logo

  >>学術活動カレンダー表示

 

機関誌

2003年度バックナンバー巻頭言9月

2003年9月1日更新

このページの目次

巻頭言

「磁気を用いたセンシング技術の交通分野への応用」の特集号発刊に際して   毛利佳年雄

 渦流探傷法や漏洩磁束探傷法は,その特性から表面きずの検出に優れており,幅広く用いられているが,世の中のニーズはさらに微少な欠陥の検出に向けられている。磁気を用いた非破壊検査技術の高度化を進めるためにも,重要なものの一つに磁気センサの高感度化・高分解能化が上げられるだろう。筆者らも高感度センサの研究を進め,1993年にアモルファス合金ワイヤで高感度の磁気インピーダンス効果(MI効果)を見いだして高感度マイクロ磁気センサの原理を提唱した。これを契機に高感度でかつ超小型・低消費電力の集積回路型MIセンサが開発されてきている。これは20mm径,1mm長の零磁歪アモルファスワイヤとCMOS – ICとが組み合わされたもので,検出磁界分解能は交流磁界で1mG,直流磁界で0.1mGを実現している。高感度な磁気センサに対する期待は筆者が2年前に米国イリノイ工科大学での非破壊検査・評価協会でのシンポジウムに高感度マイクロ磁気センサの講演で招待されたときの多くの質疑からも実感されるものである。  今回の特集は「磁気を用いたセンシング技術の交通分野への応用」であり,非破壊検査とはすこし異なる切り口で解説いただいた。一つは高度道路交通システム(Intelligent Transport System: ITS)への応用である。ITSは日,米,欧の国家戦略プロジェクトであり,自動車交通と情報通信の連携により交通事故の軽減,効率的で省エネルギー型,環境負荷の少ない安全快適な道路交通システムを実現しようというものである。そのキーワードはインテリジェントであり,自動車および道路双方が状況の変化に柔軟に対応するシステムを実現することが課題である。柔軟なシステムは生物機能的システム(知能化計測制御系)であり,多種多様な高感度マイクロセンサ,高効率で巧妙なアクチュエータ,DPSなどの高速マイクロプロセッサの基本3要素からなる。とくに状況の変化を正確に把握するための多種多様の高感度マイクロセンサが必要であり,そのなかでも水や粉塵などに対する耐候性のつよい高感度磁気センサは重要な位置づけとなろう。もう一つは,磁気を利用した位置センシング技術のトンネル工法への応用であり,高感度センサと信号処理との組み合わせで掘進機位置を高精度に特定することにより正確な施工工事の事例が具体的に解説されている。この技術も開削工事にともなうような騒音や振動を低減し,また交通渋滞を緩和するなどITS技術と同様に環境負荷を少なくする技術である。  特集の中では,とくに磁気レベルとしてミリガウスの大きさの磁気の検出がきわめて重要であり,ミリガウス磁界の精妙な技術を読みとることができる。ここで紹介する技術が,今後の非破壊検査技術研究の発展の一助になれば幸いである。

*名古屋大学大学院工学研究科 (464-8603 名古屋市千種区不老町)教授
 1968年九州大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程満了。九州工業大学教授を経て,1987年に名古屋大学教授就任,現在に至る。
 自ら発明したアモルファス磁性ワイヤを用いた高感度マイクロ磁気センサの開発に従事。 山崎貞一賞,文部科学大臣賞(研究功績者)ほか受賞。IEEE Fellow member。

 

解説 磁気を用いたセンシング技術の交通分野への応用

ITS用高感度マイクロ磁気センサ
  毛利佳年雄 名古屋大学大学院

Highly Sensitive Micro Magnetic Sensors for Intelligent Transport System (ITS)
Kaneo MOHRI Nagoya University
キーワード 高感度マイクロ磁気センサ,MIセンサ,高度道路交通システム



