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機関誌

2016年9月号バックナンバー

2016年9月1日更新

目次

巻頭言

「衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み」特集号刊行にあたって
  緒方 隆昌

< RC 部門と調査研究,標準化活動>
 鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門(RC 部門)の前身は,鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験特別研究委員会(RC 特研)で,1988 年に設置されました。2010 年には組織再編に伴い現在のRC部門に移行しました。
 RC 特研時代の主な調査研究,標準化活動は次のとおりです。
 標準化については,1992 年にNDIS 1401「コンクリート構造物の放射線透過試験方法」,1993 年にはNDIS 3418「コンクリート構造物の目視試験方法」が制定されていますが,当時は標準化委員会の放射線,表面の各専門別委員会が主体となって制定されています。当時,RC 専門別委員会はありませんでしたが,2006 年に設置され,いずれのNDIS も現在はRC 専門別委員会が担当しています。
 その後,RC 特研内にWG が設置され,調査研究が活発に行われるようになり,標準化も積極的に行われています。最初は,小試験体WG が設置され,「ドリル削孔粉を用いたコンクリート構造物の中性化深さ試験方法」,「グルコン酸ナトリウムによる硬化コンクリートの単位セメント量試験方法」などが検討され,前者は1999 年にNDIS 3419,後者は2002 年にNDIS 3422 が制定されています。
 1998 年には超音波・レーダWG が設置され,翌年から土木研究所との共同研究がスタートし,共同で各種非破壊・微破壊試験が検討されました。その成果として2005 年にはNDIS 3424「ボス供試体の作製方法及び試験方法」,2009 年にはNDIS 2426「コンクリート構造物の弾性波による試験方法」(第1 部超音波法,第2 部衝撃弾性波法,第3 部打音法),2011 年には,NDIS 3429「電磁波レーダ法」,NDIS 3430「電磁誘導法」による鉄筋探査方法などが制定されています。現在も,塩化物イオン量,打撃試験などの原案作成中です。
 2010 年のRC 部門移行後は,RC 関係の非破壊試験の動向について検討を重ね,2014 年から4 つの研究委員会(衝撃弾性波法,鉄筋腐食,強度,透気試験)を相次いで設置し,いずれも標準化に向けて調査研究活動を活発に行っています。本特集は,そのうち衝撃弾性波法研究委員会の成果を報告しています。

< NDIS 2426-2 と衝撃弾性波法研究委員会>
 衝撃弾性波法研究委員会は2014 年4 月に設置され,2016 年3 月で1 期2 年が終了しました。4 月から2 期目の活動に入っています。この研究委員会は,上記NDIS 2426-2 第2 部衝撃弾性波法が2014 年に改正され,新しい試験方法が盛り込まれましたが,まだ多くの新しい試験方法が報告されていることから,次回改正に向けてそれらの試験方法が取り入れられるように理論的・実験的な側面から議論・検討を行っていくことを目的に設置されました。この特集では,1 期目の活動成果をとりまとめ,報告いたします。

 

解説

衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み
NDIS 2426-2 の改正及び衝撃弾性波法研究委員会の概要
  徳島大学 渡辺 健、リック(株)岩野聡史、立命館大学 内田慎哉、桐蔭横浜大学 杉本恒美

Outlines for the Revised NDIS 2426-2 and Research Committee
of the Impact Elastic Wave Method

Tokushima University Takeshi WATANABE
RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO
Ritsumeikan University Shinya UCHIDA
Graduate School of Engineering, Toin University of Yokohama Tsuneyoshi SUGIMOTO

