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機関誌

2015年度バックナンバー5月

2015年5月1日更新

目次

巻頭言

「放射線による社会インフラ・産業プラントの健全性評価」  上村  博

 高度成長期時代に建設された橋梁やビルの老朽化が大きな問題となってきているのは周知の事実で ある。近年は地球温暖化のためか気象の変化が激しく,集中豪雨や大雪がよく発生する。また2011 年 には東北地方太平洋沖地震があったが,近い将来にも大地震の発生が予想されている。このような状 況の中で,社会インフラや大型の産業プラント施設の健全性を評価することが極めて重要になってき ており,本誌でも度々特集が組まれている。
 鉄筋コンクリートや鉄の構造物の劣化や腐食状況を調査するために,目視や画像観察,さらに超音 波や音響を用いた様々な方法が開発されてきている。実用化されている技術もあるが,構造物の内部 を観察できる方法はまだまだ少ない。
 放射線を使用する検査の優れた点は何と言っても試験体の内部を目で画像として見られるというこ とである。このため,X 線透過試験はプラント内の配管,溶接物,及び鋳造品の検査として広く普及し ている。また,X 線CT 装置も物体の断面画像や内部の立体像が見られることから,半導体部品や基板 の検査から自動車部品の検査まで普及してきている。ただ,放射線検査を社会インフラや産業用プラ ントに適用しようとするといくつかの課題がある。
 一つ目は大きな構造物の検査である。通常の放射線検査では検査対象を透過した放射線を測定し処 理して画像を出力する。従って,検査対象が大きい場合には,使用する放射線の透過能力が高いこと が必須である。通常,検査に使用する放射線(主にX 線やγ 線)のエネルギーは数十keV から500 keV 程度であるが,透過能力を高めるためにはMeV 領域の放射線(X/γ 線)を使用する必要がある。こ のため装置は大型化し,屋外に持ち出して使用する場合には大きな制約となる。この問題を解決する ために,高エネルギーで可搬型のX 線源の開発が進められており,本号でも可搬型X 線源を用いた検 査装置に関して二件の技術開発状況をご報告いただいた。
 さらにコンクリート橋梁のように構造物が大きく厚くなると,強力なX 線やγ 線でも透過しきれず検査 できなくなる。このような状況を打開するために,透過する放射線を測定するのではなく,後方に散乱 するX 線を利用して片面から内部を検査する手法や,鉄やコンクリートを透過しやすい中性子を利用し て検査する手法の開発が進められている。これらについて,三件の検査手法のご報告をいただいた。  二つ目は高エネルギーの放射線を効率よく測定する検出器である。厚い構造物を透過し減衰した放 射線をS/N 良く測定する技術が必要である。1 MeV クラスのX 線やγ 線を検出できる二次元センサや ラインセンサが開発されてきており,二件の例をご報告いただいた。
 三つ目は安全性である。社会インフラの検査では検査作業が人通りや交通量の多い場所で行われる ことになる。放射線による検査の実用化にあたっては公衆への被曝を避けることが最も重要である。 前出の可搬型X 線源を用いた検査装置でも安全性重視で開発がなされている。今後,放射線検査シス テムを普及させるにはこの点を十分注意し,公衆や作業者から十分な距離をとれ,短時間で作業でき, 十分な遮蔽を持つ装置を開発していく必要がある。
 放射線による社会インフラの健全性評価技術は未だ実用化の緒に就いたところであり,実用化にあ たっては検査技術だけでなく,自動装置や高機能ロボットなどの技術開発が不可欠であり,関連分野, 関連学会のご協力をお願いする次第である。

 

 

解説 放射線による社会インフラ・産業プラントの健全性評価

可搬型950 keV 高エネルギーXバンドライナックX線源の開発と産業プラント設備への適用
   大矢 清司/服部 行也   (株)日立パワーソリューションズ   上坂  充   東京大学
草野 譲一   (株)アキュセラ   三浦  到   三菱化学(株) 小野 洋伸   (株)関東技研

Development of Portable 950 keV High-Energy X-Band Linac X-Ray Source
and Application to Industrial Plant
Hitachi Power Solutions Co., Ltd. Seiji OYA and Yukiya HATTORI
The University of Tokyo Mitsuru UESAKA
Accuthera Inc. Jyoichi KUSANO
Mitsubishi Chemical Co. Itaru MIURA
Kanto Giken Co., Ltd. Hironobu ONO

