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機関誌

2006年度バックナンバー巻頭言11月

2006年11月1日更新

機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2006年11月度

巻頭言

「電位差法及び渦電流探傷法による非破壊的な定量評価方法 」特集号刊行にあたって   橋本 光男

本特集は,表面探傷分科会が主催した今年の表面探傷シンポジウムにおいて定量評価に関する発表を選んで執筆をお願いしたものである。このシンポジウムは毎 年1回開かれているが,近年参加者が増え,特に今年は空席がないくらいの盛況さを見せた。この背景には,各現場での表面探傷の高度化が重要視され始めてき たことによると思われる。これは,国内の化学プラント,発電プラントや製鉄所などの大型プラントから土木・建築構造物などのインフラにいたるま で,1970年代からの高度成長期に作られた構造物が高経年期を迎えており,検査やメンテナンスが新たな局面を迎えていることによる。例えば,原子力発電 プラントにおいては,高経年化事象による炉内構造物に発生した応力腐食割れが発生している。一方,2003年10月の改正電気事業法の施行に伴い,き裂が 発見された場合にはその健全性評価を行い,健全性が確保されればき裂を残したままでの運転の継続が可能となった。このことは,従来の検査がきずが有るか無 いかを見ていたのに対して,これからはきずの定量的評価がきわめて重要になったことを意味する。近年はそれに基づく非破壊検査の定量評価に関する研究が数 多く報告されている。この傾向は,化学プラントなどにおいてもみられ,供用期間の延長によって,検査への信頼性はますます高くなってきている。ここでも従 来の許容されるきず以上のものを見つける検査だけではなく,それらのきずの性状や分布までも評価する要求が高くなってきている。従来き裂の定量的評価手法 は超音波探傷が主であった。しかし,応力腐食割れなどは溶接近傍に発生することやき裂面が複雑で閉じている場合が多く,超音波探傷でも診断が困難なケース もある。一方で,電気的な手法を応用した表面探傷は,計測手法や周波数の変化などの自由度を生かした検査が可能である。
 「直流電位差法による定量評価」では,近接端子プローブによる新しい直流電位差イメージング手法を紹介している。これにより微小き裂の定量評価に成功している。先に述べたき裂深さの定量評価は,原子炉機器等の健全性評価には欠かせない技術である。
 次の「電位差法による焼き入れ硬化層評価」は,焼入れ層の電磁気的な特性の違いを電位差法により評価するもので,精度の高い焼き入れ深さの評価を実現し ている。自動車産業は,軽量化・低コストと安全性を両立させて目覚しい発展を遂げている。これを支えるには,簡便でなおかつ信頼性が高い検査技術の開発が 望まれている。
 次の解説は,「電位差法による裏面応力割れのモニタリング」である。き裂を許容して運転が可能になったことはすでに述べたが,現行の13ヵ月に一回の定 期検査制度を見直して,個別プラントの設備特性や運転計画に合わせた検査制度が検討されている。この場合,許容されたきずのモニタリングができれば機器の 信頼度を向上させることができる。ここでは実機環境下で電位差法によるモニタリングの有用性を実証している。
 最後の解説は,「渦電流探傷法を用いた自然き裂の診断法」に関する解説である。実機に生じる応力腐食割れはそのき裂の形状は極めて複雑であり,その分布 を評価できる検査手法は目視検査などに頼っているが,表面の性状により評価が困難な場合も多い。この定量評価に,直交した渦電流を用いたプローブと診断支 援プログラムが用いられ,きず分布や深さの診断を可能にしている。
 本特集号が会員の皆様にお役に立てれば幸いである。最後に,本特集の主旨をご理解いただき,原稿を書いていただいた執筆者の方々には,この誌面をお借りして厚くお礼申し上げます。

*職業能力開発総合大学校(229-1196 神奈川県相模原市橋本台4-1-1)電気システム工学科 電磁気を応用した計測の研究に従事。(趣味)サイクリング,ゴルフ,山岳

 

解説 電位差法及び渦電流探傷法による非破壊的な定量評価方法

6探針プローブの電位差法を用いた焼入れ硬化層深さの非破壊評価
   小島  隆 神奈川県産業技術センター   赤松 里志/岩田 成弘 電子磁気工業(株)

Non-Destructive Evaluation of Case Depth for Quenched Steel Surfaces
Using Electrical Potential Drop Technique with 6-Point Probe
Takashi KOJIMA Kanagawa Industrial Technology Center
Satoshi AKAMATSU and Masahiro IWATA Denshijiki Industry Co.,Ltd
キーワード 高周波焼入れ,浸炭焼入れ,硬化層,有効硬化層深さ,非破壊評価,電位差法

