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機関誌

2018年12月号バックナンバー

2018年12月1日更新

巻頭言

「光3次元形状計測の現状と実際」特集号刊行にあたって 笠井 尚哉

 最近,レーザ,LED などの光学的技術を用いて,対象物の3 次元形状を簡便かつ短時間に計測できる小型の装置が普及してきました。これらを用いれば実際の社会インフラや産業インフラにおいて腐食による減肉部の表面形状などを複雑な設定をすることなく,短時間に測定可能です。幼稚な表現で大変恐縮ですが,片手で取り扱うことができる小型のスキャン装置を測定対象物に振りかざす(スキャンする)だけで,測定対象物の精緻な表面形状が画面上に徐々に構成される様子は,まるで魔法のようです。
 様々な測定原理や異なるメーカの装置において標準的な手法を基に対象物の表面形状を測定すべきという機運の高まりを受けて,光3 次元形状計測装置の現状の使用方法の調査と課題の整理,及び測定手法の標準化を検討するために,「光3 次元計測技術による非接触非破壊検査の評価と標準化に関する研究会」を2016 年に発足させました。
 私自身は,社会インフラや産業インフラの保守検査技術への適用という視点で,光3 次元形状計測装置に興味を持っていましたが,これらの原理や詳細な技術に関して全くの素人でした。従いまして,本研究会ではまずは,各種原理,関連規格,適用事例,最新の研究動向についてのご講演を基に勉強し,最終的にはこれらの知見をまとめて光3 次元形状計測に関するガイドラインの作成を試みるという活動をしてまいりました。
 本特集号では,この研究会の活動をベースとし,主に光3 次元形状計測の装置に関する現状と適用例を紹介させていただきます。
 まず,日本工業検査(株)の内橋寛晴氏,(株)セイコーウェーブの新村 稔氏に,現場での貴重な適用例を示していただきました。4D センサー(株)の森本吉春氏には,光3 次元形状計測に関する最新の研究例を示していただきました。(国研)産業技術総合研究所の阿部 誠氏には関連のISO 国際標準開発の動向と課題について解説していただきました。これは,光3 次元形状計測装置を校正する標準試験片の参考情報になると思っております。最後に,この研究会の幹事をしていただきました,(株)セイコーウェーブの原 秀雄氏に,本研究会の活動を通して得られた光3 次元形状計測技術の標準化への提言をまとめていただきました。もちろん,まだまだ多くの検討不足の内容や不備があると思いますが,研究会で得られた成果を示すことが重要だと思い,現時点で私共が考えました,光3 次元形状計測のガイドラインの項目について示させていただきます。
 この研究会を実施した2 年間の間にも光3 次元形状計測装置は日進月歩のように進歩していきました。まだまだ黎明期の技術であり,標準化についても引き続き検討する必要があると思っております。保守検査部門の中に福井大学の藤垣元治教授を委員長とした「光3 次元計測技術による非接触非破壊検査の標準化に関する研究委員会」が発足しています。ご興味のある方は,是非ご参加いただければと思っております。
 最後に誌面をお借りしまして,ご多忙のところ本特集号の解説をご執筆いただきました方々に御礼申し上げます。

 

解説

光3 次元形状計測の現状と実際

光3次元計測技術の現場適用
日本工業検査(株) 内橋 寛晴  中村 健二  出牛 利重

Field Application of Optical Three Dimensional Measurement Technology
Japan Industrial Testing Co., Ltd. Tomoharu UCHIHASHI, Kenji NAKAMURA and Toshishige DEUSHI

キーワード:形状測定,保守,腐食

はじめに
 3 次元計測とは,測定点の位置や対象物の形状を3 次元座標で求める方法の総称である。従来の3 次元測定機は,据え置きで使用される大型機器や生産ラインに組み込み連続的に測定する装置が多くみられた。しかし,光学式,レーザ式の測定機の発達や,アーム式測定機の実用化,コンピュータの発達による画像処理能力の向上などもあり,野外で高精度な測定が可能な可搬型の測定機が実用化されてきた。
 日本工業検査(株)(以下「当社」という)は非破壊検査会社として,主要な業務である石油・石化プラントの保守検査業務の中で,光3 次元計測技術のメンテナンス現場への適用を以前より実施してきた。従来使用してきたオートステーションやレーザトラッカ等の測量機は可搬性を有しているが,測量機・対象物共に揺れのないこと,対象物までの間にレーザ光を遮る障害物がないこと,対象物との間に適度な距離があること等制限がある。そこで本体の設置条件や対象物のため困難であった計測に適用するため,ステレオカメラ方式を併用した光切断方式による3D レーザスキャナを導入した。本稿では3D レーザスキャナの現場適用への検討結果を紹介する。

