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機関誌

2014年度バックナンバー9月

2014年9月1日更新

巻頭言

「非破壊検査の知識普及活動」特集号刊行にあたって  谷口 良一

 今でこそ非破壊という言葉が一般の市民にも広く知られていますが,1955 年ころには「無破壊」と か「不破壊」なる用語も使われ,当時は政治活動,市民運動団体などに間違われたこともあったと聞 いています。現在,用語としての非破壊検査は市民権を得ているとしても,技術的内容まで理解して いる一般市民は残念ながら少数です。 非破壊検査技術が,社会の安全,安心のために果たしている役割を広く紹介することは,この分野 の社会的な位置を一層安定させ,携わる技術者の社会的地位を向上させるとともに,この分野に興味 を持つ若い人たちを増やし,この分野の将来に対する布石にもなります。特に最近は小学生の理科離れ, 理工系の大学進学者の減少が指摘されるなど,技術立国を目指す日本にとっては深刻な事態です。そ の一方で,いくつかの企業や団体が科学館等で,技術の素晴らしさを伝え一般に普及させる活動も目 立ってきました。今回,当協会がこれまで進めてきた非破壊検査の「知識普及活動」に加えて,主と して非破壊に関連して取り組んできた,企業,学協会,団体の活躍も取り上げて読者に紹介する解説 企画を特集としました。 はじめに「知識普及活動の意義」と題して,当協会の元会長である坂 眞澄氏(東北大学教授)に, 企画特集として取り上げた意義について解説いただきました。非破壊検査というと,これまではどう も硬いイメージが定着していることから,2009 年に協会のイメージキャラクター「ノンディ」が誕生 しました。その後の悪役「クラッキィ」とともに協会のイメージチェンジと宣伝に大いに活躍し,テ レビにも登場しています。その様子を村上丈子氏(広報委員会)から「イメージキャラクター「ノン ディ」の誕生とその活動」で解説いただきました。続いて「高校生の皆さん,非破壊検査って面白いん だよ!」をキャッチフレーズにして,都道府県の教育委員会に働きかけて実施した工業高校生向け「非 破壊検査セミナー」について末次 純氏(明日を担う次世代のための非破壊検査セミナー委員会委員長) に解説いただきました。また一企業が長年にわたって「安全技術サービスの普及」活動に努めてきた 取り組みを紹介した中村和夫氏(非破壊検査(株))の解説は,1994 年から取り組んできた工業高校へ の働きかけとインターンシップの受け入れ,展示活動,見学対応などすべて自社費用で取り組んでい る様子がわかります。 協会や業界以外の団体の取り組みとして,日本機械学会関西支部関西学生会の活動も紹介されてい ます。これは関西の大学の機械工学科の大学生たちによって組織する学生会で,小中学生にはメカラ イフの世界展,大学生には工場見学会,卒業研究発表会など,すべて学生たちが中心となって20 年以 上前から運営してきました。今回は昨年度の取り組みについて,大久保雅章氏(大阪府立大学教授) に解説いただきました。最後に,奥田修一氏(大阪府立大学教授)に「大阪府立大学放射線研究セン ターにおける放射線知識普及活動」を解説いただきました。福島の事故以来,放射線の利用に関して 暗いイメージを持つ方が増えています。非破壊検査手法としても重要な放射線に対して,正しい認識 と正当な評価を広く理解していただくことは,今後とも重要な課題です。 本特集では取り上げることができませんでしたが,他学協会や各種団体における知識普及活動は, まだまだ数多くあると聞いております。本特集が当協会の非破壊検査分野における知識普及活動の今 後の方針を考える機会になれば幸いであると考えております。

解説 非破壊検査の知識普及活動

知識普及活動の意義 坂  眞澄   東北大学大学院工学研究科

Benefits of Knowledge Sharing Activities on NDI Department of Nanomechanics, Tohoku University Masumi SAKA

