日本列島はいたるところに活断層があって,いつどこで地震が起こっても不思議ではないとする状況にあることがわかってきた。
強い揺れで瞬時に家はつぶされてしまう。1995年の阪神・淡路大震災でお亡くなりになった8割が建物の倒壊による圧死であり,つい先日(2007年7 月)発生した新潟県中越沖地震でもご不幸にあわれた方の9割がやはり住宅倒壊であったという。これらの方々には心から御冥福をお祈りします。人々が住宅に ついて以前は外見,設備,間取りや広さなどの居住性に関心を示していたのが,阪神・淡路大震災以降から地震に対する安全な構造に重要な関心を持つようにな り,住宅メーカーも耐震性を重視した販売戦略を売りにしているとのことである。こうした背景から機関誌では先に「住宅の安全・安心の確保」と題した特集を 企画して耐震構造住宅建設(その1)を取り上げた(56巻7月号)。このときは住宅の耐震化を薦める状況背景の観点と木造住宅,鋼構造住宅,鉄筋コンク リート造り集合住宅から超高層住宅に至るまでの耐震構造について解説を戴いた。自然の猛威に対して,対抗する科学的対応を図る具体例として眺めるとこうし た住宅なら住んでみたいとする安心感にも通じる。
今月号の特集「住宅の安全・安心の確保 その2」は工学的,技術的観点ではなくて生活する庶民の立場で,社会的な観点から住宅の安全・安心の確保につい て取り上げた。はじめに日本の建築基準法などに見られる耐震の法令の推移について解説いただいた(田坂勝芳氏)。幾度かの地震を教訓にして1981年建築 基準法などが改正されて今日の耐震基準の基になっているという。その後,阪神・淡路大震災を教訓にして一層強化され,1981年以前の建築物には耐震診断 の努力が課せられた。そして本年(2007年)には瑕疵担保責任の履行が義務づけられる法律へと強化が続いている。続いて欠陥住宅問題の解決策として登場 した一般的な住宅保障の制度について諸外国の事情と日本を比較して解説をいただいた(松本光平氏)。「地震が来なければ欠陥はわからない」とする住宅取得 におけるリスクと予防,救済の難しさの解説は興味深いものがある。こうした法律とは別に,耐震の改修を支援する組織として財団法人日本建築防災協会の活動 を紹介した(高橋吉徳氏)。ここでは耐震や改修,評価に関する情報提供や協力業務が行われている。一方で「誰でもできるわが家の耐震診断」のリーフレット も配布している。最後に,生活の基盤である住宅と明日にも起こるかもしれない地震に関して,住宅産業界,行政の状況,住宅居住者(消費者)へのアンケー ト,調査報告などの集計を基に庶民の立場でまとめた結果を解説していただいた(平澤和弘氏)。特に近年多発する地震に多くの方々の思いが反映されている。
今月の特集企画は従来の非破壊技術を主体とした誌面と比べると幾分趣を異にしているのは,取り上げたテーマが自然科学(地震)に対して,法律・アンケー トなど人文・社会科学的なアプローチと記述によるためと思われる。専門性の違いによって表現スタイルの異なることが多い。オフィスや職場,学校なども広い 意味で住宅とみなすと,今回のテーマ「住宅の安全・安心の確保 その2」は,いつでも起こりうる事態に対する対処とリスクマネージメントの観点からも意味 ある企画として取り上げた。
生活の基盤が壊されることなく,安心した生活の基になっている住宅の存在は私どもの仕事である「非破壊」の原点にも通じるように思われる。
読者の参考になれば幸いである。
*企画担当 小堀修身
Earthquake Damage and Revision of the Statutes about Earthquake-Proofing
Katsuyoshi TASAKA Japan Prefabrication Construction Suppliers and Manufacturers Association
キーワード 地震,耐震,建築基準法,法令改正,建築物,住宅
1. はじめに
有史以来,人類は自然からの戒めのように火山の噴火と地震を恐れてきた。空を見て,動物の挙動を見て予知する「知恵」を拠りどころとして対処してきた。 それは宗教的なものとして崇められることもあり,また,予言によって民衆は動揺し混乱をきたしたこともあったが,さまざまなかたちで祖先から語り継がれて きた。
