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機関誌

2018年07月号バックナンバー

2018年7月1日更新

機関誌「非破壊検査」バックナンバー

巻頭言

「人に学んだ画像センシング技術の最新動向」特集号刊行にあたって
林 純一郎

 製造工程検査部門では,2014 年に第63 巻1 号において「画像処理技術応用による検査の自動化-画像検査の発展の道程を見据える-」を,2016 年に第65 巻6 号において「人に学ぶ画像センシング技術の最新動向」を企画,特集しました。非破壊検査協会が例年協賛・共同企画している後述するようなシンポジウムやワークショップにおいてインパクトの高いご講演や中心的な活動をされている著名な方々に,自動車用部品や素材の非破壊検査,画像検査機械など他分野への応用も期待される最新の画像処理手法について今回解説記事をご執筆いただきました。近年話題の機械学習を代表とする人工知能(AI)技術のように,画像センシング技術は人の視覚機能を基にし,人を支援する技術でもあり,今日では産業界からも大いに期待されています。本特集記事は,実際の交通環境で利用された技術や産学連携による画像検査技術に関する記事2 件,視線や顔をセンシングする技術に関する記事2 件,三次元データを認識したり欠損部を検出する技術に関する記事2 件,画像センシング技術を再考した記事1 件等の計8 件の人に学んだ技術の記事で構成されています。実際の現場におけるシーズとニーズをはじめ,人と同じように検査をするための特徴やアルゴリズム,さらに人から学ぶ必要があるのは何であるかなど,人に学んだ人を支援する最新の解説記事によって構成されるものになったと考えています。
 製造工程検査部門が毎年協賛・共同企画しているシンポジウムやワークショップとしては,国内最大規模で1200 名を超える画像センシング技術者が横浜ベイエリアに集う6 月の「画像センシングシンポジウム:SSII」を筆頭に,12 月の「ビジョン技術の実利用ワークショップ:ViEW」,3 月の「動的画像処理実利用化ワークショップ:DIA」が恒例行事として認知されています。これら三つのシンポジウム・ワークショップでの発表件数は300 件にのぼり,参加者は延べ2000 名を超える勢いです。機械学習に関する画像センシング技術の発表はもちろんのこと,新手法や新技術の提案をはじめ,実用化における関連技術の情報交換や産学官の枠を越えた発表や熱の入った議論が展開されています。カメラ映像などの動画や静止画を用いた人のような検査技術をご検討中の会員の皆様には,ぜひ一度,これらのシンポジウム・ワークショップにご参加いただければと思いますので,以下ホームページを参考にしていただければ幸いです。

【SSII2018】 http://ssii.jp/
2018 年6 月13 ~ 15 日,パシフィコ横浜アネックスホール
【ViEW2018】 http://www.tc-iaip.org/view2018/
2018 年12 月6 ~ 7 日,パシフィコ横浜アネックスホール
【DIA2019】 http://www.tc-iaip.org/dia/2019/
2019 年3 月7 ~ 8 日,北九州国際会議場

 末筆ではございますが,ご多忙中にもかかわらず快くご執筆いただいた皆様,企画から刊行までお世話いただいた機関誌編集ご担当の皆様に,誌面をお借りして御礼申し上げます。

 

解説

人に学んだ画像センシング技術の最新動向

視線計測装置とキネクトとの連携
 山梨大学  清水  毅

Cooperation between a Gaze Measuring Device and Kinect
The Faculty of Engineering, University of Yamanashi Tsuyoshi SHIMIZU

