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機関誌

2016年6月号バックナンバー

2016年6月1日更新

巻頭言

「人に学ぶ画像センシング技術の最新動向」 特集号刊行にあたって
  林 純一郎

 近年の高齢化社会に伴い,生産現場では人的コスト削減が課題となり検査員の労力軽減や自動化された検査装置などが求められています。また計算機性能の向上や画像処理手法の高度化により,人間よりも高速かつ精密な検査も可能な時代へと進化しつつあります。画像センシング技術を用いた検査において,最近のトレンドは人がどのような特徴に注目し,人がどのように検査を行っているのかを解析し,人と同じように検査を行う画像処理技術の研究が盛んに行われています。製造工程検査部門では,2014 年に第63 巻1 号において「画像処理技術応用による検査の自動化-画像検査の発展の道程を見据える-」を企画,特集したのに引続き,例年協賛・共同企画しているシンポジウムやワークショップにおいて中心的な活動をされている著名な方々に検査画像処理技術や他分野への応用も期待される最新の画像処理手法について解説記事をご執筆いただきました。本特集記事は8 件の記事で構成されています。画像センシング技術は人の視覚機能を基にし,人を支援する技術でもあります。そこで実際の検査現場で利用されている技術に関する記事を3 件,産学連携による画像センシング技術および実用化に関する記事を3 件,人の行動を解析し人に学ぶ画像センシング技術に関する記事を2 件紹介します。実際の現場におけるニーズをはじめ,人と同じように検査をするためにはどんな特徴に注目し,どのようなアルゴリズムによって検査を行うのか,という一連の流れを網羅し,人に学び人を支援する最新の解説記事で構成されたものになったと考えています。

 製造工程検査部門が毎年協賛・共同企画しているシンポジウムやワークショップは,国内最大規模で約1000 名の画像センシング技術者が横浜ベイエリアに集う6 月の「画像センシングシンポジウム:SSII」を筆頭に,12 月の「ビジョン技術の実利用ワークショップ:ViEW」,3 月の「動的画像処理実利用化ワークショップ:DIA」が恒例行事として認知されています。これら3 つのシンポジウム・ワークショップでの発表件数は300 件にのぼり,参加者は延べ2000 名に達する勢いです。画像センシング技術の新手法や新技術の提案をはじめ,実用化における関連技術の情報交換など,産学官の枠を超えた発表や熱の入った議論が展開されています。カメラ映像などの動画や静止画を用いた検査をご検討中の会員の皆様には,ぜひ一度,これらのシンポジウム・ワークショップにご参加いただければと思いますので,以下ホームページを参考にしていただければ幸いです。

 

 

解説 人に学ぶ画像センシング技術の最新動向

自動車用部品外観検査のための画像センシング技術
 (株)豊田中央研究所 塚田 敏彦

Image Sensing Technology for Automotive Parts Visual Inspection
TOYOTA CENTRAL R&D Labs., Inc. Toshihiko TSUKADA

自動車, 光学的試験法,画像処理,非破壊検査,シミュレーション

1. はじめに
自動車や自動車を構成する部品の生産工程では,数多くの厳しい計測や検査が,完成車の品質や性能を保証するために行われている。これらの計測や検査は,これまで人による目視や治具を用いて行われてきたが,検査品質の安定化や,コスト削減のための省人化,また,熟練検査員の確保が難しい状況などから,自動化への強い要望がある。
 計測や検査を自動化するための方法として,画像によるセンシングとアルゴリズムによる認識を組み合わせた画像計測・検査方法がある。この方法は,対象をセンシングすることにより画像情報を獲得し,画像に含まれる情報を認識処理により抽出して,抽出した情報と判定基準とを照らし合わせて計測や検査を行う方法である(図1)。この方法では,センシングされた画像中に,計測・検査に必要となる情報が含まれていることが必須条件であり,その情報が抽出しやすい形になっていれば,複雑な認識手法を用いることもなく,簡便で信頼性の高い計測・検査を実現することができる。センシング方法の検討段階においては,目視検査での作業者の検査方法が大変に参考となる場合が多い。
 筆者は,これまでに上記の枠組みに基づき,センシングに特徴ある計測・検査技術の開発を行ってきた。本稿では,自動車生産工程での計測・検査の三つの例を紹介する。一つ目は,エンジンシリンダ検査技術,二つ目はブレーキホースの口金部品検査技術,そして最後に,自動車ホワイトボディの建付け検査技術である。
 エンジンシリンダ検査は,シリンダ内壁面の巣やきずなどの異常を切削痕と区別して検出するためのセンシング技術が重要であり,シリンダ内壁面の微少な凹凸を位置ずれに対してロバストに撮像する点が特長である,ブレーキホース口金検査では,メネジ内部に形成された凸テーパ形状のシート面表面の凹凸異常を検出するためのセンシング技術であり,部品形状を利用した照明方法に特徴がある。ホワイトボディ建付け検査では,ボディ位置基準となる丸孔の3 次元位置を検出するために光切断法を採用し,丸孔円周部分を精度よく検出するための工夫を施している。
 本稿では以上三つの計測・検査技術について,それらで開発したセンシング技術を中心に紹介する。

