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機関誌

2017年4月号バックナンバー

2017年4月1日更新

巻頭言

「水中での非破壊検査」   谷口 良一

 最近,水中で非破壊検査等の測定を行う機会が増えています。非破壊検査にとっての検査環境としては,決して望ましいものではありませんが,大線量放射線が存在する場合,あるいは海洋での測定など,水中あるいは水上検査が不可欠である対象の場合,選択の余地はありません。ことに2011年の原発事故以来,水中検査の技術の開発が強く求められるようになりました。
 事故原発の処理において,使用済みの核燃料を安全な場所に回収することが第一に求められていますが,いまだにその目処はたっていません。そもそも原子炉の内部がどのような状態になっており,破損した核燃料が,どの程度拡散しているのかも分からないのが現状です。事故炉の内部の放射線レベルが極めて高く,人が近づけないだけでなく,遠隔操作装置やロボットも放射線損傷のため,短時間しか探査できないことが大きな原因だといわれています。通常このような場合,水中検査が行われるのですが,事故の影響で原子炉容器に水漏れがあり,十分に水を張ることができないことも問題です。このような現状を見て,廃炉作業はドライな環境で行うべきであるという意見もありますが,この場合,放射線損傷が最も過酷な問題となります。さらに現実問題として,完全にドライな環境にすることは逆に難しく,少なくとも水陸両用の準備は必要だと考えています。いずれにしても,今後,事故炉の処理は大きな課題であります。その中でも水中検査,水中作業には開発すべき課題が多数あることは事実です。
 本特集では,このような観点から,これまでにも利用されてきた水中検査技術を紹介するとともに,今後必要とされる水中検査技術の展望を行いたいと思います。非破壊検査技術の中には,超音波検査のように,水中測定が必ずしも障害にはならない分野もあります。原子炉の水中検査全般に関しては「原子炉の水中検査」と題して鶴田孝義先生に,ロボットの導入,遠隔検査等,興味深い最新の話題を提供していただきました。また,検査手法に関しては平澤泰治先生に「フェーズドアレイUT 技術による水中検査」と題して,原子炉の定期検査に用いる検査技術開発を詳細に紹介していただきました。続いて,UT 水中非破壊検査研究の最先端の話題について,川嶋紘一郎先生に「水浸超音波法による材料表面近傍及び内部欠陥・異質部の可視化の現状」と題して紹介いただきました。加えて,今後の検査技術の開発において参考となる観測システムとして,海面変位観測を中心にした海底・海中から大気圏・電離圏に及ぶ地球規模の観測技術の展開について,寺田幸博先生に「GPS 津波計・波浪計・潮位計」と題して紹介いただきました。最後に,放射線環境下の水中検査技術の開発を念頭においた,新たな技術者の人材育成事業である「大線量放射線下の水中検査研修」の紹介を筆者(谷口)が行っています。本特集が口火となり,今後の水中非破壊検査分野の技術開発と可能性を議論することで,将来の社会的ニーズをふまえた研究開発が各分野で広がることを願っています。

 

解説

水中での非破壊検査

原子炉の水中検査
  三菱重工業(株)鶴田 孝義、関 伊佐夫、須田 洋介、冨田 英次

Underwater Inspection for Nuclear Reactor Vessel
Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. Takayoshi TSURUTA, Isao SEKI,
Yosuke SUDA and Hidetsugu TOMITA

キーワード:非破壊検査,原子力機器,供用期間中検査,水中検査,自動探傷

はじめに
 日本国内には,20 基(廃炉計画のものを除く)の加圧水型原子炉発電プラント(以下,PWR:Pressurized Water Reactor)があり,初期のものは運転年数が40 年近くに達する。
 設備の高経年化が進む中で,応力腐食割れ(以下,SCC:Stress Corrosion Cracking)等のように運転時間に伴い顕在化する損傷が国内外ともに確認され,原子力プラントの安全性,信頼性の確保が重要視される中,検査の重要性が高まっており,機器の重要度に応じた適切な検査技術が求められている。
 原子力プラントの健全性確認としては,供用期間中における定期検査が重要な位置を占めている。国内では法的に13ヵ月に一度の定期検査が義務づけられており,いわゆる供用期間中検査(以下,ISI:In Service Inspection)として,機器の溶接部を主体とした各種の検査や経年劣化による損傷を防ぐ目的で保全工事や取替工事が実施されている。

 

フェーズドアレイUT 技術による水中検査
  (一財)発電設備技術検査協会 平澤 泰治

Underwater Inspection by Immersion Phased Array UT Technique
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Taiji HIRASAWA

