構造物を健全に維持管理することは,社会の安全にとって非常に重要である。原子力発電設備に関しては,き裂の存在を認める維持基準を活用した健全性評 価制度が平成15年10月1日から施行された。原子力に限らず,経年構造物を健全に維持するにあたり,検査技術者の欠陥評価能力の向上が強く求められるよ うになった。このような背景を踏まえ,(社)日本非破壊検査協会では平成15年12月に,第一回学術セミナー「維持基準と欠陥評価」を主催し,多くの皆様 に参加いただいた。同セミナーでは,原子力発電の監督官庁である,原子力安全・保安院統括安全審査官の山本哲也氏[(現)新エネルギー・産業技術総合開発 機構(NEDO)]による原子力発電設備の健全性評価制度の仕組みやその運用についての講演,「発電用原子力設備規格・維持規格,(社)日本機械学会」の 草案に参画した(財)電力中央研究所の鹿島光一氏による維持規格におけるき裂状欠陥の評価手法とその適用についての講演,および石川島播磨重工業(株)の 阪野賢治氏による各種欠陥評価手法の特徴の比較と欠陥評価手法の具体的な内容についての講演なる3つの講演がなされた。
これらの講演内容はいずれも,検査技術者にとって非常に有益なものであり,セミナー当日の参加者だけでなく,当協会の会員全員に紹介すべきとの考えから,本特集号が刊行されることとなった。種々ご努力を賜った関係各位に厚く感謝申し上げる次第であります。
なお当協会の学術セミナーは,第二回目が「安全を支える技術−欠陥評価,非破壊検査,維持基準−」と題して平成16年7月に開催され,さらに第三回目が 「安全・安心の基本を支える非破壊検査」と題して本年4月に開催された。いずれも好評を博している。次回の学術セミナーも宜しくご期待下さい。
*東北大学(980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-01)大学院工学研究科ナノメカニクス専攻・教授
1982年東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程後期3年の課程修了。非破壊検査,延性破壊,動的破壊,
電子デバイスの強度評価等に関する研究に従事。(趣味)テニス
Introduction of Integrity Evaluation System for Nuclear Power Plants
Tetsuya YAMAMOTO Nuclear Industrial Safety Agency (New Energy and Industrial Technology Development Organization)
キーワード 非破壊試験,超音波探傷試験,健全性評価,疲労き裂,応力腐食割れ,安全性,原子力発電
1. はじめに
健全性評価制度は,原子力発電設備にき裂が生じた場合に,その設備の健全性を評価するための手法をルールとして明確にするものである。2002年8月に 明らかになった原子力発電所に関する一連の不正問題の再発を防止するため,同年12月に電気事業法等の改正が行われたが,その中では,原子力事業者に対し て,定期に原子力発電設備の検査を行うことを義務づけるとともに,その検査において,き裂が発見された場合には,設備の構造上の健全性評価を行うことを義 務づけられた。本制度は,2003年10月1日から施行されている。
本稿では,原子力発電設備の健全性評価制度の整備について述べることとする1)。
Rules on Inspection and Flaw Evaluation in Japanese Fitness-for-Service Code for Nuclear Power Plants
Koichi KASHIMA Central Research Institute of Electric Power Industry,
Tomonori NOMURA Kansai Electric Power Co., INC. and Koji KOYAMA Mitsubishi Heavy Industries Ltd.
キーワード 原子力発電,維持規格,欠陥評価,検査,応力腐食割れ
1. はじめに
2002年,国内BWR原子力発電所のシュラウド,再循環系配管に応力腐食割れが相次いで発見され,原子力発電の安全性と電力の安定供給に対する国民の 大きな関心を呼んだ。この中で,原子力発電所における機器の検査方法や割れが検出された場合の評価方法等を体系化した規格,いわゆる「維持規格」がそれま で我が国では整備されていなかった事実が認識され,国は,2003年10月に新たな検査制度を施行し,この中で日本機械学会から発行された維持規格を導入 した。同維持規格については,2000年に発行され,その後も引き続き,2002年版,2004年版の発行が多くの関係者によって精力的に進められた。以 下では,維持規格の背景とその必要性,日本機械学会における規格策定の経緯,内容,今後の動向等についてその概要を紹介する。
Outline of Flaw Evaluation Methods based on Fracture Mechanics
Kenji SAKANO Ishikawajima-Harima Heavy Industries Co.,Ltd.
キーワード 維持規格,欠陥,破壊力学,強度評価,破壊靭性,疲労き裂進展,鋼構造物,FFP,FFS
1. はじめに
構造物の欠陥の判定基準には,設計製作時に適用される「品質管理的基準」と供用期間中に適用される「維持管理的基準」がある。
品質管理的基準は,その趣旨からいって,単純で判定作業は容易でなくてはならず,その根拠は経験に基づく場合もあるが多分に恣意的であり,かなりの安全代を含むのが普通である。
維持管理的基準は,供用期間中に構造物の機能が維持できるかどうかの観点から欠陥を評価するものであり,「合目的(FFP : Fitness For Purpose)評価基準」あるいは「供用適合性(FFS : Fitness For Service)評価基準」とも呼ばれる。割れやき裂などの欠陥は,無いに越したことはないが,機能に全く影響を与えない欠陥を補修したり,部材を交換し たりすることは必ずしも得策とはいえない。このような観点から,供用中の構造物についての検査と欠陥評価の方法を規定する維持規格が制定され,適用される に至っている。このような欠陥評価を可能にしたのが破壊力学である。
本稿では,維持規格の性格を有する破壊力学に基づいた欠陥評価基準の主要なものについて,その概要を紹介する。
Report on The Third US-Japan Symposium
Norikazu OOKA The Japan Welding Engineering Society, Senior Technical Advisor
キーワード 非破壊試験,国際会議,非破壊評価,材料評価,画像処理,欠陥検出性,シミュレーション
1. はじめに
第3回非破壊評価における先進応用と可能性に関する日米シンポジウムが2005年6月20日から4日間の予定で米国ハワイ州マウイ島のマウイプリンスホ テルのマケナ及びワイレアコンファレンスルームにおいて開催された。当初,ASNTとの事前打ち合わせでは日米それぞれ25編の論文を予定していたが,日 本側からは,39編の申し込みがあり5編のキャンセルで34編となったが,ASNTへ直接申し込んだ2編の論文を含めると日本から計36編の論文発表と なった。米国からはInternationalのSessionの12編を入れて46編であり,日米の合計は82編と盛況な集まりであった。
Study of the Detection of Fatigue Cracks at Weld Toes
by Crack Detection Paint and Surface SH Wave
Ichihiko TAKAHASHI* and Michio USHIJIMA*
Abstract
Crack detection paint was applied to surfaces of a transverse rib welded joint specimen of SM400B steel, and the effects of the paint on visual detection of fatigue crack growth were examined by performing a fatigue test. Obvious color development was observed in the paint when fatigue cracks propagated along weld toes. At intervals in the test, surface SH wave tests were also carried out to verify the fatigue cracking, and the test results were compared with the color development in the paint.