キーワード 非破壊検査,工業用 X線装置,デジタルラジオグラフィ(DR),圧力容器,コンクリート構造



1. はじめに
 社会インフラ,産業インフラの経年化対応が急務である。対象物は従来の非破壊検査対象と比べ大型構造物であり特に 内部状態の把握手段として効果的な技術が無いのが現状である。高エネルギーX 線技術が有効であるが,図1 に示した様 に装置規模が大きく現場利用困難の状況である。結果としてエネルギー300 keV 程度での撮像に留まっている。本稿では, X バンドライナック技術を使用した可搬型950 keV 高エネルギーX 線源開発の概要と撮像能力の一端を紹介する。
 開発は平成18 年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(関東経済産業局)でのX バンド電子加速器技術開発,平成 22 年度地域産学官共同研究拠点整備事業(科学技術振興機構JST)での研究試作機開発を経て,現在,JST 復興促進プログ ラムで実用試作機の開発を進めている。開発機関は冒頭の執筆者に記した機関であり,要素技術を担う大学,精密システ ム製造技術のメーカ,検査事業者,エンドユーザからなる体制で進めている。
 本開発の他に,既存の可搬型X 線装置を小型化する開発や,大型PC 橋梁向けの可搬型3.95 MeV システム開発も進んでいる。

 

 

1 MeV クラスの高エネルギーX線・γ線対応の二次元検出器の現場適用
   佐藤 貴久   (株)リガク

High Energy X-ray and γ-ray Proof FPD for On-site Inspection
Rigaku Corp. Takahisa SATO

キーワード X線,γ線,二次元検出器,高エネルギー,溶接検査,コンクリート検査,保温材下腐食(CUI),現場装置



1. はじめに
 医療用では,X 線用二次元検出器が一般的に広く使われる様になってきた。しかし医療用で使われるX 線の電圧は80 〜 130 kV 程度であるため,検出器自身の最大定格電圧も150 kVと低いものであった。このため,非破壊検査用としてアルミ 等の軽金属やセラミックス等の軽元素の試料の検査などに使われる程度で,広くは使われなかった。
 イメージングプレートを使ったCR(Computed Radiography)は普及してきたが,スキャナでの読み取りが必要なため,リ アルタイムでの観察やハイスループットの測定には向いていなかった。近年ようやく,たとえば1000 keV を超える高エネ ルギーのX 線に対応する検出器が開発され,厚さ50 mm を超える鋼板等の検査にも使えるようになった。
 本稿では新たに開発された高エネルギー二次元検出器FXGDR1012(以下FPD)とその適応例を紹介する。

 

エネルギー弁別型放射線ラインセンサの配管減肉検査などへの応用
    富田 康弘/白柳 雄二/松井信二郎/神谷 陽介/小林  昭   浜松ホトニクス(株)

Applications of the Energy Differentiation Type Radiation Line Sensor to such as
Inspection for the Plumbing Corrosion
Hamamatsu Photonics K. K. Yasuhiro TOMITA, Yuji SHIRAYANAGI, Shinjiro MATSUI
Yosuke KAMIYA and Akira KOBAYASHI

キーワード 放射線,放射線検出器,配管,腐食,非破壊検査



1. はじめに
 物質に対し高い透過特性を有する放射線(X 線,γ 線)を用いた非破壊検査は,医療,工業,保安分野で幅広く利用され ている。しかしながら,放射線画像はいずれも放射線の透過強度を画像化したものであり,物質の影絵(白黒画像)を見 ているにすぎない。 従って,物質内部の形状はわかっても,物質内部の材質や状態を詳しく知るには限界がある。 一方, 人間の目は,光の強度情報だけでなく,光の波長情報を捉えることができるため,我々は物質の材質や状態を詳しく認識 することができる。放射線においても,単に放射線の強度情報を捉えるだけではなく,放射線の持つエネルギー(波長) 情報を捉えることができれば,そのエネルギー情報に基づいて,物質の材質や状態を画像化することが可能である。 そこ で我々は,X 線やγ 線などのエネルギー情報が得られる次世代型の放射線検出器の開発に取り組んできた1),2)。 本稿では, X 線やγ 線のフォトン(光子)のエネルギー弁別が可能なエネルギー弁別型放射線ラインセンサ(C10413:浜松ホトニク ス社製)3)について,原理と基礎的な応用例を紹介し,さらに,その実用的応用型として開発された保温材付き配管の減肉検査 用放射線ラインセンサ(C13247:浜松ホトニクス社製)4)についても紹介する。