キーワード: フェーズドアレイ UT,水浸法,炉内構造物,ステンレス鋼溶接部,Ni 基合金溶接部,欠陥深さ測定

1.各種透気試験の相互比較
 超音波を用いた計測技術や診断技術は,火力,原子力分野をはじめ一般産業分野や医療分野などで広く用いられている。これらの分野では,その多くが大気中環境下で使用されているが,海洋での測定や水中環境下での検査が必要不可欠の構造物もある。
 原子力発電プラントの供用期間中検査では,体積試験として超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)を行い,機器・構造物の健全性の確認を行っている。炉内構造物という名称は,原子炉圧力容器(RPV:Reactor Pressure Vessel)内に組み込まれていて,炉心の支持,炉内の冷却材流路の形成等の機能を持つ原子炉内の構造物の総称である。炉内構造物の検査は,一般に炉水環境下で行われ,水中カメラによる目視試験でき裂が検出された場合,UT でき裂深さを測定することが求められ,その結果をもとに,維持規格1)に従って健全性評価を行い,その後の運用(補修,取替等)を決めている。そのため,き裂深さを高精度に測定することは,構造物の健全性評価にとって極めて重要である。炉内構造物に用いられている材料は,高温高圧水環境下で使用されているため,耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼(以下,ステンレス鋼)やニッケル基合金(以下,Ni 基合金)が用いられている。ステンレス鋼溶接部やNi 基合金溶接部の溶接金属組織(柱状晶組織)は,異方性材料であるため,超音波入射による超音波の散乱・減衰,屈曲等が大きく,一般に難探傷部位といわれている。これらの溶接部に発生するき裂深さを高精度に測定する技術として,フェーズドアレイUT 技術が適用されてきた。
 フェーズドアレイUT 技術は,アレイ探触子の各振動子から異なったタイミング(遅延時間制御)で,超音波を発生することにより,任意の方向(探傷角度)と位置(集束位置)に送信波形よりも振幅の大きな合成波面を形成させて,構造物内部の検査(欠陥検出及び欠陥深さ測定)を行う方法である。フェーズドアレイUT は,超音波ビーム制御により,セクタ走査,リニア走査等の多様な探傷が可能であり,さらに,探傷データの画像化による構造物内部の可視化も可能であることから,ステンレス鋼やNi 基合金溶接部の欠陥深さ測定に対して,水浸フェーズドアレイUT による欠陥深さ測定の技術開発が行われ2),また,実機への適用例3),4)も報告されている。
 本稿では,原子力発電プラント,主として沸騰水型原子力発電プラト(BWR:Boiling Water Reactor)の炉内構造物に対する水中検査として,フェーズドアレイUT による欠陥深さ測定について,著者が関係した研究・開発の報告例や実機適用例を引用し,その概要を紹介する。

 

水浸超音波法による材料表面近傍及び内部欠陥・異質部の可視化の現状
 (有)超音波材料診断研究所,(公財)名古屋産業科学研究所 川嶋紘一郎

Immersion Ultrasonic Imaging of Small Defects and Inclusions
on Surfaces and in Sub-Surfaces
Ultrasonic Materials Diagnosis Laboratory, Nagoya Industrial Science Research Institute
Koichiro KAWASHIMA

キーワード: 非破壊評価,超音波,高調波,微小欠陥,介在物,水浸法

はじめに
 超音波を用いた工業材料内部の欠陥検出が可能となった時から,X 線画像のように欠陥を可視化したいという要求が存在し,幾つかの先駆的試みがなされた。1973 年に水滴を介して1 GHz 程度までの高周波表面波バースト波を送受信する走査超音波顕微鏡が発明され,鏡面研磨された面及びその直下数十μm 範囲における面内音響特性の差を空間分解能約1 μmで画像化できるようになった。しかし,工業材料の深さ数〜数十mm に存在する内部欠陥の可視化はできなかった。国内では1978 年頃から超音波画像化装置が製作1)され,例えば厚さ40 mm までの鋼板の内部欠陥を検出するために水浸超音波画像化装置が用いられた2)。1985 年以降には国内の多くのメーカからIC パッケージのはく離・リード線断線検査用の水浸超音波画像(映像)装置が市販された。さらに航空宇宙分野へのCFRP 積層材の利用拡大に伴い,打撃損傷後の層間はく離部面積の非破壊評価手段として水浸超音波法が普及してきた。なお水槽に水没させることができない航空機翼などの大型部材に対しては,水柱(Water jet, Bubbler)を介して超音波の送受信を行う欠陥画像化が用いられる。近年,国内の超音波機器メーカの多くがIC パッケージより大きな産業用部材・部品の不健全部可視化のための水浸超音波画像装置を提供するようになり,各地の公設研究機関におけるその設置も増えつつある。
 フェーズドアレイ装置を含む接触式超音波法を用いて0.2 〜0.3 mm 以上の内部欠陥を画像化できるが,それ以下の微小欠陥の画像化には,焦点探触子と機械的走査を用いる水浸超音波画像化装置が現在も広く用いられている。しかし,その多くは広帯域スパイク波により探触子を励起し,音響インピーダンス差(ΔZ)を持つ界面を可視化する方式である。
 これに対し,筆者らは2004 年以降に,大振幅正弦波バースト波を送信し,アナログハイパスフィルタを用いて波形のゆがみを高次高調波として抽出し,その振幅をマッピングする水浸高調波画像化装置を開発3)し,従来超音波法により画像化が困難あるいは不可能な内部欠陥及び異質部を画像化してきた4),5)が,最近幾つかの新しい対象に対する高調波画像化の要望があった。
 その第一は,鉄鋼材料の表面から2 〜3 mm 以内に存在する10 〜200 μm 程度の微小非金属介在物の画像化である。この20 〜30 年間に,高強度鋼の表面直下に存在する微小非金属介在物を起点とする疲労においては,表面に起因する疲労と異なり疲れ限度が存在せず,繰返数が109 を超えても疲労破壊を引き起こす応力振幅が低下し続けることが明らかとなった(超高サイクルあるいはギガサイクル疲労)6)。自動車・鉄道車両のばね・軸受け・車軸,さらにエンジン周り部品などは想定使用期間中に超高サイクル数の繰返荷重を受ける。このため,以前からばね・軸受け産業では表面直下の微小介在物の非破壊検査が要望されてきた。しかし,ΔZ を利用する従来超音波法を用いて結晶粒径と同程度の非金属介在物を検出しようとしても,表面不感帯及び結晶粒異方性に起因する粒界散乱ノイズなどにより,微小介在物の検出・画像化は容易ではないことによる。
 第二は,異種金属固相接合面に存在する不健全部の画像化である。ΔZ に基づく従来超音波法では健全に接合された異種金属接合面においても反射波が発生するため,接合面に存在する微小不健全部からの散乱波を検出できないことがある. 第三は,表面及び表面直下の微小かつ浅い傷(窪み,閉口き裂など)の画像化である。従来の超音波,渦電流,浸透探傷,磁粉探傷などでは検出できない上記の表面傷は顕微鏡下において目視で検査されるが,客観性,信頼性において問題があるため,自動非破壊検査・画像化が要望されている。通常超音波法では,平滑平面からの反射波振幅が大きいため,微小かつ浅い傷の画像化が困難となるためである。
 第四は,測定対象物を水槽に水没させることなく,封水探触子容器(Bubbler あるいは Dribbler)を用い局部共振高調波画像化法7)と組み合わせた,板状部材内微小欠陥の画像化の試みである。