1. はじめに  ITS(Intelligent Transport System)は,日本では高度道路交通システムと和訳されて,日,米,欧の3極を中心に安全で自然環境と調和する自動車交通システムを確立する世界的戦略技術として展開されている。この英語の直訳は「知的交通システム」であり,知的(計測・制御)システムの概念は図1の基本形で表現される1)。また,知的システムは生体機能を目指しており,その実現にはキーデバイス(人工の感覚器)としての多種多様な高感度マイクロセンサが必要である。

図1 Intelligent measurement & control system
図1 Intelligent measurement & control system 

 

ITS用の高感度マイクロセンサは,温度や湿度の大幅な変化,振動,電磁雑音などの種々の外乱の苛酷な環境下で自動車メカニックスの回転や移動,加速度,トルク,圧力などの複雑な力学的運動を非接触で検出する場合が多いので,高感度,マイクロ寸法のみでなく高度の信頼性が必要条件である。このような要求から,自動車分野では磁気センサが重視されている。これは,磁気センサのみでなく,磁気センサと組み合わされる磁石や鋼などの磁性体の高信頼性や検出媒体である磁気(磁力線,磁界)の安定性など,磁気センシングシステム総体の高信頼性に因るところが大きい。たとえば,2005年の国際博覧会(愛知万博)の無人運転バスシステム(IMTS)は,道路面設置の磁石をバス車体に設置した高感度磁気センサアレイで検出する方式に決定された(2003.7.9 日刊工業新聞など)。しかし,従来の磁気センサは表1にまとめたように,ホール素子や磁気抵抗素子(MR素子)などの低感度・マイクロ寸法・高速応答・低消費電力形(集積回路化が可能)と,フラックスゲートセンサの一様磁界に対する高感度・センチ寸法・低速応答・高消費電力形のものであった。

表1 Comparison of magnetic sensors
表1 Comparison of magnetic sensors  

 

したがって,高感度・マイクロ寸法・高速応答・低消費電力形(集積回路化が可能)の磁気センサ(高感度マイクロ磁気センサ)は未開発であった。この高感度マイクロ磁気センサは,工業的にインテリジェント計測制御システム技術を先導するだけでなく,現代の人類的諸課題である,情報・都市,環境・エネルギー,生命・医療健康などへの対処における強力なデバイスであり,マイクロコンピュータ(DPS)との融合による知能素子,知的素子に発展するキーデバイスである(図2)。情報分野ではコンピュータ用磁気ヘッド,ユビキ

図2 Intelligent elements for solution of human being problems
図2 Intelligent elements for solution of human being problems 

 

 

 

磁気センシングのITSへの応用 ─車体内部に使われる磁気センサ─
   西部 祐司 (株)豊田中央研究所

Application of Magnetic Sensing Technology to ITS −Various Magnetic Sensors Used in Vehicles −
Yuji NISHIBE TOYOTA Central R&D Labs., Inc.
キーワード 自動車,磁性材料,磁気ひずみ,薄膜,センサ,コイル,磁気特性



1. はじめに  利便性,快適性の追求と資源枯渇,環境汚染,交通事故の多発など,相反する課題が自動車には山積している。しかし,近年エレクトロニクスの進歩とともに,環境・安全・利便・快適の面で性能向上が実現可能となってきた。環境,安全の改善を目指しては,エンジン,車両運動系の新しいシステムが実用化検討されている。環境面では,燃費,排ガスを改善するためにリーンバーン(希薄燃焼)を可能にするエンジン筒内噴射システム,あるいはステアリング,ブレーキ,ペダル等補機類の電動化システム,具体例としては電動パワーステアリングシステムを挙げることができる。安全面では,加減速,旋回,緊急回避時の車両安定性向上のために,ABS(Antilock Brake System),TRC(トラクションコントロール),4WD,アクティブ4WS,VSC(Vehicle Stability Control:車両安定性制御)等のシステムを挙げることができる1),2)。安全・利便・快適の改善を目指しては,ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)という大きな流れがある。これは,自動車と道路,人間の関係を総合的に把握し,情報の交換と高度な交通管制等により安全・利便・快適が改善される各種システムを実現することである。具体的には,適切な車間距離を維持するACC(Adaptive Curuise Control),CCD,ミリ波レーダーおよび磁気マーカと磁気センサによる自動走行運転システム(AHS:Automated Highway System),高速道路の料金自動収受システム(ETC:Electric Toll Collection System),運転者の居眠りや脇見の検知,渋滞情報提供を行うVICS(Vehicle Information and Communication Systems:道路交通情報通信システム)あるいは経路案内や目的地情報提供を行うナビゲーション等の運転情報支援システムを挙げることができる2)。こうした自動車の技術革新はいわば自動車のインテリジェント化の試みである。エンジン,車両運動系の制御システムにあっては図1に示すようにセンシング,アクチュエータが重要な技術項目となり,