キーワード 非破壊検査,安全・安心,広報,ノンディ,クラッキィ

1. はじめに 安全・安心を支える基盤として非破壊検査が不可欠であり,その認知度を上げることはさらなる安全・安心の確保に繋が ります。講習会,学術講演会をはじめとし,各種イベントの開催,新聞等への特集記事の掲載等,専門家はもちろんのこと, 一般の人々にも広く知っていただく活動の継続が重要であります。このことは専門家のステータス向上にも繋がります。 非破壊という単語そのものの意味が一般の人にはわかりにくいかもしれないと思われるところにおいて,当協会は2009 年に イメージキャラクター「ノンディ」を,さらにその後「クラッキィ」を誕生させました。ノンディとクラッキィはいろいろな イベントに登場し,非破壊検査に対する親近感のアップに大いに貢献してきているところであります。当業界には,ノンディの ことを「飲んでいい」と解釈している方もいらっしゃるようですが,それも親近感の一つの表れでありいいことでありましょう。 ご参考までに図1 の写真は,集束イオンビームで銀薄膜にエッチングにより作製したノンディであります。筆者は現在, ナノメカニクスという名称の専攻に所属しており,来訪者に対する極微細な世界を扱う研究の広報にこれを使っています。 筆者の知る限り世界最小のノンディであります。最近テレビによく出てくる,よく運動するふなっしーとか,くまモンに 負けないように,非破壊検査の普及促進のためにノンディとクラッキィに益々活躍していただきましょう。動きがあった 方がより親近感が出そうな気もします。 ところで筆者の住んでいます仙台に関係する話題で,今年の東北楽天は今後の活躍に期待するところが大きい現状にありま すが,昨年の日本シリーズでは則本投手,田中投手,美馬投手等の選手のすさまじい活躍に圧倒された皆様が多いことと思い ます。昨年の東北楽天の快挙では若い世代が要でありました。非破壊検査の分野におきましても,将来の優秀な若い人材を 獲得するためには,少年野球,高校野球ががんばっているように,より若い世代に目を向けた普及活動が重要であると考えま す。これは技術の伝承のためにも重要であります。高校生等を対象にもっと宣伝に使えるのではないかと思っていることの一 つに,レントゲンとかレーリーとかノーベル賞受賞者と非破壊検査の関係をいま一度思い出してみることがあります。非破壊 検査は高度な科学現象を人類の安全のために有効活用するものであり,先人の業績がいかに役立てられてきたかの説明は,若 者の目を大いに輝かせるのではないかと思います。 図2 に知識普及活動の一つの捉え方を示します。全ての活動が普及活動に繋がっている中で,マスコミへの広報活動, 国際学術活動を通した国際広報,さらには専門家を対象とした隅隅までいきわたる知識普及活動として,地方の技術者に とっても交通の便のよい場所での講習会等の開催の工夫等々,さらなる推進が期待されるところであります。安全・安心を 支えるために,非破壊検査の知識普及活動への不断の努力が大いに期待されています。 最後に,原稿作成にあたり東北大学 庄子孝夫技術職員,菅原寛美事務補佐員,大学院生 三浦健太郎君,同 木村康 裕君の協力を得たことを記し,感謝の意を表します。

イメージキャラクター「ノンディ」の誕生とその活動 村上 丈子   2013 年度広報活動委員会委員,新日鐵住金(株)    増田 和義   (株)京浜コーポレーション

Image Character NONDIE − Its Birth, History and Now − Public Relations Committee in 2013, Nippon Steel & Sumitomo Metal Corporation Takeko MURAKAMI KEIHIN Corporation Kazuyoshi MASUDA

キーワード 広報活動,イメージキャラクター,非破壊検査,展示会,TV コマーシャル

1. はじめに ノンディが協会の正式キャラクターに就任して,はや5年が過ぎました。機関誌の宛名印刷用紙にもプリントされてい ますので,皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?今では地方自治体,企業がイメージキャラクター を作製することは不思議なことではありません。むしろ各地でゆるキャラのイベントが開催されると,たちまち大盛況と なるブームです。キャラクターは世間に広めてゆく手段として大いに活躍の場を広げています。“非破壊検査”という堅い イメージの協会からどのようにノンディが生まれたのか?ノンディの裏話も加えながら誕生秘話ヒストリアを紹介します。

工業高校生に向けた非破壊検査セミナー委員会の取り組み紹介 −高校生の皆さん,非破壊検査って面白いんだよ!− 末次  純    明日を担う次世代のための非破壊検査セミナー委員会委員長

Introduction to“ the Experience Seminar for NDT Techniques for the Next Generation” − Let’s Try New Techniques for Safety Support − Comittee of NDI Seminar for Future Generation Jun SUETSUGU

