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機関誌

2005年度バックナンバー巻頭言11月

2005年11月1日更新

巻頭言

「ガイド波による探傷II」特集号刊行にあたって  西野 秀郎

 筆者はプラントの現場検査技術は最近勉強中であり,まだまだ詳しくはないが,共同研究などで現場(製油所,原子力・火力発電所,化学工場)を見ると,大 小さまざまな配管だらけである。劣化の予想される部分には,Point-to-Pointで詳細にUT検査なども行われているようであるが,これらを含め て,必要度に応じた適切な全数検査は事実上不可能のように思える。「あれやこれやで直接・間接のコストも膨大」,と聞かされて納得している。「高経年化プ ラントを長く大事に使いましょう」と言う各方面の方針のもと,安全を担保した上で低コストの検査技術が求められている。不景気で,今後も大きな成長が見込 めないとなれば,省エネ技術に注目が集まるのも当然の結果と思われる。
 そこで「ガイド波」である。ガイド波は,「広範囲一括計測」を特徴としている。すなわち「5メートル10メートル先まで含めたパイプの欠陥が1度の超音 波の送受信で検出できますよ」と,言うことである。こんなに素晴らしい省エネ技術はない。もちろんまだ開発中の技術であり,実用化のために克服すべき問題 は山積みである。言ってしまおう。(1) 埋設配管は超音波減衰の関係で難しい,(2) エルボ管やら枝管などでは挙動が複雑で難しい。難しい,難しいと書いたが,この様に書くとこれまた間違いで,真実は難しいと簡単の間にある。新しい技術は 風評被害に遭いやすい。いずれにしても「広範囲一括計測」はガイド波技術の基本特許であることは間違いない。ただし,基本特許だけで成立する技術ではない ようだし,画期的な周辺特許もまだ無い。
 例えばトヨタのプリウスなど省エネ技術は,世の中には良い恩恵をもたらすが,技術的には複雑高度である。これを開発し,使いこなすには,技術者は大変な 意識改革と勉強が必須である。そうでなければプリウスは世の中に無い。ガイド波も,これまでの縦波横波に比べると複雑で難しい(とは言え古典力学の演繹結 果に過ぎぬが)。だからこそ,大きな宝が眠っているかもしれない。
 ガイド波探傷は,1990年代からの欧米の応用基礎研究が原点で,2000年になってから日本ではようやく萌芽を迎えている。前回2003年の特集号の 刊行を経て現在に至り,その限界点や開発課題も見えてきて,技術が落ち着いて来ている。残念ながら安値に落ち着いているように思うが,本当のスタートはこ こからであると言い聞かせて頑張りたい。ガイド波探傷の研究では,先行する欧米,第2位の日本,そして猛追する韓国,と言う状況であるが,実用化の前で は,すべて横並びのように思う。超音波分科会の中にガイド波を用いた非破壊評価技術研究委員会が設立され,日本発のガイド波探傷技術の構築を目指してい る。悲観も楽観もせずに手を動かせば,良い結果が待っていると信じて皆が努力しているように思う。本特集号では,「ガイド波」と格闘して新しい道を拓いて くれた方に解説をお願いしている。実はもっともっと沢山の解説を載せたかったが,紙面の都合で実現しなかった。引き続きIIIが出るように努力したいと 思っている。
 ガイド波技術を陽に陰に盛り上げてくれた名古屋工業大学の川嶋紘一郎名誉教授,青山学院大学の竹本幹男教授,JFE技研の高田一氏に謝辞を述べて巻頭言を締めます。

*徳島大学(770-8506 徳島市南常三島町2-1)工学部機械工学科助教授 超音波を用いた材料の非破壊検査法の研究に従事。
  レーザー超音波計測要素技術研究会主査,超音波分科会・ガイド波による配管の信頼性評価研究委員会委員長。

 

解説 ガイド波による探傷II

配管等の検査の現状と課題
   ガイド波による配管の信頼性評価研究委員会

Present Status of Piping Inspection Technology
Research Committee on Guided Wave Testing 
キーワード ガイド波,配管,減肉,き裂,検査,超音波