 

 

素材産業における非破壊検査の動向と課題
  旭硝子(株)楜澤 信

Trend and Problem of Nondestructive Inspection on Material Manufacture
Asahi Glass Co., Ltd. Makoto KURUMISAWA

キーワード 画像処理,パターン認識,工程監視,プロセス制御

1. はじめに
 第三次人工知能ブームと呼ばれる昨今,人のスキルに頼って運転される部分が大きかった素材産業のプロセスにおいても,知能の部分の機械化への期待が高まっている。その期待は明日にもデータから全てが解明され,異常の予兆のアラームが鳴り,自動でプロセス制御が実現するかのように膨らんでいるが,現実的には様々な課題が山積している。AI バブルと言われるようなこのような期待とは別に,データを取得したり現象を可視化したりするために,画像処理のソフト,ハードの両面からの地道な取り組みが行われている。
 本稿においては,素材産業,特にガラス製造の分野において,従来の製品に関わる検査における画像センシングに加え,プロセスの状態を検査するための,データ取得のセンシングからそれらの解析に至るまでの様々な取り組みに関して紹介し,素材の高温プロセスでの応用に特有の課題について述べる。

 

多様な分野における画像処理と技術開発
  ヴィスコ・テクノロジーズ(株)菅野 純一

Image Processing and Technology Development in Various Applications
ViSCO Technologies Corporation Junichi SUGANO

画像処理,外観検査,動画像処理,機械学習,細胞内画像処理,鋳造部品

1. はじめに
 工場で生産される製品の外観検査を自動化するために,様々な画像処理技術が利用されている。近年では熟練検査員の不足や人件費の高騰などの理由から,技術的に困難であるような検査についても導入の期待が強まっているが,人と機械の認識能力には大きな差があり,要求に応えられる範囲は一部の内容に留まっている。
 人と機械の違いについて理解を深めるため,画像処理の基本技術であるエッジ検出を用いて「四角い金属片の左辺を認識し,画像上に表示したい」という要求を例にとり説明したい。カメラの視野内で金属片の左辺がどこに位置するかは不定だが,人が見れば容易に特定できるような状況であるとする。このような条件で処理を実行した結果を図1 に示す。検出したエッジ点を緑色の点として画像に描画している。図1(a)は,蛍光灯の下で金属片を撮像した画像であり,目的とする金属片の左辺の他に,背景部のステージや金属片表面の微小な凹凸による濃淡変化を多数検出しており,金属片の左辺だけを特定することができない。これを実現するには“左辺は70 画素以上の直線形状である”や“左辺と右辺は対となっており概ね100 画素の距離がある”などのルールを設定した上で,新たな処理内容を追加する必要がある。一方で,図1(b)は目的のために照明を最適化した画像であり,期待した結果が得られている。外観検査の自動化が成功している事例は,大半が後者によりなされたものであり,最適な環境を見つけられない場合には,目視による検査が行われている。非常に単純な例ではあるが,やってみると初めて気付かされる要素が多く,人の認識能力を機械で実現することが簡単ではないことが分かる。
 外観検査の自動化をより良く実現するためには,人の認識能力や柔軟性を機械に獲得させる必要があり,そのためには従来の技術検討の枠を超えて様々な知見を取り込むことが重要であると考えている。このような機会を得る場として,精密工学会 画像応用技術専門委員会が主催する「外観検査アルゴリズムコンテスト」が挙げられる。このコンテストでは画像処理技術による自動化が難しいと判断されたテーマを広く集め,その解決策を募り技術開発の進展へ繋げることを目的としている。多種多様な対象,課題,解決策に触れることで,従来の枠を超えた技術開発に繋がると考えている。本稿ではコンテストで扱われた2 つのテーマを取り上げ,参加者による提案内容の概観と筆者の提案内容の紹介を通して,課題解決のために行われた技術開発について解説を試みる。

 

