石油化学プラントや製鉄プラント,発電プラントに代表される大型設備の保全を適切に行うことは,設備や機器の効率的運用や安全性,ひいては環境問題などにとって重要であることは言うまでもない。ここで,実施すべき保全の方式としては,(1)設備の使用時間や暦時間を基準として計画的・定期的に分解点検などの保全を行う時間基準保全,(2)設備が故障した後に保全・補修を行う事後保全,の2 種類が従前からの伝統的な保全方式であるが,最近ではこれらに加えて,(3)設備診断技術などによって設備の状態を非破壊で監視・モニタリングし,その評価(診断)結果に基づいて保全を行う状態基準保全が産業界の各分野で積極的に導入されるとともに,状態監視診断技術を駆使した効果的な設備診断が実施されている。
状態監視診断技術に基づく設備診断を健全に発展させるための重要課題の一つが,技術者の認証制度である。ISO においても,TC 108(機械の振動・衝撃と状態監視)委員会内にSC 5(機械の状態監視と診断)小委員会が設置され,ISO/TC 108/SC 5/WG 7(機械の状態監視と診断に関する教育と認証制度)からISO 18436 シリーズとして機械の状態監視診断技術者の認証に関する数多くの規格が提案・発行されている。
国内におけるISO 18436 シリーズに基づく機械の状態監視診断技術者の認証については,(一社)日本機械学会において,2004 年から振動(ISO 18436-2),2009 年からトライボロジー(ISO 18436-4)の技術者認証がそれぞれ実施されている。一方で,サーモグラフィによる機械の状態監視と診断技術は産業界の各分野で既に幅広く適用されているにもかかわらず,ISO 18436-7 に基づくサーモグラフィの技術者認証はこれまで国内では実施されていなかった。これに対して,例えば(一社)日本電気協会の発行する規格である,電気技術指針 原子力編JEAG 4223-2015「原子力発電所の設備診断に関する技術指針-赤外線サーモグラフィ診断技術」において,測定者・評価者の力量要件としてISO 18436-7 に基づくサーモグラフィの技術者認証が(JSNDI での認証制度の開始を前提に,言わば先取りする形態で)引用されたことをはじめとして,各方面からの,この認証に対する社会的なニーズは飛躍的に高まっていた。
これを受けて,非破壊試験技術者の認証についての第三者機関として豊富な実績を有するJSNDI では,2012 年3 月にISO 18436-7 認証準備WG を設置して検討を開始し,2014 年12 月にはISO 18436-7 認証準備委員会を設置して具体的な制度構築を進めてきた。そして,2016 年4 月に要員認証事業部門にCM(ConditionMonitoring)技術者認証事業本部を正式に設置し,ISO 18436-7「機械の状態監視及び診断-技術者の資格及び評価に関する要求事項-第7 部:サーモグラフィ」に基づく技術者認証制度を,2016 年10 月から開始した次第である。
このような背景のもとで,本特集では「機械の状態監視診断技術者(サーモグラフィ)認証制度の紹介」と題し,最初に,設備診断及び赤外線サーモグラフィを用いた機械の状態監視について概説いただき,続いて,出版テキストの内容に関する紹介,訓練(シラバスを含む)の内容と実施事項に関する紹介,認証制度の仕組み・手順の詳細についてそれぞれ解説をお願いした構成としている。さらに,同じ赤外線サーモグラフィ技術を用いた非破壊試験技術者認証制度として先行実施しているNDIS 0604 との関係,及びNDIS 0604 訓練用テキストについても,それぞれISO 18436-7 との関係を踏まえつつ読者の参考となるような解説をお願いした。
要員認証事業部門へのCM 技術者認証事業本部の設置とCM 技術者認証制度の開始に伴い,JSNDI は,JISZ 2305(ISO 9712)に基づく非破壊試験技術者認証と,ISO 18436 に基づく機械の状態監視診断技術者認証を同一の機関で実施する,世界的にも稀有な組織体となった。この中で,ISO 18436-7 とNDIS 0604 は,同じ赤外線サーモグラフィ技術を用いた技術者認証制度として,より一層の社会発展に寄与できるようにすることを念頭に,何らかの形で相互メリットを出していく筋道を検討していくことも今後の大きな課題であろう。
本特集が,会員諸氏の皆様の参考になれば幸甚です。また,ご多忙の中にもかかわらず本特集のために執筆の労をとっていただいた著者の方々にこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。
Condition Monitoring for Machines by Infrared Thermography
AsahiKASEI Corporation Takeshi YOSHINAGA