 



1. はじめに  鋼製部品の耐摩耗性や疲労特性を向上させることを目的に高周波焼き入れ,浸炭焼き入れ,窒化等による表面硬化が実施されるが,硬化層の深さが部品の特性を支配することになるため,所定の深さか否かの検査が非常に重要となる。現状では,これを抜き取り検査によって確認しているが,抜き取り検査の場合,部品を切断し,切断面でビッカース硬度計等を用いて硬さ分布を測定,その結果から硬化層深さを評価する方法のため時間と労力を要する。従って,これを簡易に非破壊評価する方法ならびに装置の開発が望まれている。   このような背景から,硬化層深さを非破壊評価する試みは古くから行われており,超音波による方法1),2),磁気による方法3),4),渦電流による方法5),6)および電位差法7)−9)などが研究されている。しかし,これまでに提案された方法やそれに基づいて開発された装置は広く利用されるには至っていない。理由は,評価精度が十分でないことや作業性が現場の要求を満たしていないことによると考えられる。  以上に鑑み著者らは,電位差法を用いた実用的な方法の開発を試みている。本解説では,まず,高周波焼入れの場合を対象に考案した6探針プローブを用いた電位差法(以下,6探針法と称す)を紹介する。この方法では,探針を鋼材表面に押し当てて電位差を測定し,その測定値を基に硬化層深さを評価する。しかし,探針で測定される電位差はばらつきを有し,これが本質的な問題点となる。このため,誤差伝播特性(電位差の測定誤差が硬化層深さの評価誤差に伝播する特性)を考慮したプローブの設計が重要であり,ここではその設計方法についても説明する。次に,高周波焼入れした鋼材について6探針法の実証試験を実施し,その有効性を確認した結果を紹介する。さらに,浸炭焼き入れの場合に6探針法を応用する手法を述べ,引き続いて,その方法を用いて浸炭焼入れした鋼材の硬化層深さを非破壊評価した結果を紹介する。

 

 

電位差法による裏面応力腐食割れのモニタリング
   佐藤 康元/渥美 健夫/庄子 哲雄  東北大学大学院

Continuous Monitoring of Back-Wall Stress Corrosion Cracking Growth
Using Potential Drop Techniques
Yasumoto SATO, Takeo ATSUMI and Tetsuo SHOJI Graduate School of Engineering, Tohoku University
 キーワード 電位差法,応力腐食割れ,裏面き裂,モニタリング,溶接部  



1. はじめに
 1970年代における沸騰水型原子力発電設備の配管に頻発したオーステナイト系ステンレス鋼SUS304における応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking; SCC)問題1)は,主原因が鋭敏化現象によるものであることより,材料中の炭素の低減,いわゆる低炭素系ステンレス鋼の採用により解決したかに思われた。しかし,近年この種のステンレス鋼にSCC事象が発生し,機器配管の信頼性低下を招き,プラントの稼働率の低下が余儀なくされている2)。  2003年10月の改正電気事業法の施行に伴い,原子力発電設備の定期事業者検査においてき裂が発見された場合には,事業者は維持規格3)に基づく健全性評価を行い,健全性が確保される場合には,き裂を残したまま運転の継続が可能となった。この定期事業者検査に主として用いられている超音波探傷試験(U T)は,一般にSCC等の閉じたき裂に適用した場合,1つのき裂面に到達した弾性振動がき裂面上の接触突起を介して対面するき裂面に透過し,反射波の強度が低下することにより大きく影響を受ける4)。また,原子力発電設備炉内構造物や再循環系配管等に使用されているオーステナイト系ステンレス鋼は,フェライト系鋼に比べ結晶粒が大きい。更に溶接部は母材の圧延組織に比べ結晶粒が大きく,母材と溶接部では音速も異なる。このため,結晶粒界や溶接部境界で音波が反射,屈折し,散乱による減衰や林状エコーが現れ,きずによるエコーとの判別が困難になることがある。

 

近接端子直流電位差法による表面き裂の定量的非破壊評価
   燈明  泰成 東北大学大学院工学研究科

Quantitative NDE of Surface Cracks Using Closely Coupled
Probes for DCPD Technique
Hironori TOHMYOH Graduate School of Engineering, Tohoku University.
キーワード 近接端子プローブ,直流電位差法,表面き裂,表面電位差分布,定量的非破壊評価