1. はじめに
 ガイド波技術は,下記の特長をもっていることから,現場での配管検査への実用化が待望されている。
(1)ある程度の長さ(例えば10m)の配管を一度に検査することができる。
(2)離れた場所の検査が可能であるため,アクセスが難しい部位の検査が可能である。
 ここ数年,製品化されたガイド波探傷装置の現場適用試験が進み,また,ガイド波技術に関する研究も大きく発展してきた1)−5)。
 反面,ガイド波技術には以下の制約がある。
(1)ガイド波は複雑な伝搬形態を持つため,扱いにくい。
(2)一般的に低い周波数を用いる必要があるため,分解能が低い。
 以上のようにガイド波は大きな魅力を持っている反面,その使いこなしには相応の努力が必要である。 このような状況に鑑み,ガイド波に関する技術情報の共有化を図ることによって,本技術のさらなる発展を促すことを目的として2004年4月に超音波分科会 のなかにガイド波による配管の信頼性評価研究委員会が設立された。
 ガイド波を用いた配管の探傷技術の調査研究を開始するに当たり,本委員会では,下記2つのWGを組織して,検出ニーズの明確化および現状技術の実力の明確化を行うことにした。

 

 

配管検査のためのガイド波理論と将来技術
   林  高弘 名古屋工業大学大学院工学研究科

Guided Wave Theory for Pipe Inspection and Prospective Technology
Takahiro HAYASHI Faculty of Engineering, Nagoya Institute of Technology
キーワード ガイド波,半解析的有限要素法,シミュレーション,可視化



1. はじめに
 ガイド波という用語は「平板や配管中を長手方向に伝搬する超音波モード」の意味として非破壊評価分野では用いられることが多い。平板の上下表面間や配管 の内外表面間にエネルギーが封入されて伝搬するため減衰が小さく,“適切に”利用すれば配管中を数十メートルから百メートル程度伝搬する性質を持ってい る。ガイド波を用いた配管検査ではこの長距離伝搬の性質を利用して,配管の数メートルから数十メートル間を一度にスクリーニングでき,従来の点での検査に 比べると圧倒的な速さとコストダウンを実現できる。
 しかし,ガイド波を“適切に”利用するというのは,実のところ非常に難しい。通常,バルク中の超音波の音速は,ほとんどの金属材料について実験的に正確 に求められており,その文献値を用いることによって,得られた超音波エコーがどこから返ってくるエコーなのか簡単に判断でき,欠陥の有無が分かる。しか し,ガイド波の音速は,配管径,管厚,材質,周波数などに大きく依存する上,音速の異なる多数のモードが発生し,それぞれのモードは周波数によって音速の 異なる分散性を持つ。さらには分散性が大きいため,位相の移動する速度である位相速度とエネルギーの移動する速度である群速度を区別して考える必要があ る。とにかく,検査対象が異なれば,ガイド波伝搬挙動がまったく異なると思っていただければ良い。
 このような複雑な伝搬挙動を示すガイド波を用いて,検査を行うのであるから,ガイド波理論を無視することは致命的なエラーを犯すだけでなく,おのずと信頼性の低い検査手法にしてしまっていることになる。
 本報では,配管のガイド波に話を絞って出来るだけ必要な理論のみを平易に解説するとともに,著者らが行ってきた研究のなかで将来必要になってくると思われるものを選んで紹介する。

 

プラント配管の検査実務におけるガイド波技術の展開
   池田  隆/金原 了二 (株)シーエックスアール  宮澤 正純/松岡  勲/藤原 光明 三菱化学(株)水島事業所


Guided Wave Technology Process for Field Testing of Pipes of Plant Takashi IKEDA and Ryouji KANEHARA CXR Corporation
Masazumi MIYAZAWA, Isao MATSUOKA and Mitsuaki FUJIWARA Mitsubishi Chemical Corporation Mizushima plant
  キーワード ガイド波,磁わい,配管,腐食



1. はじめに
 保温材で覆われまたラック上に配置されたあるいは搭槽に架かる垂直配管等では,それらへのアクセスが容易でなく,検査をしようとすると保温材解体および 足場掛け等の付帯的工事が多大なものとなる。ガイド波探傷は,そういった配管に対して検査したい場所に直接的に接近することなく,センサを取り付けた箇所 から長距離を伝搬するガイド波を入射し,そのエコーでもって腐食部等を検出しようとする技術である。2年前のガイド波特集号では,ガイド波の理論基礎や数 値シミュレーション技術が詳細に論じられ,また探傷システムや現場的応用探傷について紹介がなされている。それ以降,さまざまなフィールドの配管について 応用適用がなされ,着実に実績があがってきている。本解説では,それらを事例紹介すると共に今後の展開について展望を述べる。