キーワード:サーモグラフィ,規格,モニタリング,技術者教育,認定
はじめに
1990 年のISO/TC 108(機械振動と衝撃)委員会全体会議において,「振動の監視と診断」に関する規格を作成すべきとの提案があり,1993 年にこれを担当するSC 5(機械の状態監視と診断)小委員会が発足した。翌1994 年から米国を主体としたSC5 の会議が開催されており,日本でも数年の準備期間を経て,2000 年から(一社)日本機械学会を国内審議団体とするSC5 国内委員会の本格的な活動が開始された。この委員会には大学,プラントメーカ及びユーザ,計測器メーカ等から約20 名の委員が登録されており,毎年開催されるSC 5 国際会議への参加をはじめとして,規格案策定に積極的な活動を展開している。2017 年4 月現在での設備診断関連の規格案策定状況を図1 に示す。網掛けのものが既に発行されており,網掛けのないものが現在検討中の規格である。
本解説ではまず,これらのISO のうち機械状態監視診断技術者資格認証制度を定めたISO 18436 シリーズの概要について解説し,さらに赤外線サーモグラフィ診断技術者資格認証制度(ISO 18436-7)についても述べるとともに,機械状態の監視・診断を行う技術者が理解しておくべき設備診断の基礎並びに赤外線サーモグラフィの歴史と技術開発の経緯について触れる。
なお,本資格認証制度の仕組みや訓練内容(シラバス)及びNDIS 0604 との関連等については,後出の解説記事を参照されたい。
Introduction of the Category Ⅰ Text
Thermographers Co., Ltd. Kotaro YAMAKOSHI
キーワード: ISO 18436,赤外線,サーモグラフィ,状態監視,テキスト
はじめに
ISO 18436-7「機械設備の状態監視と診断−診断技術者に対する要求事項−赤外線サーモグラフィ」では,赤外線サーモグラフィ試験を実施する診断技術者をカテゴリーⅠ~Ⅲの3段階に規定している。本書はカテゴリーⅠの診断技術者のための訓練シラバスに準拠したテキストとして編集された。
カテゴリーⅠで要求される力量は,適正なデータ測定を行うために必要な熱画像装置の準備及び操作が行えることなど,技術者として最も基本的な内容となっている。赤外線サーモグラフィ試験に関する資格認証は,(一社)日本非破壊検査協会のNDIS 0604「赤外線サーモグラフィ試験-技術者の資格及び認証」に基づき,2012 年春期から認証試験が開始されている。NDIS 0604 は,特定の分野・用途を定めず広く赤外線サーモグラフィ試験全般を扱うのに対し,ISO 18436-7 は機械設備の状態監視と診断に分野を限定している点が大きく異なる。このため,本書は機械設備関連により深く専門的に踏み込んだ内容となっている。特に原子力発電所では,既に機械設備の状態監視に,ISO 18436-2 振動診断技術者とISO 18436-4 潤滑診断技術者の資格認証制度を導入して運用しており,赤外線サーモグラフィ診断技術者の資格認証制度の導入も長い間待望されてきた。本書の装丁を図1 に示す。
The Contents of Training (Syllabus) and Implementation Items
in the Training Course
CHINO Corporation Takao SHIMIZU
キーワード: ISO 18436,サーモグラフィ,熱画像,訓練機関,状態監視
はじめに
2016 年度より(一社)日本非破壊検査協会(以下,日本非破壊検査協会)が,国際的な資格のISO 18436-7 に基づく機械状態監視診断技術者(サーモグラフィ)の資格認証制度を開始した。機械状態監視診断技術者(サーモグラフィ)の資格を取得するためには,承認された訓練センターにて訓練コースを受講して,修了試験に合格することにより,資格認証試験に必要な受験資格が得られる。
弊社はISO 18436-7 機械状態監視診断技術者(サーモグラフィ)の認証機関である日本非破壊検査協会からISO 18436-3に基づき訓練機関として2016 年10 月に承認された。2016 年度は,機械状態監視診断ができる技術者のレベルとして,“カテゴリーⅠ”の訓練コースを二回実施したので,その概要について説明する。
Personnel Certification of Condition Monitoring and Diagnostics of Machines
National Defense Academy Nagahisa OGASAWARA
キーワード: 非機械状態監視診断技術,ISO 18436-7,赤外線サーモグラフィ試験
はじめに
平成28 年10 月,(一社)日本非破壊検査協会(JSNDI)のCM(Condition Monitoring)技術者認証事業本部では,ISO18436-7 に基づく機械状態監視診断技術者(サーモグラフィ)(略称IR)の認証を開始した。
