からモデル構築や加工までを一気通貫で動作するスマートフォンアプリの普及も3D キャプチャの汎用化を後押ししている。カメラやLiDAR で計測したデータを加工し,3D 形状を再構成するアプリとしては,Scaniverse,Polycam,WIDAR,3D Scanner App 等10)がある。多くのアプリは無料で使用可能であるが,エクスポート機能や高解像度でのモデリングは有料となるものもある。また,LiDAR が搭載されていない可視光カメラだけのスマートフォンでは,自動的にSfM で形状が再構成され,ユーザがデバイスの種類を意識することなく手軽に3D モデルが作成できる。iOS だけに対応したアプリもあれば,iOSとAndroid 双方対応したものもあり,非常に様々なアプリがストアから入手可能である。近年では,NeRF や3D Gaussian Splatting といった機械学習を用いた3D モデリング11)も提案されているが,各視点での見え方が正解画像に近くなるように表現されるだけであり,対象物の形状(境界メッシュ)を作るのは基本的に不向きで,物理シミュレーションとの融合は工夫が必要である。
本研究では,SfM とLiDAR スキャンによる3D 形状の再構成と,それらを利用した非破壊検査のためのシミュレーションの例を示す。SfM では,デジタル一眼レフカメラを用いてT 継手を撮影し,作成した3D モデルを入力として超音波検査のための波動伝搬シミュレーションを実施する。LiDAR スキャンでは,iPad Pro に搭載されているLiDAR センサを用いてU 型側溝を測定し,このモデルを熱伝導シミュレーションに入力して赤外線検査を模擬した例を示す。シミュレーションの前に,これらの汎用デバイスで再構成した3D 形状の精度について,工業用の高精度な装置で測定した結果と比較を行う。イメージベース解析として,有限積分法12)(Finite Integration Technique:FIT)を利用する。FIT を利用した超音波シミュレーションは既に示している5)−7)が,ここでは,熱伝導シミュレーションにもFIT の離散化手法を利用する。なお,本研究で用いるT 継手およびU 型側溝は欠陥等を含まないモデル形状である。本研究の目的は,汎用デバイスにより再現された3 次元形状を用いた物理シミュレーション手法の適用可能性を示すことにあり,今回対象とした材料は,特定の問題解決を想定したものではない。また,物理シミュレーションの最適化や,その結果を詳細に検証することは本論文の趣旨ではないため,これらは今後の課題としたい。
石川 周男,清水 鏡介,伊藤 洋一,大隅 歩
Study on Automated Defect Detection Using Phase Images of Waves Propagating in Thin Metal Plates and YOLO
Chikao ISHIKAWA , Kyosuke SHIMIZU , Youichi ITO and Ayumu OSUMI
Abstract
Non-destructive inspection using airborne ultrasonic guided waves is being studied for efficient inspection of large metal structures. This method visualizes scattered waves from defects, but amplitude attenuation makes it difficult to detect defects located behind others, especially when aligned in series. In this study, we propose an automated defect detection method using phase images, which are robust against attenuation, combined with machine learning (You Only Look Once : YOLO). A learning model was constructed using data obtained from finite element method (FEM) numerical analysis. We then verified its detection performance using both numerical analysis data and experimental data. The results demonstrated that phase images clearly visualized multiple defects that were unclear in amplitude images. Furthermore, it was confirmed that the model trained solely on numerical analysis data demonstrated a certain level of detection capability for experimental data, suggesting the feasibility of a simulation-based training approach for real-world inspection.
Key Words: Airborne ultrasound, Guided wave, Key Words Phase image, Machine learning, YOLO, Non-destructive inspection
緒言
化学プラントや配管などの大型金属構造物は,長期間の運用により腐食や減肉などの欠陥が生じるリスクがあり,これらが進行すると破損や漏洩事故につながる恐れがある。そのため,定期的な非破壊試験(Non-Destructive Testing:NDT)による早期発見が不可欠である。広範囲を効率的に検査する手法として,Lamb 波を用いた検査法が注目されている1)-3)。特に空中超音波を用いた非接触計測は,接触媒質を必要とせず,検査対象を汚染しない利点がある4)-7)。
Lamb 波を用いた検査では,伝搬波の可視化画像から欠陥による波面の乱れを目視で判別する方法が一般的である8)- 13)。しかし,目視による判定は検査員の熟練度に依存し,ヒューマンエラーによる見落としが懸念される。また,実際の現場において欠陥は単一とは限らず,広範囲に複数発生する場合がある。従来の振幅情報を用いた画像では,伝搬に伴う減衰の影響を受けやすく,複数の欠陥が存在する場合,音源から遠い位置にある欠陥からの散乱波が微弱となり検出が困難になる課題がある11)- 14)。