図1 エンジン・車両系制御システムの基本構成
図1 エンジン・車両系制御システムの基本構成 

 

ITSの中にあってはセンシング,アクチュエータに加えて図2に示すように情報通信・管制が重要な技術項目となってくる。高度情報化と高機能な制御・管制のために,正確で的確な情報をより早くより多く必要とされる時にセンシングすることが不可欠であり,情報検知の最前線に位置するセンサの果たす役割は重要である。センシングには各種の方法が有るが,自動車用には磁気センサが重要となっている。これは自動車のおかれる環境と要求仕様,長期信頼性とともに経済的な理由によるものが大きい。そこで,本解説ではインテリジェント化と言う観点で自動車分野の磁気センサについて述べる。

図1 エンジン・車両系制御システムの基本構成
図1 エンジン・車両系制御システムの基本構成 

 

 

 

光ファイバ磁気センサSmartLIMによる車両検知技術
    砂原 秀一 トヨタ自動車(株)  池田 幸雄 日立電線(株)  池上 英雄 (株)テクノウェイブ  甲賀 一宏 電気技術開発(株)


Vehicle Detecting Technology for Fiber Optic Magnetometer
Shuichi SUNAHARA  Toyota motor, Yukio IKEDA  Hitachi Cable,
Hideo IKEGAMI TechnoWave and Kazuhiro KOUGA Japan Electronic Corporation
キーワード 磁気センサ,車両検知,トラフィクカウンター



1. はじめに  ITS分野における重要な要素技術に車両検知技術がある。車両検知センサには超音波センサ,ループコイル(電磁誘導)1)−4),テレビカメラ(画像処理)の他にマイクロ波,光電スイッチ,光学系を用いた距離計測(道路上方にセンサを設置し,路面高さ変化を計測),磁気の変化を検出するセンサなどがある。料金収受システムであるETC(Electronic Toll Collection System)やERP(Electronic Road Pricing System)5)では?車両の走行位置,?車両形状(車種…普通車,大型車などの分類)の計測機能が必要であり,光電スイッチや光学的手法6)を用いた距離計測による車両検知技術が用いられている。道路交通状況を管理・把握する管制技術には,?単位時間あたりの車両通過台数,?走行速度の計測機能が必要であり,超音波センサ,ループコイル,テレビカメラによるセンサが研究・実用化されてきた。交通管制に採用されているのは超音波,ループコイルが多く,海外はループコイルが主流である。これらのセンサはメンテナンスに際して交通流を阻害する要因がいくつか挙げられる。超音波センサはポールやガントリーを使って道路上部に設置するため,メンテナンスを実施する際は交通規制が必要であり,また,美観も問題である。ループコイルは,道路表面下に埋設するため,センサ設置やメンテナンスのために長時間の道路工事が必要で,交通渋滞を発生させる原因となる。車両通過による地磁気の変化を検出する方式も昔から研究開発されてきたが従来の検出方式では道路表面下に埋設する必要があり,ループコイルと同様の問題点を抱えている。極めて高い磁気感度が実現できればセンサを地中深く埋設できるため道路補修による破損が回避でき,また,高架道路裏面に設置して車両を計測することもできる。このため美観を損ねることなく,また,設置やメンテナンスの際に交通規制による交通渋滞を引起こすことがないすぐれた特徴を持たせることが可能になる。そこで筆者らは,マッハツェンダ干渉計を用いて,光ファイバ磁気センサSmartLIMの開発に着手した。ここでは光ファイバ磁気センサの原理に加え筆者らの最近の開発成果について紹介する。