 

 

アクティブSoラム波を用いた鋼板減肉量と位置の検出
   松尾 卓摩/長  秀雄/竹本 幹男 青山学院大学理工学部


Detection of Wall Reduction and Location by Active So-Lamb Wave
Takuma MATSUO, Hideo CHO and Mikio TAKEMOTO
Faculty of Science and Engineering, Aoyama Gakuin University
キーワード ラム波,対称モードラム波,減肉,ロングレンジ検査



1. はじめに
 鋼板によって構成される構造物の健全性診断において鋼板の端面が利用できる構造物は比較的少ないが,図1に示すように円筒型地上タンクでは,アニュラ板 張出し部の端面が使用できる。端面を使用してラム波の基本Soモード波を発生し,反射波を検出すると減肉量と減肉箇所が推定できる。筆者らは,タンクア ニュラ板張出し部に設置したAEセンサを用いて錆破壊によるAE源(減肉)位置を評定し1),次に減肉位置を狙ってSoラム波を励起し,反射波から減肉箇 所と量を評定する方法を提案した2),3)。
 アニュラ板端面を使用してラム波を効率的に励起し,端面や張出し部,または側壁で反射波を検出する.そこで,この波動をAEと区別するためアクティブラ ム波と呼んでいる。反射波の到達時間から減肉場所を,振幅から減肉量を測定するが,アニュラ板と底板は隅肉溶接(段付き溶接)されているため,溶接線を越 えた減肉の検出は難しいという問題がある。しかし,腐食減肉は底板よりもアニュラ板で起こりやすい4)といわれているので,強度部材であるアニュラ板の減 肉が測定できればタンク底板の健全性診断に貢献が出来る。また保温された屋外タンクでは,水のたまりやすい側壁部において腐食減肉が起こることが問題に なっている。提唱する方法はこのような部位の減肉も計れる可能性がある。底板および側壁の腐食損傷位置や深さの評価を効率良く行うためにはどのような方法 でラム波を励起・検出するかなど,実装置に即した方法を開発するとともに,基礎的知見を得ておく必要がある。
 本報では,接点方程式を用いたシミュレーション結果,効率的Soモード励起法,モデル突合せおよび隅肉溶接鋼板での実験結果を紹介し,解決すべき問題と対策を議論する。

 

 

ガイド波用電磁超音波センサによるワイヤ,パイプ,薄板の非破壊評価
   山崎 友裕 大阪市立大学大学院工学研究科


Nondestructive Evaluation of Wires, Pipes and Plates by Electromagnetic
Acoustic Transducers for Guided Waves
Tomohiro YAMASAKI Graduate School of Engineering, Osaka City University
キーワード ガイド波,超音波探傷,電磁超音波センサ,線材,管,薄板



1. はじめに
 ガイド波は伝搬に伴う波面の広がりが小さく,体積波と比較して減衰が小さいためロングレンジ探傷などに利用される1)。用いるガイド波のモードによって は音速が周波数に依存する分散性を示し,波形がくずれるため欠陥検出能の向上のためには分散補正2)が必要であるが,逆に速度分散が板厚にも依存すること を利用して板厚変化の検出も可能である3)。
 材料の非破壊評価においてガイド波用電磁超音波センサ4)を用いると,非接触でガイド波の送受信が可能であるためセンサの設置や移動が容易である。ガイ ド波の利用によりロングレンジで検査が可能であることとあわせて検査時間の短縮に有効であると期待される。ところが電磁超音波センサは圧電センサと比較し て変換効率が低く,送受信条件の最適化,センサの多段化5)などにより信号強度を向上させる必要がある。
 ここでは著者らが行ってきたガイド波用電磁超音波センサによる非破壊材料評価について紹介する。

 

 