キーワード: 衝撃弾性波法,NDIS,圧縮強度,弾性波伝搬速度,伝搬時間差

1. はじめに
 コンクリート構造物の維持管理への要求の高まりに応じて,非破壊検査・試験方法に対する期待が高まっている。これらに対応して,(一社)日本非破壊検査協会では,コンクリートの品質又はコンクリートの変状を的確に評価するための弾性波法に基づくコンクリートの試験方法を,弾性波の入力方法及び受信方法により3 つの手法(超音波・衝撃弾性波法・打音法)に分類し,それぞれの手法ごとに,その測定方法に関して規定可能な最小限の事項に限定して記述した規格群「NDIS 2426 コンクリート構造物の弾性波法による試験方法」が2009 年に制定された1)。
 衝撃弾性波法については,その規格群中の「第2 部:衝撃弾性波法」として規格化された。衝撃弾性波法は,コンクリートの品質,部材厚さ,コンクリート内部の変状等に広く適用できるが,その前提条件として,弾性波の伝搬速度が正確に測定されている必要があり,2009 年の時点では,弾性波伝搬速度の測定及び部材厚さの評価に関する方法について定められた。また,衝撃弾性波法に関しては,ASTM-C 1383-04 で“Standard TestMethod for Measuring the P-Wave Speed and the Thickness ofConcrete Plates Using the Impact-Echo Method”が制定されているが,その内容を我が国でそのまま適用するには多くの問題があることから,我が国の事情を踏まえて,新たに日本非破壊検査協会規格として制定することとなった。
 衝撃弾性波法については,その後の使用実績が豊富であり,技術の進歩も著しいことから,それらに対応するため2014 年に規格を改正した。また,改正に要した期間は約1 年間であったため,技術に対する議論が深まらない部分もあった。これらの問題点を解消するため,衝撃弾性波法に携わる技術者や研究者を集め研究を進める研究委員会を組織することとなり2014 年に「衝撃弾性波法研究委員会」を組織した。ここでは,NDIS 2426-2 の改正概要と衝撃弾性波法研究委員会設置の背景ならびにその活動概要等について記す。

 

衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み
コンクリートの衝撃弾性波法における到達時刻決定方法と伝搬経路の整理と課題
  首都大学東京都市環境学部 大野健太郎、(株)東洋計測リサーチ 山下健太郎

Determination of Arrival Time and Propagated Path on Elastic Waves in Concrete
by the Impact Elastic Wave Method

The Department of Civil and Environmental Engineering, Tokyo Metropolitan University Kentaro OHNO
Toyokeisoku Research Co., Ltd. Kentaro YAMASHITA

キーワード: 衝撃弾性波法,弾性波伝搬速度,伝搬経路,到達時刻,S/N

1. はじめに
 コンクリート中を伝搬する弾性波を測定し,伝搬時間を利用して弾性波伝搬速度を得ることで,コンクリート部材の厚さ,圧縮強度,ひび割れ深さなどが推定可能である。これらの手法は,日本非破壊検査協会規格「NDIS 2426-2:2014 コンクリートの非破壊試験-弾性波法-第2 部:衝撃弾性波法」に記されている。ところが,記録された波形から到達時刻をいかに読み取るかは技術者の判断に委ねられており,同じ測定波形を使用した場合であっても技術者によって得られる弾性波伝搬速度が変わる可能性が懸念される。また,弾性波の入力点と測定点を同一面上に設置した場合(表面伝搬時間差法),図1 に示すように,表層のコンクリート組織が疎で弾性波速度が低く,内部の組織が密で弾性波速度が高い場合,弾性波の伝搬経路は弾性波の入力点と測定点の距離により異なると考えられ1),得られた弾性波伝搬速度がどの深さのコンクリートの状態を表しているかが明確となっていない。このような課題を包含して得られた弾性波伝搬速度から,部材厚さ,圧縮強度およびひび割れ深さが推定された場合の信頼性は必ずしも高いとは言い切れない状況にある。
 衝撃弾性波法研究委員会では,上記の(1)到達時刻の決定方法に関する課題,(2)弾性波伝搬経路に関する課題を整理・解決するためのWG を設立し,表1 に示す委員により活動を行った。本稿では,この活動内容について報告する。

 

衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み
衝撃弾性波法によるコンクリートの欠陥探査の最前線
  立命館大学 内田慎哉、(株)東洋計測リサーチ 山下健太郎、
  日東建設(株)久保元樹、リック(株)岩野聡史