ISO 18436 シリーズに基づく機械状態監視診断技術者の認証は,(一社)日本機械学会において,2004 年から振動(ISO18436-2),2009 年からトライボロジー(ISO 18436-4)の技術者認証がそれぞれ実施されていた。一方,赤外線サーモグラフィによる機械の状態監視と診断は既に幅広く適用されているが,ISO 18436-7 に基づく赤外線サーモグラフィの技術者認証はこれまで国内では実施されていなかったのが現状である。
ところが,例えばJEAG 4223-2015「原子力発電所の設備診断に関する技術指針-赤外線サーモグラフィ診断技術」において,測定者・評価者の力量要件としてISO 18436-7 に基づくサーモグラフィの技術者認証が引用されたことをはじめとして,この認証に対する社会的なニーズが飛躍的に高まってきた。これを受けて,非破壊試験技術者の認証について第三者機関として豊富な実績を有するJSNDI では,2012 年3 月にISO18436-7 認証準備WG を設置して検討を開始,2014 年12 月にはISO 18436-7 認証準備委員会を設置して制度構築を進め,その結実として昨秋からの認証開始となった。本解説では,認証制度に関する重要事項を掲載する。
Relation with Certification of Personnel for Infrared Thermographic Testing
Based on NDIS 0604
Kobe University Takahide SAKAGAMI
キーワード: 赤外線サーモグラフィ試験,NDIS 0604
はじめに
(一社)日本非破壊検査協会(JSNDI)は,非破壊試験に従事する技術者の認証に関する長い歴史と実績を有している。これまでに,放射線透過試験,超音波探傷試験,磁気探傷試験,浸透探傷試験,渦電流探傷試験及びひずみゲージ試験の6 種目に対して,日本非破壊検査協会規格NDIS 0601 に基づく認証制度に始まり,その後は日本工業規格JIS Z 2305 に基づく認証制度を通じて,社会の安全・安心の確保に貢献してきた。JSNDI では,赤外線サーモグラフィの普及により,赤外線サーモグラフィによる非破壊試験が様々な工業分野で注目され,現場への普及が加速している背景を踏まえ,赤外線サーモグラフィ試験(TT)に従事する技術者の確保ならびに技術レベルの向上を目的として,2009 年にNDIS 0604:2009「赤外線サーモグラフィ試験-技術者の資格及び認証」を制定し,2012 年春期からTT レベル1,2013 年春期からTT レベル2 技術者の認証試験を開始した。これまでに認証した技術者の数は,2017 年2 月現在で,TT レベル1 が222 名,TT レベル2 が52 名となっている。本解説では,NDIS 0604 を制定した時点における社会的背景,NDIS 0604 の概要について述べ,ISO 18436-7 認証との共通点と相違点を明らかにするとともに,今後のNDIS 0604 認証の展開について述べる。
Current Status of “Infrared Thermographic TestingⅠ, Ⅱ” and Text for Level Ⅲ
Shinko Inspection & Service Co., Ltd. Hideki ENDO
キーワード:赤外線サーモグラフィ試験,NDIS 0604,JIS Z 2305,ISO 18436-7,テキスト
はじめに
本特集では,ISO 18436-7 に基づく機械の状態監視診断技術者(サーモグラフィ)の認証制度について当該分野の第一人者によって詳細に解説されると伺っており,それで十分と思われるが,筆者にも日本非破壊検査協会規格(NDIS)0604:2009「赤外線サーモグラフィ試験−技術者の資格及び認証」の訓練用テキストについて紹介せよとの依頼があった。
そこで,筆者の個人的な立場から ,ISO 18436-7 で認証された技術者が読んでも興味深いと思われるNDIS 0604 訓練用テキスト「赤外線サーモグラフィ試験Ⅱ」の内容を簡単に紹介する。次に,「赤外線サーモグラフィ試験Ⅰ,Ⅱ」の改訂の計画及び2016 年度から編集を開始した,レベル3 技術者の訓練用テキスト「赤外線サーモグラフィ試験Ⅲ」の現状を報告する。
Measurement of Strain in the Vicinity of the Contact Interface between a Titanium
Screw and Bone Tissue using Synchrotron White X-ray
Jun-ichi SHIBANO,Shinpei KIYOTANI,Mizuki KOSHIMURA,
