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<<2022>>

機関誌

2020年1月号バックナンバー

2020年1月1日更新

巻頭言

「新年のご挨拶」 阪上 隆英

 謹んで新年のご挨拶を申し上げます。新しい年が,皆様にとって実り多き年になりますよう,心からお祈り申し上げます。昨年の当協会の活動を振り返りまして,最も大きなイベントの一つは,認証事業が50 周年を迎え,12 月13 日に記念式典を無事に挙行させていただいたことでございます。これもひとえに関連の皆様方による並々ならぬご尽力・ご協力の賜物と,厚く御礼申し上げます。昨年私は新会長として,BINDT(英国非破壊試験協会)の総会,ASNT(米国非破壊試験協会)の総会およびAPFNDT(アジア・太平洋非破壊試験連盟)の総会に出席させていただきましたが,学術,技術開発,教育,認証等の様々な領域で,諸外国がJSNDI をいかに重要視しているかを実感してまいりました。特に認証事業において,ISO 9712 に準拠したJIS Z 2305 認証を推進し,世界レベルの認証技術者を数多く輩出してきたことは,JSNDI の諸活動が国際的に重要視されている一因であると確信しております。これまでに認証事業の国際化に御貢献いただいた先輩諸氏に改めて敬意を表するとともに,認証事業に御貢献いただきました関係各位に御礼申し上げます。また昨年は,経済産業省のご支援のもとで,NAS 410 に基づく航空宇宙分野における非破壊試験技術者認証を無事にスタートさせることができました。認証事業につきましては,これからも様々な業界の皆様の声をお聴かせいただきながら,国際社会で信頼され,認証技術者のステータスが国内・国外で一層向上するような認証事業を目指して,その最適解が得られますように,関係者一同努力する所存でございます。皆様のご協力をお願い申し上げます。
 さて,当協会では,“JSNDI ミッションステートメント「社会に価値ある安全・安心を提供するJSNDI」”を策定するとともに,“JSNDI バリュー”として,①“社会”から尊敬される協会,②“会員”に魅力のある協会,③“産業界”で実力のある協会,④“学術・教育界”に存在価値のある協会,⑤“行政機関”に影響力のある協会,をステークホルダーに提供することを目指しています。具体的には,“JSNDI アクション”として,①業界バリューチェーンの構築(関連業界間の連携強化),②学術・産業分野の拡大と融合,③学会機能と業界団体機能のシナジー強化,④有効なグローバル展開の強化,⑤会員活動の活性化,を掲げて活動しております。昨年実施いたしましたJSNDI アクションの一例として,国土交通省から受託いたしました,鉄道台車枠の探傷技術開発に関するプロジェクトの遂行を挙げることができます。当協会は,非破壊検査の専門家集団を擁する学術団体として,台車枠の探傷検査に関する調査検討委員会を組織して,鉄道台車枠に対する新しい探傷技術の開発に取り組みました。
 非破壊検査における技術革新は,検査技術そのものの発展は言うまでもなく,ロボティクス,ドローン,IoT,深層機械学習,逆問題,データサイエンスなど非破壊検査を支援する周辺技術の進展が著しく,非破壊検査を取り巻く環境はここ数年で大きく変化しています。これらの最新技術を取り込み,「不可能を可能にする」非破壊検査技術の開発に取り組む環境が整ってきています。第4 次産業革命Industry 4.0 とともに,NDT 4.0 という言葉は,近年の非破壊検査に関する世界的な話題となっています。また,化学プラントにおける検査・計装機器の防爆規制の見直しは,これらの機器を用いるヘルスモニタリング,コンディションモニタリング技術の発展・普及をさらに加速させる原動力となることが期待されます。当協会においても,研究開発プロジェクトを受託するなど,学術面で主導しながら,産官学の連携をさらに積極的に展開できる体制を構築していきたいと考えております。本年の当協会の諸活動においても,JSNDI ミッションステートメント,JSNDI バリュー,の基本路線に従い,JSNDI アクションを着実に実行することにより,非破壊検査を通じた業界間のネットワークをさらに緊密なものとしながら,関連業界のさらなる発展が得られ,「非破壊検査」ならびに「非破壊検査技術者」のプレゼンスが向上いたしますように一層努力してまいりたいと存じます。皆様のご協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。
 最後になりましたが,本年の皆様のご多幸とご発展を心からお祈り申し上げます。