表面粗さ及び(ロバスト)フィルタの動向
 中京大学大学院 近藤 雄基、(株)小坂研究所 吉田 一朗
 中京大学 沼田 宗敏、輿水 大和

Trend of Surface Texture and Robust Filter
Chukyo University Yuki KONDO
Kosaka Laboratory Ltd. Ichiro YOSHIDA
Chukyo University Munetoshi NUMADA and Hiroyasu KOSHIMIZU

表面粗さ,工業規格,計測機,ローパスフィルタ,ロバストフィルタ

1. はじめに
 表面粗さの測定は,製品の品質評価のみならず製造工程管理や製造装置の状態把握,研究開発などにおいて不可欠な測定の1 つである。なぜなら,表面粗さは製品の機能や品質に深く関係し,研究開発などでは表面粗さの測定・解析が,高機能化の実現や現象解明に大きく貢献するためである。
 工業規格では表面の凹凸,きず,筋目などこれらを全て含んだ表面の幾何学的な状態を総称して,“表面性状( Surfacetexture)”と呼んでいる1)。機械部品の表面性状は,製品の力学的特性や外観などに関わる重要な幾何学的仕様であり,工業製品では表面性状の定量的な品質管理が必要である。
 部品表面の微細凹凸の測定データは,その波長の長さによって,形状誤差,うねり,粗さ及び量子化誤差やノイズなどの微細な成分に区分して評価される1)。そのため,表面粗さ解析における微細凹凸波形のフィルタリング技術の研究開発は必須であると同時に,非常に重要な技術である。その評価法はISO,JIS 規格に定められており,現状では被測定面の一断面を測定して得られたデジタル形式の曲線を基に,デジタルフィルタ処理及び統計演算,統計パラメータ化によって評価することが原則となっている。

 

産学連携による画像センシング技術の実用化
  徳島大学 寺田 賢治

Practical Realization of Image Sensing Technique through
Industry-academia Collaboration
Tokushima University Kenji TERADA

産学連携,画像処理,人の監視,防災,環境保全,農業応用

1. はじめに
カメラの高性能化,小型化,低電力化,そして低価格化も大きく進んでいる。いたるところに監視カメラが設置され,自動車やノートパソコン,携帯端末に当然のように小型カメラが装備されている1)。監視カメラは,昔は重要な場所にしか設置されていなかったが,現在は屋内,屋外問わず,あらゆるところに設置されて,それが当たり前の光景となり,逆にある意味,目立たなくなっている。また現在,例えば自動車での車庫入れにおいては,カメラ映像を見ながらバックさせることが標準となり,窓を開けることがなくなった。
 このようにカメラが身近になった時代になり,それを処理する技術である画像処理はその応用範囲を広げつつある。ただそれはニーズが増えて必要にかられてということもあるが,それ以上にハードウェアやソフトウェアが進歩し,できる可能性が高まったためという側面も大きい。すなわち,コンピュータの高性能化には目覚ましいものがあり,数年前に数秒かかっていた計算が,小型コンピュータによって一瞬で実行できるようになった。さらにネットワークもそれ以上に進歩,普及し,当然のように高速で大容量のデータを送受することが可能になった。それと同時にソフトウェア的にも,SIFT やHOG のような特徴量抽出処理2),SVM やディープラーニングのような認識処理3),4)を始めとする計算量やメモリを多く必要とするが,優れた性能をもつアルゴリズムが開発された。
 工業製品の検査や顔の認識など,画像処理の実用化の例も年々増えている。我々の研究室でも画像処理に関する研究を行っているが,産業界からの共同研究のお申出をいただくことが多い。ただ,有名大学の,有名研究室とは異なり,一地方大学の,一研究室であるため,学会などをにぎわせているような顔の識別,人の行動解析,ロボットアイなどの画像処理の王道的な応用のお申込みは少なく,教科書や論文に載っているような一般的なアルゴリズムでは検出が難しかったり,誤検出が多かったりする案件が持ち込まれることが多い。特に商品化の際には,多くのメモリを必要とせず,シンプルな処理でかつ,高速,かつ高精度であることが望まれる。上述のようにハードウェアとソフトウェアがどれだけ発達しても,このようなニッチなニーズは結構あるようで,例年,多くの会社と共同研究をさせていただいている。
 以下,当研究室で産学連携により実用化された技術の一部で公開可能なものを紹介する。当研究室の画像処理は曖昧な形状のもの,複雑な動きをするものの計測や認識を得意としていて,なるべく単純な手法で,対象の検出だけでなく,誤報(過検出)を抑えることにも重きをおいている。

 