 

 

磁気センシングのトンネル工事自動化への応用
   辻村  健 NTTアクセスサービスシステム研究所

Electromagnetic Position Sensing Technique for Autonomous Control of Tunneling Machine
Takeshi TSUJIMURA NTT Access Network Service Systems Laboratories
キーワード 磁気センサ,トンネル,電磁誘導,位置計測,交流磁界



1. はじめに  プロジェクトXなどのドキュメンタリーでご存知の読者も多いと思うが,トンネル工事のハイテク化は日々進歩しており,青函トンネル・ユーロトンネルなどの鉄道・自動車道用トンネルでは口径10m以上の巨大掘削装置が活躍している。一方,通信ケーブル・上下水道・ガス・電力などの管埋設工事においても,騒音・振動の低減,パイプラインの多層化に伴う大深度敷設,施工時の安全性の確保などのため開削工法に代わってトンネル工法が広く用いられるようになっており,たとえば通信ケーブルだけを単独で収容するための口径1m以下のトンネル掘削装置が開発されている。いずれの装置についても工事計画ルートに沿ってトンネルを敷設するためには掘削先端の現在位置を正確に把握する必要がある。いわゆる位置計測技術は多数存在するが,トンネル工事に関しては測定対象が地下にあるという条件のため,たとえばGPSのように地上では実績のある方法が適用できない。また,鉄道用トンネルのように口径が大きい掘削装置の場合には装置内にいろいろな計測器を自由に配置することができるが,限られたスペースしか許されない小口径管装置では計測方法も限定されてくる。ここでは,小口径トンネル掘削装置を対象とするソリューションの一つとして電磁気を応用した位置計測技術の現状を解説するとともに,トンネル工事の自動化に向けたアプローチを紹介する。

 

 

 

連載講座 第1回「鋼材と損傷・破壊」

連載講座開設に当たって 


非破壊検査ならびにこれの周辺技術を対象として,今月号より連載講座を開設することになり,ここに最初の講座をお届けすることになりました。連載講座は4回(4ヶ月)分程度を一つのシリーズとして,原稿の準備ができる限りできるだけ毎月1講座を掲載する予定で考えています。従いまして,9月号より12月号までが第1回目のシリーズになります。  第1回目のシリーズは,「鋼材と損傷・破壊」と題してお届けします。ここでは,高張力鋼を中心として,鋼材,溶接,経年損傷と破壊の基礎に関して取り上げています。構造物が大型化した現代において,高張力鋼はこれを支える,なくてはならない鋼種になっています。しかし,単に高張力鋼といっても,その開発の歴史は古く,高張力鋼が構造物に使われ始めた数十年前に比べると,現在のものは同じ強度レベルで見ても成分系は大きく異なっています。これに伴って,溶接性,破壊じん性なども大きく異なってきているといえます。第1回のシリーズではこれらのあたりを含めて解説いただくように企画してみました。大北 茂先生(新日本製鐵(株)),原 則行先生((株)神戸製鋼所),鴻巣眞二先生(茨城大学),小林英男先生(東京工業大学大学院)とそれぞれの業界を代表する先生方に執筆をお願いしています。お忙しい中快く執筆をお引き受けいただきましたことに心より感謝しております。機関誌「非破壊検査」は非破壊検査に関する先端技術に多くの紙面を割き,技術発展の先導的役割を担ってきたと言えましょう。しかし,非破壊試験とは見えない,あるいは見えにくいきずや損傷を何らかの物理現象を利用して顕在化あるいは定量化する手法といえます。この観点からは多くの物理現象が非破壊試験の対象となり得ます。このために先端分野は極めて細分化され,担当分野以外の記事はわかりにくいものになりがちです。特に非破壊検査技術者の方にとって,日常の業務と非常にかけ離れていると思っておられないかと恐れを感じてきました。現在の非破壊検査は,単に品質管理の一手段としてだけでなく,老齢化した構造物の余寿命診断を行うためのキーテクノロジーになってきています。この目的に対しては,単に担当の検査技術のみでなく,材料・溶接の知識,損傷・破壊に関する知識,あるいは担当以外の非破壊検査技術などの幅広い知識が要求されます。特に,新認証制度においては専門以外のこれらの知識もより一層要求されてきています。連載講座はこれらに対応する目的で開講しました。第1回のシリーズでは,高張力鋼を中心として,鋼材,溶接,経年損傷及び破壊について扱ってみました。続いては非破壊検査の基礎として,非破壊検査の動向や種々の検査技術について扱って見たいと考えています。また,現在,原子力発電所の応力腐食割れが話題になっていますが,ステンレス鋼の鋼材,溶接,経年損傷や検査における課題などもシリーズとして扱ってみたいと考えています。RBI(Risked Based Inspection)などの保全技術やPD(Performance Demonstration)などの話題も扱う機会があろうと思っています。もちろん,非破壊検査技術もますます定量化と多様化が求められてきており,新技術の開発や革新が不可欠です。先端技術を扱う記事もますます充実を図りつつ,連載講座と両立させていきたいと考えています。今後,連載講座が長く続き,そしてより一層充実した内容になっていくように努力していきたいと思います。皆様方のご意見,ご希望あるいは叱責などをお寄せいただければ幸いに思います。