これらの課題に対し,近年急速に発展している深層学習15),16)を用いた自動欠陥検出の検討が進められている。超音波探傷画像やX 線画像などを用いた欠陥検出においても,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の有効性が多数報告されている15),16)。中でも物体検出アルゴリズムの一つであるYOLO(You Only Look Once)は,高速かつ高精度なリアルタイム検出が可能であり17),非破壊検査への応用が期待される。筆者らは先行研究において,空中超音波ガイド波検査へのYOLO の適用を検討し,その可能性を示した18),19)。また,振幅画像の課題に対しては,信号処理技術であるヒルベルト変換を用いて瞬時位相を抽出し,振幅減衰の影響を受けにくい位相画像を用いる手法が有効であると考えられる9),18),19)。
本研究では,空中超音波励起によるLamb 波の伝搬画像に対し,ヒルベルト変換による位相画像化とYOLO 20)を用いた欠陥自動検出システムの構築を目的とする。本稿では,萌芽的な検討として,有限要素法(Finite Element Method:FEM)による数値解析データを用いて学習モデルを構築し,そのモデルを用いて,複数の欠陥がランダムに配置された実測データにおける欠陥検出を試みた。「三つの欠陥を直列配置した数値解析データ」で学習したモデルが,「ランダムに配置された複数欠陥の実測データ」に対してどの程度の汎化性能を有するかについて検証した結果を報告する。
牧野 一成
Comparison of Machine Learning Using Numerical and Image Data
of Ultrasonic Testing Waveforms
Kazunari MAKINO
Abstract
This study presents the results of machine learning performed using a large number of ultrasonic waveforms, both with and without defects, obtained through simulations of angle-beam testing based on the single-reflection method. Two types of defects were considered: inclined defects located on a plate surface and defects occurring at weld roots with various weld bead geometries. The learning results were compared by employing several evaluation metrics such as accuracy, between the case where ultrasonic testing waveforms were used directly as numerical data and the case where the waveforms were transformed into image data through time–frequency analysis techniques.
Key Words: Ultrasonic testing, Numerical data, Image data, Machine learning
緒言
近年,非破壊検査分野ではNDE 4.0 の実現に向けて,外観検査,磁粉探傷,赤外線サーモグラフィなどの方法で取得された画像データに加えて,超音波探傷のB,C スコープ画像やフェーズドアレイ超音波探傷試験(Phased Array Ultrasonic Testing:PAUT)のセクタースキャン画像に対して,AI や機械学習を適用してきずの有無を判定する研究が活発に進められている1)。
筆者が対象としている鉄道車両の足回り部品(台車枠,車軸)の定期検査でも,磁粉探傷や超音波探傷が広く適用されている2)。これらの部品の検査データに対する機械学習の適用事例として,磁粉探傷に関しては,台車枠溶接部の磁粉探傷画像を分割した領域ごとに機械学習によりきずを検出する手法3)や,車軸の磁粉探傷画像から画像処理により線状の特徴量を抽出してきずを検出する手法4)などが報告されている。一方,車両部品の超音波探傷に関しては,PAUT による探傷結果の画像化の取り組みは進んでいるが5),6),取得した画像の機械学習に関する研究は少なく7),現状ではA スコープ波形のエコー高さに基づくしきい値判定が主流である。
鉄道車両以外の分野における超音波探傷に関しては,探傷の画像データに対する機械学習の活用が進んでおり,きずの検出に加えて,機械学習に必要な画像そのものを生成AI により作成する研究8)も報告されている。また,超音波探傷で検出されたきずのサイジング9)や,ガイド波を用いた配管の肉厚測定10)など,測定結果を定量的に予測する場面でAI や機械学習を用いる例が見られる。一方で,A スコープ波形のような,いわゆる「生波形」の解釈には経験を要し,多くの検査分野では今後も当面は用いられることから,画像化されていない探傷データに対しても,機械学習のような新たな技術の適用を検討することが重要である。A スコープ波形への機械学習の適用例として,ボルトの超音波探傷波形からきずの有無を自動判定する研究11)などが挙げられる。
以上のように,超音波探傷への機械学習の適用においては,画像データや波形データに対してきずの有無を判定する分類問題や,きず寸法の定量予測のような回帰問題を対象として,それぞれの学習モデルが開発されているのが現状である。一方で,同じ対象物を探傷したA スコープ波形であっても,AD変換によりデジタル的に収録した「数値データ」と,超音波探傷器の画面をキャプチャしたような「画像データ」では形態が異なるが,データ形態の違いが機械学習におけるきず検出精度に及ぼす影響を比較した研究は見当たらない。
本研究は,超音波探傷波形を「数値データ」のまま,あるいは数値データを様々な形態の「画像データ」に変換した上で,それらのデータを機械学習させたときのきず検出精度を比較することを目的とする。ここでは,鉄道車両用台車枠の超音波探傷に対して,機械学習を適用することを想定する。鋼板の表面きず,および溶接ルート部のきずの2 種類を対象として,一回反射法による斜角探傷を模擬した超音波シミュレーションにより「きずあり波形」および「きずなし波形」を多数取得し,これらの波形データを用いて機械学習を行う。機械学習では,波形データを時刻歴データ([時刻,振幅]の数値列)あるいはFFT を施した周波数領域データ([周波数,振幅スペクトル]の数値列)の「数値データ」として学習させるとともに,波形のキャプチャ画像,あるいは波形の時刻歴データを短時間FFT やウェーブレット変換などの時間周波数解析の手法により画像化した「画像データ」としても学習させる。これらの学習結果を,正解率などの評価指標を用いて比較,考察する。