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機関誌

2016年11月号バックナンバー

2016年11月1日更新

巻頭言

「磁粉探傷試験の動向」特集号刊行にあたって
   橋本 光男

 磁粉探傷試験は鋼材の表面近傍のきずを検出する非破壊検査として広く使われている手法である。基本的には各磁化方式により試験体を磁化し,目的に応じた磁粉を適用し,黒色や蛍光による磁粉模様の観察条件を満足させればよい。国内では,これらの試験状態の確認に(一社)日本非破壊検査協会が提示している標準試験片が使われ,広く定着している。このように成熟している磁粉探傷法とも見えるが,一方で近年それを取り巻く環境が変わってきている。本特集号はその動向について紹介する。
 2007 年にJIS Z 2320-1 ~ 3 が新たに制定された。これは,2001 年に発行されたISO 9934-1~ 3 に準拠した内容としたものである。ISO 9934-1(一般通則)は磁化条件の確認と磁粉媒体の健全性を確認し,さらに総合性能試験を行うものである。そこでJIS Z 2320-1(2007)では,これを“工程確認方式”とし,JIS G 0565:1992(鉄鋼材料の磁粉探傷試験方法及び磁粉模様の分類)の内容を“標準試験片確認方式”として,これらの規格を使用者が選択できる内容になっている。さらに,2015 年にISO 9934-1 の第2版が発行されたことと,JIS 規格の制定後5 年目の見直しとして,一つの規格に二つの手法が存在することは利用者にとって混乱を招くという意見があり,両者を統一する方向で見直しが検討されている。さらに,この規格では,検出媒体の性能試験が定義されている。検出媒体の性能試験については,これまでの試験ではあまり着目することがなかったと思われるので,詳しく本誌に解説をしている。またさらに,「観察条件」として2005 年にISO 3059 が発行され,それにIDT(一致)としてJIS Z 2323「非破壊試験-浸透探傷試験及び磁粉探傷試験-観察条件」が制定された。その後,ISO 3059 は2012 年に第3 版が発行され,光源の色温度に関する要求及びLED 光源の使用が新たに加わり,それに現場での要求事項を反映させたJIS Z 2323 の改正が進められている。
 続いて,最近の動向として,磁粉探傷の製品試験への適用として自動車部品等の自動検査における磁化装置,自動判定装置,脱磁などについて,また磁粉探傷試験の定量的評価法,さらに磁粉探傷試験が取り扱う磁化状態の評価に適用できる非線形数値解析について,それぞれ本誌で解説をしている。
 実用的な検査手法である磁粉探傷試験ではあるが,本特集号を通して,新たな視点でこの検査法を見直す機会になれば幸いである。

 

解説

磁粉探傷試験の動向

JIS Z 2320-1~3「磁粉探傷試験」の改正動向について
  (一社)北海道機械工業会 相山 英明、栄進化学(株)相村 英行、日本マテック(株)松島 勤

Trend of Revision Standard JIS Z 2320-1-3“Magnetic Particle Testing”
Hokkaido Machinery Manufacturers Association Hideaki AIYAMA
Eishin Kagaku Co., Ltd. Hideyuki AIMURA
Nihon Matech Corporation Tsutomu MATSUSHIMA


キーワード: 磁粉探傷試験,JIS Z 2320,規格改正,標準試験片

はじめに
 現在のJIS Z 2320-1 ~ 3 は,2001 年に発行されたISO 9934-1の内容を“工程確認方式”とし,JIS G 0565:1992(鉄鋼材料の磁粉探傷試験方法及び磁粉模様の分類)の内容を“標準試験片確認方式”として,この規格の使用者がいずれかを選択できるように,これら二つの方式を併合する形で2007 年に制定された。
 規格の制定後5 年目の見直しにおいて,一つの規格に二つの手法が存在することは利用者にとって混乱を招くという意見があり,両者を統一する方向で見直しが検討された1)。また,2015 年にISO 9934-1(以下,ISO 規格という)の第2 版が発行され,新たに改正の必要性が求められた。そのため,今回,ISO 規格の様式に一本化し,JIS G 0565:1992 の規定内容で必要な項目を取り入れるとともに,現場での要求事項を反映させるべく,改正が進められている。
 現在,(一社)日本非破壊検査協会標準化委員会において原案審議が終了し,(一財)日本規格協会において規格審査が行われている。この後,日本工業標準調査会へと進む予定である。
 以下に,この規格の主な改正内容について概略を述べる。

磁粉探傷試験に使用される磁粉の特性評価及び管理
  栄進化学(株) 相村 英行

Evaluation of the Characteristics of Magnetic Particles and Performance Control of Detection Media
Eishin Kagaku Co., Ltd. Hideyuki AIMURA