 

 

*編集委員 荒川 敬弘

 

構造用高張力鋼とその溶接
   大北  茂 新日本製鐵(株) 鉄鋼研究所接合研究センター

High Strength Structural Steels and the Weldabilities Shigeru OHKITA Nippon Steel Corporation, Steel Research Labs.
キーワード 高張力鋼,溶接,構造用鋼,TMCP鋼,産業分野,強度,靭性,低温割れ



1. はじめに  鋼は,ほとんどの産業分野で使用され,現代社会の発展を支える産業の“米”と言われる素材である。鋼は,その化学成分の違いにより炭素鋼,低合金鋼,高合金鋼などと分類され,特性の違いにより,軟鋼,高張力鋼,耐熱鋼,低温用鋼,耐食鋼などと分類される。これらの鋼材の中でも厚鋼板は,種々の産業分野における構造物に使用されるが,多様な使用環境,構造設計,デザインや施工方法などに応じて異なる鋼材が必要とされる。近年,構造物製作の省力化,低コスト化,操業の高能率化などを目的に高張力鋼が使用される傾向がある。一方,これらの鋼材は,溶接によって構造物に組立られることから,採用される溶接施工方法や溶接部への要求品質によってその製造工程や鋼材の化学成分が大きく異なる。例えば,高入熱溶接では溶接熱影響部(HAZ)の靭性に配慮した成分設計が必要となり,低入熱では鋼材の溶接低温割れ性に考慮が必要となる。本稿では,高張力鋼利用のニーズと相俟って発展してきた制御圧延 – 加速冷却法(Thermo – Mechanical Control Process,TMCP)により製造される鋼材の特徴について簡単に触れるとともに,その溶接性および溶接部の品質問題などについて紹介する。

 

 

 

論文

ECT逆問題における各種並列化メタ戦略の比較検討
   遊佐 訓孝/陳  振茂/宮  健三/内一 哲哉/高木 敏行


Comparison of Efficiencies of Metaheuristics in ECT Inversion Problems
Noritaka Yusa*, Zhenmao Chen*, Kenzo Miya*, Tetsuya Uchimoto** and Toshiyuki Takagi**
Abstract

This study applied a simple local search and five metaheuristic approaches : a simple genetic algorithm, a parameter-free genetic algorithm, simulated annealing, threshold accepting and tabu search, to ECT inversion problems and compared them from the viewpoint of their efficiency in reconstructing crack profile. Among them, the tabu search provided the best results. Since the approaches were very time-consuming, simulations were carried out on a supercomputer using parallel computation. It was shown that the parallel computation is very effective for those problems and can reduce computational time drastically. The advantage and disadvantage of each approach are discussed.
Key Words Eddy current testing, Reconstruction, Parallel computation, Metaheuristics, Supercomputer, Inverse problem