 

インフラ構造物の近接目視を定量化する3次元計測手法
(株)セイコーウェーブ 新村  稔

The Three-Dimensional Measurement Method to Quantify Close-look Visual
Inspection of an Infrastructure Structure

Seikowave K.K. Minoru NIIMURA

キーワード:非破壊検査,腐食,鋼構造,橋梁,判定基準

はじめに
 (一社)日本非破壊検査協会(以降,JSNDI)は,2016 年7月に,協会の一研究会として,「光3 次元技術による非接触非破壊検査の評価と標準化に関する研究会」1)を立ち上げ,2年にわたって活動してきた。その研究をさらに推し進め,非破壊検査の現場で利用可能な手順ないしガイドラインを定めるため,2018 年7 月,JSNDI は保守検査部門の下に新たな研究会「光3 次元計測技術による非接触非破壊検査の標準化に関する研究委員会」(略称「光3 次元計測技術研究会」)を発足させた。本研究会は,近接目視の定量化のための光3 次元計測装置利用方法の標準化,ないしガイドラインの策定を目標としており,Time-of-flight の原理を用いた,いわゆる土木測量用の光距離計は標準化の対象外である。
 本稿では,社会インフラ保守検査現場で,光3 次元計測技術がどのように近接目視の定量化への貢献が可能であるか,実例を交えながら解説する。

 

1ピッチ位相解析(OPPA)法による高速高精度形状・変形・振動計測
4D センサー(株) 森本 吉春

High-speed and High-accuracy Shape, Deformation and Vibration Measurement
by One-Pitch Phase Analysis (OPPA) Method

4D Sensor Inc. Yoshiharu MORIMOTO

キーワード:モアレ法,格子法,振動解析,形状測定,き裂伝搬

はじめに
 製造ラインのコンベヤベルト上での製造物の寸法の全数検査など動く物体の高速寸法計測,自動車やロボットハンドなどの動く物体からの形状計測,防振・防音対策のための振動計測など,高速で3 次元形状を計測したい要求が強い。これが可能になれば,抜き取り検査など検査中に発生する不良品の大量生産による損失を大幅に減らすことができる。また,介護,医療,アパレル,スポーツなどの分野で,静止させることが困難な人体などのリアルタイム形状計測が可能となる。
 高速形状計測については,著者らは以前に,投影格子の位相をリアルタイムで求める積分型位相シフト法を提案している1)。また,定量的解析法として,藤垣ら2),Zhang 3),の研究がある。これらの方法は,位相シフト法を使っており,位相シフト中は,変形が止まっていると仮定しているため,誤差が発生する。また,キネクト4)などの構造化パターン投影法は,基本的に画素単位の精度であり,高精度に小数画素の解析が可能な位相を解析している位相解析法に比べて精度が悪い。また,画像相関法5)を用いた方法もあるが,計算に時間がかかる。
 著者らは,格子パターンの位相解析を1 枚の画像で行う1ピッチ位相解析(OPPA)法を提案している6)−8)。Takeda 9)らの方法も格子パターンの位相解析を1 枚の画像で行っているが,格子パターン全長のフーリエ変換を行っているため,1回のフーリエ変換をするための画素数が多く,計算に時間がかかっており,また,エリアシングを避けるためのフィルタ処理も必要で誤差が大きく,リアルタイム計測も困難である。
 OPPA 法はモアレトポグラフィの光学系を用いて行う。物体の位置にかかわらず,カメラの撮像面上で常に格子1 ピッチの長さ(画素数)が一定となるため,1 ピッチ間の輝度データを等間隔で取り出せ,位相解析を正確に行うことができ,エリアシング除去のためのフィルタ処理が不要である。フーリエ変換を行う画素数も少なくてよく計算が速く,リアルタイム処理も可能である。さらに高速度カメラと組み合わせることにより,バッチ処理となるが高速度現象の解析も可能となる。
 本稿では,このOPPA 法の原理と,その応用例を述べる。

 