Kentaro KAJIWARA and Takahisa SHOBU
Abstract
In order to evaluate the stress and the strain near the contact interface between a biocompatible metallic material and a bone tissue,measurement by the synchrotron radiation white X-ray obtained in the BL28B2 beam line of SPring-8 was investigated. The smallsteel ball was pressed onto the specimen of bovine femur cortical bone, and the strain of the long bone axial direction near the contact point was measured. The strain distribution peculiar to a bone tissue, which has anisotropy, was indicated, and, the beta titanium threadassuming the implant was thrust into the specimen of bovine femur cortical bone, and the strain near the contact interface of the betatitanium thread and the bone tissue was measured using synchrotron radiation white X-ray. As a result, the compressive strain by pressingload was widely distributed over the bone tissue and the beta titanium thread. However, the tensile strain occurred in the screw thread of the beta titanium thread near the defect of bony thread part. It was confirmed that this method was valid in evaluation of the internalstrain of the minute region near the interface of the bone tissue and the beta titanium screw thread.
キーワード:Bone tissue, Titanium, Implant, Strain, Synchrotron radiation, White X-ray
緒言
折損あるいは破損した骨の外科治療や歯科治療において,生体適合性金属材料からなる固定具,人工股関節や人工歯根などのインプラントの利用が盛んに行われている。しかしながら,固定具やインプラントの使用中の破損事例1)も多く報告されており,その原因の究明と防止が課題となっている。破損の原因として使用中に生じる応力・ひずみが考えられるが,その評価には計算機シミュレーションが多く用いられている。実際に骨を用いた検討も行われているが,骨組織とインプラントなどの金属材料との接触界面近傍における応力・ひずみの非破壊評価2)はほとんど行われていない。一方,著者らは,放射光高エネルギー白色X 線を用いて,厚さ5 ~ 15 mm の鉄鋼材料の内部ひずみを測定する方法3)を確立した。さらに,白色X 線CT との併用により金属内部のき裂先端のひずみ評価が可能であることを示した4)。これらの手法は,インプラントの生体適合性金属材料はもちろん骨組織の結晶体であるハイドロキシアパタイト(以下HAp)結晶にも適用できる。
本研究では大型放射光施設SPring-8 のBL28B2 ビームラインで得られる放射光白色X 線を用いて,骨組織の応力・ひずみ測定の可能性と生体適合性金属材料としてインプラントに用いられているβ チタン(以下βTi)と骨組織の接触界面近傍のひずみ測定に関する検討を行った。まず,直方体に成形したウシ大腿骨皮質骨試験片に鉄鋼製小球を押し付け,接触点近傍の長骨軸方向応力分布を評価した。さらに,ウシ大腿骨皮質骨を直方体形状に成形した試験片中央にβTi ネジを組み込み,ネジ上部に押し込み荷重をかけてβTi ネジとウシ骨の接触界面近傍の長骨軸方向ひずみ分布を放射光白色X線による透過法により測定した。これにより,固定具用ネジや人工歯根を想定したβTiネジと骨組織の接触界面近傍のひずみ評価の検討を行った。