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機関誌

2018年03月号バックナンバー

2018年3月1日更新

巻頭言

「インフラ構造物の維持管理の現状と課題」 内海 秀幸

 インフラとはそもそもは「下部の構造」という意味を有しているようですが,近年では,我々が快適な社会生活を営む上で必要となる設備や施設を指すものとして一般的に認識されています。土木におけるインフラとは,道路,橋梁,上下水道,トンネル,港湾・ダム等のことを意味し,これら土木系インフラの特徴は,個人の所有物ではなく「社会が維持管理していくべきものである」といった点です。
 しかし,維持管理といっても,インフラの種類やどの程度の頻度でどの程度重点的に実施するかといった様々な点で,大きく態様が異なります。そのため,構造物の健全性や劣化の程度を正しく評価する「技術」が重要であり,まさに,その一翼を担うのが非破壊検査技術です。
 さて,我が国の道路橋に着目すると約70 万橋,トンネルは約1 万本あり,道路の総延長としては120 万キロを超えます。今日すでに世界でもトップレベルの少子高齢化社会の日本において,これらの土木系インフラを適正に維持管理していくには,ちょっと考えただけでも,その財源を確保することが困難であることは想像に難くないでしょう。橋について着目すると,高度経済成長ピーク時の1970 年には年間に約1 万2 千も建設され,それらは一般的な寿命と考えられる50年が目前に迫っています。2020 年には国内の橋の40%程度,2032 年には65%程度が建設以降50年経過し,今から盤石な維持管理体制を構築しておかなければ大変なことになります。その先駆けとして,これまで橋梁については10 年に1 度定期点検をすることを国は「推奨」していましたが,平成25 年より,5 年に1 回「近接目視」を基本として実施することが法的に定められ,その診断結果を明確化することとしています。
 このような中,当協会の「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」は1988 年にその前身である組織が設置されて以降,微破壊も含め多面的な視点でコンクリート構造物の健全性や劣化の程度を正しく評価するための非破壊試験に関する調査・研究ならびに規格化に取り組んできました。先般,2017 年3 月号では「鉄筋コンクリート構造物の強度・透気性・鉄筋腐食に関する非破壊検査手法の研究」と題した特集を編纂させていただきましたが,今回は,特に,実務上において鉄筋コンクリートの維持管理に日々従事されているエキスパートの方々に執筆を依頼いたしました。
 本特集号は「インフラ構造物の維持管理の現状と課題」と題し,道路橋,トンネルさらには鉄道軌道まで,様々なインフラに対する検査技術や手法を取りまとめております。本特集号が,コンクリート構造物の非破壊検査に関わる幅広いに関係各位の一助となれば幸いです。

 

解説

インフラ構造物の維持管理の現状と課題

コンクリート道路橋の現状と非破壊検査の活用
 (一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所 渡邉 晋也

Present Status of the Concrete Road Bridges and Utilization
of Non-destructive Inspection

Japan Construction Method and Machinery Research Institute Shinya WATANABE

キーワード:道路橋,劣化状況,点検・診断,維持・管理,非破壊検査

はじめに
 「コンクリート構造物はメンテナンスフリー」と言われていた時代は過去のものになった。エンジニアの意識は1980 年ごろから変わりはじめ,メンテナンスが必要であると認識され始めていたにもかかわらず一般の国民は,コンクリート構造物は壊れないもの(メンテナンスフリー)という感覚を持っていたと思われる。同時期に米国ではインフラの荒廃が注目を浴びP. Choate & S. Walter が「America in Ruins」を出版し警鐘を鳴らしていた。それから約30 年が経過した2007 年にミネアポリス州間高速道路35W 号線(I-35W)ミシシッピ川橋が崩落し,自動車が約60 台転落し,13 人の尊い命が失われ,世界に衝撃を与えた。しかしながら,わが国で起こった事故ではないことから,国民の意識は対岸の火事であり,メンテナンスの重要性の意識が向上することは少なかったと思われる。そのようななか2012 年に発生した笹子トンネルの天井板崩落事故は国民に衝撃を与えた事案である。ようやく,インフラ構造物に対する問題意識が変化したものと考えられる。わが国における,コンクリート構造物の維持管理が重要と国民に認知される時代となった。我々エンジニアには,過去に整備されたインフラ構造物を安全・安心に使用できるように国民の期待に応えるべく維持・管理を行っていかなくてはならないという使命が課せられているといえよう。
 インフラ構造物の維持管理を行う上で,「どのように壊れているのか」という現状を知ることは大変有意義であり,劣化の現状を知ることで,新たな材料の開発,新構造形式の創造など技術向上の糧となる。
 筆者は,全国各地の劣化損傷している橋梁を調査し,それらの損傷メカニズムや原因を分析することで,適切かつ合理的な維持・管理につなげる研究を手掛けてきた。本稿では,道路橋の現状について報告させていただくとともに,コンクリート構造物の現状を把握するうえで非常に重要となる非破壊検査手法についても記述する。
 なお,本文中に記載している写真は,筆者が全国各地の橋梁を自らの目で見てきたものである。読者がわかりやすいように,特に劣化が進んでいる橋梁であることを付記する。

 

道路附属物の効果的な維持管理手法
 (有)丸重屋 平手 克治 柏原 優也

Maintenance of Traffic Signs, Lights and Other Safety Assets
Marushigeya Co., Ltd. Katsuharu HIRATE and Yuya KASHIWABARA