非直交光学式座標測定システムのISO 国際標準開発の動向と課題
(国研)産業技術総合研究所計量標準総合センター 阿部  誠

Status and Issues on the Development of ISO Standard for Performance Evaluation
of Optical 3D Coordinate Measuring Systems

National Metrology Institute of Japan (NMIJ) /
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
Makoto ABE

キーワード:非直交光学式座標測定システム,性能評価,受入検査,トレーサビリティ,国際標準,工業標準

はじめに
 3 次元空間座標を測定する測定器が実用化されてからほぼ半世紀が経過した今日,多種多様な測定原理に基づく座標測定システム(CMS:Coordinate Measuring System)が提案され実用化されている。CMS の実用化の大まかな歴史について概要を図1 に示す。測定対象物との接触を検知する接触式,照射した光が測定対象物の表面から戻る方向などを検知して対象物の形状を再構成する光学式などが知られている。21世紀になると,複数のX 線透過画像から再構成した3 次元断層イメージを利用した計測用X 線CT 1)も実用段階に入っている。
 その中で光学式CMS の典型的なものは,例えば数秒の間に数千万点もの大量の点群を取得し,高速な形状・寸法の測定を実現することができる。また測定精度においても接触式CMS には及ばないものの,例えば300 mm から500 mm 程度の測定範囲において30 μm 程度の誤差で長さ測定を実現するものがあり,多くの工業製品・部品の形状測定に適用可能な水準に到達していると考えられる。
 CMS に関連する標準化は1980 年代に出版された接触式CMS の性能評価法に端を発する。例えばドイツ技術者協会(VDI)によるドイツ国内ガイドライン2)または米国国家規格協会(ANSI)と米国機械学会(ASME)による米国国内規格3)などが代表的なものとして知られている。その後,1994 年になると国際的に統一したCMS の性能評価法を作ることの機運が高まり,初版のISO 10360-2:1994 4)が出版された。現在のISO 10360-2:2009 5)が制定されるまで,CMS の性能評価法はすべて,伝統的な直交型の案内機構と接触式プローブを備える測定機を適用対象とするものであった。
 2000 年代の半ばになると,接触式プローブを備えるCMS以外に,光学式など非接触センサをもつCMS の性能評価法の制定を求める意見が強まった。まず取り組まれたのは,直交型の案内機構と低倍率顕微鏡を組み合わせた画像測定機の性能評価法のISO 6)開発である。次いで同様に直交型の案内機構と光学式距離センサを組み合わせた直交型光学式CMS 6)の性能評価法が開発された。ここまでは直交型の案内機構をもつCMS を対象としてISO 開発が行われた。
 2000 年代後半になると,装置構成が極座標系をとるレーザトラッカ型CMS 7),そして7 〜8ヵ所の回転関節を縦列に接続した装置構成をとる多関節型CMS 8)の性能評価法までの開発が2018 年現在までに終了している(図2)。
 現在開発中なのは,計測用X 線CT,および通常は案内機構を持たない非直交光学式CMS に関する性能評価法である。

 

保守検査における光3次元計測技術の運用標準化に向けたJSNDI における研究会活動
(株)セイコーウェーブ 原  秀雄

Workshop Activity in JSNDI for Operational Standardization of 3D Measurement
Technology using Light in Maintenance Inspection
Seikowave K.K. Hideo HARA

キーワード:光 3 次元計測,非破壊検査,標準化,研究会,近接目視検査,社会インフラ

はじめに
 日本経済の高度成長期に建設された多くの社会インフラは長年適切な保守管理を怠ったため,成熟期に入り,橋梁やトンネル,上下水道等の老朽化が事故の形で目立ち始めている。また民間企業でもコンビナートの貯蔵タンクや配管等,プラントの長期運用による老朽化が原因と思われる事故が時折ニュースになっている。各管理部門としては設備の安全な運用を維持するための定期的な保守検査は欠かせない業務であるが,膨大な数の点検箇所が発生し始めているという大きな問題を抱えている。ところで当該検査において近接目視による方法は,古典的ではあるが,最も簡便な方法としてこれまで業界を問わず広く採用されてきた。しかし当該近接目視検査では作業者の経験に頼るのみで定量性がなく,また見落しも多く信頼性にも乏しいという根本的な欠点を有していた。そこでノギスやデプスゲージ等の測定器で計測し数値化する方法が採用されデータ化への道は開かれたが,増大する検査要請に量的に追い付けないうえ,さらにその結果の安定性には問題も多いことが近年認識され始めている。このような時期に,広範囲を高速で定量的に検査可能な「光を用いた3 次元形状計測技術」が実用化の段階にあったことは時宜にかなったことであった。
 本稿では,3D プリンタや人体の立体計測で一般的に知られている光3 次元計測技術について,保守検査分野における非破壊検査技術としての概要を紹介した後,本技術の業界における標準化の現状について説明し,JSNDI に光3 次元計測研究会を立ち上げた経過と研究会活動の内容及び成果について報告する。また本技術運用の今後の課題についても言及する。