1. はじめに
 破壊力学に基づく,機器・構造物のより信頼性の高い運用のためには,き裂を微小な段階で検出・評価し,これに対する対策を講ずることが重要である。今日,内在するきずを検出する手法として超音波探傷法が広く利用されているが,信頼性の高い検査実施の観点からは複数の非破壊検査手法で得られた検査結果を総合的に比較して,判断を下すことが望ましい。例えば,疲労き裂や応力腐食割れは,検査実施時の無負荷状態下においてきずが閉じていることが知られており,閉じ具合が強ければ超音波がきずを通過するため,超音波探傷法の適用が困難となる。これに対して直流電位差法は,超音波探傷法で検出が困難であった疲労き裂を評価できたとの報告もあり1),超音波探傷法等と併用する非破壊検査手法として好適と考えられる。  通常,電位差法は電流入出力端子と電位差測定端子の4本の端子を用いて実施する2)。一般的な直流電位差法では,き裂から十分離れた位置で直流電流の入出力を行い,一様直流電流下にあるき裂の近傍において電位差を測定する(図1)。これに対しSakaらは,近接させた電流入出力端子と電位差測定端子とを組み合わせた近接端子プローブを用いることで,従来の一様電流下で実施する直流電位差法を大幅に上回る,高感度な表面き裂の検出および評価が可能であることを報告している3)。  本稿では,はじめに近接端子プローブを用いた直流電位差法による表面き裂の定量的非破壊評価について,実施例を交えて概説する。さらに,著者らが最近,1 mm以下の微小き裂の高精度な評価を目的に実施している,近接端子プローブを用いた新しい直流電位差イメージング手法について紹介する。

 

 

渦電流探傷試験による自然き裂診断
   橋本 光男 職業能力開発総合大学校

Diagnosis of Natural Crack Using Eddy Current Testing]
Mitsuo HASHIMOTO Polytechnic University
キーワード 渦電流探傷,数値解析,SCC,パターンマッチング法



1. はじめに
 近年,化学プラントや原子力発電プラントの高経年化に伴い,機器・構造物の検査・診断が不可欠となってきている。例えば,沸騰水型原子力発電プラントにおける炉内構造物(シュラウド)や再循環系配管において割れ検出が報告され,その検査・補修が重要な課題となっている。これらの検査には,従来のきずの有無を判断する検査ではなく,定量的な評価検査法が必要になる。これは,化学プラントにおいても同様で,各使用環境において,各種のきずの形態が存在し,機器の修理や交換といったメンテナンスにおいてもこれらのきずの定量的な評価は重要な課題である。  一般に,渦電流探傷試験(ECT)は熱交換器の伝熱管検査などに多く用いられ,非接触で高速な検査ができることを特徴としている。このため精密検査よりも全数検査を目的として適用されることが多い。また,この手法は渦電流が表皮効果のため表面に集中することから,表面の検査に適していると言える。高経年化の構造物には,時として疲労き裂や応力腐食割れなどが発生するが,目視検査では表面の汚れなどにより見つけるのが困難である。特に応力腐食割れは複雑な形状を有しており,これらのきずの分布や深さの定量診断手法の開発が求められている。そこで著者は渦電流探傷試験の特徴である非接触で高速な検査の特徴を生かして,これらの自然き裂の検出および診断法について検討してきた1)−3)。本稿では,非破壊検査の更なる高度化を目的として,渦電流探傷試験を用いた自然き裂の検出およびこの手法の特徴を生かしたき裂形状認識手法4)−7)について紹介する。開発したプローブは,き裂の方向とそれに直交する方向に一様な渦電流を切り替えて発生させることにより,複雑な形状を有する自然き裂の特徴をとらえる方式とした。さらに得られた信号から,き裂の2次元分布形状さらにき裂の深さに関する診断を行う診断支援プログラムを開発した。

 

 

連載

我が国における超音波探傷の歴史 [?]   松山 宏 名誉会員(前湘菱電子(株)・元三菱電機(株))

The Histoy of Ultrasonic Testing in Japan [?]
Hiroshi MATSUYAMA Honorary Member (Formerly Shoryo Electronics Co./Mitsubishi Electric Co.)*
キーワード 非破壊検査, 超音波探傷検査,パルス法,反射法,超音波探傷装置,超音波厚さ計