Key Words Fatigue Crack, Welded Joint, Weld Toe, Crack Detection Paint, Microcapsule, Surface SH Wave
1. 緒言
船体検査における疲労き裂の検出は,現行そのほとんどが目視検査によっている。しかしながら,実際の検査環境は想像以上に厳しく,溶接部等の複雑形状部 分に生じたき裂を現場で発見することは容易でない。ばら積み貨物船の疲労損傷と保守点検に関するあるアンケート調査によれば,現状の検査によって発見され るき裂の数は全体の約60%で,残り40%は見落とされており,また発生したき裂の約3割が長さ200 mmを越え,約1割が長さ500 mmを越えて成長するという回答が得られている1)。このようなき裂の見落としは,タンカーや客船等,ばら積み貨物船以外の船舶においても同様にして起こ り得るものであり,き裂の検出率を向上させるためには,現場における目視検査を有効に支援し得るような新たな方策を講ずる必要がある。一方,1990年か ら約10年間にわたり,米国Lehigh大学においてSmart Paintと呼ばれる特殊な塗料によるき裂検出技術の研究が行われた2)。Smart Paintは,通常のメンテナンス用エポキシ樹脂系塗料中に,染料を内包するマイクロカプセルを混合して金属母材に塗布することによって,き裂の発生・伝 播に伴うカプセルの破壊とともに染料が流出して塗膜表面に発色し,目視によるき裂検出を容易にするというシステムである。その概念図をFig.1に示す。 このようなき裂検出用塗料システムを,超音波探傷や磁粉探傷等,他の非破壊検査手法と比較した場合,その主な長所・短所を挙げると,以下のようになる。
原稿受付:平成16年10月19日
海上技術安全研究所(三鷹市新川6-38-1)National Maritime Research Institute
A Nonlinear Ultrasonic Imaging System for Detecting Minute Damage and Defects of nm Gaps in Industrial Materials
Koichiro KAWASHIMA*1, Morimasa MURASE*2, Yoshikazu OHARA*3,
Ryuzo YAMADA*4, Masamichi MATSUSHIMA*5, Mitsuyoshi UEMATSU*6,
Fumio FUJITA*7 and Takekazu MIYA*7
Abstract
A nonlinear ultrasonic imaging system is developed for detecting and imaging of minute damage and defects of nm gaps in industrial materials, which are undetectable by conventional ultrasonic testing. A high powered pulser to excite large amplitude incident waves and high pass or band pass filters to extract the 2nd harmonic are combined with the conventional ultrasonic imaging system. The system is applied to visualize fiber/matrix debonding or matrix crackings in CFRP or FRM laminated plates. It also visualizes anomalous substructures in amorphous diffusion bonded interfaces. This system is also useful for detecting semi-closed cracks with an opening of nm order.
Key Words Ultrasonic imaging, Nonlinear ultrasonics, Harmonic generation, Defects, Kissing bonds, Micro cracks
1. 緒言
超音波を用いて,材料中の空洞のような体積を持つ内部欠陥,入射波振幅よりはるかに大きな隙間を持つ剥離・き裂,音響インピーダンスの差の大きな異質物 界面などを検出する技術は確立されている。しかし,キッシングボンドと呼ばれる結合力のない密着した不完全接合部,繊維強化複合材のように音響インピーダ ンスの差が著しい材料の繊維/母材界面の初期段階の損傷,初期の疲労き裂のようにほとんど閉じた隙間・き裂の検出は極めて困難である。その理由は,これら の局部的に接触している界面を超音波が部分的に透過するので,欠陥部から明瞭な反射波を検出できないためである。
原稿受付:平成16年11月29日
*1(有)超音波材料診断研究所(名古屋市昭和区御器所町)Ultrasonic Materials Diagnosis Lab. Ltd.
*2 名古屋工業大学工学研究科(名古屋市昭和区御器所町)Nagoya Institute of Technology, Graduate School of Engineering
*3東北大学工学研究科(仙台市青葉区荒巻青葉)Tohoku University, Graduate School of Engineering
*4大同特殊鋼(株)(名古屋市南区大同町2-30)R&D Laboratory, Daido Steel Co. Ltd.
*5航空宇宙開発機構(東京都三鷹市大沢6-13-1)Japan Aerospace Exploration Agency
*6三菱重工業(株)Engineering Research Department, Mitsubishi Heavy Industries. Ltd.
*7ソニックス(株)(東京都新宿区百人町2-6-7)Sonix K.K.