キーワード:小規模鋼構造物,道路附属物,維持管理,合いマーク,点検方法,変状の事例,附属物マネジメント

はじめに
 社会基盤(インフラストック)を適切に維持管理することは安全・安心な暮らしを支える持続可能な社会の構築に欠かすことはできない。そんな中,笹子トンネルの天井板崩落事故が発災した。この事件を契機にインフラの高齢化・老朽化への理解が深まり,膨大なインフラストラクチャが危機的状態にあることが世論の話題を生み,構造物の老朽化問題への取り組み「5年に1 回の強制点検を義務付ける」省令が,2013 年7 月より施行された。しかし,実際に現地で点検診断を実施する技術者が各構造物の定期点検要領に基づいた調査方法を学ぶ場は極わずかで,民間企業の業務受注時のOJT やOFF-JT に依存している。そこで,小規模鋼構造物(以下,附属物という)にスポットをあて,国が定める附属物定期点検要領1)に沿って,包括的に劣化状況の実態を的確に整理する手法と,我が国のインフラ構造物の維持管理体制の現状と課題を明確化したい。

 

MIMM によるトンネル壁面の健全性評価
−時速50 km でのトンネル計測;MIMM の出来ること−
 計測検査(株)構造調査部 舛添 和久

Evaluation of Soundness Assessment of Tunnel Walls by MIMM
− We Measure Tunnels while Running at 50 km/h
by using MIMM and can Find Abnormality Points −

Keisokukensa Co., Ltd. Kazuhisa MASUZOE

キーワード:トンネル,維持管理,走行型, 点検,調査,非接触

トンネル点検を取り巻く現状
 平成24 年12 月に起きた中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故後,社会インフラ老朽化における維持管理の課題が改めて顕在化し脚光を浴びることとなった。これを大きな転機とし,国民生活や経済の基盤であるインフラが的確に維持されるよう,国土交通省では様々な検討が行われ,その結果平成26 年7 月からトンネル・橋梁の全数検査を5 年に1 回の頻度で定期点検することが定められた1)。
 構造物の寿命を延命化させるため,点検を実施し健全かどうかを判断する必要がある。点検要領については省令により近接目視が義務付けられた(図1)。また,点検結果として健全性を4 段階に診断することとなった。
 主に戦後から積み上げられてきた膨大なインフラストックのうち,道路トンネルは現在,総数約10900 本,総距離約4000 km 以上にも及ぶ。この膨大なトンネル数に対して,平成26,27,28 年度の累積点検実施率は47%であり,平成30年度は平成26 年度の倍速での点検実施が計画されている。
 点検の質とスピードが求められる最中,国土交通省は,今後増大するインフラ点検を効果的・効率的に行い,災害現場の調査や応急復旧を迅速かつ的確に実施する実用性の高いロボットの開発から導入まで一貫した取り組みを支援するとした。
 本稿では走行しながら非接触で定量的なトンネル内のデータを取得することができる,MIMM(図2)が,すべてのトンネル点検を5 年サイクルで実施する調査・点検技術の一助となるべく,次世代社会インフラ用ロボット開発・導入の現況や,結果のバラツキを最小限に抑えるための,取り組みについて報告する。

 

塩害劣化補修工事におけるシラン系鉄筋腐食抑制材の適用報告
川田建設(株)大久保 孝

A Report of The Effect of a Silane-based Corrosion Inhibitor
in Repair Work on Chloride Attack

Kawada Construction Co., Ltd. Takashi OKUBO

キーワード:有ヒンジラーメン橋,断面修復,シラン系鉄筋腐食抑制材,自然電位,腐食速度,付着性能

はじめに
 上関大橋(以下,本橋と記す)は,PC3 径間連続有ヒンジラーメン箱桁橋(中央スパン140 m)であり,建設後44 年を経過(2011 年当時)した海上橋である。
 本橋の補修・補強工事は,2007 年度から分割して発注され,当社施工では,海上に吊足場を設置し,既設橋の外観調査後に上部工の補修・補強を行う内容であった。
 当社施工範囲では,補修工事としては,断面修復工・含浸剤塗布工があり,塩害および中性化の複合劣化を生じた主桁断面の補修を行った。補強工事としては,現況の耐力を評価した後,B 活荷重対応と耐震補強を考慮した,炭素繊維補強工・外ケーブル補強工を実施した。
 本稿では,炭素繊維補強工着手前に行った補修工事のうち,塩害劣化の補修工事としてのシラン系含浸材塗布について,施工に先立ち実施した効果の確認等について報告する。

 

軌道の維持管理に適用される非破壊検査技術
 (株)トータル・インフォメーション・サービス 宮坂 洋介

Non-Destructive Inspection Technology Applied
to the Maintenance of Railway Track

Total Information Service Co., Ltd. Yosuke MIYASAKA

キーワード:保線,軌道変位,正矢法,軌道検測,整備基準

はじめに
 筆者は大手の民営鉄道または公営鉄道向けに線路のメンテナンスのための業務管理システムを開発する業務に従事している。
 線路のメンテナンスは保線と呼ばれ,弊社では「保線管理システム」と呼ばれる保線業務のためのシステムを長年開発している。
 本稿は,保線という独特な分野における検査技術をIT ベンダーなりに理解した内容としてご紹介するものである。なお,都市部鉄道と地方部鉄道では運用に違いがあり,弊社は都市部鉄道を中心に事業を進めているため,本稿は都市部を対象としていることをご了承頂きたい。

 

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