しかし,人間の英知によって地震の発生予測の研究は進みつつあり,発生の確率は科学的に裏付けられつつある。その結果,災害の予防及び被害を最小限にくい止める努力がなされている。
ここでは近年(1890年以降)発生した主な地震とその被害を解説し,これを教訓として行政の立場から建築基準法などが改正された背景と改正の要点について概説する。
日本の住宅はおよそ4400万戸あるが,このうち耐震性が不足しているものは,およそ30%(1300万戸)と推定されている。1981年に新耐震基準 が施行されて,これまでに建設された住宅は2100万戸あまりである。1995年の阪神・淡路大震災では,旧の耐震基準によって建設された64%が被害に あっている。1981年以前とそれ以降の考え方について興味ある点も見出される。
Home Warranty Schemes in The World
Kouhei MATSUMOTO Meikai University, Professor Emeritus
キーワード 欠陥住宅,保証制度,市場の失敗,責任制度,保険制度,見えない品質
1. はじめに
建築物の欠陥が社会問題になったのは,「構造計算書偽装事件」に限ったことではない。1960年代には,「欠陥プレハブ」が社会的な関心を集めた。当 時,プレハブ住宅(工業化住宅)が開発段階にあり,パネル工法の発音性,結露等が未解決な問題であった。その後も,様々な場面で欠陥住宅が世間を騒がせて いる。大規模な欠陥問題としては,「秋住」と呼ばれた秋田県の第三セクターが行った分譲住宅団地で起こり,「住宅品質確保促進法」が制定されるきっかけと なった。
本稿で採り上げる「住宅保証制度」は,我が国に限らず,社会問題としての「欠陥住宅問題」の解決策として,登場し,改良され,発展した制度である。
一連の構造計算書偽装事件を契機としても,同様に,制度改正が行われようとしている。現状(2007年4月)では,建築基準法,建築士法,建設業法,宅 地建物取引業法が改正され,改正法の一部が施行され,さらには,住宅保証制度に関する新しい法案が国会に上程された段階にある。
従って,関連するこれらの法制度の全てを解説できる段階にはない。未だ,未確定の部分があり,これが確定して全体が施行される(機能する)のは,今から 早くとも3年程度の期間を要すると予想されている。言い換えれば,今回の制度改正は,広範囲に及ぶ未曾有の大改正なのである。
本稿の読者の中には,新制度の内容の解説を期待されている方が多いと思われるが,上記の事情から,残念ながら期待にそうことができない。現状では,制度 設計のための基礎資料として調査した諸外国の住宅保証制度の概要を解説し,新制度に関しては,法案に示された制度の基本部分を紹介する以上のことはできな い。
ところで,住宅は,他の耐久消費財や非住宅建築物とも異なり,国民の生活基盤であり,しかも住宅を取得(建てたり,購入したり)することは,一般国民に とって生涯最大の「事業」である。もしも重大な欠陥が隠れていれば,あるいは生産者が倒産して契約が履行されない事態に至れば,生活は破壊され,金銭的に も回復不能な重大な損害を受け,極めて深刻な事態が起こる。
このため,住宅の取得に関しては「リスク・フリー」(欠陥等が無い,あっても損害が救済されること)を目指して,先進諸国では様々な住宅保証制度が運営 されている。この制度は,一般に「住宅保証制度」(Home Warranty Scheme)と呼ばれている。我が国では「性能保証制度」等の名称で,複数の団体が運営している。しかし実は,国ごとに制度構成は異なり,保証の内容も 一様ではない。
ここでは先ず,解決策を考えるに当たって不可欠な欠陥住宅問題の発生のメカニズムを,建築物の特徴に基づいて説明する。「住宅保証制度」の必要性を理解していただけるであろう。
次に,このメカニズムを抑制するに必要な制度構成を説明する。住宅保証制度の基本的構成が明らかになる。そして最後に,諸外国の住宅保証制度の概要を解 説し,関連して,一連の構造計算書偽装事件を契機として,現在,提案されている新しい保証制度の特徴的な部分を紹介する。