Front Line of Defect Inspection for Concrete Structure
using the Impact Elastic Wave Method

Ritsumeikan University Shinya UCHIDA
Toyokeisoku Research Co., Ltd. Kentaro YAMASHITA
Nitto Construction Inc. Genki KUBO
RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO

キーワード:コンクリート,衝撃弾性波法,欠陥探査,波動方程式,数値解析,ひび割れ深さ,内部欠陥

1. はじめに
 コンクリート構造物は,適切な材料を選定していても,新設時の現場における施工方法によって,その品質や性能は大きく変化する。場合によっては,初期欠陥が発生することもある。また,供用後には様々な要因により劣化し,欠陥が発生する場合もある。このように,コンクリート構造物には様々な要因によって欠陥が発生するが,欠陥の発生が疑わしい場合には,調査を実施し,その結果に基づいて,補修・補強などの対策を検討することが,一般的な維持管理の手順となる。さらに,この調査で欠陥の位置や大きさを的確に推定できれば,合理的かつ効率的な維持管理を行うことが可能となる。このような背景から,コンクリートを壊さずに欠陥の探査が可能な非破壊試験は,コンクリート構造物の維持管理において,有効な手段になると期待されている。非破壊試験の一手法である衝撃弾性波法は他手法と比較して,部材厚さの大きいコンクリートへの適用が可能であること,比較的短時間で測定ができること,鉄筋の影響を受けにくいことなどの特長があり,これまでに,コンクリートの欠陥探査に関して,多くの研究が実施され1),2),また実構造物への適用事例も報告されている3),4)。しかしながら,現在のところ,衝撃弾性波法による欠陥探査に関する試験方法の規格類は,日本非破壊検査協会規格であるNDIS 2426-2 において,ひび割れ深さの評価方法が附属書(参考)5)に記載されているのみであり,整備状況は十分とはいえない。この主な原因としては,測定方法や測定結果に対する理論的な検証が不十分であり,試験方法の適用条件や,判定基準の設定方法が明確でないことなどが挙げられる。そこで,この課題に対して,衝撃弾性波法研究委員会では,表1 に示す委員により,WG「コンクリート部材内部の変状の評価方法」(WG 2)を設置し,2 次元弾性体波動方程式に基づく数値解析による検証を行った。具体的には,コンクリート表面に開口部を持つひび割れの深さの測定方法,および,コンクリート内部の欠陥(空隙)の検出方法についての検討である。本稿ではこれらの成果について報告する。

 

衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み
衝撃弾性波法による既設コンクリート構造物の圧縮強度評価方法の検討
  リック(株)岩野聡史、徳島大学 渡辺健

Study on the Estimation Method of Compressive Strength of Structural Concrete
by the Impact Elastic Wave Method

