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機関誌

2017年2月号バックナンバー

2017年2月1日更新

巻頭言

「超音波探傷試験の信頼性」特集号刊行にあたって 古川 敬

 超音波探傷試験の信頼性を確保する方法として,試験技術者の知識と技量や経験を確認して技術者の資格を認証する制度や,技術者の技量や経験に加えて探傷装置と手順書を一体で性能を実証して認証する制度などが運用されています。後者の認証(以下,PD 認証と呼ぶ)制度は,国内では軽水型原子力発電所用機器の構造健全性評価に活用されています。構造健全性評価とは,供用期間中に検出された“欠陥”(検出されたきずを評価して欠陥と判断されたもの)に対して,“欠陥”寸法をサイジングしサイジング結果を基に破壊力学の手法などで欠陥評価を行い,継続運転あるいは補修・取り替えを判断するものです。(一社)日本非破壊検査協会は,規格(日本非破壊検査協会規格NDIS 0603:超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証)に基づいてPD 認証機関の役割を担っています。このPD 認証制度発足の背景や発足に向けた取り組みは,非破壊検査第54 巻4 号(2005)に「非破壊検査におけるPD システムの国内外の動向」と題して特集されています。
 NDIS 0603 は2005 年の制定から12 年が経過し,その間2013 年と2015 年に適用範囲を追加して2回改正されており,国内でのPD 認証制度も定着しつつあります。また,構造健全性評価の観点から超音波探傷試験の性能(きずの検出性能や寸法測定精度など)の高度化や信頼性向上に関する調査研究,き裂進展評価の高度化などに関する研究も進んでいます。
 そこで,本特集号では「超音波探傷試験の信頼性」と題して「国内PD 資格試験の実施状況と今後の展開」,「UT 技術者の探傷技量に及ぼす教育・訓練の効果」,「構造健全性確保のための超音波探傷性能要求」,「欠陥サイジング誤差に対する構造健全性評価」及び「亀裂進展評価の概要と最新動向」について解説をしていただきました。まず,「国内PD 資格試験の実施状況と今後の展開」では,国内で実施されているオーステナイト系ステンレス鋼溶接部のき裂高さサイジングに関するPD 資格試験の10年間の実施状況や試験結果から得られた受験者の動向等について述べられています。「UT 技術者の探傷技量に及ぼす教育・訓練の効果」では,“欠陥”検出に関する信頼性確保に向けて,供用期間中検査に関わる試験員に対し,“欠陥”検出の技量向上に及ぼす訓練の効果と,技量の習得・維持を目的とした取り組みの状況について,「構造健全性確保のための超音波探傷性能要求」では,確率論的破壊力学の解析結果に基づいて,構造健全性評価の観点から超音波探傷試験に求められる性能及び信頼性について考察されています。「欠陥サイジング誤差に対する構造健全性評価」では,NDIS 0603:2015 で追加された「附属書C:異種金属溶接継手に対する亀裂高さ測定のPD 資格試験」の判定基準について,その妥当性を構造健全性評価の観点から検証され,「亀裂進展評価の概要と最新動向」では,実機損傷事例から得られた知見を基に亀裂進展評価に関する最新の研究動向と,構造健全性評価の観点から超音波探傷による計測技術に対するニーズを述べていただきました。
 本特集号では,軽水型原子力発電用機器の構造健全性評価の視点から超音波探傷試験の信頼性を話題にしましたが,非破壊試験の信頼性は分野や手法を問わず最も重要なテーマの一つです。本特集号の内容が読者の皆様にとって有益なものになれば幸いです。
 最後に,本特集号の企画にあたってご協力いただいた執筆者の方々ならびに関係各位に深く感謝申し上げます。

 

解説

超音波探傷試験の信頼性

国内PD 資格試験の実施状況と今後の展開
(一財)電力中央研究所 材料科学研究所PDセンター 渡辺 恵司、林 山、東海林 一、太田 丈児

Current Status and Future Development of the Japanese
Performance Demonstration
PD Center, Materials Science Research Laboratory, Central Research Institute of Electric Power Industry
Keiji WATANABE, Shan LIN, Hajime SHOHJI and Joji OHTA