 

乾電池でも駆動可能な省電力X 線管を用いた小型軽量X 線検査装置とその適用例
    齊藤 典生/王   波/王  暁東/鈴木 修一/劉  小軍   つくばテクノロジー(株)

Compact X-Ray Inspection System using a Power Saving X-Ray Tube which can be
Driven by Dry Batteries and its Application
Tsukuba Technology Co., Ltd. Norio SAITO, Bo WANG, Xiao-Dong WANG
Shuichi SUZUKI and Xiaojun LIU

キーワード 非破壊検査,放射線透過試験,可搬式 X線発生装置,画像処理,腐食,経年変化



1. はじめに
 X 線検査装置は,その対象物として鉄,アルミ,ステンレスなどの金属から樹脂,セラミックなど各種素材に対して, 工業製品,材料,食品,電子部品,建造物などの非破壊での欠陥検査,異物検査,構造検査,安全検査などに欠かせない ものになっている。X 線管の管電圧は20 〜 450 kV 程度と幅広く,国内外でいろいろな方式に基づいて開発・実用化が進め られている。
 既存のX 線管はその原理上,フィラメントの予熱が必要であり,その電圧・電流を連続して印加すると電源が大きくなり, 質量が重くなるものが多い。また,X 線管を駆動するのにエージングが必要で,使いたい時にすぐ使うことができない。従っ て,現場などにX 線装置を持ち込んで検査を行う場合,持ち込むのに時間や手間がかかったり,電源の確保が大変だった り,エージングが終わるまで待ったりすることになる。
 我々は,産業技術総合研究所の技術移転ベンチャとして,乾電池でも駆動可能な省電力X 線管を用いた小型軽量X 線検 査装置を開発し,電線,配管,コンクリート,有機材料等の各種非破壊検査に適用を行っている。ここでは,その乾電池 でも駆動可能な省電力X 線管およびそれを用いた小型軽量X線検査装置の電線検査への適用例について紹介する。

 

高エネルギーX 線源を用いた後方散乱X 線によるコンクリート等の片面からの内部検査手法の開発
    豊川 弘之   (独)産業技術総合研究所    萬代 新一   (株)BEAMX
瓜谷  章/渡辺 賢一   名古屋大学

Development of X-ray Backscatter System to Inspect the Inner Structure
of Concrete
National Institute of Advance Industrial Science and Technology Hiroyuki TOYOKAWA
BEAMX Corp. Shinichi MANDAI
Nagoya University Akira URITANI and Kenichi WATANABE

キーワード 可視化,工業用 X 線装置,粒子加速器,放射線透過試験,後方散乱線,放射線検出器



1. はじめに
 国内の道路橋(2 m 以上)は約70 万橋あると推定され,竣工後50 年以上の割合は現在16%程度であるが,10 年後に 40%,20 年後に65%と飛躍的に増加する1)。これらの7 割は地方の市区町村の管轄下で保守・点検・改修が行われており, 財源,担当職員,技術等の不足によって,維持管理を継続することが非常に厳しい状況である。
 我々の社会が今後も持続的に発展するためには,科学技術の活用が非常に有効であり,科学技術の成果で地域の活性化 をサポートすることが求められる。その一例として,インフラの維持管理・更新・マネジメント技術にかかる先進的な研 究開発を行い,その成果を活用してアセットマネジメントにおける労働生産性を向上することが考えられる2)。
 日本は世界で6 番目に長い海岸線を持ち,塩害による鉄筋の腐食や道路床版の劣化は大きな問題である。塩害の被害は 特に日本海側に多く,豪雪地域や過疎地も多く含む。これらの地域では凍害の影響もあり,道路や橋梁には日常的に大き なストレスがかかっている。塩害の進行度や鉄筋減肉の有無は,コンクリートの表面状態を計測することで推定でき,現 在はその推定値を用いて保守・更新等の計画が立案されている。しかし,インフラの劣化進行度合いは,その構造や置か れた環境等,様々な要因で変化することから,内部の劣化を表面の計測から正確に推定することは難しい。表面をはつる ことで内部の様子を目視観察することが可能であるが,構造物の強度低下等のリスクを伴うため,その場で行う非破壊検 査技術の開発が望まれている。

 