巻頭言

「新たなステージに入った航空宇宙産業における非破壊検査技術者認証」
特集号刊行にあたって 谷村 康行

 本誌2014 年2 月号で『航空機業界における非破壊検査』と題して解説特集を組みました。この特集が本誌で航空機の非破壊検査を取り上げる最初でした。それまで当協会は航空機業界とは疎遠な関係でした。航空機の非破壊検査とはどのようなものか,知ろうというのが2014 年の特集の主旨でした。この特集の中で,今後の航空宇宙産業発展にとって良質な非破壊検査技術者の育成と確保が大きな課題としてあることが,複数の解説で述べられました。
 航空宇宙産業における非破壊検査技術者認証はNAS 410/EN 4179 と呼ばれる規格に基づいて行われるのが,世界的な流れです。NAS 410/EN 4179 は,私たちが慣れ親しんでいるJIS Z 2305 による第三者認証システムとは異なり,事業者認証システムです。企業から独立した第三者機関が資格試験を実施して資格者として認めるのではなく,資格試験も資格の付与も企業内で実施することを基本としたシステムです。この事業者認証システムは,各企業が実施している非破壊検査の実際に即した資格認証になるというメリットがある半面,非破壊検査技術者の質の企業間格差が大きくなることや,企業内で認証システム運営の責任を負う技術者の負担が大きくなるという問題点もあります。こうした問題点を補う機関として,航空宇宙非破壊試験委員会(NANDTB)が欧州を中心として考え出されました。
 2014 年の特集号の発刊の1 年後2015 年から,航空宇宙産業の非破壊検査担当者と国の機関が中心となって,我が国における非破壊検査員育成をどのようにしていくかについて調査と検討が始まりました。その結果として国のバックアップを受けた日本航空宇宙非破壊試験委員会(NANDTB-Japan)が2017 年6 月に設立されて,その下で訓練と資格試験を実施することが決定されました。当協会はNANDTB-Japan の事務局として,その運営を支えることになりました。同年12 月に実施された磁粉探傷を皮切りに,浸透探傷・超音波探傷のレベル1・レベル2 の講習が兵庫県立工業技術センター内にある航空産業非破壊検査トレーニングセンターでこれまでに9 回開催されています。そして2019 年12 月から日本非破壊検査協会(JSNDI)を試験実施機関として資格試験が始まりました。我が国における航空宇宙産業の非破壊検査員の育成システムは,新たなステージにその歩を進めたと言えます。
 本特集では,新たな段階に入った日本における航空宇宙産業非破壊検査技術者認証システムの現状と展望について実務に携わってきた方々に解説していただきました。経済産業省の沼本氏には,今後の航空宇宙産業の発展のために不可欠な質の高い非破壊検査技術者の育成に向けて国としての考え方と取り組みについて解説していただきました。三菱重工業(株)からは,濱田氏ほか3 名の共同執筆で,NANDTB-Japan の設立とその後の活動について紹介していただきました。濱田氏はNANDTB-Japan の委員長です。解説の中には,今後実施される資格試験の概要についての情報も開示されています。NANDTB-Japan の副委員長でもある(株)SUBARU の角田氏には,認証規格であるNAS 410 とEN 4179 について,NANDTB-Japan の位置づけと役割を含めて分かりやすく解説をしていただきました。兵庫県立工業技術センターの浜口氏には,同センターで実施されている訓練の実際を紹介していただきました。私は,本特集に航空業界に新規参入するために自社内にNAS 410/EN 4179 に基づく認証システムの確立に挑戦した企業の実例を入れたいと考えました。日本を代表する特殊鋼メーカである(株)日本製鋼所が航空機部品製造に乗り出していることを知り,仁村氏に解説執筆をお願いしたところ,快く引き受けてくださいました。できれば中小企業の取り組みを,と考えて数社に打診をしたところ,前向きに検討していただけた企業もありましたが,「諸般の事情」ということで断念せざるを得ませんでした。この件を経産省の沼本氏に相談したところ,先進事例の紹介はこれから航空宇宙産業への参入を目指す企業に大きな参考になるという主旨に賛同をいただき,沼本氏の解説の中で経産省が把握している実例を紹介していただけることになりました。

解説

新たなステージに入った航空宇宙産業における非破壊検査技術者認証

日本の航空機産業の現状と非破壊検査技術者の育成の必要性について
経済産業省 沼本 和輝

The Current State of the Japanese Aircraft Industry and the Necessity of Training
Non-destructive Inspection Engineers

Ministry of Economy, Trade and Industry (METI) Kazuki NUMAMOTO

キーワード:航空機キーワード 産業,産業政策,非破壊検査,特殊工程,人材育成

1. 航空機産業の特徴・意義
 航空機産業はその高い安全性・技術力が要求される高付加価値産業です。航空機産業はあらゆる製造業分野の中で最も高い技術レベルが要求されており,「異常があったら止まる」ではなく「異常があっても動き続ける」だけの絶対的な安全性が要求されます。例えば,重要部品の安全性は,10 の9 乗時間に1 回の故障発生水準という厳格な基準もあります。
 そのため絶対的な安全性に裏打ちされた航空機産業の技術の波及効果は高く,炭素繊維複合材料といった新素材の展開をはじめとして,自動車産業などの分野の垣根を越えた技術波及効果を有しています。
 また,もちろん航空機産業は安全保障面にも直結しており,航空機産業がしっかりしている国であるかどうかは非常に重要なポイントになります。
 欧米をはじめ,航空機産業を国策として支援する背景には,こうした技術波及効果ならびに安全保障上の側面の両面があるからだと認識しています。