キーワード: 磁粉探傷試験,JIS Z 2320-2,規格改正,検出媒体,特性評価,使用期間中試験

はじめに
 現行のJIS Z 2320-2:2007(以下,現行JIS 規格という)に代わって,2015 年に改正されたISO 9934-2:2015 に準拠したJISZ 2320-2(以下,改正JIS 規格という)が改正作業中である。改正JIS 規格では現行JIS 規格と同様に,磁粉に要求される特性として,検出性能,色彩,粒子径,蛍光係数及び蛍光安定性,機械的安定性等が項目として挙げられているが,本稿では各項目の内容について紹介する。また磁粉の製造方法及び磁性材料の違いによる特性の違い,及び磁粉の特性評価の方法について,また管理の方法について検出性能を中心に各種の試験片を用いて紹介する。

浸透探傷試験及び磁粉探傷試験の観察条件
  (一財)電子科学研究所 藤岡 和俊、マークテック(株)一本 哲男

Viewing Condition of Penetrant Testing and Magnetic Particle Testing
Electron Science Institute Kazutoshi FUJIOKA
MARKTEC Corporation Tetsuo ICHIMOTO


キーワード:浸透探傷試験,磁粉探傷試験,A 領域紫外線,観察条件,紫外線照射装置

はじめに
 浸透探傷試験及び磁粉探傷試験は試験体表面のきずに適用した検出媒体を指示模様として形成させて直接目視で観察することにより,きず検出を行う手法である。すなわち浸透探傷試験においてはきず部分に浸透させた浸透液の指示模様を,磁粉探傷試験においてはきず部分に吸着した磁粉による指示模様を,それぞれ目視で観察する。観察の方法は検出媒体とバックグラウンド間の色調コントラストにより観察する方法と,検出媒体の蛍光物質を紫外線で励起させバックグラウンドとの明暗コントラストにより観察する方法がある。いずれの方法でも知覚するためのコントラストを確保することが重要で,それらに影響を与える照度やA 領域紫外線の放射照度,光源の種類などは適切に管理することが求められる。
 このことから,2005 年にISO 3059(Non-destructive testing−Penetrant testing and magnetic particle testing −Viewing conditions)1)のIDT(一致)としてJIS Z 2323「非破壊試験-浸透探傷試験及び磁粉探傷試験-観察条件」2)を制定した。
 その後,ISO 3059 は2012 年に第3 版が発行され,光源の色温度に関する要求及びLED 光源を使用した場合の注意事項が新たに追加された。
 これに対応するため,(一社)日本非破壊検査協会においてJIS Z 2323 改正原案作成委員会を立ち上げて改正作業を進めてきた。
 ここではJIS Z 2323 における浸透探傷試験及び磁粉探傷試験の観察条件の基本的な要求事項及び現在進められている改正内容について概説するとともに,併せて適用可能な装置などについて紹介する。

磁粉探傷試験における磁粉模様からのき裂形状定量的評価への試み
  滋賀県立大学 福岡 克弘

Attempt at the Quantitative Evaluation of Crack Shape
from Indication in Magnetic Particle Testing

The University of Shiga Prefecture Katsuhiro FUKUOKA


キーワード:磁粉探傷試験,定量的評価,動画像計測,き裂形状推定,磁粉模様

はじめに
 数十年前に製造された発電や化学プラント,架橋などの構造物の老朽化が社会問題化している。磁粉探傷試験は,簡便な手法で強磁性材料に存在する極微小なき裂を検出できることから,鉄鋼製品の非破壊検査において広く用いられている。非破壊検査においては,高感度にき裂を検出することに加え,検出されたき裂の構造強度への影響を判断することが望まれている。したがって,探傷結果を基にしたき裂形状の定量的評価手法の確立が重要な課題となっている。しかし,現状の磁粉探傷試験では,高感度にき裂を検出できるものの,き裂の有無の判断とその分布形状を大まかに把握する検査に留まっており,未だき裂形状(特に深さ)の定量的な評価手法は確立されておらず,これに関する研究も多くない。
 そこで筆者らは,き裂の形状とき裂に付着する磁粉量の関係を明らかにするため,深さおよび幅を変えたき裂を鋼板表面上に放電加工し,それを試験体として,高速度カメラを用いた磁粉模様の動画像計測を行った。これにより,き裂に磁粉が付着していく過程および最終的な付着磁粉模様の形状(以下,磁粉形状と呼ぶ)を詳細に評価してきた。また,有限要素法解析およびホール素子を用いた計測により,き裂からの漏えい磁束密度分布を評価し,付着磁粉量と漏えい磁束密度分布との関係を明らかにしてきた。さらに,き裂に付着した磁粉模様の形状を基に,き裂形状を定量的に評価する手法に関して検討し,探傷結果である磁粉模様からき裂の深さと幅を推定する手法を提案してきた。本解説では,筆者らが取り組んだ磁粉探傷試験におけるき裂形状の定量的評価手法開発の試みについて紹介する。