量子ビームによる非破壊健全性診断へ向けて?小型中性子源システムRANS ?
    大竹 淑恵   理化学研究所

Towards Health Diagnostics with Non-Destructive Inspection with Quantum Beam
− Compact Neutron Source System RANS −
RIKEN Yoshie OTAKE

キーワード 中性子線,非破壊観察,インフラ予防保全,鋼材内部観察



1. はじめに
 中性子線は金属などに対する高い透過能を有するとともに,水素やリチウム,ホウ素といった軽元素に対して高感度である ことより,X線と相補的な役割を果たす新たな非破壊検査の手法の1 つとして注目されている。X 線は重い元素ほど透過し にくい一方,水などの軽元素に対しては感度が低く,例えば金属ケース内の溶液の変化などは,産業用X線CT 装置を利用し ても観察が難しい。化学プラントなどの屋外金属配管の腐食を誘発する断熱材に浸透した水分量の検出や腐食部分の特定, また鉄鋼業での鉱石やコークスに含まれる水分測定などに用いられている「中性子水分計」1)という非破壊検査装置がある。 この水分計は,ラジオアイソトープ(241Am/Be や252Cf など)から発せられる速中性子(中性子エネルギーが数MeV)は配 管の断熱材や鉱石などに浸透した水分中の水素と衝突してエネルギーを失う。このエネルギーを失った中性子(熱中性子 と呼ばれ,エネルギーは約25 meV)を計測することにより,水分を検出している。つまり,線源からは高速中性子が発生 されるが低速中性子のみを検出することにより水分の存在を示す非破壊検査手法である。水分計以外での中性子線利用を 紹介すると,研究用原子炉での熱中性子や冷中性子と呼ばれる波としての振る舞いが顕著な,波長0.18 nm 以上の中性子 散乱現象を用いた物質構造解析研究や中性子によるイメージング実験などが主であり,原子炉を有する限られた施設のみ で利用が可能であった。近年,大型加速器を利用した中性子源として国内では大強度陽子加速器施設J-PARC が稼働を開 始し,学術のみならず産業界からもより多くの高度な中性子利用が期待され,現在産業利用枠でのビーム利用が約3 割を 占めており中性子線利用へのすそ野の広がりが喫緊の課題となっている。しかし中性子線の利用はこういった大型施設利 用に限られており,年間数日間のみ利用可能でありリソース不足が中性子利用の大きな難点となっている。このような背 景を受けて,企業内や大学において比較的手軽に利用可能な,手元で使える中性子線装置に対する期待が高まっている。
 理化学研究所(理研)では陽子線線形加速器を利用した小型中性子源システムRANS(RIKEN Accelerator-driven compact Neutron Source ランズ,図1 参照)の整備・高度化を 2013 年4 月より開始した2),3)。RANS は,「いつでも,どこでも中性 子線利用を可能に」,すなわち利用したい人の「手元で役に立つ中性子源」の実現を目指している。
 本稿では,理研小型中性子源システムRANS と塗膜下鋼材内部腐食と水の出入りの可視化成功について,さらにX 線と 高速中性子線を利用した数十cm 厚のコンクリート材料の内部可視化,さらに橋梁等大型構造物健全性診断システム開発へ 向けた取り組みを紹介する。

 

乾燥・吸水環境におけるコンクリート中の含水率分布の中性子ラジオグラフィによる評価
    土屋 直子   建築研究所    兼松  学   東京理科大学    野口 貴文   東京大学

Profile of Water Contents in Concrete under Dry-absorption Repeated Condition
by Neutron Radiography
Building Research Institute Naoko TSUCHIYA
Tokyo University of Science Manabu KANEMATSU
The University of Tokyo Takafumi NOGUCHI

キーワード コンクリート,含水率分布,ひび割れ,温度,中性子ラジオグラフィ,非破壊イメージング



1. はじめに
 鉄筋コンクリートの中性化をはじめとする各種劣化の進行にはコンクリート内部の含水率が大きく関わっている。その ため,コンクリート内部の含水状態に影響を及ぼすと考えられる気候やひび割れの影響について検討する必要がある。し かし,降雨や乾燥に繰り返し曝されるコンクリートの内部の水分状態を考慮した耐久性評価手法の確立には至っていない。 そこで,本研究では乾燥と吸水の繰返し環境下におけるコンクリート内部の水分分布について,また乾燥に及ぼすひび割 れおよび温度の影響について検討するための実験を行った。

 

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