キーワード セミナー,工業高校,次世代,セミナー委員会,非破壊検査

1. はじめに 非破壊検査という言葉は昨今では企業がテレビ番組を提供し,コマーシャルにも使われていることから多くの人が知っ ていて,安心・安全を目指す社会では重要な役割を果たす技術であることも認識されていると思われる。しかしながら, これらを専門として教育している高校や大学は少なく,認知度としてはまだまだ低いので,この世界に飛び込んで活躍し てみようと意識する次世代の若人は少なく,後継者が必要なことも非破壊検査業界では指摘されている。こうした状況に 危機感を感じ,いち早く工業高校生に向けた取り組みを開始しようとして当時のCIW 検査事業者協議会(現在の(一社) CIW 検査業協会)が中心となって非破壊検査セミナーを立ち上げる準備を始め,委員会を組織して,これまでに千葉県, 神奈川県,秋田県,そして群馬県の4 県において,工業高等学校生を受講生としたセミナーを4 回実施して,合計142 名 の受講生を得てきた。セミナーの名称は「明日を担う次世代のための非破壊検査セミナー」としている。 今回機関誌の特集として「非破壊検査の知識普及活動」を取り上げるにあたって,私どもセミナー委員会がこれまでに 取り組んできた「非破壊検査セミナー」の状況をここに紹介する。他の機関においても非破壊検査の知識普及活動を推し 進めるための参考になれば幸いである。

安全技術サービスの普及 中村 和夫  非破壊検査(株)

Activities for Spreading Safety Technical Service Non-Destructive Inspection Co., Ltd. Kazuo NAKAMURA

キーワード 安全技術サービス,安全管理技術講座,非破壊検査業,大阪科学技術館,ノンディの世界,日本標準産業分類

1. はじめに 弊社は1957 年に安全技術サービス業の先駆けとして創業し,以来,あらゆる社会資本のトラブルや事故を未然に防止 する「安全の防さきもり人」として社会,産業,暮らしを守り続けている。しかしながら,著者が入社した,創業から20 年ほど経っ た1976 年当時でも「非破壊検査業」は知名度が低く,業務上様々な苦労があった。 創業から50 年後の,2007 年11 月にやっと経済産業省・日本標準産業分類に「非破壊検査業(分類コード7442)」が入っ た(学術研究,専門・技術サービス業>技術サービス業(他に分類されないもの)>商品・非破壊検査業>非破壊検査業)。 この分類によると,項目の説明として『主として原子力発電所,船舶,航空機,化学プラント,橋梁,ビル等の構造物,設備 又はボイラ等の使用中の安全確保のため放射線,超音波,渦電流,浸透現象等を利用して構造物,設備を破壊せずに検査 する事業所をいう。』となっている。 最近でこそ,何か事故が起こった際の報道を通じて「非破壊検査」という言葉自体はある程度世間に知られるようになっ たが,上記の業務内容はまだまだ認知度が低いようである。業界の社会的地位向上のためには「非破壊検査業」が日夜, 社会,産業,暮らしの安全に貢献していることを広く世間に知っていただくことが重要である。 これらのことを踏まえ,弊社では早くから様々な取り組みを実施している。これらのうち,ここでは次の取り組みにつ いてご紹介する。 ・工業高校への「安全管理技術講座」の設置 ・大阪科学技術館への展示,イベントへの出展 ・会社見学の受け入れ ・技術専門学校への主任及び講師派遣 ・工業大学への客員教授派遣

日本機械学会関西支部関西学生会の活動紹介 −小・中・大学生を対象とした機械に関する知識普及活動− 大久保雅章  大阪府立大学大学院工学研究科

Introduction of Activities in Student Section of JSME Kansai Branch − Outreach Activities to Students in Mechanical Engineering − Graduate School of Engineering, Osaka Prefecture University Masaaki OKUBO