磁粉探傷試験を支援する磁気特性の非線形性を考慮した電磁界解析
  大分大学 後藤 雄治

Electromagnetic Analysis of Magnetic Particle Testing in Consideration
of the Nonlinearity of the Magnetic Characteristic

Oita University Yuji GOTOH


キーワード:磁粉探傷試験,磁気特性,3次元有限要素法,電磁界解析,漏洩磁束探傷試験,交流漏洩磁束

はじめに
 磁粉探傷試験法は,鋼材など磁性を持つ材料の表面あるいは表面下のき裂等を検査する電磁非破壊検査法の一つである。この検査法では試験鋼材を表面から磁化器を用いて一様に,ある方向に強く磁化する。もし材料表面に,その磁束の流れを妨げるき裂が存在すると,磁束の一部はき裂近傍で材料表面から空間に漏洩する。磁粉探傷試験法では鋼板表面に磁粉液を流すことで,この空間に分布する漏洩磁束に磁粉が吸着し模様を形成することで,きずを検出することができる。
 この検査手法の検査原理の解明や検査条件の指針として,有限要素法を利用した電磁界解析が実施されている。特に,これらの検査法での検査対象は,磁気特性の非線形性を有する鋼材であるため,電磁界解析を行う際は渦電流と非線形磁化曲線を考慮する必要がある。そこでここでは,強磁性を示す検査対象に対して電磁界解析を実施する際,磁気特性の非線形性をどのように考慮するかについて述べる。

生産ラインにおける磁粉探傷検査装置について
  日本電磁測器(株)堀 充孝永田 太祐森田 大悟秋山 和輝

Equipment of Magnetic Particle Testing in Assembly Lines
Nihon Denji Sokki Co., Ltd. Michitaka HORI, Daisuke NAGATA,
Daigo MORITA
and Kazuki AKIYAMA


キーワード:磁粉探傷,表面欠陥,多方向磁化,非逓倍,画像処理,ブラックライト,UV LED,脱磁

はじめに
 磁粉探傷試験は,JIS Z 2320,ISO 9934,ASTM E1444 等により規定されている。これらの規定の中で生産ラインにおける磁粉探傷試験装置は設計・製造され,およそ長年培われて来た技術が主流となっており,今回,磁化方式と一般に生産ラインにおいて使用される磁粉探傷試験装置について詳述する。近年,タクト時間の短縮,被検査物との非接触化への要求,表面欠陥の検出性能への向上が要求されている。最近の磁化電源では,従来の商用周波数を用いたサイリスタ位相制御法のみならず,任意に磁化電流の周波数を変更できるようになってきた。本解説では,これらの要求に対して高い磁化周波数を用いたコイル磁化方式の効果を解説するとともに非逓倍磁化方式についても紹介する。磁粉探傷試験による検査では,磁粉インジケーションを観察し欠陥の有無を判断する。本解説では,被検査物の磁粉インジケーションをCCD カメラにより画像取得し,定量的に欠陥の有無を検査する最新の画像処理方法について紹介する。蛍光磁粉を使用する磁粉探傷試験では,ブラックライトを使用する。ブラックライトはメタルハライドランプなどの管球が使用されていたが,LED の技術進歩により365 nm を中心波長とする高出力なUV LED が使用されるようになってきたのでその一例を示す。磁粉探傷試験においては被検査物を磁化して行うが,磁化後の残留磁気が後工程での加工において問題となり,脱磁性能への要求も厳しくなってきている。本解説では,このような状況下での最近の生産ラインにおける脱磁技術とともに磁粉探傷試験装置・機器を説明する。

 

論文

加熱炉鋼管の表裏面浸炭深さ電磁気検査手法の提案
  吉岡 宰次郎,後藤 雄治,井手 茂,石村 文孝

Proposal of Electromagnetic Inspection of Both Front Side and Rear Side
Carburization Depth in Heating Furnace Steel Tubes
Saijiro YOSHIOKA, Yuji GOTOH, Shigeru IDE and Humitaka ISHIMURA


Abstract:
In the steel tube of a large-sized heating furnace in an oil-refining plant, both the front side and rear side are carburized because of being used for many years in high-temperature environments. If these carburization depths increase the steel tube will explode suddenly and a big accident may occur. Therefore, the measurement of both the front side and rear side carburization depth are important in order to prevent accidents. In this paper, an electromagnetic inspection method for the carburized depth of both the frontside and rear side of the steel tube is proposed. In this method, the alternating magnetic field of the two kinds of exciting frequencyusing one electromagnetic sensor is applied to the examined steel tube. Both carburization depths are obtained by evaluating the flux density in layers with and without carburization using the 3-D nonlinear FEM. It is shown that the inspection for the carburization depth of both the front side and rear side of the steel tube is possible by using the deference in permeability and conductivity of carburized layer.