キーワード:視線計測,視線検出,瞳孔中心,視線校正,眼鏡型視線計測装置

はじめに
 19 世紀後半から始まったとされる眼球運動の科学的研究は,当初,医学/生理学・心理学分野で研究されていたが,近年では,工業分野,スポーツ分野,マーケティング分野にまでアプリケーションの裾野は広がっている。
 一方で,人と機械の協調作業が注目されてきており,機械へのインターフェースとしての視線検出装置も重要になると考えられる。人とロボットなどの機械との協調作業は,古くから議論されてきた1),2)が,現在では,生活環境における協調作業3),4)や,生活支援5)−7),生産現場においても人と同じ環境に配置されたロボットとの協調作業が試みられており8),9),機械の自律的な判断が要求される場面が少なくない。このような状況下で,協調/協働作業のためのインターフェースとしての視線入力は,重要な役割を果たすことが予想されている10)。
 これまでにディスプレイ等の平面を注視した視点の二次元的な推定は実現されているのに対し,三次元での推定は工夫が必要である11)− 13)。その理由として,生理的に眼球運動が起こることで意図した輻輳角が変化してしまうバーゼンス効果14)や眼球の旋回運動が発生してしまうなどの無意識の生理学的運動や心理的な要素のため,人は思ったよりも注視物体に瞳孔中心が向いていないからである。しかしながら,人の注視点を三次元空間内で機械が理解し,対象を認識するためには,注視点を第三者的立場から空間的に理解できなければならず,解決しなければならない技術的課題は多い。
 現在まで,筆者の研究グループでは,人と機械の協調作業を目指し,人の注視点を機械に入力するための眼鏡型視線検出装置を開発してきた15),16)。本稿では,現在研究中である眼鏡型視線検出装置とKinect を用いた機械側からの視線検出方法を解説する。

 

人の顔をセンシングして,人のコミュニケーションを支援する画像処理技術
 九州工業大学  齊藤 剛史

Sensing Human Faces and Assisting Human Communication
using Image Processing Technology

Kyushu Institute of Technology Takeshi SAITOH

キーワード:顔画像処理,コミュニケーション支援,目,口

はじめに
 我々にとって最も身近で簡単なコミュニケーション手段は音声会話である。今日ではインターネットの普及,特にメールやSNS の普及で文字によるコミュニケーションも発達している。文字ベースのコミュニケーションは保存が効く利点をもつが,文字の入力操作が必要であり,即時性に関しては音声ベースのコミュニケーションが勝っている。ところが音声ベースのコミュニケーションであっても,真に音声情報のみを利用するのでなく,テレビ電話やテレビ会議のように映像を用いるニーズがある。これは,私たちは日常生活の中でコミュニケーションするとき,音声情報のみでなく相手の顔を見て,顔から様々な情報を取り出しているためである。人間は視覚優位の動物であり,外見,特に顔を観察することで,個人の身元や性別年齢を識別するための情報と,人の内面的な精神と身体状態に関する情報を得ている1)。顔より獲得した情報を利用することで音声のみよりもスムーズなコミュニケーションをとっている。
 顔画像処理の研究は1960 年代後半から随所で取り組まれている。そして顔画像処理技術は,近年の著しい発展により顔検出処理や顔認識処理がリアルタイムで実現できるようになり,デジタルカメラなどにおける顔のオートフォーカスや映像インデクシングなどのデジタル機器分野,デジタル写真の変装サービスやゲーム機などのエンターテインメント分野,わき見や居眠りモニタリングなどの車載分野,入退室管理などのセキュリティ分野など広範な分野で応用されている2)。顔画像処理の発達により我々の生活は日々快適になっている。一方,我が国では社会の高齢化が進み,世界でも類を見ない超高齢社会である。社会の変動に伴い,高齢者や障害者の生活を支援する福祉分野においても画像処理技術は期待されている。そこで本稿では,顔画像処理において福祉分野での応用を目的としたコミュニケーション支援に着目する。特に著者の研究グループで開発を進めている目と口を用いたコミュニケーション支援について紹介する。

 

3次元点群からの物体の位置姿勢認識技術とその応用
 慶應義塾大学  秋月 秀一

3D Object Detection Technologies from Point Cloud Data and its Applications
Keio University Shuichi AKIZUKI

キーワード:3 次元物体認識,点群処理,モデルベース認識,アフォーダンス,知能ロボティクス

はじめに
 物体の3 次元的な位置姿勢(並進と回転の合計6 パラメータ)の認識は様々な応用先のあるロボットの知的動作のために欠かすことのできない,基本的な技術である。近年では製造業における部品のビンピッキングにとどまらず,物流における指定物品の取り出し,生活支援用途における日用品の操作等,応用先を拡張しながらそれぞれの用途に合った新たな手法が提案され続けている。
 本稿では,位置姿勢認識のための主流なアプローチである,モデルベース認識に焦点を当てて,その処理手順を解説するとともに,筆者らが取り組んできた高速化・信頼性向上のためのアルゴリズムを紹介する,さらに,モデルベース認識の応用として提案した,複数物体の同時認識手法と類似形状物体を対象とした姿勢認識手法について述べる。