キーワード:
原子力機器,応力腐食割れ,供用期間中検査,超音波探傷試験,亀裂高さ(深さ)測定,PD資格試験,健全性評価

はじめに
 原子力発電所(軽水炉)の配管・容器等の発電用機器では,その部材に割れなどの欠陥が生じていないかといった健全性の確認のために定期的な検査(供用期間中検査)が行われている。この供用期間中検査における欠陥測定に超音波探傷試験が多用されている。
 2003 年10 月に施行された改正電気事業法において,供用中の原子力発電所機器に対する「健全性評価制度」が導入された。健全性評価とは原子力発電所機器に応力腐食割れ(SCC)等の割れが検出された場合に,その割れが構造物の安全性にどの程度影響を与えるものかを評価することである。この制度を運用するうえで,欠陥を検出するだけでなく,欠陥の高さ(深さ)を非破壊検査で測定する必要がある。この評価の判定には日本機械学会維持規格(以下,維持規格)が用いられ,超音波探傷試験で欠陥の高さ(深さ)を基に健全性評価を行う。そしてこの評価の結果,許容基準を満足していると判定された場合には,欠陥を有した状態での運転(欠陥許容運転)の継続が認められる。
 しかしながら,2003 年頃に低炭素ステンレス鋼配管(原子炉再循環系配管)溶接部のSCC 亀裂高さ(深さ)測定において,亀裂先端が溶接金属に進展していることなどから,超音波を用いて計測した結果と実際の切断調査の結果が大きく異なっていたことが発覚した1)。このことから,当時原子力発電設備や高圧ガス設備などの安全性をつかさどる国の規制機関であった原子力安全・保安院は,低炭素ステンレス鋼配管に対する健全性評価制度の導入を見送るとともに,当該機器における維持規格に基づく欠陥許容運転の適用に際して,SCC 亀裂高さ(深さ)測定のPD(Performance Demonstration)資格試験は重要であるとして,関連規格の整備を求めた1)。
 これを受けて日本非破壊検査協会(以下,JSNDI)は,2005年5 月にNDIS 0603「超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証」を制定し,日本のPD 制度の端緒が開かれた。電力中央研究所は,国内原子力発電用機器の非破壊検査の信頼性向上への貢献を目的とした「軽水型原子力発電所用機器のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部に対する亀裂高さ測定のPD 資格試験」(以下,SUS-PD)実施のため,2005 年11 月にPD センターを設立し,2006 年3 月から10 年以上にわたりSUS-PD 資格試験を実施している。その後,2005 年に原子力安全・保安院が行ったNDIS 0603 に対する技術的な妥当性を評価する技術評価において,PD 資格保有者による欠陥測定結果を用いた健全性評価が認められるとともに,PD 資格試験の対象を拡張する方針を示した2)。この方針に対してJSNDI は,NDIS 0603 に附属書B「ウェルドオーバーレイ施工部に対するPD 資格試験」3)及び附属書C「異種金属溶接継手に対する亀裂高さ測定のPD 資格試験」4)を追加する改訂等を行ってきた。
 本稿では,国内のPD 資格試験の概要と試験開始から10 年間の実施状況,試験結果から得られた受験者の傾向及び今後の国内のPD 試験の展開について紹介する。

 

UT 技術者の探傷技量に及ぼす教育・訓練の効果
(一財)発電設備技術検査協会 平澤 泰治、小林 輝男、牧原 善次、南 康雄

Effect of Education and Training on Inspection Skills of UT Examiners
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Taiji HIRASAWA, Teruo KOBAYASHI
Zenji MAKIHARA and Yasuo MINAMI