1. はじめに  渦電流探傷法(Eddy current testing, ECT)は高速かつ非接触,表面傷に対して高感度などの優れた特徴を持つ非破壊検査手法であり,たとえば加圧水型原子炉の蒸気発生器配管の供用期間中検査などに用いられている。数値解析という観点からECT研究を眺めた場合,かつては計算機資源や計算技術などの制約のため二次元軸対称解析が数多く行われていたが,現在では実条件を完全に考慮することの出来る三次元解析が行われ,各種高速化手法の適用により計算機資源を低減しつつ,精密探傷データと高精度での一致を見せるようになった。そのため,現在ではECT探傷信号から欠陥形状を推定する,いわゆる逆問題解析が数多く行われるようになってきている1)。逆問題解析のための手法としてはこれまで勾配法に基づくものが数多く提唱されてきたが2),近年メタ戦略3)がさらなるECT逆問題解析の高度化のために有望視されている4)。メタ戦略とは,多少計算時間がかかったとしてもより精度の高い解を求めるという目的を実現するために開発された最適化手法の総称であり,それらの多くは確率論的な手法である。そのため局所解にとらわれづらく,また問題に応じた各種制約条件の組み込みなども容易であるという特徴を有している。しかしながらその反面,いわば試行錯誤的に最適解を求めるものであるために,計算資源という面からは勾配法に基づくものに比べ劣ったものとなることが多い。ECT逆問題においては探傷信号を求めるための電磁場解析を数多く行う必要があり,計算時間が膨大となることが懸念される。  計算に要する時間の短縮に最も効果的である手法の一つは計算の並列化である。メタ戦略では,解候補の生成,それらの評価,そして得られた情報に基づく新たな解候補の生成という作業を反復することで最適化を行うことになる。このうち各解候補の評価は完全に独立して行うことが出来るため,メタ戦略は並列化計算に適したアルゴリズムであるものが多い。しかしながら通常n個のCPUによってn倍の高速化を実現することは極めて困難であり,並列化の効率はアルゴリズムに左右されるのが普通である5)。また,メタ戦略の有効性は対象とする問題の性質にも大きく依存したものであるため,一般的に高性能であるといわれているアルゴリズムが必ずしもECT逆問題において有効であるとは限らない。早い段階でECT逆問題における各種メタ戦略の有効性の比較検証を行っておくことは極めて意義のあることである。このような背景にたち,本研究は大型計算機上で大規模並列化を行った場合の,各種メタ戦略のECT逆問題における有効性について比較検証を行うことをその目的とする。用いるアルゴリズムは,(1)単純局所探索法,(2)遺伝的アルゴリズム,(3)焼きなまし法,(4)タブー探索,である。これらは比較的基本的なものであるが,その性能は必ずしも劣ったものではなく,それぞれが異なったメタ戦略の本質をよく表したものである。いくつかのメタ戦略を組み合わせることによってより高性能であるアルゴリズムとなるということが多くの研究によって示されているが,本研究の目的はECT 逆問題の特徴の把握であるとし,そのような混合手法については対象とはしないこととした。

 

 

原稿受付:平成14年8月22日
 普遍学国際研究所(東京都文京区根津1-4-6-801)International Institute of Universality
 東北大学流体科学研究所(仙台市青葉区片平2-1-1)Institute of Fluid Science, Tohoku University

 