 

部分形状の統合による全周形状計測と欠損部の自動検出
 徳島大学  浮田 浩行

3D Shape Measurement System by Integration of Partial Shapes
and Automatic Defects Detection

Tokushima University Hiroyuki UKIDA

キーワード:デジタルアーカイブ,3次元形状復元,3D スキャナ,全周形状,部分形状の統合,欠損部

はじめに
 「デジタルアーカイブ」1)とは,物体の形状や色,光沢等,物体に関する情報を計測し,それをデジタルデータとして半永久的に保存することである。そして,国宝や重要文化財,古い文献等について,デジタルアーカイブを行う研究が進められている。
 物体の形状を計測する方法には様々なものがあり,特に非接触で計測する方法としては,・カメラによって物体を撮影した画像を用いる(ステレオカメラ等)・プロジェクタによって特定のパターンを物体に照射し,それを撮影した画像を用いる(パターン投影等)・レーザで物体までの距離を求める(Time of flight 等)などが挙げられる。しかしながら,これらの方法は,基本的に計測装置に向いている側の物体形状しか求められないため,物体全体の形状を求めるためには,物体あるいは計測装置を動かす,または,物体の周囲に多数の計測装置を配置する,ということが必要である。そして,それぞれの位置で得られる部分形状を統合し,全周形状を得る必要がある。
 最近では,3D プリンタによって手軽に物体モデルを造形することができるようになり,その形状データを得るための安価な3D スキャナのシステムが開発・販売されている。そして,多くの場合,1 台の計測装置を用いて,装置あるいは物体を手動で動かし,その部分形状を統合して全周形状を得られるようになっている。
 しかしながら,単純に3D スキャナを物体周囲で動かしても,正確な形状計測は難しい。特に,物体形状の凹凸や光の反射具合によっては,うまく計測できず,形状データが欠損する場合がある。人間が計測装置を動かし,計測結果をインタラクティブに確認できるシステムであれば,人間によって欠損部を確認でき,再度の計測も可能であるが,このような方法では手間や時間がかかるという問題がある。また,このようなシステムでは,機器の特徴等を理解し,正確に計測するための技術を身に付ける必要があるが,これは,操作者によって計測結果が異なることを意味し,安定に形状を求められないことになる。
 そこで,全周形状計測の自動化が必要であると考えられる。つまり,自動的に部分形状を取得して統合した後,その結果から欠損部を検出する。そして,欠損部があれば,再度,今度は確実に計測できるように装置の方向等を変えて再計測するようなシステムが必要であると考えられる。
 本研究では,動きのない物体を対象とし,その全周形状を,できるだけ正確に計測することを目的とする。ここでは,ICPアルゴリズム2)を基に,部分形状の正確な位置合わせと再計測に向けた欠損部の検出方法を示す。

 

コンクリート構造物ひび割れ自動検出技術の研究開発
 (国研)産業技術総合研究所  永見 武司

Development of Automatic Crack Detection Technology
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) Takeshi NAGAMI