キーワード: 探傷技量,教育・訓練,欠陥検出性試験,教育・訓練制度

はじめに
 原子力発電プラントの供用期間中検査(ISI:In-ServiceInspection)では,体積試験として超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)が行われ,機器・構造物の健全性の確認を行っている。ISI のUT では,運転中に発生したき裂を確実に検出し,欠陥深さ測定を行うことが要求されているため,UT を行う検査技術者には高い技量が求められている。そのため,各国では,一般的なUT 資格に加えて,独自の方法を定めて検査技術者の技量確認を行っている。
 検査技術者の技量確認方法は,適用するUT 技術の違いから,一般に,探傷(欠陥検出)と寸法測定の2 つに分けて行っているが,本稿では,探傷(欠陥検出)について記載する。
 米国では,米国機械学会規格(ASME Boiler and PressureVessel Code, Section XI, Appendix VIII)の性能実証(PD:Performance Demonstration)試験1)において,欠陥検出のPD試験を行い,検査技術者の技量確認を行っている。また,欧州では,ENIQ(European Network for Inspection Qualification)方式の技術実証(TJ:Technical Justification)2),3)で検査技術者の技量確認を行っているが,具体的な運用方法は各国に任されている。
 一方,わが国では,ISI におけるUT は,日本電気協会規程JEAC 4207「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程」4)に従って実施している。この規程には,検査員(試験評価員及び試験員)に対する訓練・経験について要求しているものの,具体的な訓練内容については明記されていない。そのため,プラントメーカ(検査会社含む)は,独自の訓練プログラムを定めて運用し,検査員の探傷(欠陥検出)技量の習得・維持に努めている。このように,わが国の検査員に対する要求事項が,欧米のそれと異なっている要因としては,過去に実施した国家プロジェクト5),6)等で得られた欠陥検出に関する成果及び知見をJEAC 4207 に反映していること等が挙げられる。これらの運用については,現状,問題が生じていないものの,検査員の探傷技量の維持・向上が継続的に確保できる透明性及び客観性のある制度の構築が要望されている。
 このように,検査員に対する教育・訓練の重要性は認識されているが,過去の調査7),8)では,検査員に対する教育・訓練の効果を定量的に評価した報告はない。そこで,著者らは,オーステナイト系ステンレス鋼(以下,ステンレス鋼)配管溶接継手試験体を用いてUT による欠陥検出性試験を行い,試験員の探傷技量に及ぼす教育・訓練の効果について検討した。その結果,教育・訓練後に欠陥検出性が大幅に改善され,試験員の探傷技量向上に教育・訓練が有効であることを明らかにした9)。
 本稿では,試験員に対する教育・訓練の有効性に関する検討結果の概要を示すとともに,ISI でUT を実施する検査員の探傷(欠陥検出)技量の習得・維持を目的とした教育・訓練制度(案)の検討結果の概要について紹介する。

 

構造健全性確保のための超音波探傷性能要求
(株)テプコシステムズ 町田 秀夫

Ultrasonic Flaw Detection Performance to Ensure the Structural Integrity
TEPCO SYSTEMS CORPORATION Hideo MACHIDA