NANDTB-Japan の活動報告 −日本国内における適格性評価に向けたアプローチ−
三菱重工業(株) 濱田 雄介  曽我部直希  杉山 雄一  品川 裕貴

Report on NANDTB-Japan − for Qualification Program in Japan −
Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. Yusuke HAMADA, Naoki SOGABE, Yuichi SUGIYAMA
and Yuki SHINAGAWA

キーワード:NANDTB,Nadcap,非破壊検査,適格性評価,航空機

はじめに
 世界の民間航空機市場は年率約5%で増加する旅客需要を背景に,今後20 年間の市場規模は約4 万機・5 〜600 兆円となる見通しで,最も旅客需要が伸びるのはアジア太平洋地域と言われている。そういった需要背景を受け,日本国内における航空機生産額は平成24 年以降の5 年間で約1.8 倍に成長を遂げ,近年では民間航空機の機体部品製造に加え,エンジン部品生産も増加傾向にある。今後も伸び続けていく見込みである増産/量産に対応していくためには,プライム企業,既存の加工外注を中心としたサプライチェーンだけでの太刀打ちは困難であり,熱処理,溶接,コーティングと言った特殊工程およびNDT(非破壊検査)を担えるサプライヤを含めたさらなるサプライチェーンの新規構築が必要である。特に人材の訓練・試験に厳しい管理要求を課される非破壊検査は参入障壁が非常に高く,対応できるサプライヤが限られている状況である。本稿では,さらなるサプライチェーン構築のサポートをするために立ち上げたNANDTB-Japan(日本航空宇宙非破壊試験委員会)のこれまでの取り組みと今後の活動について解説する。

NAS 410/EN 4179 による認証制度
(株)SUBARU 角田  靖

Certification Institution per NAS 410 / EN 4179
SUBARU CORPORATION Yasushi KAKUDA

キーワード:非破壊検査,非破壊試験,認証,航空宇宙,適格性

はじめに
 いよいよ日本でも航空宇宙非破壊試験委員会(National Aerospace NDT Board,NANDTB)が発足し,講習会が開催され,適格性評価試験が実施されようとしている。航空宇宙製品の非破壊検査に携わる要員の認定にはNAS 410/EN 4179に規定される教育や経験時間等についての要求事項への適合が必要とされ,特に新規参入会社においてはこれらが大きな障壁となっていた。NANDTB-Japan は,この障壁を取り除き,我が国の航空宇宙業界の発展に寄与することを目的として設立された。
 本稿では,NAS 410/EN 4179 の要求と,NANDTB-Japan が果たす役割について述べる。なお,NAS 410 とEN 4179 はNAS410 内でも述べられている通り技術的内容について同等であるので,本稿では国内で主に適用されているNAS 410 について述べる。

NAS 410/EN 4179 に準拠した当社初の航空非破壊検査員の認定と認証
(株)日本製鋼所 仁村 弘樹

Qualification and Certification of our Company’s First Aerospace Non-destructive
Test Personnel in Accordance with NAS 410/EN 4179

THE JAPAN STEEL WORKS, LTD. Hiroki NIMURA

キーワード:Level 3,認定・認証,NAS 410,EN 4179,NANDTB,BINDT

はじめに
2014 年に「非破壊検査」第63 巻,第2 号で「航空機業界における非破壊検査」の特集が組まれた。当時はニュース等でホンダジェットやMRJ:Mitsubishi Regional Jet の好調ぶりを目にする機会が増えており,航空機業界が活況であることが窺えるようになってきた頃であった。一方で,当社は大型発電所の建設中止や計画変更により従来のエネルギー産業向け重厚長大型の事業に加えて今後の成長が見込める事業を立上げなければならなかった。
 航空機は1 機当たりの部品点数が自動車の100 倍もあり,すそ野が広い産業とも言われる反面,JIS Q 9100 をはじめNadcap などの高度な品質管理システムが求められることが課題であった。当社は原子力発電部材の製造を通じて培った品質保証体制と風力発電用ブレードの製造技術を基に課題を克服し,CFRP 複合材の製品製造で航空機業界に参入することになった。課題の一つが航空機業界で通用する「非破壊検査員の認定*1(Qualification)と認証*2(Certification)」であった。手順や方法について具体的な情報が少なくどのように実施すべきか手立てがなかったが上記特集を教科書として非破壊検査員の認定・認証を実施することができたので新規参入を検討されている方への一助となることを期待して当社事例を紹介する。

航空産業非破壊検査トレーニングセンターでの講習
兵庫県立工業技術センター 浜口 和也

Outline of the Aircraft Non-destructive Testing Training Center
Hyogo Prefectural Institute of Technology Kazuya HAMAGUCHI

キーワード:浸透探傷,磁粉探傷,超音波探傷,NAS 410

はじめに
兵庫県では,航空産業における非破壊検査員の養成に向けて,NAS 410 に準拠した国内初の訓練機関「航空産業非破壊検査トレーニングセンター」を開設した。講習する試験は,浸透探傷,磁粉探傷,超音波探傷であり,その講習内容等について紹介する。

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