Activity of The Japan Building Disaster Prevention Association
Yoshinori TAKAHASHI The Japan Building Disaster Prevention Association
キーワード 建築物,耐震,改修,評価,防災
1. はじめに
本会は,1973年1月5日に建設大臣(当時)の許可を受け,建築関係団体(5団体)の出捐のもとに財団法人として設立された。設立当時は,(財)日本 特殊建築安全センターと称し,主に建築基準法第12条に規定する特殊建築物定期調査報告関係業務など防火・避難に関する業務を実施していたが,1979年 に耐震等も含め建築防災全般を取り扱うことに業務範囲を拡大し,現在の名称に変更した。
その後,2004年に国土交通大臣から建築基準法における指定性能評価機関に指定され,2005年に「特殊建築物等調査資格者講習」の実施機関として登 録し,2006年には建築物の耐震改修の促進に関する法律における耐震改修支援センターの指定を受けた。
以上のことから,本協会の業務としては大きく「建築防災事業」と「耐震改修支援センター事業」に分けられるがそのほかにもこれらに関連した建築物の防災 に関する事業を展開している。今回の特集テーマが「住宅の安全・安心の確保 その2:耐震保障への取り組みと市民の意識」であるので,ここでは耐震に関連 した「耐震改修支援センター事業」についてその内容を解説してその他については読者の参考としたい。終わりに一般の方々の参考となる本会ホームページの耐 震関係コーナーについて記した。
Administrative Action and Public Opinion on Earthquake-Proof Housing
Kazuhiro HIRASAWA Sohjusha
キーワード 耐震、消費者意識、住宅行政、耐震改修、免震●制震
1. はじめに
戦後の住宅産業の歴史の中で,耐震の流れについて語る時,いくつかの大きな節目がある。大きなトピックは1981年の建築基準法の改正であり,同改正で 耐震基準が抜本的に見直された。この改正以降を俗に新耐震基準と呼び,それ以前と大きく状況が変わっている。
ここでは,もう一つの大きな節目である1995年の阪神・淡路大震災発生から以降について,住宅産業界,行政,消費者の意識などの動きを調査結果から解説した。
2. 阪神・淡路大震災が与えた影響
1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は住宅の耐震性にあらためてスポットを当てた。6400人に及ぶ死者の8割が住宅の倒壊による圧死という現実 は,住宅産業界に大きなショックを与えるとともに,一般の生活者にも住宅の耐震性の重要さを強く印象付けたのである。それまで消費者の多くは,住宅の建 築・購入において,まず外観デザインや設備等の利便性,プランなどにおける生活提案,また,価格などに目が行きがちであり,住宅のベーシックな部分である 構造への興味が薄かったといっていい。しかし,阪神・淡路大震災によって,はからずも住宅の耐震性がクローズアップされ,当時は住宅メーカーや展示場の営 業マンに「地震には大丈夫か」という声が集った。
阪神・淡路大震災の直後に大和ハウス工業生活研究所が行った「自然災害に対する住まいの安全性に関するアンケート調査」によると,住まい選びの優先順位 が震災の前後で大きく変化したことがわかる。震災前は1位が「間取り・広さ」(37.2%),2位が「基本構造」(30.6%)であったが,震災後には 「間取り・広さ」は15.5%と半数以下に激減し,「基本構造」が69.0%と大幅に増えた。やはり同年にさくら総合研究所が行った「住宅に関するアン ケート調査」では,現在住んでいる住宅を選んだ際に重視したポイントと,今後住宅を選ぶとした場合に重視するポイントを5つまであげてもらっているが, 「耐震性」は「現在」は8.6%であるが,「今後」は33.1%と一挙に数字が跳ね上がっている。