人物行動認識・理解のための画像センシング技術と応用
  慶應義塾大学 青木 義満

Image Sensing Technologies and its Applications for Human Action Recognition
Keio University Yoshimitsu AOKI

キーワード 人物検出,人物追跡,行動認識,セキュリティ,スポーツ映像解析

1. はじめに
 近年,インターネットやスマートフォン,監視カメラなどの通信技術や撮影デバイスの普及により,人々が生活の中で画像を利用する機会が増加している。その中で,画像認識により世の中に大量に存在する画像や映像から新たな価値を創出する技術が求められている。特に,人物行動解析は画像認識における重要な課題の1 つである。
 映像中からの人物行動解析に関しては,監視カメラからの不審人物の発見,マーケティングへの応用の他,様々なスポーツにおける競技支援や技能解析など,幅広い応用が期待されている。これらの事例において共通して求められる人物行動解析技術は,映像中の人物を頑健に検出,追跡する技術と,対象人物の詳細な行動を認識するための行動認識技術である。本稿では,監視カメラ映像やスポーツ映像を対象とした人物検出・追跡技術,及び行動認識技術について具体的な事例を交えながら述べる。

 

標本化・量子化理論と画像技術イノベーション
  中京大学 輿水 大和

Sampling and Quantization Theories and Innovation for Image Technology
Chukyo University Hiroyasu KOSHIMIZU

キーワード 標本化,量子化,OK 量子化,デジタル化,イノベーション,画像技術

1. はじめに
-デジタル化というセンシング理論と技術-
 本稿は,時間と空間(「時間と自由」(H. Bergson)),物質と記憶(H. Bergson),物質計測と意識・ココロの計測,心身哲学(R. Descartes,S. Freud)1)?4),及びそれらのアナログ計測とデジタル計測の基本問題を数理的に扱う重い性質のものである。すなわち現象は心身のいかんにかかわらず,アナログセンシングされた信号をf(x)と見なし,そのf(x)をデジタル記録に変換するデジタル化という手続きは煎じ詰めると,実際には極めてシンプルな数理に要約することができる。その数理は,Shannon の標本化定理5)と後に詳説するOK 量子化理論6),7)の二つである。よって本稿は,“デジタルセンシング”の理論と技術,つまりADC/DAC の基礎理論とその技術を,これら二つの基本原理を基盤にして考察するものである。
 さて人の身体をもその一部(要素でありかつ部分集合)にもつこの宇宙全体は物質(Matter)である1)?4)。あらゆる物質の成り立ちは物質元素で還元的に説明される,この世界理解の方法において際限なく還元的世界モデルの詳細化は止むことなく,離散的(デジタル)説明を形式的に極めようとしている。しかし煎じ詰めると,物質世界の成り立ちは実は『アナログ』であり『連続』であって,あらゆる存在と存在の境目はなく,分割という概念も説明の便宜を排除すると,実態は存在しない。この議論の延長線上にはその可逆性が保証されないにもかかわらず,事実上は,『サイバー空間』という世界の表現がいよいよ増大して止まらない。この世界は,デジタルコンピュータとデジタルデータとこれらが配信されるネットワークが織り成して,物質世界がそうであるように,人と社会を包み込みこれらを支える,物質世界と対を成すもう一つのリアルな世界のことである。
 かくして,これらのサイバー世界と物質世界をつなぐ唯一の理論技術的絆は,アナログ記録をデジタル記録に変換する“デジタルセンシング”の理論と技術に求められる。それらは,物質空間を離散化する標本化(Sampling)と空間内における物質の重量とか距離とか長さとか明暗などの物質現象の離散化,すなわち量子化(Quantization)の理論,及びこれらを統括する標本化・量子化統合理論(「SQ 統合理論」(仮称))と技術から構成されるので,この二つのデジタルセンシングの持つ意味の重大さの理由はここにある。
 C. E. Shannon による標本化定理ST(Sampling Theorem,1948)5)は,アナログ信号をデジタル信号に変換する唯一無二の数学理論で,その復元可能性を理論的に担保できることを明らかにした。本稿では,まずこの理論を概説する。ついで,上記ST と同じレベルの基本原理としての量子化のための一理論として,OK 量子化理論(Oteru-Koshimizu,s QuantizationTheory/OKQT)6)を概説する。OKQT は,ST で不問になっていた値の離散化に踏み込んだ初の理論である。また,この理論は,「量子化器」という特許8)としてもその技術的価値を認定されている。更に,これらST とOKQT は,それぞれが要請する復元性条件の意味から,互いに干渉が存在することも理論的(飯島泰蔵氏)9),10)に指摘されているので,これも併せて概説する。
 最後に本稿では,このような画像離散化のSQ 統合理論と技術はどのようなイノベーションを生んでくれるか,これも概説する。