 

GPS 津波計・波浪計・潮位計
  高知工業高等専門学校 寺田 幸博、東京大学地震研究所 加藤 照之

Tsunami, Wave and Tide Meter
National Institute of Technology, Kochi College Yukihiro TERADA
Earthquake Research Institute, The University of Tokyo Teruyuki KATO

キーワード: GPS 津波計,GPS 波浪計,防災,衛星通信,海底地殻変動観測,大気・電離層観測

はじめに
 2011 年3 月11 日,国土交通省によって釜石沖に設置されていたGPS 波浪計は,東北地方太平洋沖地震で発生した大津波の波高が6.7 m であることをリアルタイムに発信した。気象庁はこの情報を活用した1)。
 このGPS 波浪計は,筆者らが1997 年以来開発を続けてきたGPS 津波計の応用展開計測装置である。これは,開発したGPS 津波計が秒単位で変化する波浪から,分単位・時間単位で変化する津波,日・月・年単位で変化する潮汐に対して,同じ精度を保ったまま1 つの測器で計測できる機能を有している2)ことから実現できたことである。このことは,津波のように数十年に1 回程度のまれに起こる現象に対する計測器の在り方を提示することにもなった。つまり,日常的に役に立つ計測をしている測器であれば,そのデータの発信に関係機関や関係者が対応しやすく,その機器メンテナンスにも継続的な支援を受けることが容易になることが示された3)。
 本稿においては,開発開始から20 年を経過した中で,その開発の意義と達成された技術及び将来への展望について記述することとする。2003 年頃までに到達していた基本原理とその機能については,著者らが本誌の「海面計測技術特集」として執筆した解説4)に詳しく示されていることから,それ以降の開発成果を中心に示す。

 

大線量放射線下の水中検査研修
 大阪府立大学 谷口 良一

Underwater Inspection Training in Intense Radiation Field
Osaka Prefecture University Ryoichi TANIGUCHI

キーワード: 大線量,水中検査,画像検査,放射線損傷

はじめに
 大阪府立大学では,平成26 年度より文部科学省の機関横断的な原子力人材育成事業として,当大学の大規模放射線施設を利用した技術研修事業を開始した1)。対象は,原子力,放射線,非破壊検査等に関連する分野の学生,民間の技術者などである。事業では府立大学放射線研究センターが所有する大規模コバルト60 照射施設などの密封放射線施設及びトレーサ棟などの非密封放射線施設を利用して研修を行う。放射線環境下の水中検査作業の基本を習得することを目標とし,水中での放射線測定,画像測定などの基本的な研修を行うとともに,放射線による画像機器の損傷も評価し,大線量下での検査機器の使用に対する実践的な知識の習得を目指している。この中では特に水中の大線量コバルト線源の発するチェレンコフ光を高感度カメラで水中画像観測する研修は注目される2),3)。水中における放射線線量分布計測は,水による遮へい効果のため遠隔測定が困難であり,これまで多大の時間を要してきたが,本手法は逐次2 次元計測が容易であり利用価値は大きい。不規則形状の線源の線量分布測定に威力を発揮すると期待される。
 以下では,当センターの施設の概略を簡単に紹介した後,この人材育成事業の内容を紹介したい。

 

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