キーワード:コンクリート構造,ひび割れ,モニタリング,画像処理,人工知能

はじめに
 日本の道路インフラは,1950 年代から始まった高度経済成長期に数多く建設され,六十年を経過した今日,老朽化への懸念が高まっている。また,この間,日常生活や物流等の社会活動は自動車に大きく依存することとなり,建設時には予想し得なかった頻度や重量で利用されている道路も少なくない。こうした中,5 年に一度等一定期間ごとに行われる定期点検は,インフラ維持管理の基本であり,危険箇所の発見や維持更新を計画する上でますます重要になってきている。2014 年には点検要領が改定され1),定期点検の実施範囲や実施方法,記録保存などが厳格化された。これらにより,点検にかかる作業量は増大傾向にあるが,点検調査に従事する技術者は減少傾向にあり2),作業者の負荷は増すばかりの状況で,対策が急務となっている。
 このような事態に対し,政府の国土強靱化に関する施策やインフラ長寿命化行動計画,産業界の長寿命化技術や新たな点検システムの開発など,課題解決に向けた取り組みが官民で進められている。経済産業に関する研究開発マネジメントを行う(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では,2014 年度から5 年計画で「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」として,次の三つのサブプロジェクトを実施している。インフラの状態をセンサで継続的にモニタリングする「センサシステムによるインフラ状態モニタリング」,画像処理技術によりインフラの状態変化を検出し測定する「イメージング技術を用いたインフラ状態モニタリング」,人間では立ち入り困難な箇所へ検査機器等を移送し測定を実施する「ロボットや非破壊検査装置によるインフラ施設の点検支援」である。これらの研究開発により,立ち入り困難な箇所でも的確で精度の高い状態把握を実現する実用技術体系を確立することを目指している。これらのサブテーマは,それぞれさらにいくつかの具体的な研究開発課題が設定されて,対応する実施機関によって研究開発が進められている。
 本稿では,その研究開発課題の一つである「道路構造物ひび割れモニタリングシステムの研究開発」3)について,首都高技術(株),東北大とともに産総研が開発しているコンクリート構造物を主要な対象としたひび割れ自動検出技術について概要を解説する。

 

道路交通分野における画像センシング
 住友電工システムソリューション(株)  荻内 康雄

Image Sensing for Road Traffic Control
Sumitomo Electric System Solutions Co., Ltd. Yasuo OGIUCHI

キーワード:交通管制,ADAS,自動運転,画像センサ

はじめに
 日本国内における2016 年の交通事故死者数は3904 人と1949 年以来67 年ぶりに3000 人台となった1)。交通事故死者数が最多となった1970 年の死者数は16765 人であり50 年近くたって4 分の1 以下になったことになる。同じ時期の乗用車保有台数は1970 年の約730 万台から2016 年には6000 万台以上と8 倍以上に増加しており2),交通安全施設の整備などのインフラ改善,自動車乗車中のシートベルト着用義務化(1985 年),自動車アセスメント開始(1995 年)に伴う車体構造改善など衝突安全性能の確保,さらに最近では衝突被害軽減ブレーキなどの車載センサ活用による予防安全性能向上と様々なレベルでの対策が大きな効果を上げているといえる。
 一方高齢者の事故に目を向けると2016 年の人口10 万人あたりの交通事故死者数は全年齢層で3.1 人であったのに対して65 歳以上では6.3 人と2 倍以上になっている1)。特に75 歳以上の自動車等の運転者による死亡事故についてはブレーキとアクセルの踏み間違いなどのヒューマンエラーを原因とする死亡事故が依然として高い水準にある。
 このような社会的背景の下,路側に設置されるインフラ用,各車両に装備される車載用の各種センサを活用することによって運転者を積極的に補助することを目指した新しい交通安全支援技術の開発が進んでいる。2016 年に策定された第10 次交通安全基本計画3)では2020 年までに交通事故死者数を2500 人以下とすることを目標に掲げている他,「交通事故が起きにくい環境をつくるために重視すべき事項」の一つとして先端技術の活用推進が挙げられており今後各種政策にも反映されていくと考えられる。
 本稿ではこのような交通安全支援技術のベースとなっている画像センサ技術について解説する。

 

エッジ検出を再考し,鍛える −四大検出原理について−
 中京大学  輿水 大和

Improving and Enforcing the Scheme of Edge Detection
- Four or More Edge Principles -
Chukyo University Hiroyasu KOSHIMIZU

キーワード:エッジ検出,コントラスト性,狭隘性,点描画,線描画,四大原理

はじめに
 本稿は,画像処理手法群の体幹部ともいえる“エッジ検出”にスポットを当てて,共起度数画像CFI という新たな画像を導入することによって,エッジ検出の新原理,『狭隘原理』という原理の存在可能性を明らかにしてこれを解説する。この可能性はさらなるエッジ検出の原理の存在を示唆するものでもあるので,少し自由にさらに考察を深める機会としたい。その結果,エッジ検出の四大原理,ともいえる広がりや画素記録の拡張の可能性を展望したい。これらの議論は,近年のCNN に代表される深層学習の入力層設計の根幹に関わるものであると考えるといっそう意義深い。

 

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