キーワード: 供用期間中検査,維持規格,確率論的破壊力学,応力腐食割れ,信頼性,破損確率

はじめに
 原子力発電設備において,供用期間中の劣化によってき裂が発生する可能性のある機器は,非破壊検査によってき裂の発生の有無を確認し,き裂が検知された場合にはその健全性を評価したうえで継続使用の可否が判断される。原子力発電設備の供用期間中検査(以下,ISI:InService Inspection)やその評価には,日本機械学会 原子力設備規格 維持規格1)(以下,維持規格)が適用され,重要度の高い設備の検査には超音波探傷試験(以下,UT:Ultrasonic Testing)が用いられる場合が多い。機器や設備が時間とともに劣化する場合,図1 に示すように劣化に応じてリスクが上昇する幾つかのパターンが想定される。
 機器や設備の重要度によって,許容されるリスクはそれぞれ異なるが,例えば,冷却材バウンダリ機器であれば,バウンダリの破損そのものをリスクの一つと考えることができる。一般的に,これにある程度余裕を取った管理リスクが設定され,この管理リスクを満足するようにISI が実施される。図1 の①の例のように,劣化の進行(リスクの上昇)が遅く供用期間を通して管理リスクを上回ることがなければ,検査は不要か,高い精度や頻度は求められない。また,図1 の②の例のように劣化の進行速度がある程度の速度を持ち,供用期間中にその速度が極端に変化しない場合,検査や評価の結果に基づき,補修や取り替えによってリスクが管理される。この場合,検査は検出可能となる時期以降で管理リスクを上回らないような頻度で行われ,劣化の進行に対応した精度が求められることとなる。最後に,図1 の③のように劣化に潜伏期間があり,その後急速に劣化が進行する場合は,急速に劣化が進行する前の潜伏期間の範囲において劣化の予兆を検出する高精度の検査が求められる。このように,検査に求められる性能は,劣化の特性や対象設備の重要度によって異なる。
 原子力発電設備のISI では,標準検査には時間基準保全が適用されているが,個別の劣化事象が想定される場合は図1 に示すような劣化の進行に応じた検査(個別検査と呼ばれる)が採用されている。応力腐食割れ(以下,SCC:Stress CorrosionCracking)は,原子力発電設備において近年問題となっている個別の劣化事象のうちの一つであるが,SCC によるき裂の評価では,き裂の検出,寸法測定,進展予測などが複雑に絡み合い,それらのばらつきが評価結果に大きく影響する。これまで,き裂を有する機器の構造健全性評価には,想定されるばらつきを安全側に包絡した条件を用いた決定論的手法が用いられてきた。この手法は簡易ではあるが,ばらつきが大きい因子が多数ある場合,評価結果は過度に安全側になるばかりか,リスクを低減するために着目すべき因子や講じるべき対策が明確にならないという問題がある。これに対し,確率論的手法は評価にかかわる各因子のばらつきを考慮し,破損確率を定量的に評価することを可能とする手法であり,この手法を用いることで,各因子が破損確率に及ぼす影響の大小や,リスク低減に有効な対策,改善すべき点などを容易に把握することができる。
 ここでは,SCC き裂を有する原子力発電設備の配管を維持規格に従って管理する場合の破損確率評価事例2)を参考に,非破壊検査手法として用いられているUT の性能が破損確率に及ぼす影響について解説する。

 

欠陥サイジング誤差に対する構造健全性評価
(株)原子力安全システム研究所 釜谷 昌幸

Structural Integrity for Errors in Flaw Sizing by Non-destructive Inspection
Institute of Nuclear Safety System, Inc. Masayuki KAMAYA