キーワード 日本機械学会,関西学生会,小・中学生,大学生,知識普及活動,アウトリーチ

1. はじめに 日本非破壊検査協会が機関誌特集として「非破壊検査の知識普及活動」を取り上げて,非破壊検査業界で行われている 若年層向けの取り組みを紹介しようとしている。この中の1篇として,他の学会で実施されている若年層への知識普及活動 の例として,日本機械学会関西学生会において学生が中心となり,小,中学生および大学生に向けたユニークな取り組みを 長年続けていることを取り上げ紹介したいとの依頼を受けた。筆者は2012 ~ 2013 年度に日本機械学会関西学生会幹事およ び幹事長を務めてきたので,その活動内容を紹介する。 日本機械学会は会員数3 万6059 人(2014 年2 月末日時点)を擁する国内最大級の学会であり,8 つある支部のうち,関 西支部は2014 年に90 周年を迎えたが,機械学会の中で,最も活発に学会学術活動を進めている支部として知られている。 関西支部内には関西学生会が設置されており,関西地区における機械関連の24 の大学,高専の学生が,ほぼ毎月1 回以上 一堂に会する会合を持ち,すべて学生たちの手で一致協力して機械工学のアウトリーチ活動を実施している。行事は,小・ 中学生を対象とした知識普及活動であったり,大学生,大学院生が自ら学ぶ課外活動であったりしている。学校の枠を超 えた交流・情報交換も行われ,学校の枠を超えた学術サークル活動とも考えられ,学生たちの日常の一部になっていると 言っても過言ではないようである。

大阪府立大学放射線研究センターにおける放射線知識普及活動 奥田 修一  大阪府立大学

Activities for Disseminating the Knowledge Concerning Radiation at Radiation Research Center, Osaka Prefecture University Osaka Prefecture University Shuichi OKUDA

キーワード 放射線,量子ビーム,放射線知識普及,放射線フェア,大規模放射線施設,放射線・原子力人材育成

1. はじめに 公立大学法人大阪府立大学(Osaka Prefecture University,OPU)地域連携研究機構放射線研究センター1)の放射線施設 は,大阪府立放射線中央研究所として設立以来,日本の代表的な放射線利用施設として55 年の歴史を持つ。この間大きな 組織の変遷があったが,基本的には,施設とその利用形態,管理体制,地域における活動を継承してきた。現在,大学と しては最も規模が大きい,総合的な放射線・量子ビームの利用施設である。近年,利用研究の対象となるさまざまな物質, 材料,機器の高性能化や,医学分野における診断,治療技術の高度化などによって,放射線・量子ビームを用いる新たな 基礎研究の重要性が増している。 施設の維持には,地域の理解が必要である。長年にわたる放射線知識普及活動を通じて,放射線についての社会の人々 の認識に触れる機会を得てきた。この活動の中心は,他の機関と共同開催している放射線フェアで,32 年間続けて実施し, 多くの成果や知見が得られた。また放射線・原子力分野の人材育成が急務で,このために,特に大学に放射線関連施設を 利用できる環境があることが重要である。 放射線研究センターの活動も大きな転機を迎えようとしている。新しい基礎研究の推進,放射線知識普及,施設を活用 した人材育成が,今後の活動の主な柱となる。われわれが放射線施設を管理運用する立場から,非常に重要な活動と位置 づけられる放射線知識普及および人材育成の現状を報告する。

研究速報

三層鋼板スポット溶接の磁気を用いた非破壊検査 原田 大地/堺  健司/紀和 利彦/塚田 啓二*

Magnetic Non-destructive Testing for Spot Welds of Three Layer-steel Sheets Daichi HARADA, Kenji SAKAI, Toshihiko KIWA and Keiji TSUKADA

キーワード スポット溶接,欠陥,表皮効果,断面観察,渦電流

1. はじめに スポット溶接は自動車産業等で幅広く用いられている溶接法である。スポット溶接の欠陥検査を迅速かつ正確に行うことは 産業製品の品質管理や安全性,生産性において非常に重要である。以前の研究では,測定サンプルとして電気亜鉛めっき鋼板 2 枚を重ね合わせてスポット溶接を施した二層鋼板を使用し,漏洩磁束法を用いてスポット溶接欠陥の内部構造解析を行っ た。その結果,溶接部における測定サンプルの表面近傍での透磁率の変化が検出でき,溶接の品質評価に応用できる10 kHz という成果が得られた1)。本研究では,新たに測定サンプルとして高張力鋼板と普通鋼板3 枚を重ね合わせてスポット溶接を 施した三層鋼板を使用した。また,新たな検査法として磁気透過法と渦電流探傷検査法を応用し,0.1 ~ 10 kHz の様々な周波 数を印加することで溶接における深さ方向の磁場分布を推定することを試みた。さらに,測定サンプルに対して断面観察を行 うことで,本磁気的検査方法とスポット溶接内部構造変化との間に相関があるかどうか研究を行った。
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