Key Words:
Oil-refining plant, Heating furnace steel tube, Carburization depth, AC magnetic field, 3-D nonlinear FEM

緒言
 石油精製プラントでは,原料の温度を上げるために加熱炉が設置されている。加熱炉内では火炎バーナで加熱される鋼管内に原料が流れ,原料の温度を上昇させる。そのため,ここで使用される鋼管は耐熱性の高い加熱炉鋼管が使用される。加熱炉鋼管は高温の一酸化炭素や二酸化炭素,炭化水素が充満する環境下で数十年間使用され続けている。このため,鋼管肉厚の表裏面側から共に浸炭が生成される。鋼管は浸炭によって靭性や延性が著しく低下し,硬度が増すため高温環境下では熱膨張の影響でき裂が発生しやすくなる。浸炭の進行は鋼管の周方向の位置によってばらばらであり,特に浸炭が進行しすぎている(過剰浸炭)部分ではき裂が原因で破裂や破損の報告があり,大変危険である。しかし,現在使用している加熱炉鋼管をすべて取替えるには莫大なコストが必要となる。事故対策として,非破壊で鋼管肉厚部に発生した表裏面浸炭深さの検査が可能となれば適切な鋼管位置の取替え時期を設定でき,浸炭の進行の遅い鋼管の延命によるコスト削減が行え,また安全性の確保も行える。
 浸炭深さの測定については現在,断面マクロ試験が主である。これは破壊検査になるため鋼管を切断しないと浸炭深さ測定が行えない。超音波による測定が試行されているが,この鋼管の場合,浸炭層と健全層(以後,生層)との境界が明確でない理由から超音波がこれらの境界面で反射せず,反響波がほとんど検出されない問題があった。また電磁気を利用した焼入れ深さ検査手法も提案されているが,測定対象の表面または裏面のどちらか一方のみからの焼入れ深さの測定となっている。

 

パルス磁化を併用したバースト波渦電流試験による強磁性体管の探傷
  小井戸 純司,日比野 俊

Flaw Detection of Ferromagnetic Tubes by means of Burst Wave ECT with Pulsed Magnetization
Junji KOIDO and Takashi HIBINO


Abstract:
When testing ferromagnetic materials with an eddy current test (ECT), it may be necessary to saturate the material magnetically with either a DC electromagnet or permanent magnet. The authors already reported that pulsed eddy current tests with inner probe coils might have ability to detect flaws of ferromagnetic heat exchanger tubes by suppressing the magnetic noise that would be caused by variation of the magnetic property of ferromagnetic material. However, it was necessary to use a permanent magnet as a supplement because it wasn’tpossible to suppress the magnetic noise sufficiently. In this study, a dynamic magnetizing process was taken into account to suppress the magnetic noise. After a pulsed magnetization has been supplied to the tubes, a short time is needed for falling of the permeability of tubes.Thus a burst wave is applied to execute ECT while the tubes behave as nonferrous material according to pulsed excitation. Adjusting the delay time of the burst wave appropriately enhanced the SN ratio of ECT signals caused by the proposed method in this paper.


Key Words:
Steel tubes, Maintenance inspection, Inner probe, Eddy current test, Magnetic saturation, Burst wave

緒言
 熱交換器の保守検査における非磁性伝熱管の内外面腐食等の非破壊試験には,内挿プローブを用いた渦電流試験(以後,ECT という)が適している。これは,ECT は非接触で試験が可能であるために検査速度が高いことが理由である。しかし,熱交換器で多く用いられている鋼管に対してECT を適用するには,強磁性材料に特有の磁性ノイズを抑制する必要がある。リモートフィールドECT は内・外面きずを検出する能力があるために一時期用いられたことがあるが,現在はあまり用いられていない。また,通常のECT による内挿プローブに永久磁石や電磁石を併設して鋼管を直流的に磁化する方法もあるが,普及には至っていないようである。一方,筆者らはパルス渦電流試験法によって短時間に大電流を流して磁性ノイズを抑制することを提案しその結果についても報告したが,磁性ノイズの抑制が十分でなく,信号のSN 比を実用レベルとするためには永久磁石を併用する必要があった。そこで,鋼管の動的磁化過程を考慮し,パルス的に磁化している間の適当なタイミングにおいて別の交流電流で渦電流試験を行う方式を考案し,鋼管の内外面きずに対して探傷実験を行ったところ,永久磁石を併用せずに磁性ノイズを抑制する効果が向上し,信号のSN比が向上したのでその原理,実験結果等について報告する。

 

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