ボルト緩み検知のための圧電素子を用いたスマートワッシャの検討
   奥川 雅之/江川 幸一

Study on Smart Washer Using Piezoelectric Material for Bolt Loosening Detection
Masayuki OKUGAWA* and Koichi EGAWA**
Abstract
The objective of this study was to apply a structural health monitoring concept to detect loosening of a bolt without human involvement. This paper proposes a new method of a bolt loosening detection by adopting a smart washer which uses a piezoelectric material.The proposed washer is a cantilevered plate type patched piezoelectric material.A self-sensing and actuation function featuring this material is applied to the washer.An explanation that natural frequency decreases with decrease of the bolt tightening axial tension, the concept of the proposed method and experiments verifying its effectiveness are described.There was good correlation between the change of the natural frequency of the smart washer system and the decrement of bolt tightening axial tension.
Key Words Bolt loosening detection, Cantilever, Piezoelectric material, Self-sensing and actuation, Smart structure



1. 緒言  ボルト締結体は,機械・構造物において幅広く使用されている。しかし,ボルトの緩みが生じた場合,疲労破壊が生じた場合と同様に,重大な事故につながる恐れがあるため,定期的な保守点検が行われている。従来は,熟練者による点検が行われていたが,信頼性の高い自動化された点検方法が望まれている。本研究では,材料や構造物の分野で,材質の劣化,き裂などによる破壊に対して,材料や構造物にセンサーを埋め込んで健全性を判定するヘルスモニタリング技術をボルト締結体に応用することを目的とする。本論文では,圧電素子を用いたスマートワッシャによる新しいボルト緩み検知法を提案する。提案するスマートワッシャは,通常の平ワッシャを片持ちはり型とし,そのはり部には圧電素子を貼付したセルフセンシングアクチュエーション機能を有するものである。本論文では,締結体の緩みとワッシャ系の固有振動数との関係について振動モード解析手法を導入して説明するとともに,提案手法の検知原理を述べ,検証実験により提案手法の有効性を検討する。

 

 

原稿受付:平成14年10月24日
 (岐阜工業高等専門学校(岐阜県本巣郡真正町上真桑2236-2)Gifu National College of Technology
 新潟工科大学(新潟県柏崎市藤橋)Niigata Institute of Technology

 

資料

非破壊試験によるコンクリート品質,厚さ,鉄筋かぶり・径の計測に関する研究 第1報 実験概要および超音波法


Studies on Measurements for Concrete Quality, Thickness, Cover and Diameter of Re-bars in RC Members
キーワード コンクリート構造物,検査,超音波法,電磁波レーダ法,衝撃弾性波法,伝搬速度,厚さ,強度,表層品質


1. はじめに  鉄筋コンクリート構造物が設計どおりの性能を有しているかどうかを確認するためには,構造物を直接検査する必要がある。ところが,現在行われている検査はほとんどが間接的であり,構造物がどの程度の性能を有しているのかは明らかではない。一例として,通常実施されているコンクリートの圧縮強度は,コンクリートを打ち込む前に試料を採取して円柱供試体を作製し,それを20℃の水中で所定材齢まで養生し,強度試験を行なっている。しかしコンクリート強度は,締固めの程度や養生方法などによって異なるため,上記のような通常行なわれている方法では構造物に打ち込まれたコンクリート強度を必ずしも現しているわけではない。実際に試験されている強度でもこのように間接的に行なわれているのが実態であり,構造物の寿命を左右する耐久性に至っては,配合設計時に水セメント比が規定値以下であることを確認するのみであり,さらに間接的であるのが実態である。現在のところ,構造物の直接検査で信頼できる方法はコアを採取することである。しかし,コア採取は破壊試験であるため,性能が不足している兆候があるときなど特別な場合にのみ実施される。そこで,非破壊試験により構造物の品質を直接評価できる方法の確立が必要と考え,表1のように超音波法,電磁波レーダ法,衝撃弾性波法を用いた新設構造物の検査方法の確立を目指し1),1999年から2001年に(社)日本非破壊検査協会と建設省土木研究所(当初,国土交通省を経て現在独立行政法人土木研究所)で共同研究を実施した。

 

 

非破壊試験によるコンクリート品質,厚さ,鉄筋かぶり・径の計測に関する研究委員会委員
非破壊試験によるコンクリート品質,厚さ,鉄筋かぶり・径の計測に関する研究委員会委員 

 

 

to top

<<2023>>