キーワード: サイジング,構造健全性,性能実証,維持規格,欠陥評価,ニッケル合金

はじめに
 原子力発電プラントを対象にした溶接構造物等の超音波探傷試験については,探傷装置と手順書を含めた技術者に対する性能実証(Performance Demonstration,以下PD と略す)が,日本非破壊検査協会規格NDIS 0603 1)にしたがい実施されている。そこでは,オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部の応力腐食割れを対象としたき裂深さのサイジングに対する合格判定基準として,真値に対して4.4 mm を下回る結果が1 つでもあってはならないこと,および,真値に対して深さのRMSE(Root Mean Square Error)が3.2 mm を超えてはならないこと,の2 つの条件を満足することが要求されている。これらの判定基準は,現状の一般的な技術水準に照らして合格するにふさわしい水準であり,かつ,構造健全性評価に求められる水準を考慮して決められていると,NDIS 0603 の解説に記載されている。一般的な水準をはるかに上回るような判定基準では,合格者が出ずにPD 制度の本来の目的は達成できない。一方,構造健全性評価の観点から判定基準を設定した場合,未熟な技術者,または検査システムに合格判定を与える可能性がある。超音波探傷試験によるサイジングの一般的な技術水準は,模擬試験体に対するラウンドロビン評価などにより把握されており2),現在の判定基準は,構造健全性評価の観点ではなく,求められる技術水準により決定されているようである。
 NDIS 0603 の2015 年版では附属書C として,新たに異種金属溶接継手がPD の対象として追加された。異種金属溶接継手とは,低合金鋼とステンレス鋼を接合するためのニッケル合金による溶接部を意味する。加圧水型原子力炉の発電プラントでは,原子炉容器や蒸気発生器には強度特性に優れた低合金鋼が用いられ,耐食性に優れたステンレス鋼配管が接続される。ステンレス鋼は低合金鋼に比べて線膨張係数が大きいため,その接合部では不均一な熱変形による応力が発生しやすい。そこで,ステンレス鋼と低合金鋼の溶接部には,耐食性に優れ,かつ線膨張係数が両者の中間的な値であるニッケル合金が用いられている。しかし,ニッケル合金は炉水環境中において応力腐食割れ感受性を有することが明らかになってきており,国内でも平成20 年の大飯発電所3 号機の原子炉容器出口管台溶接部など,ニッケル合金に応力腐食割れが発生した事例が複数報告されている。超音波探傷試験によるニッケル合金溶接部の内面探傷のサイジング精度は,ステンレス鋼のそれと比べて一般的に良くない。そこで,NDIS0603 附属書C では,規格策定において参考にされた米国機械学会規格と整合もとって,配管の肉厚が53.3 mm 以上の場合の内面探傷に対するRMSE の合格判定基準を3.2 mm から6.4 mm に緩和している(外面探傷および配管肉厚が53.3 mm未満の場合はRMSE の合格判定基準は3.2 mm)。一般的な技術水準を考えると,この判定基準の緩和は問題ないと判断できるが,構造健全性の観点からは,その妥当性を確認しておく必要がある。
 構造健全性の評価方法としては,日本機械学会の発電用原子力設備規格維持規格3)(以下,維持規格と略す)が参照できる。維持規格には,構造物にき裂が存在する場合に,き裂による当該構造物の強度低下が許容できる程度かどうかの判断を行う手順が規定されている。その判断には,図1 のフローに示すように,簡易評価(維持規格では第一段階の評価と呼ばれている)と詳細評価(同,第二段階の評価)の2 段階の評価手順が準備されている。簡易評価では,評価の対象となるき裂の寸法が,維持規格で定義される評価不要欠陥寸法以下であれば,当該欠陥を補修することなく継続使用が認められる規定となっている。詳細評価では,き裂の進展を予測し,そして,成長後の寸法を考慮した構造物の破壊強度を算出することで構造健全性を判断する。評価不要欠陥寸法は,保守的な解析を基に決定されており,強度の観点からは十分な余裕をもって設定されている。評価不要欠陥寸法は,詳細評価を行う前のスクリーニング基準として用いられており,構造健全性評価から許容される欠陥寸法とは大きな乖離のある場合もある。したがって,PD の判定基準として評価不要欠陥寸法をそのまま用いることは必ずしも適切でない。また,維持規格では応力腐食割れに簡易評価を適用できないと規定されている。従って,判定基準の妥当性は,詳細評価により検証する必要がある。
 本稿では,まず,維持規格における構造健全性評価の考え方および手順について解説する。そして,附属書C で対象となる異種金属溶接継手(ニッケル合金溶接部)について,厚肉配管の内面探傷のRMSE に対する合格判定基準を6.4 mmとすることの妥当性について検証する。

 

亀裂進展評価の概要と最新動向
(一財)電力中央研究所 材料科学研究所 新井 拓

Outline and Current Status of Crack Growth Evaluation
Materials Science Research Laboratory, Central Research Institute of Electric Power Industry Taku ARAI

キーワード: 原子力機器,応力腐食割れ,溶接残留応力,応力拡大係数,亀裂進展速度,亀裂進展評価

はじめに
2002 年頃に認められた沸騰水型軽水炉(BWR)の低炭素ステンレス鋼製の炉心シュラウド,再循環(PLR)配管の溶接熱影響部における応力腐食割れ(SCC)損傷1)を契機として国の健全性評価制度が制定された2)。健全性評価制度では,定期事業者検査の義務付け,欠陥が認められた場合の報告義務と共に健全性評価に日本機械学会の原子力発電用設備規格維持規格3)(以下単に,維持規格と呼ぶ)の活用が明示された。維持規格は検査,評価,補修・取り替えの各章から構成されており,評価章では供用期間中に検査により検出された欠陥に対する亀裂進展評価と破壊評価からなる欠陥評価手法が規定されている。また,炉内構造物に関しては,原子力安全推進協会の炉内構造物等点検評価ガイドライン4)にも亀裂進展評価の方法が規定されている。米国においては,米国機械学会(ASME)のASMEBoiler and Pressure Vessel Code Section XI(以下単に,ASMESec. XI と呼ぶ)に維持規格と同様の亀裂進展評価の方法が規定されている5)。本稿では,SCC を対象に維持規格に基づく亀裂進展評価の概要と実機損傷事例から得られた知見,亀裂進展評価に関わる最新の技術開発動向について紹介する。

 