論文

同期検波を利用した配管漏洩検査
   鳥越 一平/上田 昇/細川 潤/大渕 慶史/高石 陽介/久保 敦/平 英雄/森 和也/有馬慎一郎/江藤 英敏/姚 幼武

Leak Test of Piping Utilizing Lock-in Detection
Ippei TORIGOE*, Noboru UEDA**, Jun HOSOKAWA*, Yoshifumi OHBUCHI***,
Yosuke TAKAISHI*, Atsushi KUBO*, Hideo TAIRA*, Kazuya MORI*,
Shin’ichiro ARIMA**, Hidetoshi ETOH** and Youwu YAO**
Abstract
The conventional pressure method of a leak test is susceptible to temperature change. We propose a new method using lock-in detection for temperature compensation in the leak test. The gas in a pipe is alternately compressed and sucked out by a pump. After each compression and suction the pipe is closed and the pressure variation is measured by a manometer. If a leak is present in the pipe, the pressure variation signal alternates in polarity according to the alternation of compression and suction; the pressure variation due to the leak is modulated by the alternation of compression and suction. The pressure variation due to temperature change is, in contrast, independent of and not correlated with the alternation. A lock-in detector employed, the pressure variation signal is demodulated into an output which is a measure of the amount of gas leakage, while the temperature change term cancels itself out through the time averaging process. An experimental apparatus and model piping were built and several experiments have been performed using air. The results showed the success of the proposed method
Key Words Leak detection,Lock-in detection,Pressure method,Temperature compensation,Piping



1. 緒言
 都市ガス,プロパンガスなどの燃料ガスは,各家庭を始めとして,学校,病院,オフィスビル,工場などあらゆる建物や施設に供給されている。燃料ガスの漏 洩は重大な事故につながる可能性があるから,これを未然に防ぐために,燃料ガス供給配管の定期的な検査が必須となる。しかし,供給配管は,一部が地中や床 下あるいはパイプピット等を通っていて,配管の全長に沿って雰囲気中のガスの有無を検査していく方法は適用困難である場合が多い。また,通常は分岐も複数 存在し,ガイド波などを利用する検査法でも,配管の状態を完全に把握することは難しい。
 現在は,燃料ガス供給配管設備について,配管内圧力を大気圧より高い状態にして配管を閉塞した後,ガスの漏洩に伴う圧力の低下を観測する,いわゆる「圧 力法」を用いて,定期的に漏洩検査を実施することが法令によって義務づけられている1)。しかし,圧力法の基礎式である状態方程式を想起すれば直ちに予想 されるように,この漏洩検査法は,温度変動の影響を強く受ける。実際の漏洩検査においては,温度変動のために漏洩の有無の判定が全くできない場合が少なく ない。温度変動のパターンによって,漏洩が無い配管を漏洩有りと誤判定する場合,漏洩が存在するにも関わらず漏洩無しと誤判定する場合もあり得る。現場の 検査では,温度影響の有無は,検査員が経験と勘に基づいて判断を下しているのが現状である。
 圧力法における温度影響を除くことを目指して,多くの提案がなされている2),3)。代表的な方法は,検査対象容器と同じ温度影響を受ける基準容器を準 備して容器間の差圧を検出する方法,容器・配管に取り付けた温度計の出力を用いて温度補償を行う方法,通常の圧力検査の直前あるいは直後に閉塞容器の圧力 を計測して温度影響の有無をチェックする方法などである。しかし,燃料ガス配管設備の場合には,基準容器を設置することが難しく,たとえ設置できても同じ 温度影響を受ける条件は実現困難であること,点の温度情報から配管内の平均温度を推定することは通常困難であること,温度変動が漏洩検査時と温度影響の チェック時とでしばしば異なることなどのために,いずれの方法も万全の対策とはなり得ていない。
 本論文では,同期検波と呼ばれる信号処理手法を漏洩検査に導入することを提案し,その原理と模擬実験結果について述べる。同期検波法は,雑音に埋もれた 微弱信号を検出する手法として,電波天文学,通信,計測など多くの分野で利用されている方法である4),5)。なお,圧力法は,燃料ガス配管に限らず,一 般の漏洩検査にも広く使われている。本報告では,ガス配管を想定して模擬実験を行ったが,ここで提案する手法自体は,圧力法による漏洩検査全てに適用する ことが可能である。

原稿受付:平成16年12月24日
 熊本大学(熊本市黒髪2-39-1)Kumamoto University
 (株)エイムテックAIM TECH Co., Ltd.
 福岡工業大学Fukuoka Institute of Technology

 

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