3. 我が国における超音波探傷技術の発展期  その1(続き)  1957年,NDIは,各業界に対して探傷器の使用状況に関するアンケートを実施した。その結果によると,超音波探傷器を使用している事業体は,企業:61 官庁:8 合計 69 で,その用途としては,製品検査,素材検査,方法改善などであった。  NDIの第2分科会では,『超音波探傷器感度規正に対する一実験』と題して,超音波探傷器の感度規正に関する実験を,三菱電機製FD – 4と東京計器製UR -1C型との間で行った結果が報告され,また,『探傷器の増幅直線性の一例』と題して探傷器の増幅直線性の実測値が報告された。当時の探傷器の増幅直線性が悪かったことに対するユーザからの強い要求と理解できる。  超音波探傷器の使用拡大とともに,ゲート機能の必要性が論じられるようになり,『超音波探傷器用自動警報装置』と題する探傷器に付加するゲート装置に関する最初の報告が行われた。  この他に,自動車メーカから,『超音波厚さ計による鋼板内部の欠陥検出』と題して,共振形超音波厚さ計を用いた薄板の内部きず検出方法が報告され,鍛造品などの大形鉄鋼製品だけではなく,自動車や,家電などに使用される薄板に対する超音波探傷の必要性が報告された。

 

*昭和32年日本大学工学部電気工学科卒業,同年東京大学生産研究所勤務 昭和34年三菱電機(株)入社 平成6年三菱電機(株)定年退社,同年湘菱電子(株)入社
 平成15年湘菱電子(株)退社 平成3年(社)日本非破壊検査協会 理事 平成5年(社)日本非破壊検査協会 理事・標準化委員長 平成6〜7年(社)日本非破壊検査協会 副会長
 昭和56年(社)発明協会 発明奨励賞 昭和57年(財)機械振興協会 機械振興協会賞 昭和58年(社)日本非破壊検査協会 石井賞平成4年(社)日本非破壊検査協会功績賞(40周年)
 平成14年(社)日本非破壊検査協会 功績賞(50周年)

 

論文

磁気異方性センサを用いた曲管の非破壊応力診断 ─ 面外曲げへの拡張 ─
    飯村 正一/境  禎明

Nondestructive Evaluation of Stress in Bent Pipe by Magnetic
Anisotropy Sensor −Out-of-Plane Bending−
Shoichi IIMURA* and Yoshiaki SAKAI***
Abstract A method is developed to nondestructively estimate stresses in bent pipes using a magnetic anisotropy sensor.
The values measured by the magnetic method contain both stresses generated during manufacture and by external loads.
Out-of- plane bending test and in-plane bending test using a mandrel elbow were performed. The values obtained
by the magnetic method were regressed to Rodabaugh & George’s theoretical equation for a bent pipe.
From the regression curve obtained, it was possible to obtain the external moment that was purely applied to the bent pipe.
The stress range where measurement is possible is smaller than that in a straight pipe, because the residual stress is
greater than that of a straight pipe. If the theoretical stress calculation equation by Rodabaugh & George was used,it was possible pe.



1. 緒言
 著者らは磁気異方性センサを用い,曲管には製造時に発生した100 MPaを超える大きな応力が残留していることを曲管の代表的製作法であるモナカエルボ,高周波ベントエルボで確認した1)。このような大きな応力が残留している曲管が地盤沈下などを受けた状態で,磁歪計(以下磁気異方性センサを用いた測定器を磁歪計と呼び,手法を磁歪法と略す)による応力測定を行うと,測定値には残留応力が含まれることとなり,沈下などの外力によって発生している応力を正確には診断できないということになる。沈下管理などを行う場合,残留応力は管路の変形には影響を与えない。管路に変形を与えるのは外力ということになる。応力解放などの措置を計画する場合,外力によって曲管を含む管路がどの方向にどの程度の荷重で曲げられているかの情報が必要となる。そのためには,測定値から残留応力分を除く必要がある。そこで,著者らはKarman2)によって提案された曲管の応力計算理論に着目した。前記の2種類の曲管に面内曲げ荷重を加える実験を行い,磁歪計によって測定された値をこのKarman による理論式に回帰を行うと,残留応力の位相および周期と外力作用時の理論的応力のそれらが異なることを利用する,言わばフィルター効果によって,外力によって発生する応力のみを精度良く取り出すことができることを明らかにした。また,この方法によって診断できる応力の上限は,磁歪法を直管部の応力診断に適用した場合に較べてやはり低くなることが確認された。その理由として曲管製造時に発生した大きな応力が残留しているため,磁歪計による測定値が感度低下を引き起こす応力レベルまでの余裕代が直管に較べて小さいことに起因することを示した3)。

*原稿受付:平成18年1月17日
  東京ガス(株)(東京都港区海岸1-5-20)Tokyo Gas Co., Ltd.
  JFEエンジニアリング(株)(現在,(株)ジャパンテクノメイト ; 三重県 津市雲出伊倉津町14 -1187)JFE Engineering Corporation (Present Address : Japan Techno-Mate Co., Ltd.)

 

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