 

続 人に学ぶ画像検査機械開発
  中京大学 青木 公也

The Sequel to Development of Visual Inspection Machine Inspired
by Human Inspection Mechanism
Chukyo University Kimiya AOKI

キーワード 画像検査,目視検査,外観検査,きずの気付き,機械学習

1. はじめに
 カメラ・計算機の性能向上とあいまって,ある検査対象に複数の画像処理手法を段階的に適用するなど,単純な検査であれば人間より遥かに高速かつ精密な画像検査は実現されて久しい。検査への画像処理技術の導入はあって然るべき時代となった。しかしながら,製造現場において検査対象となる製品やきず・欠陥の種類は多種多様である。また,インライン検査においては既存設備の制約もあるため,必ずしも外観画像や透過画像,三次元画像などを利用した画像検査機械の開発は容易ではない。さらに,一旦検査装置が導入されても,検査環境や検査対象の変化に対して,それが軽微であっても,いちいち画像処理技術者による調整が必要となる。場合によっては,せっかく導入された検査装置のスイッチは切られ,引き続き検査員による目視が実施される。
 ここで今一度,画像検査機械開発の道程について見直す必要があると考えられる。筆者が参画する研究グループでは,現場検査員や生産技術者の「知識・経験」や「やり様」に学ぶことが,画像検査機械の更なる発展に繋がると主張してきた1)。そのことは,本誌「非破壊検査」の2014 年1 月号での特集: 画像処理技術応用による検査の自動化2)においても執筆させていただいた。具体的には,人間の視覚生理機構に学んで開発した「きずの気付き処理3)」を紹介した。本稿では,きずの気付き処理のその後の発展と,その他にも「人に学ぶ」というスタンスで研究開発を実施している二つの事例について紹介する。

 

論文

再使用観測ロケットエンジン燃焼室の変形評価のための高分解能X 線CT 画像解析技術
  高木 寛之、村田 勲、藤井 拓也、佐藤 克利、上村 博、
  佐藤 正喜、橋本 知之、森谷 信一、木村 俊哉、八木下 剛

High-resolution X-ray CT Image Analysis Technology for the Deformation of the Main Combustion Chamber for Reusable Sounding Rocket Engines
Hiroyuki TAKAGI*,**, Isao MURATA**, Takuya FUJII*, Katsutoshi SATO*
Hiroshi KAMIMURA*, Masaki SATO***, Tomoyuki HASHIMOTO***, Shin-ichi MORIYA***
Toshiya KIMURA*** and Tsuyoshi YAGISHITA****

Abstract
JAXA/ISAS developed a reusable LOX/LH2 rocket engine for the Reusable Sounding Rocket and conducted 142 engine firings. To reuse the main combustion chamber, it is important to develop an effective non-destructive inspection technique to confirm its intactness and to assure its life. In the series of firing tests, the combustion chamber was inspected four times by a high-energy X-ray CT system. A new analytical technique was developed to evaluate deformation smaller than the spatial resolution of the X-ray CT system. Deformation of the chamber,s wall thickness was successfully evaluated with the newly developed technique, and validity of the evaluated result and reliability of the technique were also confirmed.

X-ray CT, Resolution, Image analysis, Combustion chamber, Rocket

1. 緒言
 従来1MeV 以上のX 線を用いた高エネルギー産業用X 線CT 装置は,鉄やアルミなどで構成された大型の工業製品の断面を観察する用途で用いられてきた。近年では数百枚以上に及ぶ多断面のCT 画像を撮影し,得られたCT 画像を積層して得られる三次元での内部形状の把握,さらには三次元の形状計測・形状評価用途で用いられるケースが多くなっている1)。X 線CT 装置の空間分解能はX 線源の焦点サイズに大きく依存する。特に1 MV 以上のX 線を用いる場合,電子線形加速器をX 線源として用いることがほとんどであるが,実用レベルにおいて直径2 mm を下回る焦点サイズを実現することは困難である。
 この焦点サイズの制限により,一般的な高エネルギーX 線CT 装置で得られる画像の空間分解能は0.5 mm 程度にとどまってしまう2)。この分解能は,銅合金製のロケットエンジン燃焼室において,燃焼によって生じる微細構造の変形を定量的に把握するには不十分である。本稿では,再使用観測ロケットエンジンの燃焼室の繰り返し燃焼によって発生する形状変化について,CT 装置の空間分解能未満の形状変化を評価するために開発した画像解析技術について報告する。

 

 

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