RIK Co., Ltd. Satoshi IWANO
Tokushima University Takeshi WATANABE

キーワード:衝撃弾性波法,既設コンクリート構造物,圧縮強度,弾性波伝搬速度,伝搬時間差

1. はじめに
 現在,長年供用されている既設コンクリート構造物の維持管理では,圧縮強度に関する試験が実施されている1)。参考文献1)によれば,コンクリート構造物はコンクリートの強度,特に圧縮強度に基づいて設計され,また,コンクリート構造物の劣化に関連した物性特性の変化は圧縮強度に深く関連していることから,コンクリート構造物を診断する上で強度を把握することは極めて重要であるとされている。ここで,現在,一般的に実施されているコンクリート構造物での圧縮強度の試験方法は,コンクリート表面からコアを採取する破壊試験による方法や,コンクリート表面の反発度から強度を推定する方法であると考えられる。しかし,前者の破壊試験は,実施できる箇所や数が制限され,コンクリート構造物を診断する上で試験の実施が必要な位置において,直接試験が実施できない場合があるという課題がある。また,後者は,反発度の測定方法についての規格が制定され,広く普及されている技術ではあるが,測定した反発度から圧縮強度を精度よく推定する方法は十分に確立されておらず,精度に課題があることが指摘されている2)。
 これらの課題に対して,新設コンクリート構造物が対象ではあるが,衝撃弾性波法による圧縮強度の評価方法が提案されている3)。この方法は,次の(1),(2)の手順により,圧縮強度を評価する方法である。
(1)試験対象のコンクリートと使用材料,配合などが同じコンクリートを使用して円柱供試体を作製し,この円柱供試体で弾性波伝搬速度を圧縮強度に換算する式(以下,圧縮強度評価式という)を設定する。
(2)コンクリート構造物で測定した弾性波伝搬速度から,圧縮強度評価式により圧縮強度を推定する。
 この方法は任意の箇所で実施できる非破壊試験であり,また,コンクリート表面から採取したφ 100 mm のコアの圧縮強度と±15%程度の誤差で圧縮強度を推定できることが既往の研究で確認されている4)。さらに,コンクリート構造物の片側表面で測定した弾性波伝搬速度から圧縮強度を推定する方法であり,背面が埋設された構造物や部材厚さの厚い構造物にも適用できる。これらの特長から,新設工事の施工管理で実施する試験方法に採用されている5)。
 その一方で,既設コンクリート構造物では衝撃弾性波法による圧縮強度の評価方法は多く採用されていない。この大きな要因の一つは,前述の(1),(2)の手順が既設コンクリート構造物では異なり,この手順が提案されているが6),7),この提案に対する検証が不十分なことである。衝撃弾性波法研究委員会では,この課題を検証するWG「既設コンクリート構造物における圧縮強度評価式の作成方法」(WG 3)を設立し,表1 の委員により活動を行った。本稿では,この活動内容について報告する。

 

衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み
磁気的な方法により弾性波を入力する衝撃弾性波法(電磁パルス法)に基づくコンクリートの非破壊評価手法の最前線
  (株)アミック 高鍋雅則、非破壊検査(株)森 雅司、立命館大学 内田慎哉、大阪大学 服部晋一

The Forefront of Non-Destructive Evaluations on Concrete using the Elastic Wave
by Electromagnetic Pulse Method

AMIC Co., Ltd. Masanori TAKANABE
Non-Destructive Inspection Co., Ltd. Masashi MORI
Ritsumeikan University Shinya UCHIDA
Osaka University Shinichi HATTORI

キーワード:電磁パルス法,弾性波伝搬速度,PC グラウト,あと施工アンカーボルト

1. はじめに
 コンクリート構造物においてコンクリートの品質・内部欠陥を評価する手法の一つとして衝撃弾性波法が用いられている。この手法において弾性波の入力は図1(a)に示すように,これまで主に鋼球やハンマなどを用いた「機械的な方法」が用いられてきた。これに対し,「磁気的な方法」として電磁気を利用してコンクリート内部の鉄筋を弾性波の発信源とした「電磁パルス法」がある(図1(b))。電磁パルス法は,コンクリート部材内部の鉄筋にパルス磁場を与えることにより鉄筋を弾性波の発信源にすることができる。また,コンクリート部材内部の鋼製シースを発信源とするなど従来にはない弾性波の入力が可能となっている。ただし,弾性波伝搬速度の測定においてコンクリート部材内部を発信源とした場合,発信源の正確な位置を求める必要があるが,現状はその位置が不明確であるなどの課題がある。これらは,日本非破壊検査協会鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門内に設立された,衝撃弾性波法研究委員会内でのWG「コンクリート内部に弾性波の発信源がある場合の弾性波速度測定方法」(WG 4)にて上記課題の解決ならびに,適切な使用方法を確立すべく実験などの活動を行っている。衝撃弾性波法研究委員会WG 4 メンバーを表1 に示す。
 本稿では電磁パルス法の原理を説明し,上記の課題に対して取り組んだ成果や種々の適用例について紹介する。

 

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