論文

異方性弾性体中の欠陥に対する2次元逆散乱解析
斎藤 隆泰、稲垣 祐生、下田 瑞斗

2-D Inverse Scattering Analysis for a Defect in Anisotropic Solids
Takahiro SAITOH, Yu INAGAKI and Mizuto SHIMODA

Abstract
This paper presents an inverse scattering technique for a defect in anisotropic solids. The convolution quadrature time-domain boundary element method (CQBEM) is utilized to obtain scattered ultrasound wave data. The wave forms obtained by CQBEM are adequately treated to implement the shape reconstruction of defects in anisotropic solids. After the anisotropic elastodynamic theory is discussed,formulations for the inverse scattering technique are presented. Numerical examples for a defect in unidirectional carbon fiber-reinforcedcomposite, austenitic steel, and isotropic steel are shown to validate the proposed methods.

キーワード: Ultrasonic non-destructive evaluation, Boundary element method,
Inverse scattering analysis, Anisotropic solids

緒言
 近年,異方性材料の土木分野や機械分野への応用が進んでいる。例えば,異方性材料の代表格として知られるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)は,橋梁の補強材料や,航空機の主要部材として利用されている。一般的に,異方性材料は音響異方性を示すため,複雑な力学挙動を示すことが知られている。実際,数ある非破壊評価法の中でも,現場での適用が比較的容易な超音波非破壊評価法を用いて異方性材料の探傷を行う場合,超音波は,異方性の影響を強く受けるため,その複雑な伝搬経路を理解しておかなければ, 探傷精度の低下を引き起こす可能性がある。
 超音波非破壊評価法の最終目的は,欠陥の検出およびその位置や大きさを特定することであるため,そのための方法である開口合成法1),2)や逆散乱解析3)等に関する研究は,等方性材料を対象として古くから行われてきた。例えば,木本ら4)は,周波数領域の境界要素法を用いた数値シミュレーションにより,開口合成法の欠陥形状再構成能を確かめる研究を行っている。Nakahata ら5)は,周波数領域の3 次元境界要素法を用いて,球形空洞によるアレイ探触子からの超音波の散乱波形を求め,その結果に対する欠陥形状再構成を線形化逆散乱解析によって行っている。一方,山田ら6)は,実験で得られた超音波の散乱波形を用いて,線形化逆散乱解析手法による3 次元欠陥形状再構成を試みている。しかしながら,これらの定式化は等方性材料を対象としたものであり,異方性材料に対して直接適用できない。異方性材料に対する欠陥形状再構成手法に関する研究は,例えば,Spies ら7)が横等方性を示す複合材料に対して開口合成法を行っている。また,Hara ら8)は周波数領域の散乱波形を使って横等方性材料中の欠陥を逆散乱解析によって再構成している。しかしながら,現場での適用を視野に入れた場合,実際の計測データは時間領域であるため,計測通り時間領域で直接散乱波形を求め,逆散乱解析に適用する方策が望ましい。実際,周波数領域では,例えば半無限領域を扱う問題での境界打ち切りに対する数値誤差の発生も不可避である他,何らかの非線形性を扱う問題への対応も困難である。また,逆散乱解析に対しても,異方性が弱い材料を解析している程度であり,強異方性材料を対象とした結果ではない。定式化においても,入射波をポイントソースと仮定して行っている。逆散乱解析では観測点を十分遠方であると仮定し遠方近似を導入するが,その場合,ポイントソースは平面波として振舞うことを考えれば,平面波の使用を前提とした逆散乱解析の定式化も必要であり,むしろ簡便となる。
 そこで,本研究では,2 次元異方性材料中の欠陥に対する逆散乱解析法を開発し,近年,超音波非破壊評価法で問題となっているいくつかの異方性材料に対して適用することを試みる。また,逆散乱解析に必要な散乱波形データは,近年開発された安定で高精度な時間領域境界要素法(CQBEM:Convolution Quadrature Boundary Element Method)を用いて求める。
 以下では,CQBEM の詳細については文献9)− 11)に譲り,まず,本研究で必要な異方性弾性波動論について簡単に説明する。後に,逆散乱解析手法の定式化を説明し,最後に,数値解析例を示すことで,本手法の有効性や今後の課題について述べる。

 

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