 

論文

渦電流探傷ΘプローブによるCFRP 板のきず検出に関する基礎的検討
本宮 寛憲,小山  潔

Fundamental Study on Flaw Detection of CFRP Board by Eddy Current Θ Probe
Tomonori HONGU and Kiyoshi KOYAMA

Abstract
CFRP is used extensively in aircraft and spacecraft structures, because of its excellent mechanical properties. Ultrasonic testing, which is used as a non-destructive testing (NDT) technique for CFRP, requires a contact medium. In contract, eddy current testing (ECT) does not require a contact medium, and when used for CFRP testing it has advantages over other techniques. This paper describes the use of the ECT method for the inspection and detection of impact damage in CFRP. Scanning experiments were carried out using an eddy current Θ probe, which was developed by the authors, at test frequency of 2 MHz. CFRP samples of 3.0 mm in thickness with artificial impact damage are used. As a result, it has been confirmed that the eddy current Θ probe can detect the impact damage,produced by the energy of 2.45 J, with high signal-to-noise ratio rather than conventional eddy current surface probes.

キーワード:Eddy current flaw testing, CFRP board, Θ probe, Flaw detection

緒言
 CFRP は,軽量で強度や剛性が優れていることから航空宇宙機や自動車などの構造材,構造物の補強材など幅広い分野で用いられている。CFRP は,外部から強い衝撃を受けると積層にわたって損傷が生じ力学特性が低下する問題があり,検査には放射線透過試験や超音波探傷試験,赤外線サーモグラフィ試験などが適用されている1)−6)。
 渦電流探傷試験は,非接触で高速かつ簡便に試験を行えるので,CFRP の検査に適用すれば他の試験法にはないメリットを持つ。
 CFRP は炭素を含有することから,金属に比較して10−4 ~10−6 倍と低いが導電性を有する。この導電性により渦電流探傷試験の適用が可能である7),8)。しかし,CFRP の導電率が低いことに加え,繊維方向に大きな導電性を有す異方性材料であることなど金属の試験体と異なり,誘導される渦電流が小さく検出信号のSN 比が低下するなどの問題がある。CFRPの検査に渦電流探傷試験を適用するには,雑音が小さくきず検出性能の高い試験プローブの適用が必要である。そこで,従来の円形パンケーキ型の上置プローブよりSN 比高くきず検出性能の高い,筆者らが開発・提案している渦電流探傷Θプローブ9),10)(以降,Θ プローブ)の適用を考えた。
 一方,これまでに,差動渦電流プローブによるCFRP の人工的な欠陥の検出11)や回転渦電流プローブを用いた電気特性の測定12),電磁気試験を用いた欠陥の検出と評価13),渦電流法を用いたCFRP ラミネートにおけるバルク導電率の特性評価14),熱可塑性CFRP の溶接部のはく離検出のための誘導加熱渦電流試験15),多方向CFRP の繊維うねりを可視化する渦電流法16),線状励磁電流がCFRP 板上に配置された際の電磁場の解析解を用いた導電率測定に適した渦電流センサの設計17)などの報告がある。また,CFRP に対する渦電流探傷試験に関する報告18),19)がされてきた。CFRP には繊維シートや積層方法などの違いにより各種ある。既存報告には,各種CFRP に誘導される渦電流分布や実損傷を模したきず検出などに関する検討はほとんど見られない。
 本稿では,はじめに,電磁気特性の異方性を考慮した有限要素法により求めた渦電流分布を示し,Θ プローブによる各種CFRP 板のきず検出に関する基礎的な検討結果を論じる。次に,人工的に衝撃を与え作製したきず(以降,衝撃きず)の検出結果の検討を行い,超音波探傷試験及びX 線透過試験との比較により,CFRP 板に対するΘ プローブの有用性を論じる。

 

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